東京高等裁判所 平成7年(ラ)1238号 決定
A 抗告人は、被相続人及びその妻(母チヨ)に対し、昭和五一年以降一五年四か月にわたり、月額一〇万円、合計一八四〇万円の生活費を援助してきたこと、主として訪問看護の方法により、被相続人の療養看護に努めたものであるところ、これを家政婦の基本賃金額に即して換算すると、六〇〇万円を下らない、として、合計二四四〇万円の寄与分があると主張している。
B 抗告人が、昭和五一年九月以降、被相続人及びチヨを扶養家族とする旨の手続を継続してきたこと、被相続人は、従来、夫婦の年金収入及び旧建物の賃料収入を基礎収入として生活を営んできたが、本件マンション入居後は、抗告人から、概ね毎月一〇万円程度の生活費の送金を受けてきたことは前記のとおりである。
しかしながら、上記認定以上に、抗告人が被相続人に生活費を援助してきたことについては、抗告人自身の陳述書面のほかこれに沿う資料はなく、客観的裏付けを欠く点で、これのみによって、前記事実を認めるのは困難である。
そして、本件マンション入居後、抗告人が被相続人に対して毎月一〇万円程度送っていた生活費は、従来旧建物の賃貸によって被相続人が得ていた収入を補う意味を有するとともに、抗告人の財産となる本件マンションの敷地として被相続人から本件土地1の提供を受けたこと及び本件マンションの管理に被相続人夫婦の援助を受けたこと等に報いるためであったことを認めることができるから、その全てを被相続人の遺産の維持について抗告人がした特別の寄与と認めるのは適当ではない。しかしながら、その期間も長期に及んでおり、また、その総額も相当多額になっていることに鑑み、そのうちの四〇〇万円の限度で特別の寄与と認めるのが相当である。
C 次に、被相続人及びチヨは、前記のとおり高齢であり、その症状等からみて、遅くとも昭和六一年一月から後においては、家族による定期的な訪問介護を必要とする症状となり、抗告人は、妻ツヤ子の援助も受けながら、昭和六一年一月から平成三年一月半ばまでの間、概ね週三回程度、定期的に被相続人方を訪問し、その生活のための必要な身辺介護を行ってきたことは前記のとおりであり、しかも、記録によると、その介護の程度は、深刻化する被相続人の症状に照らし高度の労力を要するものであったものと認めるのが相当であって、これを子として尽くすべき当然の義務の履行に過ぎないものと評価するのは不適当というべきである。そして、この間、被抗告人らが被相続人ら夫婦の介護に協力したことを認めるに足りる資料は見当たらず、むしろ、抗告人が定期的に訪問してする前記の介護活動に委せていたものと認められることとの対比において、抗告人のした被相続人に対する看護活動は、特別の寄与として考慮するに足りる実質を有するものと認めるべきである。
そして、記録に照らし、この特別の寄与を、当該介護を家政婦に依頼した場合の賃金額を基準として金銭に換算すると、総計五〇〇万円を下らないものと認めることができる。
D ところで、抗告人に対しては、本件土地1の敷地利用権相当額として一九五五万四〇〇〇円の特別受益があること、そして、これについては、被相続人の持戻し免除の意思表示が肯定できることは前記のとおりである。このような場合において、抗告人に対し、具体的相続分算定に当たって斟酌すべき寄与分の存在が肯定できるのは、共同相続人間の公平の見地からみて、この特別受益の価額を超える価額の寄与分が肯定できることが必要であり、かつ、その超過価額の限度においてであると解するのが相当ある。そうすると、前記の事実関係によれば、抗告人について認めることができる前記寄与分の価額(合計で九〇〇万円)は、上記特別受益の価額(一九五五万四〇〇〇円)を下回ることが明らかであるから、結局、抗告人について、本件遺産分割において新たに形成すべき寄与分は肯定するに由ないものというべきである。
(淺生重機 小林登美子 田中壯太)