東京高等裁判所 平成7年(ラ)856号 決定 1996年8月26日
抗告人 三浦由布子 外1名
相手方 チャーリー・ダグラス
被相続人 三浦政次
主文
1 原審判を取り消す。
2 抗告人三浦由布子の寄与分を定める処分の申立てを却下する。
3 被相続人の遺産を次のとおり分割する。
(1) 別紙遺産目録一1及び2並に二記載の不動産は、抗告人三浦由布子及び抗告人西尾美紀の共有(共有持分は、三浦由布子3分の2、西尾美紀3分の1)とする。
(2) 同目録三1ないし5の預貯金は、相手方チャーリー・ダグラスの取得とする。
(3) 相手方チャーリー・ダグラスに対して、抗告人三浦由布子は金74万円を、抗告人西尾美紀は金37万円を、本決定確定の日から6か月以内にそれぞれ支払え。
理由
1 抗告の趣旨
本件抗告の趣旨は、「原審判を取り消し、本件を横浜家庭裁判所川崎支部に差し戻す。」との裁判を求めるものである。
2 当裁判所の判断
(1) 相続の開始、相続人及びその法定相続分
原審判記載のとおり認める。
(2) 相続開始に至るまでの事情及び遺産の範囲
原審判記載のとおり認める。
(3) 持ち戻し免除の意思表示の有無
記録によると、三浦政次が昭和62年9月30日にした別紙遺産目録一1記載の土地(持分5分の4)の抗告人三浦由布子への贈与は、抗告人三浦由布子の長年にわたる妻としての貢献に報い、その老後の生活の安定を図るためにしたものと認められる。そして、記録によると、抗告人三浦由布子には、他に老後の生活を支えるに足る資産も住居もないことが認められるから、右の贈与については、政次は、暗黙のうちに持ち戻し免除の意思表示をしたものと解するのが相当である。
相手方は、抗告人三浦由布子が抗告審で初めて持ち戻し免除の主張をしたことなどを理由に、右の意思表示の存在を争うが、右の贈与がなされた当時の政次及び由布子の年齢や収入などを考慮に入れると、上記の贈与の目的が上記のようなものであることは否定できないのであり、そのような贈与について、遺産分割の際にこれを持ち戻したのでは、すでに老境にある妻の生活を維持することはできないのであるから、持ち戻しを免除する意思がなかったとする、相手方の主張は採用することができない。
(4) 由布子の寄与分
由布子が、妻として長年にわたる貢献をしてきた事実は認められるが、上記の贈与によって由布子が得た利益を超える寄与があった事実は認めることができない。
(5) 由布子の特別受益
上記の贈与の対象である遺産目録一1の土地の持分5分の4は、由布子の特別受益に当たるが、上記のとおり持ち戻し免除の意思表示が認められるから、これをみなし相続財産に加えるべきではない。
その他の特別受益に関する判断は、原審判のとおりである。
(6) 遺産の評価額
遺産目録一1及び2宅地(持分5分の1)並に遺産目録二の建物については、不動産鑑定士○○及び○△作成の鑑定書が提出されている。そのうち、○△鑑定士作成の鑑定書は、建物が連棟式であるが敷地上に直接所在し、木造部分の2階及び3階の側壁及び柱が独立して施工されていることから、独立の建物及び敷地であるとして評価している。しかし、○△鑑定指摘の事実があるとしても、建物が連棟式であることには変わりはなく、そのことは将来の建替え等において様々な制約を被ることは否めないところである。この点について、○○鑑定士作成の鑑定書は、上記の制約を考慮に入れ適正な鑑定をしているものと認められる。そして、他に○○鑑定士の鑑定を不当とすべき理由は見当たらない。そこで、当裁判所は、右の鑑定を採用して、遺産の分割時における評価額を次のとおり認定する。
遺産目録一1の宅地(持分5分の1) 313万9560円
遺産目録一2の宅地(持分5分の1) 285万1120円
遺産目録二の建物 475万円
預貯金 211万5166円
(1ドル100円の換算)
合計 1285万5846円
(7) 当裁判所の定める分割方法
各当事者の法定相続分及び原審判認定の諸事情を考慮して、次のとおり定める(なおこれにより相手方の遺留分は確保されるものである。)。
ア 遺産目録一1及び2の宅地の持分並に遺産目録二の建物は、抗告人三浦由布子及び抗告人西尾美紀の共有とし、その持分は、三浦由布子3分の2、西尾美紀3分の1とする。
イ 遺産目録三1ないし5の預貯金は、相手方チャーリー・ダグラスの取得とする。
ウ 抗告人三浦由布子は、相手方チャーリー・ダグラスに対して代償金74万円を支払う。
エ 抗告人西尾美紀は、相手方チャーリー・ダグラスに対して代償金37万円を支払う。
3 結論
これと異なる原審判はこれを取り消し、寄与分を定める処分の申立てを却下し、主文のとおり遺産を分割することとする。
(裁判長裁判官 淺生重機 裁判官 小林登美子 田中壯太)
別紙 遺産目録<省略>