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東京高等裁判所 平成7年(ラ)900号 決定 1995年9月01日

主文

一  本件抗告を棄却する。

二  抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消し、本件間接強制決定変更決定を取り消す。」との裁判を求めるというものであり、その理由は、別紙「執行抗告状」記載のとおりである。

二  抗告理由について判断する。

1  審理不尽の主張について

抗告人らは、審理不尽の事由として、原裁判所が相手方提出の準備書面及び甲号証に対する反論、反対証拠資料の提出の機会を与えなかつたことを挙げるが、一件記録によれば、原裁判所は、審尋書に本件間接強制変更申立書の副本及び疎甲第一ないし第六号証を添付して抗告人らに送達し、審尋の機会を与え、これに応じて、抗告人らは弁護士である代理人を通じて答弁書を提出していることが認められ、その後、相手方から提出された準備書面及び疎甲第七ないし第一〇号証の内容に照らせば(申立ての内容に変更はない。)、これに対する抗告人らの反論及び資料の提出を待たずに決定をした原裁判所の審理に違法、不当は認められない。

2  本件仮処分決定に違法があるとの主張について

本件の間接強制の基礎となる債務名義である仮処分決定(以下「本件仮処分」という。)に違法事由があるかどうかは、仮処分異議の手続で争うべき事柄であり、その執行手続である間接強制申立事件あるいは間接強制変更申立事件において争うことはできないから、この主張は理由がない。

3  原間接強制決定後の事情変更がないとの主張について

抗告人らは、本件の債務名義である仮処分決定は、満足的仮処分であり、本案訴訟で結論が異なつた場合には回復できない結果を発生させることになるので、抗告人らはやむを得ない選択として間接強制決定で定められた金銭の支払を履行しているものであるから、抗告人らが右金銭の支払を任意に履行している限り民事執行法一七二条二項の事情の変更はないと主張する。

しかし、間接強制決定により一定の金銭の支払を債務者に命じたにもかかわらず、債務者が債務の履行をしないという事情は、間接強制決定後の新たな事情というべきである。債務者が命じられた金銭の支払を任意に履行していることは、間接強制決定で定めた金額が債務の履行を確保するに十分な金額ではなかつたことになるが、そうであつたとしても、間接強制決定によつても債務の履行をしないという事情を新たな事情と解することの妨げとはならない。抗告人ら主張のような仮処分決定の債務名義による間接強制においては、決定に定められた金銭の支払をすれば足りるという主張は採用できない。

また、抗告人らは、一日当たり一五万円の金銭の支払自体高額であるというが、抗告人がそれにもかかわらず債務の履行をしなかつたということは、債務の履行の確保という見地からすれば、不十分な金額であつたということになる。

4  変更額の相当性について

間接強制決定において、執行裁判所が債務者に命ずる一定額の金銭の額は、債務の履行を強制するために相当と認める額を執行裁判所の裁量によつて定めるものであり、間接強制の変更の裁判における変更後の金額も、その事情の変更に応じて執行裁判所が定めることができるものであるところ、一件記録によつて明らかな仮処分決定によつて命じられた債務の内容、間接強制決定後の事情等を勘案すると、一日当たり一五万円を一日当たり三〇万円と変更した原裁判所の判断は相当であつて、違法があるとは認められない。

三  よつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、抗告費用の負担について民事執行法二〇条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 筧 康生 裁判官 三輪和雄 裁判官 浅香紀久雄)

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