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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)1号 判決 1996年2月15日

新潟県三条市北四日町3番21号

原告

吉田秀治

同訴訟代理人弁理士

吉井昭栄

吉井剛

吉井雅栄

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 清川佑二

同指定代理人

金子茂

関口博

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和58年審判第23042号事件について平成6年10月17日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和55年3月25日、別紙商標目録1記載のとおりの商標(以下「本願商標」という。)につき、指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表第32類「食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品(他の類に属するものを除く)」として商標登録出願(商願昭55-23126号)をしたところ、昭和58年8月26日拒絶査定を受けたので、同年11月24日に審判を請求した。特許庁は、この請求を昭和58年審判第23042号事件として審理し、平成2年11月14日、商標出願公告(商公平2-84155号)をしたが、平成2年12月21日、マルコメ株式会社(以下「異議申立人」という。)から登録異議の申立てがあり、平成6年10月17日、登録異議の申立てを却下する旨の決定をしたものの、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年12月5日、原告に送達された。

2  審決の理由の要点

(1)  本願商標の構成、指定商品及び登録出願日は、前項記載のとおりである。

(2)  異議申立人は、異議申立人の所有する登録第76233号商標ほか10件の登録商標を引用して、本願商標は、商標法4条1項15号に該当すると主張し、証拠方法として、甲第1ないし第595号証(枝番を含む。)を提出した。

異議申立人の引用する商標のうち、登録第451808号商標(以下「引用商標A」という。)は、別紙商標目録2に示す構成よりなり、旧々法類別第45類「味噌」を指定商品として、昭和28年12月12日に登録出願、昭和29年9月17日に登録、その後商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。

同じく第1334401号商標(以下「引用商標B」という。)は、「マルコメ」の片仮名文字を横書きしてなり、旧法類別第31類「みそ」を指定商品として、昭和46年10月28日に登録出願、昭和53年5月15日に登録、その後商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。

(3)  よって按ずるに、異議申立人が提出した証拠のうち、本願商標の出願日(昭和55年3月25日)前のものと確認し得る甲各号証を総合勘案すると、本願商標の登録出願時には、引用各商標は、異議申立人の業務に係る商品「味噌」の商標として国内において取引者、需要者間に広く知られ著名となっていたものと認め得るものである。

(4)  そして、引用各商標は、相互に連合する商標として登録されており、それぞれより「マルコメ」の称呼が生ずるものである。

(5)<1>  これに対して、本願商標は、別紙商標目録1に示す構成のとおり、太線の円輪郭の中に「米」の漢字を毛筆体の楷書で肉太に書し(以下、これらの結合部分を「図形部分」という。)、該円輪郭の下部の円周の外側に沿って、細字の平仮名4文字「まるよね」を書した構成よりなるものである。

<2>  この平仮名部分は、図形部分の読みを特定するために併記されたものであることがうかがえるとしても、これと図形部分とを比較した場合、構成上、図形部分とその平仮名文字とは軽重の差が極めて大きく、図形部分は、極めて強い印象を看者に与え注目される部分と認め得るところであるから、これに接する取引者、需要者は、図形部分に着目し、これより生ずる称呼によって取引に当たる場合も決して少なくないものとみるのが相当である。

そうとすれば、本願商標は、構成中の図形部分も独立して自他商品の識別標識として機能し、これより単に「マルコメ」の称呼をも生ずるといわなければならない。

(6)  してみれば、本願商標は、これをその指定商品中、異議申立人の業務に係る商品「味噌」と密接な関係を有する商品例えば「即席みそ汁、たいみそ、みそづけ魚介類、みそづけ肉、野菜のみそづけ」等について使用したとき、それに接する取引者、需要者は、該商品が、あたかも異議申立人又はこれと何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかの如く、商品の出所について誤認混同を生じるおそれがあるものといわなければならない。

(7)  そうとすれば、本願商標は、商標法4条1項15号に該当し、これを登録することができない。

3  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)、(2)は認める。同(3)は争う。同(4)のうち引用商標Bから「マルコメ」の称呼が生ずることは認めるが、引用商標Aから「マルコメ」の称呼が生ずること及び連合商標の点は争う。同(5)のうち、<1>は認め、<2>は争う。同(6)、(7)は争う。

審決は、証拠適格を有しない証拠によって引用各商標の著名性を認定したほか、原告に証拠に対する意見を申し述べる機会を与えなかった手続上の違法があり、また、引用各商標の周知性の認定を誤り、本願商標から生ずる称呼の判断を誤ったため本願商標が引用各商標と類似の商標であると誤って判断し、かつ、両者の商品の取引状態についての判断を誤った結果、本願商標について他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるものと誤って判断した実体上の違法があるから、取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(手続上の違法)

異議申立人が提出した証拠のうち甲第12号証ないし第595号証(審判での書証番号。本訴における乙第11ないし第26号証はその一部である。)は、商標法17条(平成6年法律第116号による改正前のもの。以下、同じ)で準用する特許法56条(平成6年法律第116号による改正前のもの。以下、同じ)に規定している指定期間外の提出である。仮に、職権によりかかる証拠を取り調べたとしても、原告に上記各証拠に対する意見陳述の機会を与えなかった。したがって、上記甲第12号証ないし第595号証は証拠の適格を欠くものである。

なお、被告の後記請求の原因に対する認否及び反論2(1)<3>の事実は認める。

(2)  取消事由2(実体上の違法)

(引用各商標の周知性)

<1> 異議申立人が提出した甲第1ないし第595号証(審判での書証番号)では、広告が長年にわたってなされており、そのテレビコマーシャルがユニークであったり、会社規模も味噌業界では今日では大きく成長してきたということがうかがえるにすぎず、引用各商標が本願商標の登録出願日前に著名となったことを認めるに足りる証拠はない。

<2> なお、本訴において提出された乙第27ないし第36号証については、審判段階において原告に反駁の機会もこれを契機に指定商品の補正をする機会も与えられておらず、本訴において引用各商標の著名性の立証のために提出することはできない。

(商標の類似性)

<3> 引用商標Aから、「マルコメ」との称呼は生じない。

<4> 本願商標(別紙商標目録1)において、図形部分の下に平仮名で併記した「まるよね」は、図形の読みを特定するため併記したもので、もともと図形の読みを特定するため併記する平仮名は図形より小さく併記することが常識的な慣習で、図形が大きいから図形が極めて強い印象を看者に与え注目される部分であると決めつけることはできない。本願商標は、図形の読みを特定する併記としては十分な大きさであり、その併記位置も常識的な慣習に基づいて明確に図形の読みを促すように併記されている以上、上記図形部分と「まるよね」なる併記とは、一体不可分に結合しているものであるから、本件商標から生ずる称呼は「まるよね」であり、「マルコメ」なる称呼は生じない。

なお、本願商標は、「マルコメ」との称呼を生ずる本願商標と同類商品についての「マルコメはるさめ」(商公昭52-21173号)との引用商標とは、本願商標から「マルコメ」の称呼は生じないとして、非類似と判断されて出願公告されたものである。

(商品の取引状態、混同を生ずるおそれ)

<5> 仮に「マルコメ」が「味噌」において周知であったとしても、本願商標の指定商品は、たとえ密接な関係があるとはいえ、「味噌」とは非類似の商品である。味噌を扱う味噌屋と味噌漬け食品を扱う食料品店とは、その取引ルートも販売ルートも異なる。

<6> 著名商標を引用商標として商標法4条1項15号を適用する場合、飽くまで具体的ケースごとに具体的な出所混同が生じるおそれがあるか否かを検討しなければならない。上記のとおり商品、商標とも非類似の本件事案において、本件で認定された程度の周知性をもって商標法4条1項15号を適用し、具体的な出所混同のおそれがあると判断することは誤りである。

<7> 異議申立人の提示した証拠により認められる程度の周知性ならば本願商標も有しており、一方的な周知性をもって出所混同が生ずるおそれがあるとする結論は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1、2は認める。同3(1)のうち、異議申立人が提出した証拠のうち甲第12号証ないし第595号証(審判での書証番号)は、商標法17条で準用する特許法56条に規定している期間外の提出であることは認め、その余は争う。同3(2)は争う。

審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

<1> 異議申立人が提出した証拠のうち、職権により採択した証拠は、次のとおりである。

乙第1ないし第10号証(審判段階での書証番号甲第2ないし第11号証。引用各商標等の態様等)、乙第11号証(同甲第12号証。異議申立人(会社)の概要、沿革、そして、各種製品に引用各商標等を付して使用している商標の実態等)及び乙第12ないし第26号証(同甲第17ないし第20号証、第22、第23号証、第26ないし第29号証、第33号証、第35号証、第504ないし第507号証)

<2> 期間外に提出された証拠であっても、職権により、その中から証拠力を有するものを選び、これを審査の資料とすることに妨げはない。

<3> さらに、原告は、平成3年8月8日に提出された商標登録異議申立理由補充書(添付書類 甲第12ないし第104号証、第501ないし第578号証(審判での書証番号))及び平成3年12月6日に商標登録異議弁駁書と共に提出された商標登録異議申立理由補充書(添付書類 甲第105ないし第122号証、第579ないし第595号証(審判での書証番号))を被告から送付を受けて、これを受け取り、平成4年2月13日付けをもって提出された商標登録異議答弁書(第2回目)において現に反論している。

(2)  取消事由2について

(引用各商標の周知性)

<1> 前記(1)<1>に掲記の各証拠を総合して判断すれば、引用各商標は、指定商品「味噌」について、新聞等を通じ全国的に長期にわたって宣伝、広告されていた事実が存し、本願商標の出願日前には、取引者、需要者間において広く知られるに至った商標であると判断することができる。

<2> また、これに加えて、昭和30ないし40年代及び昭和45ないし48年代において、商品「味噌」及び「即席みそ汁」に引用各商標を付したものが、フジテレビ、日本テレビ、東京放送その他の局を通じて関東及び関西を中心に放映され、同じく、地方局を通じてその地方において放映されており(本訴における乙第27ないし第36号証)、引用各商標は、本願商標の出願日のはるか前から、商品「味噌」について、取引者、需要者間において広く知られるに至っていた商標であることは明らかである。

<3> 原告は、乙第27ないし第36号証の本訴での提出は違法であると主張する。しかしながら、乙第27ないし第36号証は、審判段階でのテレビコマーシャルに関する証拠のみならず、新聞等の他の宣伝、広告に関する証拠とも、その内容及び時期について同一性があるものとみることのできるものであるから、審判段階における異議申立人の提出した証拠が前記証拠を併せることによってはじめて実質的証拠力を有するものであると評価すべきようなものではなく、まして、全く新たな拒絶理由となるような証拠を追加した訳でもないから、乙第27ないし第36号証の提出は許されるべきである。

<4> 仮に、甲第12ないし第595号証(審判での書証番号)の職権証拠調手続に違法があったとしても、引用各商標は、本願商標の登録出願前より極めて著名であり、このことは審決時においても明らかな事実であった。すなわち、商品「味噌」は、日常生活に密着した極めて身近な商品であり、どのような銘柄の商品を選択するかは、特に主婦を中心とした家族的関心事でもあり、引用各商標に係る商品の宣伝、広告においても、これら需要者にアピールするような愛らしい小坊主「一休さん」(乙第12号証の2及び3)(図形、動画等)と坊主頭の男の子のイメージキャラクター及び簡潔で親しみやすいコマーシャルソングを使い、高い人気を博していたものである。

そして、引用各商標が著名であって、その指定商品である「味噌」と密接な関係を有する「即席みそ汁」等に本願商標を使用するときは、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるから、本願商標は、商標法4条1項15号に該当する旨の異議申立人の主張は、商標登録異議申立書に記載され、これが平成3年6月3日原告に送達され、開示されている。これに対し、原告は、商標登録異議答弁書を提出し、反論している。

そして、審決において周知又は顕著であるとした根拠ないしはそのように認定した資料は、拒絶理由認定の資料であって、拒絶理由ではないから、これにつき出願人に意見書提出の機会を与える必要がない。甲第12ないし第595号証(審判での書証番号)は、原告に対し念のため送付されたにすぎないものである。

乙第27ないし第36号証の本訴での提出は、審決において「(商標登録異議)申立人の業務に係る商品「味噌」の商標として、国内において取引者、需要者間に広く知られ著名となっている」ことを原告が認めないために、この周知又は顕著な事項を立証するために提出するものであって、何ら違法なものではない。

(商標の類似性)

<5> 引用商標Aからは、「まるこめ」の称呼が生ずる。

引用商標Bは、「マルコメ」の片仮名文字のみを書した構成よりなるものであるが、引用商標Aとは相互に類似する連合商標として登録されている。

引用商標Aは、別紙商標目録2に示すとおり、円輪郭内の中心に内接していない肉太で上下左右の端を円みをつけた「+」を表し、その4つに区切られた空間に黒丸を各1個配してなるものであるところ、この円内の結合は、「米」の文字を図案化したものと看取されても不自然ではない。

さらに、異議申立人が提出した前記(1)<1>に掲記の証拠を調査したところ、引用商標Aと引用商標Bは、同一商品には、ほとんど同時に使用されているものである。このことは、図案化した「米」の文字を円輪郭内に配した引用商標Aは、「マルコメ」の文字よりなり取引者、需要者間において著名と認められる引用商標Bと相まって認識されるものであることから、容易に「まるこめ」と読まれるものであるとみるのが相当であるというべきである。

<6> 本願商標からは、「マルヨネ」の称呼の他に、「マルコメ」の称呼をも生ずる。

本願商標は、別紙商標目録1に示す構成よりなるところ、審決が述べるとおり、太線の円輪郭とその中に毛筆体の楷書で書された「米」の文字よりなる図形部分は、一体のものとして、それ自体、独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものと認められるものである。

しかして、該構成の図形部分から生ずる称呼についてみるに、円輪郭の中に毛筆体の楷書で書された「米」の文字が「コメ、ヨネ、ベイ」と読まれる漢字であることは、周知であり、日本人の主食である「米」の文字であると容易に理解され、これが、日常生活の中では、同義の漢字として小学生等以上の者であれば誰でも理解でき、親しみ使用されている漢字であることも明らかなところである。そして、現代においては、「米」の漢字が一文字で書されている場合の読みは、これを「ヨネ」と読むよりはむしろ、「コメ」と読むのが普通一般であるとみるのが相当である。

そして、図形部分は、その構成が円輪郭と文字の組み合わせからなるような構成よりなるところ、かかる構成のものは、我が国では紋章等に多く用いられるものであって、円輪郭と文字を一体的に読み込むという取引界における慣習的な読み方に従えば、それは、「マルコメ」と読まれるものとみるのが自然であるといわなければならない。

そうとすれば、本願商標は、前記のとおり図形部分もそれ自体独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものといえるものであるから、図形部分から「マルコメ」の称呼をも生ずるものというべきである。

また、本願商標における構成において、図形部分に付した平仮名文字の「まるよね」は、図形部分の読みを特定するために併記されたものであることがうかがえるとしても、これと図形部分とを比較した場合、構成上、図形部分は圧倒的顕著に表されており、これと平仮名文字とは構成における軽重の差が極めて大きいものであるから、それ自体独立して看者に与える印象は極めて強いものということができ、また、この平仮名文字と図形部分の構成よりなるものを、取引者、需要者が、常に不可分一体のものとしてのみ捉えるとは限らず、他にこれらを、常に不可分一体のものとして把握しなければならない特段の理由は見出せない。

そうとすれば、引用各商標が「マルコメ」の称呼をもって周知著名であるという取引の実情を考慮するならば、本願商標の図形部分は、該構成中には顕著に書され、かつ我が国における主食の名称として日常親しまれている漢字の「米」の文字を有してなることから、時と場所を異にして本願商標に接する取引者、需要者は、本願商標をもって漢字「米」に円輪郭を有する商標であると記憶し、あるいは、かかる構成の商標として想起する場合が少なくないものというべきである。してみれば、簡易迅速を旨とする取引の場にあっては、本願商標は、その構成上、前記のとおり漢字「米」を顕著に有する図形部分に相応して、単に「マルコメ」の称呼をも生ずるものと判断するのが相当である。

なお、本願商標と「マルコメはるさめ」なる商標との関係については、審査段階において、本願商標は、「マルコメはるさめ」との商標とは「マルコメ」の称呼を共通にする類似の商標であるから、商標法4条1項11号に該当するとして、拒絶査定がなされた。そして、上記拒絶査定に対し、審判の請求がなされたが、「マルコメはるさめ」の商標権が存続期間満了により消滅し、その拒絶理由が解消したため、出願公告をしたものであって、両商標が非類似であると判断したため出願公告をしたものではない。

してみれば、本願商標と引用各商標とは、「マルコメ」の称呼において類似する商標と認められるところである。

(商品の取引状態、混同を生ずるおそれ)

<7> 他人の業務に係る商品との混同を生ずるおそれについては、ある商標が世上一般に知られ、著名化すれば、その商標を周知させた商品又はそれと類似する商品についてはもちろん、それと類似性のない商品についても、これに上記著名な商標と紛らわしい商標を使用するものがあれば、世人は、これを著名な商標をもつ業者の製造販売ないし取扱いにかかる商品と誤認して購入することがあり得ると考えられる。

審決は、両商品間が同じ食品分野に関わるものであって、しかも、多角経営を指向する昨今の企業経営の実情からして、「味噌を扱う味噌屋」と「味噌漬け食品を扱う食料品店」とは、多角経営の方向として同一業者が当該2つの事業を同時に営み得る蓋然性が高い関係にあることから、本願商標をその同指定商品中の「即席みそ汁、たいみそ、みそづけ魚介類、みそづけ肉、野菜のみそづけ」等について使用したときは、本願商標と引用商標との間において、その商品の出所につき混同を生じるおそれがあるとみるのが相当であると判断したものである。

本件において、その提出に係る乙第21、第23ないし第26号証(審判段階での書証番号甲第33、第504ないし第507号証)によると、異議申立人は、昭和53年に「ホットみそ・朝」「ホットみそ・夜」なる「即席みそ汁」を製造販売していた事実が認められ、そして、これらの事実から、味噌を製造している異議申立人は、本願の出願日前から、旧法類別第32類に属する商品中の味噌を使用した加工食品にも関わりを持ち、該商品には、引用各商標が付されて使用されている事実も確認できるものである。

加えて、旧法類別第32類に属する商品と関係のある味噌漬け食品業者あるいは味噌を使用する加工食品製造業者(例えば、さばの味噌煮の缶詰製造会社等)が、味噌を扱う味噌屋(会社)から、自社商品の製造に必要な味噌を仕入れている取引者間の取引の流通市場が存在する。そうとすれば、味噌を扱う味噌会社と味噌漬け食品を扱う食料品店とは取引ルート及び販売ルートにおいて密接な関係を有しているものであるといえるものである。

してみると、上記実情を有する両商標の指定商品間にあっては、引用各商標と称呼上類似する本願商標を、例えば「即席みそ汁」について使用した場合、これに接する取引者、需要者は、該商品は、異議申立人あるいはこれと何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかの如く商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれが多分にあるものといわなければならない。

この点は、これを旧法類別第32類における他の商品である味噌を使用して加工した食品、例えば、さばの味噌煮の缶詰について使用したときも同様である。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

そして、審決の理由の要点同2(1)(本願商標の構成、指定商品及び登録出願日)、同2(2)(引用各商標の構成、指定商品、登録出願日、登録日)は、当事者間に争いがない。

2  原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  引用各商標の周知性、手続上の違法について

<1>  成立(写しについては原本の存在も)に争いのない乙第11号証、第12号証の1ないし5及び第13ないし第26号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第27ないし第36号証並びに弁論の全趣旨によれば、引用各商標は、本願商標の出願日前から、指定商品「味噌」について、新聞、テレビ等を通じ全国的に長期にわたって宣伝、広告されていたことが認められ、この事実によれば、本件各商標は、本願商標の登録出願日である昭和55年3月25日以前より、異議申立人の業務に係る商品「味噌」の商標として国内において取引者、需要者に広く知られ周知となっていたものと認められる。この認定に反する原告の主張は採用できない。

<2>  原告は、甲第12ないし第595号証(審判での書証番号)は指定期間外の提出に係るものであるし、仮に職権によりかかる証拠を取り調べたとしても、原告に上記各証拠に対する意見陳述の機会を与えなかったものであるから、証拠としての適格を欠く旨主張する。

上記甲第12ないし第595号証が商標法17条で準用する特許法56条に規定している期間外の提出であることは、当事者間に争いがない。しかしながら、前記審決の理由の要点(3)によれば、上記甲第12ないし第595号証の一部につき職権による証拠調べが行われたものであるところ、請求の原因に対する認否及び反論2(1)<3>の事実(原告の上記甲第12ないし第595号証の受領及び反論の事実)は、当事者間に争いがない。そうすると、上記甲第12ないし第595号証については、商標法56条、特許法150条5項の規定する職権証拠調べが行われた場合に要求される正式な手続は採られていないとしても、その証拠の内容を通知し、意見を述べる機会を与えるという特許法150条5項の趣旨とするところは履践されていると認められるから、上記甲第12ないし第595号証は指定期間外の提出に係るものであり、職権によりかかる証拠を取り調べたとしても原告に上記各証拠に対する意見陳述の機会を与えなかったものであるから証拠としての適格を欠くとの原告の主張は採用できない。よって、原告主張の取消事由1は理由がない。

<3>  さらに、原告は、乙第27ないし第36号証を本訴において新たに提出することは許されないと主張する。しかしながら、乙第27ないし第36号証は、本願商標が引用各商標の付された商品との間で商標法4条1項15号にいう混同を生ずるおそれがあるか否かという審理範囲内において、その判断の基礎となる事実を立証するためのものであり、その提出を許さないとする理由も認められないから、その提出が許されると解すべきである。よって、原告の上記主張は採用できない。

(2)  商標の類似性について

<1>  引用商標Bから「マルコメ」の称呼が生ずることは、当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第1及び第5号証によれば、引用商標Aは、「マルコメ」の片仮名文字のみを書した構成よりなる引用商標Bと相互に類似する連合商標として登録されていることが認められる。そして、引用商標Aの構成が別紙商標目録2に示すとおり円輪郭内の中心に内接していない肉太で上下左右の端を円みをつけた「+」を表し、その四つに区切られた空間に黒丸を四個配してなるものであることは、前記1に判示のとおりであるところ、この円内の結合は、「米」の文字を図案化したものと看取されても不自然ではないから、引用商標Aからは、「マルコメ」の称呼が生ずると認めるべきである。

<2>  本願商標の構成が別紙商標目録1に記載のとおりであることは、前記1に判示のとおりであるところ、このような構成を有する本願商標からは、「マルコメ」との称呼も生ずると認められる。

原告は、「まるよね」との片仮名文字の存在を理由に、本願商標からは「まるよね」との称呼しか生じないと主張する。確かに、上記判示の本願商標の構成によれば、図形の下に平仮名で併記した「まるよね」が図形の読みを特定する役割を果たしていることは原告主張のとおりである。しかし、図形部分が「まるよね」との平仮名文字より圧倒的に大きく表されていることからすると、本願商標中の図形部分もそれ自体看者に強い印象を与え、独立して自他商品の識別標識とじての機能を果たすものと認められるから、この図形部分から「マルコメ」との称呼も生ずると認められる。

さらに、原告は、本願商標は「マルコメはるさめ」との商標とは非類似と判断されて出願公告されたと主張する。しかしながら、成立に争いのない乙第37号証の1、2及び第38号証並びに弁論の全趣旨によれば、上記出願公告が行われたのは、拒絶査定の理由として引用された「マルコメはるさめ」との登録第1368484号商標がその後に存続期間満了により消滅したためであることが認められから、上記出願公告の事実を本願商標から「マルコメ」との称呼が生じない根拠とすることはできない。

<3>  そうすると、本願商標と引用各商標は、「マルコメ」との称呼において類似する商標と認められる。

(3)  商品の取引状態、混同を生ずるおそれについて

<1>  本願商標が旧法類別第32類「食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食品(他の類に属するものを除く)」を指定商品とすること、引用商標Aが旧々法類別第45類「味噌」を指定商品とすること、引用商標Bが旧法類別第31類「みそ」を指定商品とすることは、前記1に判示のとおりである。そうすると、まず、本願商標の指定商品中の少なくとも加工食品の一部である即席みそ汁、たいみそ、みそづけ魚介類、みそづけ肉、野菜のみそづけと引用各商標における味噌は、同じ食品分野に関わり、上記両商品が一般に同一の食料品販売店舗で取り扱われることが多いものと認められる。さらに、企業が経営安定の一方策として、経営の多角化、特に自己の得意とする分野に関連する分野への進出を図ることが一般化していることは、当裁判所に顕著であり、前記乙第21及び第23ないし第26号証によれば、実際にも、異議申立人が昭和53年に「ホットみそ・朝」「ホットみそ・夜」なる「即席みそ汁」を製造販売していた事実が認められる。これらの事情を考慮すると、本願商標の付された即席みそ汁等の商品に接する取引者、需要者が、それらの商品が異議申立人又はそれらと経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるとその出所について混同を生ずるおそれがあるものと認められる。

<2>  原告は、商標、商品とも非類似の本件事案において、本件で認定された程度の周知性では具体的な出所混同のおそれがあると判断するには不十分である旨主張するけれども、原告の主張は、商標が非類似であるとの前提を欠くから採用できない上に、前記(1)に認定説示した引用各商標の周知性は、他の要件と相まって本件で出所混同のおそれがあると判断するに十分なものである。また、商品が非類似であり、販売ルートも異なるとの主張が理由がないことは、上記説示したところから明らかである。

原告は、さらに、本願商標の周知性も出所混同のおそれの有無の判断に当たり考慮すべきである旨主張するけれども、本願商標が周知性を有することを認めるに足りる証拠がないから、原告の上記主張も採用できない。

(4)  結論

そうすると、本願商標は商標法4条1項15号に該当し、これを登録することができないとした審決の判断に違法はない。

3  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙商標目録1

(イ)本願商標

<省略>

別紙商標目録2

(ロ)本願商標

<省略>

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