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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)12号 判決 1995年3月29日

札幌市豊平区月寒東1条18丁目5番1号

原告

日糧製パン株式会社

代表者代表取締役

武田正年

訴訟代理人支配人

平野勉

同訴訟代理人弁理士

佐藤英昭

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 高島章

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

理由

第1  原告の求めた判決

特許庁が、平成4年審判第21812号事件について、平成6年11月2日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

第2  当裁判所の判断

1  一件記録によれば、以下の事実が認められる。

訴外株式会社有明製菓は、名称を「ケーキ」とする特許第1350341号発明の特許権者である。

原告は、弁理士佐藤英昭(以下「佐藤弁理士」という。)を代理人として、特許庁に対し、同訴外会社を被請求人として、上記特許を無効とする旨の審判の請求をした。

特許庁は、これを平成4年審判第21812号事件として審理したうえ、平成6年11月2日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成6年12月14日、佐藤弁理士に送達された。

原告は、同審決を不服とし、佐藤弁理士を訴訟代理人として、平成7年1月13日、特許庁長官を被告として、同審決の取消しを求める本件訴えを当庁に提起した。

2  本件訴えが特許法123条1項(平成5年法律第26号による改正前のもの)の規定する特許無効審判の審決に対する訴えに該当することは明らかであり、この特許無効審判の審決に対する訴えにおいては、同法179条ただし書(平成5年法律第26号による改正前のもの)により、当該審判の請求人又は被請求人を被告としなければならないと法定されているから、本件訴えにおいて被告適格を有する者は、上記審判事件における被請求人である訴外会社に限られ、特許庁長官が被告適格を有するとする余地はない。

したがって、特許庁長官を被告とする本件訴えは、被告適格を有しない者を被告とした不適法な訴えであることは明らかである。

3  このように特許無効審判の審決に対する訴えの被告適格については特許法に明定されているところであるから、弁理士法9条の2第1項により審決取消訴訟について特別に訴訟代理権を与えられた弁理士である佐藤弁理士にとって、上記審決及び特許法の調査ないし確認を訴え提起前に行えば、本件訴えにおいて被告適格を有する者が訴外会社であると正しく判断し、特許庁長官を被告とする過誤を避けることが可能であったことは明白であり、これを困難とする事情は本件記録上認められない。

そうとすれば、佐藤弁理士が、本件訴えを提起するに当たり、被告とすべき者を誤った点には、重大な過失があったものといわなければならないから、行政事件訴訟法15条1項の定める被告変更の要件が満たされないことは明らかであり、不適法な訴えである本件訴えを、上記被告変更の手続きによって適法なものにすることも許されない。

4  以上のとおり、本件訴えは不適法であり、かつ、その欠缺は補正することができないものであるから、口頭弁論を経ないでこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)

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