東京高等裁判所 平成7年(行ケ)266号 判決 1998年4月22日
神戸市兵庫区明和通3丁目2番15号
原告
バンドー化学株式会社
代表者代表取締役
雀部昌吾
訴訟代理人弁理士
前田弘
同
小山廣毅
同
松永勉
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 荒井寿光
指定代理人
野村亨
同
舟木進
同
田中弘満
同
小川宗一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成2年審判第20023号事件について、平成7年8月7日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和62年2月28日にした特許出願に基づく国内優先権を主張して、同年8月3日、名称を「変速装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭62-194110号)が、平成2年9月14日に拒絶査定を受けたので、同年11月8日、これに対する不服の審判請求をした。
特許庁は、同請求を平成2年審判第20023号事件として審理したうえ、平成7年8月7日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年10月5日、原告に送達された。
2 本願発明の要旨
互いに平行に配置された1対の回転軸と、
該各回転軸上にそれぞれ設けられ、各々、回転軸に回転一体にかつ軸方向に移動不能に固定支持された固定シェイブと、該固定シェイブとの間に断面略V字状のベルト溝を形成するように上記固定シェイブに対向して設けられているとともに背面側に軸方向に延びるボス部を有し、該ボス部にて回転軸に回転一体にかつ軸方向に移動可能に外嵌支持された可動シェイブとからなり、一方の可動シェイブの固定シェイブへの向きと他方の可動シェイブの固定シェイブへの向きとが互いに逆向きに設定された駆動及び従動プーリと、
上記駆動及び従動プーリのベルト溝間に巻き掛けられたベルト部材と、
上記駆動及び従動プーリの各可動シェイブ背面側にそれぞれ配置され、各々、互いにカム接触する第1カムと第2カムとからなり、上記第1及び第2カムの一方が可動シェイブのボス部上にベアリングを介して軸方向に可動シェイブと共に移動一体にかつ相対回転可能に支持され、他方が回転軸に軸方向に移動不能にかつ回転軸に対して相対回転可能に設けられ、両カムの一方は回転軸回りに回動可能な回動カムとされる一方、他方は回動不能な固定カムとされ、上記回動カムと固定カムとの相対回転により可動シェイブを固定シェイブに対して接離させるように軸方向に移動させて上記各プーリの有効半径を変化させる駆動プーリ側および従動プーリ側カム機構と、
上記駆動および従動プーリの一方の可動シェイブが対向する固定シェイブに接近すると他方の可動シェイブが対向する固定シェイブから離れるように上記両カム機構の回動カムを互いに連動連結して回動させることで上記両回転軸間の変速比を変化させる変速切換機構と、
上記駆動および従動プーリ間に配置され、両プーリ間に巻き掛けられるベルト部材の緩み側スパンを該ベルト部材が各プーリのベルト溝に食い込むように押圧して、ベルト部材への推力を発生させるテンション機構と
を設けたことを特徴とする変速装置。
3 審決の理由の要点
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明が、実願昭56-51603号(実開昭57-164352号公報)のマイクロフィルム(以下「引用例」といい、そこに記載された考案を「引用例発明」という。)に記載された考案に、周知技術である「V字状のベルト部材を用いた変速装置において、固定シェイブと可動シェイブを回転軸に対して回転一体に構成すること」、実開昭57-82240号公報(以下「周知例1」という。)、実開昭55-132544号公報(以下「周知例2」という。)に見られるように周知技術である「V字状のベルト部材を用いた変速装置において、可動シェイブの背面側に設けたボス部上にベアリングを設け、該ベアリングを介してカムを支持すること」及び慣用手段である「ベルト部材を用いた伝動装置においてテンション機構でベルト部材を押圧する場合、ベルト部材の緩み側スパンを押圧するようにテンション機構を配置すること」を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
1 審決の理由中、本願発明の要旨、引用例記載事項、本願発明と引用例発明との一致点及び相違点(1)~(3)の各認定並びに相違点(1)及び(3)についての判断は認め、相違点(2)についての判断は争う。
審決は、本願発明及び引用例発明の技術内容及び周知技術の内容を誤認して、相違点(2)についての判断を誤った結果、本願発明が引用例発明に周知技術及び慣用手段を適用することにより、当業者が容易に発明することができたものとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
2 相違点(2)についての判断の誤り
審決は、本願発明と引用例発明との相違点(2)、すなわち、「可動シェイブの背面側に設けられるベアリングの位置を、本願第1発明(注、本願発明を指す。)では『可動シェイブのボス部上』としているのに対し、第1引用例に記載された発明(注、引用例発明を指す。)では円錐板(29)(31)のボス部(29a)(31a)に接するようにベアリング(32)(33)を配置している点」(審決書13頁15~末行)について、周知例1、2を引用して、「V字状のベルト部材を用いた変速装置において、可動シェイブの背面側に設けたボス部上にベアリングを設け、該ベアリングを介してカムを支持することは、この種の技術において周知の技術・・・であることから、第1引用例に記載された発明においても、ベアリング(32)(33)を可動シェイブである円錐板(29)(31)のボス部(29a)(31a)上に設けるようにすることに格別の困難性を有するものとは認められず、また、そうすることによる効果も、第1引用例に記載された発明が有する効果と甲第4号証の2及び甲第4号証の3(注、周知例1、2を指す。)に記載された周知技術が有する効果との総和以上のものでもない。」(同15頁3~18行)と判断したが、誤りである。
(1) 本願発明は、Vベルト式無段変速装置として、駆動プーリ及び従動プーリに、各々回動カムと固定カムとからなり、可動シェイブを固定シェイブに対して接離させるカム機構を有し、駆動プーリ側と従動プーリ側の双方のカム機構の回動カムが、一方のプーリの可動シェイブが固定シェイブに接近すると、他方のプーリの可動シェイブが固定シェイブから離れるように互いに連動連結されている型式(以下「カムーカムタイプ」という。)のものを対象とするものであり、このようなカムーカムタイプのVベルト式変速装置においては、変速操作時に両カムにカム回転反力が生ずることを知見し、このカム回転反力を活用して可動シェイブの傾倒モーメントを軽減することを課題として、そのために、カム回転反力が発生する回動カム又はそれとカム接触する固定カムを可動シェイブのボス部上にベアリングを介して配置することで、カム回転反力により上記傾倒モーメントとは逆方向のモーメントを生ずるようにしたものである。そして、本願発明は、可動シェイブの傾倒モーメントを軽減することにより、その摺動抵抗の低減を図り、変速操作をスムースにし、かつ、小さな操作力で変速操作を行わせることができる効果を奏するものである。
本願発明のカム回転反力の発生メカニズム及び作用は次のとおりである。
<1> 変速操作時に、駆動プーリ及び従動プーリの各カム機構の回動カムと固定カムとを相対回転させるための回転トルクが各回動カムに作用し、
<2> この回転トルクの周方向の分力により各回動カムを回転させようとするカム回転力が発生し、この力が各回動カムを支持する支持点としての回動カムの変速切換機構との連結点に作用し、
<3> カム回転力により各回動カムが回動するのを制止しようとするカム回転反力が発生し、各回動カムに対し、その支持点(変速切換機構との連結点)から90°位相がずれた位置で回転軸の任意の半径方向に作用し、
<4> このカム回転反力が回動カム又はそれとカム接触する固定カムと該カムを支持するベアリングとを介して、各プーリの可動シェイブのボス部に、その任意の半径方向に作用し、
<5> この各可動シェイブのボス部に作用するカム回転反力を、可動シェイブへの傾倒モーメントが作用する作用面と同方向の分力と、該作用面と直交する方向の分力とに分けた場合における、上記傾倒モーメント作用面と同方向の分力により、各可動シェイブの傾倒モーメントを相殺するモーメントが発生することで、各可動シェイブの傾倒モーメントを軽減して、各可動シェイブの摺動抵抗を低減するものである。
したがって、本願発明におけるカム回転反力は、被告主張のように、カムの回転トルクにより、回動カム又は固定カムがベアリングを介して可動シェイブのボス部を任意の半径方向に押圧する力であると表現することもできる。
(2) 従前のVベルト式変速装置は、周知例1、2に記載されたもののように、駆動プーリ及び従動プーリのうちの一方(駆動プーリ)に操作レバーが連結されたカム機構を備えているものの、他方(従動プーリ)にはプーリを閉じる方向に付勢するスプリングを設け、上記操作レバーにより操作されるカム機構によって当該一方のプーリを開閉し、この一方のプーリの開閉により、V字状ベルトを介して、他方のプーリを上記スプリングの付勢力により、又はその付勢力に抗して開閉して、変速を行う型式(以下「カムースプリングタイプ」という。)のものであった。
このカムースブリングタイプのVベルト式変速装置は、スプリングのばね力によってベルトに動力伝達のための推力を発生させるため、スプリングとしては大きなばね力のものを要し、そのため変速操作力も、最低限スプリングのばね力に打ち勝っために、手動力をはるかに超える非常に大きな力が必要となり、通常は変速切換機構内に油圧回路を組み込んで、人力の数倍の大きさの油圧力により変速操作をしていた。
すなわち、カムースプリングタイプのVベルト式変速装置では、大きな油圧力によりカム機構を介して駆動プーリ側の可動シェイブをいわば強引に移動させていたのであり、本願発明が技術課題とした、可動シェイブの傾倒モーメントの発生による変速操作時の可動シェイブの回転軸に対する摺動抵抗の軽減という課題の発生すらないものであった。
これに対し、油圧力を要しないで、手動力のみによって変速操作を可能とする変速装置として、カムーカムタイプのVベルト式変速装置が発明されたものであり、これは、<1>テンション機構によりベルトを押圧することでベルト推力を発生させること(カムースプリングタイプのテンション機構は、ベルトの伸び等を吸収してベルト張力を一定に維持するためのもので、ベルト推力を発生させるものではない。)、<2>駆動プーリ及び従動プーリの一方の可動シェイブが対向する固定シェイブに接近すると他方の可動シェイブが対向する固定シェイブから離れるように両プーリのカム機構の回動カムを互いに連動連結して回動させることによって変速操作を行うため、駆動プーリ側、従動プーリ側双方のカム機構の回動カムを回動させるための操作力が互いに相殺されて、小さくてすむという特徴を有するものである。したがって、カムーカムタイプのVベルト式変速装置は、従前のカムースプリングタイプのVベルト式変速装置とは本質的に技術内容の全く異なる形態のものである。
引用例発明は、本願発明と同様カムーカムタイプの変速装置であるが、本願発明が技術課題とした、可動シェイブの傾倒モーメントの発生による変速操作時の可動シェイブの回転軸に対する摺動抵抗の軽減という課題は開示されておらず、審決が相違点(2)として認定したとおり、各可動シェイブの背面側に設けられるベアリングの位置が可動シェイブのボス部上ではなく、該ボス部に接するようにベアリングを配置するものであるから、回動カム(又は固定カム)と該ベアリングを介して作用するカム回転反力が可動シェイブのボス部に作用せず、したがって、各可動シェイブの傾倒モーメントを相殺するモーメントが発生して各可動シェイブの傾倒モーメントを軽減するという効果を奏するものではない。
(3) このように、カムーカムタイプである引用例発明と、カムースプリングタイプである周知例1、2記載のVベルト式変速装置とでは、変速装置の形態を全く異にし、その技術分野が相違するものである。しかも、引用例発明には、両プーリにおける可動シェイブの傾倒モーメントの発生による変速操作時の可動シェイブの回転軸に対する摺動抵抗の軽減という課題の開示がなく、また、周知例1、2記載のVベルト式変速装置は、かかる課題すら発生しないものであるから、引用例発明に周知例1、2記載のVベルト式変速装置を組み合せる合理的な論理付けがなく、そうである以上、その組合せ自体に困難性を伴い、本願発明を容易に想到することができたものということはできない。
仮に、引用例発明に周知例1、2記載のVベルト式変速装置を組み合わせることができたとしても、引用例発明の駆動プーリ側に周知例1、2記載のVベルト式変速装置のカム支持構造を適用して、カムーカムタイプのVベルト式変速装置において、駆動プーリ側においてのみ、カムをベアリングを介して可動シェイブのボス部上に支持することが想定できるに止まる。すなわち、カムーカムタイプのVベルト式変速装置において、互いに連動連結された両回動カムに作用するカム回転反力を利用して、このカム回転反力により各可動シェイブに働くモーメントによって、各可動シェイブの傾倒モーメントを軽減し、両可動シェイブの摺動抵抗をともに均衡して低減することで、変速操作を手動力のみで行うことを可能とするという技術思想があって、初めて駆動プーリと従動プーリの双方の可動シェイブのボス部上にカムを支持することに想到するものであるところ、引用例発明も周知例1、2もかかる技術思想については開示も示唆もないから、駆動プーリ側と従動プーリ側の双方のカムをともに各可動シェイブのボス部上に支持することまでを想到することが容易とはいえない。
第4 被告の反論の要点
1 審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
2 本願発明のカム回転反力の発生メカニズム及び作用に関する原告の主張と本願明細書の記載とを総合すれば、本願発明におけるカム回転反力とは、カムの回転トルクにより、回動カム又は固定カムがベアリングを介して可動シェイブのボス部を任意の半径方向に押圧する力であると解することができる。
ところで、一般に、ベアリングは、内側に設けられた回転軸と外側に設けられた部材との間を回転自在にするものであるが、荷重を支持することもできるものであり、本願発明においても、可動シェイブのボス部上にベアリングを介して回動カム又は固定カムを設ける構成となっているから、該回動カム又は固定カムに何らかの外力を作用させれば、その力は該回動カム又は固定カム及びベアリングを介して可動シェイブのボス部に伝わることになる。
他方、審決が周知技術の例示とした周知例1、2記載のVベルト式変速装置においても、可動シェイブに相当する部材(周知例1の割プーリ部分6a、周知例2の可動円錐板12A)のボス部上にはベアリングが設けられ、その外側には固定カム又は回動カムに相当する部材(周知例1において固定カムに相当する摺動カム部材14、周知例2において回動カムに相当する操作カム2)が設けられていることから、摺動カム部材14や操作カム2に作用する力がベアリングを介して割プーリ部分6aや可動円錐板12Aのボス部に対し何らかの半径方向の外力として作用することになる。すなわち、周知例1、2記載のVベルト式変速装置においても、本願発明のカム回転反力と何ら相違することのない任意の半径方向の力が加わっているといえる。
そうすると、本願発明におけるカム回転反力に相当する力が周知例1、2に記載されたVベルト式変速装置においても生じていることになり、原告主張のカム回転反力は、本願発明の構成によって初めて生じた力ではなく、また、可動シェイブのボス部に対し半径方向の力が作用すれば、原告主張のように可動シェイブの傾倒モーメントを軽減するように作用する場合もあるのであるから、カム回転反力により可動シェイブに働くモーメントによって可動シェイブの傾倒モーメントを軽減するという作用効果は、周知例1、2記載の従来周知のVベルト式変速装置においても本来内在していた作用効果であるにすぎない。
したがって、本願発明の効果は、引用例発明及び周知例1、2記載のVベルト式変速装置が有する効果の総和以上のものがなく、また、引用例発明も周知例1、2記載のものも、本願発明と同様Vベルト式変速装置という同じ技術分野に属するものであるから、本願発明が、引用例発明に周知及び慣用技術を適用することにより、当業者が容易に発明することができたものとした審決の判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由(相違点(2)の判断の誤り)について
(1) 引用例に、図面とともに、「互いに平行に配置された1対の回転軸と、
該回転軸上にそれぞれ設けられ、各々、回転軸に軸方向に移動不能に固定支持された円錐板(28)(30)と、該円錐板(28)(30)との間に断面略V字状のベルト溝を形成するように上記円錐板(28)(30)に対向して設けられているとともに背面側に軸方向に延びるボス部(29a)(31a)を有し、該ボス部(29a)(31a)にて回転軸に軸方向に移動可能に外嵌支持された円錐板(29)(31)とからなり、一方の可動な円錐板(29)の固定されている円錐板(28)への向きと他方の可動な円錐板(31)の固定されている円錐板(30)への向きとが互いに逆向きに設定された駆動側プーリ(20)と従動側プーリ(23)と、
上記駆動側プーリ(20)及び従動側プーリ(23)のベルト溝間に巻き掛けられたVベルト(21)と、
上記駆動側プーリ(20)と従動側プーリ(23)の各可動な円錐板(29)(31)の背面側にそれぞれ配置され、各々、互いに当接するカムケース(34)(35)とカム座(38)(39)とからなり、カムケース(34)(35)を可動な円錐板(29)(31)のボス部(29a)(31a)にベアリング(32)(33)を介して当接させ、これにより、カムケース(34)(35)と可動な円錐板(29)(31)とが軸方向に移動一体にかつ相対回転可能に構成されており、カム座(38)(39)が回転軸に軸方向に移動不能にかつ回転軸に対して相対回転可能に支持され、カムケース(34)(35)が回動可能な回動カムとされる一方、カム座(38)(39)は回動不能な固定カムとされ、上記カムケース(34)(35)とカム座(38)(39)との相対回転により可動な円錐板(29)(31)を固定された円錐板(28)(30)に対して接離させるように軸方向に移動させて上記両プーリ(20)(23)の有効半径を変化させるものと、
上記駆動側プーリ(20)と従動側プーリ(23)の一方の可動な円錐板(29)(31)が対向する固定された円錐板(28)(30)に接近すると他方の可動な円錐板(29)(31)が対向する固定された円錐板(28)(30)から離れるように上記カムケース(34)(35)を互いに連動連結して回動させることで上記両回転軸間の変速比を変化させる変速軸(43)及び変速ロッド(44)(45)と、
上記駆動側プーリ(20)及び従動側プーリ(23)間に配置され、両プーリ(20)(23)間に巻き掛けられるVベルト(21)を押圧して、Vベルトへの推力を発生させるテンションローラ(46)と
を設けた変速装置」が記載されていること(審決書8頁1行~10頁13行)、本願発明のカム回転反力が、カムの回転トルクにより、回動カム又は固定カムがベアリングを介して可動シェイブのボス部を任意の半径方向に押圧する力であると表現できること(原告主張2(1))は、いずれも当事者間に争いがない。
そして、本願明細書(甲第2号証)には、「従来の技術」として、「ベルト伝動を利用したプーリ式変速装置の一例として、従来、実開昭57-164352号公報(注、引用例に当たる。)に示される・・・可変プーリ式のものが知られている。」(同号証4欄16~39行)と記載されたうえで、「発明が解決しようとする課題」として、「上記従来のものは、両カム機構の回動カムが互いに連動可能に連結されているので、両回転軸間の変速切換時に変速切換機構の作動により両可変プーリにおける各可動シェイブが互いに逆方向に同期して開閉し、両可変プーリ間の開閉力が逆になって両可変プーリ間の開閉力が部分的に互いに相殺し合い、両回転軸間の変速切換えを小さな操作力でもって敏速に行うことができると考えられる。しかし、実際には、上記従来のものでは、カム機構の回動カムを支持するベアリングが可動シェイブのボス部先端に当接した状態で回転軸上に摺動自在に支持されていることから、変速操作力の軽減という所期の効果が得られないという問題点があった。すなわち、可動シェイブがその略半部に掛けられている伝動ベルトから推力を受けたときに、その可動シェイブには回転軸に対して傾斜させる方向のモーメントが働くが、回動カムを支持するベアリングは可動シェイブのボス部先端に当接していて、該ボス部はその先端部にてベアリングにより受け止められているので、上記モーメントは大きく、その分、可動シェイブのボス部内周の回転軸外周に対する軸方向の面圧分布が大きなピークを持って集中して、該ボス部の摺動抵抗が大きくなる・・・このため、両カム機構の回動カム同士を連結して、一方のカム機構のベルト発生推力を取り出して他方のカム機構のベルト推力に利用するようにしてはいても、上記大きな摺動抵抗に起因して変速操作に大きな操作力を要し、両回転軸間の変速比を小さな操作力でスムーズに切り換えることは難しい。」(同4欄41行~5欄18行)と記載され、さらに、本願発明の「作用」として、「この発明では、各プーリの可動シェイブの背面側にカム機構が配置され、これらはいずれも第1カムと第2カムとの相対回転により可動シェイブを軸方向に移動させるものであるため、両プーリに発生する推力は互いに相殺され、両推力の差よりも大きな外力を与えることで、変速操作することができる。従って、このように変速操作力は、両プーリに発生する推力の差を越えた操作力でよいので、軽負荷時には勿論のこと高負荷時であっても変速操作力を大幅に軽減することができる。・・・一方のプーリに発生する推力を他方のプーリに推力として伝達するのを、各プーリの可動シェイブ背面側に配置したカム機構で行っているので、各プーリの推力を効率よく該プーリ側カム機構の両カムを相対回転させるためのトルクに転換でき、・・・その間の変速操作力をより一層軽減することができる。そのとき、第1発明(注、本願発明を指す。)の場合、上記プーリの推力から転送された、第1及び第2カムを相対回転させるためのトルクにより、両カムにはそれぞれカム回転反力が生じる。そして、可動シェイブのボス部上にベアリングを介して支持されている一方のカムに生じるカム回転反力は、該カムを支持している可動シェイブのボス部を押圧するように作用する。つまり、・・・このボス部に対するカム回転反力Wは、ボス部6a、11aと回転軸1、2との摺動部分におけるクリアランスによって可動シェイブ6、11がベルト部材13から推力を受けたときに可動シェイブ6、11を回転軸1、2に対して傾倒させる方向に働くモーメントM1とは逆方向のモーメントM2が生じるように作用し、この逆方向のモーメントM2により上記ボス部6a、11aが回転軸1、2に対してほぼ平行度を保つようになるとともに、上記カム回転反力Wによる押圧力は所定幅のベアリングを介して上記ボス部6a、11aに作用するので、・・・可動シェイブ6、11のボス部6a、11a内周の回転軸1、2外周に対する面圧分布が軸方向に分散して、従来・・・のような大きなピークがなくなり、その結果、ボス部6a、11aの摺動抵抗が小さくなる。この摺動抵抗が小さくなった分だけ、ベルト発生推力Fが従来よりも大きな取出推力F’としてカム機構に伝達されることとなる。」(同7欄25行~8欄15行)と記載されており、「発明の効果」として、「以上説明したように、本願の第1発明によると、・・・可変プーリ式の変速装置において、可動シェイブに対する上記カム機構の一方のカムの配設構造を可動シェイブのボス部上にベアリングを介して配置する構造としたことにより、可動シェイブ背面側を回転軸の軸心から離れたボス部外周位置で該カムにより支持して、可動シェイブのボス部を回転軸に対してほぼ平行度を保つようにするとともに該ボス部の回転軸に対する面圧分布を軸方向に分散させることができるので、上記可動シェイブの摺動抵抗を小さくでき、変速操作力を低減することができる。」(同16欄32行~17欄4行)と記載されている。
前示争いのない事実と本願明細書のこれらの記載とによれば、<1>引用例発明及び本願発明は、ともに、Vベルト式変速装置であって、駆動プーリ及び従動プーリに、各々回動カムと固定カムとからなり、可動シェイブを固定シェイブに対して接離させるカム機構を有しており、かつ、両カム機構の回動カムが互いに連動連結されて、変速切換時に変速切換機構の作動により両プーリの各可動シェイブが、一方が固定シェイブに接近すると他方が固定シェイブから離れるように互いに逆方向に同期して開閉するカムーカムタイプであること、<2>このような型式のVベルト式変速装置であれば、両プーリ間の開閉力が逆になって互いに相殺し合い、変速切換えを小さな操作力で行い得るはずであるが、実際には、引用例発明においては、該操作力の軽減という所期の効果が得られないという問題点があり、その原因は、可動シェイブがその略半部に掛けられている伝動ベルトから推力を受けたときに、その可動シェイブには回転軸に対して傾斜させる方向のモーメントが働くところ、引用例発明においては、回動カムを支持するベアリングは可動シェイブのボス部先端に当接していて、該ボス部はその先端部にてベアリングにより受け止められているので、上記モーメントは大きく、その分、可動シェイブのボス部内周の回転軸外周に対する軸方向の面圧分布が大きなピークを持って集中して、可動シェイブのボス部の摺動抵抗が大きくなることにあること、<3>本願発明は、可動シェイブに対するカム機構の一方のカム(回動カム又は固定カム)の配設構造を可動シェイブのボス部上にベアリングを介して配置する構造としたことにより、カム回転反力によって、上記可動シェイブの摺動抵抗を小さくすることができ、変速操作力を低減することができるという効果を奏するものであること、<4>本願発明のカム回転反力とは、変速操作時に、駆動プーリ及び従動プーリの双方のカム機構の回転カムに作用する回転トルクによって生ずる回動カムの回転力の反力(反作用力)として、回動カム及び固定カムに生ずる力であって、可動シェイブのボス部上にベアリングを介して支持されている一方のカム(回動カム又は固定カム)に生ずるカム回転反力が、該カムを支持している可動シェイブのボス部を任意の半径方向に押圧するように作用して、可動シェイブに働く回転軸に対して傾斜させる方向のモーメントとは逆方向のモーメントを生じさせる結果、可動シェイブのボス部が回転軸に対してほぼ平行度を保つようになるとともに、カム回転反力による押圧力は所定幅のベアリンプを介して可動シェイブのボス部に作用するので、可動シェイブのボス部内周の回転軸外周に対する面圧分布が軸方向に分散することにより、可動シェイブのボス部の摺動抵抗が軽減することが認められる。
(2) ところで、周知例1(甲第4号証)には、「回転軸芯方向に相対摺動自在で離間方向に付勢された一対の割りプーリ部分6a、6bを、操作レバー10に直結された回転カム機構16により遠近方向に相対移動すべく構成したベルト式無段変速装置」(同号証実用新案登録請求の範囲)であって、Vベルト式変速装置の可動シェイブに相当する割りプーリ部分6aのボス部上と固定カムに相当する摺動カム部材14との間にベアリングが設けられた構成(同図面第3図)が記載されており、また、周知例2(甲第5号証)には、「溝側面の対向間隔が可変とされた変速プーリ本体と、該変速プーリ本体を構成する軸方向摺動可能な円錐板背面に設けられ、操作レバーにより軸周囲に回転可能とされた操作カムと、該操作カムのカム面に係合し、軸周囲に回転不能に支持された従動カムと、前記溝側面の対向間隔を狭める方向へ操作レバーを回転付勢・・・するネジリバネとから構成されたことを特徴とするベルト式無段変速装置」(同号証実用新案登録請求の範囲)であって、Vベルト式変速装置の可動シェイブに相当する可動円錐板12Aのボス部に相当する背面上と回動カムに相当する操作カム2との間にベアリングが設けられた構成(同図面第1図)が記載されている。
これらの記載によれば、Vベルト式変速装置の技術分野においては、可動シェイブの背面側のボス部上にベアリングを設け、該ベアリングを介してカムを支持することは周知技術であることが認められる。
のみならず、このことに本願発明のカム回転反力に関する前示認定を併せ考えれば、回動カムと固定カムとからなるカム機構により可動シェイブを固定シェイブに対して接離させる構成のVベルト式変速装置のプーリに、前示周知技術を採用した場合においても、変速切換時に回動カムに作用する回転トルクによって、回動カム又は固定カムがベアリングを介して可動シェイブのボス部を任意の半径方向に押圧する力が作用し、かかる押圧力がベルト部材から受けた推力によって可動シェイブを回転軸に対して傾倒させる方向に働くモーメントとは逆方向のモーメントが生ずるように作用して、このモーメントによりボス部が回転軸に対してほぼ平行度を保つようにするとともに、この押圧力がベアリングを介してボス部に作用するので、可動シェイブのボス部内周の回転軸外周に対する面圧分布が軸方向に分散し、その結果として、ボス部の摺動抵抗が小さくなること、すなわち、本願発明でいうカム回転反力が作用して可動シェイブのボス部の摺動抵抗を小さくし、変速操作力を低減する効果を奏することが認められる。
そうすると、引用例発明も、前示周知技術も、いずれもVベルト式変速装置という本願発明と同じ技術分野に属するものであるから、引用例発明の円錐板のボス部の端部に当接するようにしたベアリングの配置を、前示周知技術を適用して可動シェイブのボス部上に設けることは、当業者が容易に想到し得る程度のことであり、かつ、そのことによって生ずる前示作用効果も、引用例発明に前示周知技術を適用することにより予測し得る程度のものであると考えられる。
(3) 原告は、引用例発明には両プーリにおける可動シェイブの傾倒モーメントの発生による変速操作時の可動シェイブの回転軸に対する摺動抵抗の軽減という課題の開示がなく、また、周知例1、2記載のカムースプリングタイプのVベルト式変速装置はかかる課題すら発生しないものであるから、引用例発明に周知例1、2記載のVベルト式変速装置を組み合せること自体に困難性を伴うと主張し、さらに、仮に組み合わせることができたとしても、カムーカムタイプのVベルト式変速装置において、駆動プーリ側においてのみ、カムをベアリングを介して可動シェイブのボス部上に支持することが想定できるに止まると主張する。
しかしながら、たとえ周知例1、2記載のVベルト式変速装置がカムースプリングタイプであったとしても、周知例1、2に見られるような、可動シェイブの背面側のボス部上にベアリングを設け、該ベアリングを介してカムを支持する周知技術そのものの適用がカムースプリングタイプに限られるとする理由はない。そして、引用例発明は、駆動プーリ側と従動プーリ側の双方のカム機構の回動カムが、一方のプーリの可動シェイブが固定シェイブに接近すると、他方のプーリの可動シェイブが固定シェイブから離れるように互いに連動連結されたカムーカムタイプのVベルト式変速装置であるところ、審決は、可動シェイブの背面側のボス部上にベアリングを設け、該ベアリングを介してカムを支持する前示周知技術による構成のみを引用例発明に適用するとしたものであって、周知例1、2記載のVベルト式変速装置のカムースプリングタイプの構成までを引用したものではなく、かかる周知技術を採用すること自体により、可動シェイブの傾倒モーメントによる変速操作時の可動シェイブの回転軸に対する摺動抵抗を軽減する効果を奏することは前示のとおりであるから、上記原告主張を採用することはできない。
したがって、相違点(2)についての審決の判断に原告主張の誤りはない。
2 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)
平成2年審判第20023号
審決
兵庫県神戸市兵庫区明和通3丁目2番15号
請求人 バンドー化学株式会社
大阪府大阪市西区靭本町1丁目4審8号 太平ビル 前田特許事務所
代理人弁理士 前田弘
昭和62年特許願第194110号「変速装置」拒絶査定に対する審判事件(平成6年6月22日出願公告、特公平6-48050)について、次のとおり審決する.
結論
本件審判の請求は、成り立たない.
理由
1. 手続の経緯、本願発明の要旨
本願は、昭和62年8月3日の出願(国内優先権主張昭和62年2月28日)であって、その発明の要旨は、出願公告された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の第1項及び第4項に記載されたとおりの「変速装置」にあるものと認められるところ、その第1項に記載された発明(以下「本願第1発明」という)は、次のとおりである。
「互いに平行に配置された1対の回転軸と、
該回転軸軸上にそれぞれ設けられ、各々、回転軸に一体にかつ軸方向に移動不能に固定支持された固定シェイブと、該固定シェイブとの間に断面略V字状のベルト溝を形成するように上記固定シェイブに対向して設けられているとともに背面側に軸方向に延びるボス部を有し、該ボス部にて回転軸に回転一体にかつ軸方向に移動可能に外嵌支持された可動シェイブとからなり、一方の可動シェイブの固定シェイブへの向きと他方の可動シェイブの固定シェイブへの向きとが互いに逆向きに設定された駆動及び従動プーリと、
上記駆動および従動プーリのベルト溝間に巻き掛けられたベルト部材と、
上記駆動および従動プーリの各可動シェイブ背面側にそれぞれ配置され、各々、互いにカム接触する第1カムと第2カムとからなり、上記第1および第2カムの一方が可動シェイブのボス部上にベアリングを介して軸方向に可動シェイブと共に移動一体にかつ相対回転可能に支持され、他方が回転軸に軸方向に移動不能にかつ回転軸に対して相対回転可能に設けられ、両カムの一方は回転軸回りに回動可能な回動カムとされる一方、他方は回動不能な固定カムとされ、上記回動カムと固定カムとの相対回転により可動シェイブを固定シェイブに対して接離させるように軸方向に移動させて上記各プーリの有効半径を変化させる駆動プーリ側および従動プーリ側カム機構と、
上記駆動および従動プーリの一方の可動シェイブが対向する固定シェイブに接近すると他方の可動シェイブが対向する固定シェイブから離れるように上記両カム機構の回動カムを互いに連動連結して回動させることで上記両回転軸間の変速比を変化させる変速切換機構と、
上記駆動および従動プーリ間に配置され、両プーリ間に巻き掛けられるベルト部材の緩み側スパンを該ベルト部材が各プーリのベルト溝に食い込むように押圧して、ベルト部材への推力を発生させるテンション機構と
を設けたことを特徴とする変速装置。」
2.引用例
これに対し、当審における特許異議申立人が提出した甲第2号証である実願昭56-51603号(実開昭57-164352号)のマイクロフィルム)(以下、第1引用例とする。)には、
「前記エンジン(17)の出力プーリ(18)にVベルト(19)を介してカウンタプーリ(20)を連動連結すると共に、該カウンタプーリ(20)にVベルト(21)を介して刈取部(9)の駆動ケース(22)に軸支(22a)する入力プーリである従動側プーリ(23)を連動連結させるように構成している。
第3図乃至第4図に示す如く、前記カウンタプーリである駆動側プーリ(20)のプーリ軸(24)は機体に連結する支持フレーム(25)にプラケット(26)及び筒ケース(27)を介して支持させている。
また、前記各プーリ(20)(23)は二つ割れの円錐板(28)(29)、(30)(31)を合体させ、該円錐板(28)(29)、(30)(31)の間隔を適宣変化させることによって、このプーリ(20)(23)径つまりベルト(21)の作用直径を変化させてその伝達回転速度を変速させるように構成している。前記プーリ(20)(23)の各内方側における円錐板(29)(31)のボス部(29a)(31a)にベアリング(32)(33)を介してカムケース(34)(35)を当接させるもので、これらケース(34)(35)の一側に形成するカム面(36)(37)を、前記ケース(22)(27)に固着させるカム座(38)(39)のカム面(40)(41)に当接支持させる」(第3頁第9行~第4頁第9行)と記載されており、この記載と図面の第3図乃至第5図の記載から、従動側プーリ(23)は軸に支持されており、この軸は、プーリ軸(24)と平行になっており、さらに駆動側プーリ(20)を支持するプーリ軸(24)も従動側プーリ(23)を支持する軸も、ともにベアリング(32)(33)で支持されていることから、ともに回転する軸であると認める。そして、図面の第3図及び第5図の記載からわかるように、軸端側の円錐板(28)(30)が軸に対して移動不能で、反対側の円錐板(29)(31)が軸に対して移動可能になっているものと認められる。また、「前記カムケース(34)(35)のアーム部(34a)(35a)を刈取変速レバー(42)に連結する変速軸(43)に変速ロッド(44)(45)を介して連動連結させ、前記レバー(42)操作でもってカムケース(34)(35)を回転させ、その接触カム面(36)(40)、(37)(41)の相対位置関係を変化させることによって、このプーリ(20)(23)のプーリ径を適宜変化させるように構成している。」(第4頁第9行~第15行)の記載から、カムケース(34)(35)のアーム部(34a)(35a)は、変速ロッド(44)(45)により変速軸(43)に連動連結されているものと認められる。また、「前記プーリ(20)(23)間の下段側ベルト(21)面に摺接させるテンションクラッチであるテンションローラ(46)を設けるもので、」(第5頁第7行~第9行)の記載及び「高速及び低速何れの変速状態にあってもこのテンションローラ(46)が略一定圧のもとでベルト(21)面に作用するように設けたものである。」(第6頁第6行~第8行)の記載から、Vベルト(21)には、テンションローラ(46)によりVベルト(21)への推力を発生するようになっているものと認められる。以上の点から、第1引用例には図面とともに以下の事項が記載きれているものと認められる。
「互いに平行に配置された1対の回転軸と、
該回転軸上にそれぞれ設けられ、各々、回転軸に軸方向に移動不能に固定支持された円錐板(28)(30)と、該円錐板(28)(30)との間に断面略V字状のベルト溝を形成するように上記円錐板(28)(30)に対向して設けられているとともに背面側に軸方向に延びるボス部(29a)(31a)を有し、該ボス部(29a)(31a)にて回転軸に軸方向に移動可能に外嵌支持された円錐板(29)(31)とからなり、一方の可動な円錐板(29)の固定されている円錐板(28)への向きと他方の可動な円錐板(31)の固定されている円錐板(30)への向きとが互いに逆向きに設定された駆動側プーリ(20)と従動側プーリ(23)と、
上記駆動側プーリ(20)及び従動側プーリ(23)のベルト溝間に巻き掛けられたVベルト(21)と、
上記駆動側プーリ(20)と従動側プーリ(23)の各可動な円錐板(29)(31)の背面側にそれぞれ配置され、各々、互いに当接するカムケース(34)(35)とカム座(38)(39)とからなり、カムケース(34)(35)を可動な円錐板(29)(31)のボス部(29a)(31a)にベアリング(32)(33)を介して当接させ、これにより、カムケース(34)(35)と可動な円錐板(29)(31)とが軸方向に移動一体にかつ相対回転可能に構成されており、カム座(38)(39)が回転軸に軸方向に移動不能にかつ回転軸に対して相対回転可能に支持され、カムケース(34)(35)が回動可能な回動カムとされる一方、カム座(38)(39)は回動不能な固定カムとされ、上記カムケース(34)(35)とカム座(38)(39)との相対回転により可動な円錐板(29)(31)を固定された円錐板(28)(30)に対して接離させるように軸方向に移動させて上記両プーリ(20)(23)の有効半径を変化させるものと、
上記駆動側プーリ(20)と従動側プーリ(23)の一方の可動な円錐板(29)(31)が対向する固定された円錐板(28)(30)に接近すると他方の可動な円錐板(31)(29)が対向する固定された円錐板(30)(28)から離れるように上記カムケース(34)(35)を互いに連動連結して回動させることで上記両回転軸間の変遠比を変化させる変速軸(43)及び変速ロッド(44)(45)と、
上記駆動側プーリ(20)及び従動側プーリ(23)間に配置され、両プーリ(20)(23)間に巻き掛けられるVベルト(21)を押圧して、Vベルトへの推力を発生させるテンションローラ(46)と
を設けた変速装置。」
3.対比
そこで、本願の特許請求の範囲第1項に記載の発明(本願第1発明)と第1引用例に記載された発明とを対比すると、第1引用例に記載された発明の「円錐板(28)(30)」、「円錐板(29)(31)」、「Vベルト(21)」、「カムケース(34)(35)」、「カム座(38)(39)」、「変速軸(43)及び変速ロッド(44)(45)」、「テンションローラ(46)」はそれぞれ、本願発明の「固定シェイブ」、「可動シェイブ」、「ベルト部材」、「第1カム」、「第2カム」、「変速切換機構」、「テンション機構」に相当するから、本願第1発明と第1引用例に記載された発明とは
「互いに平行に配置された1対の回転軸と、
該回転軸軸上にそれぞれ設けられ、各々、回転軸に軸方向に移動不能に固定支持された固定シェイブと、該固定シェイブとの間に断面略V字状のベルト溝を形成するように上記固定シェイブに対向して設けられているとともに背面側に軸方向に延びるボス部を有し、該ボス部にて回転軸に軸方向に移動可能に外嵌支持された可動シェイブとからなり、一方の可動シェイブの固定シェイブへの向きと他方の可動シェイブの固定シェイブへの向きとが互いに逆向きに設定された駆動及び従動プーリと、
上記駆動および従動プーリのベルト溝間に巻き掛けられたベルト部材と、
上記駆動および従動プーリの各可動シェイブ背面側にそれぞれ配置され、各々、互いにカム接触する第1カムと第2カムとからなり、上記第1および第2カムの一方が可動シェイブにベアリングを介して軸方向に可動シェイブと共に移動一体にかつ相対回転可能に支持され、他方が回転軸に軸方向に移動不能にかつ回転軸に対して相対回転可能に設けられ、両カムの一方は回転軸回りに回動可能な回動カムとされる一方、他方は回動不能な固定カムとされ、上記回動カムと固定カムとの相対回転により可動シェイブを固定シェイブに対して芸離させるように軸方向に移動させて上記各プーリの有効半径を変化させる駆動プーリ側および従動プーリ側カム機構と、
上記駆動および従動プーリの一方の可動シェイブが対向する固定シェイブに接近すると他方の可動シェイブが対向する固定シェイブから離れるように上記両カム機構の回動カムを互いに連動連結して回動させることで上記両回転軸間の変速比を変化させる変速切換機構と、
上記駆動および従動プーリ間に配置され、両プーリ間に巻き掛けられるベルト部材を該ベルト部材が各プーリのベルト溝に食い込むように押圧して、ベルト部材への推力を発生させるテンション機構と
を設けたことを特徴とする変速装置。」
である点で一致し、次の点で相違しているものと認められる。
(1)固定シェイブ、可動シェイブと回転軸との関係を、本願第1発明では、「回転一体」としているのに対し、第1引用例に記載された発明では円錐板(28)(29)(30)(31)と回転軸の関係について特に記載がない点。
(2)可動シェイブの背面側に設けられるベアリングの位置を、本願第1発明では「可動シェイブのボス部上」としているのに対し、第1引用例に記載された発明では円錐板(29)(31)のボス部(29a)(31a)に接するようにベアリング(32)(33)を配置している点。
(3)テンション機構がベルト部材を押圧する位置を、本願第1発明では「ベルト部材の緩み側スパン」としているのに対し、第1引用例に記載された発明では特に押圧位置を限定していない点。
4. 当審の判断
前記相違点について検討する。
相違点(1)について
V字状のベルト部材を用いた変速装置において、固定シェイブと可動シェイブを回転軸に対して回転一体に構成することは周知の技術(必要ならば、例えば、異議申立人の提出した甲第3号証の2(米国特許第3293929号明細書(1966年クラス74))、甲第3号証の4(米国特許第2631462号明細書(1953年クラス74))、甲第4号証の2(実開昭57-82240号公報)参照。)であったことからすると、第1引用例に記載された発明においても、その固定シェイブ、可動シェイブに相当する円錐板(28)(29)(30)(31)を回転軸に対して回転一体に構成することに格別の困難性を要するものとは認められない。
相違点(2)について
V字状のベルト部材を用いた変速装置において、可動シェイブの背面側に設けたボス部上にベアリングを設け、該ベアリングを介してカムを支持することは、この種の技術において周知の技術(必要ならば、例えば、異議申立人の提出した甲第4号証の2(実開昭57-82240号公報。)、第4号証の3(実開昭55-132544号公報)参照。)であることから、第-1引用例に記載された発明においても、ベアリング(32)(33)を可動シェイブである円錐板(29)(31)のボス部(29a)(31a)上に設けるようにすることに格別の困難性を有するものとは認められず、また、そうすることによる効果も、第1引馬例に記載された発明が有する効果と甲第4号証の2及び甲第4号証の3に記載された周知技術が有する効果との総和以上のものでもない。
相違点(3)について
ベルト部材を用いた伝動装置においてテンション機構でベルト部材を押圧する場合、ベルト部材の緩み側スパンを押圧するようにテンション機構を配置することは、慣用手段(必要ならば、例えば、異議申立人の提出した甲第5号証(特許庁公報59(1984)-29〔3725〕周知・慣用技術集(農業機械)(昭59-2-10)P.106。なお、P.106に記載されたものにおいて、駆動プーリから従動プーリに移行する側にテンションプーリ(本願第1発明のテンション機構に根当)が設けられている。)参照。)であることから、第1引用例に記載された発明においても、本願第1発明のテンション機構に相当するテンションローラ(46)を、Vベルト(21)の緩み側スパンに配置することは当業者にとって当然の選択であると認められる。
5. むすび
したがって、本願第1発明は、その出願前に日本国内において頒布された第1引用例に記載されたものに上記周知及び慣用技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
平成7年8月7日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)