東京高等裁判所 平成7年(行ケ)44号 判決 1998年12月24日
東京都豊島区南池袋1丁目16番18号
原告
株式会社エムアンドシーシステム
代表者代表取締役
橋本哲夫
訴訟代理人弁護士
沖信春彦
同
出縄正人
同
平石孝行
同弁理士
川崎仁
同弁護士
熊倉禎男
同
田中伸一郎
同
吉田和彦
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 伊佐山建志
指定代理人
山田洋一
同
吉村宅衛
同
内藤照雄
同
廣田米男
神奈川県川崎市中原区上小田中1015番地
補助参加人(被告)
富士通株式会社
代表者代表取締役
関澤義
訴訟代理人弁護士
水谷直樹
同弁理士
井桁貞一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
特許庁が平成2年審判第14845号事件について平成6年12月2日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和60年5月29日に発明の名称を「磁気カードの利用方法」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和60年特許願第116249号)をしたところ、平成2年6月27日に拒絶査定を受けたので、同年8月16日に拒絶査定不服の審判を請求し、同年審判第14845号事件として審理された結果、平成6年12月2日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受け、平成7年2月1日にその謄本の送達を受けた。
2 本願発明の特許請求の範囲
本願明細書に記載された特許請求の範囲は、次のとおりである(ただし、<1>ないし<9>の記号は、本願発明の構成を分節する便宜上付したものである。)。
<1> JIS規格に定められた磁気カードの記録領域に、磁気カードの所有者を特定する認識番号を記録するカード番号欄と、購入累計額に応じた累計ポイントを記録する累計ポイント欄とを設け、
<2> 磁気カードの前記記録領域に対し情報の書込みおよび読取りを行なう情報書込み読取り装置としての機能をPOS端末装置に持たせ、
<3> 商品を購入する際に、顧客が提示した磁気カードを前記情報書込読取装置に挿入し、
<4> 前記情報書込読取装置により、前記磁気カードのカード番号欄から認識番号を読取って前記カードの所有者を特定し、
<5> 前記情報書込読取装置により、前記磁気カードの累計ポイント欄から前回購入までの累計ポイントを読取り、
<6> 前記累計ポイントに今回購入額に応じたポイントを加算して今回購入までの累計ポイントを演算し、
<7> 前記情報書込読取装置により、前記磁気カードの累計ポイント欄に演算された今回購入までの累計ポイントを書込み、
<8> これとともに前記POS端末装置に接続された記憶手段に、少なくとも前記累計ポイントおよび今回の購入データを前記認識番号に関連させて記憶させることにより、
<9> 商品を購入する際に顧客が提示した磁気カードを利用して各顧客を識別しながら、この顧客の累計ポイントを更新することを特徴とする磁気カードの利用方法。
3 審決の理由の要点
(1) 本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。
(2) 引用例
特開昭55-47560号公報(昭和55年4月4日出願公開。以下「引用例1」という。)には、顧客用磁気カードの利用方法が記載されている。これを詳細にみると次のとおりの技術事項(以下「引用技術1」という。)が開示されている。
<1>’磁気カード100の記録領域に、磁気カードの所有者を特定する認識番号を記録する顧客コード番号磁気記録部102と、同一顧客の累計購入金額磁気記録部105とを設け、
<2>’磁気カードの前記記録領域に対し情報の書込み及び読取りを行う情報書込み読取り装置200が金銭登録機本体300に接続され、
<3>’商品を購入する際に、顧客が提示した磁気カードを前記情報書込読取装置200に挿入し、
<4>’金銭登録機本体300のキー操作によって前記情報書込読取装置200が磁気カード100の顧客コード番号磁気記録部102から認識番号を読み取って前記磁気カードの所有者を特定し、
<5>’前記情報書込読取装置200によって磁気カード100の累計購入金額磁気記録部105から前回購入までの累計購入金額を読取り、
<6>’金銭登録機本体300において、前記累計購入金額に今回の購入金額を加算して今回購入までの累計金額を演算し、
<7>’前記情報書込読取装置により、磁気カード100の累計購入金額磁気記録部105に演算された今回購入までの累計購入金額を書き込み、
<8>’金銭登録機本体300に接続されたデータ記録装置400に、前記累計購入金額を顧客コード番号に関連させて記憶しておき、
<9>’商品を購入する際に顧客が提示した磁気カードを利用して各顧客を識別しながら、この顧客の累計購入金額を更新することを特徴とする磁気カードの利用方法。
(3) 本願発明と引用技術1との対比と判断
(イ) <1>と<1>’の対比と判断
使用する磁気カードがJIS規格に定められたものであるか(本願発明の構成<1>)、規格上特定されたものでないか(引用技術1の構成<1>’)の差異が存するが、JIS規格の磁気カードというのは、周知慣用の磁気カードということであるから、このカードを単に使用するということは当業者が容易に想到することであって、格別の技術的意義のあることとはいえない。
また、累計購入金額の書込欄についてその金額に応じた累計ポイント欄とするか(本願発明の構成<1>)、その金額そのものの累計金額欄とするか(引用技術1の構成<1>’)の差異も存するが、特開昭59-27365号公報(以下「引用例2」という。)において、磁気カードの記録領域に累計購入金額に代えて累計ポイント欄を設けること(以下「引用技術2」という。)が示されている以上、累計金額欄とするか、累計ポイント欄とするかは当業者が適宜に決定すべき単なる選択的事項にすぎない。
(ロ) <2>と<2>’との対比と判断
本願発明の構成<2>が、情報書込読取装置をPOS端末装置の一部として把握しているのに対して、引用技術1の構成<2>’においては、情報書込読取装置が金銭登録機本体に接続されている点で相違するが、引用技術1における金銭登録機本体300とデータ記録装置400による一定期間の累計購入(売上)金額の管理とか、引用例1に「一定期間の同一顧客に対する総売上金額をデータ記録装置から呼び出してこれを中央処理センターの電子計算機に顧客毎に入力し、・・・電子計算機から情報を出力し、一定期間の総売上金額に応じて景品などを顧客に贈呈する。」(甲第7号証11欄及び12欄)と記載されていることを併せ考えると、引用技術1における情報書込読取装置200、金銭登録本体300、データ記録装置400及び中央処理センターの電子計算機等から構成されるものがPOS装置であるとすることができ、したがって、引用例1の情報書込読取装置200は、POS端末装置として機能するものであるとすることができるのであって、両者に実質的な差異はない。
(ハ) <3>及び<4>と<3>’及び<4>’の対比と判断
本願発明の構成<3>と引用技術1の構成<3>’、本願発明の構成<4>と引用技術1の構成<4>’とは、それぞれ一致している。
(ニ) <5>ないし<7>と<5>’ないし<7>’の対比と判断
累計ポイント(本願発明)と累計購入金額(引用技術1)の差異はあるが、これは、前記(イ)のとおり、単なる選択的事項にすぎない。
(ホ) <8>と<8>’の対比と判断
本願発明の構成<8>の「記憶手段」は、引用技術1の構成<8>’の「データ記録装置400」に相当するものであり、また、前記(ロ)のとおり、引用技術1の金銭登録機本体300をPOS端末装置として把握することができるのであるから、結局のところ、両者に実質的な差異はない。
(ヘ) <9>と<9>’の対比と判断
累計ポイント(本願発明の構成<9>)と累計購入金額(引用技術1の構成<9>’)の差異はあるが、これは、前記(イ)のとおり、単なる選択的事項にすぎない。
(4) むすび
したがって、本願発明は、引用技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
4 審決を取り消すべき事由
(1) 審決の理由についての認否
(イ) 審決の理由(1)は認める。
(ロ) 審決の理由(2)について
引用例1に、顧客用磁気カードの利用方法が記載されていることは認める。
引用技術1の構成<1>’は争う。磁気カード100の記録領域は、顧客コード番号磁気記録部102、有効期間磁気記録部104、登録、累計を行った年月日を記録する磁気記録部106と同一顧客の累計購入額磁気記録部105の場所の隔された4つの領域として設けられている。また、顧客コード番号磁気記録部に記録された顧客コード番号がカードの所有者を特定する認識番号である旨の記載はない。
引用技術1の構成<2>’は否認する。情報書込み読取り装置200は、情報の書込み及び読取りの両者を行うのは前記累計購入金額磁気記録部105のみで、顧客カード番号磁気記録部102及び有効期間の磁気記録部104等については読取りのみしか行わないものである。
引用技術1の構成<3>’ないし<9>’は認める。
(ハ) 審決の理由(3)について
同(3)(イ)のうち、引用例2に、磁気カードの記録領域に累計購入金額に代えて累計ポイント欄を設けることが示されていることは認め、その余は争う。
同(ロ)は認める。ただし、本願発明の構成<2>と引用技術1の構成<2>’の相違点は、審決が指摘するところにとどまらない。
同(ハ)のうち、本願発明の構成<3>と引用技術1の構成<3>’とが一致していることは認め、その余は争う。本願発明の構成<4>は、顧客を特定しているのに対し、引用技術1の構成<4>’には、そのような記載はない。
同(ニ)は争う。累計ポイントと累計購入額の差異は、単なる選択事項にすぎないものではなく、かつ、本願発明の構成<5>における累計ポイントの読み取りは、カード番号欄と同じ1個の磁気記録領域に設けられた累計ポイント欄に対してされるものであるのに対し、引用技術1の構成<5>’においては、顧客コード磁気記録部102とは場所的に隔された累計購入金額磁気記録部105についての読取りがされる。
同(ホ)は認める。
同(ヘ)は争う。
(ニ) 同(4)は争う。
(2) 審決は、次のとおり、違法であって、取り消されるべきである。
(イ) 取消事由1
ⅰ 相違点の看過
審決は、本願発明の構成<1>と引用技術1の構成<1>’との対比において、後者が、磁気カードの記録領域を別個独立に複数個設けているのに対して、前者は、磁気カードに定まった1つの記録領域のみを有するものとしていて構成を異にしていることを看過している。
すなわち、本願発明の構成<1>と引用技術1の構成<1>’とを対比すると、引用技術1の構成<1>’においては、磁気カード100は磁気記録領域を顧客コード番号磁気記録部102と同一顧客の累計購入額の記録部105との場所の隔された2つの領域として設けている点において、JIS規格に基づきカードの表ないし裏の上部の定まった1つの領域に磁気ストライプよりなる磁気記録領域を有し、そこに磁気カードの所有者を特定するカード番号欄と購入累計額に応じた累計ポイントを記録する累計ポイント欄を設けている本願発明にかかる磁気カードとは、後記の累計ポイント欄と累計購入額との差異を考慮の外におくとしても、明らかにその構成を異にしている。
ところが、審決は、この点を看過したものである。
ⅱ 進歩性の判断の誤り
審決は、JIS規格の磁気カードは周知慣用のものであるとの理由で、本願発明に上記磁気カードを単に使用することは当業者が容易に想到することであって、格別の技術的意義のあることとはいえないと誤った判断をしている。
すなわち、本願発明及び引用技術1において磁気に記録されるべきものとされる磁気カードの所有者を特定、認識するカード番号ないし顧客コード番号と累計購入額ないし累計ポイントとは、前者(カード番号ないし顧客コード番号)は、磁気カードが何であるかを示すいわばカードの氏名ともいうべきものであり、それが使用される間は永久的に決して変更あるいは消去されてはならないものである(以下「固定情報」という。)のに対して、後者(累計購入額ないし累計ポイント)は、顧客が商品を購入する度に新たな情報に書き換えられなければならないものである(以下「可変情報」という。)点で全く別の意義を有している。ところで、本願発明の出願時、更に現在においても、通常用いられているいわゆるリードライターの構成においては、磁気ストライプの1つの磁気記録領域に記録された情報を書き換える場合、可変情報が記録された情報の一部であっても、記録された情報の全体を全く置き換えるという方法によってされる。この置換え作業がPOS等において素早く人為的になす場合、固定情報について誤って変更ないし消去される危険性が常に存し、また、不正な書などの恐れも存在する。そのため、POS等において用いられる磁気カードにおいては、一般的に、固定情報が記録された磁気記録領域には、可変情報を合わせて記録すべきでないと考えられていた。そして、引用技術1は、正にこの技術的思想に沿うものとして、わざわざJIS規格とは異なって、固定情報である顧客認識コードを記録する磁気記録領域と、可変情報である累計購入額を記録する磁気記録領域を別個の2つの領域として設けているのである。
引用技術1は、上記のとおりの技術的思想に基づき、わざわざJIS規格とは異なる磁気記録領域の構成を採っているのであるから、引用技術1から、当業者が本願発明の磁気ストライプよりなる1個の磁気記録領域に顧客認識コードと累計購入額を記録することを想到するはずがない。
被告は、JIS規格が単一の磁気ストライプを形成する構成を前提としている以上、固定情報であれ、可変情報であれ、記録すべき領域に関して他に選択肢がないのであるから、単一の磁気ストライプ上に記録することは必然の帰結にすぎない旨主張するが、引用技術1を見た当業者は、JIS規格に沿わなくてはならないとの課題が与えられているのではなく、逆に引用技術1はJIS規格に従うことはできない旨の技術的思想に基づくものであるから、被告の主張は根拠がない。
また、被告は、乙第3号証ないし第11号証に基づき、補助参加人は、丙第7号証ないし第10号証に基づき、変更されてはならない固定情報と使用の度に変更書換える可変情報を単一の磁気ストライプに記録することが、本出願当時周知の技術であった旨主張する。
しかしながら、本願発明において問題とされている磁気カードの使用は、POSに関するものであり、固定及び可変情報が1個の磁気ストライプに記録された場合の不都合は、POS等人為的に素早くデータの書換え処理がされる場合において顕著であるところ、乙第3号証ないし第5号証及び第7号証並びに丙第7及び第8号証は、そもそもこのような場合において使用されるものではなく、POSでの使用に係る本願発明及び引用技術1について、何ら参考にならないものである。更に、丙第9号証については、補助参加人の説明自体が証拠に基づかないものといわざるをえない。また、乙第6号証についても本願発明の進歩性に影響を与えるものではない。その余の証拠によっても、POS等で用いられる場合において上記の点が周知であるなどいうことはできない。したがって、被告及び補助参加人の上記主張は根拠がない。
ⅲ 顕著な作用効果の看過
審決は、本願発明においては、JIS規格に規定された表ないし裏に磁気ストライプよりなるカード番号及び累計ポイントを記載する1個の磁気記録領域を有するという構成により、引用技術1にはない顕著な作用効果を有するのに、これを看過している。
すなわち、本願発明にかかる磁気カードは、JIS規格に定められたものであるから、いわゆる汎用性があるクレジットカードとしても使用することができるものである。そして、このJIS規格に定められたカードは通常のものであり、容易に、かつ、安価に調達することができ、また、その情報書込み読取り装置も通常のクレジットカードの固定情報であるカード番号等を入力する装置であるエンコーダを転用できるために、きわめて経済的である。したがって、規模の大小を問わず多くの小売業に本願発明を含むシステムの導入が可能である。このクレジットカードとしての機能を持たせることは、顧客に対し、本願発明に係る磁気カードを所持するように勧誘する場合にきわめて有利であり、ひいては、小売業などにとって、より多くの顧客を獲得することができる。1枚のカードでありながら、現金購入に際してだけでなく、クレジット購入の際においても対応でき、累計ポイントを書き込むことができ、したがって、同カードにより全顧客の固定化及び情報活用が可能となるのである。
このように、引用技術1にはないJIS規格に規定された表ないし裏に磁気ストライプよりなる一個の磁気記録領域を有するカードにおいて、同領域にカート番号及び累計ポイントを記録させるという本願発明の構成は、引用技術1にない顕著な作用効果を有するものであり、引用技術1から容易に想到しうるものではない。
(ロ) 取消事由2
審決は、本願発明と引用技術1における磁気カードへの記録に関し、本願発明においては、磁気カードに累計ポイントを記録するという構成をとっているのに対し、引用技術1においては、磁気カードに累計金額を記録するという構成をとっており、構成を異にしているにもかかわらず、累計金額欄とするか、累計ポイント欄とするかは当業者が適宜決定すべき単なる選択的事項にすぎないと誤った認定をしている。
審決は、上記のように認定するに際し、引用例2において磁気カードの記録領域に累計ポイント欄を設けることが示されている旨を指摘している。しかしながら、引用技術2は、顧客を特定するような磁気記録を有せず顧客についての情報収集を目的としないポイント表示だけを目的としたいわば使捨てカードで、引用技術1とはカードとしてのレベルが異なるから、そこに示されたものをそのまま引用技術1に適用するには論理の飛躍がある。
そもそも、販売時点において購入額そのものではなく、それに応じたポイントを磁気カードに記録するというのは、1個の工夫である。しかも、購入額を記録するものの場合、販売店において、例えば、カード会員を募集するとき加入プレゼントとして予め磁気カードに200ポイントを入れておき、顧客によるカードの保持の促進策を採ろうとしても、累計購入金額としての整合性を損なうためにできないなどという欠点があるのに対し、本願発明においては、累計ポイントによることで、これらの欠点をすべて克服することができる。
したがって、本願発明のような構成の磁気カードにおいて、累計ポイントを磁気が記録するということは、引用例1及び2記載の技術事項からは当業者が容易に想到しうる事項ではない。
第3 請求の原因に対する認否及び被告らの主張
1 請求の原因1ないし3は認め、同4は争う。審決の判断は、正当であって、取り消されるべき事由はない。
2 被告の主張
(1) 取消事由1について
(イ) 相違点の看過について
磁気カードにおいて、単一の磁気ストライプを形成することは、乙第1号証のJIS規格において「7.磁気ストライプの位置と寸法」に規定された事項にすぎず、当該JIS規格の磁気カードを採用することは、このような磁気ストライプの位置と寸法に関する規定を採用することにほかならない。そして、このJIS規格の磁気カードは、本件出願当時既に周知となっているものであるから、単にJIS規格の磁気カードを使用すると規定することに何事格別の技術的意義を認めることはできない。
(ロ) 進歩性の判断の誤りについて
原告は、磁気ストライプの1つの磁気記録領域に記録された情報を書き換える場合にこの書換え作業がPOS等において素早く人為的になす場合、固定情報について誤って変更ないし消去される危険性が常に存し、また、不正な書換えなどの恐れも存在する旨主張するが、本願明細書には、その危険性や恐れについて何の言及もない。また、原告は、引用技術1は、正にこの技術的思想に沿うものとして、わざわざJIS規格とは異なって、固定情報である顧客認識コードを記録する磁気記録領域と、可変情報である累計購入額を記録する磁気記録領域を別個の2つの領域として設けている旨主張するが、単に原告の推測であって、何の根拠もないものである。
JIS規格(乙第1号証)として単一の磁気ストライプを形成する構成が規定されている以上、固定情報であれ、可変情報であれ、記録すべき領域に関して他に選択肢がないのであるから、前記単一の磁気ストライプ上に記録することは必然の帰結にすぎず、何ら格別の構成ではなく、本出願当時、固定情報と可変情報とを1つの磁気ストライプに記録し、そのうち可変情報のみを書き換えるということは、周知の技術手段にすぎない。
したがって、固定情報と可変情報の両者を記録する場合に、JIS規格の磁気カードとして単一の磁気ストライプしか持たないものを採用することは、本出願当時の技術水準からして何ら困難な点はなかったものである。
(ハ) 顕著な作用効果の看過について
原告は、本願発明の作用効果として、要するに、汎用性がある、容易に、かつ、安価に調達できること等を挙げているが、これらの効果は、JIS規格として標準化された磁気カードを用いることによって通常期待される程度のことにすぎない。
原告は、JIS規格にいう狭義のクレジットカード、すなわち、当該カードの保持者が、物品、サービス等の購買に際して、当該カード発行組織体の会員であることを証明するとともに、後日の代金決済のために、当該取引行為(売買行為)の処理を行うのに必要なデータを得るために利用されるカードに使用されうるものであることを前提として、主張を展開しているが、本願発明の特許請求の範囲をそのように限定的に解釈すべき理由はなく、本願発明においては、一般に用いられているJIS規格の磁気カードを選択したというにすぎない。
(2) 取消事由2について
引用例1及び2記載の技術事項は、いずれも同一顧客に対する一定期間の売上げ実績に応じて景品などを贈呈することを目的としていることは明らかであり、上記売上げ実績として総売上金額とするか、あるいは引用例2記載の技術事項のように累計ポイントを記録するかは、当業者が適宜に決定すべき単なる選択的事項にすぎない。
また、原告が、累計ポイントを採用したことによる効果と主張するものは、引用例2記載の技術事項の累計ポイントを採用することにより当然予測しうる効果にすぎない。
3 補助参加人の主張(進歩性の判断の誤りについて)
原告は、磁気カード上の1か所のみの磁気記録部分に、固定情報と可変情報を誤って変更ないし消去される危険性なしに共に記録することは、本出願当時不可能であったと主張しながら、これを解決したとする本願発明において、いかなる方法によってこれを可能にしたのかを何ら開示していないから、原告の本願発明が進歩性を具備しているという主張は、根拠のない主張にすぎない。
そもそも、本願発明の出願当時において、磁気カード上の1か所の磁気記録部分に固定情報と可変情報を共に記録することは、ごく当たり前の周知技術であった。このことは、乙第3ないし11号証、丙第7ないし10号証からも明らかである。これに対して、原告は、上記各証拠はPOSに関するものでないものが含まれており、POSにおいては、人為的に素早くデータの書き換え処理がなされるものであるから、上記証拠は、本願発明を評価する際には何ら参考にならないと主張するが、ここで問題となるのは、磁気カード上の1か所の磁気記録部分に固定情報と可変情報を共に記録することが、本出願当時において周知であったか否かなのであるから、POS端末においても、それ以外の端末においても、技術的な観点から検討した場合には、何ら相違するところはない。したがって、原告の上記主張も理由がないものである。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の特許請求の範囲)、同3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。
第2 本願考案の概要
甲第3号証、甲第4号証及び甲第6号証によれば、本願明細書には、次の記載があることが認められる。
1 産業上の利用分野
「本発明は情報の記録が可能な記録領域を有する磁気カードの利用方法に関する。」(甲第3号証2頁12行及び13行)
2 解決しようとする課題
「従来の磁気カードの利用方法では、磁気カードをクレジット購入客以外の全ての顧客に所有させることができず、しかも磁気カードを所有している顧客の全情報を把握することができないという問題があった。また、サービス点数券を貼付する台紙の代わりに用いる磁気カードの利用方法では、顧客の固定化には効果があるものの、磁気カードにより来店する顧客を識別できないため、せっかく来店した顧客の情報を収集できないという問題があった。
本発明は上記事情を考慮してなされたもので、クレジット購入又は現金購入の全ての顧客に所有させて商品の購入時に必ず使用させることができ、しかも顧客を継続的に来店させるのに有効な磁気カードの利用方法を提供することを目的とする。」(同5頁16行ないし6頁11行)
3 構成
本願発明は、上記目的を達成するために、前記特許請求の範囲記載の構成を採用したものである。(甲第6号証2頁5行ないし25行)
4 作用
「本発明のように磁気カードを利用すれば、今回購入までの累計ポイントを正しく知ることができ、顧客が商品を購入した際に受取るレシートに今回購入による今回ポイントと共に今回購入までの累計ポイントを直ちに表示することができる。したがって、顧客は商品購入時に受領するレシートを見れば、即座に今回ポイントと累計ポイントを認識でき、いちいちブルーチップなどの切手状印刷物を受取って台紙に貼付するなどの手間がかからない。このため特定の店で再び商品を購入しようという気持ちになり、顧客の固定化及び非流動化を図ることができる。そして、ポイントのサービスを享受するためには商品購入の度に顧客は磁気カードを呈示する必要があり、しかも、本発明による磁気カードの利用方法によれば、顧客が磁気カードを使用すれば識別情報により使用した顧客を確実に特定できるので、固定化及び非流動化された顧客の商品購入動向などの顧客情報を確実に把握することが可能になり、販売促進のための方策がとりやすくなる。
更に、磁気カードに記憶された累計ポイント等が、コンピュータ等で構成される記憶手段にも記憶されるので、仮に、磁気カードを紛失したとしても、この記憶手段の記憶データにより、必要な事項を全て含んだ磁気カードを再発行してもらうことができるので、顧客は、上記ポイントのサービスを完全に享受できる。」(甲第3号証7頁14行ないし8頁14行、甲第4号証1頁20行ないし2頁7行)
5 効果
「以上の通り本発明によれば、クレジット購入又は現金購入の全ての顧客に所有させて商品の購入時に必ず使用させることができ、しかも顧客を継続的に来店させる動機付けを与えることができる。」(甲第3号証13頁18行ないし14頁2行)
第3 審決を取り消すべき事由について判断する。
1 甲第7号証及び弁論の全趣旨によれば、引用例1には、審決が<1>’ないし<9>’に分節して摘示したとおりの技術事項が記載されていることが認められる。
原告は、<2>’について、情報書込み読取り装置200は、情報の書込み及び読取りの両者を行うのは前記累計購入金額磁気記録部105のみで、顧客カード番号磁気記録部102及び有効期間の磁気記録部104等については読取りのみしか行わない旨主張するが、原告主張のとおりであるとしても、情報書込み読取り装置200を構成する累計購入金額磁気記録部105において、情報の書込み及び読取りの両者を行っているのであるから、読取りのみしか行わない部分があるとしても、情報書込み読取り装置200が情報の書込み及び読取りを行うという認定を妨げるものではなく、原告の上記主張は失当である。
2 取消事由1について
(1) 相違点の看過について
(イ) 本願発明の構成<1>と引用技術1の構成<1>’とを対比すると、第1に、前者において、使用する磁気カードがJIS規格に定められたものであるのに対して、後者においては、規格上特定されたものでないとの点で相違していること、第2に、前者においては、累計購入金額の書込欄についてその金額に応じた累計ポイント欄としているのに対して、後者においては、その金額そのものの累計金額欄としている点で相違していることが認められる。
(ロ) ところで、原告は、審決は、本願発明の構成<1>と引用1技術1の構成<1>’との対比において、後者が、磁気カードの記録領域を別個独立に複数個設けているのに対して、前者は、磁気カードに定まった1つの記録領域のみを有するものとしていて構成を異にしていることを看過している旨主張する。
しかしながら、後記認定のとおり、本願発明が、磁気カードに定まった1つの記録領域のみを有する構成であるということは、本願発明の構成<1>にいうJIS規格に定められた磁気カードの技術的意義に含まれているものであって、これについて、審決は、本願発明においては、使用する磁気カードがJIS規格に定められたものであるのに対して、引用技術1においては、規格上特定されたものでないとの点で相違していることを指摘しているのであるから、審決が、引用例1の構成について記録領域が別個独立に複数個設けることを看過しているとの原告の主張は、理由がない。
(2) 進歩性の判断の誤りについて
(イ) まず、本願発明にいう「JIS規格に定められた磁気カードの記憶領域」の技術的意義について検討する。
本願明細書の特許請求の範囲には、「JIS規格に定められた磁気カードの記憶領域」との記載があるのみである。本願明細書の発明の詳細な説明によってもそれ以上のことは必ずしも明らかではない。
そこで、JIS規格によって、そこに定められた磁気カードの記憶領域の技術的意義についてみるに、乙第1号証(昭和54年12月1日日本工業標準調査会制定のJIS(日本工業規格)B9560-1979)によれば、磁気ストライプ付きクレジットカードに関する規格中、適用範囲について「この規格はクレジットカードのうち、磁気ストライプを備えるもの(以下、磁気カード、特に混同を生じなければ単にカードという。)について規定する。」との記載、用語の意味について「この規格で用いられる主な用語の意味は、次のとおりとする。(1)クレジットカード 会計上の処理に際して個人又は団体を識別し、その処理のために必要な情報を与える目的で使用されるカード。」(1頁4行ないし8行)との記載、種類について「磁気カードは磁気ストライプの位置と寸法とによって、Ⅰ型とⅡ型の2種類とする(図4及び5参照)」(1頁24行)との記載があり、また、図4にはⅠ型カードの磁気ストライプの位置、図5にはⅡ型カードの磁気ストライプの位置が記載されており、これらの図によれば、磁気カードの長手方向に延びる1本の磁気ストライプが記載されていることが認められる。
なお、JIS規格が、工業標準化法によって制定された鉱工業品の規格であることは、当裁判所に顕著な事実であって、上記磁気ストライプ付きクレジットカードに関する規格の内容は、当業者にとって周知の事項であるというべきである。
そうすると、JIS規格による磁気カードに1本の磁気ストライプを設けられていることは、本出願当時周知の事実であるから、本願明細書の特許請求の範囲にいう「JIS規格に定められた磁気カードの記憶領域」とは、JIS規格に基づきカードの表ないし裏の上部の定まった1つの領域に磁気ストライプよりなる磁気記録領域を有するものを意味するものと認めるのが相当である。
(ロ) 前記認定の事実によれば、本願発明は、JIS規格に基づきカードの表ないし裏の上部の定まった1つの領域に磁気ストライプよりなる磁気記録領域を有するという点で、引用技術1と相違しているものであるが、上記のJIS規格に基づきカードの表ないし裏の上部の定まった1つの領域に磁気ストライプよりなる磁気記録領域を有するということは、上記認定のとおり、当業者にとって周知の事項であるから、引用技術1の記録領域として周知のJIS規格に定められた記録領域にすることは、当業者がごく容易に想到しうる程度のことにすぎないものというべきである。
(ハ) 原告は、引用技術1は、わざわざJIS規格とは異なる磁気記録領域の構成を採っているのであるから、引用技術1から、当業者が本願発明の磁気ストライプよりなる1個の磁気記録領域に顧客認識コードと累計購入額を記録することを想到するはずがない旨主張する。
しかしながら、引用例1の全体を精査しても、原告主張の技術的思想を有することを示唆するような記載はないのであって、原告の上記主張は、その前提を欠くものである。
そのうえ、乙第3号証(特開昭58-185063号公報)によれば、「磁気カードAには、第3図に示すようにカード走行方向に沿って磁気情報部Bが設けてあるが、この磁気情報部Bのうち先端部A1から半分長の部分には、コード番号などの固定情報部B1が形成され、残りの半分長の部分には、通話残度数などの可変情報部B2が形成されている。」(2頁右上欄4行ないし9行)との記載があって、同記載によれば、同号証に係る磁気カードは、同一の磁気ストライプに固定情報と可変情報を記録したものであることが認められ、その他乙第4号証ないし乙第8号証をも併せ考えると、固定情報と、新たな情報に更新される可変情報とを1つの磁気ストライプに記録すること及び1つの磁気ストライプに記録された固定情報と可変情報のうち、可変情報のみを書き換えることは、いずれも本出願時において周知の事実であると認められる。
したがって、引用例1において別個に設けられた記録領域を、本願発明においては1つの記録領域とし、固定情報と更新可能な可変情報とに分けるようにすることは、周知のJIS規格の磁気カードを採用することにより当業者がごく容易に想到しうることにすぎないものであって、原告の上記主張は、採用することができない。
(ニ) また、原告は、本願発明において問題とされている磁気カードの使用は、POSに関するものであり、固定及び可変情報が1個の磁気ストライプに記録された場合の不都合は、POS等人為的に素早くデータの書換え処理がされる場合において顕著であるところ、被告及び補助参加人が提出する書証は何ら参考にならない旨主張する。
しかしながら、丙第9号証(財団法人流通システム開発センター昭和53年3月作成の「POSシステムに関する調査研究報告書(Ⅱ)」)及び丙第10号証(日刊工業新聞社1975年(昭和50年)10月1日発行の「事務管理」10月号)によれば、POSシステムにおいて磁気カードを使用する技術は、本願発明の特許出願当時、周知のものであったことが認められるのであるから、周知のPOSシステムにおいて、周知の磁気カードの陣用を想定することは、当業者において何の困難もないものというべきであって、原告の上記主張も採用することができない。
(ホ) そうすると、JIS規格の磁気カードは周知慣用のものであり、本願発明に上記磁気カードを単に使用することは当業者が容易に想到することであって格別の技術的意義のあるとはいえないとした審決の判断は、正当である。
(3) 顕著な作用効果の看過について
(イ) 原告は、本願発明には、前記引用技術1にはないJIS規格に規定された表ないし裏に磁気ストライプよりなるカード番号及び累計ポイントを記載する1個の磁気記録領域を有するカードという構成により、引用技術1にはない顕著な作用効果を有するのに、審決はこれを看過している旨主張する。
(ロ) 本願明細書によれば、本願発明の作用効果は、前記第2の4及び5に認定したとおりであることが認められるところ、上記作用効果は、周知のJIS規格の磁気カードを用いることによって通常期待される程度のものであって、顕著な作用効果を奏するものということはできない。
(ハ) 原告は、本願発明にかかる磁気カードは、JIS規格に定められたものであるから、いわゆる汎用性があるクレジットカードとしても使用することができるものである、また、このJIS規格に定められたカードは通常のものであり、容易に、かつ、安価に調達することができ、また、その情報書込み読取り装置も通常のクレジットカードの固定情報であるカード番号等を入力する装置であるエンコーダを転用できるために、きわめて経済的であり、規模の大小を問わず多くの小売業に本願発明を含むシステムの導入が可能である旨主張するが、いずれも、周知のJIS規格の磁気カードを用いることによって当然に奏する効果であるにすぎない。
また、原告は、このクレジットカードとしての機能を持たせることは、顧客に対し、本願発明に係る磁気カードを所持するように勧誘する場合にきわめて有利であり、ひいては、小売業などにとって、より多くの顧客を獲得でき、また、1枚のカードでありながら、現金購入に際してだけでなく、クレジット購入の際においても対応でき、累計ポイントを書き込むことができるので、同カードにより全顧客の固定化及び情報活用が可能となる旨主張するが、JIS規格により定められた磁気カードが、クレジットカードの機能を包含することによって生じる作用効果であって、当業者が容易に想到しうるものである。
(ニ) 以上によれば、審決が本願発明の奏する顕著な作用効果を看過した旨の原告の主張は、採用することができない。
3 取消事由2について
(1) 原告は、審決は、本願発明においては、磁気カードに累計ポイントを記録するという構成をとっているのに対し、引用技術1においては、磁気カードに累計金額を記録するという構成をとっており、構成を異にしているにもかかわらず、累計金額欄とするか、累計ポイント欄とするかは当業者が適宜決定すべき単なる選択的事項にすぎないと誤った判断をした旨主張するので、検討する。
甲第8号証(引用例2)に、磁気カードの記録領域に累計購入金額に代えて累計ポイント欄を設けること(引用技術2)が示されていることは、原告も認めるところである。そうすると、当業者が、磁気カードの記録領域に累計購入金額に代えて累計ポイント欄を設けることを選択するのに何の困難のないのであって、累計金額欄とするか、累計ポイント欄とするかは当業者が適宜決定すべき単なる選択的事項にすぎないとした審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は、引用例2において磁気カードの記録領域に累計ポイント欄を設けることが示されていたとしても、引用技術2は、顧客を特定するような磁気記録を有せず顧客情報の収集を目的としないポイント表示だけを目的としたいわば使い捨てカードで、引用技術1とはカードとしてのレベルが異なると主張する。
しかしながら、審決は、引用例2から、引用技術1に含まれていない、累計金額欄に変えて累計ポイント欄を設けるという技術を引用しているのであって、引用例2から顧客を特定するような磁気記録の技術や顧客情報の収集を目的とする技術を引用しているのではないから、原告の主張は失当というほかない。
また、甲第7号証(引用例1)には、「この発明は、客が得意先に対してサービス(同一顧客に対する一定期間の総売上金額に応じて景品などを贈呈)を行うためになされる登録事務を能率的に処理するようにたし電子式金銭登録機に関するものである。(2頁左上欄9行ないし13行)との記載があり、甲第8号証(引用例2)には、「商店に来る顧客にそれぞれ磁気ストライプの付着させてある顧客カードを持たせ、磁気ストライプに過去の販売実績を記録させておき、次回の販売時に利用させることができるとともに、顧客に販売金額に対応したサービスを与えることができる販売情報管理装置を提供するものである。」(1頁右下欄18行ないし2頁左上欄4行)との記載があることが認められ、上記事実によれば、引用技術1と引用例2記載の技術は、いずれも顧客への販売金額に応じたサービスを行うために磁気カードを利用するというものであって、磁気カードの利用目的の点で技術的意義を共通にしているものである。したがって、引用例2記載の技術の磁気カードが引用技術1のそれとはカードとしてのレベルが異なるとの原告の主張は失当である。
(3) また、原告は、販売時点において購入額そのものではなく、それに応じたポイントを磁気カードに記録するというのは、1個の工夫であり、しかも、購入額を記録するものの場合、販売店において、例えば、カード会員を募集するとき加入プレゼントとして予め磁気カードに200ポイントを入れておき、顧客によるカードの保持の促進策を採ろうとしても、累計購入金額としての整合性を損なうためにできないなどという欠点があるのに対し、本願発明においては、累計ポイントによることで、これらの欠点をすべて克服することができる旨主張するが、前記(1)の認定判断のとおり、累計金額欄とするか、累計ポイント欄とするかは当業者が適宜決定すべき単なる選択的事項にすぎないのであり、また、累計金額とした場合の欠点が累計ポイントとすることによって克服されるとの点も、累計購入金額に換え、引用例2に記載された累計ポイントを採用することによって、当業者が容易に予測しうるものであるから、原告の上記主張は、採用することができない。
4 以上によれば、原告の主張する審決を取り消すべき事由は、いずれも理由がなく、本願発明について特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした審決の認定判断は、正当であって、これを取り消すべき理由はない。
第4 よって、原告の本訴請求は、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成10年12月15日)
(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)