東京高等裁判所 平成7年(行ケ)97号 判決 1996年10月09日
岐阜県大垣市鶴見町69番地
原告
東興産業株式会社
代表者代表取締役
高木保明
訴訟代理人弁理士
西山聞一
東京都千代田区霞が関三丁目4番3号
被告
特許庁長官 荒井寿光
指定代理人
渡邉順之
同
花岡明子
同
伊藤三男
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成4年審判第13459号事件について、平成7年2月1日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和63年8月10日、名称を「インサートブッシュ」とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願をした(実願昭63-105503号)が、平成4年7月7日に拒絶査定を受けたので、同年同月14日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成4年審判第13459号事件として審理したうえ、平成7年2月1日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年3月9日、原告に送達された。
2 本願考案の要旨
コンクリート製品の埋設箇所の肉厚に全長を同寸としたインサートブッシュにおいて、合成樹脂製の略中空円筒状を成すインサートブッシュの前方外周面に適宜数の抜止突片を周囲に突設したフランジを突出形成すると共に、インサートブッシュの後端に底面蓋を離脱自在に設けたことを特徴とするインサートブッシュ。
3 審決の理由の要点
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願考案は、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭63-8191号公報(以下「引用例」という。)に記載された考案(以下「引用例考案」という。)に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものと認められるので、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本願考案の要旨及び引用例の記載事項の認定は認める。
審決は、本願考案と引用例考案の一致点、相違点を認定するに当たり、引用例考案の技術内容を誤認した結果、相違点を看過して、一致点の認定を誤り、この看過した技術内容の相違に基づく作用効果の差異をも看過したため、本願考案の進歩性の判断を誤ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
1 審決は、「引用例における係止具本体にキャップ部材を装着合体形成した係止具は、本願考案でいうところのインサートブッシュに相当する」(審決書4頁3~5行)としたうえ、「インサートブッシュの後端に底面蓋を離脱自在に設けたものである点でも一致している」(同4頁14~16行)と認定しているが、以下に述べるとおり、誤りである。
本願考案は、コンクリート製品の埋設箇所の肉厚に全長を同寸とした、一体型の合成樹脂製の略中空円筒状のインサートブッシュであるのに対し、引用例考案は、ほぼ円筒状をなす係止具本体とこれに交換可能に装着されるキャップ部材とから構成される、二体型のものであるから、両者の構成は明らかに相違する。
しかるに、審決は、引用例考案が係止具本体とキャップ部材からなる二体型のものであることの技術内容を正しく把握せず、単に本願考案のインサートブッシュに相当するとした。
2 この構成の相違から、両者の作用効果が異なることも明らかである。すなわち、本願考案においては、インサートブッシュを上記一体型に形成したうえ、「適宜数の抜止突片を周囲に突設したフランジを突出形成」し、しかも「底面蓋を離脱自在に設け」ているから、例えば、コンクリート製品にインサートブッシュを埋設した後、製品を吊り下げた状態で底面蓋を離脱させる場合にも、製品の内側面に露出する底面蓋を、製品の外側面から棒体で押圧しても、底面蓋を離脱させることができ、インサートブッシュは抜け出たり、ずれたりすることはない。
これに対し、引用例考案においては、係止具本体とキャップ部材によって構成しているから、閉塞端面を開口するときは、コンクリート製品の内側面からしか開口できない。そして、キャップ部材自体には、係止具本体に備えられるような移動防止用フィンが設けられていないので、キャップ部材の閉塞端面を開口するとき、回動、ずれ等を起こして移動したり、キャップ部材自体がコンクリート製品から抜け出てしまうという欠点を拭い切れないのである。
被告は、本願考案が上記一体型のものである点は、考案の要旨に基づかない主張であるというが、本願実用新案登録請求の範囲には、インサートブッシュにつき、「コンクリート製品の埋設箇所の肉厚に全長を同寸とする」との記載があり、図面第2図には、インサートブッシュが一体であることを示す描写がされているから、本願考案が一体型のものであることは明らかである。
3 このように、本願考案と引用例考案とは、構成及び作用効果において明らかに相違するのに、審決は、引用例考案の技術内容を誤認した結果、これらの相違点を看過したため、本願考案の進歩性の判断を誤ったものである。
第4 被告の反論の要点
1 本願考案の要旨には、本願考案のインサートブッシュが一体成形されたものに限られる旨の限定はないし、本願明細書の考案の詳細な説明にも、一体成形されたものに限られることを示すような記載は存在しない。
インサートブッシュは、施工後、完成製品から抜け出たり、ずれたりしないことが期待されているのであり、そのためには、施工時に一体のものとなっていれば足り、そのものが一体成形されたものであることを必要としない。
事実、本願明細書(甲第2号証)にも、「インサートブツシュ1の底面と成す底面蓋5は溶着せしめたものに限らず、開口部8を有し、底面蓋5を一体成形せしめたインサートブツシュ1の底面蓋5の円周を切欠することにより、円錐台条に形成しインサートブツシュ1の大径円周部6より離脱自在と成る様にしても良い」(同号証4欄1~6行)とあるように、むしろ一体成形に限られないことを窺わせる記載が存在する。
以上のとおり、本願考案が一体成形したものであるとの原告の主張は本願明細書の記載に基づかないものであるから、二体型の引用例考案との間に相違はなく、審決の一致点の認定に誤りはない。
2 原告は、本願考案と引用例考案の上記構成の相違から、両者の作用効果が異なることも明らかであると主張する。
しかし、引用例考案においては、引用例(甲第3号証)に記載されているとおり、「コンクリート製品Cの横吊り時に、係止具本体1には4個の移動防止用フィン5を形成したため、・・・係止具本体1がコンクリート製品C内において回動、ずれ等の理由で移動することを防止できる」(同号証10欄11~16行)ものであり、キャップ部材は、係止具本体に「強固かつ確実に取付けられる」(同7欄3~4行)ものであるから、係止具がコンクリート製品に埋設された際には、キャップ部材は、係止具本体にしっかりと一体化して係止具を形成しており、その結果係止具本体と同様、回動、ずれ等を起こすことはなく、また、コンクリート製品から抜け出ることもないのであり、本願考案と引用例考案とは、作用効果上の差異があるとはいえない。
3 以上のとおり、審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。
第5 証拠
本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。
第6 当裁判所の判断
1 引用例考案が、係止具本体とキャップ部材からなる二体型のものであることは当事者間に争いがない。
原告は、本願考案は、コンクリート製品の埋設箇所の肉圧に全長を同寸とした、一体型の合成樹脂製の略中空円筒状のインサートブッシュであると主張するが、本願考案の要旨には、本願考案のインサートブッシュが一体成形されたものに限られる旨の限定はないし、本願明細書(甲第2号証)の考案の詳細な説明にも、一体成形されたものに限られることを示すような記載は存在しない。
かえって、本願明細書には、本願考案の実施例につき、「後端内周部4には円錐台状に形成せしめた底面蓋5の大径円周部6を離脱自在に溶着せしめ」(同号証3欄41~43行)、「インサートブツシュ1の底面と成す底面蓋5は溶着せしめたものに限らず、開口部8を有し、底面蓋5を一体成形せしめたインサートブツシュ1の底面蓋5の円周を切欠することにより、円錐台条に形成しインサートブツシュ1の大径円周部6より離脱自在と成る様にしても良い」(同4欄1~6行)と記載されており、この記載は、インサートブッシュ本体と底面蓋とはもともと別体の場合があり、本願考案が原告のいう一体成形されたものに限られるものではないこと示している。
一方、引用例考案のインサートブッシュは、係止具本体1とキャップ部材2からなるものであるが、「係止具本体1にはキャップ部材2が強固かつ確実に取り付けられる」(甲第3号証7欄2~4行)のであって、係止具がコンクリート製品に埋設された際に、キャップ部材は、係止具本体に強固かつ確実に取り付けられ一体化して係止具を形成しており、この点に関し、原告のいう一体型か二体型かは、両者の相違点として摘示しなければならない技術的な意味を有しないものというべきである。
原告は、本願考案が一体型のものに限定されることの根拠として、本願考案の実用新案登録請求の範囲の「コンクリート製品の埋設箇所の肉厚に全長を同寸とする」との記載及び図面第2図の記載を挙げる。
しかし、引用例考案の二体型の製品においても、その特許請求の範囲に「キャップ部材(2)を装着した状態で係止具本体(1)の開口端からキャップ部材(2)の閉塞端面(13)までの長さを、コンクリート製品(C)の埋設箇所の厚さとを等しくした」(甲第3号証1欄10~14行)とあるように、「コンクリート製品の埋設箇所の肉厚に全長を同寸とする」ものであるから、本願の実用新案登録請求の範囲の前記記載は、本願考案が一体成形されたものに限られるとする根拠とはなりえないものであり、また、図面第2図は、本願考案の一態様として、一体型のものが存在することを示すだけであり、一体型のものに限られるとの根拠にはなりえない。
したがって、本願考案のインサートブッシュが一体成形のものに限られるとの原告の主張は、本願明細書の記載に基づかないものであって失当であり、審決が、「引用例における係止具本体にキャップ部材を装着合体形成した係止具は、本願考案でいうところのインサートブッシュに相当する」(審決書4頁3~5行)とした審決の認定に誤りはない。
原告は、また、審決が、本願考案と引用例考案とは、「インサートブッシュの後端に底面蓋を離脱自在に設けたものである点でも一致している」(同4頁14~16行)と認定したことを誤りと主張する。
しかし、本願考案において、「インサートブッシュの後端に底面蓋を離脱自在に設けた」との構成は、本願明細書(甲第2号証)の、「通常は第7図に示す様にコンクリート製品20の側壁21の外側面に露出するインサートブツシュの開口部8より吊下げ金具19を挿着し、コンクリート製品20を吊下げるのである。」(同号証5欄14~17行)、「かかる吊下げ状態に支障を来す場合には、コンクリート製品20の側壁21の内側面に露出する底面蓋5を棒体等にて押圧してインサートブツシュ1より離脱させ、第8図に示す様に吊下げ金具19をコンクリート製品20の側壁21の内側面に取付けた状態にて吊下げるのである。」(同5欄23~28行)、「両端をナツト締めして成る吊下げ金具19を使用する場合には、第9図に示す様なインサートブツシュ1に吊下げ金具19を挿着した吊下げ状態と成すのである。」(同5欄31~34行)との記載と図面第8、第9図の示すとおり、吊下げ金具をコンクリート製品の側壁の内側面すなわちインサートブッシュの底面の側から挿着する必要がある場合に、その底面蓋を取り去って開口できるようにすることを意味することが明らかであり、一方、引用例考案においても、本願考案と同じく、吊下げ金具をコンクリート製品の側壁の内側面から挿着する必要がある場合に、インサートブッシュの底面蓋を取り去って開口できるように構成したものであることは、引用例考案の特許請求の範囲に示す「係止具本体(1)と一体的にコンクリート製品(C)内に埋設されるキャップ部材(2)の閉塞端面(13)を打抜き可能に形成し」(甲第3号証1欄7~10行)との構成と、引用例の「コンクリート製品Cの内側面から露出するキャップ部材2の閉塞端面13を金具等にて叩く。すると、閉塞端面13はその打抜き溝16の作用によって打抜かれて開口する。」(同号証9欄8~11行)との記載及び図面第6、第8図により、明らかである。
したがって、審決に原告主張の相違点の看過、一致点の認定の誤りはないものといわなくてはならない。
2 原告は、本願考案と引用例考案との作用効果の差異を主張するが、その主張は、本願考案が一体型であり引用例考案が二体型であるとの構成の相違があることを前提とするものであることは明らかであるところ、この点において両者の構成の相違がないことは前示のとおりであるから、原告の作用効果の差異に関する主張は、前提を欠き失当である。
念のため付言すれば、引用例(甲第3号証)に、「コンクリート製品Cの横吊り時に、係止具本体1には4個の移動防止用フィン5を形成したため、同係止具本体1にボルト19を強く螺入しても、係止具本体1がコンクリート製品C内において回動、ずれ等の理由で移動することを防止できる。」(同号証10欄11~16行)と記載されているように、引用例考案においては、ボルトを係止具本体のねじ山に螺入する際の回転力等は係止具本体に作用するが、移動防止用フィンにより、係止具本体がコンクリート製品C内において回動、ずれ等の理由で移動することが防止されるのであり、係止具本体1には、前示のとおり、キャップ部材2が強固かつ確実に取り付けられているのであるから、キャップ部材自体に移動防止用フィンが設けられていなくても、係止具本体と一体化したキャップ部材も、回動、ずれ等を起こすことはなく、コンクリート製品から抜け出ることもないと認められる。また、引用例考案の実施例に係る係止具のキャップ部材には段差部11が設けられており(同図面第2図)、この部分は、コンクリート製品内に埋設されたときは、コンクリートで裏打ちされるものであるから、コンクリート製品の外側から閉塞端面を金具で叩いても、段差部で移動が防止され、キャップ部材が抜け出てしまうことはないものと認められる。
したがって、原告の主張を前提としても、本願考案と引用例考案とは、作用効果の点で差異があるということはできない。
3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にこれを取り消すべき暇疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官 清水節)
平成4年審判第13459号
審決
岐阜県大垣市鶴見町69
請求人 東興産業 株式会社
愛知県名古屋市千種区春岡1-23-6 メゾン西坂1階 西山国際特許事務所
代理人弁理士 西山聞一
昭和63年実用新案登録願第105503号「インサートブッシユ」拒絶査定に対する審判事件(平成3年3月29日出願公告、実公平3-14326)について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
1、本願は昭和63年8月10日の出願であって、その考案の要旨は、前審で出願公告された明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「コンクリート製品の埋設箇所の肉厚に全長を同寸としたインサートブッシュにおいて、合成樹脂製の略中空円筒状を成すインサートブッシュの前方外周面に適宜数の抜止突片を周囲に突設したフランジを突出形成すると共に、インサートブッシュの後端に底面蓋を離脱自在に設けたことを特徴とするインサートブッシュ」
2、これに対して、原査定の拒絶の理由となった特許異議決定の理由で引用された、本願出願日前に頒布された特開昭63-8191号公報(以下引用例という)には、「この発明は上記コンクリート製品の吊下げ用係止具に関するものである」(第1頁右下欄第14~15行)、「この発明は上記した手段を採用したことにより、コンクリート製品の埋設箇所において一方の表面にはこれと同一表面に係止具本体の開口端が露出する。また、コンクリート製品の他方の表面にもこれと同一表面上にはキャップ部材の閉塞端面が露出し、さらにこの閉塞端面を打抜いて開口させることができる」(第2頁右上欄第15~左下欄第1行)及び「第1図はこの発明に係る係止具を示すものであって、ほぼ円筒状をなす係止具本体1とこれに交換可能に装着されるキャップ部材2とから構成されている。まず、係止具本体1について説明すると、その大径部3の前端には開口部4が形成され、外周面後半部(第1図左半部)には第3図に示すように、円周方向において等角度離間した位置に4個の移動防止用フィン5が形成されている。この移動防止用フィン5は後方ほど高くなるテーパ状をなし、さらに移動防止用フィン5の後端を連結するように大径部3の後端には抜止めフランジ6が形成されている。また、係止具本体1の内周面後部にはねじ山7が螺刻されている」(第2頁左下欄第5~18行)との記載がある。
3、そこで、本願考案を引用例に記載の技術と対比するに、
引用例における係止具本体にキャップ部材を装着合体形成した係止具は、本願考案でいうところのインサートブッシュに相当するから、両者は、共にU字溝等のコンクリート製品の運搬あるいは敷設の際にコンクリート製品の側壁面に吊下げ金具を係止せしめるために、コンクリート製品内に埋設せしめるインサートブッシュに関するものである。
また、それらはコンクリート製品の埋設箇所の肉厚に全長を同寸としたインサートブッシュにおいて、略中空円筒状を成すインサートブッシュの前方外周面にフランジを突出形成すると共に、インサートブッシュの後端に底面蓋を離脱自在に設けたものである点でも一致している。
しかしながら、両者は次の点で相違している。
イ)インサートブッシュの素材について
本願考案が合成樹脂としているの対し、引用例1では素材について具体的記載がない点。
ロ)抜止等の部材について
本願考案では、フランジの周囲に適宜数の抜止突片を突出せしめているのに対し、引用例では移動防止用フィンがインサートブッシュの円周方向に4個形成されている点。
4、ついで、これら相違点について検討するに、
<1>イについて
引用例では、本願考案のインサートブッシュに相当する係止具形成用素材については別段限定しているわけではなく、成形品の素材としては、金属か合成樹脂が最も一般的なものであるから、引用例の係止具の素材を合成樹脂とすることは、別段工夫を要することではなく、当業者が適宜採択し得る範囲のものであり、またそれを採択したことによる効果も元来合成樹脂が有する範囲のものに過ぎず、格別のものではない。
<2>ロついて
本願考案では「インサートブッシュの抜止め突起及びフランジが、コンクリート製品より抜け出たり、ずれたりすることを防止している」(公報第3欄第29~31行)のであり、引用例1においては「移動防止用フィン5を形成したため、同係止具本体にボルト19を強く螺入しても係止具本体1がコンクリート製品C内において、回動、ずれ等の理由で移動することを防止できる。またコンクリート製品Cの横吊り時に、係止具本体1にかかる上方への力を抜止めフランジ6が受けるため、係止具本体1が上方へずれてコンクリート製品Cから抜け出ることはない」(第3頁右下欄第12~20行)ものであり、両者のフランジの機能に差異はなく、また本願考案の抜止突片と引用例の移動防止用フィンとの機能も異質のものではない。
そして、引用例における移動防止用フィンには「さらにこれを連結するように抜止めフランジ6が設けられている」のであるから、それには本願考案同様にインサートブッシュの外周面から突出する部分が存在し、それのフランジの円盤面から延長した面は本願考案の抜止突片の同様の面と同じ様に抜止作用するものであり、またその円筒に沿った面は本願考案の抜止突片の同じ面と同様に回動回避作用を有するものである。
以上のとおりであるから、本願発明における抜止突片は引用例1における移動防止用フィンが持つ機能を失わない範囲で、その一部を削除した構造に過ぎず、その構造も特殊なものではなく、別段工夫を要するものではないし、またそれによって回動回避機能の減退が起こる程度のものであり、格別のものではない
してみると、本願考案において、先の要旨を採用することによって奏する効果も引用例に記載された範囲内のもの、もしくはその採用に際し当然予測できる範囲内のものといえ、格別なものとは認められない。
5、したがって、本願考案は前記引用例に記載された考案に基いて、当業者が本出願前にきわめて容易に考案することができたものと認められるので、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
平成7年2月1日
審判長 特許庁審判官(略)
特許庁審判官(略)
特許庁審判官(略)