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東京高等裁判所 平成8年(ネ)1188号 判決 1998年7月28日

東京都港区芝五丁目二六番二四号

控訴人

株式会社東京機械製作所

右代表者代表取締役

芝康平

右訴訟代理人弁護士

増岡章三

増岡研介

片山哲章

芥川基

右補佐人弁理士

浜本忠

佐藤嘉明

松尾憲一郎

東京都千代田区丸の内二丁目五番一号

被控訴人

三菱重工業株式会社

右代表者代表取締役

増田信行

右訴訟代理人弁護士

仁科康

藤井正夫

右補佐人弁理士

坂間暁

石川新

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金二五億円及びこれに対する平成元年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

二  被控訴人

主文と同旨

第二  請求原因

一  控訴人の権利

1  本件発明

控訴人は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を、平成九年四月二七日をもって存続期間が終了するまで有していた。

(一) 発明の名称 輪転印刷機における版胴装置

(二) 出願日 昭和五二年四月二七日

(三) 出願公告日 昭和五九年八月二日

(四) 登録日 平成元年八月二四日

(五) 登録番号 第一五一二九二三号

(六) 特許請求の範囲 別紙「特許法第64条の規定による補正の掲載」写しの該当欄(記1)記載のとおり

2  本件発明の構成要件

本件発明の構成要件を分説すると、次のとおりである(以下、各々の構成要件を「構成要件A」、「構成要件B」などということがある。)。

A 版胴に装着された版の印刷図柄が、版胴の駆動源であるブランケット胴に転写された後、ブランケット胴と圧胴との間を通る印刷用紙に印刷される輪転印刷機の版胴装置において、

B 前記版胴は、大径部を一方の版胴部とし、大径部に段状に連続した小径部に円周方向及び軸方向に摺動可能に嵌合する円筒を他方の版胴部として、左右のフレーム間に配置されるよう構成し、

C 前記大径部及び小径部の各端部に、各端部に近接したフレームに至る支持軸をそれぞれ設け、

D 大径部側の前記支持軸を前記大径部の端部に近接したフレームに円周方向及び軸方向に移動可能に支承させるとともに、更に該フレーム外へと突出させ、

E 前記他方の版胴部をなす円筒には、小径部側の前記支持軸に対し円周方向及び軸方向に移動可能な軸を固着し、該軸を前記小径部の端部に近接したフレームに円周方向及び軸方向に移動可能に支承させるとともに、更に該フレーム外へと突出させ、

F 大径部側の前記支持軸と、円筒に固着した前記軸とをそれぞれフレームの外側において、駆動源のブランケット胴の左右軸によって各々駆動され得るよう伝動連結するとともに、それぞれの軸方向調整機構及び円周方向調整機構に連絡させ、

G 前記一方の版胴部と前記他方の版胴部とが、それらの同一駆動源であるブランケット胴に対して、それぞれ個別に回転位相と軸方向の位置を調整されるようにした、

H 輪転印刷機における版胴装置。

3  本件発明の作用効果

本件発明の作用効果は次のとおりである。

(一) 版を二列にして設けた版胴装置において、各版を取り付けた状態で、しかも運転中に個々別々に円周方向及び軸方向に微動調整を行うことができ、これにより極めて容易かつ短時間で版の見当合わせを行うことができる。

(二) 版を一列しかもたない版胴の版調整機構は、その調整に際して版胴を動かす方法によるため、版胴上に左右二列の版が取り付けられ左右それぞれの版の独立的な調整が必要な版胴装置には使用できないと考えられていたが、本件発明により右調整機構が利用可能となり、従来において経験の積まれた調整装置をそのまま利用できることになって、コスト的にも有利な上、信頼性が高い。

(三) また、この調整機構によれば、版胴上で版を微動調整する型式のものと異なり、版胴に版の調整のための動力伝達機構を配する必要がないし、版の版胴に対する取付けも調整可能な取付けを考慮する必要がない。そのため版胴の半径方向的には調整筒が存在しないことから径を太く設計し得、また軸方向的には微動調整機構をフレームの外側に配することができたから、フレームスパンを狭くすることができ、版胴の機械的強度を大幅に高める効果がある。

(四) 版胴自体の構造は、基本的には基胴と円筒の二部材のみから構成しているから、部品点数を最小限とした上、複雑な機械加工を最小限とすることができる。

(五) 基胴の両端の支持軸はフレームに至るよう構成されており、また円筒に固着された軸もフレームに至っているから、版胴全巾に加わる印圧等のラジアル荷重に対しても、各版胴部は例えば微動調整中であっても、あたかも一体のものの版胴のように安定して両フレームによって支持されることができる。

(六) 本件発明においては、各版胴部の駆動が共通の駆動源であるブランケット胴の左右側からそれぞれ同速度で駆動される構造となっていることから、一方側からのみ駆動される版胴に比較して軸応力の発生が少なく、バランス良く駆動されることとなる上、回転駆動自体は同速でなされるものの、各版胴部は軸系としては独立しているから左版胴部又は右版胴部のいずれか一方に生じた機械的攪乱が、質量の大きいブランケット胴側に伝達吸収され易くなり、他方の版胴部に与える影響が小さくなるという相乗的な効果も奏される。

二  被控訴人製品

1  ロ号物件の製造販売

被控訴人は、遅くとも昭和五五年六月ころから、別紙ロ号物件目録記載のとおりの版胴装置(以下「ロ号物件」という。)を業として製造し、これを備えた輪転印刷機を製造販売している。

2  ロ号物件の構成の分説

ロ号物件の本件発明に対応する構成を分説すると次のとおりである。

a 版胴3ないし3〓に装着された版の印刷図柄が、版胴3ないし3〓の駆動源であるブランケット胴2ないし2〓に転写された後、ブランケット胴2ないし2〓と圧胴1との間を通る印刷用紙に印刷される輪転印刷機の版胴装置である。

b 版胴3ないし3〓は、大径部151を一方の版胴部とし、大径部151に段状に連続した小径部152に円周方向及び軸方向に摺動可能に嵌合する円筒15’を他方の版胴部として、左右のフレーム4と5の間に配置されるよう構成されている。

c 大径部151及び小径部152の各端部に、各端部に近接したフレーム4ないし5に至る支持軸153及び154をそれぞれ設けている。

d 大径部側の支持軸153は、大径部151の端部に近接したフレーム4に円周方向及び軸方向に移動可能に支承させるとともに、更に該フルーム4の外へと突出させてある。

e 小径部152の支持軸154は、小径部152の端部に近接したフレーム5の穴に差し入れられてローラーベアリング100に接し、ローラーベアリング100は部材32に接し、部材32はフレーム5に接している。

f 円筒15’の端部に固着されたピン受座にはピン39が固着されている。ピン39は、支持軸154及び軸21の軸芯方向と直交するように穿った支持軸の穴154b及び軸21の穴に貫通している。

支持軸154及び版胴小径部152の芯部に穿った穴154aにそれぞれ間隙を保って挿入された軸21は、前記ピン39に固着されている。軸21の一側は版胴の穴154aに差し入れられていて、版胴の穴154aが接しているニードルベアリング143に接しているとともに、軸21の他の一側はフレーム5の穴を通ってフレーム5の外へ突出していて、フレーム5が接している部材32が固着されている部材53が接しているところのニードルベアリング54に接しており、軸21は円周方向及び軸方向に移動可能である。

g 大径部側の支持軸153は、フレーム4の外側において駆動源であるブランケット胴2ないし2〓の軸901によって駆動され得るよう伝動連結されるとともに、軸方向調整機構903及び円周方向調整機構904に連絡し、かつ、円筒15’に固着した軸21は、フレーム5の外側において同じく駆動源であるブランケット胴2ないし2〓の軸902によって駆動され得るよう伝動連結されるとともに、軸方向調整機構903’及び円周方向調整機構904’に連絡させてある。

h 一方の版胴部と他方の版胴部とが、それらの同一駆動源であるブラッケット胴2ないし2〓に対して、それぞれ個別に回転位相と軸方向の位置を調整されるようにしてある。

i 輪転印刷機における版胴装置である。

3  ピンと軸との固着(間隙の不存在)

ロ号物件において、軸21がピン39に固着されていること(右分説中のf・g参照)は、次の間接事実からも明らかである。

(一) 被控訴人は、控訴人の本件特許出願より一年半後の昭和五三年一〇月二三日に、「倍判サイズ印刷機」に関する実用新案登録出願を行っているが(甲第九号証の一)、右出願考案の実施例として、本件発明の実施例とほとんど同様のもの(第2図)と、別紙イ号物件目録記載の版胴装置(以下「イ号物件」という。)そのものといってよいもの(第3図)の両者を掲げている。すなわち、被控訴人自身、本件発明の実施例とイ号物件(ロ号物件も本件発明との関係では全く異ならない)とが同一の技術思想に基づくものであることを表明しているのである。

さらに、被控訴人は、右出願を後に補正し、出願をイ号物件、ロ号物件と同様のものに限定することを試みるのであるが(甲第九号証の三)、補正された実用新案登録請求の範囲の記載は、次のとおりである。

「左右個別見当調整可能な倍判サイズ印刷機において、片側半分の版胴をスリーブ形状にして滑動可能にもう一方の版胴の小径部に挿入して同両版胴の外径を同一にし、前記一方の版胴の小径部端には駆動軸が挿入され、同駆動軸、一方の版胴及びスリーブ形状の他方の版胴には軸心方向と直交するようにピンを挿入し、同駆動軸及び他方の版胴は同ピンに固着されて連結されると共に、前記一方の版胴のピン挿入穴はバカ穴とし、かつ同一方の版胴の両端部をフレームに回転可能に支持してなる事を特徴とする倍判サイズ印刷機。」

右記載からも明らかなように、被控訴人は、イ号物件そのものといってよい実施例において、「駆動軸」(イ号物件、ロ号物件における軸21)、「他方の版胴」(イ号物件、ロ号物件における円筒15’)及び「ピン」(イ号物件、ロ号物件におけるピン39)が「固着されて連結されている」と自認しているのである。

(二) ピンと軸との間に間隙が存在するとする被控訴人の主張は不自然であり、信用することができない。

(1) 被控訴人は当初、控訴人の申請した本件特許権侵害差止等請求事件を本案とする仮処分申請事件において、本件発明のように円筒と軸とを固着させる構成には不具合があったため、これを克服するために円筒と軸とを固着させないイ号物件を開発したと説明し、そしてイ号物件にはいくつかの欠陥があったためロ号物件を開発したと説明したが、本件発明の構成要件との関係ではイ号物件とロ号物件とは異ならないと説明していた。

しかし、右仮処分申請事件において、控訴人が本事件における甲第五号証に相当する実用新案公報を提出し、被控訴人がイ号物件の開発により本件発明のような構成の不具合を克服したと主張する時期よりも少なくとも数か月後である昭和五三年一〇月二三日にピンと軸とを固着させた構成の実用新案登録出願を行っていることを疎明するや、イ号物件はピンと軸とを固着させる意図で設計し、「締まりばめ」という典型的な固着方法を用いて嵌合したという、初めの説明と全く矛盾する弁解をするようになり、そして実用新案登録出願後にイ号物件を解体検査したところ、軸とピンとが摺動していることが判明したため、ロ号物件は当初から軸とピンとを摺動させるように設計したのであり、この点でイ号物件とロ号物件は異なると説明するようになった。

(2) しかしながら、右説明自体、要するに固着させようとしたところ摺動してしまったため、いっそのこと更に拡大して摺動させるようにしたということであり、不自然である。しかも、被控訴人自身がこのような説明をする前に仮処分申請事件で提出したイ号物件不具合項目リスト(甲第一二号証の四別紙)には右のような不具合は全く記載されていないし、一体どのようにすればイ号物件の締まりばめとされていた軸とピンとが摺動している旨判明したのかも明らかではない。

なお、被控訴人はイ号物件からロ号物件に製品を変更した時点で、あたかも「固着から非固着への設計思想の転換」というものがあり、その理由として、軸21とピン39とに「強大なラジアル荷重」がかかることが、試験機の解体後に判明し、これらを固着させていると破損、摩耗、変形のおそれがあったかのような主張をしているが、そもそも軸21とピン39とにどのくらいの荷重がかかるかというような点の検討を経ずに、本件のような版胴装置の設計がなされるはずがない。そして、締まりばめという明白な固着手段を採用していたにもかかわらず、何ら「摺動」を許す潤滑手段や表面処理その他の措置をとらずに厳密な嵌合を指示したことが、「非固着への設計思想の転換」などであろうはずがない。

(3) 甲第八号証によれば、被控訴人は前記実用新案登録出願の五か月も前である昭和五三年五月一二日に試運転後の「個別見当調整装置付版胴」を解体検査しており、右の時点で摺動の事実が判明したはずであるから、それにもかかわらず固着の出願をしているというのは、矛盾している。

また、乙第五号証の一及び二によれば、被控訴人は、右解体検査の一年以上の後の昭和五四年六月二八日にも、締まりばめによって固着させていることが設計図面上明らかである。

(三) ピンと軸との間に間隙を設けるとすると、技術上問題がある。

(1) 被控訴人は、ロ号物件においては、強大なラジアル荷重が駆動調整軸等に悪影響を及ぼすことを憂慮して、軸とピンとを摺動ないし回動させるようになったと主張するが、この主張は、単に「駆動調整軸等に悪影響を及ぼす」という趣旨不明の理由をあげるだけで全く説得力がない。のみならず、仮にピンと軸とが摺動ないし回動しているとすると、版胴は運転中は高速で回転しているわけであるから、ピンは運転中まるでピストンのように激しく動き回っていることになる。そうすると、円筒とピンとは固着されているのであるから、円筒が絶えずピンの動きにつれて振れることにより軸と円筒の中心線がずれ、いわゆる「ねじれ」の関係になり、軸によって回転させられる一方の版胴そのものである円筒が偏心的に回転することになってしまう。これは印刷品質が落ちることを意味し、印刷機にとって致命的である。さらにこのようにピンと軸とが高速で摺動しあっていれば、摩滅してしまうか、両者の間に焼付きが発生するかのいずれかであり、被控訴人がピンと軸とを摺動ないし回動させているはずはない。

そもそも軸とピンとにどのくらいの荷重がかかるかという点の検討を経ないで本件のような版胴装置の設計がされるはずはないのであり、そのような検討をした上で、被控訴人は少なくとも当初締まりばめという固着方法を採用したというのであるから、固着していることにより破損、摩耗、変形するおそれがあったとの被控訴人の主張は信用することができない。

また被控訴人の主張によれば、焼付きないし破損を生じるほど強大なラジアル荷重がかかるというのであるから、被控訴人主張のように摺動ないし回動するのであれば、転とピンとの間に潤滑油など何らかの工夫がされていなければならないところ、そのようなことはなされていない。被控訴人の単に相互の動きを許容すれば足りるからとの説明は、理由の説明にならないものである。

(2) 本件のような輪転印刷機において、業界で一般に求められる見当合わせの精度は概ね〇・〇五ミリメートル以内であるところ、仮に被控訴人主張のように軸とピンとの間に〇・〇四ミリメートルプラスマイナス〇・〇二ミリメートルの間隙が保たれていてそれが摺動したり回動したりするものと仮定すると、軸の直径と版胴の直径は約三倍の差があるから、版の表面では少なくとも約〇・〇六ミリメートル、最大約〇・一八ミリメートルもの見当誤差が出ることになり、これでは見当合わせの精度を維持することができないはずである。

(四) 被控訴人の反証は信用することができない。

(1) 被控訴人が証拠として提出する乙第五号証の一については、被控訴人が主張する同書面上の訂正部分について見ると、いつだれが被控訴人が主張するような抹消、記載を行ったのか不明である。しかも被控訴人の主張によれば、同号証は再製されたものであるというのであるが、その再製者は不明で、しかもその氏名不詳の再製者は、いつだれが記入したかわからない書き込みをそのまま転記したことになっているが、これらは不自然である。

(2) そもそも乙第五号証の一は原図ではない現場図であるところ、機械製造業界において、原図を訂正することなしに設計を変更することはあり得ない。現場において設計変更の必要が認められた場合にも、必ず設計責任者によって原図の訂正が行われて初めて、現場図も訂正されるのであり、単なる現場図の書き込み等に基づいて製品を製造することなどあり得ない。被控訴人は厳密な設計図の管理を現に行っているものである。それらの写しのうちの一枚について、現場の一技能者が勝手に書き込みを行い、これに基づいて作業を行うというようなことがあれば、各現場は全く混乱に陥るばかりか、社内の品質検査も通らないであろう。

しかるところ、被控訴人が原図のマイクロフィルムからの写しであるとして提出する乙第一一号証を見ても、この図面には被控訴人が主張するような一〇〇分の四ミリメートルプラスマイナス〇・〇二ミリメートルの間隙があることを示す記載はどこにもない。

(3) また、乙第一一号証の図面の最下段には、昭和五六年六月に図面を廃却した旨の記載がある。このことは既にその時点で原図修正の可能性が非常に小さくなったことを示している。その後に更に設計変更をして間隙を設けたりする必要などなかったからこそ被控訴人はこの図面を廃却したのである。仮に昭和五五年一月に修正がなされたという被控訴人の主張を前提としても、右修正時から廃却時まで約一年半もあったのであるから、この間に修正がされなかったということは、この部分について修正の必要などなかったということにほかならない。

(4) 被控訴人は、右の昭和五五年一月の修正から昭和六一年一二月一日に原図のマイクロフィルムから新たな現場図を再出図するまでの間のいつであるか不明の時期に現場図が何者かの書き込みにより修正され、これによって製品が製造されていたと主張している。しかもこの書き込みの数値が重要な意味を有するというのである。

しかし、それほどの修正であれば、何ゆえに原図が修正されないのか、またもし原図の廃却後であったならば、何ゆえにマイクロフィルムから原図を再製した上修正しないのか。この疑問に対する被控訴人の弁解は、いわば被控訴人では現場図を原図代わりに使用していたというおよそ考えられない内容である。もしそのように使用するのであれば、最低限だれがいつ修正を行ったか責任の所在を明らかにしていなければならない。そのように無責任な図面を原図代わりに使用することなどあり得ない。

(5) 被控訴人は、昭和六一年一二月一日に原図のマイクロフィルムから現場図が再出図されたと説明し、その際それまで用いられていた現場図の記入者、記入時期不明の書き込みをこれも何者かがそのまま転記したと説明している。しかも、このように転記した理由は、その何者かが設計責任者に確認を取ったからではなく、被控訴人では転記することになっているからだというのである。被控訴人ではどんな書き込みであろうとすべて転記することになっているとしても、これを見て実際に製造する技能者は一体どの記載を信用して製造すればいいのか、仮に転記するとすると、既に抹消されている記入者、記入時期不明の書き込みまで転記した上抹消する必要がどこにあったのか明らかでない。また被控訴人は、乙第五号証の一の「再出図」の印影の左下に記入された「工程奥3/23」という記載について、それ以前の書き込みがいつだれによって行われたか不明であったため、昭和六二年三月二三日に機械係岡野保史が機械工程係の奥秀夫に問い合わせたところ、従前からこの書き込みに基づいて加工されていると確認を得たので前記のように鉛筆書きを行ったとしているが、被控訴人の説明どおりだとすると、現場図を再出図して書き込みを転記してから四か月も経ってのことであり、何ゆえに機械係は四か月も経ってから確認する必要があったのか、その間一体どうしていたのか、機械係はなぜこのような鉛筆書きを、何枚もある現場図のうちのたった一枚について行う必要があったのか、全く明らかでない。

4  ロ号物件の作用効果

ロ号物件の作用効果は、本件発明の作用効果と全く同様である。

三  本件発明とロ号物件との対比

1  ロ号物件の本件発明の構成要件該当性

ロ号物件の構成が、本件発明の構成要件をすべて充足することは、前記一2と二2を対比すれば明らかである。

2  ピンと軸との固着について

ロ号物件において、円筒15’と軸21との連結の状況は、円筒15’の端部に固着されたピン受座にピン39が固着され、軸21はピン39に固着されているのであるから、構成要件E、Fにいう「固着」に相当する。

また、仮にロ号物件について、軸21とピン39との間に被控訴人主張のような間隙があるとしても、以下のとおり、構成要件E、Fにいう「固着」に相当する。

(一) 本件発明の目的は、「軸方向左右に振り分けた版装着部のそれぞれを版を取り付けた状態で、しかも運転中に個々別々に円周方向及び軸方向に微動調整を行うことができ」ることであり、本件発明の作用効果として基本的なものの一つが、「各版胴部は共通の駆動源であるブランケット胴によってそれぞれ同速で駆動される一というものであって、このような作用効果を奏せしめ、本件発明の目的を達成する手段として、「円筒に・・・軸を固着し」ているのである。したがって、円筒に対する軸の固着とは、そのような駆動力及び調整力の伝達が十分にできるような「固着」であれば足りるのである。

本件発明において、被控訴人の主張する程度の「摺動」ないし「回動」あるいは「間隙」は、仮にそれが事実だと仮定しても、本件特許権の特許請求の範囲にいう「固着」の解釈にとって何ら意味を持たない。換言すれば、本件発明の目的からすれば、本件特許請求の範囲中にいう「固着」は、通常の見当調整が支障なく行える程度に動かないよう構成されていれば十分であり、ロ号物件が、通常の見当調整を行える装置である以上、右の事実そのものが、ピンと軸とが固着されていることを示している。

本件特許請求の範囲における「円筒には・・・軸を固着し」を、原判決のように、「円筒のフレームの側の一端に開口部を設けないような態様で軸を固定し、かつ、軸を固定した円筒が版胴の小径部に対し常時回転方向及び軸方向に束縛や障害なく自在に摺動する状態に、固定した形で取り付けること」と解釈することにより、何ら本件発明の目的に資することがないことは明らかである。すなわち、このような限定的な構成をもって初めて本件発明の目的が達成されるということもなければ、このような限定的な構成により右目的がよりよく達成されるということもないのである。

「円筒には・・・軸を固着し」という構成要件が、本件発明の目的との関係で厳格に解釈される必然性の全くない、極めて単純な通常の意味の要件でしかないことは明白な事実である。

なお、甲第一五号証ないし甲第一九号証によれば、「固着」とは、当業者の認識においても、全く動かないという意味ではなく、当該機能、目的との関係での相対的な概念である。

(二) 製造誤差ないし組立技術上、部分的な間隙の存在は不可避である。

ロ号物件の製造にあたり、軸21の穴にピン39を貫通させる場合、軸21の外側にある「円筒15’の端部に固着されたピン受座」にもピンを固着させなければならないが、この固着のさせ方は、ピン受座の穴にピン39を貫通させて行われている。つまり、ピン39は、軸21の穴一個とピン受座の穴二個の合計三個の穴に精密に嵌合させられなければならないのである。したがって、円筒形のピン39が貫通する右三個の穴は、その町の中心が極めて精密に合っていなければならないのであるが、軸21とピン受座は全く別個に製作される別個の部材であり、版胴装置全体が組み立てられる中で、組付けに微妙なズレを生じることは不可避であるから、実際上、中心に厳密に合わせることは不可能といってよい。このように、組付けにおいて誤差がでる以上、ピン39を三個の穴に貫通させたとき、軸21の穴との間に極めて微小な間隙が部分的にできることは、十分にあり得るところであり、むしろ、程度の問題は別として、極めて微小な単位でいうならば不可避的にできる。

いうまでもなく、このような事情により生ずる部分的な「間隙」は何ら「固着」を否定するものではな炉。被控訴人は、いわば右のような中心の誤差や微調整により生ずる部分的な間隙の存在を奇貨として、軸21とピン39とが固着されていないと主張しているのである。

(三) 被控訴人は、ロ号物件においては、「締まりばめ」でも「摺動」を防止できないのでむしろ院止を諦めて間隙を広げたとも主張しているが、そこにいう「摺動」は、本来「摺動」と呼べるようなものではない。敢えて被控訴人の主張する事実を前提に善解してみても、せいぜい、被控訴人は、軸21とピン39とが固着されていなければならないことは当然分かっていたから、これらを締まりばめによって固着してみたところ、締まりばめをするだけの意味があまりないことが分かったので、組付け上の理由を優先して現場図上は極めて微小に軸21の穴の径をピン39の外径よりも大きくした、というところであろう。

(四) 被控訴人は、右に述べたような「摺動」の意味を超えた摺動を積極的にさせているとは主張しておらず、少なくとも、積極的に摺動させる理由を示し得ていない。これは当然のことであって、積極的に摺動させることは、百害あって一利もないからである。すなわち、軸21とピン39とが、まるでピストンのように激しく摺動すれば、ピン39に固着された円筒15’がピン39の動きにつれて激しく振れることになり、不具合を生ずること必定である。また、軸21とピン39がこのように高速で摺動し合っていれば、磨滅するか、焼き付きを生ずることも必定である。

3  支承について

(一) 本件特許請求の範囲にいう「支承」とは、単に「取りはずし可能な状態にて支える」という一般的な意味を有するにすぎないところ、ロ号物件目録添付の図面を見れば、軸21がニードルベアリング54、部材53、部材32を介してフレーム5に支えられていることは一見して明らかである。

被控訴人は、軸21がフレーム5ではなく、部材53に支承されていると主張するが、部材53は単なる軸受箱にすぎないのであるから、これに支承されているなどという主張は成り立たない。

(二) 右「支承」の要件も、「この調整機構によれば版胴上で版を微動調整する型式のものと異なり、版胴に版の調整のための動力伝達機構を配する必要がない」という作用効果を奏せしめ、本件発明の前記目的を達成する手段として要求されているものであり、端的にいえば、やはり円筒に駆動力及び調整力をフレームの外側から伝達するために必要とされる要件なのである。

原判決は、本件発明の「該軸を・・・フレームに・・・支承させる」との要件について、「円筒に固着された軸が直接フレームに支持されるとともに、軸の中空部に嵌合された小径部側の支持軸を支持し、小径部の支持軸の負荷及び自らの負荷がフレームに支えられることを意味する」と解釈しているが、そのように理解することによって初めて本件発明の目的がよりよく達成されるような要件でない。

(三) 被控訴人は、ロ号物件は小径部側の支持軸をフレームに「支承」させている点で本件発明と異なると主張している。しかし、そもそも本件特許請求の範囲中、小径部側の支持軸がフレームに支承されていてはならないとは記載されていないし、またそのように解すべき何らの根拠もない。本件特許請求の範囲には、「前記大径部及び小径部の各端部に、各端部に近接したフレームに至る支持軸をそれぞれ設け」と記載されているだけなのであるから、小径部側の支持軸については、フレームに至ってさえいれば、構成要件を充足するのである。

ロ号物件も、大径部側の支持軸と小径部側の支持軸がフレームに至っているし、大径部側の支持軸と小径部側の円筒に固着した軸とはフレームに支承されている。すなわち、本件発明もロ号物件も、共にフレームに至り、支承されている部材(支持軸及び円筒に固着した軸)は同一である。

そして、本件発明の特許請求の範囲において、円筒固着軸が、小径部側の支持軸の「外周」に遊嵌されているか、ロ号物件のように、小径部側の支持軸の「中空部内」に遊嵌されているのかについて何ら限定されていない。

また被控訴人は、ロ号物件は、小径部側においては、基胴に段状に連設した支持軸が版胴の自重及び印圧等の強大なラジアル荷重をフレームに支えさせるのに対し、本件発明においては円筒に固着された軸がこの役割を担い、支持軸はかかる役割を果たさない旨主張しているが、この点は本件明細書に記載された実施例との対比にすぎないし、本件特許請求の範囲中には、ラジアル荷重をどの部材で支えるかという点については何らの限定も存在しない。

4  本件発明の特許請求の範囲について

(一) 本件発明については、公告後何回かの補正がなされているが、それについて説明すると、出願公告当時「一端に軸を固着した円筒」とされていた本件発明のクレームの記載が、公告後の第二次補正により「円筒には・・・軸を固着し」とされた点、出願公告当時「円筒を版胴に対して回転および軸方向に摺動自在に嵌合し」とされていた本件発明のクレームの記載が、公告後の第二次補正により「小径部に円周方向および軸方向に摺動可能に嵌合する円筒」とされた点については、いずれもすべて構成を明瞭にすべく表現を変更しただけであり、クレームの減縮等の特段の意味のある補正ではない。

(二) また、本件発明の出願経過において、昭和六〇年五月二〇日付け特許異議答弁書及び同日付け手続補正書において釈明のためなされた記載として、明細書の発明の詳細な説明中に、「しばしば故障の原因となる開口部が、この発明では版胴の中央片側一か所であるので、異物が嵌合部に進入することによって生じる化学変化や摺動部の動作不良を最小限とすることができる」というものがある。

右については、いわゆる分割版胴のうち、一本の版胴に二個の円筒をかぶせてそれぞれを微調整する構成の乙第三一号証に示されたような従来技術を念頭に置いて、これとの比較のためになされたものである。乙第三一号証の特許公報の第一図のとおり、従来技術においては版胴の中央の両側に二個の円筒が嵌合するため、版胴の中央の両側に二か所の開口部ができることになるのに対し、本件発明においては、円筒が一個であるから、版胴の中央の開口部は当然のことながら片側一か所になる。したがって、右記載は、本件発明のような、版胴に大径部と小径部とを設け、一個の円筒を小径部に嵌合するような構成を、特別な意味での「開口部」なる概念をもって更に限定する趣旨の記載ではない。客観的に見ても、そのような限定を加える趣旨であると解すべき根拠は、本件発明の出願経過のどこにもない。右の記載は、「しばしば故障の原因となる開口部が、この発明では版胴の中央『片側』一か所であるので」とされており、このことは、前述の控訴人の主張を裏付ける。また本件発明の特許請求の範囲に、円筒の一端が塞がれているなどと記載されたことは一度もない。

原判決は、抹消されて既に明細書に存在しない右作用効果についての一記載、それも到底重要とは考えられない記載を根拠として、特許請求の範囲の文言を離れた解釈を行ったものである。

5  要約

右のとおり、ロ号物件は本件発明の構成要件を具備し、作用効果も本件発明のそれと同一であるから、ロ号物件は本件発明の技術的範囲に属する。

四  控訴人の損害

1  昭和五九年八月二日より平成元年一〇月末日までの間に被控訴人が製造販売したロ号物件を備えた輪転機は六六セット、同じく印刷機(輪転機全体の中の印刷機部分)は一四ユニットである。

2  被控訴人が製造販売した前記六六セットと同じ組み合わせで控訴人が販売できたはずの本件発明の実施品を含む輪転機の販売価格総額は八三八億一六〇〇万円にのぼる。

輪転機は、大型でありながら極めて高い精度を要求される精密機械であり、その製造には高度の技術と長年にわたるノウハウの蓄積並びに巨額の設備投資が必要である。また、製品が非常に高価であり、市場も限定される。このような理由から、この業界への参入企業は少なく、事実上控訴人と被控訴人の両者の寡占状態に近い。したがって、被控訴人が控訴人の特許権を侵害することにより、業界をリードしている控訴人の優れた製品に並ぶ製品を製造販売したことは、控訴人が販売できたはずの販売先を奪ったに等しい。本件発明は、輪転機全体にかかるものではないが、販売先が輪転機全体を購入する場合において、特許発明にかかる一部のみ他社製品を購入することはありえない。したがって、被控訴人の右輪転機の製造販売により、控訴人はこれに利益率一〇・八三四パーセントを乗じた九〇億八〇〇〇万円について得べかりし利益を失ったものである。

3  また、右印刷機の製造販売により被控訴人があげた利益は、売上総額三七億二四〇〇万円に利益率一〇・八三四パーセントを乗じた四億〇三〇〇万円を下らないから、控訴人は、少なくとも右金額の損害を受けたものと推定される。

4  右2、3の損害額の合計は九四億八三〇〇万円となる。

5  仮に右の計算方法が採用されないとしても、前記のとおり、被控訴人は、昭和五九年八月二日より平成元年一〇月末日までの間にロ号物件を備えた輪転機を六六セット、印刷機を一四ユニットを製造販売しており、その売上高は、輪転機につき八三八億一六〇〇万円、印刷機につき三七億二四〇〇万円を下らない。そして、輪転機、印刷機が含まれる一般産業用機械における実施料率は最頻価が五パーセントである。

したがって、仮に実施料相当損害金を問題にするとしても、少なくとも、控訴人は、被控訴人の前記売上高合計額八七五億四〇〇〇万円に五パーセントを乗じた金四三億七七〇〇万円の損害を被ったものである。

また、仮に輪転機全体の価格に実施料率を乗じるのではなく、右輪転機のうち印刷機部分の価格に実施料率を乗じたとしても、被控訴人が昭和五九年八月二日より平成元年一〇月末日までの間に製造販売したロ号物件を含む印刷機は前記輪転機六六セット中に含まれる八〇ユニットと前記一四ユニットの計九四ユニットであるから、実施料相当額は、これに一台あたり価格金二億四三〇〇万円を乗じ、前記五パーセントを乗じた、金一一億四二一〇万円を下らない。

五  損害金の請求

よって、控訴人は、被控訴人に対し、本件特許権侵害の不法行為による損害賠償の内金として、金二五億円及びこれに対する不法行為後である平成元年一一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三  請求原因に対する認否及び被控訴人の主張

一  請求の原因に対する認否

1  請求原因一(控訴人の権利)1ないし3は認める。

2(一)  請求原因二(被控訴人製品)1について、被控訴人が、控訴人主張の時期頃から別紙ロ号物件目録添付図面記載のとおりの版胴装置を業として製造し、これを備えた輪転印刷機を製造販売したことは認める。 同1のうち、別紙ロ号物件目録記載の「二 ロ号物件の構成」については、次のとおり認否する。

(1) 「二 ロ号物件の構成」2は否認する。2に対応する部分は、「大径部側の支持軸153は、大径部151の端部に近接したフレーム4に、ローラーベアリング90にて回転可能に支持され、同ローラーベアリング90の軸方向移動を拘束する部材31により軸方向に移動可能にするという手段により円周方向及び軸方向に移動可能に支承させるとともに、更に該フレーム4の外へと突出し、小径部151の支持軸154は、小径部152の端部に近接したフレーム5に、ローラーベアリング100にて回転可能に支持され、同ローラーベアリング100の軸方向移動を拘束する部材32により軸方向に移動可能にするという手段により円周方向及び軸方向に移動可能に支承されている。」とすべきである。

(2) 同4は否認する。4に相当する部分は、「ピン39は、支持軸154及び軸21の軸芯方向と直交するように穿った支持軸の穴154b及び軸21の穴に、穴154bには概ね一〇ミリメートルの間隙を保ち、また軸21の穴には〇・〇一ミリメートルないし〇・〇四ミリメートルプラスマイナス〇・〇二ミリメートルの間隙を保って、それぞれ貫通している。」とされるべきである。

(3) 同5中、「前記ピン39に固着されている。」という部分を否認する。右部分は「前記ピン39に摺動ないし回動可能に連結されている。」とされるべきである。

(4) 同6は否認する。6に相当する部分は、「軸21はニードルベアりング143を介して版胴小径部152の穴154aに円周方向及び軸方向に移動可能に支承され、かつニードルベアリング54を介してフレームに軸方向に移動可能に支持された部材32に固着されている部材53に円周方向及び軸方向に移動可能に支承されるとともに、更にフレーム5より外に突出している。」とされるべきである。

(5) 同7について、「連絡し、かつ、円筒15’に固着した軸21は、」とある部分は否認する。右部分は、「連絡させ、円筒15’にピン39をもって相対的に摺動可能に連結した軸21を、」とすべきである。

(6) 右(1)ないし(5)以外のロ号物件の構成は認める。

(二)  請求原因二2のロ号物件の構成の分説については、分説の仕方それ自体は争わないが、その内容については、右1で争う部分は同様に争う。

(三)  請求原因二3、4は争う。

3  請求原因三(本件発明とロ号物件との対比)1ないし5は否認する。

4  請求原因四(控訴人の損害)1は認め、同2ないし5は争う。

5  請求原因五(損害金の請求)は争う。

二  被控訴人の主張

1  固着について

(一) イ号物件、ロ号物件の設計の経緯

(1) 被控訴人は、昭和五二年初頭、訴外株式会社静岡新聞社から新聞輪転機の製造引合いを受け、同年二月四日、同社から版を二列にした版胴装置の操作側駆動側装置の見当合わせ時間を短縮する方法を考えてほしいとの要請を受けた。そこで、被控訴人は、同年三月四日、概念図を作成して同社に提示した。右は本件発明の実施例として開示されたものと若干の差異はあるが、基本的構想において概ね同じものであった。その後被控訴人は、右概念図の手直しをした上図面化し、同年五月二六日同社に提示、説明したが、これは一部の点を除き本件発明と同一の構成になっていた。

しかし、右構想のものは、本件発明と同様、円筒と駆動調整軸を固着しこれをフレームに支承させるもので、製作技術上印刷品質に影響が出ることが避け難く、また事故の可能性も払拭できなかったため、この駆動調整の役を果たす版胴大径部側支持軸を大径部側フレームに支承させ、同じく駆動調整の役を果たす版胴小径部側円筒に固着した軸を小径部側フレームに支承させ、二組の独立した版胴、すなわちそれぞれ一体の駆動調整軸付き版胴を中央で突き合わせ小径部を入り込ませて連結する構想を捨て、一体の版胴本体を両側のフレームに支承させ、版胴本体大径部の片側半分を円筒形に切り抜き、その部分を調整可能とし二組の版胴と同じ働きをさせることとしたのがイ号物件であり、被控訴人は、昭和五三年五月中旬、静岡新聞社にその設計図を提出、試作機を運転公開し説明を行った。

(2) 本件発明は、版胴小径部側において、円筒に固着した駆動調整軸に、円筒、版胴本体等による自重を含む強大なラジアル荷重を引き受けさせてこれをフレームに支承させるのに対し、イ号物件、ロ号物件は、円筒、版胴本体等による自重を含む強大なラジアル荷重を版胴本体に引き受けさせて、版胴大径部側、小径部側とも、版胴本体をフレームに支承させ、円筒を右のような強大なラジアル荷重を引き受けない駆動調整軸に、摺動ないし回動可能にピンをもって連結する方式を取っており、本件発明とイ号物件及びロ号物件とは、その構想を異にする。

(3) イ号物件において、駆動調整軸と円筒に固着したピンとは固着させる設計となっていた。すなわち、被控訴人は、イ号物件では、円筒に固着したピンと駆動調整軸を固着させる意図の下に設計し、両者の連結方法として単純な挿入では摺動すると考え、軸の穴よりもピンの径を大きくして嵌入する締まりばめという手段を採用したが、試作機の試運転を行って分解したところ、ピンが摺動していることが発見され、結局設計者の意図は固着にあったが、実際は摺動ないし回動していた。

被控訴人は、このような強大なラジアル荷重が駆動調整軸等に悪影響を及ぼすことを憂慮し、むしろ、調整機能に影響を与えない程度でピンと穴との間に間隙を設け、積極的にピンの摺動ないし回動を許し、ラジアル荷重による悪影響を緩和する方が得策であると考えるに至り、ロ号物件にこれを採用し、ロ号物件第一号機について、ピン39と軸21の穴との間に現合で〇・〇一ミリメートルの間隙を設けた。右イ号物件の例からみれば、この場合両者が摺動ないし回動するのは当然である。被控訴人は、その後の製作物件には順次右間隙を拡大し、ついにこれを〇・〇四ミリメートルプラスマイナス〇・〇二ミリメートルとした。

この点について、原審の答弁書においては、イ号物件もピン39が駆動調整軸21の穴との間で間隔を保っていると主張したが、これはイ号物件は実際に製造販売しなかったし、ロ号物件を重視し、ロ号物件の説明にイ号物件は準じるという形で論議を進めてきたためである。

(二) 現場図の信用性

以上の経緯を示すのが乙第五号証の一の現場図である。

同号証中、最初に隙間を設けた記載は、訂正欄bに示されるように中井ほか三名によることは明らかで、また再製者も管理課として再製の証明印が押捺されており、証明力は十分である。間隙拡大について日時、訂正者こそ明らかでないが、それが再出図後、汚染現場図より同号証に転記されているものを確認する旨の記載がある。旧現場図と再出図図面を差し替えるとき、前者の記入事項を後者に忠実に転記することは、古くなったから再製する以上当然である。

このような複雑な書込書面が後日、捏造できるものではなく、被控訴人工場において現実に使用されてきたものである。

原図についていえば、右bの訂正は、原図自体が訂正されている。この他、原図の訂正がなされていないものが存在するが、被控訴人の印刷機工場においては、伝統的に製作部門に高度な工作、組立て、運転技術が存在し、これらの各製作部門技術者の工夫、ノウハウが常時設計部門との緊密な連絡のもとに発揮されている。すなわち、製作を担当する部門は、自主的に常に改良を試み、改良の結果が良い場合には、設計部門の了解を求めて行動を起こしている。設計者に書面又は会議、口頭等で了承を求めて原図を訂正して、その原図のコピーが現場図として配付され、それに基づき加工するのが原則であるが、被控訴人においては、慣習上現場図が先に修正される例が少なくない。設計方針の基本的変更となるような場合を除き、寸法の一部変更等訂正の容易なものは、適宜設計者の了解を取り、原図が後日訂正されるという暗黙の了解のもとに、現場図を先に修正してそれに基づいて加工する。これは被控訴人自ら機械加工設備を有する工場を持っているので、重要な部品に関しては加工現場が社内で単一に決められており、現場図をもとに製造して何ら支障はないし、また製造部門より実際的な技術改善、改良の提案が数多くなされるので、口頭による連絡、設計了承、現場図修正の頻度が多いからである。本件のピンと軸穴との隙間に関するb以後の訂正の場合、原図の事後訂正がなされていないが、これは数値が逐次増加している点から流動的であると考えられたために、原図の訂正がなされないでそのまま経過してしまったものと思われる。

(三) ロ号物件における見当調整

控訴人は、請求原因二3(三)(2)のように、ロ号物件で仮にピンと軸との間に間隙があるとすれば、見当合わせの精度を維持することができない旨主張する。

しかし、見当調整をするときには、運転中に、駆動系の間隙が詰められた条件下で行うから支障はない。すなわち、調整前の円筒の位置は駆動系の間隙が詰められた位置が機器に表示されており、次に調整後結果として円筒が動いた位置も、同様に駆動系の間隙は詰められ表示される。そして、その調整の過程でも、軸21は正確に天地方向に回転し、円筒15’及びピン39も駆動の間隙を詰める力が常時働いているので、軸21と接して動くため何の問題もない。また調整後の調整結果の維持についても、駆動系の間隙は印刷機業界共通の別の工夫、すなわち、胴仕立てといわれる版胴外径寸法とブランケット胴外径寸法を相互に微妙に変えたり、その間の圧縮量を特定値にしたりして、両胴間の接触部分を滑らなくし、また円周方向の微妙な力を発生させ、両胴間の駆動系の間隙を一方的に詰めて動かさなくする工夫をすることや、版胴への駆動力により、間隙を動かなくする技術があるので、これも同様に問題がない。

なお、回転方向の間隙を一方的に詰めて、軸21とピン39とが回転方向に接触を保っていても、両者はピン39の長手方向及び同じく円周方向には動きが拘束されていないから、相互に運動するのであり、これが被控訴人の主張する軸とピンの間の摺動ないし回動である。

(四) 本件発明の固着とロ号物件の隙間

本件発明における「固着」とは、定位置に動かないように取り付けることをいうものである。そうすると、ロ号物件については、ピン39と軸21の穴に隙間を設けているので、その隙間がある以上、その大小を問わず定位置というものはなく、固着していないことは明らかである。

控訴人は、円筒に対する軸の固着は駆動力及び調整力の伝達が十分できるようなものであれば足り、個別見当調整が支障なく行える程度に動かないように構成されていれば、「固着」に該当すると主張する(請求原因三2(一))が、ピンと軸の穴との間に隙間があるようにピンを軸の穴に挿入することは「緩挿」に当たり、右「緩挿」と、「固着」が同義であると解すべき根拠はない。むしろ逆に、本件発明のように軸が版胴という強大なラジアル荷重を担ってフレームに支承されるという構成から考えると、円筒との連結に僅少なガタがあると、連続運転によりそれが拡大するので、本件発明にいう固着とは、寸分のガタなく強固に固着するものであることが窺われるところである。

発明は技術的手段の集積であるから、その個々の技術的手段についてその直接の目的、機能に基づき、その技術的手段を解釈すべきであって、本件発明についていえば、その軸は見当調整及び駆動を行うという機能を果たすだけでなく、印圧、版胴本体の自重等の強大なラジアル荷重を受け止めてフレームに支承させるという機能も担っているのである。その円筒との固着は、ガタが多少でもあれば版胴本体からの強大なラジアル荷重、版胴の回転運動からして永続的使用に耐えないことは明らかである。本件訂正公報二頁二一行以下の本件発明の実施例についての記載、即ち「円筒15’の端部は(中略)軸21に、数個のねじ22で固定され」とあることに照らしても、両者間の固着は隙間や摺動を許さぬ強固な固着でなければならないものである。

これに対し、ロ号物件においては、その軸21はラジアル荷重支持の機能を持たず、版胴小径部に連設した支持軸154でフレームに支承させ、右のようなラジアル荷重を支持させているので、本件発明と異なり、軸21は支持軸154の内側に入らざるを得ないことになり、また軸21は円筒との連結に際し、本件発明のように固着とせず、ピン39、軸21間に間隙を設けて摺動自在にする必要が生じ、またこれをすることができるのであるし、フレーム自体に支承させず、部材53に支承させることもできるというように種々の相違点が生じてくるのである。

(五) 実用新案登録出願の経過について

被控訴人は、昭和五三年一〇月二三日の実用新案登録出願時には、前記(一)(3)の試作機の試運転によりイ号物件の問題点が発見される前のことであったため、本件発明の実施例である円筒と一体化した駆動調整軸をもって版胴からの荷重をフレームに支承させる構成のものを第一実施例とし、イ号物件のように版胴小径部の延長である支持軸で、版胴からの荷重をフレームに支承させ、駆動調整軸は右支持軸の内部を通ってピンを介して円筒に固着連結する構成のものを第二実施例として、登録請求の範囲はこれらを包含するものとしていたが、試運転によりイ号物件の問題点を発見した後である昭和五九年一〇月九日に特許庁から本件発明を引用例として拒絶理由通知がなされたので、被控訴人は第二実施例に限定する補正手続を行った。その際、当初の登録請求の範囲を残存実施例の示す考案に限定するように構成要件を具体化することが必要となり、その記載に際して、軸とピンとの連結方法について触れざるを得なかったところ、第二実施例は固着としていたため、もしこれを固着としなければ明らかに第二実施例と異なってしまうし、固着を残し、これに当時製造販売していたロ号物件のように隙間を設ける場合を含めるようにすると、要旨変更とされるおそれがあったから固着と明記したものであって、ピンと軸とを固着としたのは、ロ号物件を製造販売していたかどうかとは無関係である。

またピンと軸穴との間に隙間を設けることは被控訴人の企業秘密としていたことであるから、この登録を受ければ、第二実施例の基本構成のものに他社が追随することを防ぐことになるとも考えられた。

控訴人は、ピンと軸とを摺動ないし回動させることに技術的利点がなく、欠陥があると主張するが、ロ号物件は、昭和五五年六月五日以来一〇年余りに及ぶ実績において何らクレームを受けておらず、順調に稼働してきたものであり、欠陥がないことはこのことからも明らかである。

2  支承について

(一) 本件発明における支承

本件発明の構成要件中争点に関する部分は次のとおりである。

ア (構成要件C)前記大径部及び小径部の各端部に、各端部に近接したフレームに至る支持軸をそれぞれ設け、

イ (構成要件D)大径部側の前記支持軸を前記大径部の端部に近接したフレームに円周方向及び軸方向に移動可能に支承させるとともに、更にフレーム外へと突出させ、

ウ (構成要件E)前記他方の版胴部をなす円筒には、小径部側の前記支持軸に対し、円周方向及び軸方向に移動可能な軸を固着し、該軸を前記小径部の端部に近接したフレームに円周方向及び軸方向に移動可能に支承させるとともに、更に該フレーム外へと突出させる。右各構成要件の記載によれば、Cの「至る」とD及びEの「支承させる」とが異なる構成要件であることは明らかであり、また右Dの要件においては、「大径部側の前記支持軸を、フレームに、支承させる」とし、Eの要件においては、「前記他方の版胴部をなす円筒には、軸を固着し、該軸を、フレームに、支承させる」とする点からすれば、版胴装置をフレームにより支えるのは、大径部側は支持軸、小径部側は円筒に固着した軸であることは明らかである。そうすれば、印圧及び版胴等の自重等の強大なラジアル荷重は、これらにより支えるものであることも明瞭である。

控訴人は、小径部側の支持軸154もフレーム5に支承されるとするが、支持軸154は円筒固着軸21の内側にあるから、円筒固着軸21を介して間接的にフレームに支持されるにすぎない。支承ということが間接的にフレームに支持されることをいうのなら、版胴装置の各部品が全部フレームに支承されるということ、すなわち版胴装置はフレームにより支持されているというだけのことで当然の話である。問題は、前記の強大なラジアル荷重が装置のどこで最終的にフレームに支承されているかである。

(二) ロ号物件における支承 ロ号物件は、印圧、版胴等の自重による強大なラジアル荷重を小径部側支持154でフレーム5に支承させるのであって、駆動調整軸21で右ラジアル荷重を支承させるものではないから、本件発明のものとの間には根本的な差異が存在する。

(三) 本件発明とロ号物件との比較

(1) そもそもフレーム外から個別見当調整をするという方法を採るためには、その個別見当調整操作部分をフレーム外に出す必要がある。フレーム外からの見当調整に支障がないように操作部分をフレーム外に出すためには、どこからいかにしてフレーム外に出すか、換言すれば、装置中のどこをフレームに支承させ、その自重をフレームに支持させて、個別見当調整操作機構をフレームの外に出すかが解決すべき技術的課題となる。

本件発明は、円筒に固着させた軸をフレーム外に突出させる構成を採る小径部側は、円筒固着軸に版胴の自重を支えさせて、かつフレームに円周方向及び軸方向に移動可能に支承させることにより、右の技術的課題を解決したものである。これに対し、ロ号物件は、版胴の自重を支えるものは、大径部側支持軸及び小径部側支持軸とし、小径部側においては版胴の自重を支えるものではない駆動調整軸を外部から入れて見当調整を行うという構成を採ったものであり、本件発明とは構成において異なる。

(2) 本件発明は、フレームの外に駆動調整をする軸を突出させて、フレーム外から操作することができることを主たる目的としたものであるから、右軸をフレームの外から印刷機能に支障を与えることなく操作できるように機械中の何を、いかに、フレームに支承させるようにするかが解決すべき最大の技術的課題である。調整機構をフレームの外に出すというだけでは、単なる着想にすぎず、技術的解決にはならない。連接する駆動、調整機構をフレーム外側に出しながら、駆動、調整に支障を与えず、かつ強大なラジアル荷重に耐えるように、回転体である版胴装置を固定体であるフレームに支承させ、なおかつ機械としての耐久性をもたせる工夫があって初めて、具体的技術解決といえるのであり、右軸をフレームの外へ出すために、印刷機構成部分のどこをフレームに乗せてもよいというものではない。これを本件発明は大径部側においては大径部の支持軸を、小径部側においては円筒に固着した軸をそれぞれフレームに円周方向及び軸方向に移動可能に支承させることにより解決したのである。したがって、小径部側において何を、いかにフレームに支承させているかは本件発明の必須構成要件といわなければならない。

本件発明の軸は、フレーム外からの調整と駆動を円筒に伝える機能のほかに、大径部の支持軸とあいまって強大なる版胴本体のラジアル荷重を支える機能を有するものであるのに対して、ロ号物件の軸は、右調整、駆動の機能を果たすが、版胴本体の荷重を支える機能を有するものではないことはその構成上明らかである。

(四) 本件発明の出願経過からの考察

なお、次の出願経過に鑑みれば、これらの解釈が裏付けられることは明らかである。すなわち、

(1) 控訴人が昭和六一年八月四日付けで行った手続補正では、特許請求の範囲において、「版胴の軸方向の一側部を段状の小径にし、この小径部に、一端に軸を固着した円筒を版胴に対して、常時回転および軸方向に摺動自在に嵌合し、」とされている。

本件発明では、円筒に固着させた軸21が支持軸154を支持する関係に立つ。そうすると、軸21を固着した円筒と小径部とを回転及び軸方向に摺動自在にするためには、軸21と小径部側支持軸154とを回転及び軸方向に摺動自在にしなければならない。右の補正の趣旨は、軸21プラス円筒15’と支持軸154を含めた小径部とを回転及び軸方向に摺動自在に嵌合させるという趣旨であったか、あるいは、少なくともこれを前提にする趣旨であったと思われる。

しかるところ、ロ号物件においては、駆動調整軸21は、小径部支持軸154及び小径部152の芯部に穿った穴154aに間隙を保って挿入され、その一端はニードルベアリング143を介して小径部152に支持され、またその他端はニードルベアリング54を介して軸受32に固着されたブラケット53に支持されている。したがって、ロ号物件の軸21は小径部支持軸154との間に接触がなく、両者は摺動しない。

(2) また控訴人は、前記補正において、「しばしば故障の原因となる開口部が、この発明では版胴の中央片側一か所であるので、異物が嵌合部に進入することによって生じる化学変化や摺動部の動作不良を最小限とすることがてきる」と記述している部分がある。これは、本件発明においては円筒15’と軸21が版胴へ嵌合された状態で、開孔部が中央一か所であることを明らかにしているものである。平成元年二月二二日付け手続補正では、右記載は省略されているが、そうだとしても本件発明は右のような構成、作用効果を有するものである。

控訴人のこの点に関する主張については、乙第三一号証の従来技術との比較が、昭和六一年八月四日付けの手続補正書の別紙明細書四頁から五頁にかけて記述されているところ、上記の文章の部分は、これとは離れて同明細書一八頁に発明の効果として一般的に述べられているものである。また本件発明の審理過程において、版胴の一方を小径にし、これに円筒を嵌合させる技術は公知技術として被控訴人から提出され、審理の対象とされていたのであるから、右の部分の叙述をもって、本件発明の特有の効果として記載するはずがない。

乙第三一号証の技術は円筒の両端に開口部が合計四が所、乙第三二号証のものには開口部が二か所あるにもかかわらず、本件発明は一か所としたことについて、化学変化、動作不良を最小限とした旨述べたものと解される。控訴人主張のとおりであるならば、円筒のそれぞれの外側開口部からは異物の進入はなく、考慮に値しなかったということでなければならず、また円筒外側からの異物進入を防がずして、異物が嵌合部に進入することによって生ずる化学変化や摺動部の動作不良を「最小限とする」ことにはならなかったはずである。

なお、これに対し、ロ号物件は、ピンを装着した範囲を除いては円筒と小径部との嵌合部は円筒の両端二か所に開口している。

第四  証拠関係

証拠の関係は、本件記録中の証拠に関する目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因一(控訴人の権利)

請求原因一1ないし3は、当事者間に争いがない。

二  請求原因二(被控訴人製品)

1  被控訴人が、遅くとも昭和五五年六月ころから、別紙ロ号物件目録添付図面記載のとおりの版胴装置を業として製造し、これを備えた輪転印刷機を製造販売したことは、当事者間に争いがない。

2  ロ号物件の構成

控訴人主張に係る別紙ロ号物件目録の「二 ロ号物件の構成」中、1の構成、3の構成、5のうち「前記ピン39に固着されている。」を除くその余の構成、7のうち「連絡し、かつ、円筒15’に固着した軸21は、」を除くその余の構成については、当事者間に争いがない。

そこで、当事者間に争いのある構成について検討する。

(一)  別紙ロ号物件目録の「二 ロ号物件の構成」中、2の構成について

被控訴人が製造していた版胴装置を示すものであることについて当事者間に争いのない別紙ロ号物件目録添付図面第5図、第6図によれば、右2の構成は、より正確には、「大径部側の支持軸153は、大径部151の端部に近接したフレーム4にローラーベアリング90にて回転可能に支持され、同ローラーベアリング90の軸方向移動を拘束する部材31により軸方向に移動可能にするという手段により円周方向及び軸方向に移動可能に支承させるとともに、更に該フレーム4の外へと突出し、小径部152の支持軸154は、小径部152の端部に近接したフレーム5に、ローラーベアリング100にて回転可能に支持され、同ローラーベアリング100の軸方向移動を拘束する部材32により軸方向に移動可能にするという手段により円周方向及び軸方向に移動可能に支承されている。」と表現することができるものと認められる。

(二)  右「二 ロ号物件の構成」中、4及び5の構成について

前記のとおり、軸21が支持軸154及び版胴小径部152の芯部に穿った穴154aにそれぞれ間隙を保って挿入されていることは当事者間に争いがなく、別紙ロ号物件目録添付図面第5図、第6図、原審証人川崎宏治の証言により成立の認められる乙第五号証の一・二、乙第一一号証、乙第二一号証、原審証人濱田征志朗の証言により成立の認められる乙第一〇号証、乙第二〇号証、原審証人濃明晃の証言により成立の認められる乙第一九号証、原審証人岡野保史の証言により成立の認められる乙第二二号証、原審証人川崎宏治・同濱田征志朗・同濃明晃・同岡野保史の各証言によれば、「ピン39は、支持軸154及び軸21の軸芯方向と直交するように穿った支持軸154の穴154b及び軸21の穴に、穴154bの内径よりもピン39の外径が概ね一〇ミリメートル小さい状態で、また軸21の穴には、その内径よりもピン39の外径が〇・〇一ミリメートルないし〇・〇四ミリメートルプラスマイナス〇・〇二ミリメートル小さい状態で、貫通しており、支持軸154及び版胴小径部152の芯部に穿った穴154aにそれぞれ間隙を保って挿入された軸21は、前記ピン39と前記のような寸法の関係で、摺動ないし回動可能に連結されている。」ことが認められる。

右「二 ロ号物件の構成」の5には、「軸21は、ピン39に固着されている」旨記載されているが、この点については、後記三項において検討する。

(三)  右「二 ロ号物件の構成」中、6の構成について

別紙ロ号物件目録添付図面第5図、第6図によれば、「軸21の一側は版胴の穴154aに差し入れられていて、版胴の穴154aが接しているニードルベアリング143に接しているとともに、軸21の他の一側はフレーム5の穴を通ってフレーム5の外へ突出していて、フレーム5が接している部材32が固着されている部材53が接しているところのニードルベアリング54に接しており、軸21は円周方向及び軸方向に移動可能である。」と認められる。

(四)  右「二 号物件の構成」中、7の構成について

右7の構成のうちの「連絡し、かつ、円筒15’に固着した軸21は、」との部分は、前記(二)に認定したところによれば、「連絡し、かつ、円筒15’にピン39をもって摺動ないし回動可能に連絡された軸21は、」とするのが相当であると認められる。

3  ロ号物件の構成の分説

右2の認定(争いのないものを含む。)によって特定されるロ号物件の構成は、本件発明の構成要件AないしHに対応して、次のように分説することができるものと認められる。

a  版胴3ないし3〓に装着された版の印刷図柄が、版胴3ないし3〓の駆動源であるブランケット胴2ないし2〓に転写された後、ブランケット胴2ないし2〓と圧胴1との間を通る印刷用紙に印刷される輪転印刷機の版胴装置である。

b  版胴3ないし3〓は、大径部15を一方の版胴部とし、大径部151に段状に連続した小径部152に円周方向及び軸方向に摺動可能に嵌合する円筒15を他方の版胴部として、左右のフレーム4と5の間に配置されるよう構成されている。

c  大径部151及び小径部152の各端部に、各端部に近接したフレーム4ないし5に至る支持軸153及び154をそれぞれ設けている。

d  大径部側の支持軸153は、大径部151の端部に近接したフレーム4にローラーベアリング90にて回転可能に支持され、同ローラーベアリング90の軸方向移動を拘束する部材31により軸方向に移動可能にするという手段により円周方向及び軸方向に移動可能に支承させるとともに、更に該フレーム4の外へと突出させてある。

e  小径部152の支持軸154は、小径部152の端部に近接したフレーム5にローラーベアリング100にて回転可能に支持され、同ローラーベアリング100の軸方向移動を拘束する部材32により軸方向に移動可能にするという手段により円周方向及び軸方向に移動可能に支承されている。

f  前記他方の版胴部をなす円筒15’の端部に固着されたピン受座にはピン39が固着されている。ピン39は、支持軸154及び軸21の軸芯方向と直交するように穿った支持軸154の穴154b及び軸21の穴に、穴154bの内径よりもピン39の外径が概ね一〇ミリメートル小さい状態で、また軸21の穴には、その内径よりもピン39の外径が〇・〇一ミリメートルないし〇・〇四ミリメートルプラスマイナス〇・〇二ミリメートル小さい状態で、それぞれ貫通している。軸21の一側は支持軸154及び版胴小径部152の芯部に穿った穴154aにそれぞれ間隙を保って挿入されていて、版胴の穴154aが接しているニードルベアリング143に接しているとともに、軸21の他の一側は小径部152の端部に近接したフレーム5の穴を通ってフレーム5の外へ突出していて、フレーム5が接している部材32が固着されている部材53が接しているところのニードルベアリング54に接しており、軸21は円周方向及び軸方向に移動可能である。

g  大径部側の支持軸153は、フレーム4の外側において駆動源であるブランケット胴2ないし2〓の軸901によって駆動され得るよう伝動連結されるとともに、軸方向調整機構903及び円周方向調整機構904に連絡し、かつ前記軸21は、フレーム5の外側において同じく駆動源であるブランケット胴2ないし2〓の軸902によって駆動され得るよう伝動連結されるとともに、軸方向調整機構903’及び円周方向調整機構904’に連絡させてある。

h  一方の版胴部と他方の版胴とが、それらの同一駆動源であるブランケット胴2ないし2〓に対して、それぞれ個別に回転位相と軸方向の位置を調整されるようにしてある。

i  輪転印刷機における版胴装置。

(以下、各々のロ号物件の構成を、「ロ号物件の構成a」、「ロ号物件の構成b」などという。)。

4  ピンと軸との間の間隙

控訴人は、ロ号物件においてピンと軸との間に間隙が存在するという被控訴人の主張は不自然であり、間隙を設けるとすると技術上問題であって、被控訴人の反証は信用できない旨主張する(請求原因二3(二)ないし(四))ので、この点について検討する。

(一)  控訴人は、前記乙第五号証の一について、訂正部分の訂正者や訂正日時が明らかではないこと、設計変更の場合の図面の一般的な取扱いに反していることなどを理由として、同号証の記載内容の信憑性を問題にする。

しかしながら、乙第五号証の一の「連結ピン」と題する現場図が昭和五四年六月二八日に作成されたものであること、右作成時のピンの基準外形寸法(φ55)の製作上の公差として、「+0.051、+0.032」と記載されていたが、昭和五五年一月二八日頃に抹消され、その右側に「相手ピン受座KB82417、駆動KB82406に現合、スキ間0.01」と記載されたことは、同号証の訂正欄の記載や前記乙第一一号証に照らして明らかである。そして、右「相手ピン受座・・・に現合、スキ間0.01」の記載の右下に「-0.01、-0.02」との記載とその抹消、右「相手ピン受座・・・に現合、スキ間0.01」の記載の上部(「使用要具」との記載の下部)に「-0.02、-0.03工程奥3/23」との記載がなされているところ、前者の記載とその抹消を行った者及びその日時については明らかではないが、前記乙第二二号証及び原審証人岡野保史の証言によれば、昭和四七年から昭和六三年まで被控訴人会社において円筒研削盤作業に従事していた岡野保史は、乙第五号証の一の現場図に基づいて、「現合、スキ間0.01」(実際に加工された軸穴の内径とピンの外径との間に0.01ミリメートルの隙間があること)による研摩作業、右「-0.01、-0.02」(ピンの基準外径「寸法(φ55)より直径で〇・〇一~〇・〇二ミリメートル小さくするようにすること)、「-0.02、-0.03」(同じく〇・〇二~〇・〇三ミリメートル小さくするようにすること)による研磨作業を行ったことがあること、前記「相手ピン受座・・・に現合、スキ間0.01」の記載の上部(「使用要具」との記載の下部)には、「-0.01、-0.02」と記載され(この記載を行った者及びその日時は明らかではない。)、その寸法で研磨作業が行われていたが、「-0.02、-0.03」の寸法で研磨作業が行われるようになり(右作業が行われるようになったはっきりした日時は不明であるが、昭和六二年三月以前である。)、それに伴い、右岡野は、作業長の指示により、「-0.02、-0.03」と訂正したものであること、右岡部は、工程係の奥野に対して、「-0.02、-0.03」の寸法で研磨作業を行うことの確認をし、その旨を「工程奥 3/23」と記載したものであることが認められる。

右のとおり、右各「-0.01、-0.02」の記載や抹消を行った者、その日時については明らかではないが、前記乙第二二号証及び原審証人岡野保史の証言により認め得る右各事実、右各記載や抹消が行われてから相当の期間が経過しているものと考えられることからして、乙第五号証の一の記載内容の信憑性に特に欠けるところがあるとは認められない。

(二)  成立に争いのない甲第一二号証の二によれば、本件特許権侵害差止等請求事件を本案とする仮処分事件(東京地方裁判所平成元年(ヨ)第二五六二号)において、被控訴人(債務者)が提出した答弁書に添付された「申請に係るイ号図面の開発経緯」と題する書面には、「昭52年9月~昭53年5月」の項に「当社は上記不具合を一掃して実用化すべく、円筒15’をいかに軸に固着させずにフレームの外へ出せるかの工夫を原点に戻って再出発し、左記期間試験研究した結果、申請書添付のイ号図面に係る版胴装置に思い至り、同版胴装置を試作した。」と記載されていることが認められるが、右記載は、「昭52年5月26日」の項の記載に続くものであり、同項の記載によれば、前記「円筒15’をいかに軸に固着させず」における「固着」とは、本件発明のように軸を直接円筒に固着するものをいうものと認められ、被控訴人が、イ号物件について、円筒と軸とを固着させないとしているわけではないと認められるから、右「円筒15’をいかに軸に固着させず」との記載があることを前提として、被控訴人の主張に控訴人のいう主張のような変遷があったものとすることはできない。

また、成立に争いのない甲第一二号証の四によれば、右仮処分事件において提出された被控訴人(債務者)の平成元年一二月六日付け準備書面(第一回)に添付されている「イ号物件不具合項目リスト」には、軸とピンとが摺動ないし回動していた旨の記載はないことが認められるが、後記(四)に認定のとおり、北海道新聞に納入された、締まりばめ方式を採用したイ号物件はピンが回動していたものである。

さらに、控訴人は、被控訴人が昭和五三年五月一二日に試運転後の解体検査を行った時点で軸とピンとの摺動の事実が判明したはずであるから、固着の出願(出願日 昭和五三年一〇月二三日)をしているのは矛盾している旨主張しているが、ピンが回動している事実が判明したのは、後記(四)に認定のとおり、昭和五四年一二月である。

(三)  控訴人は、ピンと軸とが摺動ないし回動しているとすると、ピンは版胴の運転中まるでピストンのように激しく動き回ることになり、円筒とピンとは固着されているから、円筒が絶えずピンの動きにつれて振れることにより軸と円筒の中心線がずれて、印刷品質が落ちることになる旨主張するが、ピンの動きにつれて円筒が振れるとは考えにくく、採用することができない。

また、控訴人は、軸とピンとの間に〇・〇四ミリメートルプラスマイナス〇・〇二ミリメートルの間隙が保たれていて、をれが摺動ないし回動したりするものと仮定すると、軸の直径と版胴の直径は約三倍の差があるから、見当誤差が出ることになり、見当合わせの精度が維持できないき主張し、当審証人河原公明は右主張に沿う供述をしているが、同証人の供述によっても、印刷面にぶれを起こすショックの主たる発生源は版胴の溝であることが認められ、右のような間隙の存在によって当然に見当誤差が出るとは考えにくく、少なくとも右証人の供述をもって前記乙第五号証の一の信憑性を否定する一資料とすることはできない。

(四)  前記乙第五号証の一を含む前記2掲記の各証拠、及び弁論の全趣旨により成立の認められる乙第六号証によれば、被控訴人は、ピンと軸との嵌合につき固着を意図して、締まりばめ方式を採用したイ号物件(試験機)を製造して、昭和五三年一一月に北海道新聞に納入したこと、しかし、右試験機の約一年間のフィールドテストの結果、昭和五四年一二月一六日から一八日までの間に行われた調査により、印刷精度には問題がなかったものの、ピンが回動していることが判明したこと、しかして、被控訴人は、ピンと駆動調整軸を固着させた場合には、版胴よりのラジアル荷重によりピンを介して軸に無理な負担がかかり、変形、破損、磨耗等の悪影響の発生が懸念されたため、これを避けるため、逆に、ピンと軸との間に隙間を設け、両者を摺動ないし回動可能にして、ラジアル荷重を隙間によって逃がすこととし、また、版胴をフレーム内に組み込んで駆動軸と連結ピンを版胴内に組み込む際に締まりばめ方式では困難なことから、締まりばめ方式を取り止めて間隙を設けることとし、昭和五五年一月に、現合により、ピンと軸穴間に〇・〇一ミリメートルの間隙を設ける方式を採用したロ号物件(第一号機)を製造して、同年六月に長崎新聞社に納入したこと、その後、ロ号物件において、ピンと軸穴との間隙は順次拡大され、製作上の便宜や印刷精度への影響等を考慮して、最終的(遅くとも昭和六二年頃)には、〇・〇四ミリメートルプラスマイナス〇・〇二ミリメートルとなったことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上のとおりであって、控訴人の前記主張は採用することができない。

三  請求原因三(本件発明とロ号物件との対比)

1  ロ号物件の本件発明の構成要件該当性

右二に認定したロ号物件の構成と本件発明の構成要件とを対比すると、次のとおりであると認められる。

(一)  ロ号物件の構成aは、本件発明の構成要件Aに該当する。

(二)  ロ号物件の構成bは、本件発明の構成要件Bに該当する。

(三)  ロ号物件の構成cは、本件発明の構成要件Cに該当する。

(四)  ロ号物件の構成dは、本件発明の構成要件Dに該当する。

(五)  ロ号物件の構成gは、本件発明の構成要件Fのうち、「前記軸」が「円筒に固着した」ものである点を除くその余の部分に該当する。

(六)  ロ号物件の構成hは、本件発明の構成要件Gに該当する。

(七)  ロ号物件の構成iは、本件発明の構成要件Hに該当する。

(八)  ロ号物件の構成fのうち「前記他方の版胴部をなす円筒15’」は、本件発明の構成要件E中の「前記他方の版胴部をなす円筒」に、ロ号物件の構成fのうち「軸21の他の一側は小径部152の端部に近接したフレーム5の穴を通ってフレーム5の外へ突出して」いることは、本件発明の構成要件E中の「該軸を前記小径部の端部に近接した」「該フレームの外へと突出させ」にそれぞれ該当するものと認められる。また、ロ号物件の構成fのうち「軸21の他の一側は小径部152の端部に近接したフレーム5の穴を通ってフレーム5の外へ突出していて、・・・軸21は円周方向及び軸方向に移動可能である。」ことは、本件発明の構成要件E中の「該軸」が「前記小径部の端部に近接したフレーム」に対し「円周方向及び軸方向に移動可能」である関係に相当し、ロ号物件の構成fのうち「軸21の一側は支持軸154及び版胴小径部152の芯部に穿った穴154aにそれぞれ間隙を保って挿入されていて、・・・軸21は円周方向及び軸方向に移動可能である」ことは、ロ号物件の構成eと併せると、本件発明の構成要件Eの円筒に固着される「軸」が「小径部側の前記支持軸に対し円周方向及び軸方向に移動可能な」関係に相当するものと認められる。

(九)  したがって、問題は、ロ号物件が、本件発明の構成要件E中の「円筒には、・・・軸を固着し、」という構成、「該軸を・・・フレームに・・・に支承させる」という構成を具備すると認められるか否かにある。この点については、次に項を改めて検討する。

2  軸の「固着」と「支承」

(一)  明細書の技術用語は学術用語を用いること(特許法施行規則二四条、様式29備考7)、用語はその有する普通の意味で使用し、かつ、明細書全体を通じて統一して使用すること、特定の意味で使用しようとする場合には、その意味を定義して使用すること(同備考8)とされているから、明細書の用語を解釈するに当たっては、右規定の趣旨をも参考にすべきところ、一般の国語辞書には、「固着」について、「物が他の物にしっかりとくっつくこと」(三省堂発行「大辞林」)、「他のものにしっかりくっつくこと」(小学館発行「大辞泉」)、「物などがかたくつくこと」(講談社発行一日本語大辞典」)、「物などがしっかり着いて離れないこと。かたくつくこと」(小学館発行「国語大辞典」)などと定義されており、成立に争いのない乙第八号証の一ないし四によれば、特許明細書に「固着」の語が用いられる場合の一般的意味として、「固定した形で取りつける。」と説明される場合があることが認められる。

また、成立に争いのない甲第一一号証によれば、特許明細書に「支承」の語が用いられる場合の一般的意味として、「取りはずし可能な状態にて支える。」と説明される場合があることが認められるが、他方、一般の国語辞書には、「支」の文字は、「ささえる」、「つかえる」(前記「大辞林」、「大辞泉」)等の字義を有し、「承」の文字は、「うけいれる」、「ひきうける」(前記「大辞林」)、「うける」(前記「大辞泉」)等の字義を有するものとされている。

(二)  成立に争いのない甲第二号証によれば、本件明細書(別紙「特許法第64条の規定による補正の掲載」欄写し参照)の発明の詳細な説明の項には、本件発明の目的について、「軸方向左右に振り分けた版装着部のそれぞれを版を取付けた状態で、しかも運転中に個々別々に円周方向および軸方向に微動調整を行うことができ、これにより極めて容易にかつ短時間内で版の見当合せができるようにした輪転印刷機における版胴装置を提供しようとするものである。」(同号証一頁下から七行ないし四行)と記載されていることが認められ、また、本件発明の作用効果は請求原因一3に記載のとおりである(この点は当事者間に争いがない。)ところ、成立に争いのない甲第五一号証、乙第一号証によれば、本件発明は、「前記他方の版胴部をなす円筒には、小径部側の前記支持軸に対し円周方向及び軸方向に移動可能な軸を固着し、該軸を前記小径部の端部に近接したフレームに円周方向及び軸方向に移動可能に支承させるとともに、更に該フレーム外へと突出させ」ている構成、及び、「大径部側の前記支持軸と、円筒に固着した前記軸とをそれぞれフレームの外側において、駆動源のブランケット胴の左右軸によって各々駆動され得るよう伝動連結するとともに、それぞれの軸方向調整機構及び円周方向調整機構に連絡させ」ている構成が新規のものとして特許を受けたものであることが認められる。

本件発明が右各構成を採択しているのは、駆動源のブランケット胴の一方の軸によって駆動されるように伝動連結されるとともに、軸方向調整機構及び円周方向調整機構に連絡させた軸を円筒に「固着」することによって、他方の版胴部となる前記円筒が、大径部及び小径部とは同速であっても独立に回転する駆動力を伝達すると共に、軸方向調整機構及び円周方向調整機構による軸方向又は円周方向への微動調整する力を円筒に伝達することによって、円筒を大径部及び小径部とは独立的に軸方向又は円周方向に調整する作用を果たすことを企図してのものであると認められる。

ところで、本件発明が輪転印刷機における版胴装置に関するものである以上、「大径部を一方の版胴部とし、大径部に段状に連続した小径部に円周方向及び軸方向に摺動可能に嵌合する円筒を他方の版胴部として、左右のフレーム間に配置される」版胴は、相当の自重を有し、かつ、印圧等のラジアル荷重を受けつつ、円周方向に高速度で回転するものであるから、大径部と小径部からなる基胴の自重と印圧等のラジアル荷重を最終的にはフレームに支えさせる必要があることは自ずから明らかである。

そして、「フレームに至る」という構成と「フレームに支承させる」という構成がそれぞれ有する技術的意義が異なることは明らかであるが大径部側においては、「大径部の端部に、端部に近接したフレームに至る支持軸を設け」、「大径部側の前記支持軸を前記大径部の端部に近接したフレームに円周方向及び軸方向に移動可能に支承させる」構成によって、支持軸をフレームに支持させて、支持軸を回転の軸とするとともに、基胴の自重及び印圧等のラジアル荷重をフレームに支えさせているものと認められる。

これに対し、小径部側においては、小径部の端部に設けられた支持軸については「端部に近接したフレームに至る」ものとされているが、他方、小径部に嵌合した円筒に固着された軸を、「小径部の端部に近接したフレームに円周方向及び軸方向に移動可能に支承させるとともに、更に該フレーム外へと突出させ」、「フレームの外側において、駆動源のブランケット胴の軸によって駆動され得るよう伝動連結するとともに、軸方向調整機構及び円周方向調整機構に連絡させ」ていることとの関係上、軸と支持軸との関係、すなわち、小径部の端部に設けられた支持軸をどのように支持して回転の軸とし、小径部側では基胴の自重及び荷重をどのようにしてフレームに最終的に支えさせるかについては明らかではなく、「小径部側の前記支持軸に対し円周方向及び軸方向に移動可能な軸」とする限定がなされているにすぎない。

(三)  そこで、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面をみると、本件発明の唯一の実施例について、「左側の小径部152の外周面には円筒15’が、小径部の外周面に対して円周方向および軸方向に摺動可能に嵌合している。」(甲第二号証二頁一五行、一六行)、「円筒15’の端部は、基胴の一端部(左端部)にある支持軸154に円周方向および軸方向に移動自在に設けた軸21に、数個のねじ22で固定されていて、この軸21はフレーム5に嵌合されたスリーブ23に装着されたローラベアリング24にて保持され駆動軸部を形成している。」(同頁二一行ないし二三行)と記載され、第5図及び第6図には、軸21の外径は、前記円筒に接する部分では円筒の外径とほぼ同径で、フレーム5の位置からフレーム外への突出部分の方向に順次段階的に細くなるが、軸21の、円筒側の端部からフレーム5の厚さの大半に位置するまでは、軸21と同軸で順次口径が小さくなるような円筒(但し、最奥部は円錐)を除去した中空となっており、右中空部に支持軸154が嵌合している状況が図示されていることが認められる。そして、右構成に関して、「駆動軸8を回転することによりベベルギア10、11を介して共通圧胴1が回転され、これによりブランケット胴2が回転される。このブランケット胴2の回転により大径部151を一部とする基胴はヘリカルギア13、14の噛合により回転駆動される。また基胴の小径部15に嵌合した円筒15’は、ブランケット胴2の他端側に設けた駆動側のヘリカルギア28、従動側のヘリカルギア33、ギヤカップリング31、インターナルギア30、エキスターナルギア29を介して軸21と共に前記大径部151を一部とする基胴と同一回転数で回転駆動される。」(同号証三頁一三行ないし一八行)と記載されていることが認められる。

これらの記載及び図示によれば、本件発明の実施例のものにおいては、円筒15’には、右円筒15’に接する部分では円筒の外径とほぼ同径で外方向へ順次段階的に細くなる一部中空の軸21が数個のねじ22で固定されており、基胴の小径部側の支持軸154は、軸21の中空部に嵌合され、軸21と同一回転数で回転駆動されるのであるから、小径部側の支持軸154は、軸21の中空部の周壁に支持されて回転の軸となり、基胴の自重及び荷重は、小径部側では、支持軸154の負荷が、軸21、軸21を保持するローラベアリング24、スリーブ23を介してフレーム5に支えられているものと認められる。

(四)  次に、当事者間に争いのない請求原因一1の事実、前記甲第五一号証、乙第一号証、いずれも成立に争いのない甲第一号証ないし甲第三号証、甲第三〇号証、甲第三一号証、甲第四〇号証、甲第四四号証、甲第四五号証、甲第四七号証、甲第五〇号証、乙第三〇号証によれば、本件発明は、昭和五九年八月二日出願公告されたが、特許異議の申立があり、昭和六一年三月二五日特許異議の申立は理由がある旨の決定とともに、拒絶査定がなされたこと、右出願公告の内容は別紙特許公報(昭五九-三一四六七)写しのとおりであること、控訴人は、昭和六一年七月四日拒絶査定不服審判請求を行うとともに、同年八月四日付け手続補正書をもって特許請求の範囲を含む明細書全文を補正したこと(この補正を以下「昭和六一年補正」という。)、右補正後の特許請求の範囲は、別紙「昭和61年補正後の特許請求の範囲」記載のとおりであること、控訴人は、平成元年二月二二日付け手続補正書をもって、特許請求の範囲を含む明細書全文及び図面を補正し(この補正を以下「平成元年補正」という。その内容は別紙「特許法第64条の規定による補正の掲載」写しのとおりである。)、平成元年三月三〇日、「原査定を取り消す。本願の発明は、特許をすべきものとする。」との審決を受けたことの各事実が認められる。

ところで、昭和六一年補正、平成元年補正はいずれも、補正の当時施行の平成五年法律第二六号による改正前の特許法六四条所定の出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達があった後に行われた補正であるが、同法六四条一項、二項の要件(補正は、特許請求の範囲の減縮・誤記の訂正・明瞭でない記載の釈明のいずれかを目的とするものに限られ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであってはならない。)を充足するものとして却下されることなく補正が認められた結果、本件発明は特許されるに至ったものであるから、平成元年補正による現在の特許請求の範囲の記載に基づく本件発明の技術的範囲の解釈に当たっても、そのことを前提として、出願公告時及び昭和六一年補正後の各明細書及び図面の記載を参酌することができるものであるところ、版胴と円筒の関係等について、前記認定のとおり、出願公告時の特許請求の範囲の記載中には、「印刷機の版胴の軸方向の一側部を段状の小径にし、この小径部に、一端に軸を固着した円筒を版胴に対して回転および軸方向に摺動自在に嵌合し、この版胴と円筒の軸とをそれぞれフレームに対して軸方向に移動自在に支承する」と記載され、昭和六一年補正後の特許請求の範囲の記載中には、「印刷機の版胴の軸方向の一側部を段状の小径にし、この小径部に、一端に軸を固着した円筒を版胴に対して常時回転および軸方向に摺動自在に嵌合し、この版胴の軸と円筒の軸とをそれぞれフレームに対して軸方向に移動自在に支承する」と記載されている。

そして、出願公告時及び昭和六一年補正後の明細書に記載されている実施例及び図面の内容は、実質的に前記(三)に認定したところと同じであり、他に具体的構成は開示されていない。

前記「摺動自在」における「自在」という語は、「思いのままであること。束縛や障害のないこと、心のまま。」といった意味を有するものである(前記「大辞林」、「大辞泉」等)から、出願公告時及び昭和六一年補正後の特許請求の範囲の記載では、「一端に軸を固着した円筒」が版胴に対して回転方向及び軸方向に自在に、すなわち束縛や障害がなく摺動する状態で嵌合するものとされていたものである。

ここで、小径部側においてフレームに対して支承されるのは円筒の軸とされているのであるから、小径部の端部に設けられる支持軸がフレームに至るとすると、円筒の軸は支持軸を支持する関係となり、そうとすると、軸を固着した円筒を版胴に対して回転方向及び軸方向に摺動自在にするためには、軸と支持軸とを回転方向及び軸方向に摺動自在としなければならないと考えられ、出願公告時及び昭和六一年補正後の特許請求の範囲の記載からは、円筒と軸が、支持軸を含めた小径部を回転方向及び軸方向に摺動自在に嵌合している構成、支持軸と軸との関係でいえば、支持軸が軸の中空部に嵌合されている構成以外に想定することができず、出願公告時や昭和六一年補正後の明細書を見ても、右以外の具体的構成は開示されていない。

(五)  前記(一)ないし(四)に認定、説示した、「支」及び「承」の字義、本件発明において大径部と小径部からなる基胴の自重と印圧等のラジアル荷重を最終的にはフレームに支えさせる必要があることは明らかであること、本件明細書の発明の詳細な説明中の実施例の記載及び図面、本件発明の出願経過において版胴と円筒の関係等につき開示された事項等を総合的に参酌すると、本件発明の構成要件E中の「該軸を・・・フレームに・・・支承させる」という構成は、円筒に固着された軸が直接フレームに支持されるとともに、軸の中空部に嵌合された小径部側の支持軸を支持し、小径部の支持軸の負荷及び自らの負荷がフレームに支えられることを意味するものと認めるのが相当である。

そして、前記(一)に認定の「固着」の一般的意味、本件明細書には、本件発明の実施例ではあるが、円筒と軸との固着の仕方について、「円筒15’の端部は、基胴の一端部(左端部)にある支持軸154に円周方向および軸方向に移動自在に設けた軸21に、数個のねじ22で固定されていて、」(甲第二号証二頁二一行、二二行」と記載されていること、円筒固着軸は見当調整及び駆動という機能だけではなく、基胴の自重及び印圧等のラジアル荷重を受け止めてフレームに支承させるという機能も担っているのであるから、円筒に軸を固着する態様は、緊密なもの、すなわち隙間なく付着しているような態様である必要があるものと認められることからすると、本件発明の構成要件E中の「円筒には、・・・軸を固着し、」との構成における「固着」は、円筒と軸とが「しっかりとくっついている」態様、あるいは「固定した形でくっついている」態様を示すものとして用いられているものと認めるのが相当である。

成立に争いのない甲第一五号証ないし甲第一七号証によれば、特許庁が広範な産業分野において利用されている固着技術を特許・実用新案公報を中心として体系的に整理した図書には、固着の対象となる部材相互が全く動かないように固く取り付けられていない場合も記載されていることが認められるが、本件発明は、「固着」について右のような態様を想定していないものと認められる。

(六)  これに対し、ロ号物件においては、円筒15’の端部に固着されたピン受座にはピン39が固着され、ピン39は、支持軸154及び軸21の軸芯方向と直交するように穿った支持軸154の穴154b及び軸21の穴に、支持軸の穴154bの内径よりもピン39の外径が概ね一〇ミリメートル小さい状態で、また軸21の穴には、その内径よりもピン39の外径が〇・〇一ミリメートルないし〇・〇四ミリメートルプラスマイナス〇・〇二ミリメートル小さい状態で、貫通しており、支持軸154及び版胴小径部152の芯部に穿った穴154aにそれぞれ間隙を保って挿入された軸21は、前記ピン39と前記のような寸法の関係で摺動ないし回動可能に連結されているから、軸21とピン39が「しっかりとくっついている」、あるいは「固定した形でくっついている」とは認められず、したがって、円筒15’に軸21が「しっかりとくっついている」、あるいは「固定した形でくっついている」とは認められず、ロ号物件は、本件発明の構成要件E中の「円筒には・・・軸を固着し、」を充足しないものというべきである。

また、ロ号物件においては、軸21は、小径部側の支持軸154の中を貫通し、小径部の端部に近接したフレーム5の穴を通ってフレーム5の外へ突出していて、ニードルベアリング54、部材53、32を介してフレーム5に支えられているが、小径部側の支持軸154は、直接、ローラーベアリング100、部材32を介してフレーム5に支えられており、支持軸154にかかる負荷は軸21にかかることなくフレーム5に支えられ、軸21は支持軸154を支持するものではなく、支持軸154にかかる負荷をフレーム5に伝える役割を担っていないものと認められるから、ロ号物件の軸21がフレーム5に支持されている状態は、前記(五)に認定した本件発明の構成要件E中の「該軸を・・・フレームに・・・支承させる」という構成(すなわち、円筒に固着された軸が直接フレームに支持されるとともに、軸の中空部に嵌合された小径部の支持軸を支持し、小径部の支持軸の負荷及び自らの負荷がフレームに支えられること)に該当するものとは認められない。

(七)  以上のとおりであって、ロ号物件は、本件発明の構成要件Eを充足しないものというべきである。

そして、ロ号物件では、軸21が小径部側の支持軸154にかかる負荷を負担しないため、見当調整のために軸21を通じて小径部側の版胴となる円筒15’を円周方向及び軸方向に調整する際、その操作が本件発明に比べて容易であるという作用効果を奏するものと認められる。

3  控訴人の主張についての検討

(一)  控訴人は、被控訴人がした実用新案登録出願の経過からしても、ロ号物件においては、ピンと軸とは固着されているとみるべきである旨主張する(請求原因二3(一))。

成立に争いない甲第五号証、甲第九号証の一ないし四によれば、被控訴人は、昭和五三年一〇月二三日、名称を「倍判サイズ印刷機」とする考案について実用新案登録出願をしたこと、右出願考案の実施例として掲示されたものは、本件明細書に記載された実施例とほとんど同様のもの(第一実施例)と別紙イ号物件目録添付図面記載のものと同様のもの(第二実施例)であったこと、右出願明細書の考案の詳細な説明には、第二実施例記載のものについて、「(27)はピンで第2版胴(26b)と、第1版胴(26a)の右端に挿入された駆動軸(28)の夫々に固着されて、」(甲第九号証の一第八頁一七行ないし一九行)と記載されていること、昭和五九年八月二九日に本件発明を引用例として拒絶理由通知がなされたため、被控訴人は、同年一一月一六日付け手続補正書をもって第二実施例に限定する補正を行ったが、補正明細書の実用新案登録請求の範囲中には、「前記一方の版胴の小径部端には駆動軸が挿入され、同駆動軸、一方の版胴及びスリーブ形状の他方の版胴には軸心方向と直交するようにピンを挿入し、同駆動軸及び他方の版胴は同ピンに固着されて連結されると共に、」と記載されていることが認められる。

被控訴人がロ号物件を製造したのは遅くとも昭和五五年六月であるから、右補正手続はロ号物件の製造開始後になされたものということになるが、被控訴人の、軸とピンとの連結方法につき第二実施例は固着としていたため、補正後も固着としなければ第二実施例と異なってしまうことになり、ロ号物件のように隙間を設ける場合を含めるようにすると要旨変更とされるおそれがあったことから、補正において固着と明記したものである旨の主張は、それなりに納得できるところもあり、現実に製造されているロ号物件がイ号物件とその構成を異にし、駆動軸(軸21)とピン(ピン39)が固着しているものとは認められない以上、補正明細書に右のような記載があるからといって、ロ号物件において、軸とピンとが固着しているものと認定することはできない。

(二)  控訴人は、本件発明の目的からすれば、本件特許請求の範囲にいう「固着」は、通常の見当調整が支障なく行える程度に動かないよう構成されていれば十分であり、ロ号物件が通常の見当調整を行える装置である以上、ピンと軸とが固着していることを示している旨主張する(請求原因三2(一))。

前記2(二)に説示のとおり、本件発明において、「他方の版胴部をなす円筒には、小径部側の前記支持軸に対し円周方向及び軸方向に移動可能な軸を固着し、該軸を前記小径部の端部に近接したフレームに円周方向及び軸方向に移動可能に支承させるとともに、更に該フレーム外へと突出させ、」、「大径部側の前記支持軸と、円筒に固着した前記軸とをそれぞれフレームの外側において、駆動源のブランケット胴の左右軸によって各々駆動され得るよう伝動連結するとともに、それぞれの軸方向調整機構及び円周方向調整機構に連絡させ」る構成としたのは、駆動源のブランケット胴の一方の軸によって駆動されるように伝動連結されるとともに、軸方向調整機構及び円周方向調整機構に連絡させた軸を円筒に「固着」することによって、他方の版胴部となる前記円筒が、大径部及び小径部とは同速であっても独立に回転する駆動力を伝達するとともに、軸方向調整機構及び円周方向調整機構による軸方向又は円周方向への微動調整する力を円筒に伝達することによって、円筒を大径部及び小径部とは独立的に軸方向又は円周方向に調整する作用を果たすことを企図してのものであるが、上記作用を果たすものであれば、どのような態様のものでも軸とピンが「固着」しているものと認定、判断することは、「固着」という用語が本来有する一般的意味、及び、円筒固着軸は見当調整及び駆動という機能だけではなく、基胴の自重及び印圧等のラジアル荷重を受け止めてフレームに支承させるという機能も担っていることに照らすと相当ではなく、ロ号物件が通常の見当調整を行うことができるからといって、軸とピンが「固着」しているものと認めることはできない。

したがって、控訴人の右主張は採用することができない。

(三)  控訴人は、本件特許請求の範囲にいう「支承」とは、単に「取りはずし可能な状態にて支える」という一般的な意味を有するにすぎないところ、ロ号物件において、軸21がニードルベアリング54、部材53、部材32を介してフレーム5に支えられていることは明らかである旨主張する(請求原因三3(一))。

しかし、本件特許請求の範囲にいう「支承」が、単に「取りはずし可能な状態にて支える」という意味合いを有するものとして用いられているものではなく、前記2(五)に説示したとおり、構成要件Eの「該軸を・・・フレームに・・・支承させる」という構成は、円筒に固着された軸21が直接フレーム5に支持されるとともに、軸21の中空部に嵌合された小径部側の支持軸154を支持し、支持軸154の負荷及び自らの負荷がフレーム5に支えられることを意味しているところ、ロ号物件における駆動調整軸21は、前記2(六)に説示したとおり、ニードルベアリング54、部材53、部材32を介してフレーム5に支えられているが、小径部の支持軸154を支持するものではなく、支持軸154にかかる負荷をフレームに伝える役割を担っていない(支持軸154もフレーム5に支えられており、支持軸154にかかる負荷は駆動調整軸21にかかることがない)から、本件発明の構成要件Eにおける前記構成とは異なるものというべきである。

したがって、控訴人の右主張は採用することができない。

(四)  控訴人は、ロ号物件も、大径部側の支持軸と小径部側の支持軸がフレームに至っているし、大径部側の支持軸と小径部側の円筒に固着した軸とはフレームに支承されているのであって、本件発明もロ号物件も、共にフレームに至り、支承されている部材は同一である旨、本件発明の特許請求の範囲において、円筒固着軸が、小径部側の支持軸の「外周」に遊嵌されているか、ロ号物件のように、小径部側の支持軸の「中空部内」に遊嵌されているかについて何ら限定されていない旨主張する(請求の原因三3(三))。

しかし、ロ号物件において、本件発明のような構成で円筒に「固着」された軸がフレームに「支承」されているとは認められないことは、前記2(五)、(六)に説示したとおりである。また、本件発明の特許請求の範囲において、円筒固着軸は小径部側の支持軸の「外周」に遊嵌されている旨明示的に記載されているわけではないが、前記2(五)に説示のとおり、本件発明においては、軸の中空部に小径部側の支持軸が嵌合されているものと解釈されるのである。

したがって、控訴人の右主張も失当である。

4  まとめ

以上のとおりであるから、ロ号物件は、本件発明の技術的範囲に属するものとは認められない。

四  結論

よって、控訴人の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がなく、これを棄却した原判決は正当であるから、民訴法三〇二条、六七条一項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論の終結の日 平成一〇年六月二日)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

第2部門(4) 特許法第64条の規定による補正の掲載 平1.11.28発行

昭和52年特許願第47812号(特公昭59-31467号、昭59.8.2発行の特許公報2(4)-47〔327〕号掲載)については特許法第64条の規定による補正があつたので下記のとおり掲載する。

特許第1512923号

Int.Cl.4B 41 F 13/12 識別記号 庁内整理番号 7318-2C

1 「特許請求の範囲」の項を「1 版胴に装着された版の印刷図柄が、版胴の駆動源であるブランケツト胴に転写された後、ブランケツト胴と圧胴との間を通る印刷用紙に印刷される輪転印刷機の版胴装置において、

前記版胴は、大径部を一方の版胴部とし、大径部に段状に連続した小径部に円周方向および軸方向に摺動可能に嵌合する円筒を他方の版胴部として、左右のフレーム間に配置されるよう構成し、

前記大径部および小径部の各端部に、各端部に近接したフレームに至る支持軸をそれぞれ設け、

大径部側の前記支持軸を前記大径部の端部に近接したフレームに円周方向および軸方向に移動可能に支承させると共に、更に該フレーム外へと突出させ、

前記他方の版胴部をなす円筒には、小径部側の前記支持軸に対し円周方向および軸方向に移動可能な軸を固着し、該軸を前記小径部の端部に近接したフレームに円周方向および軸方向に移動可能に支承させる共に、更に該フレーム外へと突出させ、

大径部側の前記支持軸と、円筒に固着した前記軸とをそれぞれフレームの外側において、駆動源のブランケツト胴の左右軸によつて各々駆動されうるよう伝動連結すると共に、それぞれの軸方向調整機構および円周方向調整機構に連絡させ、

前記一方の版胴部と前記他方の版胴部とが、それらの同一駆動源であるブランケツト胴に対して、それぞれ個別に回転位相と軸方向の位置を調整されるようにしたことを特徴とする輪転印刷機における版装置」と補正する。

2 「発明の詳細な脱明」の項を「本発明は、輪転印刷機における版胴装置で、特に1本の版胴において軸方向左右に振分けてそれぞれ別個に版を取付けることができるようにした版胴装置に関するものである。

この種の版胴装置は、版を一枚にすると版幅が広くなりすぎ、版が大きくなつてその取扱いが困難であつたり、また工場の製版能力がなかつたりする場合に、版を2列にして版の大きさを半分にして上記問題を解決したものであるが、この場合一般には左右の版の取付部は円周上である距離だけ位相をずらせて左右の版の各取付部に同時に印圧が抜けないようにして印刷紙の安定を図つている。

ところで従来の上記版胴装置の左右の各版のそれぞれの見当合せは、左側または右側のどちらかの側のみを見当合せ装置に従つて合わせることができるが他の側は版を版胴に取付けた状態では製版上の精度誤差や版胴の版の装着装置の製作誤差により各色刷の場合に見当ずれがまぬがれない。そこで機械を停止して版の装着装置をゆるめて版を手で移動するとか、調整機構を手動で動かして行なうために見当合せに非常に多くの時間と手間を要した。

本発明は以上のことにかんがみなされたもので、軸方向左右に振り分けた版装着部のそれぞれを版を取付けた状態で、しかも運転中に個々別別に円周方向および軸方向に微動調整を行なうことができ、これにより極めて容易にかつ短時間内で版の見当合せを行なうことががきるようにした輪転印刷機における版胴装置を提供しようとするものである。

以下その構成を図面に示した実施例に基づいて説明する。

第1図は一般的なオフセツト多色刷転輪印刷機の印刷胴の配例を示すもので、フレーム5の中央の共通圧胴1へ印刷用紙7はガイドロール6を経て巻かれて矢印の方向へ走行する。2、2’、2〓、はブランケツト胴であり、3、3〓、3〓、は版胴である。版胴から印刷図柄はブランケツト胴へ転写されて共通圧胴1に巻かれた印刷用紙7上に印刷する。

第2図は上記多色刷輪転印刷機の駆動部を示したもので、フレーム4に軸受9で支承された駆動元軸8の先端に固着したベベルギヤ10と共通圧胴1のベベルギヤ11との噛合によりこの共通圧胴1が駆動されるようになつている。共通圧胴1の軸端にはヘリカルギヤ12が取付けられていて、ブランケツト胴2、2’、2”、2”および版胴3、3’、3”、の軸端に取付けられているヘリカルギヤ13、13’、13”13”および14、14’、14”、14”が順次噛合されていて共通圧胴1のギヤ12が駆動元になつている。

上記各版胴3、3’、3”、3”はそれぞれ同一の構成になつており、その1つの版胴3を実施例として示す。

第5図で示すように版胴3は、機械の中心において連続している右側の大径部15、および左側の小径部152とよりなる基胴が基本の構成を成している。そしてこれら大径部151および小径部152の端部にはそれぞれが隣接するフレーム4および5まで至る支持軸153および154が設けられている。さらに右側の大径部151は右版胴部を構成していて、その外周面には版16が装着されるようになつており、一方、左側の小径部152の外周面には円筒15’が、小径部の外周面に対して円周方向および軸方向に摺動可能に嵌合している。この円筒15’は左版胴部を構成しており、この円筒15’の外周面には版17が装着されるようになつている。

この版16、17は、第3図、第4図に示すように、それぞれの取付部18.19が互いに位相をずらされている。前記円筒15’の内面には複数個の溝20が削設してあつて円筒15’の小径部152に対する嵌合抵抗が小さくなるようにされている。

円筒15’の端部は、基胴の一端部(左端部)にある支持軸154に円周方向および軸方向に移動自在に設けた軸21に、数個のねじ22で固定されていて、この軸21はフレーム5に嵌合されたスリーブ23に装着されたローラベヤリング24にて保持され駆動軸部を形成している。基胴の他端部(右端部)の支持軸153はフレーム4に嵌合したスリーブ25.26に装着されたローラベヤリング27によつて保持され駆動軸部を形成している。

前記の支持軸152の端部にブランケツト胴2の一端に固着した従動側ヘリカルギヤ13に噛合するヘリカルギヤ14が固着してある。またブランケツト胴2の他端には前記ヘリカルギヤ13と同寸法のヘリカルギヤ28が固着してある。

上記軸21にはエキスターナルギヤ29がキーおよびナツトにて固着してあり、このエキスターナルギヤ29にインターナルギヤ30が嵌合してある。インターナルギヤ30はギヤカツプリング31に固着されていて、その反対面には抜け止め板32が取付けられている。ギヤカツプリング31には前記駆動側のヘリカルギヤ28に噛合する従動側のヘリカルギヤ33が固着してある。この従動側ヘリカルギヤ33は前記支持軸153の端部に固着した従動側ヘリカルギヤ14と同寸法となつている。前記従動側のヘリカルギヤ33はエキスターナルギヤ29とインターナルギヤ30とにより軸21に対して軸方向に移動自在にして回転方向に係合され、これにより軸21は駆動側および従動側のヘリカルギヤ28.33により、基胴とは別個に回転駆動されるようになつている。

ギヤカツプリング31には軸21に嵌合する円筒部材34がボルトで固着してあり、この円筒部材34にアンギユラーコンタクトベアリング35を介して外周にギヤを設けた回転スリーブ36が嵌合支承されている。前記アンギユラーコンタクトベアリング35の外輪および内輪は押え金37.38で固定されている。回転スリーブ36のギヤのない外周部にはねじを有し、これがブラケツト39に固着したリング40に螺合している。なお、ブラケツト39はフレーム5に固着している。軸21とフレーム5との嵌合において、軸21に嵌合しているローラベアリング24はカラー41および座金42を介してナツト43で軸21に固定されていて、外周はフレーム5に固着したスリーブ23に軸方向に摺動できるように嵌合してある。44はシムである。

回転スリーブ36のギヤにはギヤ45が噛合している。ギヤ45は軸46に固着してある。軸46はブラケツト39.47に支承されている。この軸46の他端部には他のギヤ48が固着されており、このギヤ48に、正逆転するモータ49にて駆動される駆動ギヤ49.が噛合してある。またこの駆動ギヤ49.にはポテンシヨメータ等の回転数検知装置50に結合した検知ギヤ51が噛合してある。

一方前記軸21の軸端には軸受部材52が同心状に固着してあり、これに軸53の一端部が回転自在に、かつ軸方向には係合して嵌合してある。軸53はブラケツト54に固定されたリング55に嵌合され、かつキー56にて回転方向には係合し、軸方向に摺動自在になつている。軸53の他端部にはねじ57が設けてあり、このねじ57にギヤ58およびこれに固着されたゆるみ止め金具59が螺合されている。ギヤ58およびゆるみ止め金具59の端面はスラストベアリングを介してリング55およびブランケツト54の蓋体60に軸方向に支承されている。上記ギヤ58は正逆転するモータ61にて駆動されるギヤ62に噛合してある。またこのギヤ58にはポテンシヨンメータ等の回転数検知装置63に結合した検知ギヤ64が噛合している。

また第5図において支持軸153の軸承部は軸21の軸承部と同様な構造となつており、このため右版胴部である大径部151を一部とする基胴は支持軸153を経由して、左版胴部である円筒15’と同様に、円周方向および軸方向の微動調整がされるようになつている。

上記構成において、駆動軸8を回転することによりベベルギヤ10.11を介して共通圧胴1が回転され、これによりブランケツト胴2が回転される。このブランケツト胴2の回転により大径部152を一部とする基胴はヘリカルギヤ13.14の噛合により回転駆動される。また基胴の小径部152に嵌合した円筒15’は、もブランケツト胴2の他端側に設けた駆動側のヘリカルギヤ28、従動側のヘリカルギヤ33、ギヤカツプリング31、インターナルギヤ30、エキスターナルギヤ29を介して軸21と共に前記大径部151を一部とする基胴と同一回転数で回転駆動される。

このときにおいて、円筒15’を大径部152に対して円周方向に微動調整する場合には回転スリーブ36を回転する。

すなわち、モータ49を駆動してギヤ49.48.45を介して回転スリーブ36が回転されると、この回転スリーブ36はねじによりブラケツト39に対して軸方向に移動され、この回転スリーブ36に軸方向に結合された従動側のヘリカルギヤ33が軸方向に移動される。かくすると、このヘリカルギヤ33と駆動側のヘリカルギヤ28との噛合位置が軸方向にずれて、従動側のヘリカルギヤ33が駆動側に対してヘリカルアングルの働きにより相対的に円周方向に移動することになり、従つてこの従動側のヘリカルギヤ33と回転方向に係合した円筒15’は大径部151に対して円周方向に相対移動されて、相対的回転の位相が変更される。この移動方向はモータ49の回転方向によりきめられる。

一方円筒15’を大径部151に対して軸方向に微動調整する場合には、軸53のねじ57に螺合したギヤ58をモータ61にて回転する。かくするとこのギヤ58は軸方向に係止されているから軸53がねじ57により軸方向に移動され、これにより、この軸53に軸方向に係合した軸21を介して円筒15’がに対して軸方向に移動される。

上記円周方向および軸方向の移動は版胴の回転中において、互に無関係に行われる。

またそれぞれの移動量はポテンシヨメータ等の回転数検知装置50.63を介して規制する。

なおそれぞれの移動操作の駆動源はモータに限ることなく、手動ハンドルによつてもよい。また回転スリーブ36を回転させるギヤ45の軸46を駆動するにはギヤによることなくチエンにて連結してもよい。

第7図は、共通圧胴を用いない単色機を複数台連結して多色刷する例を示す。共通圧胴を用いない単色機の場合も全く同様な機構により版胴3A、3A’、3B、3B’、3C、3C’……のそれぞれの軸方向の半分を個個別別に微動調整することができる。2A、2A’、2B、2B’……はブランケツト胴、7’は印刷用紙である。

本発明は以上詳述したように、版胴に装着された版の印刷図柄が、版胴の駆動源であるブランケツト胴に転写された後、ブランケツト胴と圧胴との間を通る印刷用紙に印刷される輪転印刷機の版胴装置において、前記版胴は、大径部を一方の版胴部とし、大径部に段状に連続した小径部に円周方向および軸方向に摺動可能に嵌合する円筒を他方の版胴部として、左右のフレーム間に配置されるよう構成し、前記大径部および小径部の各端部に、各端部に近接したフレームに至る支持軸をそれぞれ設け、大径部側の前記支持軸を前記大径部の端部に近接したフレームに円周方向および軸方向に移動可能に支承させると共に、更に該フレーム外へと突出させ、前記他方の版胴部をなす円筒には、小径部側の前記支持軸に対し円周方向および軸方向に移動可能な軸を固着し、該軸を前記小径部の端部に近接したフレームに円周方向および軸方向に移動可能に支承させる共に、更に該フレーム外へと突出させ、大径部側の前記支持軸と、円筒に固着した前記軸とをそれぞれフレームの外側において、駆動源のブランケツト胴の左右軸によつて各々駆動されうるよう伝動連結すると共に、それぞれの軸方向調整機構および円周方向調整機構に連絡させ、前記一方の版胴部と前記他方の版胴部とが、それらの同一駆動源であるブランケツト胴に対して、それぞれ個別に回転位相と軸方向の位置を調整されるように、輪転印刷機における版胴装置を構成したから、通常の運転時には各版胴部は共通の駆動源であるブランケツト胴によつてそれぞれ同速で駆動されることから、あたかも一本の版胴が回転しているのと同じ結果が得られるが、一方の版を他方の版に対して軸方向または円周方向に微調整する必要がある時は、この一方の版を取付けている版胴部をブランケツト胴に対して軸方向または円周方向に調整することにより、他方の版とは全く独立的な調整をすることが可能である。

このように本発明によれば、本来、版を一列しかもたない版胴の版調整機構はその調整に際して版胴を動かす方法によるため、版胴上に左右二列の版が取付けられ左右それぞれの版の独立的な調整が必要な版胴装置には使用できないと考えられていたものが、利用可能となり、従来において経験の積まれた調整装置をそのまま利用できることになり、コスト的にも有利な上、信頼性が高い。またこの調整機構によれば版胴上で版を微動調整する型式のものと異なり、版胴に版の調整のための動力伝達機構を配する必要がないし、版の版胴に対する取付けも調整可能な取付けを考慮する必要がない。そのため版胴の半径方向的には調整筒が存在しないことから径を太く設計しえ、また軸方向的には微動調整機構をフレームの外側に配することができたから、フレームスパンを狭くすることができ、版胴の機械的強度を大幅に高める効果がある。

また版胴自体の構造は、基本的には基胴と円筒の2部材のみから構成しているから、部品点数を最小限としえた上、複雑な機械加工を最小限とすることができる。さらに基胴の両端の支持軸はフレームに至るよう構成されており、また円筒に固着された軸もフレームに至つているから、版胴全巾に加わる印圧等のラジアル荷重に対しても、各版胴部はたとえば微動調整中であつても、あたかも一体のの版胴のように安定して両フレームによつて支持されることができる。加うるに本発明においては、各版胴部の駆動が共通の駆動源であるブランケツト胴の左右側からそれぞれ同速度で駆動される構造となつていることから、一方側からのみ駆動される版胴に比較て、軸応力の発生が少なく、バランス良く駆動されることとなる上、回転駆動自体は同速でなされるものの、各版胴部は軸系としては独立しているから左版胴部又は右版胴部のいずれか一方に生じた機械的擾乱が、質量の大きいブランケツト胴側に伝達吸収され易くなり、他方の版胴部に与える影響が小さくなるという相乗的な効果も奏されるものである。」と補正する。

3 「図面の簡単な説明」の項を「第1図はオフセツト多色刷輪転印刷機の印刷胴の配列図、第2図はその駆動系統図、第3図は版の巻き込口の関係を示す版胴の断面図、第4図はその正面図、第5図はこの発明の実施例を示す一部破断正面図、第6図は要部の構造説明図である。第7図は単色刷機の4台連結の印刷胴の側面図である。

2はブランケツト胴、3は版胴、153は版胴の支持軸、15’は円筒、21は円筒の軸。」と補正する。

4 第4~5頁「第3.4.5.6図」を「第3図

第3図

<省略>

第4図

<省略>

第5図

<省略>

第6図

<省略>

」と補正する。

ロ号物件目録

一 図面の説明

1 第1図は、ロ号物件(輪転印刷機における版胴装置)を備えた印刷機における印刷胴の配列を示すものである。

1・・・・・・共通圧胴

2乃至2〓・・・ブランケット胴

3乃至3〓・・・版胴

5・・・・・・フレーム

7・・・・・・印刷用紙

2 第2図は、ロ号物件を備えた印刷機における印刷胴の駆動部を示すものである。

4・・・・・・フレーム

8・・・・・・駆動元軸

9・・・・・・軸受

10及び11・・・ベベルギヤ

12乃至14〓・・・ヘリカルギヤ

3 第3図は、ロ号物件の版胴の小径部側の断面を示すものである。

152・・・・・・小径部

15’・・・・・・円筒

18及び19・・・版取付部

4 第4図は、ロ号物件の版胴を軸と直角の方向から見たものであり、版の取付状況を示すものである。

16及び17・・・版

5 第5図は、ロ号物件を版胴の軸方向に切った断面図である。

151・・・・・・大径部

153及び154支持軸

154a・・・・・・穴

21・・・・・・軸

28・・・・・・ヘリカルギヤ

32・・・・・・軸受

39・・・・・・ピン

53・・・・・・ブラケット

100・・・・・・ローラーベアリング

143・・・・・・ニードルベアリング

901及び902・・・ブランケット胴の軸

903及び903’・・・軸方向調整機構

904及び904’・・・円周方向調整機構

6 第6図は、ロ号物件の小径部側フレーム付近の拡大図である。

154b・・・・・・穴

54・・・・・・ニードルベアリング

二 ロ号物件の構成

1 版胴3乃至3〓に装着された版の印刷図柄が、版胴3乃至3〓の駆動源であるブランケット胴2乃至2〓に転写された後、ブランケット胴2乃至2〓と圧胴1との間を通る印刷用紙に印刷される輪転印刷機の版胴装置において、版胴3乃至3〓は、大径部151を一方の版胴部とし、大径部151に段状に連続した小径部152に円周方向および軸方向に摺動可能に嵌合する円筒15’を他方の版胴部として、左右のフレーム4と5の間に配置されるよう構成し、大径部151および小径部152の各端部に、各端部に近接したフレーム4ないし5に至る支持軸153および154をそれぞれ設けている。

2 大径部側の支持軸153は、大径部151の端部に近接したフレーム4に円周方向および軸方向に移動可能に支承されると共に、更に該フレーム4の外へと突出し、小径部152の支持軸154は、小径部152の端部に近接したフレーム5の穴に差し入れられてローラーベアリング100に接し、ローラーベアリング100は部材32に接し、部材32はフレーム5に接している。

3 円筒15’の端部に固着されたピン受座にはピン39が固着されている。

4 ピン39は、支持軸154および軸21の軸芯方向と直交するように穿った支持軸の穴154bおよび軸21の穴に貫通している。

5 支持軸154および版胴小径部152の芯部に穿った穴154aにそれぞれ間隙を保って挿入された軸21は、前記ピン39に固着されている。

6 軸21の一側は版胴の穴154aに差し入れられていて、版胴の穴154aが接しているニードルベアリング143に接しているとともに、軸21の他の一側はフレーム5の穴を通ってフレーム5の外へ突出していて、フレーム5が接している部材32が固着されている部材53が接しているところのニードルベアリング54に接しており、軸21は円周方向および軸方向に移動可能である。

7 大径部側の支持軸153は、フレーム4の外側において駆動源であるブランケット胴2乃至2〓の軸901によって駆動されうるよう伝動連結されると共に、軸方向調整機構903および円周方向調整機構904に連絡し、かつ、円筒15’に固着した軸21は、フレーム5の外側において同じく駆動源であるブランケット胴2乃至2〓の軸902によって駆動されうるよう伝動連結されると共に、軸方向調整機構903’および円周方向調整機構904’に連絡し、一方の版胴部と他方の版胴部とが、それらの同一駆動源であるブランケット胴2乃至2〓に対して、それぞれ個別に回転位相と軸方向の位置を調整されるようにしたことを特徴とする輪転印刷機における版胴装置。

<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告

<12>特許公報(B2) 昭59-31467

<51>Int.Cl.3B 41 F 13/12 識別記号 庁内整理番号 6763-2C <24><44>公告 昭和59年(1984)8月2日

発明の数 1

<54>輪転印刷機における版胴装置

<21>特願 昭52-47812

<22>出願 昭52(1977)4月27日

<65>公開 昭53-134507

<43>昭53(1978)11月24日

<72>発明者 渡辺静一

横浜市港南区最戸1-23-16

<71>出願人 株式会社東京機械製作所

東京都港区芝5丁目26番24号

<74>代理人 弁理士 米原正章 外1名

<56>参考文献

特公 昭27-609(JP、B1)

特公 昭45-41406(JP、B1)

特開 昭47-11211(JP、A)

特開 昭51-8005(JP、A)

<57>特許請求の範囲

1 印刷機の版胴の軸方向の一側部を段状の小径にし、この小径部に、一端に軸を固着した円筒を版胴に対して回転および軸方向に摺動自在に嵌合し、この版胴と円筒の軸とをそれぞれフレームに対して軸方向に移動自在に支承すると共に、上記版胴と円筒の軸とを駆動側であるブランケツト胴に対してそれぞれ別別に、かつ駆動側のブランケツト胴の回転に対して版胴と円筒の軸のそれぞれの回転の位相を変更可能に連動連結し、この連動連結部に上記回転の位相を別個に変更するための機構を連係し、また上記版胴および円筒の軸とにこれらを別個に軸方向へ移動するための機構を連係してなることを特徴とする輪転印刷機における版胴装置。

発明の詳細な説明

本発明は、輪転印刷機における版胴装置で、特に1本の版胴において軸方向左右に振分けてそれぞれ別個に版を取付けることができるようにした版胴装置に関するものである。

この種の版胴装置は、版を1枚にすると版幅が広くなりすぎ、版が大きくなつてその取扱い困難であつたり、また工場の製版能力がなかつたりする場合に、版を2列にして版の大きさを半分にして上記問題を解決したものであるが、この場合一般には左右の版の取付部は円周上である距離だけ位相をずらせて左右の版の各取付部に同時に印圧が抜けないようにして印刷紙の安定を図つている。

ところで従来の上記版胴装置の左右の各版のそれぞれの見当合せは、左側または右側のどちらかの側のみを見当合せ装置に依つて合わせることができるが他の側は版を版胴に取付けた状態では製版上の精度誤差や版胴の版の装着装置の製作誤差により各色刷の場合に見当ずれがまぬがれない。そこで機械を停止して版の装着装置をゆるめて版を手で移動するとか、調整機構を手動で動かして行なうために見当合せに非常に多くの時間と手間を要した。

本発明は上記のことにかんがみなされたもので、軸方向左右に振分けた版装着部のそれぞれを版を取付けた状態で、しかも運転中に個々別々に円周方向および軸方向に微動調整を行なうことができ、これにより極めて容易にかつ短時間内で版の見当合せを行なうことができるようにした輪転印刷機における版胴装置を提供しようとするものである。

以下その構成を図面に示した実施例に基づいて説明する。

第1図は一般的なオフセツト多色刷輪転印刷機の印刷胴の配列を示すもので、フレーム5の中央の共通圧胴1へ印刷用紙7はガイドロール6を経て巻かれて矢印の方向へ走行する。2、2’、2”、2〓はブランケツト胴であり、3、3’、3”、3〓は版胴である。版胴から印刷図柄はブランケツト胴へ転写されて共通圧胴1に巻かれた印刷用紙7上に印刷する。

第2図は上記多色刷輪転印刷機の駆動部を示したもので、フレーム4に軸受9で支承された駆動元軸8の先端に固着したベベルギ10と共通圧胴1のベベルギア11との噛合によりこの共通圧胴1が駆動されるようになつている。共通圧胴1の軸端にはヘリカルギヤ12が取付けられていてブランケツト胴2、2’、2”、2〓および版胴3、3’、3”、3〓の軸端に取付けられているヘリカルギヤ13、13’、13”、13〓および14、14’、14”、14〓が順次噛合されていて共通圧胴1のギヤ12が駆動元になつている。

上記各版胴3、3’、3”、3〓はそれぞれ同一の構成になつており、その1つの版胴3を実施例として示す。この版胴3は機械の中心で段状に形成されており、小径側に外径寸法を大径側の外径と一致する円筒15が回転および摺動自在に嵌合してある。版胴3および円筒15の外周には版16、17が取付けられている。この版16、17は第3図、第4図に示すようにそれぞれの取付部18、19は互いに位相がずらされている。上記円筒15の内面には各数個の溝20が削設してあつて円筒15が版胴3に対しての嵌合抵抗が小さくなるようにしてある。円筒15の端部は版胴3の一端を支持する軸21に数個のねじ22で固定されている。軸21はフレーム5に嵌合されたスリーブ23に装着されたローラベヤリング24にて保持されている。版胴3の他端部はフレーム4に嵌合したスリーブ25、26に装着されたローラベヤリング27によつて保持されている。

版胴3の大径側の端部にブランケツト胴2の一端に固着したヘリカルギヤ13に噛合するヘリカルギヤ14が固着してある。またブランケツト胴2の他端には上記ヘリカルギヤ13の同寸法のヘリカルギヤ28が固着してある。

上記軸21にはエキスターナルギヤ29がキーおよびナツトにて固着してあり、このエキスターナルギヤ29にインターナルギヤ30が嵌合してある。インターナルギヤ30はギヤカツプリング31に固着されていて、その反対面には抜け止め板32が取付けられている。ギヤカツプリング31には上記駆動側のヘリカルギヤ28に噛合する従動側のヘリカルギヤ33が固着してある。この従動側ヘリカルギヤ33は版胴3の一端に固着した従動側のヘリカルギヤ14と同寸法になつている。上記従動側のヘリカルギヤ33はエキスターナルギヤ29とインターナルギヤ30とにより軸21に対して軸方向に移動自在にして回転方向に係合され、これにより軸21は駆動側および従動側のヘリカルギヤ28、33により、版胴3とは別個に回転駆動されるようになつている。

ギヤカツプリング31には軸21に嵌合する円筒部材34がボルトで固着してあり、この円筒部材34にアンギユラーコンタクトベアリング35を介して外周にギヤを設けた回転スリーブ36が嵌合支承されている。上記アンギユラーコンタクトベアリング35の外輪および内輪は押へ金37、38で固定されている。回転スリーブ36のギヤのない外周部にはねじを有し、これがブラケツト39に固着したリング40に螺合している。なおブラケツト39にはフレーム5に固着されている。軸21とフレーム5との嵌合において、軸21に嵌合しているローラベアリング24はカラー41および座金42を介してナツト43で軸21に固定されていて、外周はフレーム5に固着したスリーブ23に軸方向に摺動できるように嵌合してある。44はシムである。

回転スリーブ36のギヤにはギヤ45が噛合している。このギヤ45は軸46に固着してある。軸46はブラケツト39、47に支承されている。この軸46の他端部には他のギヤ48が固着されており、このギヤ48に正逆転するモータ49にて駆動される駆動ギヤ49aが噛合してある。またこの駆動ギヤ49aにはポテンシヨメータ等の回転数検知装置50に結合した検知ギヤ51が噛合してある。

一方前記軸21の軸端には軸受部材52が同心状に固着してあり、これに軸53の一端部が回転自在に、かつ軸方向には係合して嵌合してある。軸53にはブラケツト54に固定されたリング55に嵌合され、かつキー56にて回転方向には係合し、軸方向に摺動自在となつている。軸53の他端部にはねじ57が設けてあり、このねじ57にギヤ58およびこれに固着されたゆるみ止め金具59が螺合されている。ギヤ58およびゆるみ止め金具59の端面はスラストベアリングを介してリング55およびブラケツト54の蓋体60に軸方向に支承されている。上記ギヤ58は正逆転するモータ61にて駆動されるギヤ62に噛合してある。またこのギヤ58にはポテンシヨメータ等の回転数検知装置63に結合した検知ギヤ64が噛合している。

また第5図において版胴3側の軸承部は軸21の軸承部と全く同一構造になつており、またこの版胴3は上記円筒15側と全く同じ構造により円周方向および軸方向に微動調整ができるようになつている。

上記構成において、駆動軸8を回転することによりベベルギヤ10、11を介して共通圧胴1が回転され、これによりブランケット胴2が回転される。このブランケツト胴2の回転により版胴3の大径側はヘリカルギヤ13、14の噛合により回転駆動される。また版胴3の小径側に嵌合した円筒15は、ブランケツト胴2の他端側に設けた駆動側のヘリカルギヤ28、従動側のヘリカルギヤ33、ギヤカツプリング31、インターナルギヤ30、エキスターナルギヤ29を介して軸21と共に上記版胴3の大径側と同一回転数で回転駆動される。

このときにおいて、円筒15を版胴3に対して円周方向に微動調整する場合には回転スリーブ36を回転する。

すなわち、モータ49を駆動してギヤ49a、48、45を介して回転スリーブ36が回転されると、この回転スリーブ36はねじによりブラケツト39に対して軸方向に移動され、この回転スリーブ36に軸方向に結合された従動側のヘリカルギヤ33が軸方向に移動される。かくすると、このヘリカルギヤ33と駆動側のヘリカルギヤ28との噛合位置が軸方向にずれて、従動側のヘリカルギヤ33が駆動側に対してヘリカルァンクルの働きにより相対的に円周方向に移動することになり、従つてこの従動側のヘリカルギヤ33と回転方向に係合した円筒15は版胴3に対して円周方向に相対移動されて、相対的に回転の位相が変更される。この移動方向はモータ49の回転方向によりきめられる。

一方円筒15を版胴3に対して軸方向に微動調整する場合には、軸53のねじ57に螺合したギア58をモータ61にて回転する。かくするとこのギヤ58は軸方向に係止されているから軸53がねじ57により軸方向に移動され、これにより、この軸53に軸方向に係合した軸21を介して円筒15が軸方向に移動される。

上記円周方向および軸方向の移動は版胴3の回転中において、互に無関係に行なわれる。

またそれぞれの移動量はポテンシヨメータ等の回転数検知装置50、63を介して規制する。

なおそれぞれの移動操作の駆動源はモータに限ることなく、手動ハンドルにてなつてもよい。また回転スリーブ36を回転させるギヤー45の軸46を駆動するにはギヤによることなくチエンにて連結してもよい。

第7図は共通圧胴を用いない単色機の場合も全く同様な機構により版胴3A、3A’、3B、3B’、3C、3C’……のそれぞれの軸方向の半分を個個別別に微動調整することができる。2A、2A’、2B、2B’……はブランケット胴、7’は印刷用紙である。

本発明は以上のようになり、印刷機の版胴の軸方向の一側部を段状の小径にし、この小径部に、一端に軸を固着した円筒を版胴に対して回転および軸方向に摺動自在に嵌合し、この版胴と円筒の軸とをそれぞれフレームに対して軸方向に移動自在に支承すると共に、上記版胴と円筒の軸とを駆動側であるブランケット胴に対してそれぞれ別々に、かつ駆動側のブランケット胴の回転に対して版胴と円筒の軸のそれぞれの回転の位相を変更可能に連動連結し、この連動連結部に上記回転の位相を別個に変更するための機構を連係し、また上記版胴および円筒の軸とにこれらを別個に軸方向へ移動するための機構を連係して輪転印刷機における版胴装置を構成したから、版胴3および円筒の軸の回転位相を駆動側のブランケット胴の回転に対してそれぞれ別々に変更することができ、また版胴3および円筒の軸はそれぞれ別々に軸方向へ移動することができる。

従つて本発明によれば、軸方向左右に振分けた版装着部のそれぞれを版を取付けた状態で、しかも運転中に個々別々に円周方向および軸方向に微動調整を行なうことができ、これによつて極めて容易にかつ短時間内で版の見当合せを行なうことができる。

図面の簡単な説明

第1図はオフセット多色刷輪転印刷機の印刷胴の配列図、第2図はその駆動系統図、第3図は版の巻き込口の関係を示す版胴の断面図、第4図はその正面図、第5図は本発明の実施例を示す一部破断正面図、第6図は要部の構造説明図、第7図は単色刷機の4台連結の印刷胴の側面図である。

2はブランケツト胴、3は版胴、4、5はフレーム、15は円筒、21は軸。

第1図

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第2図

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第3図

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第4図

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第7図

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第5図

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第6図

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昭和61年補正後の特許請求の範囲

印刷機の版胴の軸方向の一側部を段状の小径にし、この小径部に、一端に軸を固着した円筒を版胴に対して常時回転および軸方向に摺動自在に嵌合し、この版胴の軸と円筒の軸とをそれぞれフレームに対して軸方向に移動自在に支承すると共に、前記版胴の軸と円筒の軸とを駆動側であるブランケツト胴に対してそれぞれ別別に、かつ駆動側のブランケツト胴の回転に対して版胴の軸と円筒の軸のそれぞれの回転の位相を変更可能に連動連結し、この連動連結部に上記回転の位相を別個に変更するための機構を連係し、また前記版胴の軸および円筒の軸とにこれらを別個に軸方向へ移動するための機構を連係してなることを特徴とする輪転印刷機における版胴装置。

第1図

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第2図

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第3図

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第4図

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第5図

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第6図

<省略>

イ号物件目録

一 図面の説明

1 第1図は、イ号物件(輪転印刷機における版胴装置)を備えた印刷機における印刷胴の配列を示すものである。

1・・・・・・共通圧胴

2乃至2〓・・・ブランケット胴

3乃至3〓・・・版胴

5・・・・・・フレーム

7・・・・・・印刷用紙

2 第2図は、イ号物件を備えた印刷機における印刷胴の駆動部を示すものである。

4・・・・・・フレーム

8・・・・・・駆動元軸

9・・・・・・軸受

10及び11・・・ベベルギヤ

12乃至14〓・・・ヘリカルギヤ

3 第3図は、イ号物件の版胴の小径部側の断面を示すものである。

15・・・・・・小径部

15’・・・・・・円筒

18及び19・・・版取付部

4 第4図は、イ号物件の版胴を軸と直角の方向から見たものであり、版の取付状況を示すものである。

16及び17・・・版

5 第5図は、イ号物件を版胴の軸方向に切った断面図である。

151・・・・・・大径部

153及び154・・・支持軸

154a・・・・・・穴

21・・・・・・軸

28・・・・・・ヘリカルギヤ

32・・・・・・軸受

39・・・・・・ピン

53・・・・・・ブラケット

100・・・・・・ローラーベアリング

143・・・・・・ニードルベアリング

901及び902・・・ブランケット胴の軸

903及び903’・・・軸方向調整機構

904及び904’・・・円周方向調整機構

6 第6図は、イ号物件の小径部側フレーム付近の拡大図である。

154b・・・・・・穴

54・・・・・・ニードルベアリング

二 イ号物件の構成

1 版胴3乃至多3〓に装着された版の印刷図柄が、版胴3乃至3〓の駆動源であるブランケット胴2乃至2〓に転写された後、ブランケット胴2乃至2〓と圧胴1との間を通る印刷用紙に印刷される輪転印刷機の版胴装置において、版胴3乃至3〓は、大径部151を一方の版胴部とし、大径部151に段状に連続した小径部152に円周方向および軸方向に摺動可能に嵌合する円筒15’を他方の版胴部として、左右のフレーム4と5の間に配置されるよう構成し、大径部151および小径部152の各端部に、各端部に近接したフレーム4ないし5に至る支持軸153および54をそれぞれ設けている。

2 大径部側の支持軸153は、大径部151の端部に近接したフレーム4に円周方向および軸方向に移動可能に支承されると共に、更に該フレーム4の外へと突出し、小径部152の支持軸154は、小径部152の端部に近接したフレーム5の穴に差し入れられてローラーベアリング100に接し、ローラーベアリング100は部材32に接し、部材32はフレーム5に接している。

3 円筒15’の端部に固着されたベアラにはピン39が固着されている。

4 ピン39は、小径部152および軸21の軸芯方向と直交するように穿った小径部の穴154bおよび軸21の穴に貫通している。

5 支持軸154および版胴小径部152の芯部に穿った穴154aにそれぞれ間隙を保って挿入された軸21は、前記ピン39に固着されている。

6 軸21の一側は版胴の穴154aに差し入れられていて、版胴の穴154aが接しているニードルベアリング143に接しているとともに、軸21の他の一側はフレーム5の穴を通ってフレム5の外へ突出していて、フレーム5が接している部材32が固着されている部材53が接しているところのニードルベアリング54に接しており、軸21は円周方向および軸方向に移動可能である。

7 大径部側の支持軸153は、フレーム4の外側において駆動源であるブランケット胴2乃至2〓の軸901によって駆動されうるよう伝動連結されると共に、軸方向調整機構903および円周方向調整機構904に連絡し、かつ、円筒15’に固着した軸21は、フレーム5の外側において同じく駆動源であるブランケット胴2乃至2〓の軸902によって駆動されうるよう伝動連結されると共に、軸方向調整機構903’および円周方向調整機構904’に連絡し、一方の版胴部と他方の版胴部とが、それらの同一駆動源であるブランケット胴2乃至2〓に対して、それぞれ個別に回転位相と軸方向の位置を調整されるようにしたことを特徴とする輪転印刷機における版胴装置。

第1図

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第2図

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第3図

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第4図

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第5図

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第6図

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特許法第64条の規定による補正の掲載

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特許公報

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