東京高等裁判所 平成8年(ネ)1688号 判決 1996年11月27日
控訴人 サクラファイナンス代表こと X
右訴訟代理人弁護士 笹浪恒弘
同 笹浪雅義
被控訴人 宗教法人円応寺
右代表者代表役員 A
右訴訟代理人弁護士 小林秀正
同 渡邉幸博
主文
一 本件控訴を棄却する。
ただし、原判決主文第一項中、「別紙供託金目録記載の供託金」とあるのを「別紙供託金目録記載の供託金のうち三九七六万〇八四九円」に更正する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二当事者の主張
当事者双方の事実上及び法律上の主張は、次に訂正するほかは原判決の事実欄の第二(ただし、控訴人に関する部分)に記載されたとおりであるから、これを引用する。
原判決二丁裏六行目の「二七日」を「二一日」に、同三丁表七行目の「被告ワタナベ」から同九行目の「通知がなされ、」までを「原審相被告ワタナベから清水企画に対し、控訴人に債権譲渡した旨の通知がなされ、」に、同四丁表一行目の「本件供託金」を「本件供託金のうち前記還付済みの三三九三万五〇六二円を控除した残額三九七六万〇八四九円」に、同丁裏一行目の「本件供託金」を「本件供託金のうち三九七六万〇八四九円」にそれぞれ改める。
理由
一 当裁判所も、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は理由があるものと判断する。その理由は、次に加除、訂正するほかは原判決の理由欄(ただし、控訴人に関係する部分)に記載されたとおりであるから、これを引用する。
1 原判決六丁表一行目の「証拠」から同五行目の末尾までを次のとおり改める。
「 請求原因2ないし4の事実及び同5のうち、本件供託金の残額三九七六万〇八四九円につき被控訴人が還付請求権を有していることを控訴人が争っていることは当事者間に争いがない。
甲第三ないし第六号証、第八、九号証及び被控訴人代表者の供述によれば、被控訴人は、首都圏開教のため新潟市所在の境内地を処分して肩書所在地に移転し、訴外エヌテイケイ株式会社の代表者Cに新しい境内地用地買受けの仲介を依頼していたが、同人から、用地買収資金の一部を予め預託してほしい旨の依頼を受け、平成四年六月八日、前記新潟市所在の境内地の処分代金のうち二億円を、同年一一月七日までに移転先用地の買受けが実現しないときは直ちに返済するとの約定のもとに訴外エヌテイケイ株式会社に預託したこと、しかし、同社は右預託金を他の事業に流用し、右返済期限が経過しても右預託金を返還することができなかったため、被控訴人と訴外エヌテイケイ株式会社及びいずれもCが代表取締役をしている原審相被告ワタナベ、訴外日本土地開発株式会社とは、平成五年四月二一日、被控訴人に対し、右二億円につき利率年一二パーセント、遅延損害金年二四パーセントと定め、これを同月三〇日までに連帯して返済する旨の合意をしたこと、しかし、右期日も遵守されず、その後請求原因3のとおり右債権回収のため債権譲渡がなされたものであることが認められる。」
2 原判決六丁裏二行目の「二ないし六、」を削除し、「丁一」を「丁三」に改め、同三行目の「首都圏開教のため」から同八行目の「していたところ、」までを削除し、同七丁裏五行目の「予見」から同六行目の「怠り」までを「認識することができたものであるから、」に改め、同一〇行目の「原告への」の次に「本件保証金返還請求権の」を加える。
3 原判決九丁表一行目の「そこで、」から同一〇丁表二行目の末尾までを次のとおり改める。
「 そこで、控訴人の悪意又は重過失の有無につき検討するに、甲第八号証、第一〇号証、乙第一号証中の保証金返還請求権譲渡通知書、丁第三号証及び控訴人の供述によれば、控訴人は約二〇年前から金融業を営むものであり、昭和六一年ころから原審相被告ワタナベに対して金員を貸し付けるようになったが、平成五年一〇月、一億五〇〇〇万円を弁済期同年一一月末日と定めて貸し付けたところ、原審相被告ワタナベが右弁済期にこれを返済しなかったので、控訴人は、原審相被告ワタナベに対し、本件保証金返還請求権を譲渡するように要求したこと、そこで、原審相被告ワタナベは、控訴人に対し、賃貸借契約書の写しを渡して本件保証金の返済条件を説明し、本件保証金返還請求権の譲渡通知をするための書面に記名、押印したこと、控訴人は、同年一二月二九日、右書面により清水企画に対し、本件保証金返還請求権のうち八九七〇万八八五〇円(右は、保証金一億一四三四万五〇〇〇円から、一五パーセントの償却金一七一五万一七五〇円及び六か月分の賃料七四八万四四〇〇円を控除した金額である。)につき控訴人に譲渡された旨の通知をしたことが認められる。
右認定事実によれば、控訴人は、本件保証金返還請求権につき、譲渡禁止特約が付されていたことを知っていたか、そうでないとしても、賃貸借契約書の写しを読めば、その記載から本件保証金返還請求権に譲渡禁止特約が存在することを容易に認識できたものであるから、右特約の存在を知らないことにつき重大な過失があったというべきである。
仮に、控訴人が原審相被告ワタナベから賃貸借契約書の写しを渡されていなかったとしても、近時の貸室の賃貸借契約においては、保証金返還請求権につき譲渡禁止の特約がなされるのが通常であり、控訴人の供述によれば、控訴人も同様の認識を有していたこと、また、控訴人はこれまでに賃貸借契約の保証金を担保にして融資をしたことが何回かあり、その中には譲渡禁止の特約が付されていたものもあったことが認められるところ、右の控訴人の認識、経験及び賃貸借契約における保証金預託の性質に鑑みると、控訴人は、本件保証金返還請求権に譲渡禁止特約が存在することを容易に推測できたものというべきであるから、原審相被告ワタナベから賃貸借契約書を入手するか、清水企画に問い合わせるなどして、譲渡禁止特約の有無について確認すべき義務があり、これを怠ったことに重大な過失があったものというべきである。
そうすると、いずれにしても被控訴人は控訴人に対して、本件保証金返還請求権譲渡の効力を対抗することができるというべきである。」
二 結論
以上の次第で、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきものであるが、本件供託金は既に三三九三万五〇六二円が還付済みであり、被控訴人も残額の三九七六万〇八四九円について還付請求権を有していることの確認を求めているものであるから、原判決主文第一項中の「別紙供託金目録記載の供託金」とあるのは、「別紙供託金目録記載の供託金のうち三九七六万〇八四九円」の誤記であることが明らかであるのでこれを更正することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 加茂紀久男 裁判官 北山元章 林道春)