東京高等裁判所 平成8年(ネ)1788号 判決 1996年9月26日
控訴人
セントラル抵当証券株式会社
右代表者代表取締役
齋藤俊夫
右訴訟代理人弁護士
松嶋泰
寺澤正孝
相場中行
竹澤大格
鈴木雅之
被控訴人
株式会社オリファンド
右代表者代表取締役
板橋仁郎
右訴訟代理人弁護士
福嶋弘榮
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 東京地方裁判所平成七年(リ)第二七三二号、同年(リ)第三二〇四号、同年(リ)第三八七七号、同年(リ)第四八八七号、同年(リ)第五一七七号、同年(リ)第六二九八号、同年(リ)第三二五五号配当手続事件について同裁判所が作成した配当表のうち、被控訴人に交付すべき金員のうち金五五万七九六七円の部分を取り消し、右金五五万七九六七円を控訴人に対する配当額に変更する。
二 被控訴人
控訴棄却
第二 事案の概要
次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりである。
(控訴人の当審における主張)
原判決は、抵当権に基づき賃料債権に対して物上代位する場合にも、民法三七四条の適用があり、元本のほか二年分の利息損害金についてのみ優先権があると判断したが、この解釈は、民法三七四条の解釈を誤ったものである。
賃料債権に対する物上代位の場合には、後順位抵当権者と競合していても、先順位抵当権者には二年分を越える利息遅延損害金について配当されている。これは不動産競売事件では、目的物の売却による最後の配当が行われるため、後順位者との間の公平な配当が必要となるが、賃料債権の物上代位の場合は、配当実施後も賃料債権発生の可能性が残されているので、配当における公平確保の必要がないことによるものである。
また、仮に賃料債権に対する物上代位の場合にも民法三七四条を適用するとすれば、差押えが競合して配当が行われる場合には、配当から遡って二年分のみ優先権が認められべきであり、物上代位の差押え申立て時より遡って二年分について優先権が認められるのではない。そうだとすると、請求債権を差押え申立て時までに発生したものに限定する実務の取扱いは、民法三七四条の適用がないことを前提に組み立てられているのである。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所も、抵当権に基づき賃料債権に対して物上代位する場合にも、民法三七四条の適用があり、元本のほか二年分の利息損害金についてのみ優先権があるものと判断する。その理由は、次のとおり記載するほか、原判決と同一であるからこれを引用する。
(控訴人の当審における主張について)
民法三七四条は、抵当権の目的物についての取引の安全を確保するため、抵当権に基づく優先権行使の範囲を限定したものであって、抵当権の行使の態様あるいは差押えの対象によって、その適用が限定されるべきものではないから、抵当権者が目的物の賃料債権を差押えの対象とし、不動産競売によらず物上代位としての債権の差押えによりその権利を行使する場合でも、同条の適用があるものと解すべきである。
控訴人は、配当実施後も賃料債権の発生の可能性が残されている以上、後順位者との間の公平確保の必要性はないと主張するが、抵当不動産が売却されると、その後は抵当権の物上代位による差押え可能な賃料債権は発生しなくなるのであり、いつまでも賃料債権に対する物上代位が可能ではない。また、差押えの対象が異なることにより優先権行使の範囲が異なるとすると、全体としての優先権の範囲を確定することはできないこととなるが、そうなっては、取引の安全を確保することが困難となる。
また、控訴人は、債権差押えが競合する場合、民法三七四条を適用すると、配当時から遡って二年分の利息遅延損害金について優先権が認められることとなり、配当時を基準に配当しなければならなくなるが、債権差押えの請求債権を申立て時以前のものに限定する実務の取扱いではそのような配当はできないから、民法三七四条適用説は、実務の取扱いと合致しないという。しかし、民法三七四条は、差押えが競合する場合における優先関係を規定するものであり、執行裁判所は、配当表を作成するに当たっては、請求債権が債権差押え申立て時までの利息遅延損害金に限定されているときは、請求債権として限定された内容に即して優先関係を判定すれば足り、必ずしも配当時を基準に二年分であるかどうかを判定しなければならないものではない。この点に関する控訴人の主張も、採用することはできない。
二 したがって、右の解釈に従い本件配当表を変更すべきでないとした原判決は相当で、本件控訴は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官今井功 裁判官淺生重機 裁判官田中壯太)