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東京高等裁判所 平成8年(ネ)1978号 判決 1997年1月28日

控訴人

新和産業株式会社

右代表者代表取締役

鈴木巽

右訴訟代理人弁護士

畑口紘

田中晋

播磨鉄治

被控訴人

日本電信電話株式会社

右代表者代表取締役

宮津純一郎

右訴訟代理人弁護士

竹田穣

岡田暢雄

渡邉純雄

山本正

主文

一  本件控訴(当審で請求を減縮したもの)を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、三億円及びこれに対する平成三年七月二四日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え(当審において請求を減縮)。

3  訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

控訴棄却

第二  当事者の主張

(第一次請求―手形金請求)

一  請求原因

1  手形の所持

控訴人は、原判決別紙約束手形目録一、二記載の約束手形二通(以下順次「本件一又は二の約束手形」という。)を所持している。

2  手形の裏書

福島武志は、拒絶証書不要の記載のある本件各約束手形の第二裏書人欄に、記名印により「日本電信電話株式会社NTT東京通信システム営業本部本部長福島武志」なる記載をした上、その名下に「日本電信電話株式会社NTT東京通信システム営業本部本部長印」と刻した印鑑を押捺し、もって、拒絶証書作成義務を免除のうえ、被控訴人のためにすることを記載して本件各約束手形に裏書した(以下、右の記名印を「本件記名印」、右の本部長印を「本件役職印」、右の裏書を「本件裏書」とそれぞれいう。)。

3  福島武志の代理権

(一) 福島武志は、当時被控訴人の東京通信システム営業本部長の地位にあり、その職務権限として、被控訴人の代理人として本件裏書をする権限を有していた。すなわち、

(1) 福島武志は、被控訴人の東京通信システム営業本部長(以下単に「東京通信システム営業本部長」という場合がある。)として、コプロスジャパン株式会社(以下「コプロスジャパン」という。)及び株式会社センチュリーワールド(以下「センチュリーワールド」という。)との間で、平成二年六月三〇日パラオ共和国事業(パラオ新空港建設事業、電気通信等社会資本に関する事業等)に関する基本契約(以下「基本契約」という。)を締結し、右契約において、被控訴人は、右事業に参加するための権利金七〇億円(以下「本件参加権利金」という。)をコプロスジャパンに支払うことを約し、その支払方法として、センチュリーワールド振出の金額七〇億円の約束手形(以下「本件七〇億円の手形」という。)に支払保証の趣旨で福島武志が右2と同様の方式で裏書してコプロスジャパンに交付した。本件一の約束手形は本件七〇億円の手形と交換に、東京通信システム営業本部長の福島武志からコプロスジャパンに裏書交付されたものであり、また、本件二の約束手形は、金額以外の記載(振出、裏書の記載を含めて)が本件一の約束手形と同一である。

(2) 東京通信システム営業本部長の所掌業務は、総合通信システムの企画、設計、販売、コンサルティング等及び新システムの開発、各種ユーザー情報のデータベース化等であるところ、基本契約の目的たるパラオ共和国事業には電気通信等社会資本に関する事業が含まれていたから、被控訴人のため基本契約を締結すること及び本件七〇億円の手形に支払保証の趣旨で裏書することは、東京通信システム営業本部長の右所掌業務に属するものというべきである。したがって、本件七〇億円の手形と交換に裏書交付された本件一の約束手形及びこれと手形上の記載が同一である(ただし、金額の記載を除く。)本件二の約束手形に裏書(本件裏書)することも、東京通信システム営業本部長たる福島武志の職務権限に属することが明らかである。

(二) 仮に、右(一)の主張が認められないとしても、被控訴人は、東京通信システム営業本部長としての職務権限とは別に、福島武志に対し、被控訴人のため基本契約を締結すること及び本件七〇億円の手形に裏書することの代理権と併せて、本件各約束手形に本件裏書をする代理権を授与した。

4  表見支配人

仮に、右の代理権の主張が認められないとしても、東京通信システム営業本部は、被控訴人の東京支社の直属事業所であり、独自に営業活動の決定をするとともに対外的な取引をなしうる権限を付与されていたから、営業所の実質を備えていたものということができる。被控訴人の規程上、同部の設置、改廃については常務会の決裁を得なければならず、また、同部は通信システムに関する営業について、事業収支等の改善に貢献する責任を有する登録組織単位であると定められていた。また、被控訴人の支店は、特定の地域の顧客のサービスの提供に係る事務を行うのに対し、同部は地域が限定されずに顧客のサービスの提供に係る事務を行うものであるから、支店よりも権限が大きいともいえる。したがって、その営業の主任者たる名称を付されていた福島武志は、商法四二条にいう表見支配人に該当する。

5  表見代理

仮に、右の表見支配人の主張が認められないとしても、

(一) 福島武志は、東京通信システム営業本部長として所轄の業務につき被控訴人を代理する権限を有していた。

(二) コプロスジャパンは、福島武志において本件各約束手形に本件裏書をすることが右(一)の代理権の範囲に含まれるものと信じて、同人から本件各約束手形の裏書交付を受けた。

(三) 次のとおり、コプロスジャパンにおいて右のように信ずるにつき正当の理由があった。

(1) コプロスジャパンは、新空港建設を含めパラオの開発事業の出資者を募集するため、渡辺敏晃と株式会社オータ(以下「オータ」という。)が出資して平成二年二月二七日に設立された会社であり、同年三月三日空港予定地であるパラオのガスパン、アルモノグイ、エサールの三州との間で、右三州とコプロスジャパンが出資して新空港の建設、管理、運営のための合弁会社を設立することなどを定めたパラオ共和国空港建設基本契約を締結した。そして、その後右基本契約に基づき、合弁会社であるパラオ・インターナショナル・エアポート・コーポレーション(以下「パラオ・インターナショナル・エアポート」という。)が設立された。

(2) 被控訴人の東京通信システム営業本部長である福島武志は、コプロスジャパンがパラオ新空港建設事業の出資者を募っていることを知り、コプロスジャパンに対し「現在日本政府がNTTの株式を五〇パーセント以上保有しているので、NTTは表面に出て海外投資も融資もできない。しかし、NTTはダミーの会社を用いて将来の完全民営化に備えて、現在海外への投資、新規事業を行っている。したがって、当座、事業の当事者にはダミー会社をつけるが、資金はNTTが責任を持ち、完全民営化後NTTが当事者となる。」と述べ、表面上はセンチュリーワールドが出資者となり、センチュリーワールドが参加権利金七〇億円を支払う形をとるが、実際上は被控訴人が出資者となり、被控訴人が本件参加権利金の支払いについて責任を持つことを約束して、前記3(一)(1)のとおりコプロスジャパン等との間で基本契約を締結した上、本件参加権利金の支払方法としてコプロスジャパンに交付された本件七〇億円の手形に前記の裏書をした。また、基本契約に関する契約書(以下「基本契約書」という。)は、被控訴人東京支社の建物であるNTT品川ツインズビルにおいて、パラオのエピソン大統領立会いのもとに調印された。当日被控訴人の従業員三、四名が同大統領を出迎えており、右調印の際には、福島武志において被控訴人の従業員に本件記名印、本件役職印を持って来させ、基本契約書にこれを押捺した。

(3) 右(2)の福島武志の言動、基本契約締結時の状況等に照らせば、コプロスジャパンにおいて、福島武志が本件七〇億円の手形に被控訴人のため裏書する職務権限があるものと信ずるにつき正当の理由があったものというべきところ、本件七〇億円の手形と交換に裏書交付された本件一の約束手形及びこれと手形上の記載が同一である本件二の約束手形(ただし、金額の記載を除く。)への本件裏書についても同様に考えることができる。

6  支払呈示

控訴人は、支払呈示期間内に支払場所において本件各約束手形の支払いのため呈示したが、支払いを拒絶された。

7  結論

よって、控訴人は、被控訴人に対し、本件一の約束手形金のうち三億円とこれに対する満期日である平成三年七月二四日から支払いずみまで手形法所定の年六分の割合による法定利息の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は争う。なお、本件記名印及び本件役職印は偽造されたものである。

3(一)  同3(一)(1)の事実は知らない。同(2)の事実中、東京通信システム営業本部長の所掌業務が総合通信システムの企画、設計、販売、コンサルティング等及び新システムの開発、各種ユーザー情報のデータベース化等であること、本件一の約束手形と本件二の約束手形の記載が金額を除いて同一であることは認めるが、その余の事実は争う。被控訴人は出納事務細則を定め、代表者以外の役員、従業員はもとより代表者でさえも被控訴人のため手形行為をする権限を有しない旨規定している。

(二)  同3(二)の事実は否認する。

4(一)  同4の事実中、東京通信システム営業本部が被控訴人東京支社の直属事業所であることは認めるが、営業所の実質を備えているとの点は否認する。東京通信システム営業本部は、東京支社に属する一部署であって包括的な業務を行っておらず、その名称からいっても第三者に対し当該部署が包括的な業務を行うとの誤解をもたらすことはない。

5(一)  同5の(一)の事実中、控訴人主張当時福島武志が被控訴人の東京通信システム営業本部長としての職務権限を有していたことは認める。

(二)  同5の(二)の事実は争う。

(三)  同5(三)(1)の事実は知らない。同(2)の事実中、控訴人主張の頃パラオ共和国の関係者らがNTT品川ツインズビルに福島武志を訪ねたことは認めるが、その余の事実はいずれも争う。同(3)の主張は争う。

次の事情に照らし、コプロスジャパンが、福島武志に本件裏書をする職務権限があると信ずるにつき正当の理由があったとはいえないことが明らかである。

被控訴人は、日本電信電話株式会社法に基づく特殊法人であり、会社の目的及び事業内容について、法令により明確な制限が付されており、現行法上パラオ共和国の新空港建設事業を行うことはできない。さらに、被控訴人は株式会社として商法等の規制を受けるほか、特殊法人として会計検査院の検査、総務庁の調査を受けなければならないのであるから、被控訴人が身代わり会社を使ってでも法令の定める範囲外の事業を行える筈がないことは容易に判断できることである。したがって、コプロスジャパンは、法令上及び被控訴人の定款上も被控訴人が基本契約を締結するようなことがありえないこと、被控訴人が福島武志に対し被控訴人のため基本契約を締結したり、七〇億円の約束手形に裏書する代理権を授与する筈がないことを知っていたか、又は容易にこれを知ることができた。

また、新空港建設が通信システムの営業内容とは明らかに異なるものである上、金額七〇億円とか三〇億円といった高額の手形取引が伴うような契約について、被控訴人の東京支社の一部署にすぎない東京通信システム営業本部長にその交渉・締結等の権限が付与される筈がなく、かつ、そのような契約の締結を同部長が独断で決定できるものでないことは常識に照らし明らかである。

基本契約書には印紙も貼付されておらず、内容も本文二頁の簡単なものであり、被控訴人が七〇億円もの取引をするのにそのような体裁、内容の契約書を作成する筈がない。また、基本契約書には参加権利金の支払時期の記載がなく不自然であり、その支払いにより乙(センチュリーワールド)がコプロスジャパン等の株式五〇パーセントを取得するというのであるが、右株式の譲渡人と予定されていたというオータは基本契約の当事者になっておらず、右株式が移転された事実もなく、そのような契約を被控訴人が締結することはありえない。基本契約書はその後書き替えられ、書替後の契約書では、被控訴人は契約当事者から外れ、福島武志個人が立会人として関与する形式となったが、コプロスジャパンが基本契約書を右のような内容の契約書に書替えることに応じたことは、福島武志が被控訴人のため基本契約を締結する代理権のないことを知っていたことの証左である。

既述したとおり被控訴人が基本契約の締結を承認したというには多くの疑問点があったにもかかわらず、コプロスジャパンは本件裏書や基本契約の交渉・締結に関する福島武志の代理権の有無及びセンチュリーワールドの会社の内容等について何ら調査していないから、この点からもコプロスジャパンが福島武志に右の代理権があったと信ずべき正当の理由があったとはいえない。

6  同6の事実は認める。

三  抗弁

1  信託法違反

コプロスジャパンから控訴人への本件各約束手形の譲渡(コプロスジャパンの裏書はなく、手形交付の方法による。)は、訴訟による取立を主たる目的とした信託的譲渡であり、信託法一一条に違反する。したがって、右の法律行為については、手形外の取立委任の合意だけでなく、手形上の権利移転の効力も発生せず、控訴人は本件各約束手形上の権利を有しない。

2  商法四二条二項の悪意

コプロスジャパンは、福島武志から本件各約束手形の裏書譲渡を受けるに当たり、福島武志が被控訴人の商法上の支配人でないことを知っていた。

四  抗弁に対する認否

抗弁1、2の各事実は争う。

(第二次請求―債務不履行による損害賠償請求)

一  請求原因

1  被控訴人代理人福島武志の融資約束

福島武志は、平成二年九月八日、コプロスジャパンの取締役会にオブザーバーとして出席した際、同じ資格で同席していた控訴人の代理人である水谷功に対し、被控訴人の代理人として、控訴人がその工事を受注することを検討中であったパラオ新空港建設工事(以下「新空港建設工事」という。)に要する資金を、右工事の施主であるパラオ・インターナショナル・エアポートに融資することを約束した(以下「本件第三者への融資約束」という。)。

2  福島武志の代理権

福島武志は、被控訴人から、本件第三者への融資約束をする代理権を授与されていた。

3  表見支配人

仮に、右代理権の主張が認められないとしても、前記のとおり、被控訴人の東京通信システム営業本部長であった福島武志は表見支配人に該当する。

4  表見代理

仮に、右表見支配人の主張が認められないとしても、

(一) 前記のとおり、福島武志は、被控訴人東京通信システム営業本部長として所轄の業務につき被控訴人を代理する権限を有していたところ、控訴人代理人水谷功は、本件第三者への融資約束が被控訴人東京通信システム営業本部長としての福島武志の権限に属するものと信じた。

(二) 控訴人代理人水谷功において、本件第三者への融資約束が被控訴人東京通信システム営業本部長としての福島武志の権限に属するものと信ずるにつき正当の理由があった。

5  控訴人の損害

控訴人は、被控訴人の本件第三者への融資約束により新空港建設工事の受注を決意し、平成二年一〇月一日、パラオ・インターナショナル・エアポートとの間で、請負代金を五五億八〇〇〇万円と定めて、パラオ共和国ガスパン港から新空港までの道路工事、空港工事用の宿舎・工場等の建設工事、砕石・生コンクリート・アスファルトプラント建設工事等を請け負う旨の契約(以下「本件請負契約」という。)を締結したが、被控訴人は本件第三者への融資約束に違反してパラオ・インターナショナル・エアポートに対し融資しなかったため、控訴人は同社から請負代金の支払を受けることができず、逸失利益を含めて請負代金額相当の五五億八〇〇〇万円の損害を被った。

6  結論

よって、控訴人は、被控訴人に対し、右損害金のうち三億円及びこれに対する平成三年七月二四日から支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の各事実は争う。被控訴人が、パラオ・インターナショナル・エアポートなる会社に対し、数十億円を上回る事業資金を融通する約束をすることはありえず、まして、契約書も作成しないでそのような約束をすることはありえない。したがって、被控訴人が本件第三者への融資約束をする代理権を福島武志に授与することもありえない。

2  同3の事実は争う。

3  同4の事実は争う。本件第三者への融資約束が、被控訴人の東京通信システム営業本部長の権限に属さないことは、誰が考えても明らかである。

4  同5の事実は争う。控訴人とパラオ・インターナショナル・エアポートとの間で、控訴人主張の請負契約が締結された事実はなく、控訴人に損害が生じた事実はない。

三  抗弁

商法四二条二項の悪意

仮に福島武志による本件第三者への融資約束があったとしても、コプロスジャパンは福島武志が被控訴人の商法上の支配人でないことを知っていた。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は争う。

(第三次請求―使用者責任に基づく損害賠償請求)

一  請求原因

1  福島武志の不法行為

仮に、福島武志において本件各約束手形への本件裏書及び本件第三者への融資約束をする代理権がなかったとすれば、福島武志の右各行為は、その後の本件各約束手形の取得者でありかつ右融資約束の相手方たる控訴人に対する不法行為を構成する。

2  被控訴人の責任原因

次の事情に照らして福島武志の右各行為を客観的、外形的にみれば、当該各行為は同人の職務行為の範囲内に属するものというべきであるから、被控訴人は、民法七一五条に基づき控訴人の後記損害を賠償すべき義務がある。

(一) 被控訴人は、昭和六〇年四月一日に株式会社になった後六か月間に、二九社の子会社、出資会社を作り、その後も年間数十社のペースで新会社を作るとみられていたものであり、これらの子会社等には通信事業に関係のない事業や海外事業を目的とするものも含まれていた。そして、被控訴人は、いわゆる完全民営化(国の所有株式が半数以下になる状況)時点で自ら通信事業以外の事業も行うことになっていたものである。

(二) 福島武志は、被控訴人が自らあるいはエヌ・ティ・ティ・インターナショナル株式会社(以下「エヌ・ティ・ティ・インターナショナル」という。)を通して国際事業に参画する業務を探していたものであり、参画する業務が空港建設事業になることもありえた。また、基本契約で合意されたパラオ共和国事業には空港建設事業だけでなく通信事業も含まれていた。

(三) 本件裏書がなされた当時、福島武志はセンチュリーワールドの実質的経営者であり、センチュリーワールドの属する研究会に被控訴人の東京支社が協力していたところ、福島武志は、コプロスジャパンや控訴人に対し、センチュリーワールドは被控訴人の身代わり会社であると説明していた。

(四) 基本契約書の調印並びに本件七〇億円の手形及び本件各約束手形への裏書の際には、福島武志の被控訴人における職位を表示した本件記名印、本件役職印が使用された(なお、被控訴人の内部規程上福島武志に手形行為をする職務権限があったかどうか、本件記名印及び本件役職印が偽造されたものであったかどうかについては、外部の者がこれを知る由もない。)。

(五) 福島武志は、基本契約書のほかその後当該事業に関する事業保証書をコプロスジャパンに交付し、もって、被控訴人が当該事業に積極的に関与するものと思わせる行為をした。

(六) また、福島武志は、平成二年九月二九日にコプロスジャパンで行われたパラオ空港建設事業の打合せの際に、同人の代行者として、被控訴人の子会社エヌ・ティ・ティ・インターナショナルの桑畑佑一郎課長を水谷功に紹介した。

(七) 前記第一次請求の請求原因一5(三)(2)のとおり、基本契約書が被控訴人東京支社の建物でパラオのエピソン大統領立会いのもとに調印され、当日被控訴人の従業員三、四名が同大統領を出迎えたこと、前記第二次請求の請求原因一1のとおり、福島武志が平成二年九月八日コプロスジャパンの取締役会において、水谷功に対し、新空港建設工事の資金について被控訴人が施主に融資する旨の発言をしたことのほか、右の事業に関する福島武志の職務権限に疑問を抱いた水谷功がこの点を福島武志に質問したところ、同人は「特命事項」だと答えて、水谷功を信用させる言動をした。

3  控訴人の損害

控訴人は、福島武志の右不法行為により、パラオ・インターナショナル・エアポートとの間で、本件請負契約を締結するに至り、その結果前記のとおり逸失利益を含めて請負代金額相当の五五億八〇〇〇万円の損害を被った。

4  結論

よって、控訴人は、被控訴人に対し、右損害金のうち三億円とこれに対する不法行為の日の後である平成三年七月二四日から支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は争う。

2  同2の事実は争う。福島武志が本件各約束手形への本件裏書及び本件第三者への融資約束をしたとしても、被控訴人の事業目的等からして、当該各行為が福島武志の職務行為の範囲内に属するものとはいえないことが明らかである。したがって、被控訴人には民法七一五条による責任はない。

3  同3の事実は争う。

三  抗弁

1  控訴人の悪意、重過失

控訴人は、福島武志の本件裏書行為及び本件第三者への融資約束が同人の職務権限内において適法に行われたものではないことを知っていたか、又は知らなかったことにつき重大な過失があったから、被控訴人に対し、民法七一五条により福島武志の右行為に基づく損害の賠償を請求することはできない。

2  過失相殺

仮に被控訴人に民法七一五条による責任が認められる場合には、控訴人の過失が極めて大きいから、一〇〇パーセントに近い過失相殺がなされるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁1、2の各事実はいずれも争う。

第三  証拠関係<省略>

理由

一  第一次請求(手形金請求)について

1  控訴人が本件各約束手形を所持していることは、当事者間に争いがない。

2  甲第一、第二号証の各一、二及び原審証人渡辺敏晃の証言によれば、拒絶証書不要の記載のある本件各約束手形の第二裏書人欄に福島武志によって本件記名印による「日本電信電話株式会社NTT東京通信システム営業本部長福島武志」なる記載と、その名下に本件役職印の押捺がなされたことが認められ、右事実によれば、福島武志は、被控訴人のためにすることを示して本件裏書をしたものというべきである(なお、乙第三、第四号証並びに弁論の全趣旨によれば、本件記名印及び本件役職印は被控訴人の社印規程によって調製・管理されている正規の印章ではなく、偽造されたものであったことが認められるが、右の事実は、福島武志が被控訴人のためにすることを示して本件裏書をしたとの右認定を左右するものではない。)。

3(一)  控訴人は、基本契約の締結は東京通信システム営業本部長たる福島武志の職務権限内の事項に属するから、基本契約に基づく本件参加権利金の支払いのため授受された本件七〇億円の手形について、福島武志が被控訴人のため裏書をすることもその職務権限の範囲内にあり、本件七〇億円の手形と交換に裏書交付された本件一の約束手形及びこれと手形上の記載が同一である(ただし、金額の記載を除く。)本件二の約束手形への本件裏書についても同様である旨主張するところ、本件裏書がなされた当時福島武志が被控訴人の東京通信システム営業本部長の地位にあったことは当事者間に争いがない。

しかし、甲第五号証及び原審証人渡辺敏晃の証言によれば、基本契約はパラオ共和国の新空港の建設及び運営を主要な目的事業として締結されたものであり(基本契約書にはパラオ共和国の電気通信等社会資本に関する事業も目的として記載されてはいるものの、本件全証拠によるも、空港建設事業以外の事業の実施に関し具体的な計画、準備行為等がなされたことを認めるべき証拠は見当たらない。なお、電気通信に関する事業であっても外国におけるものは被控訴人の営む事業に属するとはいえないことは、後記の被控訴人の事業目的等から明らかである。)、センチュリーワールドが右事業への参加権利金七〇億円をコプロスジャパンに支払い、被控訴人はセンチュリーワールド振出の手形について一切の保証をするというものであるところ、甲第六号証、乙第一号証、第二号証の一、二、第八号証の一、二、第九号証、第一〇号証、第一四号証、第一八号証、第二〇号証の一ないし三並びに弁論の全趣旨によれば、(1)被控訴人は、日本電信電話株式会社法によって設立された株式会社であり、目的及び事業については、国内電気通信事業を経営することを目的としてその事業を営むこと、それ以外はこれに附帯する業務及び郵政大臣の認可を受けて会社の目的を達成するために必要な業務を営むことができることと法定されているのであり、外国の空港建設工事に参加するようなことはそもそも被控訴人の事業には属さないこと、(2)東京通信システム営業本部は、東京支社(担当区域は、行政区域としての東京都と一致する。)の直属事業所の一つであり、担当区域における通信システム等の営業に関する部門のみを所掌し、東京通信システム営業本部長は当該職位に付与されている具体的権限の範囲内で対外的取引(契約等)を行うことができるが、右営業に伴う出納権限や工事の権限を有しないこと、(3)被控訴人の出納事務細則上、被控訴人の出納事務において、被控訴人が支払いのため手形を振出すことはなく、手形による料金の収納についても例外的に認められるだけであって、その場合の受取手形について一部の者に取立委任裏書の権限が与えられているほかは、被控訴人の代表者であっても一切手形行為をすることは許されていないこと、以上の事実が認められ、右事実に徴すると、手形行為である本件裏書及び本件七〇億円の手形への裏書についてはもとよりのこと、右基本契約の締結についても東京通信システム営業本部長たる福島武志にこれを行う職務権限が付与されていたということはできない。他に控訴人の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(二)  控訴人は、被控訴人において福島武志に対し、、東京通信システム営業本部長としての職務権限とは別に、右基本契約の締結、本件七〇億円の手形への裏書及び本件裏書の各法律行為をする代理権を授与した旨主張するが、本件全証拠を精査するもこれを認めるに足りる証拠は見当たらない。

4  控訴人は、東京通信システム営業本部は被控訴人の東京支社の直属事業所であって営業所の実質を備え、その営業の主任者たる名称を付されていた福島武志は、商法四二条にいう表見支配人に該当する旨主張するところ、東京通信システム営業本部が被控訴人の東京支社の直属事業所であることは当事者間に争いがない。

しかし、前記甲第六号証、乙第八号証の一、二、第一四号証、第一八号証、第二〇号証の一ないし三並びに弁論の全趣旨によれば、(一)被控訴人は、本社のほか一一の支社(地域事業本部ともいう。)を有し、支社は、事業部、支店、通信機器営業支店、直属事業所、集約業務事業所及びスタッフ組織からなること、(二)支社は経営責任単位、事業部及び支店は利益責任単位であるが、直属事業所は準利益責任単位とされていること、(三)支社長は商法上の支配人であって支社の管轄する営業に関する一切の裁判上、裁判外の行為をなす権限を有するが、支社を構成する各組織の長は商法上の支配人のような包括的権限はなく、当該職位に付与されている具体的権限の範囲内で契約等の対外的取引を行うことができるにすぎないこと、(四)東京支社においては、事業計画の承認、重要な設備投資の決定、業務運営形態・経営合理化に関する基本事項及び支社として統一を要する事項等は全て支社長の権限とされ、下部組織の長に対し右権限を委譲することはできないこと、(五)東京通信システム営業本部における業務の執行は、被控訴人の東京支社建物の一部において同支社に属する一部署として行われ、外観上も独立した営業所の形態を有していないこと、以上の事実が認められ、右認定事実に徴すると、東京通信システム営業本部は、内部組織上及び取引活動の外観上も、被控訴人の経営管理活動を分担しているとか、本社を離れて独立の営業活動を決定しうる権限があったとはいえず、したがって、商法上の営業所の実質を備えているということはできない。他に東京通信システム営業本部が商法上の営業所の実体を備えていると認めるに足りる証拠はない。してみれば、福島武志が商法四二条にいう表見支配人に該当するとの控訴人の右主張は、その前提を欠くものであって、採用し難い。

5  控訴人の表見代理の主張について検討する。

(1)  福島武志が東京通信システム営業本部長として同部の所轄業務(総合通信システムの企画、設計、販売、コンサルティング等及び新システムの開発、各種ユーザー情報のデータベース化等)の範囲内で被控訴人を代理する職務権限を有していたことは当事者間に争いがない。

(二) 控訴人は、コプロスジャパンにおいて、東京通信システム営業本部長たる福島武志に本件裏書をする権限があったと信じ、かつそのように信ずるにつき正当の理由があった旨主張する。

しかし、控訴人が、福島武志において本件裏書をする淵源になったと主張する基本契約の内容は、海外における新空港建設事業に関するものであって、そもそも国内電気通信事業を目的とする被控訴人の事業とは関係のないものであったことに加え、福島武志の職位に付された東京通信システム営業本部長なる名称からは、同人が国内の一定地域における通信システム等に関するサービス提供業務の主任者であることは窺えても、これを超える職務権限があるとは窺えないから、コプロスジャパンにおいても、福島武志に基本契約を締結する職務権限があったかどうかについて、当然疑問を抱くべきであったといわなければならない。もっとも、原審証人渡辺敏晃の証言中には、福島武志が当時コプロスジャパンの取締役であった渡辺敏晃に対し、パラオ新空港建設事業に被控訴人も参加したいが、被控訴人が表に出るわけにはいかないので、身代わり会社との間で契約を締結することを了解してほしいと述べ、さらに被控訴人は将来の完全民営化に備えて、身代わり会社を使って海外への投資、新規事業を行っていると述べたことや、基本契約書の調印が被控訴人の東京支社の建物内にある東京通信システム営業本部の応接室において行われ(ただし、センチュリーワールドの押印は後日になった。)、当日パラオ共和国のエピソン大統領が同建物を訪れ、被控訴人の従業員三、四名が同建物の出入口等で大統領を迎えたこと等から、パラオ新空港建設事業への参加は被控訴人の上層部も承認の上でなされていると解釈したとの旨の供述部分がある。しかし、仮に福島武志がそのような話をしたとしても、被控訴人が身代わり会社を使って海外への投資、新規事業を行っているという話は不自然であって、これをもって福島武志に基本契約締結の代理権があったと信ずべき正当の理由があったとはいえないし、基本契約書の調印の日にパラオ共和国の大統領が被控訴人の東京支社の建物を訪れ、被控訴人の従業員三、四名が同大統領を出入口等で出迎えたとしても、右は一国の大統領の来訪に対する儀礼的な応接と考えることも十分可能であるから、右の事実から直ちにパラオ新空港建設事業への参加が被控訴人の上層部も承認の上でなされていると解釈したとの供述を信用することはできない。右の事情も、福島武志に基本契約締結の代理権があったと信ずべき正当の理由があったと認める根拠とすることはできない。

さらに、基本契約の締結を被控訴人が承認したと考えるには、既に述べたような被控訴人の事業目的等の点から重大な疑問点があったことのほか、次のような疑問がある。すなわち、原審証人渡辺敏晃の証言によると、基本契約において約定された七〇億円もの本件参加権利金は、パラオ新空港建設事業への参加資格となるべきコプロスジャパンの株式の譲渡代金とは別のものであったというのであってその法的性質が曖昧である。また、同証人は、本件参加権利金が七〇億円とされた根拠はオータがコプロスジャパンに対し五〇億円の資金提供を約束していたからであるというのであるが、オータがパラオ側に資力のあることを示すため、銀行に依頼して五〇億円の預金残高がある旨の証明書の発行を受けたことはあったものの、右の預金は直接パラオの新空港建設事業に使用することが予定されていたものではなくいわゆる見せ金であって、オータがコプロスジャパンに五〇億円の資金提供を具体的に約束した事実はなかったこと、そしてそのオータは右の預金の払戻を受けて自己の営業のためにこれを費消したこと、以上の事実が、原審証人旭英男の証言によって認められる。そして、仮にオータがコプロスジャパンに資金提供する予定があったとすれば、それは金銭の貸付になる筈であって(オータはコプロスジャパンの株主であって、参加権利金を支払うべき立場にはない。)、右資金提供の予定額がこれとは法的性質を異にする本件参加権利金の額を決定する根拠になるものではないというべきである。してみれば、かかる巨額の本件参加権利金を決定するのに合理的な根拠はなかったことに帰着し、そのような金員の支払いについて被控訴人が保証することについては渡辺敏晃としても疑問を抱いてしかるべきであったというべきである。そうすると、コプロスジャパンにおいて、福島武志に基本契約締結の代理権があったかどうかについて調査すべき必要があったというべきところ、コプロスジャパンが右の調査をしたことを認めるに足りる証拠はない(かえって、原審証人渡辺敏晃はコプロスジャパンがそのような調査をしなかったことを自認する供述をしている。)。この点からもコプロスジャパンが福島武志に本件裏書をする権限があったと信ずべき正当の理由があったということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

6  以上によれば、控訴人の第一次請求は、その余の点については判断するまでもなく理由がない。

二  第二次請求(債務不履行に基づく損害賠償請求)について

1  控訴人は、福島武志が、平成二年九月八日、コプロスジャパンの取締役会にオブザーバーとして出席した際、同じ資格で同席していた控訴人の代理人である水谷功に対し、被控訴人の代理人として、新空港建設工事に要する資金を施主であるパラオ・インターナショナル・エアポートに融資することを約束した旨主張し、原審証人水谷功は、控訴人の実質的経営者であるが、その頃コプロスジャパン及びパラオ・インターナショナル・エアポートの各役員らや他の関係者らによる会合に出席した際、福島武志が、その場にいた者らに対し、「資金(新空港建設工事に要する資金)については、私どもで全部責任持つから心配要らない。」、「資金は全部NTTが出すので、心配しなくてよい。」と述べた旨供述している。しかし、右発言の内容は、融資の額、時期、条件等も不明確で、到底融資の約束をしたなどといえるものでなく、右発言のなされた前後の経緯、その場の状況等をも考えれば、右の発言は、せいぜい右の融資の実現に向けて、福島武志が努力する意向であることを表明したものにすぎないものと解されるのであって、福島武志において、控訴人を契約の相手方として、被控訴人がパラオ・インターナショナル・エアポートに融資することを約束したとまで認めるに足りるものとはいえない。また、原審証人水谷功は、その後水谷功が電話により確認をした際にも、福島武志は右と同じ発言をしたとも供述するが、仮にそのようなことがあったとしても、右と同趣旨を述べたものと解するのが相当である(福島武志の行った右の表明を以下「本件表明」という。)。他に控訴人の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

2  そうすると、被控訴人代理人福島武志による本件第三者への融資約束がなされたことを前提とする控訴人の第二次請求は、その余の点については判断するまでもなく理由がないわけであるが、念のため、福島武志の代理権、表見支配人、表見代理についても判断しておくこととする。

本件全証拠を精査するも、福島武志において被控訴人のため本件第三者への融資約束をする代理権があったことを認めるに足りる証拠は見当たらず、また、福島武志が商法四二条にいう表見支配人に該当するとはいえないことは、既述したとおりである。

控訴人は、表見代理を主張し、原審証人水谷功の証言中には、民法一一〇条にいう正当の理由に関し、水谷功において、海外における空港建設事業と東京通信システム営業本部の業務との関連性に疑問を抱き、パラオ共和国事業を福島武志が担当していることについて同人に質問したところ、同人から特命事項であるとの返答があったのでその言葉を信用し、被控訴人の他の関係者にこれを照会するなどの調査はしなかった旨の供述部分がある。しかし、海外における空港建設事業と東京通信システム営業本部の業務との関連性に疑問を抱きながら、特命事項であるとの福島武志の返答を信用して、他に右の点に関し格別調査をしなかったというのであれば、これをもって、水谷功が福島武志に被控訴人のため本件融資約束をする権限があったと信ずるにつき正当の理由があったということができないことは明らかであり、他に右の正当の理由を認めるに足りる証拠はない。

3  したがって、控訴人の第二次請求も理由がない。

三  第三次請求(使用者責任に基づく損害賠償請求)について

1  福島武志が被控訴人の代理人として本件各約束手形に本件裏書をしたこと、及び福島武志に右行為をする代理権があったとはいえないことは前記のとおりであるから、福島武志の右行為は違法と評価されるべきである。

また、福島武志の行った本件表明は事実的根拠を欠きかつことさら聞き手に誤解を与える行為というべきであるから、これまた違法と評価されるべきである。

2  そこで、福島武志の本件裏書行為及び本件表明が、被控訴人の事業の執行につきなされたものであるかどうかについて検討するに、被用者の行為が使用者の事業の執行につきなされたものといえるためには、被用者の行為の外形をとらえて客観的に観察し、使用者の事業の態様、規模等からしてそれが被用者の職務行為の範囲内に属するものと認められることを要するものと解するのが相当である(最高裁昭和三九年二月四日第三小法廷判決・民集一八巻二号二五二頁参照)。

右の見地に立って検討するに、被控訴人は日本電信電話株式会社法によって設立された株式会社であり、目的及び事業が、国内電気通信事業及びこれに附帯する業務及び会社の目的を達成するために必要な業務に制限されており、もとより外国の空港建設工事に参加することがその業務に属さないことは前記のとおりである上、被控訴人は、株式会社として商法等の規制を受けるほか、特殊法人として、事業計画について郵政大臣の認可を受けることを要し(日本電信電話株式会社法一一条)、郵政大臣の監督を受け(同法一五条)、かつ会計検査院による会計検査を必要とすること(会計検査院法二二条)等が定められているから、このような被控訴人の事業目的、業務執行の態様等に照らせば、被控訴人の事業目的とは関係のない外国の空港建設事業のため、その被用者たる福島武志が被控訴人代理人名義で手形の裏書をすることや、被控訴人による右事業資金の融資に関する発言をすることは、福島武志の職務権限内において適法に行われた行為とはいえないだけでなく、そもそもその職務行為の範囲内に属するものということもできないことは明らかである。

控訴人は、福島武志の右各行為が被控訴人の事業の執行につきなされたものであるとの主張を根拠づける事情として、前記第三次請求の請求原因2(一)ないし(七)のとおりるる主張するが、右主張事実のうち、被控訴人が子会社や他社に対する出資行為を通して通信事業に関係のない事業や海外事業を営んでいたこと、控訴人のいう完全民営化(国の所有株式が半数以下になる状況)の時点で被控訴人が自ら通信事業以外の事業も行うことになっていたこと、エヌ・ティ・ティ・インターナショナルを通して被控訴人が国際事業に参画する業務を探していたこと、センチュリーワールドが被控訴人の関連会社であったこと等の事実は、いずれもこれを認めるに足りる証拠はなく、また、基本契約の目的に通信事業が含まれていたというに足りないことは前記のとおりであり、その他の事実は、たとえそのような事実があったとしても、これをもって、福島武志の右各行為が被控訴人の事業の執行につきなされたというには足りないことは、右に説示したところに照らして明らかであり、他に福島武志の右各行為が被控訴人の事業の執行につきなされたものと認めるに足りる証拠はない。

3  そうすると、控訴人の第三次請求も、その余の点については判断するまでもなく理由がない。

四  よって、控訴人の本件各請求はいずれも理由がないから、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小川英明 裁判官太田幸夫 裁判官髙橋勝男)

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