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東京高等裁判所 平成8年(ネ)3076号 判決 1999年11月22日

控訴人・附帯被控訴人

株式会社都南自動車教習所

右代表者代表取締役

小川直樹

右訴訟代理人弁護士

山田有宏

丸山俊子

松本修

被控訴人・附帯控訴人

石井猛

被控訴人・附帯控訴人

内田三郎

被控訴人

井上則保

被控訴人

信田明男

被控訴人・附帯控訴人

内田武男

被控訴人・附帯控訴人

小菅菊義

被控訴人・附帯控訴人

三橋嘉浩

被控訴人・限帯控訴人

大矢文昭

被控訴人・附帯控訴人

川﨑秀夫

被控訴人・附帯控訴人

飯山明

被控訴人・附帯控訴人

佐藤文俊

被控訴人・附帯控訴人

宮代正義

被控訴人

込山悟

被控訴人・附帯控訴人

神崎誠

被控訴人・附帯控訴人

藤永洋

被控訴人・附帯控訴人

曽根光憲

被控訴人・附帯控訴人

窪田鐵弘

被控訴人・附帯控訴人

藤永要

被控訴人・附帯控訴人

細谷進

被控訴人・附帯控訴人

阿部國彦

被控訴人・附帯控訴人

笹島快夫

被控訴人・附帯控訴人

岡本いさ子

被控訴人・附帯控訴人

栗山信男

被控訴人・附帯控訴人

奥津浩一

被控訴人・附帯控訴人

小原隆弘

被控訴人

内藤俊彦

被控訴人

福田靖夫

被控訴人・附帯控訴人

鈴木紀子

被控訴人・附帯控訴人

木野晴代

被控訴人・附帯控訴人

浜田実

被控訴人

小山茂

被控訴人

榛葉輝久

被控訴人

五十嵐明行

被控訴人

片野教孔

右34名訴訟代理人弁護士

林良二

高橋宏

藤田温久

菅野善夫

主文

一  原判決を次のとおりに変更する。

1  控訴人・附帯被控訴人は,被控訴人・附帯控訴人ら及び被控訴人らに対し,それぞれ原判決別表「認容金額一覧表」記載の各金員及びそれぞれ原判決別紙債権目録1,2及び3の各月の「合計金額」欄記載の金員につき右各欄に対応する各「起算日」欄記載の日(ただし,平成3年度の4月から10月までの各「起算日」欄を「11月11日」に,平成4年度の4月から6月までの各「起算日」欄を「7月8日」に,平成6年度の4月から6月までの各「起算日」欄を「7月16日」に,平成7年度の4月から7月までの各「起算日」欄を「8月14日」にそれぞれ改める。)から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

2  被控訴人・附帯控訴人ら及び被控訴人らのその余の請求を棄却する。

3  右1項は,仮に執行することができる。

二  控訴人・附帯被控訴人は,被控訴人・附帯控訴人らに対し,それぞれ本判決別表「認容金額一覧表」記載の各金員及びそれぞれ本判決別紙債権目録4の各月の「合計金額」欄記載の金員につき右各欄に対応する各「起算日」欄記載の日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

三  本件控訴を棄却する。

四  訴訟費用は,原審及び当審とも,被控訴人・附帯被控訴人の負担とする。

五  右2項は,仮に執行することができる。

六  原判決につき,次のとおりに更正する。

1  原判決別表「認容金額一覧表」の「原告(4)信田明男」欄の「金103万5405円」を「金103万5402円」に改める。

2  原判決別紙債権目録1の1枚目ないし4枚目をそれぞれ本判決別紙債権目録1の1枚目ないし4枚目のとおりに改める。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人・附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  右取消に係る被控訴人・附帯控訴人ら(25名)及び被控訴人ら(9名)(以下,右34名を「被控訴人ら」という。)の請求を棄却する。

3  本件附帯控訴及び被控訴人・附帯控訴人ら(25名。以下「附帯控訴人ら」という。)の当審における新請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は,第一,二審とも,附帯控訴費用及び当審における新請求に係る訴訟費用を含めて,被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  原判決中附帯控訴人ら敗訴部分を取り消す。

3  控訴人は,附帯控訴人らに対し,それぞれ原判決別紙債権目録1,2及び3の各月の「合計金額」欄記載の金員につき右各欄に対応する各「起算日」欄記載の日から平成7年12月27日まで年5パーセントの割合による金員を支払え(第1次的請求)。

4  控訴人は,附帯控訴人らに対し,それぞれ本判決別紙債権目録4の各「合計」欄の「合計金額」欄記載の各金員(本判決別表「認容金額一覧表」記載の各金員)及びそれぞれ本判決別紙債権目録4の各月の「合計金額」欄記載の金員につき右各欄に対応する各「起算日」欄記載の日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え(第1次的請求及び第2次的請求―当審における新請求)。

5  附帯控訴費用及び当審における新請求に係る訴訟費用は控訴人の負担とする。

6  右3,4項につき仮執行の宣言

(なお,被控訴人・附帯控訴人横山惠一及び被控訴人・附帯控訴人七夕津次夫は,当審において,訴えを取り下げた。)

第二事案の概要

次のとおり訂正又は付加するほかは,原判決の「第二 事案の概要」(原判決書10頁7行目から同32頁7行目のとおりであるから,これを引用する。

一  原判決書10頁末行から同11頁初行にかけての「退職している。」の次に「また,被控訴人信田明男,被控訴人込山悟及び被控訴人・附帯控訴人浜田実も退職した。」を加える。

二  原判決書16頁初行の「都南会」を「都南自動車教習所労働組合(通称「都南会」)」に改める。

三  原判決書17頁2行目及び6行目の各「別紙債権目録1,2及び3」並びに10行目の「同目録1,2及び3」のいずれも次に「並びに本判決別紙債権目録4」を加え,4行目の「平成7年10月」を「平成8年3月」に,5行目の「平成7年10月20日」を「平成8年3月20日」にそれぞれ改める。

四  原判決書18頁4,5行目の「同目録1,2及び3」の次に「並びに本判決別紙債権目録4」を,6行目の「別表「認容金額一覧表」記載の金額」の次に「及び本判決別表「認容金額一覧表」記載の金額の合計額」をそれぞれ加える。

五  原判決書20頁9行目の「被告は」を「被告が」に,同21頁6,7行目の「新賃金体系導入導入」を「新賃金体系導入」にそれぞれ改める。

六  原判決書32頁初行の「別表「認容金額一覧表」記載の各金員」の次に「及び本判決別表「認容金額一覧表」記載の各金員の合計額の金員」を,2行目の「別紙債権目録1,2及び3」の次に「並びに本判決別紙債権目録4」をそれぞれ加える。

第三当裁判所の判断

一  第1次的請求―未払賃金の請求について

1  争点1(被控訴人ら主張の賃金請求権は発生したか,否か。)について

(一) 控訴人と支部(全国自動車交通労働組合総連合会神奈川地方労働組合・神奈川県自動車教習所労働組合都南自動車教習所支部)は,平成3年度から平成7年度まで,各年度の賃金引き上げ交渉において,平成3年度及び4年度は各5000円,平成5年度は7000円,平成6年度は5400円,平成7年度は1500円のベースアップを行う旨の合意(以下「本件合意」という。)を,それぞれ当該年度中にしたが,右各合意に関する労働組合法14条所定の書面が作成されなかったことは,当事者間に争いがない。

(二) 被控訴人らは,控訴人と支部との間で本件合意が成立したことを根拠として,右各ベースアップ分に相当する未払賃金等の支払を求めているのであるが,その請求権が発生したといえるためには,本件合意が支部と控訴人との間の労働協約の内容となることが必要であり,本件合意は,労働組合法14条所定の労働協約として成立することにより,規範的効力を具備することになる。そして,労働組合法14条が,労働協約は書面に作成して両当事者が署名し又は記名押印することによってその効力を生ずると定めた趣旨は,労働協約が労使間において,労働条件の基準を設定する法規範としての作用を営むことから,労働協約の存否及び内容について後日当事者間に紛争が生ずることを防止するため,労働協約の締結に当たり,当事者をして慎重を期せしめ,その内容の明確化を図るとともに,当事者の最終的な意思を明確にすることにある。

したがって,右の立法趣旨からすれば,書面化されなかった労使間の合意については,労働協約としての効力を有しないと解される。

(三) なお,控訴人は,本件合意によるベースアップ分は新賃金体系に基づく賃金規程の別表「初任給および初号賃金」記載の「初任給 13万5千円」を基準とした加算額であり,新賃金体系に合意しない被控訴人らについては,ベースアップ後の支給額が具体的,明確に確定しえないから,本件合意ではベースアップ加算額を合わせた賃金支給額が確定しうる程度の合意に至っていないと主張しているが,本件合意によりベースアップ分の金額もベースアップ加算額を合わせた賃金支給額の金額も確定していることは明らかであり現に新賃金体系に基づいて賃金を支給している控訴人において,被控訴人らが新賃金体系に合意しないことを捉えて,右のように主張することは,詭弁に過ぎない。

(四) ところで,原判決の「第二 事案の概要」の「一 当事者間に争いのない事実及び確実な書証により明らかに認められる事実」(原判決書10頁7行目から同18頁6行目まで)記載の各事実に後褐各証拠及び弁論の全趣旨を併せると,次の各事実(争いのない事実を含む。)が認められる。

(1) 昭和58年度において,同年7月に控訴人と支部がベースアップ額(1万3800円)などについて合意し,控訴人が支部に対して協定書案を示したところ,その案の中に,「労働組合の要求する壱万参千八百円のベースアップを実施するためには教習料金を1時間当たり350円程度値上げする必要がある。この料金値上げによって,将来教習生が減少し,それが原因で会社が経営不振に陥いることも予想される。このことは会社,組合ともに認めるところである。そこで今回は,組合の要求どおりベースアップを実施するが,今後は当然のことではあるが,組合及びその組合員は会社に対し,いわゆる経営権といわれるものに関して干渉するような言動をしないことはもちろん,経営者の責任を追求するようなことは一切しないことを確認する。」という内容の「四,料金改訂について」と題する項目があったことから,支部が右項目に同意せず協定書が作成されるに至らなかったが,控訴人は,ベースアップを実施し,支部組合員に対し,合意されたベースアップ分を支給した。(<証拠略>)

(2) 控訴人は,昭和53年6月以来旧賃金体系に基づく給与を支給してきたが,旧賃金体系には矛盾があるとして,平成2年暮れ以降その改定のための検討を続け,翌3年4月8日以降,支部に対し,賃金体系改定の検討資料を提供し,旧賃金体系の問題点を指摘してその改定を提案し,交渉を始めた。同年5月10日行われた控訴人と支部との団体交渉以降回を重ねて,交渉がされたが,支部は,新賃金体系の導入に同意しなかった。(<証拠略>)

(3) 控訴人は,平成3年6月4日,支部に対し賃金規定の改定を主要部分とする就業規則の一部改正案を提示して,意見書の提出を求めた。支部は,同年7月31日,賃金規定の改定は従来の賃金規定による賃金の条件を下回るものであるから反対するとの意見書を提出した。控訴人は,同年8月1日,右意見書を添付して,右改正後の就業規則を厚木労働基準監督署長に届け出た。控訴人は,右のような経緯を経て,新賃金体系を導入し,支部組合員である被控訴人らも含めて従業員全員につき平成3年4月分から新賃金体系による賃金(ただし,被控訴人らに対する本件係争の各年度のベースアップ分を除く。)を支給している。(<証拠略>)

(4) 控訴人は,支部との平成3年度の賃金引き上げ交渉において,同年度の賃金については,新賃金体系を前提として,賃金規程の別表「初任給および初号賃金」記載の「初任給 13万5千円」に5000円を加算してベースアップを行う旨回答したところ,支部は,同年10月(本件合意がされた日は,被控訴人らは同年10月14日ころと主張し,控訴人は10月31日と主張しているが,証拠上いずれとも確定できない。),加算額を5000円とすること自体については同意したが,賃金規程の別表「初任給および初号賃金」記載の「初任給 13万5千円」に5000円を加算するということは,新賃金体系の導入を前提とするものであることから,新賃金体系の導入に同意する形式となる書面(協定書)の作成には応じなかった。平成4年度の賃金については,同年6月28日,ベースアップ額を5000円とすることについて合意が成立したが,控訴人の回答が「賃金規程の定める本人給の初任給の額を,14万5千円とする。」というものであったことから,支部は,新賃金体系の導入に同意する形式となる書面(協定書)の作成には応じなかった。平成5年度の賃金については,同年5月13日,ベースアップ額を7000円とすることについて合意が成立したが,控訴人の回答が「賃金規程の定める本人給の初任給の額を,15万2千円とする。」というものであったことから,支部は,新賃金体系の導入に同意する形式となる書面(協定書)の作成には応じなかった。平成6年度の賃金については,同年7月6日,ベースアップ額を5400円とすることについて合意が成立したが,控訴人の回答が「賃金規程第20条第2項の「別に定める初任給」の金額を157400円とする。」というものであったことから,支部は,新賃金体系の導入に同意する形式となる書面(協定書)の作成には応じなかった。平成7年度の賃金については,同年8月4日,ベースアップ額を1500円とすることについて合意が成立したが,控訴人の回答が「賃金規程第20条第2項の「別に定める初任給」の金額を158,900円とする。」というものであったことから,支部は,新賃金体系の導入に同意する形式となる書面(協定書)の作成には応じなかった。(<証拠略>)

(5) 控訴人は,ベースアップ額のほか新賃金体系の導入にも合意したいわゆる第2組合である都南会(都南自動車教習所労働組合)の組合員及び非組合員に対しては,右各ベースアップ分を各年度の4月に遡って支給しているが,支部組合員である被控訴人らに対しては,支部との間でベースアップについての労働組合法14条所定の書面が作成されていないことを理由として,右各ベースアップ分を支給していない。

(6) 平成3年11月7日,控訴人と支部との間で,平成3年度の夏期賞与額について「各人の賞与額は本協定の妥結日を含む賃金計算期間を基にして支給されている基準内賃金の1.6カ月とする。」との記載のある協定書が作成され,控訴人及び支部が記名押印した。(<証拠略>)

なお,右協定書の作成によって,平成3年度時点における「初任給 13万5千円」との定めについて控訴人と支部との合意が成立したことにはならないと,当事者双方とも主張はしているものの,右にいう「基準内賃金」が新賃金体系による賃金を意味するものであることについては,当事者間に争いがない。

(五) 控訴人は,被控訴人らに対し平成3年4月分以降の給与は新賃金体系による賃金を支給し,被控訴人らもこれを異議なく受領しているから,本件合意がされた各時期(平成3年10月,平成4年6月28日,平成5年5月13日,平成6年7月6日及び平成7年8月4日)当時,控訴人及び支部は,控訴人が新賃金体系による賃金を支給し,旧賃金体系に戻ることがありえないことを共通の認識とし,それを前提として,本件合意をしたことは明らかである。そして,控訴人は,各時期の協定書作成の段階に至って,支部が新賃金体系の導入に同意する形式となる書面(協定書)を作成して,支部に対し記名押印の要求(協定書作成の提案)をしたものであるが,これは,支部がそのような書面に記名押印することがないことを見越して,控訴人が本件合意によるベースアップ分の支給を取り止める口実にしようとしたもので,まことに不誠実な要求(提案)であるといわざるをえない。さらに,すでに認定した本件合意前後の経緯,なかんづく,控訴人と支部との間において昭和58年度のベースアップ等については協定書が作成されないまま合意されたベースアップ分が支給されたこと,平成3年度の夏期賞与額に関して成立した合意及びその協定書は,新賃金体系による賃金を基準として算出するものであったこと,控訴人が都南会の組合員及び非組合員に対しては各ベースアップ分を各年度の4月に遡って支給していることを考慮すると,控訴人が,本件合意によるベースアップ分の支給を拒む理由として労働組合法14条所定の書面が作成されなかったことを主張することは,信義に反するものであり,許されないというべきである。そうとすれば,本件合意によるベースアップ分については,本件合意がされた各時期の直後ころ(具体的時期は,本件合意がされた各時期の約10日経過後とすると,平成3年度につき後記推認により同年11月11日,平成4年度につき同年7月8日,平成5年度につき同年5月24日,平成6年度につき同年7月16日,平成7年度につき同年8月14日である。)に,その旨の協定書が作成され両当事者が署名し又は記名押印した場合と同視すべきであるから,本件合意は,労働協約として成立し,規範的効力を具備していると解するのが相当である。

2  争点2(被控訴人らの賃金請求権は,時効により消滅したか,否か。)について

(一) 控訴人は,原判決別紙債権目録1記載の平成3年度4月分から2月分までの賃金請求権は,時効により消滅したと主張している。

平成3年度のベースアップ分については,同年10月に本件合意がされ,その直後ころに労働協約として成立したと解されるから,平成3年度4月分から10月分までのベースアップ分に係る賃金請求権は,労働協約として成立した日と推認される同年11月11日(本件合意がされた時期は,同年10月であるが,証拠上は日まで確定できないので,同年10月の最終日である31日であると推認し,労働協約として成立した日は,その約10日経過後の同年11月11日と推認する。)が履行期であり,同年度11月分から2月分までの賃金請求権は,原判決別紙債権目録1の各該当月の各「起算日」欄記載の日が履行期である。したがって,右賃金請求権の各履行期から本件訴訟が原審に提起された平成6年3月8日までに2年以上を経過したことになる。

(二) ところで,(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人らが控訴人に対し提起した別件訴訟(横浜地方裁判所昭和60年(ワ)第971号損害賠償請求事件)において,平成4年6月10日から和解手続がされ,平成5年9月22日に和解が打ち切られたが,右和解手続では,本件未払賃金が和解解決の対象にされたことが認められる。したがって,被控訴人らは控訴人に対し,別件訴訟において和解が打ち切られた平成5年9月22日まで本件未払賃金の支払を催告していたものと解すべきであり,右平成5年9月22日は,平成3年度4月分から2月分までの賃金請求権のいずれの履行期からも2年未満であり,かつ,本件訴訟が提起された平成6年3月8日までに6か月を経過していないので,平成3年度4月分から2月分までの賃金請求権については,消滅時効が中断され,完成していないものである。

なお,被控訴人らは,本件未払賃金については,別件訴訟の和解解決の対象にされたことをもって裁判上の請求がされたことになると主張するが,失当である。

3  まとめ

以上のとおり,被控訴人らの第1次的請求は,本件合意によるベースアップ分に係る基準内賃金及び残業賃金の各未払い分の請求であるところ,従前の請求は,それぞれ原判決別表「認容金額一覧表」記載の各金員及びそれぞれ原判決別紙債権目録1,2及び3の各月の「合計金額」欄記載の金員につき右各欄に対応する各「起算日」欄記載の日(ただし,平成3年度の4月から10月までの各「起算日」欄を「11月11日」に,平成4年度の4月から6月までの各「起算日」欄を「7月8日」に,平成6年度の4月から6月までの各「起算日」欄を「7月16日」に,平成7年度の4月から7月までの各「起算日」欄を「8月14日」にそれぞれ改める。)から支払済みまで年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であり,その余の請求は失当である。また,附帯控訴人らの当審における新請求(第1次的請求)は,すべて正当である。

二  第2次的請求―不法行為による損害賠償請求について

第1次的請求について判断したところによれば,第2次的請求については,判断を要しない。

第四結論

よって,被控訴人らの従前の請求については,それぞれ原判決別表「認容金額一覧表」記載の各金員及びそれぞれ原判決別紙債権目録1,2及び3の各月の「合計金額」欄記載の金員につき右各欄に対応する各「起算日」欄記載の日(ただし,平成3年度の4月から10月までの各「起算日」欄を「11月11日」に,平成4年度の4月から6月までの各「起算日」欄を「7月8日」に,平成6年度の4月から6月までの各「起算日」欄を「7月16日」に,平成7年度の4月から7月までの各「起算日」欄を「8月14日」にそれぞれ改める。)から支払済みまで年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余の請求は棄却すべきものであるから,原判決を右のとおりに変更し,また,附帯控訴人らの当審における新請求はすべて認容することとし,訴訟費用の負担につき同法67条2項,64条ただし書,61条を,仮執行の宣言につき同法259条,310条をそれぞれ適用して,主文1項ないし5項のとおりに判決する。

なお,原判決別表「認容金額一覧表」の「原告(4)信田明男」欄の「金103万5405円」は,正しくは「金103万5402円」であり,原判決別紙債権目録1の1枚目ないし4枚目の各「起算日」欄に記載漏れがあるが,いずれも明白な誤りであるから,本判決主文6項において,更正する。

(口頭弁論の終結の日・平成10年10月7日)

(裁判長裁判官 荒井史男 裁判官 大島崇志 裁判官寺尾洋は,転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 荒井史男)

別表「認容金額一覧表」

<省略>

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