東京高等裁判所 平成8年(ネ)4682号 判決 1997年6月17日
スウェーデン国
エス 二二一-八六 ルンド ルーベン ラウジ ングス ゲータ
控訴人
エービー テトラ パック
右代表者
ラース オッケ フォースバーグ
東京都千代田区紀尾井町六番一二号
控訴人
日本テトラパック株式会社
右代表者代表取締役
柚木善清
右訴訟代理人弁護士
相馬功
同
杉田禎浩
右輔佐人弁理士
田中義敏
同
清水正三
同
三好秀和
同
岩﨑幸邦
同
中村友之
同
伊藤正和
同
鹿又弘子
徳島県板野郡北島町太郎八須字西の川一〇番地の一
被控訴人
四国化工機株式会社
右代表者代表取締役
植田滋
右訴訟代理人弁護士
久田原昭夫
同
久世勝之
右輔佐人弁理士
岸本瑛之助
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
控訴人エービー テトラ パックについて、この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決添付被控訴人装置目録記載の、包装材料をヒートシールする装置(以下「被控訴人装置」という。)の製造、販売をしてはならない。
3 被控訴人は、その占有に係る被控訴人装置及び専ら被控訴人装置の製造に使用される部品を廃棄せよ。
4 被控訴人は、その占有に係る被控訴人装置の製造設備を廃棄せよ。
5 被控訴人は、被控訴人装置の補修、修理及び調整をしてはならない。
6 被控訴人は、控訴人エービー テトラ パック(以下一控訴人エービーテトラ」という。)に対し、一四五八万円及びこれに対する平成六年八月二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
7 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文一、二項と同旨
第二 事案の概要
本件事案の概要は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決における「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決一三頁五行目及び同一六頁六行目の各「、全体の中の」をいずれも「全体の中の」に改める。
二 同二六頁一〇行目及び一一行目の各「2つの」をいずれも「二つの」に改める。
三 同二七頁二行目の「2つの垂直面を含む3」を「二つの垂直面を含む三」に改める。
四 同三五頁七行目の「二三行」を「二三」に改める。
五 同三七頁二行目の「構造<2>」を「構造c<2>」に改める。
六 同四三頁四行目の「可能に」を「可能と」に、同五行目及び六行目の各「行目」をいずれも「行」にそれぞれ改める。
七 同四四頁九行目の「2段」を「二段」に、同五〇頁一一行目の「六行目」を「六行」に、同五一頁三行目の「一四行目」を「一四行」にそれぞれ改める。
八 同五九頁五行目ないし同六行目の「(13、14)」を「13、14」に、同行目の「(3)」を「3」に、同八行目の「(14)」を「14」に、同九行目の「(13)」を「13」に、同一〇行目の「(15)」を「15」に、同一一行目の「(13)」を「13」に、同六〇頁二行目の「(15)」を「15」に、同行目の「一八行目から二九行目まで」を「一八ないし二九行」にそれぞれ改める。
九 控訴人らの当審における主張
1 被控訴人装置の構造b<2>が本件発明の構成要件B<2>を充足すること、又は、両者が均等であることについて
(一) 被控訴人装置の構成b<2>における「ほぼ円弧状の先端面を有する突条」は、本件発明の構成要件B<2>における「ほぼ矩形の平らな先端面を有する突条」の要件を充足する。
(1) 本件発明の構成要件B<2>における「ほぼ矩形の平らな先端面を有する突条」の技術的意義については、「ほぼ」という表現があることにより、特許請求の範囲の記載のみによっては客観的、一義的に確定することができない。
したがって、右技術的意義を確定するためには、本件明細書の発明の詳細な説明の欄の記載を参酌することが必要である。
(2) 本件明細書の発明の詳細な説明の欄には、突条と、その作用効果について、次のように記載されている。
ア 「本発明の以上その他の目的は、積層材料に押し付けることができる作用面を備えた細長いシールジョーを具備する包装積層材料をヒートシールする装置において、作用面がほぼ突条を有することを特徴とする本発明によって達成されている。前記突条即ち細長い高くなった面をシールジョーに設けることにより、組み合わされた二つの包装積層材料に押し付けられた時に、積層材料が非常に高い圧力で互いに押し付けられる線状のシール帯域を作るジョーが得られる。シールジョーには突条のみならず隣接領域をも含む積層材料を加熱する領域が具備ざれているので、加熱された熱可塑性材料は線状領域から隣接領域へ高速で押しやられ、それにより既述のように効果的な混合と、従って優れたシールが得られる。」(本件特許公報四欄三七行ないし五欄七行)
イ 「包装積層材料を突起9と同じ高さで一緒に押しやる高い圧力(約100kg/cm2)のために、溶融熱可塑性材料はシール帯域13、14全体の中の高圧の領域13から隣接部分14に走り、または流れ込む。」(同公報七欄一四ないし一八行)
これらの記載によると、突条は、シールジョーに設けられた細長い高くなった面であり、この突条を、組み合わされた二つの包装積層材料に押し付けると、加熱された熱可塑性材料は、突条による高い圧力(約一〇〇kg/cm2)のたあ、シール帯域全体の中の高圧の領域から隣接領域に走り又は流れ込むことによって効果的に混合され、優れたシールが得られるという作用効果を奏するものである。
そして、ここにおいては、突条、すなわちシールジョーに設けられた細長い高くなった面が、平面であるか、曲面であるかは、特定されていない。
したがって、本件発明における突条は、二つの包装積層材料を押し付けた際に高い圧力(約一〇〇kg/cm2)を生じるものであれば、その形状が平面であるか曲面であるかを問わないものであることが明らかである。
(3) 他方、被控訴人装置の構成b<2>の「ほぼ円弧状の先端面を有する突条」には、「ほぼ」という表現があることから考えて、矩形の両肩部を曲面とし、両曲面を平らな頂面を残して曲面で結んだ先端面を有する突条、あるいは、矩形の両肩部を曲面とし、平らな面に近い曲面で結んだ先端面を有する突条が含まれると解される。
(4) そうすると、本件発明の構成要件B<2>における「ほぼ矩形の平らな先端面を有する突条」は、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲で解釈できるから、被控訴人装置の構成b<2>における、「矩形の両肩部を曲面とし、両曲面を平らな頂面を残して曲面で結んだ先端面を有する突条」も、「矩形の両肩部を曲面とし、平らな面に近い曲面で結んだ先端面を有する突条」も含むものと解釈することができる。
したがって、被控訴人装置の構成b<2>は、本件発明の構成要件B<2>に包摂されるものというべきである。
(5)ア このことは、被控訴人が、本件発明を原出願とする分割出願(平成四年特許願第二六二三四三号、平成七年特許出願公告第二九三八二号)に対する異議申立てにおいて、次のとおり主張していることからも裏付けられる。
「<2>相違点B
原出願では、「突条(9)」に「ほぼ矩形の平らな先端面を有する」という限定が付されていたのに対し、本願ではこのような限定がなく、単に「凸条(9)」である点。
<2>相違点B
原出願は、平成五年一〇月二八日に特許第一七九五五六五号として登録されたが、本件異議申立人を被告とする特許権侵害差止等請求事件において、本出願人である原告は、甲第八号証一〇頁八~九行に記載されているように、「作用、効果も突条が存在すること自体に意味があり、突条の高低・形状の差異は実質上意味をもつものではない。」と主張する。
したがって、本出願人の主張によれば、「ほぼ矩形の平らな先端面を有する」という限定は、意味のないことになる。」(平成七年八月三日付け理由補充書二一頁)
被控訴人の右主張は、控訴人らの主張を借りて、突条の形状を、「ほぼ矩形の平らな先端面を有する」と限定することが意味のないものであることを主張するものである。
被控訴人が、特許庁においてこのように主張する一方、本訴においてこれに反する主張することは、明らかに信義則に反する。
イ また、被控訴人は、被控訴入を出願人とする平成四年特許出願公開第一五四五六四号公報においても、
「突条の横断面輪郭が円弧状となされているから、局部的強圧部、すなわちチューブ両縁部において包装材料の紙層が破れることもない。」(二頁右下欄五ないし八行)
と記載している。
これは、突条の先端面の形状を円弧状とすることが単なる設計変更に過ぎないものであることを、被控訴人自らが認識していることを実質的に述べるものであり、前記結論を裏付けるものである。
(6) 更に、本件発明は、出願の過程において、構成要件B<2>の突条を「ほぼ矩形の平らな先端面を有する突条」に限定することによって登録されるに至ったというものではないから、本件発明の技術的範囲を解釈するにあたって、禁反言の法理を適用することは妥当ではない。
ア すなわち、本件発明と、フランス特許公報記載の発明との構成上及び作用効果上の相違点を示すならば、次のとおりである。
(ア) 本件発明は、作用面から突出する突条を有するものであるのに対し、フランス特許公報記載の発明は、作用面のみを有するものであり、作用面から突出する突条を有していない(以下「相違点(ア)」という。)。
(イ) 本件発明は、高周波を印加することによって導電性材料層を加熱するものであるのに対し、フランス特許公報記載の発明は、加熱したジョーの熱伝導によって加熱するものである(以下「相違点(イ)」という。)。
(ウ) 右の(ア)(イ)の構成上の相違により、本件発明においては、シール帯域の外側で二枚の積層材料を挟んで押圧し、隣接領域に流出した溶融物をせき止めるという作用効果を奏するのに対して、フランス特許公報記載の発明においては、作用面が傾斜して押圧せず、溶融物を毛細管現象で縮ませて、押圧部分に空洞を形成するという作用効果を奏する。
イ 本件発明は、審判請求時の補正により、相違点(ア)の要件については、突条の形状が従前の「平らな平面を有する突条」から「ほぼ矩形の平らな先端面を有する突条」に限定され、相違点(イ)の要件については、この段階において初めて加えられたものである。
ウ 右の相違点(イ)についての特許請求の範囲の補正は、その構成及び作用効果からみて、技術的に必須のものとしての補正であり、この補正がなければ、本件発明は審判段階においても拒絶されていたものと思われる。つまり、本件発明は、相違点(イ)の要件を特許請求の範囲に記載することにより特許が付与されたものである。
エ 一方、相違点(ア)についての補正は、本件発明の作用効果が「作用面から突出した突条」によって奏されるものであり、突条の形状如何によって左右されるものではないから、格別の意味があったものとは認められない。突条の形状が「ほぼ矩形の平らな先端面を有する」ことによる作用効果は、本件明細書にはまったく記載されていない。
オ したがって、本件発明の出願過程において、突条の形状が「ほぼ矩形の平らな先端面を有する」ものに補正され、その際、これによって特許が付与されるべきことが強調されたとしても、そのことが、本件発明の技術的範囲の確定に格別の意味を有するものではなく、本件において禁反言の法理が適用される余地はない。
(二) 仮に、被控訴人装置の構造b<2>における突条が、本件発明の構成要件B<2>における突条に含まれないとしても、両者は均等なものとみるべきである。
(1) 本件発明のような機械部品に関する発明は、その機械部品の特徴を示す図面が機械部品の特徴を最も良く表現しているものである。当業者は、その機械部品の特徴を示す図面をみれば、その図面の示す技術的思想と、それがどの範囲にまで適用できるのかを想到することができるものである。
したがって、当業者が、本件発明の特徴を示す図面と、被控訴人装置の図面とを対比して、両者間に実質的な差異はなく、実質上同一であって、相互に適用可能であると判断することができるような場合には、両者は均等であるとみるべきである。
そこで、本件発明の図面と被控訴人装置の図面とを対比するならば、両者とも、作用面から突出した突条を有し、シールジョー全体からみた突条の大きさと形状に格別の差異はなく、また、当業者が両者の図面を対比してみた場合、両者ともシールジョーに適用したときの作用効果は同じであって、その間に実質上の差異はなく、単に、突条先端部の形状が角張ったものであるか、丸みを帯びたものであるか程度の差異があるに過ぎず、しかも、その差異によりもたらされる技術的効果は、当業者にとって自明である。
したがって、本件発明の構成要件B<2>の突条と、被控訴人装置の構造b<2>の突条とは、実質的に同一であり、均等であるとみなすべきである。
(2) 本件発明も被控訴人装置も、ともに、作用面と、作用面から突出する突条によって、溶融した熱可塑性材料を押圧し隣接領域に流出させるとともに、外側でせき止めるという作用効果を奏するものである。
すなわち、右作用効果は、突条の形状によって左右されるものではなく、作用面と、作用面から突出する突条によって生じるものである。
したがって、本件発明と被控訴人装置とにおいては、突条の形状が異なることによる作用効果上の差異はなく、その点からも、両者は、実質的に同一であって、均等とみるべきものである。
(3) 均等の主張は、禁反言の原則に反するものではない。
ア 本件発明の特徴は、作用面と、作用面から突出する突条を有する点にあり、突条の形状が「ほぼ矩形の平らな先端面を有する」点にあるのではない。本件明細書にも、突条の形状を右形状に限定した記載はなく、そのように限定したことによる作用効果の記載もない。
他方、フランス特許公報記載の発明は、作用面及び作用面から突出する突条を有するものではなく、本件発明の作用効果である、溶融した熱可塑性材料を突条で押圧し、隣接領域に流出させるとともに、外側でせき止めるという作用効果を奏するものでもない。
右のように、本件発明は、フランス特許公報記載の発明とは構成上も作用効果上も顕著な差異を有するものであり、そのため、本件発明は、突条の形状が構成要件B<2>に限定されたことにより特許が付与されたものでないことは明らかである。
したがって、本件において、本件発明の構成要件B<2>と被控訴人装置の構造b<2>とが均等であるか否かを認定、判断するにあたっても、禁反言の原則を適用する余地はない。
イ また、被控訴人装置の突条は、「作用面から突出し、円弧状の先端面を有する突条」である。そして、突条がこのような構成であることにより、被控訴人装置においても、高周波加熱により溶融した熱可塑性材料を突条で押圧し、隣接領域に流出させるとともに、外側でせき止めるという作用効果を奏するものである。
フランス特許公報記載の発明は、前記のように、高周波加熱でもなく、突条を有するものではないため、被控訴人装置の右の作用効果を奏するものでもない。
被控訴人の主張する禁反言の原則とは、いわゆる包袋禁反言の法理とされるものであるが、それは、特許庁における拒絶の理由とされた先行技術との抵触を回避するために、特許請求の範囲を補正して特許査定となった場合には、当該特許請求の範囲における技術的範囲は、先行技術にまで広がらないというものである。
したがって、右のように、被控訴人装置のジョーとフランス特許公報記載の発明のジョーとは、構成及び作用効果がまったく相違するのであるから、被控訴人装置のジョーが本件発明の技術的範囲に含まれると解しても、フランス特許公報記載の発明のジョーまでも本件発明の技術的範囲に含まれるということにはなり得ないのであり、控訴人らの、本件発明と被控訴人装置についての前記均等の主張が包袋禁反言の法理に反することにはならない。
(三) 被控訴人装置の構成b<2>における「左右突条及び高低二段で低い段が左右突条の突条と同じ高さである中央突条」は、本件発明の構成要件B<2>の要件を充足する。
(1) 突条の有無、高さは、包装材料の横方向にシールされる箇所の状態に応じて、適宜選択できるものであり、シール部両端の、良好な横方向シールを得難い部分のみに突条を設けたり、シール部中央に包装材料が三枚重なっていることを考慮して、中央にも突条を設けたり、段差に対応して突条の高さを変える等のことは、当業者が適宜なし得ることである。
(2) したがって、被控訴人装置の構造b<2>においては、突条について、「左右突条及び高低二段で低い段が左右突条の突条と同じ高さである中央突条」と具体的に特定されているが、これについては、当業者が適宜選択し得るところである。
一方、本件発明の特許請求の範囲においては、右について何ら限定されていない。
そうすると、被控訴人装置の構成b<2>における「左右突条及び高低二段で低い段が左右突条の突条と同じ高さである中央突条」は、本件発明の構成要件B<2>の要件に包摂されるものである。
2 被控訴人装置の溝造c<2>が本件発明の構成要件C<2>を充足することについて
(一) 横方向シールは、積層材料同士を互いに重ね合わせ、シールするものであるが、シールされた後は、内容物が長期間(例えば二、三か月間)に渡り変質、腐敗してはならない。そのため、外部から空気(酸素)等が容器内部に入らないように、酸素バリア性を有するシールを形成しなければならない。シールする際に、導電性材料層にヒビが生じたり、割れたりすると、容器内部に空気等が入るおそれがある。
この観点から、特に内側のシール部分、すなわち内容物側のシール部分が重要となる。
また、溶融した熱可塑性材料が、内容物の充填されている容器内部にはみ出すと、脆くなったその部分から積層材料が破断するおそれがある。
したがって、突条は、通常、シール帯域の中心から内容物側の反対側、すなわち切断部側にずらされている。
(二) 被控訴人装置の構造c<2>においては、「左右突条では、シール帯域の長さ方向の両端部でかつ外縁(E)寄りの部分を、中央突条では、シール帯域の長さ方向の中央部でかつ外縁(E)に沿う部分を、それぞれ押しつけるようになっている」として、突条で押し付ける部分を特定している。
しかしながら、被控訴人装置における外縁(E)はシール帯域の切断部側であることから、右の突条により押し付ける部分の特定は、突条の設置位置をシール帯域の中心部から切断部側にずらすという、単に、(一)の事項を実現しているに過ぎないものであることが明らかである。
(三) 他方、本件発明の構成要件C<2>においては、突条で押し付ける部部分について、何ら限定していない。
(四) したがって、被控訴人装置の構造C<2>は、本件発明の構成要件C<2>に包摂されるものである。
3 被控訴人装置の構造が本件発明の構成要件C<3>を充足することについて
(一) 本件発明の構成要件C<3>は、本件発明について作用効果の面から規定している。
一方、被控訴人装置の構造の説明においては、このような作用効果の面からの記載がない。
(二) しかしながら、被控訴人装置においても、本件発明の構成要件C<3>と同様の作用効果を生じることは明らかである。
なぜならば、本件発明においても、被控訴人装置においても、突条は、溶融した熱可塑性材料のうち、突条対応部分の溶融物を隣接領域に押し出し、隣接領域の溶融物と効果的に混合させるものであり、また、突条により流出させられた溶融物は、容器の酸素バリア性からみて重要な部分である内容物側において、溶融していない部分によりせき止められて、堆積部分を形成し、これにより、横方向シールが形成されるものであって、両者間に作用効果上の差異はまったくないからである。
(三) したがって、被控訴人装置の構造も、本件発明の構成要件C<3>に包摂されるものである。
4 以上からみるならば、被控訴人装置が本件発明の技術的範囲に含まれることが明らかである。
一〇 控訴人らの当審における主張に対する被控訴人の反論
1 被控訴人装置の構造b<2>が本件発明の構成要件B<2>を充足すること、又は、両者が均等であることについて
(一) 本件発明及び被控訴人装置における突条の形状について
(1) 控訴人らは、本件発明の突条の形状について、「ほぼ」と表現されていることを理由に、本件発明の突条の形状が被控訴人装置の突条の形状を含むものと主張するが、控訴人らの右主張は、結局、「ほぼ」との記載がありさえすれば、いかなる構成をも取り込めるというに等しいことになり、妥当でないことは明らかである。
(2) 特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないことは特許法七〇条の示すところであり、特許請求の範囲の記戴において限定的な表現が付されている場合、それを限定的に解釈すべきことは当然である。
本件発明においては、出願当初は無限定であった突条の形状について、まず、「平らな平面を有する突条」と補正され、その後、「ほぼ矩形の平らな先端面を有する突条」と限定されたものである。
このことからすると、本件発明の特許請求の範囲の記載における「ほぼ」は、「矩形」を修飾する表現であり、控訴人ら主張のように「平らな先端面」を修飾する文言でないことは明白である。
したがって、本件発明の突条の形状は、その技術的範囲の解釈として、被控訴人装置の「ほぼ円弧状の先端面を有する突条」とは明らかに異なるものである。
(3) なお、控訴人らは、別件である被控訴人の特許異議申立事件における主張内容をも根拠にして、本件発明の突条の形状に制限はないものと主張するが、失当である。
被控訴人の右事件における主張は、仮に、控訴人らの主張が容れられるということになるならば、突条について「ほぼ矩形の平らな先端面を有する」と限定した意味が失われるから、控訴人らの主張が誤りであるとの趣旨を述べたに過ぎないものであり、そのことは一読して明らかである。
また、そもそも、別件である特許異議申立事件において被控訴人の述べたことが、本件訴訟において信義則上の問題を生じさせるということはあり得ない。
(4) 控訴人らのフランス特許公報記載の発明についての主張は、同公報において、同発明が「融着面上に突起領域を呈する融着ジョー」を有するものと明確に記載されていることを、敢えて曲解してなされたものである。
更に、フランス特許公報記載の発明と本件発明との関係如何に拘らず、控訴人エービーテトラが、本件発明の出願過程において、フランス特許公報記載の発明の存在に対応して、本件発明の突条の形状を限定したということは、動かし難い事実である。かかる事実によって本件特許が成立した経緯を考慮するならば、同控訴人が右のような補正をしたという事実こそが重要であり、そのことのみからみても、控訴人らの本件における拡張解釈の主張は、禁反言の原則に反するものである。その補正が、特許庁の審査においてどのように判断されたか、補正したことが本件特許の成立のために現実に必要であったか否かは、禁反言の成否に直接関係することではない。
(5) 更に、控訴人らは、本件発明の突条の形状が「ほぼ矩形の平らな先端面を有する」ものであることによる作用効果について、本件明細書にはまったく記載されていないから、本件発明の技術的範囲は、突条の形状如何により差異を生じない旨を主張する。
しかしながら、控訴人らの右主張は、発明の詳細な説明における作用効果の記載さえあれば、これを基に、特許発明の技術的範囲を拡張して解釈すべきであるとするものに他ならず、かかる解釈は到底許されない。特に、本件においては、控訴人エービーテトラが特許請求の範囲の記載を補正した際に、従前の広い特許請求の範囲の記載に対応する作用効果の記載を、たまたまそのままにして補正しなかったというだけのことであり、控訴人らの主張は、それを奇貨として、補正により限定された特許請求の範囲の文言を無視し、その解釈を拡張するものである。もし、控訴人らの主張するように、補正の前後において作用効果に変わりがないのであれば、出願の過程において、控訴人エービーテトラが「ほぼ矩形の平らな先端面」に格別の作用効果があるとして権利を取得したことは、事実に反する主張をして特許権の設定登録を得たことにもなり、いずれにしても失当である。
(二) 均等の主張について
(1) 控訴人らは、当業者において、本件発明の図面と被控訴人装置の図面との対比により、図面の示す技術的思想の概念とその及ぶ範囲を想到できるから、それにより、両者間に実質上の差異はなく、相互に適用可能であると判断されるような関係にある場合には、両者は均等とみるべきである旨を主張する。
しかしながら、控訴人らの均等についての右主張は、容易想到性のみを主張し、一般に考えられている均等の要件すら明確にしていないし、その容易想到性の主張内容も独自のものであって、到底許されないものである。なぜならば、均等の主張は、容易想到性の主張のみでは足りないし、控訴人らのいう当業者の想到すべき範囲についても、それがいかなるものであるかがその主張内容からも不明であるからである。特許請求の範囲の記載を離れて、控訴人ら主張の右基準により均等の判断がなされるのであれば、特許請求の範囲の記載の意味は、まったくないに等しいことになる。
(2) 禁反言の原則により、控訴人らの均等論の主張は許されない。
すなわち、本件発明は、出願人である控訴人エービーテトラが、出願過程において、フランス特許公報記載の発明に基づく異議申立及びこれに続く拒絶査定に対応して、本件発明の突条の形状を限定することにより、特許として登録を得たものである。同控訴人は、その過程で特許庁に対し提出した本件審判請求理由補充書中においても、、本件発明の突条が「平らな先端面を有する」ものであるとして、フランス特許公報記載の発明との相違を強調している。
したがって、かかる出願経過により登録を得るためになされた特許請求の範囲の記載の限定に対し、登録された後において、右のとおり限定された文言を拡張解釈することは、禁反言の原則に照らし到底許されない。
(三) 本件発明及び被控訴人装置における突条の有無、高さについて
控訴人らは、本件発明及び被控訴人装置における突条の有無、高さは、包装材料の横方向にシールされる箇所の状態に応じて適宜選択し得るものであると主張する。
しかしながら、本件発明においては、シール帯域中、突条が存在しない部分があってもよいとすると、本件明細書に記載されている作用効果が生じないことになるのみならず、本件発明では、シールすべき二つの熱可塑性の層(の表面)の不純物を排除するため、作用面に突条を設けるとされているのに、その目的も達せられないことになる。
したがって、本件発明の突条は、本件明細書記載の作用効果を生じさせるため、シール帯域の全体の長さ以上の長さを有する一本の突条を連続的に作用面に配置したものでなければならない。
ところが、被控訴人装置には、中央突条と左右突条の三本の突条があり、それらが一直線上になく、相互に間隔が設けられているのであるから、同装置は、明らかに本件発明の技術的範囲には属さない。
2 被控訴人装置の構造c<2>が本件発明の構成要件C<2>を充足することについて
本件発明の構成要件C<2>には、「前記突条(9)のほぼ矩形の平らな平面で前記シール帯域(13、14)の中央部分(13)を押し付け」と明確に記載されているが、これは、明らかに、突条で押し付ける部分を限定する記載に他ならない。
更に、控訴人らは、本件審判請求理由補充書中において、「シール帯域(13、14)の中央部分を矩形状の面で押圧する点で異なっている。」と記載しており、この点からも、本件発明の突条の押圧部分は明確である。
この点について、控訴人らは、通常、突条は切断部側にずらして設けられると主張するが、そうすると、突条はシール帯域のどこであってもよいということになり、本件発明の特許請求の範囲に記載された前記構成要件の文言に反することになる。
これに対し、被控訴人装置においては、突条は、シール帯域の外縁側を押圧する構造となっており、同装置は、この点においても、本件発明とは異なるものである。
第三 証拠関係は、原審及び当審における訴訟記録中の証拠目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
第四 当裁判所の判断
当裁判所も、控訴人らの本訴請求は理由がないと判断するものであり、その理由については、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の「事実及び理由」中における「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決六三頁四行目の「一二月一二日」を「一一月一三日」に改め、同八行目の「申立がなされ」の次に「(乙三)」を加える。
二 同六八頁一行目の「2段」を「二段」に改める。
三 控訴人らの当審における主張について
1(一) 控訴人らは、まず、本件発明の構成要件B<2>において、突条の形状を「ほぼ矩形の平らな先端面を有する」として、「ほぼ」と形容されていることから、特許請求の範囲の記載によってその技術的意義を客観的、一義的に確定することができないとし、右の技術的意義を確定するために本件明細書の発明の詳細な説明欄を参酌すべきであるところ、右の詳細な説明欄においては、突条の先端面の形状を平面に限定しているものではないから、本件発明における突条の形状は、被控訴人装置の構造b<2>における突条の形状(「ほぼ円弧状の先端面を有する形状」)をも含むものであると主張する。
(二) しかしながら、前記引用に係る原判決(第三、一1(一))において判示のとおり、本件発明の特許請求の範囲の記載における、「ほぼ矩形の平らな先端面を有する突条」とは、「ほぼ長方形の平らな先端面を有する突条」を意味するものであることが明らかであり、また、右記載における「ほぼ」の語句は、「矩形」(「長方形」)にかかるものと解される(仮に、「ほぼ」が「平らな」にかかるものであるならば、「矩形のほぼ平らな先端面を有する」と記載されるはずである。)から、右突条の形状については、本件明細書の発明の詳細な説明欄における記載を参酌するまでもなく、本件発明の特許請求の範囲の記載自体から、それが、ほぼ長方形の、先端面が平らな突条を意味するものであることが一義的に明らかというべきである。
そして、このことは、前記引用に係る原判決(第三、一1(二))に認定のとおりの、本件発明の出願の経過からも裏付けられるものというべきである。
(三) これに対し、控訴人らは、被控訴人が、本件発明を原出願とする分割出願に対する特許異議の申立において、本件発明における突条の形状を、「ほぼ矩形の平らな先端面を有する」と限定して解すべきではないとする趣旨の主張をしているものとして、被控訴人の右主張内容を引用し、合わせて、本訴における被控訴人の主張を信義則に反するものと主張する。
しかしながら、被控訴人の右特許異議の申立てにおける主張内容を認定すべき証拠は提出されていないのみならず、控訴人らの右主張において引用する被控訴人の主張内容をみても、必ずしも、控訴人らの主張に係る趣旨を含むものとは解し難いところであるから、控訴人らの右主張は、そもそも失当というべきである。
(四) また、控訴人らは、本件発明の出願後に、被控訴人により出願された発明の特許出願公開公報(平成四年特許出願公開第一五四五六四号公報)における記載を引用して、被控訴人も、本件発明の突条の先端面の形状を円弧状とすることが単なる設計変更に過ぎないものであることを認識していたと主張するが、右記載が、必ずしも控訴人ら主張の趣旨を示すものとは解されないから、控訴人らの右主張も同様に失当というべきである。
(五) 更に、控訴人らは、本件発明の出願過程において、突条の形状を「ほぼ矩形の平らな先端面を有する突条」と限定した補正は、本件発明の技術的範囲の確定に格別の意味を有するものではないから、本件において禁反言の法理を適用する余地はないとも主張する。
しかしながら、特許発明の技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない(特許法七〇条一項)ものであるところ、前記(二)に判示のとおり、本件発明の特許請求の範囲の記載は客観的に明確なものというべきであるから、本件において、その記載の意義を明らかにするため、本件発明の出願経過を参酌し禁反言の法理の適用を考慮すべき直接の必要はないが、なお、本件発明の特許請求の範囲の記載の意義を裏付けるものとして、本件発明の出願経過を参酌することは許されるものというべきであり、控訴人らの右主張のように、本件発明についての補正が格別の意味を有するものではないとすることはできない。
そして、本件の場合、前記(二)のとおり、前記引用の原判決(第三、一1(二))の認定に係る、本件発明の特許請求の範囲の補正の経緯、本件審判請求理由補充書における記載内容等を考慮するならば、それらが、本件発明の特許請求の範囲の記載の意義に関する前記認定に沿うものであることが明らかである。
なお、控訴人らは、フランス特許公報記載の発明は、作用面のみを有するものであり、作用面から突出する突条を有しないとも主張するが、同発明における上部ジョーはV状の作用面を有するものであり(前記引用に係る原判決第三、一1(二))、また、乙一に添付された同発明の実施例についての図面の記載を参酌するならば、V状の頂部については「突条」というを妨げないから、同発明は作用面から突出する突条を有するものというべきである。
(六) 以上のとおりであるから、控訴人らの、本件発明における突条の形状が、被控訴人装置の構造b<2>における突条の形状を含むものとする主張は失当である。
2(一) 次に、控訴人らは、本件発明の構成要件B<2>における突条と、被控訴人装置の構造b<2>における突条とが均等なものであると主張する。
(二) しかしながら、右の均等の成否の点について判断するに先立ち、そもそも右主張が禁反言の原則により許されないとする被控訴人の主張について検討を加えるに、前記1(二)のとおりの本件発明の出願経過及び乙一、三、七の2、八、九からみるならば、控訴人エービーテトラは、その出願過程において、特許異議の申立において引用された公知技術であるフランス特許公報記載の発明による拒絶を免れるため、本件発明の突条の形状を、「ほぼ矩形の平らな先端面を有する突条」に限定したものであることが明らかであり、また、右の「ほぼ矩形の平らな先端面を有する突条」の意義については、前記1(二)のとおりである。
そうすると、控訴人らが、右出願過程における限定に反し、被控訴人装置の構造b<2>における「ほぼ円弧状の先端面」を有する突条についても、本件発明における「ほぼ矩形の平らな先端面を有する突条」の技術的範囲に含まれるものと主張することは、出願人(控訴人エービーテトラ)の出願過程における主張に反するものとして、信義則上許されないものというべきである。
(三) この点について、控訴人らは、本件発明は、出願過程において突条の形状が限定されたことにより特許が付与されたものではないから、被控訴人装置の構造b<2>の突条に対する均等の主張は許されるべきであると主張するが、前記出願の経過及び特許異議の申立において引用されたフランス特許公報記載の発明(乙一)の技術内容並びに乙一、三、七の2、八、九の各記載からみるならば、前記(二)に認定のとおり、右限定は、先行技術である右公報記載の発明による拒絶を回避するための補正の一つとして、導電性材料層に高周波を印加することについての補正等と合わせてなされたものであることが明らかであり、それにより、審判において、本件発明の特許要件が認められ、登録査定に至ったものというべきであるから、控訴人らの右主張は失当というべきである。
(四) また、控訴人らは、被控訴人装置の構造b<2>のジョーと、フランス特許公報記載の発明のジョーとの構成、作用効果の違いも主張するが、そのこと自体が、前記(二)の判断を覆すべき事由となるものでないことは明らかである。
(五) 特許法七〇条一項の解釈適用に当たり、侵害を主張される装置の構成が特許発明の構成要件の一部を充足しないとしても、特許発明と均等と認められるときは、その技術的範囲に属するとの法理論を採用する場合において、均等の成立要件をどのように定立するにしても、当該特許発明の出願から特許査定に至る特許権取得の過程において出願拒絶を免れるために当該構成要件を限定し、これが認められて特許査定を得たにもかかわらず、限定された構成要件に含まれない構成を均等を理由にその技術的範囲に属するとすることは、技術的範囲を特許請求の範囲の字句どおりに確定して適用することから生じる不合理を是正して権利者を保護する均等論の趣旨に反するものである。
したがって、控訴人らの、本件発明の構成要件B<2>の突条と、被控訴人装置の構造b<2>の突条が均等なものであるとする主張もまた失当といわざるをえない。
3 以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、被控訴人装置の構造b<2>は、本件発明の構成要件B<2>の技術的範囲に属するものということはできない。
第五 よって、控訴人らの本訴請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担及び附加期間の定めについて民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項、一五八条二項を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 持本健司 裁判官 山田知司)