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東京高等裁判所 平成8年(ラ)220号 決定 1996年4月15日

抗告人

小林祐邦

右代理人弁護士

内田武

相手方

第一勧銀信用開発株式会社

右代表者代表取締役

沼田忠一

右代理人弁護士

関口保太郎

冨永敏文

脇田眞憲

吉田淳一

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨は、「前橋地方裁判所民事部が平成八年一月一二日になした債権差押命令はこれを取り消す。相手方の本件債権差押命令の申立てを却下する。」というのであり、その理由は別紙執行抗告状理由書及び準備書面(各写し)記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  抗告理由は、要するに、(一) 抗告人と賃借人兼転貸人とされる有限会社三重ハイツ(以下「訴外会社」という。)との間には原決定別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)につき賃貸借契約は存在せず、業務委託契約が存在するにすぎないこと、(二) 仮に抗告人と訴外会社との間の法律関係が賃貸借契約であったとしても、(1) 転貸料債権について物上代位権を行使することは認められないこと、(2) そうでないとしても、訴外会社は、平成四年三月一七日抗告人に対し民法六四六条二項により本件建物を譲渡する以前から、本件建物の各室を第三債務者らに賃貸しており、抗告人は、これらの賃貸借関係による制限を受けた所有権を取得したものであり、相手方は、かかる制約のある本件建物に抵当権を設定したものであるから、右抵当権をもって賃借人である訴外会社に対抗することができず、訴外会社の本件建物についての使用収益権を奪うことはできないこと、(3) 訴外会社の第三債務者に対する債権を差し押さえることができるためには、訴外会社が無資力であり、かつ、訴外会社が第三債務者に対する権利を行使していない場合でなければならないこと、(4) 抗告人と訴外会社との間の賃貸借契約の賃料額と訴外会社と第三債務者らとの間の賃貸借契約の賃料額とが同一であるか又は前者の方が後者よりも高額でなければならないことを主張するものである。

2  そこで右1(一)の点について検討すると、本件記録によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件建物は、もと有限会社三栄の所有であったが、これには、平成元年九月二九日受付をもって訴外会社のため、同日売買を原因とする所有権移転登記が、平成四年三月一七日受付をもって、抗告人のため、同日民法六四六条二項による移転を原因とする所有権移転登記が、同年四月一日受付をもって、相手方(旧商号・株式会社第一勧銀ハウジング・センター)のため、平成三年六月二八日保証委託契約による求償債権平成四年三月一七日設定を原因とし、債権額を八億五〇〇〇万円、損害金を年一四パーセント、債務者を抗告人とする抵当権設定登記が、平成七年一〇月二四日受付をもって、申立人を相手方とし、同日競売開始決定を原因とする差押登記がそれぞれ経由されている。

(二)  相手方は、平成七年一二月二七日、右抵当権に基づく物上代位として、債務者兼所有者を抗告人、賃借人兼転貸人を訴外会社、第三債務者を株式会社太田ナウリゾートホテル外一一名、被担保債権及び請求債権を原決定別紙「担保兼・被担保債権・請求債権目録」のうち2記載のとおりとし、差押債権を原決定別紙「差押債権目録」記載のとおり、訴外会社が本件建物のうちの一室又は数室について第三債務者らに対して有する賃料債権のうち、差押命令送達時支払期にある分(未払分を含む。)から各第三債務者につき記載した金額に満つるまでとして、債権差押命令の申立てをし、執行裁判所は、平成八年一月一二日、右申立てを認める原決定をした。

(三)  第三債務者のうちには、有限会社三栄が本件建物を所有していた当時に同会社からその一室又は数室を賃借した者(例えば、ジャパンマシナリー株式会社、住友生命保険相互会社等)、訴外会社が本件建物の所有名義人であった当時に訴外会社からその一室又は数室を賃借した者(例えば、株式会社アートネイチャー、東光商事株式会社等)、あるいは抗告人が本件建物の所有名義人になった後に訴外会社からその一室又は数室を賃借した者(例えば、太田ナウリゾートホテル、アクリーグ株式会社等)があるが、現在は、いずれも賃貸人を訴外会社としている。

(四)  抗告人と訴外会社との間には、抗告人を委託者、訴外会社を受託者とする平成七年六月一日付け業務委託契約書が作成されており、これによれば、抗告人は、訴外会社に対し、本件建物につき抗告人に代わって賃貸借契約の締結、家賃の受領等の行為をすることを委託し、訴外会社は、賃借人より訴外会社の口座に振り込まれた賃料から費用及び管理報酬を差し引いた残額を抗告人に引き渡すこととされている。

以上の事実が認められる。

以上の事実及び抗告人の主張するところを総合すると、抗告人は、訴外会社に対し、本件建物の所有権を取得することを委任し、訴外会社がその名義で取得した本件建物につき、同会社から所有権移転登記を受けるとともに、相手方のために抵当権設定登記をし、かつ、訴外会社との間に、前記(四)に認定した業務委託契約書に記載されたのと同内容の業務委託契約を締結したこと、訴外会社は、抗告人の委任に基づき、本件建物の所有権を取得するとともに、既に有限会社三栄が締結してあった賃貸借契約を引き受けて賃貸人となり、その後、自らも本件建物の一室又は数室につき賃貸借契約を締結したこと、更に、訴外会社は、本件建物につき抗告人に対する所有権移転登記を経由し、かつ、抗告人がこれに抵当権を設定登記した後にも、前記業務委託契約に基づき、既に締結されていた賃貸借契約については引き続き自らが賃貸人の地位に留まるとともに、新たに自らが賃貸人となって本件建物の一室又は数室につき賃貸借契約を締結したこと、以上の事実を認めることできる。

3  ところで、抵当権設定者が目的物を第三者に賃貸することによって賃料債権を取得した場合には、民法三七二条、三〇四条の規定の趣旨に従い、右賃料債権について抵当権を行使することができる(最高裁平成元年一〇月二七日第二小法廷判決・民集四三巻九号一〇七〇頁参照)ところ、本件において、法形式的には、抵当権設定者である抗告人が本件建物の一室又は数室を直接第三債務者らに賃貸しているのではなく、抗告人から業務委託を受けた訴外会社が賃貸しているのではあるが、経済的・実質的には、抗告人が自ら賃貸した場合と異なるものではないから、抵当権者である相手方は、民法三七二条、三〇四条の規定の趣旨に従い、第三債務者との間の賃貸借契約締結の時期の如何を問わず、訴外会社が第三債務者らに対して取得する賃料債権を差し押さえることができると解するのが相当である。

原決定には、差押債権として、「賃借人兼転貸人である訴外会社が本件建物の一室又は数室について第三債務者らに対して有する賃料債権」との趣旨の表示がされているところ、右に述べたところによれば、訴外会社は、法形式的には、賃借人兼転貸人ではなく賃貸人であるというべきであるが、差押債権が「訴外会社が本件建物の一室又は数室について第三債務者らに対して有する賃料債権」であることに変わりはないので、本件建物に対する訴外会社の法的地位の判断につき、右のようなそごがあり、また、原決定の当事者の表示等に過誤があっても、差押債権の同一性に欠けるところはないというべきである。

4  なお、訴外会社が本件建物を抗告人から賃借していることを前提とするその余の抗告理由は、抗告人の法的地位につき前記のように判断する以上、その前提を欠き、採用の限りでない。

5  その他記録を精査しても、原決定にはこれを取り消すべき事由は見当たらない。

よって、原決定は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官塩崎勤 裁判官瀬戸正義 裁判官西口元)

別紙執行抗告理由書、準備書面<省略>

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