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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)106号 判決 1998年6月10日

東京都千代田区有楽町1丁目1番2号

原告

株式会社日本製鋼所

代表者代表取締役

大西敬三

訴訟代理人弁護士

安田有三

小南明也

東京都江戸川区北葛西1丁目17番22号

被告

株式会社タハラ

代表者代表取締役

高橋良典

訴訟代理人弁護士

野島潤一

同弁理士

志賀富士弥

橋本剛

小林博通

富岡潔

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成7年審判第40020号事件について、平成8年4月30日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「中空成形機」とする実用新案登録第3001598号考案(平成6年3月2日出願、同年6月22日設定登録。以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。

被告は、平成7年10月30日、本件考案の実用新案登録請求の範囲の請求項1~3、7、10項に記載された考案(以下「本件考案1~3、本件考案7、本件考案10」という。)につき、その実用新案登録を無効とする旨の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を、平成7年審判第40020号事件として審理したうえ、平成8年4月30日、「登録第3001598号実用新案の明細書の請求項第1項ないし第3項、第7項、第10項に記載された考案についての登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年5月15日、原告に送達された。

2  本件考案の要旨

(1)  本件考案1

クロスヘッド(36)から垂下したパリソン(44)を型締装置(26)で開閉する金型(34)で挟持し、前記金型(34)をエアー吹込ノズル(28a)の下方に移動させて前記パリソン(44)をブロー成形するようにした中空成形機において、前記金型移動装置(101)は、電動モータ(14)と、前記電動モータ(14)によって回転駆動される回転部材(12)と、前記回転部材(12)にかみ合わされると共に前記回転部材(12)の回転運動を直線運動に変換するかみ合い部材(18)と、から構成され、前記型締装置(26)は前記金型(34)の第1、第2金型保持体(34a、34b)のうちの第1金型保持体(34a)に接続された接続体(304)と、前記接続体(304)と相対して離間配設されたリアプレート(34d)と、前記接続体(304)と前記リアプレート(34d)間に接続された一対のロッド(34e、34f)と、一方の前記ロッド(34e)に摺動自在に設けられた前記第2金型保持体(34b)と前記リアプレート(34d)間の間隔を可変するための電動モータ(14)と、よりなり、前記電動モータ(14)により前記各金型保持体(34a、34b)を介して前記金型(34)の型締を行うように構成され、さらに、前記型締装置(26)は、直接あるいはこの型締装置(26)に設けられた移動台(24)を介して前記金型移動装置(101)のかみ合い部材(18)に取付けられている構成よりなることを特徴とする中空成形機。

(2)  本件考案2

前記金型(34)の位置は、前記金型移動装置(101)に設けた位置検出器(15)により検出され、前記位置検出器(15)からの位置信号(15a)を用いて制御器(46)により前記金型移動装置(101)の電動モータ(14)を制御することを特徴とする請求項1記載の中空成形機。

(3)  本件考案3

前記回転部材が、ボールねじ(12)であり、前記かみ合い部材がボールナット(18)である請求項1又は2記載の中空成形機。

(4)  本件考案7

前記かみ合い部材(18)の移動軸心と平行にガイドバー(22)が設けられ、前記移動台(24)の滑動部(24a)が前記ガイドバー(22)に移動可能とされていることを特徴とする請求項1ないし6の何れかに記載の中空成形機。

(5)  本件考案10

前記移動台(24)の上部には、前記各ロッド(34e、34f)を摺動可能とした固定台(305)が固定され、前記固定台(305)上部には電動モータ(14)が設けられていることを特徴とする請求項1ないし9の何れかに記載の中空成形機。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件考案1~3、7及び10は、いずれも本件考案の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特公昭44-7553号公報(昭和44年4月8日出願公告、審決甲第1号証、本訴甲第1号証。以下「引用例1」といい、そこに記載された考案を「引用例考案1」という。)及び特公平1-22135号公報(平成1年4月25日出願公告、審決甲第2号証、本訴甲第2号証。以下「引用例2」といい、そこに記載された考案を「引用例考案2」という。)に記載された事項並びに周知技術に基づいて、当業者がきわめて容易に考案できたものであるから、本件考案1~3、7及び10の登録は、いずれも実用新案法3条の規定に違反してなされたものであり、同法37条1項2号の規定により、無効にすべきものであるとした。

第3  原告主張の取消事由の要点

審決の理由中、本件考案1~3、7、10の要旨の認定、請求人(本訴被告)及び被請求人(本訴原告)の各主張の認定、引用例1及び2の各記載事項の認定、本件考案1と引用例考案1との一致点並びに相違点1、3及び4の認定、相違点1、3及び4の判断は、いずれも認める。

審決は、本件考案1と引用例考案1との相違点2を誤認する(取消事由1)とともに、相違点2についての判断を誤った(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されなければならない。なお、本件考案2、3、7及び10に関する審決の判断については、取消事由を主張しない。

1  相違点2の誤認(取消事由1)

審決は、相違点2の認定において、本件考案1の型締手段である電動モータと引用例考案1のピストン棒22を有する液圧又は空気圧シリンダ21とを対比している(審決書14頁19行~15頁2行)が、誤りである(なお、「ピストン棒22」及び「シリンダ21」は、それぞれ「ピストン棒32」及び「シリンダ31」の誤記である。)。

すなわち、引用例考案1では、型締装置外の型締駆動源である油圧ポンプの圧力を、ピストン棒32及びシリンダ31(この両部材をアクチュエータと呼ぶにしても)により型締力に変換している。一方、本件考案1では、型締装置内の型締駆動源である電動モータの力を、トグル機構により型締力に変換している。したがって、本件考案1の型締駆動源である電動モータと対比すべきは、引用例考案1の型締装置外の油圧ポンプであるから、審決は対比する部材を誤ったものといえる。

この結果、審決は、本件考案1が、型締装置内に型締駆動源である電動モータを設けているのに対して、引用例考案1が、型締装置内に型締駆動源である油圧ポンプを設けていない点で相違することを、看過したものである。

2  相違点2の判断誤り(取消事由2)

引用例考案2は、射出成形機であるから、その型締装置は、床あるいは固定台に固定のままのものであり、パリソン挟持位置とエア吹込み位置との間を型締装置がより速いスピードで往復動するということはない。

これに対し、本件考案1及び引用例考案1のような中空成形機においては、その型締装置の全体が、パリソン挟持位置とエア吹込み位置との間を往復動する。そして、パリソンが成形された時点から、樹脂が直ちに冷却、固化を始めるので、型締装置の移動時間が長くなると、その分品質管理が難しく、成形効率も劣るし、その往復動のスピードがサイクルにより変動すると、成形品にばらつきが生じてしまう。したがって、型締装置全体の重量を軽くし、寸法も小さくする必要があり、また、往復動のための空間の確保、往復動のスピード化、各サイクル毎の時間が一定しているなど、射出成形機の型締装置にはない固有の課題を解決しなければならない。

したがって、引用例考案2の射出成形機に開示された型締駆動源としての電動モータは、本件考案1及び引用例考案1と基本的に相違するから、この電動モータを引用例考案1に採用することは容易でなく、これに反する審決の判断(審決書15頁18行~16頁18行)は、誤りである。

そして、本件考案1では、引用例考案1と異なり、電動モータを金型移動装置及び型締装置の両装置に採用することにより、全てを電動化して成形品質の優れた装置を提供することが可能となり、格別の効果を奏するものである。

なお、本件考案1のような型締装置内に型締駆動源・電動モータを設けている構成が、その出願前から知られていたことは認めるが、これらはいずれも原告固有の技術であり、周知事項とはいえない。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であって、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がない。

1  取消事由1

審決の相違点2の認定における、引用例考案1の「ピストン棒22」及び「シリンダ21」(審決書14頁19行~15頁1行)が、それぞれ「ピストン棒32」及び「シリンダ31」の誤記であることは認める(以下、誤記を訂正したものとして記載する。)。

原告は、本件考案1が、型締装置内に型締駆動源である電動モータを設けていると主張するが、本件考案の実用新案登録請求の範囲の請求項1には、電動モータ(14)の位置は何ら特定されていないだけでなく、この電動モータ(14)が金型移動装置(101)により金型とともに移動するという限定もない。したがって、原告の主張には、そもそも根拠がなく、失当である。

また、原告は、本件考案1の型締駆動源である電動モータと対比すべきは、引用例考案1の型締装置外の油圧ポンプであると主張するが、本件考案1の型開閉用の電動モータは、型締力を発生するアクチュエータとして、引用例考案1における油圧シリンダと等価であり、本質的に相違するものではない。また、油圧装置における油圧ポンプは、電動機構においては電動モータに電力を供給する電源装置に相当するものであり、本件考案1においても、この電源装置が型締装置に搭載されているものではない。

したがって、審決が、本件考案1の電動モータと、引用例考案1のピストン棒32を有する液圧又は空気圧シリンダ31とを対比している(審決書14頁19行~15頁2行)ことに、誤りはない。

2  取消事由2

中空成形機において、原告の主張するように、その型締装置の全体が移動するとか、移動時間を短くする必要があるという種々の制約があったとしても、引用例考案2には、油圧式型締機構を電動化することが、その技術課題とともに明示されているから、当業者が、これを中空成形機用型締装置に転用することは、何ら困難なことではない。

原告は、中空成形機用型締装置の固有の課題の存在を指摘するが、前示のとおり、本件考案の実用新案登録請求の範囲の請求項1には、電動モータの位置は何ら特定されておらず、中空成形機固有の特殊な課題を解決したことの根拠となる具体的構成は、全く記載されていない。

また、原告は、本件考案1では、電動モータを金型移動装置及び型締装置の両装置に採用することにより、全てを電動化して成形品質の優れた装置を提供するという格別の効果を奏すると主張するが、これらの効果は、いずれも移動速度や移動位置を、油圧機構に比べて正確に制御できるという電動式駆動機構の本来的な作用効果から派生したにすぎないものである。

しかも、中空成形機の型締装置において、油圧機構に代えて電動機構を用い、この電動機構が型締装置と一体に移動する構成は、原告自身が出願し、本件考案の出願前に公開された特開平5-154898号公報(乙第4号証)、特開平6-869号公報(乙第6号証)及び特開平5-338019号公報(乙第7号証)にも開示されており、これらは本件考案出願時点の当業者の技術常識を示すものである。

したがって、引用例考案2の型締装置に開示された型締駆動源としての電動モータを、引用例考案1に採用することに困難はなく、この点に関する審決の判断(審決書15頁18行~16頁18行)に、誤りはない。

第5  当裁判所の判断

1  相違点2の誤認(取消事由1)について

審決の理由中、本件考案1~3、7、10の要旨の認定、引用例1及び2の各記載事項の認定は、いずれも当事者間に争いがない。

原告は、本件考案1では、型締装置内の型締駆動源である電動モータの力を、トグル機構により型締力に変換しているから、本件考案1の型締駆動源である電動モータと対比すべきは、引用例考案1の型締装置外の油圧ポンプであると主張する。

しかし、本件考案の実用新案登録請求の範囲の請求項1には、前示のとおり、「一方の前記ロッド(34e)に摺動自在に設けられた前記第2金型保持体(34b)と前記リアプレート(34d)間の間隔を可変するための電動モータ(14)と、よりなり、前記電動モータ(14)により前記各金型保持体(34a、34b)を介して前記金型(34)の型締を行うように構成され、」と記載されるだけであり、構成要素とされる電動モータ(14)が型締めを行うことは認められるものの、当該電動モータの設置位置やその回転力を型締力に変換するための機構については何ら特定されておらず、また、この電動モータ(14)が型締装置全体とともに移動することも限定されていない。

したがって、本件考案1では電動モータが型締装置内に位置し、トグル機構を有するという原告の主張は、本件考案1の要旨に基づかない主張であって、失当といわなければならない。

また、仮に、本件考案1の電動モータが型締装置内に位置するとしても、審決が、この電動モータと、引用例考案1のピストン棒32を有する液圧又は空気圧シリンダ31とを対比した(審決書14頁19行~15頁2行)ことは、以下のとおり、誤りではない。

すなわち、引用例1(甲第1号証)に、「型支持板19の運動は部分20の個所で関着された液力式あるいは空気力式シリンダ21によって制御され、これらのピストン棒22は型支持板19に不動に結合した腕23に固定されている。」(審決書7頁13~17行)、「そのつど中空体を製造するのに役立つ型の型半部分は型板24および25に自体公知の形式でねじで固定されている。外側型板24は2つの案内棒26および27と結合されており、これらの案内棒は型支持板19に不動に結合された枠29のブッシュ28内を案内されかつ外側型板24とは反対側にある端部は横材30により結合されている。横材30には閉鎖装置のシリンダ31が取付けられており、このシリンダのピストン棒32は内側型板25に結合されている。・・・シリンダ31に導管33を介して圧力媒体が負荷されると、ピストン34は矢印Cの方向へまたシリンダ31は矢印Dの方向へ動かされ、要するに型板24および25に固定された型が開かれる。逆に導管36を介してシリンダ31に圧力媒体が負荷されると、シリンダは矢印Cの方向へまたピストン34は矢印Dの方向へ動かされ、これにより型板24および25に取付けられた型の閉鎖運動が達成される。」(同7頁18行~8頁17行)と記載されていることは、当事者間に争いがない。

これらの記載によれば、引用例考案1のシリンダは、液体あるいは空気などの圧力媒体の付加によって、そのピストン棒が摺動し、金型が開閉するものと認められる。そうすると、このシリンダは、液圧あるいは空気圧などの圧力媒体のエネルギーを、金型の開閉という機械的な仕事に変換する機器であるということができる(財団法人日本規格協会発行「JIS用語辞典機械編」・乙第3号証の1~4・参照)。

これに対し、本件考案1の電動モータは、前示考案の要旨によれば、電気的エネルギーを、金型を開閉して型締めするという機械的な仕事に変換する機器であることが明らかである。

そうすると、本件考案1における電動モータ及び引用例考案1のシリンダは、用いるエネルギーの性質は相違するものの、いずれもそのエネルギーを機械的な仕事に変換し、金型の開閉を行う機器である点では同一のものと認められる。

以上のことからして、審決における相違点2の認定(審決書14頁18行~15頁2行)に、誤りはない。

2  相違点2の判断誤り(取消事由2)について

引用例2(甲第2号証)に、特許請求の範囲として、「トグル機構で可動側金型を移動させ型締を行う射出成形装置における型締装置において、電気式サーボモータと、・・・上記サーボモータを駆動し型締を行うようにした型締装置。」(審決書11頁10~20行)、従来技術として、「射出成型機のトグル式型締装置の駆動は、従来油圧機構で行われていた。そのため、油圧ポンプや弁等を必要とし、構成が複雑となっていた。また、油圧により型締工程を制御しなくてはならないことから、その型締速度の制御も複雑で困難であった。」(同12頁1~6行)と記載されていることは、当事者間に争いがない。

また、引用例2には、「本発明は、サーボモータの回転運動を、スクリユーとナツトにより直線運動に変え、それにより、トグル機構を作動させて型締を行うようにし、かつ、位置検出器によつて可動側金型位置を検出するから、該金型位置に対応して、型締速度及びトルクの制御が非常に簡単になり、任意の型締速度及びトルクを得ることができる。・・・また、従来のように、油圧機構を用いないから信頼性が高くなり、さらに、油圧機構の場合には電力によつて油圧ポンプを稼働させ、その油圧によつて駆動機構を駆動させ、かつ、常に一定圧を保持させるためエネルギーロスが大きいが、本発明は電力でサーボモータを駆動させ、そのサーボモータの出力によつて直接駆動機構を作動させたから、エネルギーロスは小さい。」(甲第2号証5欄23行~6欄16行)と記載されている。

これらの記載によれば、引用例考案2では、射出成形機において、油圧機構を用いると、構成が複雑となり、型締速度の制御も複雑で困難であることを技術課題とし、その解決のために、電動モータであるサーボモータを採用することにより、型締速度及びトルクの制御を容易に実現し、信頼性を高めるとともにエネルギーロスを小さくしたものと認められる。

そして、射出成形機と中空成形機とが、金型を使用したプラスチック樹脂の成形方法として周知のものであり、共通の技術分野に属することは、当業者にとって技術常識といえるから、引用例考案2に開示された、射出成形機の型締装置において油圧機構に代えて電動モータを用いる技術を、本件考案1や引用例考案1の中空成形機の型締装置に適用してみることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

原告は、中空成形機においては、型締装置全体の重量を軽くし、寸法も小さくする必要があり、また、往復動のための空間の確保、往復動のスピード化、各サイクル毎の時間が一定しているなど、射出成形機の型締装置にはない固有の課題を解決しなければならないと主張する。

しかし、引用例考案1の中空成形機においても、油圧機構を用いる以上、前示の引用例2の記載によれば、構成が複雑となり型締速度の制御も複雑で困難となる技術課題が存するものと認められるから、当業者が、その解決のために、引用例考案2に開示された電動モータを採用してみることに困難性はないものといえる。原告の主張するように、射出成形機と中空成形機とでは、一部の技術課題が相違することがあるとしても、そのことが電動モータの採用の妨げにならないことは明らかである。したがって、原告の上記主張は採用できない。

また、原告は、本件考案1では、引用例考案1と異なり、電動モータを金型移動装置及び型締装置の両装置に採用することにより、全てを電動化して成形品質の優れた装置を提供することが可能となり、格別の効果を奏するものであると主張する。

しかし、前示のとおり、当業者にとって、引用例考案1の油圧機構に代えて、引用例考案2に開示された電動モータを採用してみることは容易であり、金型移動装置及び型締装置の双方に電動モータを採用した場合に、原告が主張する本件考案1の作用効果と同様の作用効果を奏するであろうことも、当業者にとって、容易に予測できる範囲内のことであり、原告の上記主張もまた採用できない。

したがって、引用例考案2の射出成形機の型締装置に開示された、型締駆動源としての電動モータを、引用例考案1に採用することは容易であるから、この点に関する審決の判断(審決書15頁18行~16頁18行)に、誤りはない。

3  以上のとおりであるから、原告の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない(なお、本件考案2、3、7及び10が、いずれも引用例1及び2に記載された事項並びに周知技術に基づいて、当業者がきわめて容易に考案できたとする審決の判断(審決書19頁19行~23頁8行)について、原告は、取消事由を主張せず、上記の判断は、正当と認められる。)。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成7年審判第40020号

審決

東京都江戸川区北葛西1-17-22

請求人 株式会社 タハラ

東京都中央区明石町1番29号 掖済会ビル 志賀内外国特許事務所

代理人弁理士 志賀富士弥

東京都中央区明石町1番29号 掖済会ビル 志賀内外国特許事務所

代理人弁理士 橋本剛

東京都中央区明石町1番29号 掖済会ビル 志賀内外国特許事務所

代理人弁理士 小林博道

東京都中央区明石町1番29号 掖済会ビル 志賀内外国特許事務所

代理人弁理士 富岡潔

東京都千代田区有楽町1-1-2

被請求人 株式会社 日本製鋼所

東京都千代田区丸の内3丁目1番1号 国際ビルディング8階 曾我特許事務所

代理人弁理士 曾我道照

東京都千代田区九の内3丁目1番1号 国際ビルディング8階 曾我特許事務所

代理人弁理士 小林慶男

東京都千代田区丸の内3丁目1番1号 国際ビルディング8階 曾我特許事務所

代理人弁理士 池谷豊

東京都千代田区丸の内3丁目1番1号 国際ビルディング8階 曾我特許事務所

代理人弁理士 古川秀利

東京都千代田区丸の内3丁目1番1号 国際ビルディング8階 曾我特許事務所

代理人弁理士 鈴木憲七

東京都千代田区丸の内3丁目1番1号 国際ビルディング8階 曾我特許事務所

代理人弁理士 長谷正久

東京都千代田区丸の内3丁目1番1号 国際ビルディング8階 曾我特許事務所

代理人弁理士 黒岩徹夫

上記当事者間の登録第3001598号実用新案「中空成形機」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

登録第3001598号実用新案の明細書の請求項第1項ないし第3項、第7項、第10項に記載された考案についての登録を無効とする。

審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

Ⅰ.手続きの経緯

本件登録第3001598号実用新案(以下、「本件考案」という。)は、平成6年3月2日に実願平6-1447号として出願され、平成6年6月22日にその実用新案権の設定の登録がなされたものであるところ、平成7年10月30日に、登録無効審判請求を受けたものである。

Ⅱ.本件考案

本件考案は、実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1~3、請求項7及び請求項10に係る考案(以下、本件考案1~3、本件考案7及び本件考案10という。)は、請求項1~3、請求項7及び請求項10に記載の次のとおりのものと認められる。

「【請求項1】クロスヘッド(36)から垂下したパリソン(44)を型締装置(26)で開閉する金型(34)で挟持し、前記金型(34)をエアー吹込ノズル(28a)の下方に移動させて前記パリソン(44)をブロー成形するようにした中空成形機において、前記金型移動装置(101)は、電動モータ(14)と、前記電動モータ(14)によって回転駆動される回転部材(12)と、前記回転部材(12)にかみ合わされると共に前記回転部材(12)の回転運動を直線運動に変換するかみ合い部材(18)と、から構成され、前記型締装置(26)は前記金型(34)の第1、第2金型保持体(34a、34b)のうちの第1金型保持体(34a)に接続された接続体(304)と、前記接続体(304)と相対して離間配設されたリアプレート(34d)と、前記接続体(304)と前記リアプレート(34d)間に接続された一対のロッド(34e、34f)と、一方の前記ロッド(34e)に摺動自在に設けられた前記第2金型保持体(34b)と前記リアプレート(34d)間の間隔を可変するための電動モータ(14)と、よりなり、前記電動モータ(14)により前記各金型保持体(34a、34b)を介して前記金型(34)の型締を行うように構成され、さらに、前記型締装置(26)は、直接あるいはこの型締装置(26)に設けられた移動台(24)を介して前記金型移動装置(101)のかみ合い部材(18)に取付けられている構成よりなることを特徴とする中空成形機。

【請求項2】前記金型(34)の位置は、前記金型移動装置(101)に設けた位置検出器(15)により検出され、前記位置検出器(15)からの位置信号(15a)を用いて制御器(46)により前記金型移動装置(101)の電動モータ(14)を制御することを特徴とする請求項1記載の中空成形機。

【請求項3】前記回転部材が、ボールねじ(12)であり、前記かみ合い部材がボールナット(18)である請求項1又は2記載の中空成形機。

【請求項7】前記かみ合い部材(18)の移動軸心と平行にガイドバー(22)が設けられ、前記移動台(24)の滑動部(24a)が前記ガイドバー(22)に移動可能とされていることを特徴とする請求項1ないし6の何れかに記載の中空成形機。

【請求項10】前記移動台(24)の上部には、前記各ロッド(34e、34f)を摺動可能とした固定台(305)が固定され、前記固定台(305)上部には電動モータ(14)が設けられていることを特徴とする請求項1ないし9の何れかに記載の中空成形機。」

Ⅲ.請求人及び被請求人の主張

請求人は、甲第1~10号証を提出し、本件考案1~3、本件考案7及び本件考案10は、甲各号証に記載された考案に、基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものであるから、同法第37条第1項第2号の規定によりその登録は無効とされるべきものである旨主張している。

一方、被請求人は、本件考案1における金型移動装置及び型締装置を電動化した構成、型締時における金型上部の開きを避けるため、金型の一方の金型部に接続された部材を2体構造として金型の型締を正常に保つ構成及び型締装置が移動台を介して金型移動装置のかみ合い部材に取付けられている構成は何れも甲各号証にはない構成である以上、他の本件考案2、本件考案3、本件考案7及び本件考案10も含めて、甲第1~10号証の記載に基づいて容易に考案することができたものとすることはできない旨主張している。

Ⅳ.当審の判断

請求人が提出した本件考案の出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証(特公昭44-7553号公報、昭和44年4月8日出願公告)には、「押出機に後接続された押出ノズルからホース状の可塑性予備成形片を、開かれた型の半部分の間に押出し、次いで型を閉じて予備成形片を掴みさらにこの型内において後続の材料から分離し、かつさらに圧出ノズルから離して配置された吹込成形部へ送り、ここで吹込成形して最終形状にする吹込成形法を使用して熱可塑性合成樹脂から中空体をつくる装置において、そのつど1つの型とこの型の閉鎖機構とを支持する2つの型支持板を有し、これらの型支持板が滑り軌道を案内され、これらの滑り軌道が一つの仮想ニ等辺三角形の斜辺の面に位置しておりかつこの三角形の底辺に向き合う頂点を通ってこの頂点の上方に位置する押出ノズルの軸線が延びており、かつこの軸線から等しい距離だけ離れて両側に、上側および(あるいは)下側で働く吹込成形部が位置していることを特徴とする、吹込成形法で合成樹脂から中空体をつくる装置。」(特許請求の範囲)に関する記載があり、第1図及び第2図の装置の実施例につき、「型支持板19が矢印A-Bの方向で案内される。型支持板19の運動は部分20の個所で関着された液力式あるいは空気力式シリンダ21によって制御され、これらのピストン棒22は型支持板19に不動に結合した腕23に固定されている。」(第3頁第5欄9~14行)、「そのつど中空体を製造するのに役立つ型の型半部分は型板24および25に自体公知の形式でねじで固定されている。外側型板24は2つの案内棒26および27と結合されており、これらの案内棒は型支持板19に不動に結合された枠29のブッシュ28内を案内されかつ外側型板24とは反対側にある端部は横材30により結合されている。横材30には閉鎖装置のシリンダ31が取付けられており、このシリンダのピストン棒32は内側型板25に結合されている。図示の実施例では型板24および25は閉鎖位置で示されている。シリンダ31に導管33を介して圧力媒体が負荷されると、ピストン34は矢印Cの方向へまたシリンダ31は矢印Dの方向へ動かされ、要するに型板24および25に固定された型が開かれる。逆に導管36を介してシリンダ31に圧力媒体が負荷されると、シリンダは矢印Cの方向へまたピストン34は矢印Dの方向へ動かされ、これにより型板24および25に取付けられた型の閉鎖運動が達成される。型半部分を支持する型板を開始するためのシリンダ31は横材30に固定されており、この横材はブッシュ28内を案内される案内棒26および27を結合しており、従ってこれらの案内棒26、27と共にこの横材30も矢印C-Dの方向で運動可能である。ところで、圧力媒体が、導管33によってシリンダ31の、ピストン34の図平面でみて左側の面とピストンロッド32を案内するシリンダ蓋との間に供給されると、ピストン34は図平面でみて右側(矢印C)へ運動し、シリンダ31は左側(矢印D)へ運動し、従って型半部分を支持する型板は互いに開かれる。今度は逆に、圧力媒体が導管36によってシリンダ31の、ピストン34の図平面でみて右側の面とシリンダ31の底面との間の範囲に供給されると、ピストン34は強制的に左側(矢印D)へ、シリンダ31は右側(矢印C)へ運動せしめられ、従って内側型板25はピストンロッド32を介して、外側型板24は案内棒26、27および横材30を介して互いに接近せしめられ、これにより各型半部が閉じ合わされる。」(第3頁第5欄29行~同第6欄24行)、及び「型支持板19を運動せしめるためのシリンダ装置21、22ならびに型板24、25のための閉鎖装置のシリンダ装置は交互に動く。一方の型支持板が、これに取付けられた図示されていない型と一緒に、第1図に示す最上方の位置に達してホース状体形成部10の直下に位置した場合、このホース状体形成部10から、中空体をつくるために必要な所望の長さのホース状体区分が押出される。このホース状体区分は型板35が取付けられた開いた型部分の間に懸垂され、またこの間他方において同時に他方の型板上に取付けられた閉じられた型内ではホース状の予備成形体が吹込成形により中空体に成形される。次に上方の型―これはこの時まで圧出ノズル37のところに懸垂されたホース状体を掴んでいる―が閉じられる。同時に下側の型が開かれ、これは吹込成形で仕上げられた中空体を押し出す。続いて、型板35に取付けられた新しい予備成形片を内蔵した型が面11に位置する滑り路を下方へ走行し、この際にこの型内に受容されたホース状体が後続のホース状材料から分離され、また他方では同時に、型板24および25に取付けられた開いた型は滑り径路上を矢印Aの方向で上方へ運動せしめられて押出ノズル37の下に移される。」(第3頁第6欄35行~第4頁第7欄14行)との記載があり、図面第1図には、部分的に断面して示す装置の前面図、図面第2図には、矢印Ⅱの方向からみた第1図の装置の側面図が示されている。

同じく請求人が提出した本件考案の出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第2号証(特公平1-22135号公報、平成1年4月25日出願公告)には、「トグル機構で可動側金型を移動させ型締を行う射出成形装置における型締装置において、電気式サーボモータと、該サーボモータの回転位置を検出する位置検出器と、上記サーボモータの回転運動を直線運動に変えるスクリューとナット機構と、該スクリューとナット機構の出力により上記トグル機構を駆動させ上記位置検出器によって可動側金型の位置を検出し型締制御を行うと共に、型締時には微小電流で上記サーボモータを駆動し型締を行うようにした型締装置。」(特許請求の範囲第1項)の発明に関する記載があり、従来技術に関し、「射出成型機のトグル式型締装置の駆動は、従来油圧機構で行われていた。そのため、油圧ポンプや弁等を必要とし、構成が複雑となっていた。また、油圧により型締行程を制御しなくてはならないことから、その型締速度の制御も複雑で困難であった。」(第1頁第2欄5~10行)との記載があり、実施例として、第1図が第1の実施例で、金型14、15をを保持する可動盤11と固定盤16と、この固定盤16と相対して離間配設された固定背圧板12と、固定盤16と固定背圧板12との間に接続された4本のタイバー17-1~17-4と、該タイバー間をトグル機構6により第1図中左右移動できるようになっている上記可動盤11と上記固定背圧板12間との間隔を可変にするためのサーボモータ1とを備えてなる型締装置が開示されており、上記サーボモータ1はパルスコーダ等の位置検出器19を備え、この位置信号を用いてサーボモータ1が制御されるようになっていることも開示されている。また、第2図、第3図には、シングルトグル機構を用いた他の実施例で、サーボモータ20によって回転部材としてのスクリュー22が回転駆動され、これにかみ合ったナット26がスクリュー22の回転運動を直線運動に変換する機構が開示されている。

(1)本件考案1について

本件考案1と、甲第1号証に記載されているもの(以下、後者という。)とを対比すると、後者の外側型板24、内側型板25、横材30、案内棒26、27、及び型支持板19が、本件考案1の第1、第2金型保持体(34a、34b)、リアプレート(34d)、一対のロッド(34e、34f)、及び移動台(24)に相当するから、両者は、クロスヘッドから錘下したパリソンを型締装置で開閉する金型で狭持し、前記金型をエアー吹込ノズルの下方に移動させて前記パリソンをブロー成形するようにした中空成形機において、前記型締装置は前記金型の第1、第2金型保持体のうちの第1金型保持体と相対して離間配設されたリアプレートと、リアプレートに接続された一対のロッドと前記ロッドに摺動自在に設けられた前記第2金型保持体と前記リアプレート間の間隔を可変にするための手段と、よりなり、前記間隔を可変にするための手段により前記各金型保持体を介して前記金型の型締を行うように構成され、さらに前記型締装置は、この型締装置に設けられた移動台を介して前記型移動装置に取付けられている構成よりなる中空成形機である点で一致し、<1>本件考案1の金型移動装置が、電動モータ(14)と、電動モータ(14)によって回転駆動される回転部材(12)の回転運動を直線運動に変換するかみ合い部材(18)と、から構成され、かみ合い部材(18)に移動台(24)が取付けられているのに対し、後者の金型移動装置はピストン棒22を有する液圧もしくは空気圧のシリンダ21から構成され、ピストン棒22が型支持板19(移動台)に取付けられている点(以下、相違点1という。)、<2>本件考案1の型締手段が電動モータ(14)であるのに対して、後者はピストン棒22を有する液圧もしくは空気圧シリンダ21である点(以下、相違点2という。)で相違し、<3>本件考案1においては、型締装置の一対のロッド(34e、34f)が、第1金型保持体(34a)に接続された接続体(304)とリアプレート(34d)間に接続されているのに対して、後者においては、接続体(304)に相当するものはなく、案内棒26、27(一対のロッド)が外側型板24、内側型板25(第1、第2金型保持体)と横材30(リアプレート)間に接続されている点(以下、相違点3という。)で一応相違し、さらに<4>本件考案1においては、一方のロッド(34e)に第2金型保持体(34b)を設けているのに対して、後者においては、案内棒26、27(一対のロッド)に内側型板25(第2金型保持体)を設けている点(以下、相違点4という。)でも相違する。

上記相違点について検討する。

まず、相違点2について検討するに、上記甲第2号証には、従来行われていた油圧機構による射出成形機のトグル型締装置の駆動における欠点を解決するために電動モータを用いることが開示されており、電動モータを用いることにより、型締速度及びトルクの制御が非常に簡単になり、任意の型締速度及びトルクを得ることができ、電動モータに付けられた位置検出器により、スクリューの位置及びトグル機構の位置を精密に制御できるから、締付け力の調整が非常に簡単となるという効果を奏する旨の開示もあるから、油圧機構に比して電動モータがより高い技術的レベルを達成し得るものであることは明らかである。したがって、被請求人も認めているように(審判事件答弁書第6頁6から7行参照)、移動速度調整及び位置決め精度の向上並びに金型の型締精度において、射出成形機よりも高い技術的レベルが求められる中空成形機の型締手段として、油圧機構よりも高い技術的レベルが達成できる電動モーターを用いてみることは当業者であれば、きわめて容易に想到し得ることである。

また、上記相違点1についても、物体移動装置を、電動モータと、前記電動モータによって回転駆動されるボールネジ等の回転部材にかみ合わされると共に前記回転部材の回転運動を直線運動に変換するボールナット等のかみ合い部材とから構成し、かみ合い部材に移動物体を取付けることは本件考案の出願前周知であること(甲第3号証の第1~3頁、第13頁及び第17頁、甲第4~7号証参照)、上記相違点2で検討したと同様に甲第1号証に記載の中空成形機の金型移動装置において、その金型移動装置の移動速度調整及び位置決め精度において高い技術的レベルが求められると考えられること、から甲第1号証に記載の中空成形機において、ピストン棒22を有する液圧もしくは空気圧のシリンダ21に代えて上記周知の物体移動装置の構成を採用し、かみ合い部材に型支持板19を取付けてみることは当業者であればきわめて容易になし得るところである。

さらに、相違点3について検討するに、被請求人は、本件考案においては、金型のほぼ中心部にモータを介して型締力が加わり、フロントプレート及びリアプレートを介してロッドに力が加わり、ロッドは下方に少し曲がるので第1金型保持体(34a)と接続体(304)が一体の場合には、ロッドの曲がりに合わせて金型が傾き金型の上方が開くという欠点を有するが、本願考案1においては、金型が開かないように第1金型保持体(34a)がロッドの曲がりに合わせて自在に角度が変わるように接続体(304)と第1金型(34a)を別体状に接続することにより、この傾きが金型に伝達されずにこの接続部分で吸収される旨主張している(平成8年1月16日付け審判事件答弁書第8頁13~25行参照)が、請求項1には、「第1金型保持体(34a)に接続された接続体(304)」と記載されているのみであって、被請求入が主張する如き、“金型が開かないように第1金型保持体(34a)がロッドの曲がりに合わせて自在に角度が変わるように接続体(304)と第1金型保持体(34a)を別体状に接続する”構成は何等記載されていないし、本件明細書中にも上記構成及び効果につき何等の記載もないことからみて、本件考案1において接続体(304)を接続した技術的意義は格別認められず、第1金型保持体(34a)と接続体(304)は一体として機能するものと認められるから、甲第1号証の外側型板24と実質的に相違するとはいえない。

さらに、相違点4については、ロッドにより物体を保持する場合に1本で保持するか、2本で保持するかは当業者が適宜なし得る設計的事項と認められるし、本件考案1において、第2金型保持体(34b)を一方のロッド(34e)のみに設けることにより格別の作用効果を奏するとも認められない。

以上のとおりであるので、本件考案1は、甲第1~2号証に記載されたもの及び周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

(2)本件考案2について

本件考案2は、本件考案1の金型(34)の位置を、金型移動装置(101)に設けた位置検出器(15)により検出し、その位置信号(15a)を用いて制御器(46)により前記金型移動装置(101)の電動モータ(14)を制御するものであるが、上記(1)で指摘した周知の物体移動装置のうち、甲第3~甲第6号証に記載されている装置においても、物体移動装置に設けた位置検出器により物体の位置を検出し、その位置信号により物体移動装置の電動モータを制御するようになっているから、本件考案2も、甲第1~2号証に記載されているもの及び周知技術に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

(3)本件考案3について

本件考案3は、本件考案1又は2において、回転部材が、ボールねじ(12)であり、かみ合い部材がボールナット(18)である構成をとるものであるが、上記(1)で指摘した周知の物体移動装置においても、回転部材がボールネジであり、かみ合い部材がボールナットである構成をとるものであるから、本件考案3も、甲第1~2号証に記載されているもの及び周知技術に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

(4)本件考案7について

本件考案7は、かみ合い部材(18)の移動軸心と平行にガイドバー(22)が設けられ、移動台(24)の滑動部(24a)が前記ガイドバー(22)に移動可能とされている構成をとるものであるが、上記(1)で指摘した周知の物体装置のうち甲第3号証の第17頁、甲第5~6号証に記載されている装置は、かみ合い部材の移動軸心と平行にガイドバーが設けられ、移動物体の滑動部が前記ガイドバーに移動可能とされている構成をとっているものと認められるから、本件考案7も、甲第1~2号証に記載されているもの及び周知技術に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められ、よって実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

(5)本件考案10について

本件考案10は、移動台(24)の上部に、一対のロッド(34e、34f)を摺動可能とした固定台(305)が固定され、前記固定台(305)上部には電動モータ(14)が設けられている構成をとるものであるが、甲第1号証の第2図には、型支持板19の上部に一対の案内棒26、27を摺動可能とした枠29が固定され、枠29の上部にはピストンを有するシリンダ31が設けられていることが開示されており、型支持板19、案内棒26、27、及び枠29が、本件考案10の移動台(24)、ロッド(34e、34f)、及び固定台(305)に相当するものと認められるから、甲第1号証には、電動モータの代わりに、ピストンを有するシリンダが用いられている点を除いて、上記本件考案10の構成が開示されているものと認められるし、ピストンを有するシリンダに代えて電動モータを採用する点については、相違点1についての検討で述べたとおりであるから、本件考案10も、甲第1~2号証に記載されているもの及び周知技術に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

なお、被請求人は、本件考案がきわめて容易になし得たものでないことの根拠として、上記(1)の相違点3の検討箇所で指摘した主張以外にも、モータの配置を金型に対して直線方向ではなく、直角に配置する必要がある点で甲第1号証に記載のものと相違する等の主張をしているが、請求項1~3、請求項7及び請求項10のいずれにも、被請求人の主張する如き構成は記載されていない。

Ⅴ.むすび

したがって、本件考案1~3、本件考案7及び本件考案10の登録は、実用新案法第3条の規定に違反してされたものであり、同法第37条第1項第2号の規定により、これを無効にすべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。

平成8年4月30日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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