東京高等裁判所 平成8年(行ケ)119号 判決 1997年11月26日
東京都江東区東陽4丁目1番13号
原告
株式会社小野田
代表者代表取締役
土本暁
訴訟代理人弁理士
萩野平
同
栗宇百合子
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 荒井寿光
指定代理人
松本悟
同
高梨操
同
後藤千恵子
同
小川宗一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成4年審判第2434号事件について、平成8年3月29日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和59年3月29日、名称を「無機質材中の鋼材を防錆する方法」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願をした(特願昭59-59351号)が、平成4年1月21日に拒絶査定を受けたので、同年2月20日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成4年審判第2434号事件として審理したうえ、平成8年3月29日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年5月22日、原告に送達された。
2 本願発明の要旨
鋼材を内蔵する無機質材の表面に、亜硝酸塩の水溶液を塗布含浸させる第1工程、第1工程終了後の無機質材の表面に、セメント系組成物を上塗する第2工程を順次経ることを特微とする無機質材中の鋼材を防錆する方法。
3 審決の理由の要点
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、その出願前米国において頒布された刊行物である「NATIONAL COOPERATIVE HIGHWAY RESEARCH PROGRAM REPORT 257. LONG-TERM REHABILITATION OF SALT-CONTAMINATEDD BRIDGE DECKS」と題する報告書(1983年4月)の「SUMMARY」の項目の頁及び2~32頁(以下、「引用例」といい、そこに記載された発明を「引用例発明」という。)に記載された発明であると認められるから、特許法29条1項3号により特許を受けることができないとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本願発明の要旨及び引用例記載事項の各認定、引用例に「塩で汚染され腐食した鋼材補強コンクリート製の橋梁デッキの再生のために、コンクリート補強鋼材の表面の汚染コンクリートをはつり処理して、鋼材の回りのコンクリートに液体の含浸を容易となした後、腐食抑制剤の亜硝酸カルシウム水溶液で処理し、次いでラテックス変性コンクリートで上塗りして腐食から鋼材を保護すること」が示されていること、引用例記載の「コンクリート」、「ラテックス変性コンクリート」、「亜硝酸カルシウム水溶液」が、順次、本願明細書記載の「無機質材」、「セメント系組成物」、「亜硝酸塩」に相当すること、本願発明と引用例発明との相違点1及び2の各認定並びに相違点2の判断は認める。本願発明と引用例発明との一致点の認定及び相違点1の判断は争う。
審決は、本願発明及び引用例発明の技術内容を誤認して、本願発明と引用例発明との一致点の認定を誤り(取消事由1)、また相違点1の判断を誤って(取消事由2)、その結果、本願発明が引用例発明と同一のものであると誤って判断するに至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)
審決は、本願発明と引用例発明とが「『無機質材に、亜硝酸塩の水溶液を含浸処理する第1工程、第1工程終了後の無機質材に、セメント系組成物を上塗りする第2工程を順次経る、無機質材中の鋼材を防錆する方法』である点で一致し」(審決書11頁5~9頁)と認定したが、誤りである。
(1) 審決自身が、「引用例の記載からすると、『塩で汚染され腐食した鋼材補強コンクリート製の橋梁デッキの再生のために、コンクリート補強鋼材の表面の汚染コンクリートをはつり処理して、鋼材の回りのコンクリートに液体の含浸を容易となした後、腐食抑制剤の亜硝酸カルシウム水溶液で処理し、次いでラテツクス変性コンクリートで上塗りして腐食から鋼材を保護すること』が示されていると認められる。」(審決書10頁6~14行)と認定するように、引用例発明は、表面の汚染コンクリートのはつり処理(第1工程)、亜硝酸カルシウム水溶液による処理(第2工程)、ラテックス変性コンクリートの上塗り(第3工程)という3工程を経るものである。
はつり(斫り)とは、コンクリートや石の表面の凸部や不要な部分をのみやたがねを用いて削り取ることをいい、一般にコンクリート構造物の損傷部を補修するに当たっては、補修すべき損傷部をまずはつりによって除去することが常套的に行われているが、コンクリート構造物のはつり処理は、たがね等によってコンクリートの一部を破砕除去する際に破砕片の飛散による危険を伴うほか、多数箇所を局所的にはつり処理するので、作業量が多くなり、多額の経費を要することになって、その改善が望まれているところである。
これに対し、本願発明ははつり処理を行うような補修工事を対象とするものではない。すなわち、本願発明は、鉄筋コンクリート等を打設した後であっても、塩素イオン濃度の高い無機質材中の鋼材を防錆し、しかもその防錆効果が永続するようにした無機質材中の鋼材を防錆する方法に関するものであり、既に打設された鉄筋コンクリート等中に有害量の塩分が含有されている場合に、亜硝酸塩の水溶液を塗布含浸させることにより、亜硝酸塩の水溶液が無機質材の表面から内部へ十分浸透することを確かめ、この方法が鉄筋防錆上極めて有効であることを見出すとともに、亜硝酸塩の水溶液は乾燥後も水への溶出性があって塗布含浸させただけではその効果を持続できないので、亜硝酸塩の水溶液を塗布含浸させた後、その表面にセメント系組成物を塗布被覆するとよいことを見出して、完成させたものであって、コンクリート表面から防錆剤を塗布含浸するという簡便な補修工事により無機質材中の鉄筋(鋼材)の保護防錆が容易にできるという顕著な効果が奏されるものである。
本願発明の実施例が「コンクリート表面が粉状化し、ひび割れ、コンクリートの浮き、鉄筋の露出箇所が多くなった」状態のコンクリート構造物を補修処理の対象としているとしても、これに対し本願発明がはつり処理を行うものでないことは、本願明細書の実施例の部分に高圧水洗浄を行うことのみ記載され(甲第4号証12頁9~10行)、はつり処理を行う旨の記載がないことのほか、本願明細書中に、はつり処理を行うことを記載ないし示唆した部分が全く存在しないことからも明らかである。
被告は、原告の実施する「デソルト・リフリート工法」の標準的な施工手順において、錆鉄筋及び浮きのある場合は、通常防錆剤の塗布含浸に先立って、はつり工事がなされることが示されていると主張するが、同工法において、本願発明を用いる方法は、上記のような状態となったコンクリート構造物に対し劣化表面を補修する場合に適用されるもので、「劣化表面→サンダーケレン→高圧水洗浄・清掃→RF-100の塗布含浸→デソルトの塗布含浸→中性化防止層(RF防錆ペースト)→仕上材」との施工手順、すなわち、サンダーケレンにより劣化コンクリート表面の脆弱部分を取り除き、高圧水洗浄によりコンクリート表面の汚れを洗い流して清掃し、コンクリート表面から亜硝酸塩を塗布含浸して上塗りを行うという手順を経るものであり、はつり工事や埋戻しなどの処理を必要とする工程を対象とするものではない。
したがって、審決が、はつり処理を要する引用例発明につき、はつり処理を行うような補修工事を対象とするものではない本願発明と同様に2工程を経るものとしてなした一致点の認定は誤りである。
(2) また、はつり処理を行わない本願発明においては、本願明細書の実施例の記載にあるとおり、セメント系組成物の上塗りはコンクリート表面に2mmの厚さで施せば足りるものである(甲第4号証12頁9~15行)。これに対し、引用例発明においては、鋼材の表面から1/2インチ(約12mm)まではつり処理を行い(審決書4頁17行~5頁8行)、1-1/2インチ(約38mm)の厚さのラテックス変性コンクリートの上塗りをすること(甲第5号証15頁右欄13~14行、同号証訳文15項)が示されているが、このような厚さでセメント系組成物を施すことは、上塗りというよりもむしろはつり部分の埋戻しの作業であって、本願発明の上塗りという概念とも、その技術的意義とも全く異なるものである。
したがって、本願発明と引用例発明とのセメント系組成物の上塗りの工程が同一のものであるとした点においても、審決の一致点の認定は誤りである。
2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)
審決は、相違点1として挙げた「亜硝酸塩の水溶液が適用される無機質材が、本願発明は、鋼材を内蔵するとされているのに対して、引用例は、腐食された鋼材補強コンクリートであって、はつり処理がなされたものである点」(審決書11頁10~14行)につき、「引用例において、腐食抑制剤としての亜硝酸カルシウムが含浸処理される鋼材補強コンクリートは、・・・はつり処理がなされているといっても、補強鋼材を覆う汚染されたコンクリートを全て除去するものではなく、はつりによっても、鋼材の表面から1/2インチの厚さでコンクリートによって、覆われている状態を維持していると解釈することができるから、はつり処理後の状態であっても、補強鋼材は、無機質材であるコンクリートに内蔵されていると解される。したがって、亜硝酸塩の水溶液が含浸処理される無機質材に、両者に実質上の差異を認めることはできない。」(審決書12頁3~16行)と判断したが、この判断は、上記のとおり本願発明がはつり処理を含まないことを看過ないし無視したもので誤りである。
第4 被告の反論の要点
審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1について
(1) はつりが、コンクリートや石の表面の凸部や不要な部分をのみやたがねを用いて削り取ることをいい、一般にコンクリート構造物の損傷部を補修するに当たって補修すべき損傷部をまずはつりによって除去することが常套的に行われていることは認める。
審決は、原告摘示の審決書記載部分(審決書10頁6~14行)のとおり、引用例発明が、はつり処理の工程を含めれば3工程からなることを認定しており、この認定に基づいて本願発明との対比をし、防錆剤が施される時点を基点として、本願発明と引用例発明とが2工程からなる点で一致するものと認定したうえで、一応の相違点として、「亜硝酸塩の水溶液が適用される無機質材が、本願発明は、鋼材を内蔵するとされているのに対して、引用例は、腐食された鋼材補強コンクリートであって、はつり処理がなされたものである点」(審決書11頁10~14行)を挙げ、これに対する判断をしたものである。したがって、本願発明と引用例発明とが2工程からなる点で一致するものとした審決の認定に誤りはない。
のみならず、本願発明がはつり処理を行う方法を排除しているものとは解されず、したがって、本願発明もはつり処理を行う工程を含めて3工程からなる場合も含んでいるのであるから、この点においても、本願発明と引用例発明との一致点の認定が誤りとする原告の主張は理由がない。
すなわち、本願発明は、鋼材を内蔵する無機質材(例えば、鉄筋コンクリート)に防錆剤である亜硝酸塩水溶液を塗布含浸処理するものとされているところ、技術常識からすれば、鉄筋コンクリート構造物で補修が必要な状態にあるものは、その損傷の状況に応じて、各種前処理を施した上で補修がなされるものである。前処理には、昭和53年7月20日発行の社団法人日本コンクリート工学協会編「コンクリート便覧」(乙第1号証)に、「補修効果をあげるための注意」との標題で、「いずれの補修材料を使う場合でも、補修する場所は、塵芥、異物が付着している場合は、サンダー、グラインダー、ワイヤーブラシなどを用いて除去し、脆化した部分があればはつり落し、油脂類が固着している場合は、きれいな布に溶剤をしみ込ませ、完全にふき取る。」(同号証808頁12~16行)と記載されているとおり、はつり処理が含まれており、また、原告自身も、一般にコンクリート構造物の損傷部を補修するに当たっては、補修すべき損傷部をまずはつりによって除去することが常套的に行われていると主張するところである。
他方、本願の出願公開時の明細書(特開昭60-204683号公報、乙第2号証)の実施例1には、その処理対象として、「コンクリート表面が粉状化し、ひび割れ、コンクリートの浮き、鉄筋の露出箇所が多くなった」(同号証3頁右下欄16~18行)コンクリート構造物が記載されており、補正後の本願明細書(甲第4号証)には、上記記載部分を含めて実施例1の内容が抜け落ちているが、本願発明がこのような状態のコンクリート構造物を補修処理の対象としていることは明らかであるところ、このような状態のコンクリート構造物と上記「コンクリート便覧」の記載とを併せ考えると、本願発明においても、その亜硝酸塩水溶液の塗布含浸処理の前に、対象物に係る必要な前処理として、はつり処理を施すことを包含しているものと解される。このことは、原告が本願発明に係る発明の実施であるとする「デソルト・リフリート工法」の標準的な施工手順が「錆鉄筋及び浮き→はつり工事→錆落し→高圧水洗浄・清掃→RF-100の塗布含浸→デソルトの塗布含浸→防錆処理(RF防錆ペースト)→埋戻し(RFモルタル)→中性化防止層(RF防錆ペースト)→仕上材」とされ、錆鉄筋及び浮きのある場合は、通常防錆剤の塗布含浸に先立って、はつり工事がなされることが示されていることによっても明らかである。
(2) 審決認定のとおり、引用例には、「腐食抑制剤で処理された基材は、僅かな表面劣化からほぼ完全な崩壊に至るまでの種々異なるレベルの損傷を示した;全ての基材は、ある程度のスポーリングを起こす傾向を示した。」(審決書8頁11~14行)、「亜硝酸カルシウム水溶液による処理は、少なくとも上塗り形成後に、腐食抵抗において有意的な増大をもたらした。」(同9頁末行~10頁2行)、「はつりとある種の処理(封孔剤または腐食抑制剤)、並びにそれに引き続く比較的不浸透性のコンクリートの上塗りという組合わせは、検討に値する」(同5頁14~17行)との各記載があり、これらの記載からみて、引用例は、亜硝酸塩の水溶液を塗布含浸しただけでは腐食抑制の効果を持続することができないものであることを示唆するとともに、腐食抵抗の増大のために、防錆剤を含浸させた後に上塗りを組み合せて施すことを開示しているものということができ、さらに引用例の第2表(甲第5号証9頁下欄)に亜硝酸塩水溶液の含浸及びラテックス変性コンクリートの上塗りの組合せの記載があることに照らして、本願発明における亜硝酸塩水溶液を塗布含浸させる第1工程及びセメント系組成物を上塗する第2工程によって防錆効果を持続させることは、引用例発明においても意図されているものといえる。
また、引用例において、鋼材の表面から1/2インチまではつり処理を行い、1-1/2インチの厚さのラテックス変性コンクリートの上塗りをすることは、単なる一例として示されているのであり、1-1/2インチの厚さで、鋼材の表面から1/2インチまではつり除去をしなければ、亜硝酸塩水溶液を鋼の回りのコンクリートに含浸できないわけではない。審決の認定のとおり、引用例には、「はつりは、ごく一般的な技術であり、またそのコストは著しく低減させることが可能である」(審決書5頁12~14行)、「下記の各腐食抑制剤を使用して、1インチ×2インチのポルトランドセメントモルタル試料(W/C=0.4)の含浸が成功裏に行なわれた:10%亜硝酸カルシウム水溶液、・・・」(同7頁8~11行)との各記載があり、これらの記載によれば、引用例発明においては、前掲「コンクリート便覧」(乙第1号証)に記載されたような一般的なはつり技術が適用されるものであり、また、亜硝酸カルシウム水溶液が1インチ×2インチのポルトランドセメントモルタル試料(無機質材)の表面から内部へ十分浸透することが確認されているものと認められるから、表面からのレベルの浅いはつりであっても、発明の目的は達成できるものといえる。
さらに、本願発明においてセメント系組成物の上塗りをコンクリート表面に2mmの厚さで施すことは、本願明細書の特許請求の範囲に記載されていないことである。
したがって、引用例発明におけるラテックス変性コンクリートの上塗りの概念、技術的意義が、本願発明と異なるものであるとすることはできない。
2 取消事由2について
本願発明がはつり処理を行う方法を排除しているものとは解されないことは上記のとおりである。
そして、審決の認定のとおり、引用例には、「補強材表面の1/2インチ以内のレベルまでのはつりは、・・・鋼の回りのコンクリートの含浸を容易にすることができる。」(審決書4頁19行~5頁2行)、「・・・はつりは、液体による含浸の深さを軽減する手段として価値があると考えられた。」(同5頁10~11行)との各記載があり、これらの記載によると、はつりは、汚染コンクリートを除去するためだけでなく、それに続く防錆剤の含浸処理を容易にするためのものであることが認められる。すなわち、引用例発明は、対象物である鋼材を内蔵するコンクリートに防錆剤が浸透することを前提とするものである。
したがって、「はつり処理後の状態であっても、補強鋼材は、無機質材であるコンクリートに内蔵されていると解される。したがって、亜硝酸塩の水溶液が含浸処理される無機質材に、両者に実質上の差異を認めることはできない。」とした審決の判断に誤りはない。
第5 証拠
本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立(乙第3号証は原本の存在及びその成立)については、いずれも当事者間に争いがない。
第6 当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
(1) 審決の理由のうち、本願発明の要旨の認定、引用例記載事項の認定及び引用例に「塩で汚染され腐食した鋼材補強コンクリート製の橋梁デッキの再生のために、コンクリート補強鋼材の表面の汚染コンクリートをはつり処理して、鋼材の回りのコンクリートに液体の含浸を容易となした後、腐食抑制剤の亜碗酸カルシウム水溶液で処理し、次いでラテックス変性コンクリートで上塗りして腐食から鋼材を保護すること」が示されていること、並びに引用例記載の「コンクリート」、「ラテックス変性コンクリート」、「亜硝酸カルシウム水溶液」が、順次、本願明細書記載の「無機質材」、「セメント系組成物」、「亜硝酸塩」に相当することは、当事者間に争いがない。
そうすると、本願発明と引用例発明とは、ともに、無機質材に亜硝酸塩の水溶液を含浸処理する工程と、当該工程終了後の無機質材にセメント系組成物を上塗りする工程とを順次経る無機質材中の鋼材を防錆する方法である点で一致すること、ただし、引用例発明においては、亜硝酸塩水溶液を含浸処理する工程の前に、前処理として、鋼材を内蔵する無機質材(コンクリート)の表面をはつり処理する工程を含む構成とされていることが認められる。
(2) 原告は、本願発明がはつり処理を行うような補修工事を対象とするものではない旨主張し、確かに、本願明細書(甲第4号証)には、本願発明の方法を適用するコンクリート構造物等に対しはつり処理を施すことの要否について触れた箇所は存在しないことが認められる。
はつりが、コンクリートや石の表面の凸部や不要な部分をのみやたがねを用いて削り取ることをいい、一般にコンクリート構造物の損傷部を補修するに当たって補修すべき損傷部をまずはつりによって除去することが常套的に行われていることは当事者間に争いがなく、この事実と、被告の挙げる「コンクリート便覧」(乙第1号証)に、「補修効果をあげるための注意」との標題の下に、「いずれの補修材料を使う場合でも、補修する場所は、塵芥、異物が付着している場合は、サンダー、グラインダー、ワイヤーブラシなどを用いて除去し、脆化した部分があれば、はつり落し、油脂類が固着している場合は、きれいな布に溶剤をしみ込ませ、完全にふき取る。・・・いずれの清掃の場合も、充分な表面強度をもった健全な下地面として補修する必要がある。」(同号証808頁12~22行)と記載されていることとを併せ考えれば、本願出願当時、コンクリート建造物等を補修する際、該建造物の表面の汚れを清掃除去したり、コンクリートの脆化部分を除去するために、必要に応じはつり処理を含む前処理を行うことは、当業者の技術常識であったものと認められる。
そして、本願発明においても、その「鋼材を内蔵する無機質材の表面に、亜硝酸塩の水溶液を塗布含浸させる第1工程」の前に、コンクリート表面を高圧洗浄することが前処理として行われることは、原告も認めるところであり、また、本願発明が「コンクリート表面が粉状化し、ひび割れ、コンクリートの浮き、鉄筋の露出箇所が多くなった」状態のコンクリート構造物を対象とすることも原告の認めるところである。そうすると、上記技術常識に照らせば、コンクリートの脆化部分を除去するためにはつり処理が必要な場合が当然に予想されるようなこのような状態のコンクリート構造物につき、前処理として高圧洗浄は行うが、はつり処理を行わない理由は考えられないというべきであり、原告の主張は、技術常識に反するものというほかはない。技術常識上、はつり処理が必要な場合にも、本願発明においてはこれを行う必要が全くないとすれば、本願明細書中に、その旨が、そのための技術手段とともに記載されることが必要であるものというべきである。
すなわち、本願明細書に、本願発明の方法を適用するコンクリート構造物等に対しはつり処理を施すことの要否について全く触れていないことは、本願発明がはつり処理を排除することを意味するものではなく、むしろ、亜硝酸塩の水溶液を塗布含浸させる前に、その前処理として、技術常識に従い、必要に応じはつり処理を施す場合もあることを当然の前提としたものであると解するのが相当である。
したがって、本願発明がはつり処理を行うような補修工事を対象とするものではないとする原告の主張は理由がない。
(3) 本願発明の「第1工程終了後の無機質材の表面に、セメント系組成物を上塗する第2工程」が、無機質材内部に浸透させた亜硝酸塩を流出させないようにして亜硝酸塩水溶液の塗布含浸の効果を持続させる目的を有することは、本願明細書(甲第4号証)の「亜硝酸塩の水溶液は、・・・水への溶出性があるため、塗布含浸しただけではその効果を持続することができないので、・・・その表面にセメント系組成物を塗布被覆するとよいことを見い出して本発明を完成した。」(同号証6頁12~17行)との記載から明らかである。
他方、審決の認定のとおり、引用例に、「補強材表面の1/2インチ以内のレベルまでのはつりは、大量の汚染コンクリートを除去し、鋼の回りのコンクリートの含浸を容易にすることができる。」(審決書4頁19行~5頁2行)、「補強鋼材の上の塩汚染コンクリートを大量に除去するはつりは、液体による含浸の深さを軽減する手段として価値があると考えられた。」(同5頁9~11行)、「腐食抑制剤で処理された基材は、僅かな表面劣化からほぼ完全な崩壊に至るまでの種々異なるレベルの損傷を示した;全ての基材は、ある程度のスポーリングを起こす傾向を示した。」(同8頁11~14行)、「亜硝酸カルシウム水溶液による処理は、少なくとも上塗り形成後に、腐食抵抗において有意的な増大をもたらした。」(同9頁末行~10頁2行)との各記載があることは当事者間に争いがなく、さらに、引用例(甲第5号証)には、「・・・厚さ1-1/2インチ(=38mm)のラテックス変性コンクリート(LMC)のオーバーレイを施こす・・・」(同号証訳文15項)との記載も存在する。
これらの記載によれば、引用例には、大量の汚染コンクリートを除去し、鋼の回りのコンクリートへの亜硝酸カルシウム水溶液等の腐食抑制剤の含浸を容易にするために、補強材表面の1/2インチ以内ないし1-1/2インチの厚さではつり処理をし、腐食抑制剤含浸後に、はつりによって除去した部分にラテックス変性コンクリートを上塗りする例が示されているものと認められ、この場合、ラテックス変性コンクリートの上塗りがはつりによる除去部分の埋戻しの意義を有することは否定できないけれども、前示、「亜硝酸カルシウム水溶液による処理は、少なくとも上塗り形成後に、腐食抵抗において有意的な増大をもたらした。」との記載によれば、引用例には、同時に、腐食抑制剤である亜硝酸カルシウム水溶液等による塗布含浸処理のみでは、鋼材の腐食抵抗において十分ではなく、そのためにラテックス変性コンクリートの上塗りが併用されること、すなわち、ラテックス変性コンクリートの上塗りにより亜硝酸塩の効果を持続させることも、併せ開示されているものと認められる。
そうすると、本願発明と引用例発明とのセメント系組成物の上塗りの工程は、同じ技術的意義を有するものということができる。
原告は、本願発明の上塗りは、コンクリート表面に2mmの厚さに施せば足り、この点において引用例発明のラテックス変性コンクリートの上塗りと技術的意義を異にすると主張するが、この厚さは実施例におけるものであって、本願発明の要旨で限定されたものではないから、原告の主張は失当である。
(4) 以上によれば、審決の本願発明と引用例発明との一致点の認定は正当であり、原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)について
本願発明において、亜硝酸塩の水溶液を塗布含浸させる第1工程の前処理として、はつり処理を施すことが排除されているものとは解されないことは前示のとおりである。そして、引用例の前示記載によれば、「引用例において、腐食抑制剤としての亜硝酸カルシウムが含浸処理される鋼材補強コンクリートは、・・・はつり処理後の状態であっても、補強鋼材は、無機質材であるコンクリートに内蔵されている」(審決書12頁3~13行)ものであることが認められるから、本願発明と引用例発明との一応の相違点1につき、「亜硝酸塩の水溶液が含浸処理される無機質材に、両者に実質上の差違を認めることはできない。」(同12頁14~16行)とした審決の判断は正当であり、原告主張の誤りはない。
3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)
平成4年審判第2434号
審決
東京都江東区東陽4-1-13
請求人 株式会社 小野田
東京都港区赤坂1丁目12番32号 アーク森ビル28階 栄光特許事務所
代理人弁理士 萩野平
東京都港区赤坂1丁目12番32号 アーク森ビル28階 栄光特許事務所
代理人弁理士 佐々木清隆
東京都港区赤坂1丁目12番32号 アーク森ビル28階 栄光特許事務所
代理木弁理士 深沢敏男
東京都港区赤坂1丁目12番32号 アーク森ビル28階 栄光特許事務所
代理人弁理士 添田全一
東京都港区新橋1丁目15番4号 堤第一ビル4階 今野特許事務所
代理人弁理士 今野耕哉
東京都港区新橋1丁目15番4号 堤第1ビル4階 今野特許事務所
代理人弁理士 伊藤将夫
昭和59年特許願第59351号「無機質材中の鋼材を防錆する方法」拒絶査定に対する審判事件(平成5年6月23日出願公告、特公平5-41595)について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
1. 手続きの経緯、本願発明の要旨
本願は、昭和59年3月29日の出願であって、その発明の要旨は、当審において、出願公告された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。(なお、請求人が、平成6年7月21日付でした手続補正は、特許法第64条第2項の規定に違反したものであるので、特許法第54条第1項の規定により補正却下した。)
「鋼材を内蔵する無機質材の表面に、亜硝酸塩の水溶液を塗布含浸させる第1工程、第1工程の終了後の無機質材の表面に、セメント系組成物を上塗する第2工程を順次経ることを特徴とする無機質材中の鋼材を防錆する方法。」(特許請求の範囲第1項)
2. 引用例
これに対して、特許異議申立人 大阪セメント株式会社が、証拠として提出した、本願の出願前米国において頒布された刊行物である甲第1号証(ナショナル コオペレイテイブ ハイウエイリサーチ プログラム レポート 257(NATIONAL COOPERATIVE HIGHWAY RESEARCH PROGRAM REPORT 257) 「塩で汚染され橋梁デッキの長期的再生」と題する報告における「概説」(SUMMARY)の項目の頁及び第2-32頁(1983年4月))(以下、引用例という。)には、
1)「本レポートは、塩害を受けた橋梁デッキを再生するための新しい方法に関する、評論的な総税及び実験的研究を取り扱う。ポリ(メタクリル酸メチル)を含浸する改良法に力点をおいた。更に、高分子又は腐食抑制剤の含浸及び低浸透性コンクリートの上塗りが後続する、コンクリート上層を除去するための、はつりの概念にも力点をおいた。」(SUMMARYの頁、第1行-11行)
2)「はつりを擬似的に行った後、基材処理と上塗り(ラテックス変性コンクリート、低スランプの緻密なコンクリート及びポリマーコンクリート)の種々の組み合わせについて、凍結融解抵抗と(分極抵抗法(付録F)で測定した)腐食抵抗を測定した。」(SUMMARYの頁、第14行-21行)
3)「最近の報告によれば、米国における全ハイウェーの橋梁デッキのほぼ1/3は、補強鋼材の腐食のために著しく劣化している。この腐食は、融氷用塩を繰返し使用した結果としてコンクリートに浸透した塩化物イオンにより通常引起こされる。補強鋼材周辺における腐食生成物の蓄積は、コンクリート被覆中にクラックを発生させる。これにより、さらに塩化物溶液の一層の侵入が可能となり、これが腐食を加速するとともに、デッキのスポーリングを引き起こす。」(第2頁左欄 Problem Statementの項 第1行-第13行)
4)「再生方法の1部として、デッキの最表面は、しばしば、上塗りの適用に先立ち、はつり処理される。補強材表面の1/2インチ以内のレベルまでのはつりは、大量の汚染コンクリートを除去し、鋼の回りのコンクリートの含浸を容易にすることができる。もし、浅い被覆下の補強材の回りのコンクリート中の塩化物の影響を無効にする経済的方法が見いだされたならば、長期間効能を約束する代わりの修復方法が、採用され得た。」(第2頁左欄Curent Ameliorative Techniquesの項第19行-同頁右欄第1行)
5)補強鋼材の上の塩汚染コンクリートを大量に除去するはつりは、液体による含浸の深さを軽減する手段として価値があると考えられた。・・・・・(中略)・・・・・はつりは、ごく一般的な技術であり、またそのコストは著しく低減させることが可能であると考えられるので、はつりとある種の処理(封孔剤または腐食抑制剤)、ならびにそれに引き続く比較的不浸透性のコンクリートの上塗りという組合わせは、検討に値すると結論された。」(第4頁左欄Scarificationの項第1行-第23行)
6)「腐食から鋼材を保護する抑制剤の使用は、勿論、良く確立されている。・・・・・・(中略)・・・・あるものは、コンクリートの強度を低下させる。(例えば、クロム酸塩及び亜硝酸ナトリウム)・・・・・・(中略)・・・・考慮された全ての抑制剤中で、含浸を裏付ける証拠は公表されていないが、数種のものが含浸に適している可能性がある様に思われる:亜硝酸カルシウム水溶液(12)、アルカリ土類金属石油スルホン酸塩および有機亜硝酸アンモニウム類。
このグループから、亜硝酸カルシウム水溶液がコンクリート添加剤(12)として、またアルカリ土類金属石油スルホン酸塩が通常の水置換腐食抑制剤とし、て使用されてい乙ことを考慮して、最初の2つが選択された。」(第5頁左欄 Inhibtorsの項第1行-同頁右欄第13行)
7)「劣化したコンクリート製橋梁デッキの部分的な深さまでの置換のために、10年以上にわたり3種の上塗りシステムが使用されている。これらは:ラテックス変性モルタル(LMM)、ラテックス変性コンクリート(LMC)、および”アイオワミックス”と呼ばれることもある低スランプ緻密コンクリート(LSDC)である。一般に、これらは満足すべき性能を示しており、腐食を完全に停止させるものではないが、橋梁デッキの用役期間を10年もしくはそれ以上延長させると考えられている。」(第5頁右欄“Overlay Systemsの項第1行-第11行)
8)「下記の各腐食抑制剤を使用して、1インチ×2インチのポルトランドセメントモルタル試料(W/C=0.4)の含浸が成功裏に行なわれた:10%亜硝酸カルシウム水溶液、腐食抑制および水置換のための浸透剤(WD-40)、および油およびミネラルスピリット中の石油スルホン酸カルシウム塩およびバリウム塩。」(第7頁右欄New Impregnantsの項第1行-第9行)
9)「本研究のこの部分では、表2に示す処理と上塗りとの組合わせについて、凍結-融解挙動助に関して、基材と上塗りの耐久性を試験した。はつりに続いて処理と上塗りとを行なうことを重視すれば、処理された基材と上塗りとの間の適合性も、興味のあるところである。」(第9頁左欄 Systems Studiesの項第1行-第9行)
10)第9頁の表2には、基材 処理/上塗りシステムのタイトルの下に、基材処理の種類としての抑制剤、材料としての亜硝酸カルシウム、上塗りとしてLMCの組み合わせが示されている。そして、LMCが、ラテックス変性コンクリートを意味することは、表2下欄部に注釈として記載されている。
11)「腐食抑制剤で処理された基材は、僅かな表面劣化からほぼ完全な崩壊に至るまでの種々異なるレベルの損傷を示した;全ての基材は、ある程度のスポーリングを起こす傾向を示した。損傷害の程度は、以下の順序で増大した(括弧内の数字は、テストされた4個の試料中の著しく損傷したものの数を示す)。
石油スルホン酸バリウム(1/4)~亜硝酸カルシウム(1/4)<石油スルホン酸カルシウム(3/4)<WD-40(4/4)」(第9頁右欄第12行-24行(Substrate Durabilityの項の一部))
12)「一般に、ラテックス変性コンクリート(LMC)およびポリマーコンクリート(PC)の上塗りは、良好な性能を発揮した。低スランプ緻密コンクリートは、他の2種の上塗りよりも大きな表面モルタル劣化を示した;全ての上塗りは、対照である通常の空気連行コンクリートよりも良好な性能を呈した。」(第9頁右欄 Overlysの項第1行-第7行)
13)「石油スルホン酸バリウム(4試料の中の1つ)、硫黄(2試料の中の1つ)およびWD-40(2試料の中の1つ)について、剥離の傾向を観察したが、シラン処理基材の場合程には、傾向は明碓ではなかった。亜硝酸カルシウムに関しては、相対パルス速度は、通常のコンクリート上の通常のコンクリートのそれに類似していた。」(第10頁左欄第14行-第22行(Compatibilityの項の一部))
14)「亜硝酸カルシウム水溶液による処理は、少なくとも上塗り形成後に、腐食抵抗において有意的な増大をもたらした。」(第10頁右欄第30行-第33行(Corrosion resistanceの項の一部))なる記載がそれぞれなされている。
引用例の記載からすると、「塩で汚染され腐食した鋼材補強コンクリート製の橋梁デッキの再生のために、コンクリート補強鋼材の表面の汚染コンクリートをはつり処理して、鋼材の回りのコンクリートに液体の含浸を容易となした後、腐食抑制剤の亜硝酸カルシウム水溶液で処理し、次いでラテックス変性コンクリートで上塗りして腐食から鋼材を保護すること」が示されていると認められる。
3. 対比
本願発明と引用例に記載されたものを対比すると、引用例における、「鋼材補強コンクリート製の橋梁デッキ」の「コンクリート」及び「ラテツクス変性コンクリート」は、本願発明における「無機質材」及び「セメント系組成物」にそれぞれ相当し、亜硝酸カルシウム水溶液は、亜硝酸塩の水溶液であり、また、引用例におけるラテックス変性コンクリートの上塗りは、亜硝酸カルシウム水溶液で処理する第1工程終了後に順次なされる第2工程であるから、両者は、「無機質材に、亜硝酸塩の水溶液を含浸処理する第1工程、第1工程の終了後の無機質材に、セメント系組成物を上塗りする第2工程を順次経る、無機質材中の鋼材を防錆する方法」である点で一致し、
(相違点1)亜硝酸塩の水溶液が適用される無機質材が、本願発明は、鋼材を内蔵するとされているのに対して、引用例は、腐食された鋼材補強コンクリートであって、はつり処理がなされたものである点
(相違点2)
亜硝酸塩の水溶液を、本願発明が無機質材の表面に塗布含浸するのに対して、引用例では、塗布の点について明記されていない点で
一応相違する。
4. 当審の判断
そこで、これらの相違点について検討すると、相違点1について
引用例において、腐食抑制剤としての亜硝酸カルシウムが含浸処理される鋼材補強コンクリートは、引用例の記載を摘示した上記4)の記載を参酌すると、はつり処理がなされているといっても、補強鋼材を覆う汚染されたコンクリートを全て除去するものではなく、はつりによっても、鋼材の表面から1/2インチの厚さでコンクリートによって、覆われている状態を維持していると解釈することができるから、はつり処理後の状態であっても、補強鋼材は、無機質材であるコンクリートに内蔵されていると解される。
したがって、亜硝酸塩の水溶液が含浸処理される無機質材に、両者に実質上の差違を認めることはできない。
相違点2について
腐食抑制剤の無機質材への含浸にあたって、腐食抑制剤としての亜硝酸カルシウム水溶液を無機質材に塗布して含浸させることは当業者に自明のことにすぎないから、亜硝酸塩の水溶液を塗布する点に実質上の差違を認めることはできない。
5. むすび
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明であると認められるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
平成8年3月29日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)