東京高等裁判所 平成8年(行ケ)136号 判決 1998年7月28日
東京都千代田区大手町1丁目6番1号
原告
協和醗酵工業株式会社
代表者代表取締役
平田正
訴訟代理人弁護士
廣田雅紀
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 伊佐山建志
指定代理人
田中久直
同
石橋和美
同
後藤千恵子
同
小池隆
主文
特許庁が平成5年審判第23648号事件について平成8年3月25日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨の判決
2 被告
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和61年9月12日、発明の名称を「新規ペプチド」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和61年特許願第215088号)をしたが、平成5年11月2日拒絶査定を受けたので、同年12月21日拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、この請求を平成5年審判第23648号事件として審理した結果、平成8年3月25日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年6月12日原告に送達された。
2 特許請求の範囲第1項に記載された発明(以下「本願第1発明」という。)の要旨
別紙審決書写し(以下「審決書」という。)の2頁10行ないし3頁2行に記載のとおりである。
3 審決の理由
審決書に記載のとおりである。
4 審決の取消事由
審決の理由1(手続の経緯・本願第1発明の要旨)は認める。
同2(引用例)は認める。
同3(対比)は認める。
同4(当審の判断)のうち、審決書7頁10行から8頁2行「れたい。)」まで、8頁6行「及び13位」から11行「15行参照)」まで、8頁15行から19行「主張しているが、」までは認め、その余は争う。
同5(結び)は争う。
審決は、相違点についての判断及び効果についての判断を誤った結果、本願第1発明の進歩性の判断を誤ったものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。
(取消事由)
(1) 取消事由1(相違点についての判断の誤り)
審決は、「引用例に記載の14位のグルタミン酸(Glu)をグルタミン(Gln)に置換することに格別の困難性は存在しない」(審決書8頁11行ないし14行)と判断するが、誤りである。
<1>(a) 審決も認定するように、天然モチリンのアミノ酸配列が13-14-15の各位置において、メチオニン-グルタミン-グルタミン酸であることは本願出願前周知であったから、本願出願当時、モチリンの14位のグルタミンがグルタミン酸に置換されたものを天然モチリンと同じものと認識していた当業者はだれもいなかったものである。
審決の相違点についての判断は、結局、13位のメチオニンがロイシンで置換されたモチリン誘導体においても、14位のアミノ酸がグルタミン酸であるモチリンとグルタミンであるモチリンとを同効のものと考えていたことからみて、引用例に記載の14位のグルタミン酸をグルタミンに置換することに格別の困難性は存在しないということになり、他に何ら具体的根拠を示すことなく、同効のものと考えていたから置換は容易であるという乱暴な論理である。
(b) また、審決が指摘するように、「13位のメチオニン(Met)がロイシン(Leu)で置換されたモチリン誘導体においても、14位のアミノ酸がグルタミン酸(Glu)とグルタミン(Gln)であるモチリンと同効のものと考えられていた」(審決書8頁6行ないし10行)のであれば、他に必要性が見いだしえない限り、当業者において新たに作製してみようとする動機がない。
<2>(a) 被告は、引用例に本願第1発明と同一のものが記載されていると主張するが、審決取消訴訟において審理判断の対象となるのは、審判手続において審理判断された事項に限られるべきであり、上記主張は本訴における審理判断の対象外のものである。
(b) さらに、引用例中の「L-ノルロイシン-13-モチリンおよびL-ロイシン-13-モチリンという名前は14-グルタミン酸の側鎖のアミド基が生物の活性に影響しないという点では維持存続されるであろう」(甲第4号証4頁右上欄11行ないし15行)との記載は、単に引用例記載の13位がロイシンで14位がグルタミン酸であるモチリン誘導体(以下「引用例モチリン」という。)の呼称について言及したものであって、本願第1発明のペプチド(以下「本願モチリン」という。)と同じアミノ酸配列を有するモチリン誘導体を開示するものでも、それが製造されたことを開示するものでもない。
(c) 引用例に引用された甲第5号証(“Can.J.Biochem.”1974年版52巻7頁、8頁)にも、その13位のアミノ酸がロイシンであるモチリンについては何ら記載がない。
(2) 取消事由2(効果についての判断の誤り)
<1> 特許庁の物質特許制度及び多項制に関する運用基準(昭和50年10月)(甲第7号証)においては、「化学物質発明の進歩性は、ⅰ化学物質の化学構造、ⅱ化学物質の性質又は用途の二つの面からの特異性に基づいて判断する。」とした上、「C 化学構造類似の公知化学物質から予測できる性質を有する化学物質であっても、その性質の程度が著しく優れている化学物質の発明。」は、「進歩性があるものとする。」とされている。
特許庁の特許・実用新案 審査基準(甲第9号証)においても、進歩性の項で、「<1> 有利な効果の参酌
請求項に係る発明の有利な効果を調べ、有利な効果の存在が認められればこれを参酌して論理づけを試みる。
たとえば、引用発明との構成の類似性や、複数の引用発明の組み合わせにより、一見、当業者が容易に想到できたとされる場合であっても、請求項に係る発明が、有利な効果であって、引用発明が有する効果とは異質な効果、または同質の効果であるが際立って優れた効果を有し、これらが技術水準から当業者が予測することができたものではないときは、この事実により進歩性の存在が推認される。」とされている。
<2>(a) 甲第6号証(意見書)の5頁13行ないし7頁13行の記載及び第18図は、本願モチリンが引用例モチリンに比較して、強い腸管運動亢進作用を有することを明らかにしている。第18図に結果が示されている実験は、13位をノルロイシンとし、14位をグルタミン酸としたモチリン(以下「NEモチリン」という。)を加えた3種類のモチリン誘導体のそれぞれにつき、5段階の投与量について、一検体につき6匹のウサギを用いたデータである。
第18図によると、本願モチリンでは、0.25μg/Kgの投与で腸管運動亢進作用が認められ、2.5μg/Kgの投与で最大活性値を示すのに対し、引用例モチリンでは、0.25μg/Kgの投与ではほとんど腸管運動亢進作用が認められず、5.0μg/Kgの投与においても、本願モチリンの1.0μg/Kgの投与と同程度の腸管運動亢進作用しか示さなかった。また、0.5μg/Kg及び1.0μg/Kgの投与量において、本願モチリンは引用例モチリンに比べて約6ないし9倍の活性を示した。
(b) イン・ビボ(生体内)試験において、約6ないし9倍の活性強度の差を示す上記比較試験の結果は、到底予測し得るものではなく、少ない投与量で活性を示し、また、最大活性値においても優れている本願モチリンが引用例モチリンに比して顕著な効果を有していることは明らかである。
(c) 審決が指摘する「13位のメチオニン(Met)がロイシン(Leu)で置換されたモチリン誘導体においても、14位のアミノ酸がグルタミン酸(Glu)とグルタミン(Gln)であるモチリンを同効のものと考えていたこと」(審決書8頁6行ないし10行)は、本願モチリンが引用例モチリンに比べて著しく優れた効果を有することを何ら示唆するものではない。
ペプチド系生理活性物質の構成アミノ酸の1つを他のアミノ酸に置換すると、その生理活性が通常低下することからすると、本願モチリンが天然モチリンと同等の活性を有することは、むしろ予測し得ないことである。
本願モチリンがNEモチリンと比べると2倍程度の活性を示すにすぎないものだとしても、そのことにより、低用量で用いることができること、副作用の発現を低下させ、安全性を高めることが期待でき、さらに、安い費用で調製でき、人間及び動物の身体中で容易に劣化しない等の効果がある。
(d) 被告の甲第6号証に対する批判は、実験条件が著しく異なる甲第4号証(引用例)及び甲第12号証に基づくものであるから、当を得たものではない。すなわち、被告が甲第6号証に対する批判の根拠とする引用例中の投与量に関する記載(甲第4号証5頁左下欄10行ないし右下欄4行)は、具体的な薬理実験結果が記載されていないこと、ペプチド系生理活性物質における構成アミノ酸を他のアミノ酸と置換すると通常その活性が低下するにもかかわらず、上記引用例中の投与量の記載は低くなっていること等からすると、実験によらずに推測に基づいて記載されたものと考えられる。
また、犬に対する投与量に関する記載(甲第4号証5頁右下欄4行ないし9行)は、頁数が抜けているが、Can.J.Biochem.1973年版51巻533ないし537頁(甲第11号証)から引用したものであると認められる。そこでの記載自体、モチリンの有効投与量等については、Can.J.Physiol.Pharmacol.,49,399(1971)(甲第12号証)から引用している。甲第12号証の実験は、麻酔をしていないイヌに60秒巻静脈内投与を行い、消化管運動亢進作用で評価したものであり、最も投与量の少ないものでも100~125ng/Kgであり、しかも上記投与量100~125ng(0.100~0.125μg)/Kgは天然モチリンの有効投与量に関するものにすぎない。
<3> さらに、本願モチリンは、蛋白分解酵素であるプラスミンによる分解に対して安定性を有することや、実際に点滴用医薬品として使用する場合の重票なファクターであるプラスチック容器に対する付着性において極めて安定であるという特有の効果を奏する。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認め、同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。
2 反論
(1) 取消事由1について
<1> 引用例には、「14-グルタミン酸の側鎖のアミド基が生物の活性に影響しない」(甲第4号証4頁右上欄13行、14行)という表現で、13位がロイシンで14位がグルタミンであるモチリン誘導体について触れられているのであるから、本願モチリンの構成が実質的に示唆されており、本願第1発明の構成に困難性がないことは明らかである。
すなわち、引用例の発明の詳細な説明中の「モチリンの構造は最初はアミノ酸配列の位置が13-14-15の各位置において-Met-Glu-Gluであると考えられ、この構造は主特許の優先日まで正しいと思われていた。しばらくしてアミノ酸配列に対する修正が発表され、これによると14位置にはグルタミン酸の代わりにグルタミンが存在し、正しくは前記部分の配列が-Met-Gln-Glu-である」(甲第4号証4頁左上欄15行ないし右上欄2行)との記載は、天然モチリンのアミノ酸配列の14位のアミノ酸残基がグルタミン酸であると最初は誤って報告されていたが、その後の研究で該14位のアミノ酸残基は正しくはグルタミンであることが明らかになったことを示すものである。
また、同じく引用例の発明の詳細な説明中の「これ以上アミノ酸配列に関する修正が必要なければ位置14にグルタミン酸残基を有するモチリン誘導体に対してこれまで使用されてきたL-ノルロイシン-13-モチリンおよびL-ロイシン-13-モチリンという名前は14-グルタミン酸の側鎖のアミド基が生物の活性に影響しないという点では維持存続されるであろう」(同4頁右上欄8行ないし15行)との記載は、14位の側鎖のアミド基は生物活性には影響がなく、引用例モチリンと、本願モチリンとは同等の生物活性を有することを示すものである。
さらに、引用例の発明の詳細な説明中の「合成モチリン誘導体は自然に得られるモチリンとほぼ同じ生物学上の活性を有する・・・。今般、モチリンの13番目の位置にL-ノルロイシン基の代りに・・・L-ロイシン基を入れても同じ有益な結果が得られることが判明した。既知のノルロイシン-モチリンに対してロイシン-モチリンは有益な生物学的活性は同じではあるがL-ロイシンはL-ノルロイシンより安価であるから安い費用で調製でき、しかもL-ロイシンはたんぱく質の生成に有効に関与する天然に存在するアミノ酸であるから人間および動物の身体の中で容易には劣化しないという事実から有益である。」(同3頁左下欄下から2行ないし右下欄下から2行)との記載は、引用例モチリンが、13位がメチオニンで14位がグルタミンである周知の天然モチリンとほぼ同じ生物学上の活性を有することを示唆するものである。
したがって、引用例においては、引用例モチリンは周知の天然モチリンとほぼ同じモチリン活性を有するものであり、そして、この引用例モチリンは同じく引用例に記載の本願モチリンと同等の生物活性を有することが示唆されているから、引用例モチリンを、同じくモチリン活性を有することが示唆されている本願モチリンに変更することに格別の困難性は存在しないのである。
引用例が引用する甲第5号証(Can.aJ.Biochem.1974年版52巻7頁、8頁)には、「その14位は今までに報告されていたようなグルタミン酸ではなく、グルタミンであることが明らかにされた。これは、天然ブタモチリンのこれまでの調製において、グルタミンの脱アミノ化が生じた結果と思われる。」(原文7頁11行ないし13行-要旨部分)、及び「従来の研究(2)に用いられていたモチリンの単離においては、14位のグルタミンは脱アミノ化されていたということが予想される。」(原文8頁右欄3行ないし5行)と記載されているが、これらの記載は、13位がメチオニンである天然モチリンにおいて、14位のアミド基は生物活性に必須ではないことを示すものである。したがって、甲第5号証には、13位がノルロイシンであるモチリン誘導体において、14位のアミド基は生物活性に必須ではないことが記載されているだけでなく、13位がメチオニンである天然モチリンについても同様であることが記載されているといえる。そして、引用例に記載された発明において、発明者は引用例モチリンの生物活性を確認しているのであるから、引用例モチリンにおいては、14位のアミド基は生物活性に必須ではないことを導き出すことができ、13位がロイシンであるモチリン誘導体においても、14位のアミド基は生物活性に影響しないと認識できるのである。
<2> 仮に、<1>が認められないとしても、引用例には、「14-グルタミン酸の側鎖のアミド基が生物の活性に影響しない」(甲第4号証4頁右上欄13行、14行)という表現で、13位がロイシンで14位がグルタミンであるモチリン誘導体(本願モチリン)について触れており、該モチリン誘導体の効果についても言及しているのであるから、この誘導体が製造されていたことは明らかである。
してみると、引用例には、本願モチリンの発明が記載されているということができ、本願第1発明は、引用例に記載された発明と認められる。
引用例には、13位がロイシンで14位がグルタミンであるモチリン誘導体(本願モチリン)の製造方法については記載されていないが、上記製造方法について開示がなくても、本願の出願当時の技術水準に基づいて、当業者が22個のアミノ酸からなる上記モチリン誘導体を容易に合成することができたのであるから(乙第2、第3号証参照)、本願モチリンの発明は、引用例において完成しているとみるべきである。
(2) 取消事由2について
<1> 一般に生理活性が既に知られているペプチドについて、アミノ酸の置換、付加、欠失等によりその誘導体を製造して、その生理活性の強さ、作用の持続性、安定性を試験して医薬品としての可能性を研究することは、当業者が普通に行っていることである。このような研究においては、当業者はペプチド誘導体の構造(アミノ酸配列)と既に知られている生理活性との相関を検討するのが当然であり、ペプチド誘導体を製造すればその生理活性の強さを必ず試験により確認するのである(乙第4号証参照)。また、既に知られている生理活性作用については、当業者にとって簡単な試験で確認できるのである。そして、アミノ酸の置換等により製造した生理活性ペプチド誘導体が、程度の差はあれ同様の生理活性作用を保持することも広く知られていることであるので、当業者は一定の期待をもってペプチド誘導体の生理活性作用の程度の確認を行うのである。
前記(1)で述べたとおり、引用例に基づき本願第1発明のようなモチリン誘導体を製造することは当業者が容易になし得ることであるから、本願第1発明のモチリン誘導体について、当業者は必ず試験してその腸管運動亢進作用の強さを確認できるのである。そうすると、腸管運動亢進作用について、本願第1発明のモチリン誘導体が引用例に記載のモチリン誘導体に比較して量的な面で優れているとしても、その効果を発明の構成と切り離してそれ単独で判断することは適当でなく、生理活性ペプチドの技術分野における上記の事情を考慮して、顕著な作用効果を奏するものではないと判断するのが妥当なのである。
<2> 甲第6号証(意見書)の第18図に示された実験結果は、引用例モチリン(LEモチリン)を0.25μg/Kg投与した場合には、ほとんど腸管運動亢進作用を示さないので、それより投与量の少ない引用例に記載の0.1μg/Kgの投与量では全く又は極めてわずかの腸管運動亢進作用しか示さないと推測できるが、この結果は、引用例に記載された体重1Kg当たり約0.1μgの引用例モチリンを投与することが適当であること及びこの適用量が有効であることが動物実験で確認されているとの記載内容(甲第4号証5頁左下欄17行ないし右下欄8行)と明らかに矛盾するものである。
さらに、甲第6号証の実験結果が信用できるとしても、一般に、医薬品の動物実験においては、対象動物、薬剤の調製方法、投与量、投与方法、測定方法等の実験条件をどのように選択するかにより、実験結果が変動することがたびたび起こることを考えると、甲第6号証の実験条件の下に行った動物実験の結果のみを根拠にして、本願モチリンが顕著な腸管運動亢進作用を有すると判断することは妥当ではない。
<3> また、引用例には、従来技術としてNEモチリン及び天然モチリンが腸管運動亢進作用を有する物質として記載されている以上、それらとの比較も考慮されるべきである。本願明細書に「本発明の新規ペプチド・・・は、天然のモチリンと同等の活性を有するので医薬品としての用途が期待できる。」(甲第2号証4頁1行ないし3行)と記載されていることを考慮すると、本願モチリンが天然モチリンに比してより強い腸管運動亢進活性を有すると解することはできない。次に、甲第6号証の第18図の実験結果からみると、本願モチリンはNEモチリンに比して最大でも2倍程度の活性を示すだけである。
以上によれば、この程度の数的優位をもって本願第1発明が顕著な効果を奏するということはできない。
<4> 原告主張のプラスミンに対する安定性やプラスチック容器に対する付着性は、明細書に定性的にも開示されておらず、自明でもない作用効果であり、明細書の記載に基づく主張ではないから、失当である。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立は、いずれも当事者間に争いがない。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願第1発明の要旨)及び同3(審決の理由の記載)については、当事者間に争いがない。
そして、審決の理由2(引用例)、同3(対比)は、当事者間に争いがない。
2 原告主張の取消事由の当否について検討する。
(1) 本願発明について
甲第2号証(本願明細書)及び甲第3号証(平成5年8月3日付手続補正書)によれば、本願明細書には、本願第1発明を含む本願の発明の産業上の利用分野、従来技術等、問題点を解決するための手段、効果として、次のように記載されていることが認められる(一部は当事者間に争いがない。)。
<1> 産業上の利用分野
「本発明は、モチリンの13位メチオニン(Met)をロイシン(Leu)に置換した新規ペプチド・・・およびこれらの製造法に関する。」(甲第2号証3頁20行ないし23行)
<2> 従来技術等
「モチリン・・・は哺乳類の血中に存在する生理活性ペプチドで腸管蠕動を活発にする作用を持つことが知られている」(同4頁5行ないし7行)が、「モチリンの13位アミノ酸はMetであって、これは酸化されやすく、酸化されてスルホキシド体になるとモチリンの活性は低下する」(同5頁2行ないし4行)、「天然のモチリンは動物臓器から抽出する方法で得ることができるが、この方法では量的に不十分である。・・・従って、モチリンの活性を有する物質を安価に大量に供給することが望まれている。」(同4頁16行ないし24行)
<3> 問題点を解決するための手段
「本発明者は、・・・モチリンの13位MetをLeuに変換したペプチド(13Leu-モチリン)がモチリンと同等の活性を有し、酸化による活性の低下のないことを見出した。さらにこの13Leu-モチリンを安価に大量に供給する方法について研究した結果、遺伝子組換え技法で供給することができることを見出した。」(同5頁7行ないし14行)
<4> 効果
「13Leu-モチリンは天然型ウシモチリンと同等の腸管収縮活性を示すことがわかった。」(同49頁19行、20行、第17図)
(2) 本願第1発明は引用例記載の発明と同一であるとの被告の主張について
<1> 甲第4号証によれば、引用例には、次のとおり記載されていることが認められる(一部は当事者間に争いがない。)。
(a) 「本発明は・・・既知のL-ノルロイシン-13-モチリン化合物の改良および発展に関するものである。」(3頁左下欄1行ないし18行)
(b) 「今般、モチリンの13番目の位置にL-ノルロイシン基の代りに・・・L-ロイシン基を入れても同じ有益な結果が得られることが判明した。既知のノルロイシン-モチリンに対してロイシン-モチリンは有益な生物学的活性は同じであるがL-ロイシンはL-ノルロイシンより安価であるから安い費用で調製でき、しかもL-ロイシンはたんぱく質の生成に有効に関与する天然に存在するアミノ酸であるから人間および動物の身体の中で容易には劣化しないという事実から有益である。」(3頁右下欄4行ないし19行)
(c) 「モチリンの構造は最初はアミノ酸配列の位置が13-14-15の各位置において-Met-Glu-Gluであると考えられ、この構造は主特許の優先日まで正しいと思われていた。しばらくしてアミノ酸配列に対する修正が発表され、これによると14位置にはグルタミン酸の代りにグルタミンが存在し、正しくは前記部分の配列が-Met-Gln-Glu-である(“Can.J.Biochem.”1974年版第52巻7~8頁参照)。」(4頁左上欄15行ないし右上欄3行)
「これ以上アミノ酸配列に関する修正が必要なければ位置14にグルタミン酸残基を有するモチリン誘導体に対してこれまで使用されてきたL-ノルロイシン-13-モチリンおよびL-ロイシン-13-モチリンという名前は14-グルタミン酸の側鎖のアミド基が生物の活性に影響しないという点では維持存続されるであろう(“Can.J.Biochem.”1974年版第52巻8頁右欄参照)。」(4頁右上欄8行ないし16行)
(d) 「体重約80Kgの人間に静脈内適用する場合には全部で8γのモチリン誘導体を含む2mlの注射液を用いて体重1Kgにつき0.1γを与える。」(5頁左下欄17行ないし20行)
「動物実験では同等の適用量が有効であると確認され、犬に体重1Kgにつき0.005γの用量で天然に存在するモチリンを静脈内に注射したところ運動(「運道」は誤記と認める。)神経の活性が強力に増大した。(“Can.J.Biochem.”1973年版第51巻左欄参照)」(5頁右下欄4行ないし9行)
<2> 上記記載によれば、引用例には、引用例モチリンにおいて14位のグルタミン酸の側鎖のアミド基が生物活性には影響なく(甲第4号証4頁右上欄8行ないし16行)、したがって、アミノ酸配列が13-14-15の各位置においてロイシン-グルタミン酸-グルタミン酸であるモチリン誘導体(引用例モチリン)と、同じくロイシン-グルタミン-グルタミン酸であるモチリン誘導体(本願モチリン)とは同等の生物活性を有していることが示唆されていると認められる。
<3> しかしながら、一般的に化合物が引用例に記載されていると認められるには、その化合物が現実に提供されることが必要であり、単に化学構造式や製造法を示して理論上の製造可能性を明らかにしただけでは足りず、化合物が実際に確認できるものであることが必要であるところ、引用例には、上記アミノ酸配列が13-14-15の各位置においてロイシン-グルタミン-グルタミン酸であるモチリン誘導体(本願モチリン)の製造法についての開示がなされておらず、また、融点の表示その他これが現実に製造されたことを示す根拠も記載されていない。
被告は、本願の出願当時の技術水準に基づいて、当業者が22個のアミノ酸からなる上記モチリン誘導体を容易に合成することができたのであるから(乙第2、第3号証参照)、13位がロイシンで14位がグルタミンであるモチリン誘導体(本願モチリン)の発明は、引用例において現実に提供されたも同然である旨主張する。
しかしながら、乙第2号証によれば、同号証(「生理活性ペプチドの合成」化学と生物17巻6号(昭和54年)344頁以下)には、「アミノ酸数が、10~20程度のペプチドなら、現在ではどんな方法を使っても実験室的には目的物を得ることができよう」(346頁左欄22行ないし25行)、「合成ペプチドでは類縁化合物が不純物として含まれていうだけに、むしろ天然物より精製が困難な場合がありうる。」(350頁左欄4行ないし6行)、「HPLCの技術で一体どの程度の大きさのペプチドまでが有効に分析でき、精製可能であるかは、今後に残された検討課題であろう。」(350頁左欄12行ないし15行)、「現在では残基数が20程度までのペプチドなら余程特殊な構造でない限り、かなり大量に合成できるようになってきている」(350頁左欄18行ないし20行)と記載され、また乙第3号証によれば、同号証(蛋白質核酸酵素30巻12号(昭和60年))には、自動ペプチド合成装置が市販されていることが記載されていることが認められ、これらの記載によれば、引用例の出願当時、一般的にアミノ酸数が20程度までのペプチドであれば、かなり大量に合成できるようになってきていたが、合成ペプチドでは類縁化合物が不純物として含まれており天然物より精製が困難な場合があったことが認められる。
上記に認定の引用例出願当時の技術水準、特に、精製困難との問題が依然として存在したことによれば、前記<1>に説示の記載をもって、上記13位がロイシンで14位がグルタミンであるアミノ酸数が22のモチリン誘導体(本願モチリン)が、現実に提供されたも同然であると認めることはできない。そうすると、引用例中の引用例モチリンと本願モチリンとは同等の生物活性を有している旨の示唆は、天然モチリンの14位のアミノ酸についての知見に基づき、本願モチリンの生物活性について推測を述べたにすぎない可能性が残り、直ちに採用することができないといわなければならない。
<4> したがって、本願第1発明は引用例に記載された発明と同一であるとの被告の主張は理由がない。
(なお、原告は、引用例に本願第1発明と同一のものが記載されているとの被告の主張は本訴における審理判断の対象外のものである旨主張するが、被告の上記主張は、審決段階で進歩性なしとの判断に使用した公知文献に基づき同一であると主張するものであるから、これが許されないと解することはできない。)
(3) 取消事由1(相違点についての判断の誤り)について
以上のとおり、本願第1発明が引用例に記載された発明と同一であるとすることはできないが、審決は、引用例に記載されたモチリン誘導体において、アミノ酸配列14位のグルタミン酸(Glu)をグルタミン(Gln)に置換することに格別の困難性は存在しない旨判断しており、その判断は、引用例に、引用例モチリンと本願モチリンとが同等の生物活性を有しており、同効のものであることが示唆されていることを根拠にしており、前記(2)に認定した引用例の記載に照らすと、引用例に基づき本願第1発明のモチリン誘導体を製造することは当業者が容易になしうることであるとみることも可能である。
しかしながら、前記(2)において説示したとおり、引用例には、14位がグルタミンである本願第1発明のモチリン誘導体の製造方法や現実に製造した事実あるいはその生物活性に関する具体的な効果については開示されておらず、本願モチリンが引用例モチリンと同質の効果を有するものであったとしても、それが極めて優れた効果を有しており、当時の技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであれば、進歩性があるものとして特許を付与することができると解するのが相当であるから、次に、本願モチリンの効果について検討する。
(4) 取消事由2(効果についての判断の誤り)について
<1>(a) 甲第6号証(意見書)によれば、同号証添付の第18図には、本願モチリン、引用例モチリン及びNEモチリン(13位をノルロイシン、14位をグルタミン酸としたもの)を雄性ウサギに0.25、0.5、1.0、2.5、5.0μg投与した場合の腸管運動亢進作用を結腸の部位で測定した実験結果が示されているが、同図によると、本願モチリンは、0.25μg/Kgの投与で腸管運動亢進作用を示し、2.5μg/Kgの投与で最大活性値を示すのに対して、引用例モチリンは0.25μg/Kgまでほとんど腸管運動亢進作用を示さず、また、0.5μg/Kg及び1.0μg/Kgの投与量において、本願第1発明のロイシンモチリンは引用例モチリンに比して約6ないし9倍の活性を示すことが認められる。
(b) 被告は、同図に示された実験結果によれば、引用例モチリンを0.25μg/Kg投与した場合には、ほとんど腸管運動亢進作用を示さないとされているが、この結果は引用例に記載された体重1Kg当たり約0.1μgの引用例モチリンを投与することが適当であること及びこの適用量が有効であることが動物実験で確認されているとの記載内容(甲第4号証5頁左下欄17行ないし右下欄8行)と明らかに矛盾する旨主張する。
しかしながら、被告が甲第6号証に対する批判の根拠とする引用例中の投与量に関する記載(甲第4号証5頁左下欄10行ないし右下欄8行)は、それを裏付ける具体的な薬理実験結果や動物実験の結果が記載されていないし、甲第6号証の実験と同じ実験条件下で行われたものでもないから、引用例における引用例モチリンが約0.1γ/Kg(=0.1μg/Kg)で有効であるとの記載は、甲第6号証に示された実験結果と矛盾するものとは認められない。
さらに、被告は、甲第6号証の実験結果が信用できるとしても、一般に、医薬品の動物実験においては、対象動物、投与方法等の実験条件をどのように選択するかにより、実験結果が変動する可能性があることからすると、甲第6号証の実験条件の下に行った動物実験の結果のみを根拠にして、本願第1発明のロイシンモチリンが顕著な腸管運動亢進作用を有すると判断することは妥当ではない旨主張するが、被告の主張は変動の抽象的可能性を述べるにとどまるものであり、さらに、甲第12号証に記載された実験結果も、前記のとおり、同一の実験条件下で本願モチリンと引用例モチリンを比較したものではなく、実験条件が変わると結果が異なることを具体的に示すものではないから、甲第6号証の実験結果が特定の条件下でたまたま生じた結果であると認めることはできない。
(c) 上記に認定の事実によれば、本願モチリンは、引用例モチリンに比して量的に著しく顕著な腸管運動亢進作用を奏していると認められ、本願モチリンは、引用例に記載された発明及び天然モチリンの14位がグルタミンである等の周知事項から予測できない顕著な効果を奏しているものと認めることができる。
<2>(a) 被告は、引用例には、従来技術として天然モチリン及びNEモチリン記載されている以上、それらとの比較も考慮されるべきであると主張する。
しかしながら、本件においては、引用例に記載の14位のグルタミン酸をグルタミンに置換したものとして本願第1発明の構成の容易推考性を検討しているものであり(審決書8頁11行ないし14行)、本願第1発明の効果の顕著性の判断は、そのように構成した場合に予測される作用効果との比較においてされるべきであるから、これに反する被告の主張は、採用することができない。
(b) また、被告は、天然モチリンのアミノ酸配列の14位のアミノ酸残基が正しくはグルタミンであることが明らかになっていた等の事情によれば、引用例に基づき本願第1発明のようなモチリン誘導体を製造することが当業者が容易になし得ることであるから、その効果が量的な面で優れているとしても、その効果を発明の構成と切り離してそれ単独で判断することは適当でない旨主張する。しかしながら、ある発明に想到することが一見容易であるように見えても、その発明が当時の技術水準から予測される範囲を超えた顕著な作用効果をもたらすのであれば、これを特許するのが相当というべきであるから、この点の被告の主張も採用することができない。
<3> そうすると、本願第1発明は、公知技術から予測できない顕著な効果を奏するものであり、本願モチリンが引用例モチリンに比較して強い腸管運動亢進作用有するとの効果は、14位のグルタミン酸をグルタミンで置換した結果の確認にすぎず、該効果をもって、本願第1発明が顕著な作用効果を奏するものということはできない旨の審決の判断は誤りであり、この点の誤りが審決の結論に影響することは明らかである。
したがって、原告主張の取消事由2は、その余の点について判断するまでもなく、理由がある。
3 よって、原告の本訴請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する(平成10年7月9日口頭弁論終結)。
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)
平成5年審判第23648号
審決
東京都千代田区大手町1丁目6番1号
請求人 協和醗酵工業株式会社
昭和61年特許願第215088号「新規ペプチド」拒絶査定に対する審判事件(昭和63年3月31日出願公開、特開昭63-71195)について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
1.手続の経緯・本願発明の要旨
本願は、昭和61年9月12日の出願であって、その発明の要旨は、平成5年8月3日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項~第4項に記載されたとおりのものと認められるところ、その第1項に記載された発明(以下、本願第1発明という。)は次のとおりである。
「下記式1のアミノ酸配列を有する新規ペプチド。
<省略>
(式1)
(式中、記号は下記アミノ酸残基を示す。)
Phe:フェニルアラニン、Val:バリン、
Pro:プロリン、Ile:イソロイシン、
Thr:スレオニン、 Tyr:チロシン、
Gly:グリシン、Glu:グルタミン酸、
Leu:ロイシン、Gln:グルタミン
Arg:アルギニン、Lys:リジン
Asn:アスパラギン 以下同じ)」
2.引用例
原査定の拒絶理由に引用された特開昭52-46068号公報(以下、引用例という。)には、
<省略>なる化学式を有するL-ロイシン-13-モチリン」(特許請求の範囲)が記載されており、そこにはさらに「本発明は全部で22個のアミノ酸で構成されるポリペプチドチエーンにおいて13番目のアミノ酸、すなわち、
<省略>
なる式を有するL-メチオニン基を
<省略>
なる式を有するL-ノルロイシル基で置換したことで自然に存在するモチリンとは異り、主特許から既知のL-ノルロイシン-13-モチリン化合物の改良および発展に関するものである。
合成モチリン誘導体は自然に得られるモチリンとほぼ同じ生物学上の活性を有する………………………〔中略〕………………………………………今般、モチリンの13番目の位置にL-ノルロイシン基の代わりに
<省略>
なる式のL-ロイシン基を入れても同じ有益な結果が得られることが判明した。既知のノルロイシン-モチリンに対してロイシン-モチリンは有益な生物学的活性は同じではあるがL-ロイシンはL-ノルロイシンより安価であるから安い費用で調製でき、しかもL-ロイシンはたんぱく質の生成に有効に関与する天然に存在するアミノ酸であるから人間および動物の身体の中で容易には劣化しないという事実から有益である。」(3頁左下欄1行~右下欄下から2行)、及び「モチリンの構造は最初はアミノ酸配列の位置が13-14-15の各位置において-Met-Glu-Gluであると考えられ、この構造は主特許の優先日まで正しいと思われていた。しばらくしてアミノ酸配列に対する修正が発表され、これによると14位置にはグルタミン酸の代わりにグルタミンが存在し、正しくは前記部分の配列が-Met-Gln-Glu-である………〔中略〕………これ以上アミノ酸配列に関する修正が必要なければ位置14にグルタミン酸残基を有するモチリン誘導体に対してこれまで使用されてきたL-ノルロイシン-13-モチリンおよびL-ロイシン-13-モチリンという名前は14-グルタミン酸の側鎖のアミド基が生物の活性に影響しないという点では維持存続されるであろう。」(4頁左上欄15行~右上欄15行)と記載されている。
3.対比
そこで、本願第1発明と引用例に記載された発明を対比すると、両者は、本願第1発明がアミノ酸配列の14位がグルタミン(Gln)であるのに対し、引用例に記載された発明では該14位がグルタミン酸(Glu)である点で相違し、その余の点で一致している。
4.当審の判断
上記相違点について検討するに、引用例にも記載されているが、天然モチリンがPhe-Val-Pro-Ile-Phe-Thr-Tyr-Gly-Glu-Leu-Gln-Arg-Met-Gln-Glu-Lys-Glu-Arg-Asn-Lys-Gly-Glnで表されるアミノ酸配列を有するペプチドであって、その14位がグルタミン(Gln)からなることは、本願の出願前周知であり(更に必要なら、特開昭52-39670号、特開昭52-73863号、及びChem.Pharm.Bull.、Vol.26、No.1、101-107(1978)を参照されたい。)、また従来よりモチリンの14位のグルタミン(Gln)がグルタミン酸(Glu)に置換されているものを天然モチリンと同じものと認識していたことく引用例4頁左上欄15行~右上欄3行)、及び13位のメチオニン(Met)がロイシン(Leu)で置換されたモチリン誘導体においても、14位のアミノ酸がグルタミン酸(Glu)とグルタミン(Gln)であるモチリンを同効のものと考えていたこと(引用例4頁右上欄13行~15行参照)からみて、引用例に記載の14位のグルタミン酸(Glu)をグルタミン(Gln)に置換することに格別の困難性は存在しない。
(一方、本願第1発明の効果についてみると、請求人は14位のアミノ酸をグルタミン(Gln)とした本願発明のペプチドは、引用例に記載のペプチドに比較して強い腸管運動亢進作用を有する旨主張しているが、この効果は14位のグルタミン酸(Glu)をグルタミン(Gln)で置換した結果の確認にすぎず、該効果をもって、本願第1発明が顕著な作用効果を奏するものということはできない。
5.結び
したがって、本願第1発明は、引用例に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
してみれば、本願は、特許請求の範囲第2~4項に記載された発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
平成8年3月25日
審判長 特許庁審判官
特許庁審判官
特許庁審判官