東京高等裁判所 平成8年(行ケ)190号 判決 1997年4月24日
大分市大字皆春1500番地
原告
ツルサキヒューム株式会社
同代表者代表取締役
山村忠
同訴訟代理人弁護士
増井和夫
大分市大字中戸次4763番地
被告
株式会社池永セメント工業所
同代表者代表取締役
池永亀一郎
同訴訟代理人弁護士
赤尾直人
同
相澤光江
同訴訟復代理人弁護士
山宮慎一郎
主文
特許庁が平成3年審判第22637号事件について平成8年7月23日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
主文同旨
2 被告
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
被告は、意匠に係る物品を「側溝用ブロック」とし、別紙第一に記載された態様によって構成される、登録第696719号意匠(昭和58年11月2日意匠登録出願、昭和61年9月29日意匠権設定登録、以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。
原告は、平成3年11月20日、本件意匠登録を無効とすることについて審判を請求し、平成3年審判第22637号事件として審理された結果、平成8年7月23日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は、同年8月7日、原告に対し送達された。
2 審決の理由の要点
(1)ア 本件意匠は、意匠登録原簿、願書及び願書に添付された図面の各記載によれば、意匠に係る物品を「側溝用ブロック」とし、その形態を別紙第一のとおりとするものである。
イ 他方、審判手続における甲第2号証(本訴における甲第3号証)に係る意匠(以下「引用意匠」という。)は、昭和49年6月26日に意匠登録出願がなされ、昭和50年10月8日に意匠権設定登録(意匠登録第417401号)がなされたものであって、意匠登録原簿、願書及び願書に添付された図面の各記載によれば、意匠に係る物品を「側溝用ブロック」とし、その形態を別紙第二のとおりとするものである。
(2) 本件意匠と引用意匠との類否(原告主張の無効理由1)
ア 本件意匠と引用意匠とを比較すると、両意匠は、意匠に係る物品を、ともに「側溝用ブロック」とすることにおいて一致し、その形態については、以下のとおりの共通点と差異点がある。
(ア) 両意匠の共通点
一定の長さを有するU字状溝体を基本とし、そのU字状溝体の長さ方向における両端部上面に、左右の両側壁の頂部に差し渡し、連結するように形成した幅広の枠体部を一体的に設けた点
上面には、蓋体用の縦長四角形状の透孔を形成した点
左右側壁の下方両端部は、隅角(稜)を、斜めに切除した傾斜状とし、側壁上辺部には、外側に垂直状に張り出した、分厚い膨出部を形成し、その内側に、蓋体を落し込むための段部を設けた点
両端部(正背面)には、当該端面の内側壁に沿って僅かに突出又は切欠させた、略U字状を呈する嵌合部を設けた点
前記上面の縦長四角形状の透孔の各短辺中央部には、低い台形状の切欠部を一対設けた点
(イ) 両意匠の差異点
本件意匠のみが、両側壁の外面上辺部に、垂直状に張り出した分厚い膨出部の下方に位置する側壁部分において、その左右端部及び中央部に、同幅の縦突条を3本設け、これらの下端に、当該縦突条よりやや細幅で、桟状に繋いだ横突条を一体的に設けることにより、全体として、横倒ヨ字状の突条を両側壁に形成した点
イ そこで、これらの共通点及び差異点を総合し、両意匠を全体として考察すると、
(ア) 共通点に係る態様は、両意匠の本体における基本的なところを構成しているものではあるが、そのうちの引用意匠については、昭和50年10月8日に設定の登録がなされ、昭和51年2月26日付けで意匠公報が発行され、以来公知となって、本件意匠の出願時までに、既に8年近くを経過したものとなっていたこと、その他、公開実用新案公報(昭和51年実用新案出願公開第8632号公報、同第133111号公報)においても、同様に公開されて久しいものとなっていたことを勘案すると、この共通するとした態様は、本件意匠の出願時には既に新規性がなく、かつ、然程に特徴のない態様となっていたものであって、この態様を、意匠上格別の創作があったものと評価できるものではないから、両意匠の類否を決定的に左右する要素とすることはできない。
(イ) これに反し、本件意匠における両側壁外面の差異点は、側溝用ブロックの両側壁外面という、看者の注意を強く惹く部位の広い部分に及んでいるものであり、上辺部に沿った幅広の部厚い膨出部に付随して、その下方に、細幅の突条を枠状に設けているものである。そして、これを側面全体としてみた場合にも、本件意匠においては、前記幅広で部厚い膨出部と、これに付随する下方細幅突条により、変化のある枠組みが構成され、これにより、二つの凹部が、分割区画されて表された態様となり、これらが相俟って、視覚的に極めて顕著な変更に係るものとなっており、かっ、新たな印象を形成するものとなっている。
(ウ) そして、前記共通点及び差異点に係る評価を総合的に考察した場合には、両意匠は、ともに、前記共通点を有するものであっても、この種の、機能的又は必然的形態に制約される意匠においては、その両側壁における差異点の効果は、前記したような変更に伴って、新たな印象を形成するに至るものであるから、意匠全体としても微弱なものとはいえず、もはや、両意匠は別異のものに至ると判断される。
以上のとおりであるから、本件意匠は、引用意匠と類似するものということはできない。
(3) 本件意匠が意匠法3条2項に該当するか否かについて(原告主張の無効理由2)
請求人(原告)は、側溝用ブロックにおいて、輸送に際し、その減量化を図り、強度を弱めることなく保持する方法として、本件意匠のように、側面壁を「コ」字形や「ヨ」字形に形成することは、常套手段にすぎないものであるから、本件意匠は、その出願前、国内において広く知られた引用意匠に基づいて、容易に創作することができたものであると主張する。
そこで検討するに、この種の、機能的又は必然的形態に制約されることの多い意匠の創作には、従来の意匠をより発展改良するものも含まれることは、過去の周辺意匠の登録意匠が示す事例に明らかであり、その両側壁の態様についても、従来より、種々の変化のあるものが創作されてきているところである。そして、本件意匠の両側壁外面の態様も、前記認定のとおり、上辺部の幅広で肉厚の膨出部と付随連携し、これと相俟つて、両側面に変化のある新たな印象を形成するものであるから、本件意匠に係る両側壁外面の全体の態様は、請求人(原告)主張のように、常套的手段に過ぎず、創作性に欠けるものということはできない。
(4) 本件意匠の類似意匠が、本件意匠の出願前に公知となっていたか否かについて(原告主張の無効理由3)
ア 請求人(原告)は、本件意匠の出願前に公知であった意匠(本件意匠の類似第2号意匠と酷似する。)の存在により、本件意匠が無効であると主張する。
イ しかしながら、原告の提出に係る、審判手続における検甲第5号証(本訴における甲第23号証)は、側溝用ブロックが、単に、請求人(原告)のいうところの大分県による強度試験を受けているスナップ写真に過ぎず、審判手続における甲第5号証の1についても、方眼紙に、前記写真に写された意匠と同一と思われる意匠が記載されているのみであり、いずれもその公知日が不明である。請求人(原告)は、特に、審判手続における検甲第5号証(本訴における甲第23号証)について、それが、昭和58年6月14日に行われた強度試験の現場を示す証拠写真であって、審判手続における甲第6号証(本訴における甲第32号証)の「坂ノ市土地区画整理事業の工事施工に伴う特記並びに指示事項」による試験が行われたことを示すものであるとするが、当該試験日、試験機関、公表された試験結果報告書等についての証拠資料の提出はなく、この検甲第5号証(本訴における甲第23号証)の提出のみをもってしては、当該試験が実際に行われたことの事実を証するに足りるものとは認められない。
また、審判手続における甲第7号証(本訴における甲第24号証)及び第8号証(本訴における甲第25号証の1)は、引用意匠に係る側溝用ブロックの製造販売提携書及びその提携料の支払票であるが、本件意匠とは直接関係がないものである。
更に、審判手続における甲第9号証(本訴における甲第25号証の2)、同号証の1ないし4についても、請求人(原告)は、審判手続における検甲第5号証(本訴における甲第23号証)に示す意匠を引用意匠の類似意匠に該当するものとして、これに対し実施料を支払ったことを示すものであるとし、これにより、審判手続における検甲第5号証(本訴における甲第23号証)の意匠は、本件意匠出願前、公然実施されたものに該当すると主張するが、当該類否判断は、請求人(原告)による錯誤又は単なる思い込みであり、かつ、当該各書証からは、その支払金が、審判手続における検甲第5号証(本訴における甲第23号証)の意匠の実施に対する対価として支払われたことを特定することができず、その主張事実を立証するものではない。
ウ よって、請求人(原告)の提出に係る、審判手続における検甲第5号証(本訴における甲第23号証)に現された意匠が、本件意匠出願前、既に公知であったとの事実は、請求人(原告)提出の証拠によっては未だ立証されておらず、その主張は採用できない。
(5) 以上のとおりであって、本件意匠については、請求人(原告)の提出したいずれの主張及び証拠によっても、その登録を無効とすることはできない。
3 審決を取り消すべき事由
「審決の理由の要点」のうち、(1)は争わない。
同(2)アは争わない。なお、本件意匠における側壁の横倒しヨ字状の形状は、積極的に設けられたものではなく、あくまでも、側壁の2か所を四角形状の凹部とした結果、突条部分が残ったということによるものである。
同(2)イ、(3)ないし(5)は争う。
審決は、本件意匠と引用意匠との類否についての判断、本件意匠における引用意匠からの創作容易性についての判断、本件意匠の類似意匠が本件意匠の出願前に公然知られていたことについての認定判断をいずれも誤ったものであるから、違法であり、取り消されるべきである。
(1) 本件意匠と引用意匠とが類似することについて(取消事由1)
ア 審決は、本件意匠と引用意匠が、その基本形状及び全体形状において、側壁のヨの字状の突条の点を除き、まったく一致していることを認めつつも、このことを無視し、単に、上記のヨの字状の突条の有無のみをもって、両意匠の類似性を否定した。
イ しかしながら、意匠とは、物品と不可分の関係にある形状、模様、色彩の組合わせであり、また、本件意匠と引用意匠は、ともに側溝用ブロックについての意匠であるから、両意匠を側溝用ブロックの意匠たらしめている、それぞれの統一性ある全体的な形状を無視して、その間の意匠の類否を判断してよいはずがない。
物品における意匠の基本形態ないし全体的形状は、それ自体が新規ではないとしても、意匠の要部をなすものであるから、意匠登録にあたって、意匠を公知意匠と比較するに際し、基本形態の点を排除することは誤りである。
審決は、引用意匠が、かなり古い出願であるから、その全体的形状にはもはや識別力がないとするが、引用意匠の公知になった時期の如何により、その全体的形状の識別力に差異が生じるものとすることはできず、むしろ、公知意匠がより広く知られているほど、本件意匠の登録を拒絶すべき理由は増大こそすれ、減少する理由は全くない。
そして、両意匠が全体的形状において一致し、部分的に認められる相違点が、常套手段によるものであるにすぎない場合、あるいはありふれた形状にすぎない場合には、全体的印象に基づいて両意匠を類似するものと認定すべきことも当然の事理である。
ウ これを、本件意匠についてみるならば、本件意匠は側溝用ブロックをその物品とはするものであるが、側溝用ブロックの全体的形状が最も人の目にふれるのは、土木工事関係者との取引及び同人による工事施工時であるから、土木工事関係者を看者として、本件意匠がどのように観察されるかを重要な要素として考える必要がある。
そして、土木工事関係者にとって第一に重要なことは、土木工事との関係における、側溝用ブロックの全体的な形態である。側溝用ブロックのように、実用的機能が特に重視される物品については、関係取引者において実用的観点から注目する形態部分が、意匠の要部として考慮されなければならないのである。
エ この観点からみるならば、特に、本件意匠公報の正面図及び背面図(工事における側溝の設計の基本をなすもの)並びに参考斜視図(別紙第一参照)に表された形態は、看者の最も注目する形態であるとともに、全体的に、当該意匠を他の側溝用ブロックと識別し得る点において、意匠上重要な形態というべきである。
本件意匠における、ヨの字状を有する側面も、その要部の一つを構成するものであることは争わないが、それは、あくまで、本件意匠の全体的形状が引用意匠のそれと一致する中での、ごく部分的な形状であるにすぎない。
そして、側溝用ブロックの側面において、ヨの字状もしくはロの字状の形状を設けることは、ブロックの重量軽減のために施される常套手段であり、極めてありふれたことである。そのため、側溝用ブロックにおいて、側面に凹部を有しない意匠と、凹部を設けた意匠とは、特許庁において、一般に、類似意匠として取り扱われている。
その中でも、特に、別紙第三に記載された意匠(甲第22号証、以下「別紙第三の意匠」という。)は、本件意匠の類似意匠として登録されたものである。同意匠の側面凹部は、下側が深く窪み、上側の窪みが薄いものであるが、これと、本件意匠における均一な深さの側面凹部の形状とは、出願人(被告)自は身が類似であるとし、特許庁もこれを認めている。この場合に比べて、本件意匠と引用意匠の凹部の形態に、実質的な相違があるとする理由はない。
オ 以上のとおり、本件意匠は、引用意匠と、その基本的形態ないし全体的形態をまったく同じくし、相違部分と認められる側面のヨの字状も、側溝用ブロックという物品においてはありふれた形状にすぎないものであるから、本件意匠は、引用意匠に類似するものといわなければならない。
カ したがって、審決は、本件意匠の側面のヨの字状にのみ注目した点及びヨの字状がありふれたものであり、識別力を有しないことを看過した点において、その判断を誤ったものである。
(2) 本件意匠の創作容易性について(取消事由2)
審決は、側溝用ブロックにヨの字状を形成することが常套手段とは認められないとしたが、側溝用ブロックの分野において、側面のヨの字状がありふれた形状であることは、前記(1)のとおりである。
そして、側溝用ブロックの分野において、側面にヨの字状を設けることが常套手段であるならば、これを引用意匠の側溝用ブロックに適用して、本件意匠を創作することは、何らの困難も伴わないものというべきであるから、本件意匠に対しては、意匠法3条2項も適用されるべきである。
(3) 本件意匠に類似する意匠が、本件意匠の出願前に公知であったことについて(取消事由3)
ア 原告は、セメントを使用した製品の製造、販売を業とする会社であり、創業以来、小型U字溝ブロック等を製造、販売してきた。
イ 原告は、昭和58年以前において、被告から、大型で溝の深いU字形側溝用ブロックの共同開発を持ち掛けられたため、それに応じることになり、研究を続けた結果、最終的に、昭和58年6月ころ、上記製品を完成させた。
ところで、その形状は、別紙第三の意匠と実質的に同一であり、「パワー側溝」と命名された(以下、同側溝用ブロックを「パワー側溝」という。)。
ウ 原告は、パワー側溝について、大分県に対し、その採用を申請をしたところ、同年6月14日、大分県の係官が、原告の工場において、パワー側溝の強度試験を行った。
エ 一方、被告は、パワー側溝を商品化するにあたり、原告に対し、被告が引用意匠についての意匠権を有している旨を主張した(なお、実際には、被告は、当時、引用意匠の実施権を有していたのみであった。)ため、原告は、被告との間において、同年8月12日付け契約をもって、パワー側溝の販売にあたり、被告に対し引用意匠に係る意匠権の実施料を支払うことに合意し、以後、その支払を行った。
オ また、原告は、同年8月ころ、パワー側溝のカタログを作成して頒布し、更に、パワー側溝は、同月に行われた大分県の公共工事の入札において、同県からその使用を義務付けられたため、入札者にはその形状が知られるに至った。
カ 原告は、同年9月ころから、大分県大在土地区画整理事業に向け、パワー側溝の販売を開始した。すなわち、パワー側溝は、同年9月から10月にかけて、上記整理事業に基づく「昭和58年度区単第5号街路築造工事」(以下「本件工事」という。)の請負人である有限会社九興建設鋼業(以下「九興建設」という。)に対し販売され、現場において使用された。
キ パワー側溝が使用された場所は、両側に住宅及びアパートが存在していた道路であり、その周辺にも多数の住宅が存在していた。また、製品の高さは90センチメートル程度であって、これが、道路の片側に掘られた幅の広い溝に置かれて工事がなされたものであり、工事に際し公衆の目から工事を遮蔽するような措置は取られていなかった。
ク ところで、意匠法3条1項1号における「公然知られた」とは、登録出願前の意匠が、秘密保持義務を負わない不特定又は多数の者に知られることである。
そして、前記アないしキの各事実からみるならば、少なくともパワー側溝は、同年6月14日に大分県の職員に示されて以降、多数の工事関係者や公衆に対し示され、公然と現実に知られるに至ったことが明らかであり、また、本件意匠がパワー側溝の意匠に類似するものであることは議論の余地がない。
ケ 以上のとおり、本件意匠の類似意匠が、登録出願前に「公然知られ」るに至ったものであるから、本件意匠登録は、その点においても無効というべきである。
なお、本件意匠は、パワー側溝が商品化された後の昭和58年11月、訴外株式会社三栄本社により出願されたが、昭和62年10月1日付け譲渡を原因として、昭和63年3月28日、被告に対し本件意匠権の移転登録がなされており、更に、昭和62年10月30日、被告から別紙第三の意匠が出願されたものである。
第3 請求の原因に対する認否及び被告の主張
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)及び同2(審決の理由の要点)の各事実は認める。
2 同3(審決を取り消すべき事由)は争う。
審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。
(1) 取消事由1について
ア 引用意匠は、側溝用ブロックの全体形状に係る意匠であるのに対し、本件意匠は、引用意匠による全体形状に立脚しつつ、左右側面において、ヨの字状の枠による凸面を設けたこと(正確には、ヨの字状以外の部位に平面状態の凹部を設けたこと)を基本的構成とし、この点を要部としているものである。
すなわち、意匠の構成において、周知の構成部分が要部たり得ないことは、幾多の判例の言及するところである。本件意匠の全体形状と同一の引用意匠の全体形状が、本件意匠の出願当時において既に周知であるならば、本件意匠における全体形状は要部たり得ず、左右側面におけるヨの字状こそが本件意匠の唯一の要部に該当する。
イ 形状についての意匠Aに対し、その形状と同一形状又は類似形状をそっくり利用した上で模様を付した意匠Bについては、意匠Aに対する利用意匠に該当するが、意匠Bが、当該模様の存在によって、意匠Aと異なる美感を発生させ、かつ、双方の意匠の間において識別が可能である場合には、意匠Bは、意匠Aとの関係において非類似であり、必然的に登録要件を満たしているものである(そのため、意匠法26条の規定が設けられている。)。
ウ 本件意匠は、引用意匠に対し、左右側面にヨの字状の立体模様を付したことによって、引用意匠を利用した関係にある。
本件意匠は、ヨの字状の存在によって、その左右側面に、引用意匠と次元を異にする新たな美感を発生させ、かつ、これにより、双方の意匠の識別は十分可能である点において、前記イにおける意匠A、意匠Bの場合と何ら変わりはない。
すなわち、本件意匠と引用意匠とを対比した場合、引用意匠では、略矩形をなす左右側面において、底部の両端部を斜めに切除した隅角部による稜線、上部の斜め外側方向に向かう2か所の折れ曲りによる稜線、一方の側端部に極めて狭い突出部の線が認められるのみであって、意匠としては、いわば、極めて味気ない印象しか与えないのに対し、本件意匠では、左右側面において、ヨの字状の凹凸模様によって、起伏に富んだ立体感を与えるとともに、ヨの字状の凸部が、左右側面の上方における外側への突出部を下方から支えるがごときダイナミックな印象を与えており、このような印象は、引用意匠では皆無である。
エ したがって、本件意匠は、引用意匠と次元を異にする新たな美感を発生させ、引用意匠とは十分に識別可能なものであるから、引用意匠と類似の関係にあるものとすることはできない。
オ なお、原告は、引用意匠の公知になった時期の如何により、その全体形状の識別力に差異が生じるものとすることはできず、むしろ、公知意匠がより広く知られているほど、本件意匠の登録を拒絶すべき理由が増大こそすれ、減少する理由は全くないと主張する。
しかしながら、対比されるべき意匠が、「斬新なもの程、混同の範囲すなわち類似の幅が広い」ことは、意匠の類否判断の基本原則であり、反面、同一品種の商品又は同一構想の商品、及びこれに基づく意匠が数多く公知となっていく場合には、従来斬新とされていた意匠の類似範囲は狭くならざるを得ないものである。したがって、本件意匠の出願当時、引用意匠が公知になってから既に8年を経過していることは、引用意匠が斬新なものではないことを示す重要な要因である。他方、側溝用ブロックの分野においては、引用意匠が公開された後、本件意匠が出願されるまでの間に、多くの意匠が出現しており、これにより、引用意匠の全体形状が与える美感が稀薄化していたことは、否定し難いところである。
カ 本件意匠と別紙第三の意匠については、左右側面において、上側突出部を下方から支えるが如きダイナミックな印象を与えるヨの字状が、共通して存在するものであるが故に、両者は類似関係にあり、他方、引用意匠においては、上記のヨの字状が存在しないため、同意匠は、本件意匠とは非類似の関係にあるものというべきである。
キ 以上のとおりであるから、本件意匠と引用意匠とが類似関係にあるとする原告の主張は理由がない。
(2) 取消事由2について
ア 原告の、本件意匠の創作が容易であったとする主張は、引用意匠が周知であったことをその前提とするものであるが、原告からは上記周知性を裏付ける立証がなされていない。
また、本件意匠におけるヨの字状の創作が容易であるとする原告の立証も不十分である。
なお、仮に、引用意匠の周知性が是認されるのであるならば、引用意匠の全体形状は、既にそのいずれにも要部が存在しないありふれた意匠に過ぎないことに帰し、本件意匠の全体形状に新規性が存在しないとした、前記(1)についての審決の判断を甘受しなければならない。
イ したがって、本件意匠は、引用意匠から容易に創作できたものではなぐ、この点についての原告の主張も採用の余地はない。
(3) 取消事由3について
ア 意匠法3条1項1号における「公然知られた意匠」とは、当該意匠と特殊な関係にある者や、偶然の事情を利用した者だけが知っているのではなく、一般第三者である不特定又は多数の者によって「現実に知られた状態」にある意匠を指すものと解すべきであり、単に、不特定又は多数の者にとって、「公然知られ得る状態にあった意匠」を指すものではない。
イ ところで、本件においては、本件工事に先立って、大分県により、本件類似意匠に基づくパワー側溝の試験が行われたこと(ただし、その時期については不明)、これに基づいて、パワー側溝が本件工事に使用されたことは認める。
ウ しかしながら、大分県によるパワー側溝の試験は、非公開のものであり、不特定多数の者が参加することは不可能であるから、これにより、パワー側溝の意匠が公知性を有するに至ったものとすることはできない。
エ また、本件工事の入札前に、大分県により、本件工事においてパワー側溝の使用が義務付けられたとしても、そのことから、直ちに、入札に関係した土木建築業者において、パワー側溝の形状を知悉するに至ったものと認めることはできない。
すなわち、入札の過程においては、使用される側溝用ブロックの写真又は図面によって、その全態様が開示される訳ではなく、せいぜい側溝用ブロックの断面図が入札関係者に示される程度であり、本件工事もその例外ではない。本来、入札に関与する建築業者は、側溝用ブロックの値段、重量等には関心を有するものの、ブロックの意匠等には関心を有しておらず、意匠が事前に開示されることは通常あり得ないものである。
オ 側溝用ブロックは、用水路付設工事に使用され、同工事は必然的に県又は市等の地方公共団体による公共工事であるため、同ブロックは、当該公共工事を請け負う特定の建築土木業者に販売されるものであるが、それにより、本件意匠の出願前に、パワー側溝の意匠が本件工事を請け負った九興建設の関係者に知られたとしても、同人らは、本件意匠と特殊な関係にある者に属しており、「一般第三者である不特定人又は多数の者」に該当しない。
カ 一般に、本件のような請負工事現場においては、工事関係者以外の第三者に対して、立入禁止の措置が講じられており、そのため、不特定多数の者が当該側溝用ブロックの意匠を観察し、これを知ることができない状態にある。しかも、立入禁止が解除される工事完成の段階では、当該側溝用ブロックは地中に埋められているため、結局、公共事業において使用された側溝用ブロックの意匠が不特定多数の者に知られるということはあり得ない。
本件工事の場合においても、工事中における道路片側部分(約3メートル幅と解される。)は、通行が不可能な状態とされていた。そのため、一般の通行人が溝中の側溝用ブロックの側面を目視するためには、2メートルの眼の高さを有する者でさえ、ヒューム管の端部から約0.65メートルの位置にまで近付くことが必要であったが、当該位置は、明らかに立入禁止の領域に含まれる場所であった。したがって、一般の通行人において、本件工事に使用されたパワー側溝の意匠を目視することは不可能であった。
また、本件工事現場の周囲の民家から、敷設中のパワー側溝を目視することができたとすることは極めて疑問であり、まして、一般民家の居住者や訪問者は、本件工事に使用された側溝用ブロックの意匠に関心を有している訳ではない以上、あえて、二階の窓等からパワー側溝を目視し、子細に観察する等ということはありえないことである。
なお、側溝用ブロックは、クレーンによってトラックから道路上に降ろされるが、このように降ろされた状態におけるパワー側溝の意匠を認識することは困難である。
上記のとおり、本件工事現場付近の通行者、民家の居住者又はその訪問者により、パワー側溝の意匠が目視、観察され、そのことにより、本件意匠の類似意匠が「公然知られた」とするためには、パワー側溝の意匠が、現実に目視、観察されるような状態にあったことを証明することが不可欠であるが、このような状態は極めて例外的な事態である以上、原告は、上記のとおり目視、観察が行われたことを厳格に立証しなければならないところ、原告提出の訴訟資料によっては、この点について何らの立証もなされていない。
キ 以上によれば、本件意匠の出願前に、パワー側溝の意匠が「公然知られた」状態にあったものとすることはできず、この点についての原告の主張も採用の余地はない。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の証拠目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)及び同2(審決の理由の要点)の事実については当事者間に争いがない。
また、本件意匠及び引用意匠が、意匠に係る物品及びその形状をそれぞれ審決記載のとおりとすること、両意匠に係る物品が同一のものであること、引用意匠について、登録出願及び設定登録のなされた時期が審決記載のとおりであること、両意匠の形態について、審決記載のとおりの共通点と差異点が存在することについても、当事者間に争いがない。
第2 そこで、まず、原告主張の審決取消事由のうち、3(パワー側溝の意匠が本件意匠に類似するか否か及びパワー側溝の意匠が本件意匠の出願前に公然知られた意匠であったか否か)について判断する。
1 まず、証人土谷喜太郎の証言及び同証人の証言により成立が認められる甲第21号証の本文の記載によると、原告は、各種コンクリート製品の製造、販売等を目的とする会社であるが、昭和58年前に、被告からの申し出により、被告と共同して、従来のものより大型の、道路側溝用のU字溝ブロックの開発に着手したこと、そして、原告らは、昭和58年にこれを完成させた上、「パワー側溝」と命名したことが認められる。
2 次に、上記のパワー側溝の意匠と本件意匠との類否について検討するに、
(1) まず、上記認定の事実及び前記第1の事実からみるならば、パワー側溝の意匠と本件意匠とは、ともに意匠に係る物品を「側溝用ブロック」とする点において一致するものであることが明らかである。
(2) また、前記甲第21号証の本文の記載により、本件工事の際、本件工事現場におけるパワー側溝の敷設状況を撮影したものであることが認められる同号証添付の写真(2枚)、成立に争いのない甲第22号証、証人土谷喜太郎の証言により原告会社職員がパワー側溝の試験状況を撮影した写真であることが認められる甲第23号証及び同証人の証言により本件工事現場におけるパワー側溝の敷設状況を撮影した写真であることが認められる甲第28号証の7の2、「日本工業規格表示許可書」と題する書面部分については原本の存在とその成立に争いがなく、その余の部分については、同証人の証言により原本の存在とその成立が認められる甲第28号証の8によると、パワー側溝は、別紙第三の意匠とほぼ同一の形態を有するものであり、なお、別紙第三の意匠は、本件意匠の類似意匠として、被告により、昭和62年10月30日に出願され、昭和63年12月23日に登録(意匠登録第696719号の類似第2号)されたものであることが認められる。
(3) そして、上記事実及び前記第1の事実からみるならば、本件意匠とパワー側溝に係る意匠とは、
ア 左右側壁における、ヨの字状を形成する3本の縦の突条についての、側壁面からの高さの点(本件意匠においては、突条を同一の高さとしているのに対し、パワー側溝においては、突条が下方から上辺部の膨出部に向かうにつれてその高さを減じ、上辺膨出部の下辺において、ヨの字状に囲まれた凹部の高さと同一となっている。)、
イ 左右側壁における下部の形状の点(本件意匠は、隅角(稜)を、斜めに切除した傾斜状としているのに対し、パワー側溝は、隅角を切除せず、そのまま残している。)、
ウ 両端部(本件意匠の「正、背面図」の部分、別紙第三の意匠の「側面図」の部分)における形状の点(本件意匠は、当該端面に沿い、僅かに突出又は切欠させた略U字状を呈する嵌合部を設けているが、パワー側溝は、それらを設けていない。)、
エ ヨの字状の横突条の幅の点(本件意匠においては、縦突条に比して、横突条がやや細幅であるのに対し、パワー側溝は、縦突条、横突条ともほぼ同幅である。)、
オ 左右側壁における縦横の長さの割合の点(パワー側溝の方が横長である。)、
カ 左右側壁の外面上辺部における膨出部の幅の点(本件意匠の方が幅広である。)
等において異なるが、その他の形態については特に異なるものではないことが認められる。
(4) 以上のような、両意匠における各形状及び物品の性質、用途等からみるならば、両意匠の特徴を最もよく表し、看者(土木工事関係者と解される。)の注意を引く部分は、両意匠の上記共通部分にあるものというべきであり、他方、上記認定に係る両意匠の差異点は、格別目立つものではなく、上記共通する部分から生じる美感を左右する程のものではないと認められる。
(5) そうすると、両意匠は、別紙第三の意匠が本件意匠の類似意匠として登録されたことからも明らかなとおり、相互に類似するものと認めるのが相当である(なお、被告も、本件意匠と別紙第三の意匠とが類似関係にあること及びパワー側溝が本件類似意匠に基づくことについては自認しているところである(第3「請求の原因に対する認否及び被告の主張」2(1)カ及び(3)イ))。
3 続いて、パワー側溝の完成後、それが実際に工事に用いられるに至った状況について検討するに、前出甲第21、第23号証、第28号証の7の2、同号証の8、成立に争いのない甲第24、第30号証、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第25号証の1、2、原本の存在とその成立に争いのない甲第28号証の2ないし4、9、10、証人土谷喜太郎の証言により原本の存在とその成立が認められる甲第28号証の5、6、11、同証人の証言により本件工事現場の道路状況を撮影した写真であることが認められる甲第29号証の6、同証人の証言により成立が認められる甲第33号証並びに同証人の証言によると、次の事実が認められる。
(1) パワー側溝の完成後である昭和58年6月14日、大分県の係官により、原告工場において、パワー側溝の強度に関する立会試験が行われたが、その結果、パワー側溝は、大分県の基準に合格し、同県から、同県の行う公共工事において使用されることについて、承認を得るに至った(なお、大分県の係官により、パワー側溝についての試験が行われたことは、当事者間に争いがない。)。
(2) そこで、原告は、パワー側溝を製造、販売するために、同年8月12日、被告との間に、被告が「製造実施権」を有するとした引用意匠権を実施するための契約(「製造販売提携書」による契約)を締結し、被告に対し、「提携料」と、販売高に応じた「実施料」を支払うことを約した上、そのころ、パワー側溝についてのカタログを作成して土木工事関係者に配布し、更に、同年9月以降、パワー側溝の販売を開始して、今日に至っている。
(3) 上記のとおり同年9月に、原告から最初にパワー側溝を購入するに至ったのは、本件工事を大分県から請け負った九興建設である。
すなわち、九興建設は、同年8月4日、大分県との間において、本件工事を請け負う旨の契約を締結し、同月16日から同年11月14日までの間、大分市大字志村所在の本件工事現場において、本件工事を行ったが、そのうち同年9月中旬ころから10月にかけて、パワー側溝(高さ約90センチメートル)を購入し、その引渡しを受け、それを用いて側溝用ブロックの敷設を行った(なお、パワー側溝が本件工事に使用されたことについては、当事者間に争いがない。)。
(4) 更に、本件工事の具体的状況は次のとおりであった。
ア 本件工事の内容は、幅約9メートルの道路の片側を通行止めとし、その路端を約1メートル程の深さに掘削して、道路沿いに溝を作った後、掘削した溝の底部をコンクリートで固め、その上にパワー側溝を一列に配置した上、相互にボルトで繋ぎ、別に道路下に敷設したヒューム管を各パワー側溝に繋ぎ、上記ボルト部分と、ヒューム管の繋ぎ目部分とをそれぞれモルタルで固め、最後に、掘った溝の土を埋め戻すというものであった。
イ そして、パワー側溝は、直接、原告によって本件工事現場に搬入されたが、搬入にあたっての手順としては、まず、パワー側溝を運搬してきたトラックから、同側溝が、掘削された溝に沿って路上に降ろされ、「仮置き」の状態とされて、しばらくの間そのまま路上に置かれた後、九興建設の関係者により、掘削した溝の中に降ろされ、使用されるというものであった。
ウ また、上記アのとおり、本件工事中においても道路の片側の通行は可能であったため、本件工事期間中を通じて、車両、通行人等の往来があり、他方、工事場所については特別な囲いが設けられていた訳でもなかったため、本件工事に用いられたパワー側溝、特に、上記イのとおり「仮置き」とされたパワー側溝については、通行車両や一般の通行人がそれを視認することに格別の支障がなかった。
(5) 更に、本件工事現場付近には、道路の両側に沿って民家(アパート、戸建住宅)や商店(理容院)等が建ち並び、その居住者、客等も常時上記の現場付近を出入りする状況であったが、同人らにとっても、パワー側溝の視認状況は上記(4)ウと同様であった。
以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。
4 ところで、意匠法3条1項1号における「公然知られた意匠」とは、一般第三者としての不特定又は多数の者が現実に知るに至った意匠を指すものと解されるが、前記3における各認定事実からみるならば、原告主張のように、パワー側溝の強度試験を行った大分県の職員が、上記の「不特定又は多数の者」に含まれるとすることについては、同職員は公務の遂行上パワー側溝に関わったに過ぎないものであることから、疑問が残り、また、原告がパワー側溝のカタログを配布したことについても、本件において、カタログ全体及びその原本の提出がなく、その記載内容が必ずしも明確なものとはいえない上、配布先も具体的に明らかでないことから、それに基づいて、本件意匠を「公然知られた」ものと認めることは困難といわざるをえない。
しかしながら、その後である昭和58年9月ころ、本件工事のため、原告からパワー側溝を買い受け、引き渡しを受けた九興建設の工事関係者については、それにより、パワー側溝の意匠を現実に知ったものであることが明らかであり、更には、本件工事中、工事に係る道路を車両又は徒歩により通行した者、もしくは工事現場付近の居住者等においても、パワー側溝の意匠を、特にそれが「仮置き」された状態の下で、現実に認識するに至ったものと認めることが可能である。そしてまた、上記の九興建設の工事関係者及び通行人等が、一般の第三者としての「不特定又は多数の者」に該当するものであることは明らかである。
5 これに対し、被告は、九興建設の工事関係者が本件意匠について特殊な関係を有する者であるから、同人らは一般第三者である「不特定又は多数の者」に当たらないと主張する。
しかしながら、前記3の認定事実及び前出甲第28号証の2、証人土谷喜太郎の証言によると、九興建設は、大分県から、パワー側溝の使用を入札条件として、公共工事としての本件工事を請け負い、原告から、パワー側溝の供給を受けたものであることが認められるが、同社は、原告との関係においては、原告の販売するパワー側溝の通常の買受人の一人であったに過ぎず、原告とともにパワー側溝の意匠を秘匿すべき立場にあったものと解すべき理由はないから、同社の工事関係者が、本件において、一般第三者である「不特定又は多数の者」に含まれないものとすることはできない。
また、被告は、本件工事に係る道路の通行人や、付近の居住者等にとっては、パワー側溝が溝の中に据え付けられるものであるから、その意匠を現実に認識することは不可能であったものと主張する。
しかしながら、前記3において認定の事実からみるならば、同人らは、少なくとも、路上に「仮置き」されたパワー側溝を現実に認識しえる状況にあったことが明らかであり、そうであれば、同人らは、現にパワー側溝の意匠を知ったものと推認することに不都合はない。
したがって、被告の上記主張はいずれも失当というべきである。
6 以上によれば、パワー側溝の意匠は、少なくとも昭和58年9月ころ、不特定又は多数の者に現実に知られるに至り、また、パワー側溝の意匠が本件意匠に類似するものであることは、前記2において認定のとおりである。
そうすると、本件意匠は、それに類似した意匠が、本件意匠の出願日(昭和58年11月2日)前に、既に「公然知られた」ものであったことが明らかであるから、意匠法3条1項3号に反し、登録要件を欠くものであったというべきである。
7 したがって、原告主張のその余の取消事由について判断するまでもなく、本件意匠の登録を無効とすることができないとした審決は、本件意匠の登録要件についての認定判断を誤ったものであり、違法であるから、取消しを免れないものというべきである。
第3 よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司)
本件意匠
別紙第一
意匠に係る物品 側溝用ブロック
<省略>
引用意匠
別紙第二
意匠に係る物品 側溝用ブロック
説明 左側面図は右側面図と対称にあらわれる
<省略>
別紙第三
別紙第三の意匠
意匠に係る物品 側講用ブロック
説明 背面図は正面図と、左側面図は右側面図と同一にあらわれる。
<省略>