東京高等裁判所 平成8年(行ケ)216号 判決
愛知県江南市宮田神明町天王198番地
原告
株式会社日鉱
代表者代表取締役
市川賢治
訴訟代理人弁理士
向山正一
名古屋市西区枇杷島4丁目9番24号
被告
有限会社ビセイケン
代表者代表取締役
犬飼忠彦
訴訟代理人弁護士
内藤義三
愛知県大府市中央町6丁目82番地
被告
株式会社東洋発酵
代表者代表取締役
木村彰彦
被告ら訴訟代理人弁理士
小島清路
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 特許庁が平成7年審判第9050号事件について平成8年8月9日にしだ審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告らの負担とする。
2 被告ら
主文と同旨
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
被告らは、発明の名称を「アルコール耐性付与醗酵物の製造方法及びアルコール耐性付与醗酵食品」とし、平成2年3月20日に出願、平成6年11月22日に設定登録された特許第1885507号の特許発明(以下「本件発明」という。)の特許権者である。
原告は、平成6年11月22日に本件発明に係る特許の無効審判を請求し、特許庁は、同請求を平成7年審判第9050号事件として審理した結果、平成8年8月9日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決をし、その謄本は同年9月2日に原告に送達された。
2 本件発明の要旨
(1) 特許請求の範囲請求項1記載の発明(以下「本件第1発明」という。)
米糠類、大豆、炭素源及び水を含み、アルカリ剤にてpHを7.5~10に調整された液体培地に納豆菌或いは枯草菌を接種し、通気撹拌をすることにより培養を行って、摂取による血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用を有する醗酵物を製造することを特徴とするアルコール耐性付与醗酵物の製造方法。
(2) 特許請求の範囲請求項2記載の発明(以下「本件第2発明」という。)
請求項1記載の液体培地のpHを8.5~10とした請求項1記載のアルコール耐性付与醗酵物の製造方法。
(3) 特許請求の範囲請求項3記載の発明(以下「本件第3発明」という。)
請求項1又は2記載の液体培地に、更にアルカリ性プロテアーゼを配合する請求項1又は2記載のアルコール耐性付与醗酵物の製造方法。
(4) 特許請求の範囲請求項4記載の発明(以下「本件第4発明」という。)
米糠類、大豆、炭素源及び水を含み、アルカリ剤にてpHを7.5~10に調整された液体培地に納豆菌或いは枯草菌を接種し、通気撹拌をすることにより培養を行って、製造したアルコール耐性付与醗酵物に、酵母を添加することを特徴とするアルコール耐性付与醗酵食品。
(5) 特許請求の範囲請求項5記載の発明(以下「本件第5発明」という。)
請求項4記載の液体培地のpHを8.5~10とした請求項4記載のアルコール耐性付与醗酵食品。
(6) 特許請求の範囲請求項6記載の発明(以下「本件第6発明」という。)
請求項4又は5記載の液体培地に、更にアルカリ性プロテアーゼを配合する請求項4又は5記載のアルコール耐性付与醗酵食品。
3 審決の理由
審決の理由は別添審決書「理由」の写のとおりである(ただし、23頁13行の「調整しと後」を「調整した後」と改める。なお、審決の甲第1号証は本訴の甲第3号証、審決の甲第9号証は本訴の甲第7号証、審決の甲第12号証は本訴の甲第21号証、審決の甲第16号証は本訴の甲第4号証、審決の甲第17号証は本訴の甲第6号証、審決の甲第18号証は本訴の甲第11号証、審決の甲第19号証は本訴の甲第12号証である。また、審決の乙号証は本訴の同番号の乙号証である。以下、昭和57年特許出願公告第59754号公報(審決の甲第1号証、本訴の甲第3号証)を「引用例1」と、昭和63年9月20日付日経産業新聞(審決の甲第16号証、本訴の甲第4号証)を「引用例2」と、名古屋地方裁判所平成6年(ワ)第2764号事件における平成8年1月19日の里見公直の証人調書(審決の甲第18号証、本訴甲第11号証)を「里見調書<1>」と、同人の同年2月23日の証人調書(審決の甲第19号証、本訴の甲第12号証)を「里見調書<2>」とそれぞれいう。)。
4 審決の取消事由
審決の理由第1、第2は認める。同第3の1の(1)は認める。同(2)の<1>のうち、審決の甲第1号証(本訴の甲第3号証)には本件第1発明との対応において、「(c)アルカリ剤にてpH7.5~10に調整すること」が記載されているとは認められないとした点(29頁11行ないし15行)を争い、その余は認める。同(2)の<2>のうち、上記(c)について、審決の甲第7、第8号証にアルカリを用いてpHを調節することが記載されていることから、アルカリ剤にてpHを調節することは、当業者において容易になし得たとの点(29頁19行ないし30頁5行)は認め、その余は争う。同(2)の<3>のうち、審決の甲第3号証が本件特許に係る出願の出願前において頒布された刊行物若しくはその内容が公知であったとすることはできなく、被請求人(被告)が提出した乙第3号証をみると、むしろ公知ではないとするのが相当と認められるので、請求人(原告)の審決の甲第3号証が公知であることを前提とする主張は認められないとした点(33頁16行ないし34頁4行)は認め、その余は争う。同(2)<4>は争う。同(2)<5>のうち、審決の甲第9号証(本訴の甲第7号証)には、米糠、大豆粕などを納豆菌で発酵処理する技術が記載されているとした点、請求人(原告)の予備的主張を摘示した点、本件第1発明は、請求人(原告)の言うように限定されておらず、この主張は当を得ないものであるとした点(34頁18行ないし35頁7行)及び審決の甲第9号証(本訴の甲第7号証)において、本件第1発明が容易に発明し得たものとする事実は見いだせないとの点(35頁16行ないし18行)は認め、その余は争う。同(3)のうち、本件第2ないし第6発明は、「米糠類、大豆、炭素源及び水を含み、アルカリ剤にてpHを7.5~10(請求項2、5記載の発明においては、8.5~10)に調整された液体培地に納豆菌或いは枯草菌を接種し、通気撹拌をすることにより培養を行って、アルコール耐性付与醗酵物を製造」することを、それぞれ主要な構成とするものであるとの点(36頁2行ないし10行)は認め、その余は争う。同(4)は争う。審決の理由第3の2のうち、(1)は争い、(2)は認め、(3)は争う。同3のうち、(1)は認め、その余は争う。同4は争う。審決の理由第4は争う。
審決は、本件第1発明及び引用例1、2記載の発明の技術内容を誤認した結果、本件第1発明が引用例1、2記載の発明から容易に発明することができないと誤って判断し、本件発明における明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲に本件発明の構成に欠くことのできない事項が記載されていないことを看過し、本件特許が発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたものであることを看過したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(本件第1発明が引用例1、2記載の発明から容易に発明することができないとした判断の誤り)
ア 審決は、引用例1には本件第1発明との対応において、「(c)アルカリ剤にてpH7.5~10に調整すること」が記載されているとは認められないとした上で、本件第1発明においてpHを7.5~10の範囲に限定することは当業者において容易に想到し得たものとは認めがたいと認定した。しかし、引用例1には、培養のためのpHは4.5~11.0、好ましくは5.5~9.5であると記載され、実施例では初発pH、すなわち、培地のpHが8.0のものが多数ある(第1表)。特に、第1表最下欄のものは、初発PH8.0、第一成分はローカストビーンガム、第二成分は0.5%米糠、0.5%大豆粕、0.5%コーンスティープリカー及び0.5%アルコール蒸留廃液を含むと記載されている。以上のとおり、引用例1には、pH7.5~10の範囲に含まれるpH8.0とすることが開示されているから、上記審決の認定は誤りである。
イ 審決は、pH7.5~10の範囲について、乙第1、第10号証を参酌すると、本件第1発明の発酵物において、アルコール耐性が付与されるための特異的範囲と認定した。しかし、本件明細書には、培地のpHは、通常、7.5~10が用いられ、好ましくは9前後であると記載されているにずぎない。また、乙第1、第10号証をみても」摂取による血中のアルコール濃度の低下作用について、pHの範囲7.5~10が特異的範囲であることは何ら示されていないし、アルコール口臭の除去作用についても、pH10が特異的範囲の上限であることも何ら示されていない。
また、本件明細書の実施例2のpHを実際に確認したところ、7.5未満となる。そして、実施例2のものにおいても、アルコール口臭の低下作用があるのであるから、pH7.5は特異的範囲の下限ではない。
したがって、審決の上記認定は誤りである。
ウ 審決は、本件第1発明は、醗酵物そのものではなく、醗酵物を用いたアルコール耐性を付与する物を製造する、いわゆる用途発明に係る発明であると認定している。しかし、物の製造方法について用途発明が成立するのか不明であるが、仮に成立するとしても、その物についてその用途は少なくとも新規でなければならない。しかるに、引用例2によれば、被告株式会社東洋発酵代表者も認めるように、本件第1発明の醗酵物は本出願前である昭和63年から製造販売されており、したがって、本件第1発明の醗酵物並びにその醗酵物が摂取による血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用を有することも既に知られていたことになる。よって、本件第1発明は用途発明に該当するものではない。
審決は、本件第1発明が用途発明であることを前提に、「摂取による血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用を有する醗酵物」及び「アルコール耐性付与醗酵物」は必須の構成であると認定した。しかし、本件第1発明は前述のとおり用途発明ではないから、「摂取による血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用を有する醗酵物」及び「アルコール耐性付与醗酵物」は効果にすぎない。
エ 以上のとおり、本件第1発明の方法と引用例1記載の発明の方法とは実質的に同じものであるから、引用例1記載の発明によって得られた醗酵物も本件第1発明と同様の効果を有するものである。
オ さらに、審決は、引用例1には、引用例1記載の発明によって作られた醗酵物を人が摂取すること、並びにこの醗酵物の摂取による血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用を有することの記載も示唆もないと認定した。しかし、引用例1には、「ヘミセルロースの一種であるガラクトマンナン及びそれらの誘導体は、食品・・・の分野で広く使われている。」(2欄4行ないし6行)との記載があり、また、β-1.4-マンナナーゼが食品用途に使用されることは周知である(昭和63年特許出願公告第18474号公報(甲第15号証)の3欄37行ないし4欄26行参照)。
カ 審決は、引用例2記載の「アルカリ発酵技術」がいかなるものか不明であるとした。しかし、「アルカリ発酵」は、当業者にとっては、アルカリ性(pH7以上)において醗酵させることを意味することは明らがである.そして、醗酵こは、微生物が必要であること、大豆の醗酵には納豆菌が利用されること、及び納豆菌が枯草菌の一種であることは周知のことである。
キ そうすると、引用例2には「大豆」と「発酵」なる用語が用いられており、大豆を原料とする醗酵に納豆菌が利用できるであろうことは、当業者であれば容易に推量できる程度のものであり、枯草菌を米糠、大豆を含有する培地に培養することは引用例1に記載されているから、引用例2における「アルカリ発酵」を、引用例1記載の発明の枯草菌を用い、引用例1記載の発明の方法で行うことは、当業者にとって容易なことである。
ク 以上のとおり、本件第1発明は、引用例1、2記載の発明から容易に発明し得たものではないことを前提として、本件発明について、無効とされるべきものとすることはできないとした審決の判断は誤りである。
(2) 取消事由2(特許請求の範囲に本件発明の構成に欠くことのできない事項が記載されていないことの看過)
本件明細書の実施例にはフィチン酸を使用する場合のみが記載されているところ、本件第1、第4発明の「アルコール耐性付与効果」等の大半はフィチン酸に起因するものであり、本件第1、第4発明において、フィチン酸は構成に欠くことのできない事項である。しかるに、本件明細書の本件第1、第4発明の特許請求の範囲には、上記構成が記載されていない。
審決は、乙第4号証を参酌すると、フィチン酸がない場合でも、本件第1、第4発明は、その効果を奏すると認定した。しかし、少なくとも乙第4号証をみても、フィチン酸がない場合に、摂取による血中のアルコール濃度の低下作用があることは何ら示されていない。すなわち、飲酒した人間がある醗酵物を摂収したときに、アルコール口臭が低下したからといって、血中のアルコール濃度も低下しているといえるものではない。臭いの低下の機序には、臭いの発生物質を分解することなく、包み込むことにより臭いを出さないようにしているマスキングの効果によるものもある。本件発明の醗酵物によるアルコール口臭の低下がマスキングによるものであれば、アルコール口臭が低下しても、血中のアルコール濃度も低下しているとはいえないし、アルコール口臭の低下の生体的機序と血中のアルコール濃度の低下の生体的機序は同じではないから、何らの証明なくして、アルコール口臭の低下をもって、血中のアルコール濃度の低下があったとはいえないのである。
(3) 取消事由3(本件特許が発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたものであることの看過)
本件発明は、里見公直、木村彰彦及び犬飼忠彦の三者により発明されたものである。ところが、本願書において発明者とされたのは上記里見のみである。本件特許は、発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたものである。
里見調書<1>、<2>によれば、本件発明について、木村がアイデアを提供していたこと、里見は実際に実験を行っておらず、実験を行ったのは木村であることが明らかである。したがって、木村も共同発明者である。
また、本件発明の特許請求の範囲記載の構成のみのものについて、摂取により血中のアルコール濃度の低下、アルコール口臭の除去作用を確認した例はなく、実施例1及び2の完成なくして本件発明が完成したとは考えられない。そして、実施例1、2の配合を考えたのは犬飼忠彦であるから、上記犬飼も共同発明者である。この点に関して、審決は、犬飼は本件発明に従ってその配合を記載したとも思われると認定したが、実施例には、本件発明に含まれていない配合物であるフィチン酸、消泡剤が配合されているから、犬飼は単に本件発明に従って配合を記載したものではない。
第3 請求の原因に対する認否及び被告らの主張
1 請求の原因1ないし3の事実は認める。同4は争う。
審決の判断に誤りはない。
2 被告らの主張
(1) 取消事由1について
ア 原告は、引用例1にはpH8.0とする例が示されていることを根拠に、本件第1発明においてpHを7.5~10の範囲に限定することは、当業者において容易に想到し得たものとは認めがたいとした審決の認定を争っている。しかし、引用例1記載の発明は、微生物によるβ-1.4-マンナナーゼの製造法にすぎず、それによる醗酵物にアルコール濃度低下作用等があるかどうかは全く示唆されていない。別の目的物の製造において同種のpHを用いた例があるからといって、それだけでは、本件第1発明においてpHを特定範囲に限定することが当業者にとって容易とはいえない。
イ 原告は、本件明細書には、培地のpHは、通常、7.5~10が用いられ、好ましくは9前後であると記載されているにすぎないと主張する。しかし、本件明細書の記載を総合すれば、本件第1発明は、アルコール耐性付与醗酵物を得るために、上記pH下で醗酵させること、言い換えれば、上記pH下で醗酵させるのはアルコール耐性付与醗酵物を得るためであることが当然理解できるはずである。
原告は、本件明細書の実施例2のpHを実際に確認したところ、7.5未満となると主張する。しかし、上記実施例2のpHは7.5以上であり、出願人らは7.5以上で効果を確認している。実施例2は、条件いかんによっては、pH7.5をわずかに下回る場合もあり得ることは否定しないが、それは、材料に米糠、大豆粕というような農産物を用いるために状況次第で変動する、いわば誤差の範囲内であり、そのことは本件明細書記載の効果が実際にはpH7.5以上のものについて確認されたという事実を否定するものではない。
ウ 原告は、審決が本件第1発明を「用途発明」としたことに関して、本件第1発明の醗酵物は本出願前から製造販売され、本件第1発明の醗酵物並びにその醗酵物が摂取による血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用を有することも既に知られていたから、本件第1発明は用途発明に該当するものではないと主張する。しかし、審決が「用途発明」であると説明したのは、引用例1記載の発明は、本件第1発明とはバチルス菌(納豆菌を含む)を用い、かつ米糠などを醗酵させる点で共通しているが、その目的、用途及び構成自体がβ-1.4-マンナナーゼの製造法であって、アルコール耐性付与は全く触れられていないから、引用例1記載の発明からアルコール耐性付与を目的、用途、要件とする本件第1発明は容易に発明をすることができないということを用途発明ということで説明したものである。審決がアルコール耐性付与という用途自体が新規だから用途発明であるとしたのではないことは明らかである。原告の主張は失当である。
エ 原告は、本件第1発明の方法と引用例1記載の発明の方法とは実質的に同じものであるから、引用例1記載の発明によって得られた醗酵物も本件第1発明と同様の効果を有すると主張する。
しかし、本件第1発明は、アルコール耐性付与醗酵物の製造方法であり、アルコール耐性付与醗酵物であることは、本件第1発明の目的であるのみならず、構成要件でもある。すなわち、もし、枯草菌であっても、亜種や株により、アルコール耐性付与醗酵物を生み出さないものがあるとすれば、それは本件第1発明の構成要件から外れることになる。引用例1記載の発明も同様であり、特許請求の範囲では菌としてバチルス・スブチルスとだけ記載され、株名などは特定されていないが、代わりに、β-1.4-マンナナーゼの製造法であることが構成要件として規定され、発明の詳細な説明では、「強力なマンナナーゼを生産する2株LB-5-A、LB-5-B株を有望株として」等の記載がある。これらの記載を総合すれば、引用例1記載の発明の菌は、上記2株かこれに近いマンナナーゼ生産能を持つものであり、これが低いものは除外されるというのが発明の趣旨である。以上のとおり、本件第1発明は、枯草菌の中でも納豆菌その他アルコール耐性付与物の生産能の高い菌株によって醗酵させることを要件とした発明であり、引用例1記載の発明は、マンナナーゼ生産能の高い菌株によって醗酵させることを要件とした発明である。
また、引用例1記載の発明には、培地の成分として第一成分数種類、第二成分10種類以上を挙げており、その組合せ例は天文学的な数になるが、引用例1にはアルコール耐性付与の効果については一切記載がないから、その中のどの組合せにアルコール耐性付与の効果があるかは理解できるはずがない。さらに、引用例1の実施例には醗酵条件としてpH8の例が示されているが、アルカリ醗酵で目的とする効果が得られるという本件第1発明の技術的思想は全く示されていない。
したがって、引用例1は、本件第1発明の容易推考の根拠とはならない。
(2) 取消事由2について
原告は、本件第1、第4発明の「アルコール耐性付与効果」等の大半はフィチン酸に起因するものであり、本件第1、第4発明において、フィチン酸は構成に欠くことのできない事項であると主張し、乙第4号証をみても、フィチン酸がない場合に、摂取による血中のアルコール濃度の低下作用があることは何ら示されていないと主張する。しかし、乙第4号証は、フィチン酸を添加しなかった醗酵物でも呼気のアルコール濃度低下作用があったとするものであり、呼気のアルコール濃度と血中のアルコール濃度は高い相関関係があるから、血中のアルコール濃度の低下の立証はこれで十分である。
(3) 取消事由3について
ア 原告が主張しているのは、発明者として発明に関与していないものが表示されているというのではなく、共同発明者の一部の者の記載が抜け落ちているということにすぎない。しかも、原告が共同発明者として主張している者は、本出願人である被告ら2社の代表者であるから、原告の主張どおりであるとしても、本出願人らは特許を受ける権利を承継しているものである。
イ 木村が、米糠で体に、例えばアルコールによいものを作れないかというアイデアを里見に持ち込んだこと及びその実験を担当したことは認めるが、発明とは技術的思想であって、この程度の願望、目的を提供したり、実験をしただけでは共同発明者とはいえない。
犬飼について、原告は、実施例1、2の配合を考えたのは犬飼であって、実施例には本件第1発明に含まれていない配合物であるフィチン酸、消泡剤が配合されているから、犬飼も共同発明者であると主張する。しかし、発明とは実施例そのものをいうのではない。本件第1発明の特許請求の範囲には、フィチン酸、消泡剤の配合が記載されていないから、フィチン酸、消泡剤の配合を考えた者が犬飼であっても、本件第1発明の発明者は犬飼ではない。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録のとおりであるから、これを引用する。
理由
第1 請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。
第2 成立に争いのない甲第2号証(本件公告公報)によれば、本件明細書に記載された本件発明の概要は、次のとおりと認められる。
1 本件発明は、摂取することにより血中のアルコール濃度及びアルコール口臭を減少させるというアルコール耐性付与効果を持つ醗酵物の製造方法、及びその醗酵物を含むアルコール耐性付与醗酵食品に関する。本件発明は、酒酔い防止(予防も含む。)用食品、2日酔い防止用食品、アルコール口臭防止用食品等に広く使用される。なお、ここを含め明細書全体にいう「食品」とは、人が摂取するものを広くいう。(2欄14行ないし3欄6行)
従来、大豆煮汁のごうにて蒸煮した玄米に、納豆菌を接種して加温醗酵させた醗酵食品、また、大豆煮汁に米麦類等の脱穀した外皮部分を浸漬して醗酵させた醗酵食品、更に、バチルス属細菌由来の所定の酵素を用いた大豆蛋白質等の加水分解物質を有効成分とする血圧降下剤も知られている。(3欄8行ないし15行)
本件発明は、前記公知発明と異なり、米糠類及び大豆類を原料として用い、かつアルコール耐性付与効果をもつ食品を製造する方法、及びその醗酵物を含むアルコール耐性付与醗酵食品を提供することを目的とする。(3欄25行ないし28行)
2 本件発明者らは、米糠類及び大豆類を原料としてアルコール耐性付与効果のある醗酵食品が製造できないかについて、鋭意、研究したところ、前記原料を用いて納豆菌あるいは枯草菌を接種して培養することにより所望醗酵物を得ることができることを発見して、本件発明を完成するに至った。(3欄30行ないし35行)
本件発明は、特許請求の範囲記載(1欄2行ないし2欄11行)の構成を採用した。
3 本件発明においては、米糠及び大豆を含む原料、更に納豆菌あるいは枯草菌を用いて、醗酵物が製造されるので、この醗酵物は、従来と異なってアルコール耐性付与効果をもつ。(7欄10行ないし8欄1行)
更に、本件発明の醗酵食品は、前記効果のある醗酵物を含み、更に酵母粉末を含むので、それらの複合効果によりアルコール耐性付与効果が更に一層優れる。以上より、本件発明においては、酒酔い防止(予防)用、二日酔い防止用、アルコールの口臭防止用の食品として極めて有用である。更に、本件第1発明において製造される醗酵物は、種々の食品の添加物としてその利用範囲は極めて広い。本件発明は、アルコールに弱い人、健康維持・管理、接客等に有用である。(8欄4行ないし8欄12行)
第3 審決の取消事由について判断する。
1 取消事由1について
(1) 成立に争いのない甲第3号証(引用例1)によれば、引用例1には、次の記載があることが認められる。
ア 「特許請求の範囲 1 バチルス・ズブチルスを培養してβ-1.4-マンナナーゼを製造するにあたり、培地にβ-1.4-マンナン、ガラクトマンナン、グルコマンナン等のβ-1.4-マンノピラノシル結合を有するものと米糖(判決注・糠の誤記と認める。)、大豆、コーヒー豆、とうもろこし、小麦ふすま及びこれらの抽出物、コーンステイプリカー、糖蜜、廃糖蜜、アルコール蒸留廃液、セルロース、カルボキシメチルセルロース、セロビオースまたは肉エキスのいつれか一種以上を含む培地で培養することを特徴とするβ-1.4-マンナナーゼの製造法。」(1欄25行ないし35行)
イ 「本発明は、微生物による効率的なβ-1.4-マンナナーゼの製造法に関するものである。」(1欄37行ないし2欄1行)、「捺染に使った後のガラクトマンナン系の、のり料を速やかに布地から水中へ溶かし出すために、ガラクトマンナン系のり料を強力に加水分解し、急激な粘度低下を起さすエンド型のβ-1.4-マンナナーゼ(以下マンナナーゼと略す)の生産について検討を加えた。ここでいうマンナナーゼは、D-マンナンやD-ガラクトーD-マンナンなどのβ-1.4-D-マンノピラノシル結合を加水分解する酵素である。」(2欄19行ないし27行)、「培地にβ-1.4-マンナン、ガラクトマンナン、グルコマンナンン等のβ-1.4-マンノピラノシル結合を有するものと、米糠、大豆、コーヒー豆、とうもろこし、・・・、または肉エキスのいずれか一種以上が存在する場合に、培養液のマンナナーゼ活性が増大することを兄いだした。」(3欄25行ないし34行)
ウ 「本発明により、バチルス・ズブチルスを培養してマンナナーゼを製造するにあたり、β-1.4-マンノピラノシル結合を有するものと同時に米糠大豆、コーヒー豆、とうもろこし、・・・、または肉エキスのいずれか一種以上を含む培地で培養するとβ-1.4-マンノピラノシル結合を有するもの単独で培養した場合に比べ、マンナナーゼ生産が増大させることができる。バチルス・ズブチルスのマンナナーゼ生産のための培養基の状態は液体・固体あるいは半固体いずれでもよく、・・・培養のためのpHは4.5~11.0、好ましくは5.5~9.5である。」(6欄4行ないし22行)
エ 実施例として、初発pH8.0、培地中に、第一成分はローカストビーンガム、第二成分は0.5%米糠、0.5%大豆粕、0.5%コーンスティープリカー及び0.5%アルコール蒸留廃液を含むものの記載(第1表の最下行)
(2) 前記第2の認定事実によれば、本件第1発明は、米糠類、大豆、炭素源及び水を含み、アルカリ剤にてpHを7.5~10に調整された液体培地に納豆菌或いは枯草菌を接種し、通気撹拌をすることにより培養を行って得られた醗酵物に、摂取による血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用を有するものがあることを見出したことから、このアルコール耐性付与醗酵物を製造するものであると認められる。そうすると、上記「摂取による血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用を有する醗酵物」及び「アルコール耐性付与醗酵物」との構成は、人間に摂取されることによって血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用というアルコール耐性を付与する作用、性質ないし特性を有する醗酵物との趣旨、すなわち、物の作用、性質ないし特性を用いてその物を特定しようとするものと解されるから、上記構成は物を特定する必須の構成要件としての意味を持つものと認められる。
(3) 一方、前記(1)の認定事実によれば、引用例1記載の発明は、「微生物によるβ-1.4-マンナナーゼの製造法」についての発明であり、その目的は、捺染に使った後のガラクトマンナン系のり料を加水分解するためのβ-1.4-マンナナーゼの製造法の改良を図るものであって、培地として米糠類及び大豆を併用することは、その目的を達成する手段としての意義しか与えておらず、人間に摂取されることによって血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用というアルコール耐性を付与する作用、性質ないし特性を有する醗酵物を製造するために、特定pHで納豆菌あるいは枯草菌を接種し、培養するとの技術的思想ないし技術的事項については、何らの開示も示唆もないことが認められる。
したがって、本件第1発明は、「摂取による血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用を有する醗酵物」及び「アルコール耐性付与醗酵物」との構成を採用し、これによって本件第1発明全体としてアルコール耐性付与醗酵物が得られるという顕著な作川効果を奏するのであるから、引用例1記載の発明とは異なるものであり、また、同発明から当業者が容易に想到し得なかったものというべきである。
(4) 成立に争いのない甲第4号証(引用例2)によれば、引用例2には、「二日酔い防止ドリンク・・・主原料のグルメートは米はい芽、大豆、あまちゃづるなどを独自のアルカリ発酵技術によって抽出精製した純植物性のエキス。飲酒の直前に飲めば、アルコールの代謝促進をもたらし、飲酒後の血中アルコール濃度を低下させる効果があるという。」との記載があるものの、上記「独自のアルカリ発酵技術」が具体的にいかなる方法であり、いかなる菌で醗酵させる技術であるのかは記載されていないことが認められる。
そうすると、本件第1発明は、引用例2記載の発明とは異なるものであり、また、同発明から当業者が容易に想到し得なかったことは明らかである。
(5) また、引用例2記載の発明は、上記のとおり、「独自のアルカリ発酵技術」がいかなる方法であり、いかなる菌で醗酵させる技術であるのかは記載されておらず、一方、引用例1には、アルコール耐性を付与する作用、性質ないし特性を有する醗酵物を製造するために特定pHで納豆菌あるいは枯草菌を培養するとの技術的思想ないし技術的事項については何らの開示も示唆もないのであるから、「摂取による血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用を有する醗酵物」及び「アルコール耐性付与醗酵物」との構成を有する本件第1発明の構成を得るために、引用例2記載の発明の「独自のアルカリ発酵技術」に引用例1記載の発明の「微生物によるβ-1.4-センナナーゼの製造法」を適用することは、当業者が容易に想到し得なかったものというべきである。
(6)ア もっとも、原告は、審決が本件第1発明を「用途発明」に係る発明としたことに関して、本件第1発明の醗酵物は本出願前から製造販売され、本件第1発明の醗酵物及びその醗酵物が摂取による血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用を有することも既に知られていたと主張する。しかし、これを「用途発明」に係る発明と呼ぶか否かはともかく、本件第1発明によって製造された醗酵物及びその醗酵物が摂取による血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用を有することが知られていたとしても、そのことから直ちに、その醗酵物がいかなる方法で製造されたものであるかが公知となったとは認められないから、当該アルコール耐性付与醗酵物の製造方法に係る本件第1発明が公知となったということはできない。したがって、原告の主張は理由がない。
イ また、原告は、引用例1には、「ヘミセルロースの一種であるガラクトマンナン及びそれらの誘導体は、食品・・・の分野で広く使われている。」(2欄4行ないし6行)との記載があり、また、β-1.4-マンナナーゼが食品用途に使川されることは周知であると主張する。しかし、引用例1記載の発明の目的は、捺染に使った後のガラクトマンナン系のり料を加水分解するためのβ-1.4-マンナナーゼの製造法の改良を図るものであることは、前記(3)の認定のとおりであって、一般にβ-1.4-マンナナーゼが食品用途に使用可能であることが周知であるとしても、引用例1記載の発明によって製造されたものを、「摂取による血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用を有する醗酵物」及び「アルコール耐性付与醗酵物」との構成によって特定し、これによってアルコール耐性付与醗酵物が得られるという作用効果を奏することを予想することが容易であったということは到底できない。したがって、原告の主張は理由がない。
ウ 更に、原告は、引用例2記載の「アルカリ発酵技術」に関して、「アルカリ発酵」は、当業者にとっては、アルカリ性(pH7以上)において醗酵させることを意味し、醗酵には、微生物が必要であること、大豆の醗酵には納豆菌が利用されること、及び納豆菌が枯草菌の一種であることは周知のことであることを根拠として、引用例2における「アルカリ発酵」を、引用例1記載の発明の枯草菌を用い、引用例1記載の発明の方法で行うことは当業者にとって容易なことであると主張する。しかし、大豆の醗酵に納豆菌も利用され、納豆菌が枯草菌の一種であるとしても、そのことによって、多数の利用可能な微生物の中から枯草菌を選択して引用例2記載の発明の「独自のアルカリ発酵」に用い、引用例1記載の発明の方法で行うことが容易であったと認めることはできないから、原告の主張は採用することができない。
エ 原告は、本件明細書の実施例2のpHは7.5未満であり、それでもアルコール口臭の低下作用があるのであるから、pH7.5は特異的範囲の下限ではない等として、本件第1発明のpH7.5~10の範囲について、アルコール耐性が付与されるための特異的範囲とは認められないと主張する。しかし、本件第1発明は、「摂取による血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用を有する醗酵物」及び「アルコール耐性付与醗酵物」との構成を採用した点において、既に引用例1記載の発明とは同一ではなく、かつ、同発明から当業者が容易に想到し得なかったものであることは前記(3)の認定のとおりであるから、その構成を得るための培地のpHの数値の限定が特異的範囲、すなわち、臨界的意義を有するものでなければならないというものではない。
すなわち、本件第1発明において培地のpHを7.5~10の数値範囲に選定するのは、人間に摂取されることによって血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用というアルコール耐性を付与するという作用、性質ないし特性を有する醗酵物を製造するという目的を達成するための技術手段としての意義を有し、本件第1発明はこれにより上記醗酵物が製造できるという顕著な作用効果を奏するものであることは前記(2)、(3)の認定事実から明らかである。そうすると、本件第1発明は、上記数値範囲の選定について引用例1記載の発明とはその目的及び作用効果が明らかに異質であるから、その数値範囲が臨界的意義を有すると否とにかかわらず、引用例1記載の発明に基づいて数値範囲を選定することは困難であって、これから当業者が容易に発明し得なかったものというべきである。以上のとおり、本件第1発明における上記数値範囲は、特異的範囲、すなわち、臨界的意義を有するものである必要はないのであるから、これが特異的範囲ではないことを理由として発明が容易であったとする原告の主張は採用することができない。
なお、甲第19(社団法人愛知県薬剤師会作成の試験検査成績書)、第20号証(株式会社日鉱研究部井川亜希子作成の「培地組成のpH測定」と題する書面)には、本件明細書に実施例2について「フィチン酸;15.0kg」(5欄29行ないし30行)とある点を、フィチン酸(50%水溶液)30kgと解して実験した場合に、その培地のpHは7.02ないし7.09程度となった旨の記載があることが認められるけれども、乙第12(株式会社東洋発酵研究部試験研究課岡田利孝作成の「アルコール耐性付与発酵物発酵の際の発酵培地のpHの検討」と題する書面)、第13号証(財団法人愛知県学校給食会長作成の試験検査成績書)の、上記「フィチン酸;15.0kg」をフィチン酸(50%水溶液)15kgと解して実験した場合には、その培地のpHは7.63ないし7.70、「フィチン酸;15.0kg」をフィチン酸(50%水溶液)30kgと解して実験した場合には7.62となった旨の記載に照らせば、甲第19、第20号証の上記記載をもって、直ちに本件明細書の実施例2のpHが7.5未満であるということはできない。
(7) 以上のとおり、本件第1発明は、引用例1、2記載の発明から当業者が容易に発明し得たものと認められないから、これを前提として、本件第2ないし第6発明についても、引用例1、2記載の発明から当業者が容易に発明し得たものとすることはできないとした審決の認定判断に誤りはない。
2 取消事由2について
原告は、本件明細書の実施例にはフィチン酸を使用する場合のみが記載されているところ、本件第1、第4発明の「アルコール耐性付与効果」等の大半はフィチン酸に起因するものであり、本件第1、第4発明において、フィチン酸は構成に欠くことのできない事項であると主張する。しかし、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第4号証(株式会社東洋発酵 研究開発室 薬剤師高田敦士作成の「アルコール耐性効果とフィチン酸若しくは発酵液そのものとの関係を示す試験結果報告書」、以下「高田報告書<1>」という。)によれば、フィチン酸の添加がなくとも、本件第1発明によって製造された物及び本件第4発明の物は、その「アルコール耐性付与」という作用効果を奏することが認められるから、実施例にフィチン酸を添加することが記載されているとしても、実施例のとおりに「フィチン酸を添加すること」を発明の構成要件としなければならないということはできない。
この点に関して、原告は、高田報告書<1>は、アルコール口臭を測定したのみであるから、これを根拠に血中のアルコール濃度の低下があったとはいえないとの趣旨の主張をする。しかし、前掲甲第2号証、乙第4号証によれば、高田報告書<1>の実験においてアルコール口臭が減少したのは呼気のアルコール濃度が減少したことに由来することが推認され、上記認定を左右するに足りる証拠はない。そして、呼気のアルコール濃度と血中のアルコール濃度に高い相関関係があることは一般に広く知られた事実であるから、高田報告書<1>の実験においては、血中のアルコール濃度の低下があったと推認すべきである。原告の主張は失当であって、取消事由2に関する審決の認定判断に誤りはない。
3 取消事由3について
原告は、本件発明は、里見公直、木村彰彦及び犬飼忠彦の三者により発明されたものであると主張する。
検討するに、成立に争いのない甲第11、第12号証(里見調書<1>、<2>)、第13号証(名古屋地方裁判所平成6年(ワ)第2764号事件における平成8年8月26日の木村彰彦の本人調書)及び弁論の全趣旨によれば、本件発明の発明者は里見公直と認められる。
なお、上記甲第11号証ないし第13号証によれば、木村が、「米糠であるとか米胚芽であるとかを使って何か体にいい物を開発したい、例えばアルコールに効くとか」等という抽象的な希望を述べたこと、里見の具体的着想により同人の指示を受けて実験を行ったのは木村であること及び犬飼が本件発明に従って実施例1における化学物質の配合を考え、里見に確認の上、本件明細書を記載したことが認められるものの、これをもって木村ないし犬飼が本件発明の共同発明者であるとすることはできないし、他に上記認定を左右するに足りる証拠はない。
したがって、原告の主張は採用することができず、取消事由3に関する審決の認定判断に誤りはない。
第4 以上のとおり、本件発明を無効とすることはできないとした審決の認定判断に誤りはなく、審決に原告主張の違法はない。
よって、原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日・平成10年7月7日)
(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)
理由
第1 本件特許1885507号
本件特許第1885507号(以下、「本件特許」という。)は、平成2年3月20日の特許出願(特願平2-71434号)に係り、当該特許出願について平成6年2月9日に出願公告(特公平6-9474号)された後、平成6年11月22日に特許権の設定登録がなされたものである。そして、本件特許に係る発明は、出願公告された明細書の特許請求の範囲の各請求項に記載された下記のとおりと認める。
「【請求項1】米糠類、大豆、炭素源及び水を含み、アルカリ剤にてPHを7.5~10に調整された液体培地に納豆菌或いは枯草菌を接種し、通気撹拌をすることにより培養を行って、摂取による血中のアルコール濃度の低下作川及びアルコール口臭の除去作川を有する醗酵物を製造することを特徴とするアルコール耐性付与醗酵物の製造方法。
【請求項2】請求項1記載の液体培地のpHを8.5~10とした請求項1記載のアルコール耐性付与醗酵物の製造方法。
【請求項3】請求項1又は2記載の液体培地に、更にアルカリ性プロテアーゼを配合する請求項1又は2記載のアルコール耐性付与醗酵物の製造方法。
【請求項4】米糠類、大豆、炭素源及び水を含み、アルカリ剤にてpHを7.5~10に調整された液体培地に納豆菌或いは枯草菌を接種し、通気撹拌をすることにより培養を行って、製造したアルコール耐性付与醗酵物に、酵母を添加することを特徴とするアルコール耐性付与醗酵食品。
【請求項5】請求項4記載の液体培地のPHを8.5~10とした請求項4記載のアルコール耐性付与醗酵食品。
【請求項6】請求項4又は5記載の液体培地に、更にアルカリ性プロテアーゼを配合する請求項4又は5記載のアルコール耐性付与醗酵食品。」
第2 当事者の主張及び提出した証拠方法
当事者の主張及び提出した証拠方法は以下のとおりである。
1. 請求人の主張
請求人は、「第1885507号特許はこれを無効にする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として主張するところは、審判請求書、平成7年12月18日付けの審判事件弁駁書及び平成8年4月23日付けの審判理由補充書によれば、下記の旨である。
(1)前記請求項1~6記載のそれぞれの発明は、下記<1>~<6>にそれぞれ記載する甲号各証に記載された発明若しくは事項に基づき当業者が容易に発明しえたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないもので、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきものである。
<1>請求項1記載の発明については、甲第1~9、12、14、16、17号証
<2>請求項2記載の発明については、甲第1、2、12、16号証
<3>請求項3記載の発明については、甲第1、2、10、12、16号証
<4>請求項4記載の発明については、甲第1、2、11、12、16号証
<5>請求項5記載の発明については、甲第1、2、11、12、16号証
<6>請求項6記載の発明については、甲第1、10、11、16号証
(2)本件特許に係る特許出願は、下記<1><2>の理由により特許法第36条第4項または第5項に規定する要件を満たしていなく、本件特許は、特許法第123条第1項第3号の規定により無効とされべきである。(なお、特許法第123条第1項第3号は、特許法第123条第1項第4号の明らかな誤記と認める。)
<1>本件特許に係る明細書に記載されている実施例は、大量のフィチン酸の添加したものである。しかし、前記請求項1記載の発明の効果である「摂取による血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用」の大半および前記請求項4記載の発明の効果である「アルコール耐性付与効果」の大半は、このフィチン酸に起因するものと思われ、前記請求項1、4記載のそれぞれの発明において「フィチン酸」は構成に欠くことのできない事項であるところ、この構成が前記請求項1、4には記載されていない。
<2>前記請求項1及び請求項4記載の発明において、枯草菌が構成の一部になっているが、枯草菌は、甲第6号証によれば、腐敗菌でもある。そうすると、前記請求項1、4における「醗酵物」は腐敗物になってしまうことも十分に考えられるので、明細書に枯草菌の具体的名を記載する必要があるところ(甲第1、7、8号証には具体的な菌名が記載されている。)、明細書にはこの記載がなく、枯草菌を使用する場合、当業者は前記請求項1、4記載の発明を容易に実施できないので、本件特許に係る明細書の「発明の詳細な説明」には、前記請求項1、4記載の発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の構成が記載されていない。
(3)本件特許に係る特許出願の願書の発明者の項には、里見公直、一名しか記載されていない。
しかるに、甲第13、18、19号証によれば、本件特許に係る発明は、里見公直、本村彰彦及び犬飼忠彦が昭和59年以前に発明したものである。そして、本件特許の権利者である有限会社ビセイケン、株式会社東洋醗酵は、ともに昭和59年には未設立であり、有限会社ビセイケンは、本件特許の出願時にも未設立である。そうすると、本件特許は、発明者でないものであってその発明についての特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされた可能性があり、特許法第123条第1項第5号の規定により、無効とされるべきものである。
(4)前記請求項1~6に記載された発明は、甲第18、19号証によれば、実施不能な範囲があり、産業上利用することができない部分を含むものであるので、特許法第29条柱書の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とされるべきものである。(なお、特許法第123条第1項第1号は、特許法第123条第1項第2号の明らかな誤記と認める。)
2. 請求人が提出した証拠方法
請求人は、前記審判請求書、前記審判事件弁駁書及び前記審判理由補充書により下記の証拠方法を提出した。
甲第1号証 特公昭57-59754号公報
甲第2号証 口経産業新聞(昭和62年6月30日付け)
甲第3号証 試験報告書「ヒトにおけるGMT(グルメート)の血液中アルコール濃度、体調に及ぼす影響」(株式会社東洋醗酵 代表取締役 木村彰彦著 昭和63年9月6日付け)
甲第4号証 生化学辞典(第272、471~472、704、1235頁)(株式会社東京化学同人、1984年4月10日 発行)
甲第5号証 発酵工業用語辞典(第288頁)(技報堂 昭和35年11月10日 発行)
甲第6号証 増補 新食品微生物(第45、50~58、131~137、151~161頁)(農業図書株式会社 1989年12月15日 発行)
甲第7号証 特開昭63-279789号公報
甲第8号証 特公昭56-53985号公報
甲第9号証 特開平2-35052号公報
甲第10号証 特開昭51-35461号公報
甲第11号証 特開昭61-239852号公報
甲第12号証 特開平1-287035号公報
甲第13号証 名古屋地方裁判所の平成六年(ワ)第二七六四号における「準備書面(原告第一回)」(一九九四年一〇月二一日付け)
甲第14号証 トリガー(1997年8月号 第68頁)(株式会社日刊工業新聞社 昭和62年8月1日 発行)甲第15号証 特公平6-9474号公報
甲第16号証 日経産業新聞(昭和63年9月20日付け)
甲第17号証 広辞苑第二版補訂版(第1798~1799頁)(株式会社岩波書店 昭和57年10月15日 発行)
甲第18号証 名古屋地方裁判所の平成六年(ワ)第二七六四号における里見公直の「証人調書」(期日 平成八年一月十九日)
甲第19号証 名古屋地方裁判所の平成六年(ワ)第二七六四号における里見公直の「証人調書」(期日 平成八年二月二十三日)
3. 被請求人の主張
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。
審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、その主張するところは、平成7年8月28日付け及び平成8年3月29日付けの審判事件答弁書によれば、下記の旨である。
(1)前記請求項1~6記載の各発明は、乙第1、4、9、10号証に記載の格別の効果を奏するものであり、乙第2、11号証の記載事項を考慮すれば、甲第1、2、4~6、9~12、14、16及び17号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明しえたものではなく、本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当しないものである。なお、甲第3号証は、乙第3号証から、公知ではない。
(2)本件特許に係る明細書に、フィチン酸は「pH調整及び醗酵補助剤の役割をする」と記載され、乙第4号証の記載から明らかなように、請求項1、4記載の発明において、フィチン酸がなくても所期の効果を奏するものである。
また、甲第4、6号証及び乙第5号証記載事項から、枯草菌と納豆菌は同分類であり、その性質は同じであり、納豆菌の例示をもって、枯草菌も同じ効果を奏するとしても、その記載は明確であり、枯草菌の具体的な菌名を例示しなくとも、前記請求項1~6記載の発明は、当業者においては容易に実施できる。
よって、本件特許に係る出願は、特許法第36条第4、5項の規定を満たし、本件特許は、特許法第123条第1項第3号(第4号の誤記と認める)の規定に該当しない。
(3)甲第13号証では、里見公直、木村彰彦及び犬飼忠彦の3名が発明者といっていない。里見氏が発明者で、本村氏は発明者に資金及び設備利用を提供し、試験を補助したり、一般的アイデアを提供した者であり、犬飼氏は一般的な発酵技術について必要に応じて適宜一般的な助言、指導を行った者である。
また、乙第8号証に示されるように平成3年9月10日に有限会社ビセイケン及び株式会社東洋醗酵へ特許を受ける権利が譲渡されている。
以上より、本件特許は、特許法第123条第1項第5号の規定によって、無効とされるものではない。
なお、請求人の提出した平成8年4月23日付けの審判理由補充書は、被請求人に送付されていないため、請求人の主張する前記第2 1.(4)に対する反論はされていない。
4. 被請求人の提出した証拠方法
被請求人は、前記各審判事件答弁書により、下記の証拠方法を提出した。
乙第1号証 アルコール耐性付与醗酵物の製造方法及びアルコール耐性付与醗酵物の実験報告書(実験報告責任者;(株)東洋発酵、研究室 薬剤師 高田敦士)
乙第2号証 特許庁編「特許・実用新案 審査基準」(第10~11頁)(社団法人 発明協会 平成5年7月20日初版 発行)
乙第3号証 グルメート売買契約書(昭和62年1月5日付け)(契約締結者:株式会社 目鉱、株式会社 ペットケアーシステム、株式会社 三和化学研究所)
乙第4号証 アルコール耐性効果とフィチン酸若しくは発酵液そのものとの関係を示す試験結果報告書(実験報告責任者;(株)東洋発酵、研究室薬剤師 高田敦士)
乙第5号証 新版 応用微生物学Ⅱ(第214頁)(相田 浩等共著、朝倉書店1987年5月15日第8刷 発行)
乙第6号証 特許庁「特許・実用新案 審査便覧」(第1頁、12.01A「発明者」欄)(社団法人発明協会昭和63年12月20日改訂 発行)
乙第7号証 特許法概説[第9版増補](第141~142頁)(吉藤幸朔著、(株)有斐閣 1992年7月20日第9版増補第1刷 発行)
乙第8号証 譲渡証書(平成3年9月10日付け)(譲受人:有限会社 ビセイケン、株式会社東洋発酵 譲渡人:横山樹雄)
乙第9号証 アルコール耐性付与醗酵物の製造方法及びアルコール耐性付与醗酵物の実験報告書一通気撹拌の効果一(実験報告責任者;(株)東洋発酵、研究室 薬剤師 高田敦士)
乙第10号証 乙第1号証の実験結果を示すグラフ
乙第11号証 特許庁編「特許・実用新案 審査基準」(第17~18頁)(社団法人 発明協会 平成5年7月20日初版 発行)
第3 当審の判断
1. 請求人の主張する理由(1)について
(1)請求人が、請求項1~6記載の発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けられないと主張するなかで提示した甲第1~12、14、16及び17号証についてみると、これら甲号各証には、以下の旨が記載されているものと認められる。
[甲第1号証]
微生物によるβ-1.4-マンナナーゼの製造法に関する技術が記載され、「バチルス・ズブチルスを培養してβ-1.4-マンナナーゼを製造するにあたり、培地にβ-1.4-マンナン、ガラクトマンナン、グルコマンナン等のβ-1.4-マンノピラノシル結合を有するものと米糠、大豆、コーヒー豆、とうもろこし、小麦ふすま及びこれらの抽出物、コーンステイプリカー、糖蜜、廃糖蜜、アルコール蒸留廃液、セルロース、カルボキシメチルセルロース、セロビオースまたは肉エキスのいづれか一種以上を含む培地で培養することを特徴とするβ-1.4-マンナナーゼの製造法」(特許請求の範囲)とあり、「本発明により、バチルス・ズブチルスを培養してマンナナーゼを製造するにあたり、β-1.4-マンノピラノシル結合を有するものと同時に米糠、大豆、コーヒー豆、とうもろこし、小麦ふすま及びこれらの抽出物、コーンステイープリカー、糖蜜廃糖蜜、アルコール蒸留廃液、セルロース、カルボキシメチルセルロース、セロビオース、または肉エキスのいずれか一種以上を含む培地で培養するとβ-1.4-マンノピラノシル結合を有するもの単独で培養した場合に比べ、マンナナーゼ生産が増大させることができる。
バチルス・ズブチルスのマンナナーゼ生産のための培養基の状態は液体・固体あるいは半固体いずれでもよく、培養方法も培養基の状態や量により、静置培養、振とう培養やジャーファーメンターによる強制通気培養(深部培養)など適したものを選ぶことができる。培養温度は10~50℃好ましくは25~40℃である。培養のためのPHは4.5~11.0、好ましくは5.5~9.5である」(第6欄第4~22行)と記載され、また、第1表の最下行には、培地中に1%ローカストビーンガム、0.5%米糠、0.5%人豆粕、0.5%コーンスィープリカー、0.5%アルコール蒸留廃液がふくまれているものが記載されている。
[甲第2号証]
「東洋発酵は米の胚芽を含む米ぬか、大豆などを独自のアルカリ発酵技術によって、抽出・精製した「グルメート」(商品名)を使い、各種の商品開発を進めている。・・・・・酒またはお冷やに数滴たらして飲めば、「酔いの原因となる物質を包み込む作用により、酔いが軽減される」(同社)という。」と記載されている。
[甲第3号証]
ヒトにおけるGMT(グルメート)の血液中アルコール濃度、体調に及ぼす影響についての試験報告であり、GMTは、米胚芽・大豆・アマチャズルを原料とした天然発酵物であり(「1 供試検体」の項)、「本試験において、G.M.T.を摂取すると血液中アルコール濃度の低下速度が増すということが明らかになった。」(「考察および討議」の項)と記載されている。
[甲第4号証]
「ガラクトマンナン[galactomannanD-ガラクトースとD-マンノースから構成される多糖の総称」(第272頁)、「枯草菌[Bacillus subtilis]細菌の一種.胞子を形成する好気性の桿菌で、大きさは0.7~0.8μm×2~3μm、グラム陽性である.わが国では古くよりワラット(藁苞)で納豆を製造しているが、これに関与する納豆菌は、分類学的には枯草菌であり、菌の名の由来ともなっている。」(第471頁)、「セルロース[cellulose]D-グルコピラノースがβ1→4グルコシド結合で連なった繊維状高分子.」(第704頁)及び「マンナン[mannan]D-マンノースから構成される多糖の総称」(第1235頁)との記載がある。
[甲第5号証]
「ジャー・ファーメンター jar fermenter 密閉式の小型通気撹拌用培養タンクで、主として試験研究用に使用される.」(第288頁)との記載がある。
[甲第6号証]
「(4)枯草菌(Bacillus subtilis) この菌は米飯、パン等の腐敗をしばしば起こす。また強力なたんぱく質分解酵素、でんぷん分解酵素を分泌するため、これらの酵素生産に用いられる。
(5)納豆菌(Bacillus natto)は、第13科のBacilaceaeに属し、桿状、グラム陽性の好気性菌で、胞子を形成する。一般に稲わらから分離される。この菌を蒸しただいずに繁殖させると粘質物をつくる。これを糸引納豆の製造に利用している。」(第45頁)及び「3)通気培養法 これは、振とう培養法よりもさらに大量に培養を必要とする大規模な実験や工業的培養に用いられる方法である。
<1> ジャーファーメンター(通気管、かくはん器などを備えたタンク)内に、その容量の0.5~0.7容の培養液を入れ、蒸気殺菌を行い、放冷後、菌を接種する。」(第160~161頁)との記載がある。
[甲第7号証]
核酸分解酵素の製造法についての記載があり、「本発明による液体培養を行なうに当って、培地成分として使用しうる穀類には小麦麩、大豆粕、米糠等を使用できる。これら穀類は水中に分散させて使用するとよく、その添加量は通常液体培地の0.01~20重量%、好ましくは1~5重量%である。
また上記液体培地には糸状菌の培養に通常使用させる炭素源および窒素源を添加してもよい。かかる炭素源としては例えばグルコース、スターチ、グリセリンを使用でき、窒素源としては酵母エキス、ペプトン、硝酸ナトリウムを使用できる。
液内培養を実施するに当って、培養液のpHは通常4~8であり、好ましくは5~7である。このため必要に応じて酸として例えば塩酸、硫酸、塩基として例えばアンモニア、苛性ソーダを使用できる。
培養温度は通常15~40℃、好ましくは20~35℃であり、培養時間は2~4日でよい。
培養には通常の振盪培養、通気撹拌培養が使用できる。」(第2頁左右下欄)との記載がある。
[甲第8号証]
微生物溶解酵素の製造法についての記載があり、「本菌株バチルス・ズブチリスAJ3449(微工研1962)を炭素源、窒素源、無機塩その他の微量有機栄養素を含有する通常の培地中に好気培養する。炭素源としてはグルコース、ガラクトース、シュクロース、マルトース等の単糖類、澱粉及びその加水分解物等の多糖類、酷酸、クエン酸等の有機酸又はその塩、エチルアルコール、ソルビトール、グリセリン等のアルコールが使用できる。窒素源としては通常の有機、無機の窒素源でよく、特にアンモニウムイオンが有効である。大豆蛋白、大豆フレーク抽出物、ポリペプトン、カゼイン、肉エキス、アミノ酸液、コーンステイープリカー等は、窒素源としても使用できる。
培養は、25~40℃で1ないし3日振盪又は通気撹拌培養する。培養の間pHは5ないし8の中性附近に酸又はアルカリで調節することにより高い酵素活性が得られる。」との記載がある。
[甲第9号証]
穀物類等の副生物の処理方法が記載され、「1)穀物類等の副生物に直接納豆菌を植種し、PH7~8の範囲の低醗酵状態とした後、有機酸を添加してpHを6~7の範囲に調整することを特徴とする穀物類等の副生物の処理方法」(特許請求の範囲)及び「本発明は、上記目的を達成するために穀物類等の副生物に直接納豆菌を植種し、PH7~8の範囲の低醗酵状態とした後、有機酸を添加してpHを6~7の範囲に調整することを特徴とする穀物類等の副生物の処理方法;穀物類等の副生物に有機酸を添加してPHを3~7の範囲に調整しと後、バチルス・ナットー・サワムラ(Bacillus natto SAWAMURA)を植種して高醗酵状態とすることを特徴とする穀物類等の副生物の処理方法;及び、穀物類等の副生物に右機酸を添加してpHを3~7の範囲に調整した後、バチルス・ナットー・サワムラ(Bacillus natto SAWAMURA)「を植種して高醗酵状態とし、これに吏にアスベルギルス・ニガーヤングNo.2(Aspergillus Nigor Yang No.2)を植種して醗酵させることを特徴とする穀物類等の副生物の処理方法を提供せんとするものである。
上記各方法にて処理しうる穀物類等の副生物としては、米から副生する糠、麦から副生する麩、大豆から副生する大豆粕、豆腐から副生するオカラ、甜菜から副生する甜菜糠搾り粕等がある。」
(第3頁左右上欄)との記載がある。
[甲第10号証]
調味液の製造法について記載され、「NSI(可溶性窒素指数、Nitrogen Solubility Index)が50以下の変性脱脂大豆に、PH9~12の範囲でアルカリプロテァーゼを2時間以内作用せしめて、蛋白質由来の窒素成分の70%以上を可溶化抽出し、固液分離を行う第1工程と、抽出された溶液にペプチターゼを密閉容器内で40~60℃にて作用せしめて加水分解する第2工程との結合を特徴とする調味液の製造法。」(特許請求の範囲)及び「ペプチターゼとしては市販のペプチターゼ類を用いてもよい。また、例えば、アスペルギルス オリザエ、アスペルギラス ソヤエ(Asp.sojae)、クラドスポリウム属の菌種(Cladosporium sp.)(特願昭49-19224)、バチルス ズブチリス、バチルス ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)等を、ペプチターゼ生産菌培地に培養して得た培養物、若しくはそれらから適当な方法で処理した酵素粉末を加えても良い。」
(第3頁右上欄)との記載がある。
[甲第11号証]
栄養補助食品の製造方法についての記載があり、「大豆を蒸煮した後、放冷し適温になった際に納豆菌又はテンペ菌を接種し、所定時間醗酵させ、ついで前記醗酵大豆を乾燥して粉末化した後、適量の食用ビール酵母および胃腸内で消化吸収されない糖類を加えて調味することを特徴とした大豆を主材とする栄養補助食品の製造方法。」(特許請求の範囲第4項)との記載がある。
[甲第12号証]
薬物並びにアルコール性中毒の予防剤とその治療剤についての記載があり、「(1)フィチン酸及びその塩を有効成分とする薬物並びにアルコール性中毒の予防剤。」(特許請求の範囲)及び「一方、フィチン酸類はカルシウム、マグネシウム、ときにはカリウム塩として、植物界に広く分布している。例えば、米ヌカには9.5~14.5%ものフィチン酸が含まれており、工業的フィチン酸或はこれに由来するミオイノシトールの原料となっている。」(第1頁下右欄)、「ところが、本発明者らはフィチン酸の栄養実験の過程でフィチン酸を経口的に投与したところ体臭ことに口臭、尿臭、汗臭が減ずることを発見し、ことにアルコール口臭の除去作用について研究したところフィチン酸がアルコールことに体内代謝物であるアルデヒド性物質の生成分解に関与し、解毒性性質を有することを見出したものである。」(第2頁左上欄)と記載され、発明の効果の項(第2頁右下欄)に、フィチン酸は、アルコール性中毒に対しては急性中毒症状、二日酔い防止を目的として利用可能である旨、及び実施例1の項(第3頁左右上欄)に、フィチン酸投与により、呼気中のアルコール濃度が減少することが判明した旨記載されている。
[甲第14号証]
「ふっくらごはん」に関する記載があり、「このユニークな商品を発表したのは、愛知県大府市にある東洋発酵(・・・・)というベンチャー.・・・木村彰彦氏(35才)が昭和59年に退職して個人開業し、・・・・ほやほやの企業だ.・・・・友人の紹介で発酵方法の開発者、市川賢治さん(現在同社取締役)に出会ったことが、会社設立にとながった.」(第1欄)及び「秘密は、市川さんが開発した発酵物「グルメート」にある.米はい芽、梅、大豆などの原料から、発酵によって取り出したもので、ビタミンB群、サポニン、各種ミネラル、クエン酸などを含む天然の物質だ.」
(第2欄)との記載がある。
[甲第16号証]
「二日酔い防止ドリンク 兼松江商が販売」に関する記載があり、「・・・・主原料のグルメートは米はい芽、大豆、あまちゃづるなどを独自のアルカリ発酵技術によって抽出精製した純植物性のエキス。飲酒の直前に飲めば、アルコールの代謝促進をもたらし、飲酒後の血中アルコール濃度を低下させる効果があるという。」と記載されている。
[甲第17号証]
はっこう(発酵、醗酵)の用語について「酵母類、細菌類などの微生物が、有機化合物を分解してアルコール類、有機酸類、炭酸ガスなどを生ずる作用。」との記載がある。
(2)次に、請求人が主張する、前記請求項1記載の発明は甲第1~9、12、14、16、17号証に記載された発明若しくは事項に基づき当業者が容易に発明しえたものとする点について検討する。
<1>甲第1号証に記載されていることを甲第4、5、6号証を斟酌してみてみると、甲第1号証には、前記請求項1記載の発明との対応において、下記のことが記載されていると認められる。
(a)培地は、米糠類、大豆、炭素源及び水を含む液体培地である場合があり、実施例に米糠、大豆粕、炭素源を組み合わせた培地も記載されている。
(b)培地のPHを、前記請求項1記載の発明のpH7.5~10を含むpH4.5~11.0の範囲にし、枯草菌を接種して通気撹拌をすることによって培養すること記載されている。
しかしながら、甲第1号証には、請求項1記載の発明との対応において、下記のことが記載されているとは認められない。
(c)アルカリ剤にてpH7.5~10に調整すること。
(d)摂取による血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用をするアルコール耐性付与発酵物。
<2>そこで、前記甲第1号証に記載されていない事項(c)、(d)についてさらに検討すると、前記事項(c)については、甲第7、8号証にアルカリを用いてpHを調節することが記載されていることから、「アルカリ剤にてpHを調節すること」は、当業者において容易になし得たことと認められるが、前記請求項1記載の発明においてそのpHの範囲を7.5~10にしたことは、本件特許に係る明細書の記載によれば、アルコール耐性付与醗酵物の製造における至適pHの範囲であり、またこのpHの範囲は、被請求人が提出した乙第1、10号証を参酌すると、請求項1記載の発明の醗酵物において、アルコール耐性が付与されるための特異的範囲と認められることから、さらには、後述の前記事項(d)の検討で指摘するように前記請求項1記載の発明は、「醗酵物」そのものではなく、「醗酵物を用いたアルコール耐性を付与する物」を製造する、いわゆる「用途発明」に係る発明と認められることから、甲第1号証においてpHの範囲がpH7.5~10の範囲を含む範囲が記載されているからといって、請求項1記載の発明において、pHを7.5~10の範囲に限定することは当業者において容易に想到し得たものとは認めがたい。
次に、前記事項(d)に関して検討すると、前記請求項1記載の発明は、「米糠類、大豆、炭素源及び水を含み、アルカリ剤にてpHを7.5~10に調整された液体培地に納豆菌或いは枯草菌を接種し、通気撹拌をすることにより培養を行って」製造した醗酵物が、摂取により血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用を有することを見出し、この「醗酵物を用いたアルコール耐性を付与する物」を製造するものであることは、本件特許に係る明細書の記載からみて明らかであり、いわゆる「用途発明」に係る発明である。してみれば、前記請求項1記載の発明において、「摂取による血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用を有する醗酵物」及び「アルコール耐性付与醗酵物」は必須の構成と認められることから、請求人の主張する「摂取による血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用を有する」は、請求項1記載の発明の効果であるとし、甲第1号証に記載された培養によって作られる醗酵物も同様の効果を有し、この点に差違はない、とすることはできなく、さらに、甲第1号証に記載されているのは、「微生物によるβ-1.4-マンナナーゼの製造法」に関することであり、これに記載された培養によって作られた醗酵物を、人が摂取すること及びこの醗酵物の摂取による血中のアルコール濃度の低下作用及びアルコール口臭の除去作用を有することの記載も示唆もない以上、甲第1号証をもって、前記請求項1記載の発明において、前記事項(d)が当業者において容易になし得たこととすることもできない。
<3>また、甲第2、14、16号証に「グルメート」
についての記載があるが、この製造において「アルカリ発酵技術」が如何なるものか不明であり、技術常識及び他の甲号各証を参酌しても、前記「アルカリ発酵技術」が前記請求項1記載の発明と同様に「pH7.5~10」の培地で発酵するものであるとは認められない。また、如何なる箘で発酵させるものかも不明である。してみれば、甲第1号証は、「β-1.4-マンナナーゼの製造法」に関する技術が記載されたものであり、これに記載された培養によって作られる発酵物が如何なる作用効果を持つものか記載がなく、前記「グルメート」が如何なる菌で発酵させるものかも不明である等を考えると、たとえ、甲第17号証を参酌しても、甲第1号証の前記発酵物が、甲第2、14、16号証から、アルコールの代謝促進をもたらし、飲酒後の血中アルコール濃度を低下させる効果があるすることも、前記「グルメート」の製造において使用される菌が、甲第1号証から「納豆菌或いは枯草菌」であり、請求項1記載の発明と同じ方法で製造されるものであるとすることもできない。
なお、甲第3号証は、「昭和63年9月6日」と日付けが記載されているが、これのみをもって、この甲号証が、本件特許に係る出願の出願前において頒布された刊行物若しくはその内容が公知であったとすることはできなく、被請求人が提出した乙第3号証をみると、むしろ公知ではないとするのが相当と認められるので、請求人の甲第3号証が公知であることを前提とする主張は認められ1
ない。
<4>甲第12号証に、フィチン酸の効用として呼気中のアルコール濃度が減少する等があり、フィチン酸が米ヌカに含まれている旨の記載がある。ところで、甲第1号証は、前述のごとく「β-1.4-マンナナーゼの製造法」に関する技術が記載されたものであり、この技術において米ヌカは培地に含まれる栄養源として選択される一種にすぎない。してみると、甲第1号証記載の技術において、培地の栄養源として米ヌカが選ばれた場合には、そのとき作られる発酵物が、甲第12号証の前記記載から、当業者が容易に呼気中のアルコール濃度が減少する等の効用があるものと想到できるものとするには無理がある。
<5>甲第9号証には、米糠、大豆粕などを納豆菌で発酵処理する技術が記載されている。請求人は、この事実をもって、前記請求項1記載の発明において納豆菌に限定されたとしても、甲第1号証記載の技術において枯草菌に換えて、納豆菌を使用することは当業者において容易であり、前記請求項1記載の発明は当業者において容易に発明し得たものであると予備的に主張するが、前記請求項1記載の発明は、請求人の言うように限定されておらず、この主張は当を得ないものである。仮に、請求人の言うように前記請求項1記載の発明が補正されたとしても、この主張の前提となる、前記請求項1記載の発明が、甲第1号証または甲第4、5、6号証を参照して、さらには甲第2、14、16号証または甲第12号証とそれぞれ組み合わせて(甲第7、8、17号証を参照して)当業者において容易に発明し得たものである、とは前述のように認められないことから、この主張は、採用できないものである。なお、甲第9号証において、前記請求項1記載の発明が、当業者において容易に発明し得たものとする事実は見いだせない。
さらに、前述した甲号各証以外の甲号証をみても、前記請求項1記載の発明に関する前記判断を覆すに足りる事実は、見いだせない。
(3)続いて、前記請求項2~6記載の発明について検討する。ところで、前記請求項2~6記載の発明は、「米糠類、大豆、炭素源及び水を含み、アルカリ剤にてpHを7.5~10(請求項2、5記載の発明においては、8.5~10)に調整された液体培地に納豆菌或いは枯草菌を接種し、通気撹拌をすることにより培養を行って、アルコール耐性付与醗酵物を製造」することを、それぞれ主要な構成とするものである。そして、この主要な構成は、前記請求項1記載の発明に関する判断において述べたように、前記甲号各証から当業者が容易に発明し得たものと認められないことから、前記請求項2~6記載の発明において、前記主要な構成以外のそれぞれ他の構成を、甲第10、11号証を考慮して、検討するまでもなく、請求人が主張するように、前記請求項2~6記載の発明は、当業者が容易に発明し得たもの、とすることはできない。
(4)以上のことから、前記請求項1~6記載の発明は、請求人の提出した甲第1~12、14、16、17号証をもっては、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないもので、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とされるべきもの、とすることはできない。
2. 請求人が主張する理由(2)について
(1)まず、前記第11.(2)<1>の点について検討すると、本件特許に係る明細書において、フィチン酸は「pH調整及び酵素補助剤の役割」と記載され(本件特許に係る特許公報である特公平6-9474号公報第2頁第4欄第13行参照)、また、被請求人の提出した乙第4号証を参酌すると、フィチン酸がない場合でも、前記請求項1、4記載の発明は、その効果を奏するものと認められる。してみれば、フィチン酸は、前記請求項1、4記載の発明において構成に欠くことのできない事項とは認めらないことは、明らかである。
(2)次に、前記第11.(2)<2>の点について検討する。本件特許に係る明細書には、前記請求項1、4記載の発明の関する実施例として、納豆菌を使用したものが記載されている。そして、甲第4、5号証及び乙第5号証の記載をみると、納豆菌は枯草菌の代表的な菌であり、その性質は同じものであることは、当業者において周知のことと認められることから、当業者において、前記のように納豆菌の実施例があれば、他の枯草菌においても岡様の効果が期待できることは自明のことと認められる。してみれば、他の枯草菌の実施例がないからといって、請求項1、4記載の発明が当業者において容易に実施できないとすることはできない。
(3)以上のことから、請求人の主張する、本件特許に係る特許出願は、特許法第36条第4項または第5項に規定する要件を満たしていなく、本件特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされべきである、とすることはできない。
3.請求人の主張する理由(3)について
(1)本件特許に係る特許出願は、出願人が有限会社ビセイケン及び株式会社東洋発酵であり、発明者が里見公彦と認められる。(本件特許に係る特許公報である甲第15号証参照)
ところで、甲第13号証には、「本件発明は昭和五九年以前に、発明者として表示されている里見公直、原告東洋発酵代表者木村彰彦(以下原告木村という)、有限会社ビセイケン代表者犬飼忠彦の三者の個人(当時原告東洋発酵、ビセイケンいずれも未設立)の共同研究の中で完成していた。」との記載があるが、前記三者が、互いにどのように本件特許に係る発明に関与していたか具体的に判明しないこと等から、この甲号証から、直ちに本件特許に係る発明の発明者が、前記三者であるとすることはできない。
また、請求人は、前記出願人の両者は、昭和59年には未設立であり、有限会社ビセイケンは本件特許の出願時未設立であることから、本件特許権者である前記両者は、本件特許に係る発明についての特許を受ける権利を承継したものか不明であると主張するので、この点について検討する。
職権による調査によれば、本件特許に係る特許出願の当初の願書に記載された出願人は、有限会社日本胚芽研究所であり、その清算人である横山樹雄から、被請求人の提出した乙第8号証に示されるように、本件特許に係る発明の特許を受ける権利が有限会社ビセイケン及び株式会社東洋発酵に譲渡がなされた。そして、これに関する手続きが、前記特許出願においてなされている。そうすると、前記請求人の主張に理由がない。
(2)請求人は、甲第18、19号証によれば、木件特許に係る発明に関し、里見氏は実際に実験を行っておらず、実験を行ったのは木村氏であり、本件特許に係る明細書に記載された実施例1における配合も里見氏が考えたものではなく、犬飼氏が考えたものであり、さらには、この実施例1の実験を行ったものも里見氏でないことから、本件特許に係る発明は、前記三者により発明さたもので、本件特許は、特許法第123条第1項第5号の規定により無効とされるべきである旨主張するので、この点について検討する。
甲第18、19号証をみると、木村氏の実験は、里見氏の指示に従って行ったもので(例えば、甲第18号証第14~27頁及び甲第19号証第17頁参照)、できた発酵物の効果の確認についても指示していると認められる(例えば、甲第18号証第28~34頁参照)。そして、木村氏がこの実験において本件特許に係る発明に関連して如何なるアイデアを提供したかは、甲第18、19号証記載事項から具体的に見出すことができない。
また、里見氏が本件特許に係る発明の発明者であることを本人のみならず木村氏も認識している(例えば、甲第18号証第7頁及び第49、50頁参照)。
これらのことを考慮すると、この甲第18、19号証をもって、直ちに木村氏も本件特許に係る発明の発明者とすることはできない。
さらに、木件特許に係る明細書を作成したのは、犬飼氏であり、それに記載された実施例1も犬飼氏によるものと認められる(甲第18号証第48、49頁及び甲第19号証第60頁参照)。しかし、犬飼氏が考えたのは、実施例1における化学物質の配合についてであり、本件特許に係る発明に従ってその配合を記載したとも思われる(甲第18号証第53頁参照、明細書を里見氏に確認している)ことから、この甲第18、19号証をもって、直ちに犬飼氏も本件特許の係る発明の発明者とすることができない。
以上のことから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
4. 請求人の主張する理由(4)について
確かに、甲第18号証第17頁及び甲第19号証第62、63頁に、本件特許に係る発明の発明者である里見氏の発言として、納豆菌はPH9が生育の限界である旨の記載が認められる。しかし、これら記載において、本件特許に係る発明においても納豆菌がPH9以上で生育しないということを言明している記載は見いだせず、また、甲第18、19号証の他の記載をみると、里見氏は本件特許に係る明細書の内容(PH7.5~10と記載されている)を確認している記載もあり(例えば、甲第18号証第53頁参照)、これを考えると、納豆菌の一般的な生育環境について発言したとも考えられることから、これら甲号各証をもって、直ちに本件特許に係る発明が、実施できない部分を含むものとはできない。そうすると、請求人の前記主張も採用できない。
なお、請求人の前記第21.(4)記載の主張及び甲第18、19号証を根拠とする主張に対しては、前述のごとく採用できないものであるので、被請求人に、請求人の提出した平成8年4月23日付けの審判理由補充書を被請求人に送付して、これらに対する意見主張を聞く必要がないものとなった。
第4 結語
以上のことから明らかなように、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許は、特許法第123条第1項第2号、同項第4号及び同項第5号のいずれにも該当しなく、本件特許を無効とすることはできない。
よって、本件審判請求は成り立たないものとし、本件審判費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第86条を適用して、結論のとおり審決する。