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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)231号 判決 1999年2月09日

東京都荒川区西日暮里5丁目21番7号

原告

株式会社ダイナム

代表者代表取締役

佐藤洋治

訴訟代理人弁理士

大菅義之

山本輝美

東京都品川区大崎3-6-26 ニュー大崎マンション503号

被告

長谷川学

訴訟代理人弁理士

伊藤捷雄

主文

特許庁が平成8年審判第40007号事件について平成8年8月27日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

主文と同旨

2  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、考案の名称を「パチンコ遊技場における煙草の吸殻等の自動回収装置」とする実用新案登録第3012830号考案(平成5年5月19日出願、平成6年12月21日出願変更(平成5年法律第26号による改正後の実用新案法附則5条1項の規定による実用新案登録出願)、平成7年4月19日設定登録。以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。

原告は、平成8年2月22日、被告を被請求人として、本件考案の実用新案登録の無効の審判を請求し、平成8年審判第40007号事件として審理された結果、平成8年8月27日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受け、同年9月17日にその謄本の送達を受けた。

2  本件考案の実用新案登録請求の範囲

本件明細書に記載された本件考案の実用新案登録請求の範囲の請求項4の記載は、次のとおりである。

「複数のパチンコ遊技機を並列載置した台部に沿って樋部を設け、この樋部と前記各パチンコ遊技機に対応して設けた灰皿と連通させ、前記台部の少なくとも一端部に前記樋部と連通する回収容器を設けると共に、前記樋部内に前記灰皿より投入されたタバコの吸殻を前記回収容器へ移送する移送手段を設けたものにおいて、前記樋部に沿って前記灰皿と連通している排煙ダクトを設け、この排煙ダクトに排風機を接続させると共に、前記樋部はその側部或は上部をガード板で覆ったもので構成し、このガード板を開閉或は着脱自在に構成したことを特徴とする、請求項1記載のパチンコ遊技場における煙草の吸い殻等の自動回収装置。」(別紙図面(1)参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本件考案の実用新案登録請求の範囲の請求項4は、前項記載のとおりである。

(2)  先願明細書及び引用例

本出願の日前の特許出願であってその特許出願後に出願公開された特願平4-339115号公報(特開平6-182052号公報。本訴の甲第5号証)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願明細書」という。)には、複数のパチンコ遊技機3を並列載置した中空体1に沿って細長い内部空間6を設け、この内部空間と各パチンコ遊技機の前に設けた灰皿29の開口孔31とを連通させ、前記中空体の一端部に前記内部空間と連通する回収装置7を設けると共に、前記内部空間内に前記灰皿より投入されたタバコの吸殻を前記回収装置へ移送する移送手段を設けたものにおいて、網目状フィルタ37及びパイプ39を介して前記灰皿と連通している排煙ダクト42を前記内部空間に沿わせて設け、この排煙ダクトに排風機44を接続させた、パチンコ遊技場における煙草の吸殻処理装置が記載されている。

特開昭61-50581号公報(本訴の甲第4号証。以下「引用例1」という。)には、列状に配列した各パチンコ機の前方に突出して設置した灰皿の底面をタバコの吸殻が落下しやすい網目状に形成し、かつ、各パチンコ機の灰皿の下方と連通して底面から落下したタバコの吸殻を載せて列状に配列したパチンコ機列の一方から他方に搬送するためのベルトコンベアを回動可能に設置し、ベルトコンベアで搬送された吸殻を溜めるための吸殻回収ケースをベルトコンベアの他方端位置に設置したパチンコ機用タバコの吸殻処理装置が記載されている。(別紙図面(2)参照)

特開昭60-45371号公報(本訴の甲第7号証。以下「引用例2」という。)には、パチンコ台の近傍に据え付けられた灰皿と、灰皿の中の吸殻、パチンコ玉等を搬送するための灰皿の底部と連通する管路と、この管路を介して落下する吸殻、パチンコ玉等をベルト及びキャリアよりなるベルトコンベアと、ベルトコンベア上のパチンコ玉を磁気によって分離する手段と、分離された吸殻及びパチンコ玉をそれぞれ収納する収納箱とを備えた吸殻等の収集分別装置が記載されており、2頁左下欄12行ないし17行及び図面第4図には、灰皿と連通したダクトを設け、このダクトを空気吸引手段と接続してダクト内を負圧にする技術手段が開示されている。

(3)  無効理由1について

本件考案の請求項4と引用例1及び2記載の技術とを対比すると、本件考案の請求項4の必須の構成要件である「樋部はその側部或は上部をガード板で覆ったもので構成し、このガード板を開閉或は着脱自在に構成した」点について、引用例1及び2には何ら記載されておらず、また、その示唆もない。

本件考案の請求項4は、上記のとおり、引用例1及び2に記載されておらず、かつ、その示唆もされていない特有の構成を具備することによって、当該明細書に記載された格別な効果を奏するものであり、このような効果は、引用例1及び2記載の技術には期待することができないものである。

したがって、本件考案の請求項4は、引用例1及び2記載の技術から、当業者が極めて容易に想到し得るものではない。

(4)  無効事由2について

(イ) 本件考案の請求項4と先願明細書に記載された技術とを対比すると、本件考案の請求項4の「台部」、「樋部」、「灰皿」、「回収容器」、「自動回収装置」は、先願明細書の「中空体1」、「細長い内部空間6」、「灰皿の開口孔31」、「回収装置7」、「処理装置」にそれぞれ相当するから、先願明細書には「複数のパチンコ遊技機を並列載置した台部に沿って樋部を設け、この樋部と各パチンコ遊技機に対応して設けた灰皿と連通させ、台部の少なくとも一端部に樋部と運通する回収容器を設けると共に、樋部内に灰皿より投入されたタバコの吸殻を回収容器へ移送する移送手段を設けたものにおいて、樋部に沿って灰皿と連通している排煙ダクトを設け、この排煙ダクトに排風機を接続させたパチンコ遊技場における煙草の吸殻等の自動回収装置。」が記載されている。

(ロ) しかしながら、本件考案の請求項4の必須の構成である「樋部はその側部或は上部をガード板で覆ったもので構成し、このガード板を開閉或は着脱自在に構成した」点については、先願明細書に「なお、前記ダクト42は、図3に示すように中空体1の内部に並設しても良いが、中空体1と分離して、取り外し可能にパイプなどにて形成して掃除をさらに容易にできるようにしてもよい。」(段落番号【0046】参照。)という記載があるだけであって、排煙ダクトを中空体1に対し取り外し自在のパイプとした技術手段が開示されているとしても、直ちに排煙ダクトとは機能の異なる中空体までも着脱自在にしなくてはならないとする技術的蓋然性が認められないことから、先願明細書には、上記の構成については何ら記載されておらず、また、示唆するところもない。

よって、本件考案の請求項4は、先願明細書に記載された事項と同一であるとは認められない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由中、(1)、(2)、(4)の(イ)は認め、その余は争う。審決は、その認定判断を誤り、違法であって、取り消されるべきである。

(1)  取消事由1

(イ) 審決は、本件考案の請求項4の必須の構成要件である「樋部はその側部或は上部をガード板で覆ったもので構成し、このガード板を開閉或は着脱自在に構成した」点について、引用例1に記載されておらず、また、示唆もない旨認定したが、誤っている。

(ロ) すなわち、本件明細書中には、「また、樋部4とガード板30を一体に構成して、樋部4とガード板30が共に着脱自在となるように機列に沿って取り付けても良い。」(8頁5行ないし7行)という記載があり、同記載を参酌すると、本件考案の請求項4は、樋部とガード板を一体にした構成を採っているものである。

他方、引用例1には、「ベルトコンベア9にはカバー18が・・・蝶番20を介して取付けられ、カバー18を第4図2点鎖線のように開くことによってベルト9の掃除を一層確実に行うことができる。」(2頁左下欄2行ないし6行)という記載があり、その第4図(別紙図面(2)参照)には、開閉自在に構成されたカバー18が記載されているところ、上記カバー18は、カバーと樋の両機能を兼ね備えたものであって、本件考案の請求項4の樋部と目的、構成が同じである。

したがって、本件考案の請求項4の「樋部はその側部或は上部をガード板で覆ったもので構成し、このガード板を開閉は着脱自在に構成した」点が、少なくとも引用例1に示唆されていないとはいえない。

(ハ) 被告は、引用例1のカバーは単なる覆いであって、本件考案の請求項4の樋部とは明らかに異なった概念であり、例えば、引用例1のカバーは、これがなくとも装置として機能するが、本件考案の請求項4の樋部は、これがないと装置として機能しないなどと主張するが、引用例1のカバーは、ベルトコンベアからこぼれ落ちた吸がらや灰を受けとめる目的と、そのための機能を具えたものであり、これがないと吸殻回収装置は機能しないのであって、引用例1のカバーは、本件考案の請求項4の樋部に当たる。

(ニ) よって、上記誤った認定に基づいて、本件考案は引用例1及び2の記載から当業者が極めて容易に想到し得るものではないとした審決の判断は、違法であって、取り消されるべきである。

(2)  取消事由2

(イ) 審決は、本件考案の請求項4の「樋部はその側部或は上部をガード板で覆ったもので構成し、このガード板を開閉或は着脱自在に構成した」との構成は、先願明細書に何ら記載されておらず、また、その示唆もないと認定したが、誤っている。

(ロ) すなわち、本件考案の請求項4の「樋部はその側部或は上部をガード板で覆ったもので構成し、このガード板を開閉或は着脱自在に構成した」との構成において、樋部を開閉自在あるいは着脱自在のガード板で覆う程度のことは、常識的事項(慣用手段)であり、したがって、本件考案の請求項4は、選外明細書記載の技術と実質的に同一である。

(ハ) この点について、被告は、樋部をガード板で覆うことはパチンコ遊戯機の技術分野では慣用技術ではない、技術常識であるならそれを立証しなければならない旨主張するが、慣用技術、周知技術というものは、立証を要しないほど明らかな技術ということである。

(ニ) よって、上記誤った認定に基づいて、本件考案は、先願明細書に記載された技術と同一であるとはいえないとした審決の判断は、違法であって、取り消されるべきである。

第3  請求の原因に対する被告の認否及び主張

1  請求の原因1ないし3は認め、同4は争う。審決の認定判断は、正当であって、原告の主張する審決取消事由は理由がない。

2  被告の主張

(1)  取消事由1について

引用例1のカバーは単なる覆いであって、本件考案の請求項4の樋部とは明らかに異なった概念である。例えば、引用例1のカバーは、これがなくとも装置として機能するが、本件考案の請求項4の樋部は、これがないと装置として機能しない。それは、本件考案の請求項4の樋部が装置本体そのものを構成する部材であるからである。したがって、両者は、その目的、構成及び効果を異にし、全く別の部材であり、カバーと樋部を同列に考えることはできないし、単なるカバーは樋部の代りにはならない。

原告は、本件明細書中の「また、樋部4とガード板30を一体に構成して、樋部4とガード板30が共に着脱自在となるように機列に沿って取り付けても良い。」(8頁5行ないし7行)という記載を取り上げて、本件考案の請求項4は、樋部とガード板を一体にした構成を採っているものである旨主張するが、上記記載は、既に削除された請求項3の「樋部はこれを着脱自在に構成し」に対応する実施例の記載であって、請求項4に対応する実施例の記載ではない。それはあくまで「樋部」の他の実施例であって、「カバー」とは記載しておらず、この「カバー」の実施例ではない。

よって、原告の取消事由1の主張は、理由がない。

(2)  取消事由2について

原告は、本件考案の請求項4の「樋部はその側部或は上部をガード板で覆ったもので構成し、このガード板を開閉或は着脱自在に構成したこと」を技術常識であるというのみで、具体的な証拠を挙げているわけではない。さらに、この技術分野を離れた一般の技術分野においても、樋部をガード板で覆ったもので構成することが、技術常識であるとする証拠はないし、そのようなことが技術常識であるということはあり得ないことである。

よって、原告の無効理由2の主張も、理由がない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本件考案の実用新案登録請求の範囲)、同3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

第2  本件考案の概要

甲第2号証(本願明細書)によれば、本件明細書には、次の記載があることが認められる。

1  産業上の利用分野

「この考案は、パチンコ遊技場におけるパチンコ遊技機の灰皿より煙草の灰や吸殻等を自動的に回収する自動回収装置に関する。」(段落番号【0001】。以下同じ)

2  従来の技術

「従来、この種の自動回収装置として、複数のパチンコ遊技機を並置した通称“島”と称せられる台部の一端部或は両端部に回収容器を設け、この各回収容器の間を水平に走る樋部を各灰皿と連通して設け、この樋部上に各灰皿より落下した灰や吸殻等を回収容器へ移送する移送手段を設置すると共に、前記樋部に煙草の煙を排気させる排風機を接続したものが公知である。」(【0002】)

3  考案が解決しようとする課題

「この従来の自動回収装置は、排風機を接続した樋部が同時に排煙ダクトとなるために、暫く使用すると樋部や移送手段に粘着性のあるヤニが灰と共に付着し、移送手段の円滑な移送を阻害することになる上に、このヤニの臭気が遊技場内に充満するようになってしまうという問題が生じた。

また、樋部は複数の灰皿と口径の大きな連通孔を介して連通させられているために、樋部内の煙を排気させるためには強力なファンを必要とし、それがコストアップと騒音の原因となるという問題もあった。

この考案の目的は、樋部や移送手段にヤニや灰が付着するのを可及的に防止することができる共に、内部を容易に掃除することができるように構成したパチンコ遊技場における煙草の吸殻等の自動回収装置を提供せんとするにある。」(【0003】ないし【0005】)

4  構成

上記目的を達成するために、本件考案は、実用新案登録請求の範囲記載の構成を採用し、「複数のパチンコ遊技機を並列載置した台部に沿って各灰皿と連通させた樋部を設け、台部の少な<とも一端部に樋部と連通する回収容器を設けると共に、樋部内に灰皿より投入されたタバコの吸殻を回収容器へ移送する移送手段を設けたものにおいて、樋部に沿って灰皿と連通している排煙ダクトを設け、この排煙ダクトに排風機を接続させたものである。

その際にこの考案は、排煙ダクトや樋部を着脱自在或は交換自在に構成することができる。

さらにこの考案は、樋部はその側部或は上部をガード板で覆い、このガード板を開閉或は着脱自在に構成することができる。

そしてこの考案は、移送手段を樋部に沿って設けた牽引索とこの牽引索に取り付けられた移送体或は樋部に沿って配置されたエンドレスベルトで構成することができる。」(【0006】ないし【0009】)

5  作用効果

「灰皿より樋部に落下したタバコの吸殻や灰は移送手段により回収容器に移送され回収される。その際に、灰皿上に置かれ或は樋部上に落下した火のついた煙草より立ち昇る煙は排風機により灰皿と連通している排煙ダクトを介して外部へ排気される。排煙ダクトや樋部を着脱自在或は交換自在に構成すると、該排煙ダクトがヤニで詰まったり、樋部にヤニが付着する頃を見計らって取り外して掃除したり、或は新品のものや掃除後のものと交換することができるものである。」(【0010】)

「この考案は以上のように構成したので、パチンコホールの従業員の手をわずらわせことなく煙草の灰や吸殻等を回収処理できることから人手を省略できた上で衛生的である上に、灰皿や樋部上にある煙草から立ち昇る煙を専用の排煙ダクトで排気できるので、煙が樋部やホール内に充満するのを防止できるものである。

その際に装置を簡単に分解できるように構成することによって樋部や移送手段を掃除し、連通管や排煙ダクトを容易に交換することができるので、装置のメンテナンスが容易となり、長時間に渡って故障のない円滑な駆動を行わせることができるものである。」(【0021】ないし【0022】)。

第3  審決を取り消すべき事由について判断する。

1  まず、本件考案の請求項4の「樋部」が、引用例1に開示されているか否かについて検討する。

(1)  「樋」とは、通常の用語例に従えば、「屋根を流れる雨水を受けて地上に流す溝状、筒状の装置。金属薄板、竹などを用いる。」(広辞苑第4版)、「屋根に落ちた雨水を集めて地上に流す装置」(大辞林)などといった意味を有するものである。

本件考案の実用新案登録請求の範囲の請求項4には、「複数のパチンコ遊技機を並列載置した台部に沿って樋部を設け、この樋部と前記各パチンコ遊技機に対応して設けた灰皿と連通させ、」、「前記樋部内に前記灰皿より投入されたタバコの吸殻を前記回収容器へ移送する移送手段を設けたもの」、「前記樋部はその側部或は上部をガード板で覆ったもので構成し」という記載があって、同記載によれば、本件考案にいう「樋部」とは、<1>パチンコ遊技機を並列載置した台部に沿って設けられている、<2>パチンコ遊技機に対応して設けた灰皿と連通しており、上記灰皿から投入されたタバコの吸殻を受けている、<3>その内側には移送手段が設けられ、同移送手段によって、上記タバコの吸殻を回収容器へ移送する、<4>樋部は、その側部あるいは上部がガード板で覆われている、という構成及び機能を有するものであって、上記「樋」の通常の用語例に照らすと、本件考案の請求項4の「樋部」は、並列載置されたパチンコ遊技機に対応して設けられた灰皿から落下するタバコの吸殻を、内蔵する移送手段で排出する仕組みとなっており、かつ、その側部あるいは上部がガード板で覆われた溝状ないし筒状の形状をした構造を意味するものと認められる。

(2)  次に、引用例1記載の技術について考察するに、引用例1に、列状に配列した各パチンコ機の前方に突出して設置した灰皿の底面をタバコの吸殻が落下しやすい網目状に形成し、かつ、各パチンコ機の灰皿の下方と連通して底面から落下したタバコの吸殻を載せて列状に配列したパチンコ機列の一方から他方に搬送するためのベルトコンベアを回動可能に設置し、ベルトコンベアで搬送された吸殻を溜めるための吸殻回収ケースをベルトコンベアの他方端位置に設置したパチンコ機用タバコの吸殻処理装置が記載されていることは、当事者間に争いがない。

ところで、上記記載から、上記ベルトコンベア及びその周辺の構造がどのようになっているか必ずしも明らかでないところ、甲第4号証によれば、引用例1には、上記ベルトコンベアの周辺構造について、「ベルトコンベア9にはカバー18がパチンコ機列5の台下板19に蝶番20を介して取付けられ、カバー18を第4図2点鎖線のように開くことによってベルト9の掃除を一層確実に行うことができる。」(2頁左下欄2行ないし6行)という記載があり、また、図面の第4図(別紙図面(2)参照)には、ベルトコンベアの側方及び下方を一体的に覆うカバー18が、パチンコ機列5の台下板19の下方位置に設けた蝶番20を支点にして開閉自在に取り付けられることが図示されている。

上記認定の事実によれば、引用例1記載の技術においては、列状に配列された各パチンコ機の灰皿の底面が網目状になっており、その下方には灰皿から落下するタバコの吸殻を受けて吸殻回収ケースに搬送するためのベルトコンベアが設置されており、また、パチンコ機列の台下板の下方位置には、カバーが、蝶番を支点にして開閉自在に取り付けられ、これがベルトコンベアの側方及び下方を一体的に覆っており、カバーを含めた全体として、ほぼ筒状の形状をした構造が開示されていることが認められる。

そうすると、引用例1記載の技術において、パチンコ機列の台下板と、ベルトコンベアの側方及び下方を一体的に覆っているカバーとで形成されている部分は、本件考案の請求項4の「樋部」に相当するものと認められる。

2  そこで、本件考案の請求項4の「樋部はその側部或は上部をガード板で覆ったもので構成し、このガード板を開閉或は着脱自在に構成した」という構成が、引用例1及び2には何ら記載されておらず、また、その示唆もないとする審決の判断の当否について検討する。

(1)  本件考案の請求項4の「樋部」は、本件考案の実用新案登録請求の範囲の請求項4に記載のとおり、「その側部或は上部をガード板で覆ったもので構成し、このガード板を開閉或は着脱自在に構成した」ことを特徴とするものである。

ところで、上記の「ガード板」について、実用新案登録請求の範囲にはその技術的意義について特段の記載がないが、前記第2の2ないし4に認定したとおり、本件明細書の考案の詳細な説明中には、「この考案は、排煙ダクトや樋部を着脱自在或な交換自在に構成することができる。」、「排煙ダクトや樋部を着脱自在或は交換自在に構成すると、該排煙ダクトがヤニで詰まったり、樋部にヤニが付着する頃を見計らって取り外して掃除したり、或は新品のものや掃除後のものと交換することができる」、「この考案は以上のように構成したので、パチンコホールの従業員の手をわずらわせことなく煙草の灰や吸殻等を回収処理できる」という記載があり、同記載によれば、本件考案の請求項4の「ガード板」は、樋部の側部あるいは上部を覆い、開閉あるいは着脱自在に構成されていることで、樋部や移送手段を掃除することが容易になるという技術的意義を有するものと認めることができる。

(2)  他方、引用例1の「カバー」は、前記1(2)認定のとおり、パチンコ機列の台下板の下方位置に、蝶番を支点にして開閉自在に取り付けられ、これがベルトコンベアの側方及び下方を一体的に覆うという構成となっているものであり、また、引用例1には、前記1(2)認定のとおり「ベルトコンベア9にはカバー18がパチンコ機列5の台下板19に蝶番20を介して取付けられ、カバー18を第4図2点鎖線のように開くことによってベルト9の掃除を一層確実に行うことができる。」という記載があるのであって、引用例1の「カバー」が、カバーそれ自体及びベルトコンベアの掃除を容易にすることは明らかである。

(3)  そうすると、引用例1の「カバー」は、本件考案の請求項4の「ガード板」と対比して、樋部(引用例1では、パチンコ機列の台下板と、ベルトコンベアの側方および下方を一体的に覆っているカバーとで形成されている部分)の側部を覆っているという点で同一であり、かつ、その技術的意義も共通している。なお、引用例1の「カバー」は、樋部の側部のみならず下方をも覆っているので、樋部の底部まで開閉自在となっているという点で、本件考案と相違しているものの、これは当業者にとって単なる設計変更の域を出ないものというべきである。

(4)  被告は、引用例1の覆いである「カバー」と本件考案の「樋部」とは、明らかに異なった技術的意義を有する全く異なった部材である旨主張する。

しかしながら、先に認定判断した本件考案の請求項4の「樋部」及び引用例1記載の各技術内容に照らすと、上記「樋部」は、引用例1におけるパチンコ機列の台下板と、ベルトコンベアの側方及び下方を一体的に覆っているカバーとで形成されている部分の全体と対比することができるものであって、単なる覆いである「カバー」と対比すべきであるとする根拠はないから、被告の上記主張は失当である。

その他の被告の主張も、前記認定判断に照らして採用することができない。

(5)  以上によれば、本件考案の請求項4の「樋部はその側部或は上部をガード板で覆ったもので構成し、このガード板を開閉或は着脱自在に構成した」点について、引用例1には何ら記載されておらず、また、その示唆もないとした審決の認定は誤っており、この認定に基づいて、本件考案は、引用例1及び2記載の技術から当業者が極めて容易に想到し得るものではないとした審決の判断は、違法であって、この違法は審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

3  そうすると、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成11年1月26日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

別紙図面(1)

<省略>

別紙図面(2)

<省略>

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