東京高等裁判所 平成8年(行ケ)311号 判決 1998年9月01日
大阪府門真市大字門真1006番地
原告
松下電器産業株式会社
代表者代表取締役
森下洋一
訴訟代理人弁理士
石原勝
同
滝本智之
東京都千代田区霞が関三丁目4番3号
被告
特許庁長官
伊佐山建志
指定代理人
後藤正彦
同
小林武
同
吉村宅衛
同
廣田米男
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 原告が求める裁判
「特許庁が平成7年審判第20084号事件について平成8年9月30日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
第2 原告の主張
1 特許庁における手続きの経緯
原告は、平成2年5月16日に発明の名称を「給湯機用ワイヤレスリモコン装置」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(平成2年特許願第127301号)をしたが、平成7年7月14日に拒絶査定を受けたので、同年9月22日に拒絶査定不服の審判を請求し、平成7年審判第20084号事件として審理された結果、平成8年9月30日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受け、同年11月7日にその謄本の送達を受けた。
2 本願発明の特許請求の範囲(1)(以下「本願第1発明」という。別紙図面A参照)
電波を用いて給湯機本体に制御信号を伝送する送信手段と、前記給湯機本体から伝送されてきた運転状態信号を受信する受信手段と、受信手段によって受信した給湯機本体の運転状態を表示する状態信号表示手段と、前記送信手段および受信手段、状態信号表示手段など本装置に電源を供給する電池手段と、前記受信手段への通電を制御する通電制御手段と、前記制御手段及びリモコン機能を制御するリモコン制御手段を備え、前記リモコン制御手段はリモコン機能が作動状態においてのみ、前記通電制御手段をして前記受信手段への通電を所定の時間間隔で間欠的に行わしめ、前記受信手段を間欠的に能動状態にする構成とした給湯機用ワイヤレスリモコン装置
3 審決の理由
別紙審決書「理由」写しのとおりである。
4 審決の取消事由
審決は、一致点の認定及び相違点の判断を誤った結果、本願第1発明の進歩性を否定したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
(1)一致点の認定の誤り
審決は、本願第1発明と引用例1記載の考案は「送信手段および受信手段、状態信号表示装置など本装置に電源を供給する電池手段」を有する点で一致する旨認定している。
しかしながら、引用例1にはこれに沿う記載ないし示唆はないから、審決の上記認定は根拠がない。
この点について、被告は、電源コードなどによる給電ではリモコンをワイヤレスに構成したことによる利便性が失われる旨主張するが、給湯機用のリモコンは、テレビなどのリモコンと異なり、浴室などの壁面に固定して使用するのが普通であるから、被告の上記主張は当たらない。
(2)相違点の判断の誤り
審決は、引用例2には受信手段(受信機32)への通電を制御する通電制御手段(トランジスタQ1)と、通電制御手段を制御する主制御手段(制御回路中の入力測定用タイマ27)が記載されているとしたうえで、引用例2に「主制御手段は制御機能が作動状態においてのみ、前記通電制御手段をして前記受信手段への通電を所定の時間間隔で間欠的に行わしめ、前記受信手段を間欠的に能動状態にする構成」が記載されていることを前提として、本願第1発明と引用例1記載の考案との相違点に係る本願第1発明の構成は想到容易であった旨判断している。
しかしながら、本願第1発明のリモコン制御手段は、給湯機本体から伝送されてきた運転状態信号(例えば、燃焼停止信号、水栓閉止信号、風呂沸き上がり信号、ポーリング途絶信号)によってリモコン機能を非作動にすべきものと判断したときは、通電制御手段の通電作用を停止させる機能を持つものである。これに対して、引用例2の別紙図面C第1図に図示されている主制御手段(入力測定用タイマ)は、例えば、給湯機の燃焼が停止して主制御手段の制御機能を非作動にすべきときであっても、通電制御手段の通電作用を停止させるという判断制御を行うことができない。このように、本願第1発明の要件であるリモコン制御手段と引用例2の別紙図面C第1図に図示されている主制御手段(入力測定用タイマ)は技術内容を異にするものであるから、審決の上記認定判断は誤りである。
この点について、被告は、別紙図面C第1図に図示されている「入力測定用タイマ」は電源スイッチをオンすることによって主制御手段の制御機能が作動している状態においてのみ間欠的な通電を行うものである旨主張する。
しかしながら、電源スイッチは装置全体をオン・オフするものにすぎないから、引用例2には、「制御機能が作動状態においてのみ、通電制御手段をして受信手段への通電を所定の時間間隔で間欠的に行わしめ、受信手段を間欠的に能動状態にする」手段が記載されているとはいえない。
なお、仮に引用例2に審決認定の技術的事項が記載されているとしても、引用例1記載の考案は「ガス機器のリモートコントロール装置」に関するものであって、リモコンからの送信後、短時間内に送り返し信号の受信が行われるから、リモコンの受信手段を常に作動させておく必要がない。したがって、引用例1記載の考案では、受信待ちによる電池の消耗を避けることは解決すべき課題になりえず、引用例2記載の技術的事項を適用する動機付けが存在しないから、相違点に係る審決の判断は誤りである。
第3 被告の主張
原告の主張1ないし3は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は、正当であって、これを取り消すべき理由はない。
1 一致点の認定について
原告は、引用例1には同記載の考案が本装置に電源を供給する電池手段を有することの記載ないし示唆はない旨主張する。
しかしながら、引用例1記載の考案が対象とするワイヤレスのリモコン装置が作動するためには何らかの電源手段が必要であることは当然であるが、電源コードなどによる給電ではワイヤレスに構成したことによる利便性が失われる。したがって、引用例1記載のリモコン装置は電源手段として電池を備えていると考えるのが自然であるから、原告の上記主張は失当である。
2 相違点の判断について
原告は、本願第1発明のリモコン制御手段が、給湯機本体から伝送されてきた運転状態信号によってリモコン機能を非作動にすべきものと判断したときは、通電制御手段の通電作用を停止させる機能を持つものであるのに対し、引用例2の別紙図面C第1図に図示されている主制御手段(入力測定用タイマ)は、例えば、給湯機の燃焼が停止して主制御手段の制御機能を非作動にすべきときであっても、通電制御手段の通電作用を停止させるという判断制御を行うことができないから、両者は技術内容を異にする旨主張する。
しかしながら、本願第1発明の特許請求の範囲記載の構成のみでは、上記のような作用を行うことができないのは明らかであるから、原告の上記主張は、発明の構成に基づかないものであって、失当である。
そして、別紙図面C第1図に図示されている「入力測定用タイマ」は、電源スイッチをオンすることによって主制御手段の制御機能が作動している状態においてのみ間欠的な通電を行うものであるから、引用例2を論拠とする相違点に係る審決の判断に誤りはない。
また、原告は、仮に引用例2に審決認定の技術的事項が記載されているとしても、引用例1記載の考案では受信待ちによる電池の消耗を避けることは解決すべき課題になりえず、引用例2記載の技術的事項を適用する動機付けが存在しない旨主張する。
しかしながら、省電力はすべての電気機器、特に電池を電源とする電気機器に共通する課題であるところ、引用例1記載のリモコン装置は前記のとおり電池を電源としていると考えられるから、原告の上記主張は失当である。
理由
第1 原告の主張1(特許庁における手続の経緯)、2(本願第1発明の特許請求の範囲)及び3(審決の理由)は、被告も認めるところである。
第2 甲第2号証(公開公報の図面)、第3号証(平成7年3月27日付手続補正書添付の明細書。以下「本願明細書」という。)及び第4号証(平成7年10月20日付手続補正書。以下「手続補正書」という。)によれば、本願発明の概要は次のとおりである(別紙図面A参照)。
1 技術的課題(目的)
本願発明は、ガス給湯機などの家庭用給湯機を電波を用いて遠隔操作するのに適した、給湯機用ワイヤレスリモコン装置に関するものである(本願明細書2頁14行、15行)。
従来のこの種のワイヤレスリモコン装置は、リモコンから給湯機本体のバーナを遠隔制御するとともに、パイロットやバーナの状況確認信号を給湯機本体からリモコンに返す構成によって、操作性と安全性の向上を図るものであるが、電池の省電力については何ら対策が取られていない。したがって、この種のリモコンを実用化するためには、電池交換あるいは充電の頻度を実用的な時間間隔にできるかどうかが問題となる(同2頁17行ないし26行)。
本願発明の目的は、上記の問題点を解決するリモコン装置を提供することである。
2 構成
上記の目的を達成するために、本願第1発明は、その特許請求の範囲(1)記載の構成を採用したものであって(手続補正書4枚目2行ないし10行)、要するに、受信手段への通電を、リモコン機能が作動状態においてのみ間欠的に行うことを特徴とするものである(本願明細書3頁3行ないし6行)。
3 作用効果
本願第1発明によれば、本当に受信が必要な時にのみ、受信手段を間欠的に能動状態にするため、使い勝手を損なうことなく、電池の消費電力を極めて小さくすることができる(手続補正書2枚目24行ないし27行)。
第3 そこで、原告主張の審決取消事由の当否について検討する。
1 一致点の認定について
原告は、引用例1には同記載の考案が本装置に電源を供給する電池手段を有することの記載ないし示唆はない旨主張する。
しかしながら、引用例1記載の考案が対象とするリモートコントロール装置が電気的に構成されたものである以上、これが作動するために何らかの電源手段が必要であることは当然であるが、リモートコントロール装置の作動に要する電力がさして大きなものでないことに鑑みれば、電源コードなどによる給電よりも電池による給電の方がリモートコントロール装置にふさわしいことは明らかである。そして、引用例1記載の考案における電源として電池を使用することに何らかの困難があったとは全く考えられないから、引用例1記載の考案は本装置に電源を供給する電池手段を有するとした審決の認定を誤りとすることはできない。
2 相違点の判断について
(1)原告は、本願第1発明の要件であるリモコン制御手段が、給湯機本体から伝送されてきた運転状態信号によってリモコン機能を非作動にすべきものと判断したときは、通電制御手段の通電作用を停止させる機能を持つものであるのに対して、引用例2の別紙図面C第1図に図示されている主制御手段(入力測定用タイマ)は、例えば、給湯機の燃焼が停止して主制御手段の制御機能を非作動にすべきときであっても、通電制御手段の通電作用を停止させるという判断制御を行うことができないから、両者は技術内容を異にする旨主張する。
しかしながら、本願第1発明の特許請求の範囲記載の構成のみでは、「給湯機本体から伝送されてきた運転状態信号によってリモコン機能を非作動にすべきものと判断したときは通電制御手段の通電作用を停止させる」作用を行うことが不可能であることは明らかであるから、原告の上記主張は本願第1発明の構成に基づかないものであって、失当である。
したがって、引用例2の記載を論拠とする相違点に係る審決の判断に誤りはない。
(2)なお、原告は、仮に引用例2に審決認定の技術的事項が記載されているとしても、引用例1記載の考案では、リモコンからの送信後、短時間内に送り返し信号の受信が行われるから、リモコンの受信手段を常に作動させておく必要がなく、受信待ちによる電池の消耗を避けることは解決すべき課題となりえず、引用例2記載の技術的事項を適用する動機付けが存在しない旨主張する。
しかしながら、省電力はすべての電気機器、特に電池を電源とする電気機器に共通する課題と考えられるところ、引用例1記載の考案の電源として電池を想定するのが自然であることは前記のとおりであるから、原告の上記主張も当たらない。
3 以上のとおり、本願第1発明の進歩性を否定した審決の認定判断は正当であって、審決には原告主張のような誤りはない。
第4 よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日平成10年8月18日)。
(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)
別紙図面A
<省略>
1……リモコン、2……電池、3……送信手段、4……アンテナ、5……受信手段、6……通電制御手段、9……間欠受信用タイマー手段、10……運転スイッチ手段。
別紙図面B
<省略>
1……送信機、2……受信機、3……ガスコントロール電磁弁、4……点火用パイロツト、5……バーナ、6……センサー、7……送り返し用送信機。
別紙図面C
<省略>
25…信号処理部(デコーダ)、26…駆動手段(単安定マルチバイブレーク)、28…バッテリ、30…給電切換回路(信号の判定用タイマ)、32…受信機.
理由
Ⅰ.手続の経緯・本願発明の認定
本願は、平成2年5月16日の出願であって、その発明は、平成7年3月27日付けの手続補正書と平成7年10月20日付けの手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項~第8項の請求項に記載されたものであるが、その特許請求の範囲第1項に記載された発明(以下、本願請求項1の発明という。)は次のとおりのものと認める。
「電波を用いて給湯機本体に制御信号を伝送する送信手段と、前記給湯機本体から伝送されてきた運転状態信号を受信する受信手段と、受信手段によって受信した給湯機本体の運転状態を表示する状態信号表示手段と、前記送信手段および信手段、状態信号表示手段など本装置に電源を供給する電池手段と、前記受信手段への通電を制御する通電制御手段と、前記制御手段およびリモコン機能を制御するリモコン制御手段を備え、前記リモコン制御手段はリモコン機能が作動状態においてのみ、前記通電制御手段をして前記受信手段への通電を所定の時間間隔で間欠的に行わしめ、前記受信手段を間欠的に能動状態にする構成とした給湯機用ワイヤレスリモコン装置。」
Ⅱ.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に国内で頒布された実願昭55-153039号(実開昭57-77671号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)には、「一定値の電波、音波、光等の空中無線経路による信号を送出する送信機1と、その送信機1からの信号を受けて、複数のバーナ5を制御するガスコントロール電磁弁3を作動させる受信機2とを有し、前記ガスコントロー電磁弁3には点火用パイロット4を備え、そのパイロット4および各バーナ5には点火確認センサー6を取り付け、各センサー6からの信号を受けて前記送信機1に状況確認信号を送り返す送信機7を有することを特徴とするガス機器のリモートコントロール装置。」(実用新案登録請求の範囲参照。)及び「マイコン等の組み込によって音声合成をさせ、機器の作動状況を言語音声によって告知するように構成することも可能である。」(明細書第4頁第15行~第17行参照。)及び「安全確認のための送り返し信号が発せられるため、手元にあって機器の作動状態を把握することができる。」(明細書第5頁第1行~第3行参照。)が記載されている。
したがって、引用例1記載のものでは、ガス機器は送信機1からの信号によりリモートコントロールされ、ガス機器からの状況確認信号は送信機1に送り返されているから、引用例1記載の送信機1はガス機器本体から伝送されてきた運転状態信号を受信する受信手段を備えているものと認められる。
又、引用例1記載の送信機1は、送信機1からの信号によりガス機器をリモートコントロールするものであるから、電波を用いてガス機器本体に制御信号を伝送する送信手段及びリモコン機能を制御するリモコン制御手段を備えているガス機器用ワイヤレスリモコン装置と認められる。
又、引用例1記載の送信機1は、安全確認のための送り返し信号が発せられるため、手元にあって機器の作動状態を把握することができるものであり、マイコン等の組み込によって音声合成をさせ、機器の作動状況を言語音声によって告知するように構成することも可能であるから、引用例1記載の送信機1も、受信手段によって受信した給湯機本体の運転状態を表示する状態信号表示手段を備えているものと認められる。
又、この種のワイヤレスリモコン装置は、ワイヤレスリモコン装置の送信手段および受信手段などに電源を供給する電池手段を備えているから、引用例1記載の送信機1も、送信手段および受信手段、状態信号表示手段など本装置に電源を供給する電池手段を備えているものと認められる。
したがって、引用例1には、「電波を用いてガス機器本体に制御信号を伝送する送信手段と、前記ガス機器本体から伝送されてきた運転状態信号を受信する受信手段と、受信手段によって受信したガス機器本体の運転状態を表示する状態信号表示手段と、前記送信手段および受信手段、状態信号表示手段など本装置に電源を供給する電池手段と、リモコン機能を制御するリモコン制御手段を備えたガス機器用ワイヤレスリモコン装置。」が記載されているものと認められる。
又、同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に国内で頒布された実願昭62-169048号(実開平1-74690号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)には、「受信手段(引用例2にあっては、受信機32がこれに相当する。)への通電を制御する通電制御手段(引用例2にあっては、トランジスタQ1がこれに相当する。)と、前記通電制御手段を制御する主制御手段(引用例2にあっては、第1図や第5図に示される制御回路がこれに相当する。主制御手段は通電制御手段の制御だけでなく、そのほかの制御も行うが、通電制御手段を制御するのは主制御手段の中の入力用タイマ27が特に関係する。)を備え、前記主制御手段は制御機能が作動状態においてのみ、前記通電制御手段をして前記受信手段への通電を所定の時間間隔で間欠的に行わしめ、前記受信手段を間欠的に能動状態にする構成とした受信装置。」が記載されている。
Ⅲ.対比
本願請求項1の発明と引用例1に記載されたものを対比すると、引用例1におけるガス機器は、本願請求項1の発明における給湯機に相当するから、両者は「電波を用いて給湯機本体に制御信号を伝送する送信手段と、前記給湯機本体から伝送されてきた運転状態信号を受信する受信手段と、受信手段によって受信した給湯機本体の運転状態を表示する状態信号表示手段と、前記送信手段および受信手段、状態信号表示手段など本装置に電源を供給する電池手段と、リモコン機能を制御するリモコン制御手段を備えた給湯機用ワイヤレスリモコン装置。」の点で一致し、下記(1)の点で相違する。
(1).本願請求項1の発明のものが、受信手段への通電を制御する通電制御手段と、前記制御手段を制御するリモコン制御手段を備え、前記リモコン制御手段はリモコン機能が作動状態においてのみ、前記通電制御手段をして前記受信手段への通電を所定の時間間隔で間欠的に行わしめ、前記受信手段を間欠的に能動状態にする構成としているのに対し、引用例1記載のものはそのような構成を有していない点。
Ⅳ.当審の判断
上記相違点(1)について検討する。
受信装置の電池の省電力のために「受信手段への通電を制御する通電制御手段と、前記通電制御手段を制御する主制御手段を備え、前記主制御手段は制御機能が作動状態においてのみ、前記通電制御手段をして前記受信手段への通電を所定の時間間隔で間欠的に行わしめ、前記受信手段を間欠的に能動状態にする構成とした」ものは引用例2に記載されている。
そして、本願請求項1の発明や引用例1の受信装置くはワイヤレスリモコン装置の受信装置であるのに対して、引用例2記載の受信装置はリモコンで操作される装置の受信装置であるが、両者はリモコンに関係する受信装置という点で共通する。
したがって、リモコンで操作される装置の受信装置の省電力技術をワイヤレスリモコン装置の受信装置の省電力のために用いることは、当業者が容易に想到できたことである。
そして、引用例1のワイヤレスリモコン装置におけるリモコン機能を制御するリモコン制御手段は、受信手段等を制御する制御手段である点で引用例2記載の主制御手段と共通するから、引用例2記載の主制御手段の役割に相当するものは引用例1記載のものではリモコン制御手段である。
したがって、引用例2記載の技術を引用例1記載のワイヤレスリモコン装置に転用すること、そしてその際、受信手段への通電を制御する通電制御手段を、引用例2記載の主制御手段に相当するリモコン制御手段により制御させ、リモコン機能が作動状態においてのみ、前記通電制御手段をして前記受信手段への通電を所定の時間間隔で間欠的に行わしめ、前記受信手段を間欠的に能動状態にする構成にすることは当業者が容易になし得たことと認める。
Ⅴ.むすび
したがって、本願請求項1の発明は、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
又、本願は、特許請求の範囲第1項~第8項の請求項に記載された発明について、一つの出願によって特許を受けることを求めているものであるから、前述のごとく本願請求項1の発明について特許を受けることができない理由がある以上、特許請求の範囲第2項~第8項の請求項に記載された発明について改めて論及するまでもなく、本願は特許法第49上第1項の規定に該当し、拒絶すべきものである。