東京高等裁判所 平成8年(行ケ)40号 判決 1997年12月17日
東京都千代田区神田駿河台4丁目2番地8
原告
高砂熱学工業株式会社
代表者代表取締役
石井勝
訴訟代理人弁理士
和田憲治
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 荒井寿光
指定代理人
大槻清壽
同
田中弘満
同
小川宗一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成5年審判第5102号事件について、平成7年12月12日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和63年7月19日、名称を「クリーンルーム」とする考案(以下「本願考案」という。)について、実用新案登録出願をした(実願昭63-94640号)が、平成5年1月25日に拒絶査定を受けたので、同年3月17日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成5年審判第5102号事件として審理したうえ、平成7年12月12日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成8年2月7日、原告に送達された。
2 本願考案の要旨
(1) 請求項1
「天井裏空間をサプライプレナム、床下空間をレターンプレナムとして、天井面に張り渡したフイルタ層を経て室内に清浄空気を給気するようにしたクリーンルームにおいて、ケーシング内にフアンとHEPAフイルタを装着したフアンフイルタユニットの多数個を天井面に配置し、レターンプレナムからサプライプレナムに通ずる空気通路を室内空間の一部を利用して形成することによりサプライプレナム→フアンフイルタユニット→室内→レターンプレナム→該空気通路→サプライプレナムの順に通ずる空気の循環路を構成し、この空気の循環路にフアンフイルタユニット以外の送風機を設けることなく該空気通路の床下にドライコイルを設置したことを特徴とするクリーンルーム。」(注、下線は便宜上付したもので、原文にはない。)
(2) 請求項2
上記下線部分が、「該空気通路の天井部」であるほかは、請求項1と同じ。
(3) 請求項3
上記下線部分が、「レターンプレナム内」(原文は「レタンプレナム内」)であるほかは、請求項1と同じ。
(4) 請求項4
(略)
(以下、各請求項に係る考案を、当該請求項の番号に従って、「本願第1考案」などのようにいう。)
3 審決の理由の要点
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願第1~第3考案は、いずれも本願出願前国内において頒布された刊行物である特開昭61-76837号公報(審決甲第2号証、以下「引用例1」といい、そこに記載された発明を「引用例考案」という。)及び特開昭60-69441号公報(審決甲第3号証、以下「引用例2」という。)にそれぞれ記載された考案、並びに本願出願前周知の「ファンフィルタユニットを有するクリーンルームにおいて、クリーンルーム内の空気循環はこのユニットのファンのみにて行うこと」及び「熱交換器としての冷却コイルであるドライコイルを使用すること」に基づいて、当業者が極めて容易に考案できたものであり、実用新案法3条2項の規定によって実用新案登録を受けることができず、本願第4考案について検討するまでもなく、本願出願は拒絶されるものであるとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本願考案の要旨の認定、引用例1の記載事項の認定は認める。本願第1~第3考案と引用例考案との一致点の認定は否認する。相違点の認定は認めるが、相違点に対する判断は争う。
審決は、本願第1~第3考案と引用例考案との相違点を看過し(取消事由1)、さらに本願第1~第3考案の顕著な作用効果を看過して、相違点に対する判断を誤り(取消事由2)、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
1 取消事由1(相違点の看過)
(1) 審決は、引用例考案と本願第1~第3考案との一致点及び相違点の認定において、引用例考案の熱交換器の設置状態にっき、単に、「熱交換器を縦ダクトに設置した」(審決書7頁19~20行)ものとのみ認定し、本願考案と対比しているが、誤りである。
引用例考案の熱交換器25は、縦ダクト9内において、縦ダクト9の通路断面積のほんの一部の面積を占めるように配置されるのに対し、本願考案のドライコイルは、空気通路の床下(本願第1考案)、空気通路の天井部(本願第2考案)、レターンプレナム内(本願第3考案)のいずれの位置に配置される場合も、通気断面積の全面積を占めるように配置されなければならない。審決は、このような引用例考案の熱交換器25と本願第1~第3考案のドライコイルとの設置状態に係る相違点を看過したものである。
すなわち、引用例考案においては、熱交換器25が縦ダクト9内において、縦ダクト9の通路断面積のほんの一部の面積を占めるように配置されるため、「床プレナム7に流入した空気は、第1図中左右に分かれて両端から縦ダクト9、9内を上昇する。このとき、一部は熱交換器25を通らず直接還気(RA1)として上昇し、他はファン25aによって熱交換器25に吸い込まれ、バイパスダンパ25dによって、冷水コイル25bをもつ熱交換路とバイパス路25cに分流されて、再び出口で合流して調和還気(RA2)となって上昇する」(甲第2号証3頁右下欄3~11行)ものとされている。したがって、冷水コイル25bを通過して冷却されるのは、縦ダクト9内を上昇する空気のほんの一部であるにすぎない。
これに対し、本願第1~第3考案においては、前示実用新案登録請求の範囲に記載されているとおり、いずれも「空気の循環路にフアンフイルタユニット以外の送風機を設けることなく」構成されており、ドライコイルが専用のファンを持たないので、ドライコイルを通気断面積のほんの一部の面積を占めるように配置したとすれば、空気は、通気抵抗を持つドライコイルを流れないで、通路内のドライコイルが存在しない開放空間だけを通過してしまい、ドライコイルが熱交換の機能を果たせなくなる。例えば、原告作成の風量配分の参考資料(甲第13号証)の計算結果が示すように、ドライコイルを通気断面積の半分を占めるように配置したときの開放空間部の風速はドライコイル部の風速の約160倍になるものと計算される。したがって、本願の図面(甲第5号証)第3図(本願第1考案)、同第5図(本願第2考案)、第7図(本願第3考案)に示すように、ドライコイルは通気断面積の全面積を占めるように配置されなければならない。
「空気の循環路にフアンフイルタユニット以外の送風機を設けることなく・・・ドライコイルを設置」する本願第1~第3考案の構成は、空気通路における通気断面積の全面積を占めるようにドライコイルを配置することを意味している。このことは当業者にとって自明のことであって、本願明細書にその旨の記載がないとしても、図面を見るまでもなく直ちに理解するところである。
そして、後記のとおり、審決は、この相違点を看過したことにより、本願第1~第3考案の顕著な作用効果を看過し、引用例考案の熱交換器をドライコイルに換えることは当業者において極めて容易になしうるものと誤って判断したものであるから、この相違点の看過が審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかである。
(2) 被告の引用する昭和45年5月20日発行の高田倶之外2名共著「空気調和の自動制御(第2版)」(乙第1号証、以下「被告引用著書」という。)には、バイパスダンパーを用いることによって冷風と温風とを混合して温度を調節する技術が示されている(同号証103頁3~20行)が、本願考案はバイパスダンパーを用いて温度調整をすることを意図するものではなく、バイパスダンパーを要件とするものでもない。また、被告引用著書の上記技術において、バイパスダンパーの全閉時には通気断面はコイル配置部だけとなるところ、この場合に、コイル配置部の一部を占めるようにコイルを配置したのでは、空気はコイルのない開放断面を通過してコイルを流れ難くなる。そのため、被告引用著書には、コイルがコイル配置部の全断面積を占めるように配置されることが記載されている。このことに照らしてみても、コイル専用の送風機を設けることなく、コイルを通気断面積の一部を占めるように配置することが周知であるということはできない。
被告の引用する特開昭61-101733号公報(乙第2号証)記載の空調パッケージ・ユニット内蔵パネルは、送風機42を内蔵していることが明らかであり、さらに、加熱コイル45と冷却コイル46が空気通路の全断面積を占めるように配置されているものであって、両コイルの配置部位のほかに空気が流れる開放空間があると読み取ることはできないから、同公報によって、コイル専用の送風機やダンパーを設けることなく、コイルを通気断面積の一部を占めるように配置することが周知であるということもできない。
2 取消事由2(本願第1~第3考案の顕著な作用効果の看過及び相違点の判断の誤り)
相違点に対する審決の判断中、引用例考案における熱交換器を「縦ダクト」以外の空気循環路に設置し、「縦ダクト」を空気処理以外の作業空間としても利用できるようにすることが、当業者において極めて容易に想到しえたものであることは認める。
審決は、「熱交換器としての冷却コイルとして、ドライコイルが本願出願前周知であったこと」から、直ちに、「前記請求項1~3に係わる考案において熱交換器としてドライコイルを使用することによる格別の効果が認められない」(審決書10頁11~14行)とし、そのうえで、「甲第2号証のもの(注、引用例考案)において、熱交換器をドライコイルに換え、前記『縦ダクト』以外の空気循環路に設置し、この『縦ダクト』を空気処理以外の作業空間としても利用できるようにすることは、当業者においてきわめて容易に想到し得たことである。」(同10頁15~20行)と判断したが、誤りである。
(1) ドライコイルは、ウェットコイルと同様、空気冷却用の熱交換器であり、形状面において両者は区別しえないが、ウェットコイルが処理空気の温度差を大きくして使用し、そのため熱交換器表面(フイン表面)に結露が生じて、空気の湿度変化(除湿)を生じさせるのに対し、ドライコイルは、結露が生じないよう処理空気の温度差を小さくし、空気の湿度変化を生じさせないようにして使用するものである。
本願考案はドライコイルを使用する構成であるが、引用例考案における熱交換器25の冷水コイル25bはウェットコイルである。取消事由1で述べたとおり、引用例考案においては、縦ダクト9内を上昇する空気のほんの一部が冷水コイル25bを通過して冷却されるにすぎず、冷却された空気は他部の循環空気と混合されることになるが、このように混合された循環空気を所定の温度にするためには、冷水コイルを通過する空気を所定の温度よりもかなり低くしなければならず、そのためには結露を伴う強制冷却をしなければならないからである。
ところで、一般にクリーンルームの空気管理は、要求される清浄度が高いほど多くの換気回数を要する。そして換気回数が多くなるほど冷却コイルで冷却する空気の温度差は小さくなる。一方、装置の発熱負荷は人体の発熱負荷よりも格段に大きく、このため、冷房負荷のうちの顕熱比(顕熱負荷/(顕熱負荷+潜熱負荷))は限りなく1に近づく。すなわち、人体から発生する湿分を対象とした潜熱負荷は、全発熱負荷からみれば無視できる程度に少ない。本願第1~第3考案において除湿効果のない(空気の顕熱のみを奪う)ドライコイルが使用できるという根拠はここにある。これに対し、ウェットコイルを用いるとクリーンルームの湿度が下がるが、この湿度変化は半導体製造等に好ましくないこともあり、省エネルギーにも反する。
このように、ドライコイルの使用は空気の絶対湿度を変化させないという作用効果を奏するが、さらに、本願第1~第3考案のドライコイルは、引用例考案における熱交換器25の冷水コイル25bと対比すると、クリーンルーム内での温度分布の発生を完全に回避できるという作用効果を有する。
すなわち、ダウンフロー型クリーンルームでは室内での空気温度分布の発生を回避しなければならないが、引用例考案のように一部の空気のみを冷却した場合には、合流した空気流中に両空気の流速差と温度差が不可避的に発生しながら一定の方向に流れるために、どのファンフィルタユニットからも同じ温度の空気が吹き出されるというわけではなく、温度分布が発生しやすい。しかし、本願第1~第3考案のように、ドライコイルに循環空気流の全てを通流させる場合には、ドライコイルを出る空気には流速差も温度差も実質的に生じないから、温度の均一な空気流が得られる。したがって、どのファンフィルタユニットからも同じ温度の空気が吹き出される結果、室内では温度分布の発生が回避できる。この点で、本願第1~第3考案のドライコイルの使用は、ダウンフロー型のクリーンルームにおいて、引用例考案の冷水コイル25bにはない顕著な作用効果を奏するものである。
その他、引用例考案の冷水コイル25bではファン25aを必須とし、これがないと空気が流通されないのに対し、本願考案のドライコイルではそれ専用のファンを持たないから、ファンが騒音源および振動源となることもない。
したがって、審決が、「熱交換器としてドライコイルを使用することによる格別の効果が認められない」としたことは誤りである。
(2) 引用例考案における熱交換器25の冷水コイル25bがウェットコイルであることは、上記(1)のとおりである。したがって、引用例考案の熱交換器25は除湿機能を伴うものであり、それにはそれなりの効能もあるといえるが、空気の湿度変化を生じさせないために除湿機能のないドライコイルを用いる本願第1~第3考案とは、構成と効果とが相違するものである。そうであれば、ドライコイル自体が周知であったとしても、当業者において、引用例考案におけるウェットコイルをドライコイルに置き換えようとする着想が生ずるものではない。
また、引用例2の発明の冷却コイル30もウェットコイルである。このことは、引用例2に、「本発明においてはクリーントンネルをモジュール化し、各モジュール内にて発生する温湿度および清浄度は各モジュール毎に解決させる機能を持たせて制御されている。」(甲第3号証2頁左下欄2~6行)と記載され、引用例2の発明が温度のほか湿度調節の機能も有するものとされていることから明らかである。したがって、引用例考案におけるウェットコイルをドライコイルに置き換えようとする着想は引用例2からも得ることはできない。
さらに、本願第1~第3考案において、ドライコイルを用いることによって引用例考案にない顕著な作用効果を奏することは上記のとおりである。
したがって、審決が、引用例考案において、熱交換器をドライコイルに換えることは、当業者において極めて容易に想到しえたことであると判断したことは誤りである。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1について
(1) 本願第1~第3考案のドライコイルが、空気通路の床下、空気通路の天井部、レターンプレナム内のいずれの位置に配置される場合も、それが通気断面積の全面積を占めるように配置されることは、本願考案の要旨に掲げられた事項ではない。また、本願明細書の考案の詳細な説明にもその旨の記載はなく、さらに、本願の図面は、考案の説明のためのもので、本来その記載によって「通気全断面積」というような定量的な構成を読み取るべきものではないが、その第3、第5、第7図にしても、クリーンルーム(空気通路)の略断面図にすぎず、クリーンルームの奥行方向におけるドライコイルの配置構造が不明であるから、右各図の記載から、ドライコイルが通気断面積の全面積を占めるように配置されると解することもできない。
本願考案は、本願明細書(甲第5~第7号証)に記載されているとおり、従来方式において、「空気の循環を空調機の送風機で行なうために過大な搬送動力を必要とし大型の空調機を用いなければならず、設置費用並びに運転費用が嵩む」(甲第7号証4欄2~4行)、「冷却コイル3と送風機12を設置する専用のレターンスペースを必要とすることから、このスペースをユーザ側で自由に使用できず、ユーザの使用可能空間が減少する」(同欄5~8行)という課題の解決を目的とし、空気の循環はファンフィルタユニット16のファン14だけで行なわせて、空気循環路に送風機を別途設置することもなく、また、冷却コイルとしてのドライコイルを空気通路の床下、天井部、レターンプレナム内に配置する構成としたものであって、この構成は、本願考案の要旨に明確に示されている。
したがって、本願考案の要旨を、ドライコイルが通気断面積の全面積を占めるように配置されると限定して解すべき理由はない。
(2) コイル専用の送風機を設けることなく、コイルを通気断面積の一部を占めるように配置するためには、被告引用著書(乙第1号証)にみられるように、コイル前面とバイパス(通路内のドライコイルが存在しない開放空間)に、又はバイパスのみにダンパーを設ける技術(同号証103頁3~20行)、あるいは特開昭61-101733号公報(乙第2号証)にみられるように、微調整用スライドダンパー以外にはダンパーも設けない技術(同号証3頁左下欄5行~右下欄6行)が本願出願当時周知であった。
そして、ドライコイルがウェットコイルと異なるのは、熱交換器表面に結露が生じないような条件で空気を冷却するという点のみであり、両者の構造には基本的な差異はなく、また、そもそも冷却器のコイルは、その間隙に空気流を通過させるべく設計されたもので、両者ともに通気性を有するものであるから、ドライコイルであるが故に、通気断面積の一部の面積を占めるように配置したとすれば空気はドライコイルを流れないで、通路内のドライコイルが存在しない開放空間だけを通過してしまうということもありえない。
さらに、クリーンルームにおける冷却負荷は主として室内で発生する装置の発熱(顕熱)及び人体の発熱(顕熱及び潜熱)であり、一般的な冷房環境と比較して小さいので、熱交換器能力(冷却能力)もこれに応じて小さくてすみ、顕熱のみを冷却するドライコイルであっても、その冷却能力故に通気断面積の全部を占めることを必須とするものではない。
したがって、「空気の循環路にフアンフイルタユニット以外の送風機を設けることなく・・・ドライコイルを設置」する構成が空気通路における通気断面積の全面積を占めるようにドライコイルを配置することを意味しており、そのことは当業者であれば直ちに理解するところであるとの主張も誤りである。
2 取消事由2について
ドライコイルが、ウェットコイルと同様、空気冷却用の熱交換器であり、結露が生じないよう処理空気の温度差を小さくし、空気の湿度変化を生じさせないようにして使用するものであることは認める。
(1) 原告の主張する本願第1~第3考案の作用効果のうち、ドライコイルを出る空気に流速差も温度差も実質的に生じないから、温度の均一な空気流が得られるとの点は、ドライコイルに循環空気流の全てを通流させること、すなわち、本願第1~第3考案のドライコイルが通気断面積の全面積を占めるように配置されることに対応したものであるところ、本願第1~第3考案の構成をそのように限定して解することはできないことは、前記のとおりであって、理由がない。
空気調和において、空気温度分布の均一化、特に分流空気の合流後の均一化を図ることは、この技術分野における当然の技術課題であり、被告引用著書(乙第1号証)にはミキシングユニットを設けて異なる空気の混合(均一化)を図る技術が記載されており(同号証103頁21行~104頁13行)、また、引用例考案においても、熱交換器25から室内空気吹出し部であるファンフィルタユニットまでに距離を確保して、合流した空気の均一化を図っているから、仮に、本願第1~第3考案のドライコイルが通気断面積の全面積を占めるように配置されるものであっても、本願出願当時の空気調和技術分野の技術知識からみて、当業者が当然予測しうる範囲を超える作用効果ということはできない。
また、空気調和機において、ファンや圧縮機の騒音、振動を減少させることは、当業者にとって常に存在する課題であるから、引用例考案のファン25aを有する熱交換器25(冷水コイル25b)を、専用のファンを持たないドライコイルに置き換えるとした場合の、騒音、振動を減少させる作用効果は、当業者が当然予測しうる範囲内のものである。
したがって、審決に本願第1~第3考案の顕著な作用効果を看過したとの誤りはない。
(2) 前記のとおり、クリーンルームにおける冷却負荷は主として室内で発生する装置の発熱(顕熱)及び人体の発熱(顕熱及び潜熱)であって、一般的な冷房環境と比較して小さく、熱交換器能力(冷却能力)もこれに応じて小さくてすむものであり、引用例1には、「上記実施例では、熱交換器25を設けたが、これを省略してもよい。」(甲第2号証4頁左上欄6~7頁)との記載もある。また、本願第1~第3考案において熱交換器としてドライコイルを使用することにより、顕著な作用効果を奏するものとも認められないことも、上記のとおりである。
そうすると、引用例考案における熱交換器25(冷水コイル25b)を、熱交換器としての冷却コイルとして本願出願前周知であり、結露が生じないよう処理空気の温度差を小さくして用いるドライコイルに置き換えることが、当業者にとって極めて容易であるとした審決の判断に誤りはない。
第5 証拠
本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、甲第8ないし第11号証、第12号証の1、2、第13号証を除き、当事者間に争いがない。
第6 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過)について
(1) 本願考案の要旨の示すとおり、本願第1~第3考案においては、そのドライコイルの設置に関し、「空気通路の床下にドライコイルを設置した」(本願第1考案)、「空気通路の天井部にドライコイルを設置した」(本願第2考案)、「レターンプレナム内にドライコイルを設置した」(本願第3考案)とのみ規定されていて、ドライコイルを通気断面積の全面積を占めるように配置するとの限定を示す事項は規定されていない。
また、本願明細書の考案の詳細な説明は、「従来の技術」として、「半導体製造、食品工業等で使用されるクリーンルームにおいて、室内で熱を発生するクリーンルームでは、その熱を処理して室内を設定温度に維持する方式として、代表的には、第1図に示すように空調機(エアハンドリングユニット)1を用いる方式、或いは第2図に示すように専用レターンダクト2に冷却コイル3を設置する方式が採用されている」(甲第7号証3欄28~34行)ことを挙げ、これら従来技術の問題点として、「第1図の空調機を用いる方式では、空気の循環を空調機の送風機で行なうために過大な搬送動力を必要とし大型の空調機を用いなければならず、設備費用並びに運転費用が嵩むという問題がある。また、第2図の方式では、冷却コイル3と送風機12を設置する専用のレターンスペースを必要とすることから、このスペースをユーザ側で自由に使用できず、ユーザーの使用可能空間が減少するという問題がある」(同4欄1~9行)ことを指摘し、「本考案はこのような問題の解決を目的としたものである」(同4欄10~11行)として、以下、本願考案の構成と実施例を説明し(同4欄12行~6欄15行)、最後に、本願考案の効果につき、「以上のようにして本考案によると、室内に熱発生源が存在するクリーンルームにおいて、その熱の処理のための空調機は不要となり、またその熱を処理するための専用空間を採ることも不要となって既述の目的が達成されると共に、クリーンルームの低コスト化、省エネルギー化、省スペース化を図ることができる。」(同6欄16行~21行)と記載しているが、ドライコイルを使用したことの理由あるいは効果又はこれに伴う構成上の特徴ないし制約等に関しては、「ここで、ドライコイルとは、熱交換表面に結露が生じないような条件で空気を冷却する空気冷却器を意味する。」(同4欄40~41行)、「本考案においては、生産排気に対応する空気を系内に取入れるが、その取入れ外気は外調機9によって温湿度調整し、室内の熱発生源7によって発生する熱をドライコイル18で処理し、このドライコイル18は先述のように熱交換表面で結露を生じないから空気の冷却だけを行い湿度は変化させない。」(同5欄4~9)との各記載があるほかは、特段の記載は存在しない。
これらの本願明細書の記載によれば、本願考案は、クリーンルームにおいて、空気の循環を空調機の送風で行う場合には、搬送動力の点から空調機が大型になり、冷却コイルと送風機を設置する場合は専用のレターンスペースを必要とするのでユーザーの使用空間が減少するという技術課題に対し、本願考案の要旨の示す構成を採用することにより、空調機及び専用のレターンスペースとも不要としてこれを解決するとともに、併せて、低コスト化、省エネルギー化、省スペース化の効果を奏したものであることが認められる。
そして、冷却コイルについては、前示のとおり、冷却コイルと送風機とを設置する場合におけるユーザー使用空間の減少が技術課題との関係で問題とされ、また、ドライコイルを使用したことに伴って空気の冷却の際に湿度変化がないことに触れられてはいるものの、ドライコイルを通気断面積の全面積を占めるように配置することの必要性や効果に関しては本願明細書に何らの記載も存在しない。
もっとも、本願の図面第3図、第5図、第7図及び第9図(甲第7号証5~7頁)は、順次本願第1~第4考案の各実施例に関するクリーンルームの略断面図であって、各図には、ドライコイル18がそれぞれの空気通路の幅方同についてはその全域を占めて設置されるように図示されているが、断面図の性質上、奥行方向については不明というほかはなく、さらに同4図、第6図、第8図、第10図(同4~8頁)は、順次本願第1~第4考案の各実施例におけるクリーンルームの空気流れ系統図であって、各図には、空気が循環する際にドライコイルを通過することが模式的に示されてはいるが、このような模式図の性質上、循環空気の全量がドライコイルを通過するとまで読み取ることは困難である。
以上のとおり、本願明細書及び図面上、ドライコイルを通気断面積の全面積を占めるように配置するとの限定を示すような記載は一切存在しない。
(2) ところで、クリーンルームの設計において、冷却コイルの冷却能力をどの程度にするかは、室内の熱発生源の発熱量との関係で定められるものであることは明らかであり、通気断面積の一部を占めるようにドライコイルを設置したとしても、ドライコイルを通過し冷却された空気と開放空間部を通過した空気との混合後の温度を基準としたドライコイルの冷却能力が、クリーンルームの発熱量と見合ったものであれば、それでよいのであるから、このような点を考慮したうえでドライコイルの種類性能等に応じ、ドライコイルを通気断面積の全面積を占めるように配置するか、その一部を占めるように配置するか、また、通気断面積の一部を占めるように配置するのであれば、その通気断面積に対する割合をどれほどにするかは、個々のクリーンルームの設計において定められるべき設計事項と認められる。
この点に関して、原告作成の風量配分の参考資料(弁論の全趣旨により成立の真正を認めことができる甲第13号証)には、ドライコイルを通気断面積の半分を占めるように配置したときの開放空間部の風速はドライコイル部の風速の約160倍になるとの計算結果が示されているが、同計算結果は、あくまでもドライコイルを通気断面積の半分を占めるように配置したこと等、その計算の前提条件の下における数値であるところ、前示のとおり、それらの点は設計事項に属するというべきであって、同計算結果から、直ちにドライコイルを通気断面積の全面積を占めるように配置しなければならないとすることはできない。
したがって、ドライコイルに空気抵抗が存在することを根拠として、ドライコイルを常に通気断面積の全面積を占めるように配置しなければならないものと断定することはできないし、当業者にとって、ドライコイルを通気断面積の全面積を占めるように配置することが、本願明細書に記載されるまでもなく自明の事項であることは、本件全証拠によっても認めることはできない。
そうすると、本願第1~第3考案の「空気の循環路にフアンフイルタユニット以外の送風機を設けることなく・・・ドライコイルを設置した」との構成を、ドライコイルを通気断面積の全面積を占めるように配置することであると限定して解する根拠はないものといわなければならない。
(3) したがって、引用例発明についてみるまでもなく、審決が、ドライコイルが通気断面積の全面積を占めるように配置されることを本願第1~第3考案と引用例発明との相違点として認定しなかったことに、何ら誤りはないものというべきである。
2 取消事由2(本願第1~第3考案の顕著な作用効果の看過並びに相違点の判断の誤り)について
(1) ドライコイルが、ウェットコイルと同様、空気冷却用の熱交換器であり、結露が生じないよう処理空気の温度差を小さくし、空気の湿度変化を生じさせないようにして使用するものであることは当事者間に争いがない。
原告が、本願第1~第3考案の顕著な作用効果として主張するもののうち、ドライコイルを使用することにより空気の絶対湿度を変化させないという効果は、原告主張のように湿度変化が半導体製造等に好ましくないものとすれば、ドライコイルが、結露が生じないよう処理空気の温度差を小さくし、空気の湿度変化を生じさせないようにして使用するものである以上、当業者が容易に予測することのできる効果であることが明白である。
また、どのファンフィルタユニットからも同じ温度の空気が吹き出され、クリーンルーム内での温度分布の発生が回避できるとの効果は、ドライコイルに循環空気流の全部を通流させること、すなわち、本願第1~第3考案のドライコイルを通気断面積の全面積を占めるように配置することに対応した効果であると認められるところ、本願第1~第3考案におけるドライコイルの設置方法を、通気断面積の全面積を占めるように配置するものと限定して解することができないことは前示のとおりであり、したがって、この効果は、本願第1~第3考案の要旨に基づく効果ということはできない。
さらに、本願考案のドライコイルが専用のファンを持たないから、ファンが騒音源および振動源となることもないとの効果については、昭和51年8月25日発行の小原淳平著「続・100万人の空気調和」(乙第5号証)の、「いくら室内の温湿度条件を満足できても、耳ざわりな音や振動があったのでは空気調和装置としては不合格ということです.」(同号証166頁19~21行)との記載をまつまでもなく、空気調和機の送風機(ファン)等から生ずる騒音、振動を減少させることは、本願出願当時、当業者にとって常に考慮すべき課題であったことは明らかであるから、本願考案の構成により、騒音、振動を減少させる作用効果が生ずることは、当業者が当然予測しうる範囲内のものにすぎない。
したがって、審決が、本願第1~第3考案において、「熱交換器としてドライコイルを使用することによる格別の効果が認められない」と判断したことに誤りはない。
(2) 審決認定のとおり、熱交換器としての冷却コイルとしてドライコイルが本願出願前周知であったこと(審決書10頁7~13行)は、当事者間に争いがなく、ドライコイルが、ウェットコイルと同様、空気冷却用の熱交換器であり、結露が生じないよう処理空気の温度差を小さくし、空気の湿度変化を生じさせないようにして使用するものであること、本願第1~第3考案において、熱交換器としてドライコイルを使用することによる格別の効果は認められないことは前示のとおりである。
そうすると、クリーンルームに使用する冷却コイルを、ウェットコイルとドライコイルのいずれにするかは、除湿機能の有無等それぞれに備わる特性や効果を考慮したうえで、当業者において容易に選択しうるものということができ、したがって、引用例発明における冷水コイル(25b)を有する熱交換器(25)を、ドライコイルに置き換えることは、当業者が極めて容易になしうる程度のものと認めることができる。
審決の相違点の判断に誤りはない。
3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)
平成5年審判第5102号
審決
東京都千代田区神田駿河台4丁目2番地8
請求人 高砂熱学工業 株式会社
東京都新宿区住吉町8-10 ライオンズマンション市ケ谷601号和田特許事務所
代理人弁理士 和田憲治
昭和63年実用新案登録願第94640号「クリーンルーム」拒絶査定に対する審判事件(平成6年12月12日出願公告、実公平6-48256)について、次のとおり審決する.
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
1. この出願は、昭和63年7月19日の出願であり、当審において出願公告したところ、株式会社大氣社及び日立プラント建設株式会社から登録異議申立がなされたものであって、この出願における実用新案登録を受けようとするそれぞれの考案の構成に欠くことのできない事項は、公告された明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1~4に記載された下記のとおりで、これら考案は前記明細書の考案の詳細な説明に記載されたものと認める。
「(1)天井裏空間をサプライプレナム、床下空間をレターンプレナムとして、天井面に張り渡したフィルタ層を経て室内に清浄空気を給気するようにしたクリーンルームにおいて、ケーシング内にフアンとHEPAフィルタを装着したフアンフイルタユニットの多数個を天井面に配置し、レターンプレナムからサプライプレナムに通じる空気通路を室内空間の一部を利用して形成することによりサプライプレナム→フアンフイルタユニット→室内→レターンプレナム→該空気通路→サプライプレナムの順に通じる空気の循環路を構成し、この空気の循環路にフアンフイルタユニット以外の送風機を設けることなく該空気通路の床下にドライコイルを設置したことを特徴とするクリーンルーム。
(2)天井裏空間をサプライプレナム、床下空間をレターンプレナムとして、天井面に張り渡したフィルタ層を経て室内に清浄空気を給気するようにしたクリーンルームにおいて、ケーシング内にフアンとHEPAフイルタを装着したフアンフイルタユニットの多数個を天井面に配置し、レターンプレナムからサプライプレナムに通じる空気通路を室内空間の一部を利用して形成することによりサプライプレナム→フアンフイルタユニット→室内→レターンプレナム→該空気通路→サプライプレナムの順に通じる空気の循環路を構成し、この空気の循環路にフアンフイルタユニット以外の送風機を設けることなく該空気通路の天井部にドライコイルを設置したことを特徴とするクリーンルーム。
(3)天井裏空間をサプライプレナム、床下空間をレターンプレナムとして、天井面に張り渡したフィルタ層を経て室内に清浄空気を給気するようにしたクリーンルームにおいて、ケーシング内にフアンとHEPAフィルタを装着したフアンフイルタユニットの多数個を天井面に配置し、レターンプレナムからサプライプレナムに通じる空気通路を室内空間の一部を利用して形成することによりサプライプレナム→フアンフイルタユニット→室内→レターンプレナム→該空気通路→サプライプレナムの順に通じる空気の循環路を構成し、この空気の循環路にフアンフイルタユニット以外の送風機を設けることなくレタンプレナム内にドライコイルを設置したことを特徴とするクリーンルーム。
(4)天井裏空間をサプライプレナムとして、天井面に張り渡したフィルタ層を経て室内に清浄空気を給気するようにしたクリーンルームにおいて、ケーシング内にフアンとHEPAフィルタを装着したフアンフイルタユニットの多数個を天井面に配置し、室内からサプライプレナムに通ずるレターン通路をクリーンルーム空間の天井部に形成することによりサプライプレナム→フアンフイルタユニット→室内→該天井部のレターン通路→サプライプレナムの順に通じる空気の循環路を構成し、この空気の循環路にフアンフイルタユニット以外の送風機を設けることなく該レターン通路にドライコイルを設置したことを特徴とするクリーンルーム。」
2. これに対して、登録異議申立人日立プラント建設株式会社の提出したこの出願前国内において頒布された刊行物である甲第2号証(特開昭61-76837号公報)には、下記の考案(以下、「引例考案」という。)が記載されていると認められる。
「天井裏空間を天井プレナム(5)、床下空間を床プラナム(7)とし、天井面(21)に張り渡したフィルタ層を経て室内に清浄空気を給気するようにしたクリーンルームにおいて、ケーシング(15)内にフアン(17)とHEPAフイルタ(18)を装備したフアンフイルタユニット(4)を多数個を天井面(21)に配置し、床プレナム(7)から天井プレナム(5)に通ずる縦ダクト(9)を室内空間の一部を利用して形成することにより天井プレナム(5)→室(6)内→床プレナム(7)→該縦ダクト(9)→天井プレナム(5)の順に通ずる空気の循環路を構成し、該縦ダクト(9)内にフアン(25a)及び冷水コイル(25b)を有する熱交換器(25)を設置したクリーンルーム。」(なお、甲第2号証には「クリーンルーム」という言葉はないが、これにおいて記載されたものの作用効果からして、通常「クリーンルーム」と呼ばれるものであることから使用した。)
3. そこで、前記請求項1~3に係る考案と引用考案と比較すると、引用考案の「天井プレナム(5)」、「床プレナム(7)」、「ケーシング(15)」、「フアン(17)」、「HEPAフィルタ(18)」、「フアンフイルタユニット(4)」、「天井面(21)」及び「縦ダクト(9)」は、前記請求項1~3に係る考案の「サプライプレナム」、「レターンプレナム」、「ケーシング」、「フアン」、「HEPAフイルタ」、「フアンフイルタユニット」、「天井面」及び「空気通路」に相当する(なお、引用考案の「縦ダクト(9)」は、建屋(1)の側壁(1c)と内壁(8)とのあいだに形成されており、この内壁(8)は、建屋(1)内の空間を室(6)と「縦ダクト(9)」とに仕切るものであり、この出願の明細書及び図面の記載をみれば明らかなようにこの図面に記載された室(8)及び各プレナム等を包含する枠は、外調機(9)との関係からも引用考案の前記建屋(1)に相当するものであり、そしてこの枠内の空間をカーテン又は仕切壁(19)によって室(8)と前記「空気通路」とを仕切るものであることから、明らかに前記「縦ダクト(9)」は前記「空気通路」に相当する。)ことから、引用考案が「空気の循環路にフアンフイルタユニット以外の送風機(熱交換器のフアン)が設けられ、熱交換器を縦ダクトに設置した」のに対し、前記請求項1~3に係る考案は、「空気の循環路にフアンフイルタユニット以外の送風機を設けることなく」下記の構成にした点において相違するのみで、その余の点でこれらは一致する。
[請求項1]
「空気通路の床下にドライコイルを設けた」
[請求項2]
「空気通路の天井部にドライコイルを設けた」
[請求項3]
「レターンプレナム内にドライコイルを設けた」
4. 以下、前記請求項1~3に係る考案のそれぞれと引用考案の相違点について検討する。
ところで、前記請求項1~3に係る考案は、前記相違点を有することにより、空気循環はフアンフイルタユニットで行うので空気循環路に送風機を別途設置する必要はなく、空気通路は空気処理のための機器は存在しないので、作業員の通路や生産機器のオペレータ機器類を配置する空間として利用できるものと認められる。しかし、以下のことが、認められる。
(A)前記登録異議申立人の提出した甲第3号証(特開昭60-69441号公報)には、建屋(1)内の空間を側壁(3)によって保全部(4)と通路部(5)及び作業部(6)とに分割し、この保全部(4)の天井部に熱交換器である冷却コイル(30)を設置したクリーンルームが記載されると共に、この保全部(4)は、このクリーンルームにおける空気循環から考えて、前記請求項1~3に係る考案の「空気通路」及び引用考案の「縦ダクト」に相当すると認められるものであることから、この甲第3号証には、前記請求項1~3に係る考案の「空気通路」に相当する前記保全部(4)に空気処理のための機器を配置せず、この保全部(4)の天井部に冷却コイル(30)を設置し、この保全部(4)を空気処理以外の作業空間としたものが記載されているものと認められること。
(B)フアンフイルタユニットを有するクリーンルームにおいて、クリーンルーム内の空気循環はこのユニットのフアンのみにて行うことがこの出願前周知であり(要すれば、この出願の審査における拒絶査定の備考(イ)において引用された公報参照)、また、前記甲第2号証記載のフアンフイルタユニットにおけるフアンによって、クリーンルーム内の空気循環が行われているものと認められこと。
(C)熱交換器としての冷却コイルとしてドライコイルは、この出願前周知であり(要すれば、前記登録異議申立人の提出した甲第6号証(三訂新版「建築設備ハンドブック」1981年7月5日発行、発行所:(株)朝倉書店)参照)、前記請求項1~3に係わる考案において熱交換器としてドライコイルを使用することによる格別の効果が認められないこと。
そして、これらのことを総合して考えると、甲第2号証のものにおいて、熱交換器をドライコイルに換え、前記「縦ダクト」以外の空気循環路に設置し、この「縦ダクト」を空気処理以外の作業空間としても利用できるようにすることは、当業者においてきわめて容易に想到し得たことである。
また、前記請求項1~3に係る考案において、ドライコイルを「空気通路の床下」「空気通路の天井部」及び「レタンプレナム」にそれぞれ設置したことは、これら考案の作用効果から考えて、前記「空気通路」以外の箇所であればよく、格別のものとは認められなく、加えて前記甲第3号証に冷却コイルを「空気通路」に相当する箇所(保全部)の天井部に設置したものが記載されていることから、これら考案において前記の各箇所にドライコイルをそれぞれ設置したことは、当業者においてきわめて容易になし得た設置個所の選択にすぎない。
5. してみれば、この出願における前記請求項1~3に係る考案は、前記甲第2、3号証及び周知のことから、当業者がきわめて容易に考案し得たものであり、実用新案法第3条第2項の規定によって、実用新案登録を受けることができず、この出願の前記請求項4に係る考案について検討するまでもなく、この出願は拒絶されるものである。
よって、結論のごとく審決する。
平成7年12月12日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)