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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)63号 判決 1998年2月26日

ドイツ連邦共和国

バーデン・ビュール・インズストリイストラーセ 3

原告

ルーク・ラメレン・ウント・クップルングスバウ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング

同代表者

ゲルハルト・ロッテル

同訴訟代理人弁護士

牧野良三

同弁理士

久野琢也

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

同指定代理人

高橋美実

田中弘満

小池隆

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための付加期間を90日と定める。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成6年審判第8076号事件について平成7年11月6日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文1、2項と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、1983年11月15日及び1984年3月5日にドイツ連邦共和国においてした特許出願に基づいてパリ条約4条の規定による優先権の主張をして昭和59年11月15日に出願した特願59-239615号の一部につき、発明の名称を「トルク伝達装置」として、平成2年8月6日に新たな特許出願(特願平2-206936号)をしたが、平成6年1月5日拒絶査定を受けたので、同年5月16日審判を請求し、平成6年審判第8076号事件として審理された結果、平成7年11月6日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年12月6日原告に送達された。なお、出訴期間とし90日が付加された。

2  本願の特許請求の範囲第2項に記載された発明(以下「本願第1発明」という。)の要旨

トルク伝達装置であって、質量体が、駆動軸(5)に固定された駆動ディスク(3)と、この駆動ディスク(3)に対して同軸的に配置されかつこの駆動ディスクに対して相対的に回動可能にこの駆動ディスク(3)に支持されたはずみ車(4)とから成り、駆動ディスク(3)とはずみ車(4)との間にトルク制限機構(114、214)と緩衝機構(13)とが設けられており、これにより、駆動軸(5)のトルクが駆動ディスク(3)と上記両方の機構(13;114、214)とを介してはずみ車(4)へ伝達されるようになっている形式のものにおいて、緩衝機構(13)が少なくとも1つのヒステリシス装置(39、40)と蓄力装置(38)とを備えており、この蓄力装置が駆動ディスク(3)及びはずみ車(4)の少なくともいずれか一方の部材に、この部材に結合された少なくとも1つのディスク状の部材(35、36)を介して支持されており、少なくとも1つの前記蓄力装置(38)が周方向に遊びを有して配置されており、かつ、はずみ車が転がり軸受(17、20、16)を介して駆動ディスク(3)によって支持されていることを特徴とするトルク伝達装置。(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願第1発明の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  引用例の記載

特開昭55-20964号公報(以下「引用例」という。)には、「前記ドライブプレートと前記フライホイールとの間にクラッチ機構とダンパー機構とを介在させ、」(特許請求の範囲(1)4行ないし6行)、「本発明による回転トルク伝達装置1の実施例は、クランクシャフトとクラッチシャフトとの間に、適用されたもので、2は駆動軸となるクランクシャフトであり且つ3は被動軸となるクラッチシャフトである。」(2頁左下欄18行ないし右下欄3行)、「フライホイール9の内周部に断面L型をなした環状の第1のドリブンプレート16をボルト17で固定させる。この第1のドリブンプレート16とフライホイール9との間に第2のドリブンプレート18を固定し、第1および第2ドリブンプレート16、18が、ドライブプレートブッシュ19を介して、フライホイール9と共に、ドライブプレート7に対し回転可能とさせる。第1および第2のドリブンプレート16、18の間には第1および第2のドライブディスク20、21が、第1のドリブンプレート16に対し、自由状態関係に配される。第1のドライブディスク20の内周部に断面L形のスラストプレート22を回転方向に固定し、該スラストプレート22を第1のドリブンプレート16に摺動自在とさせる。内周部をスラストプレート22に且つ外周部を第2のドライブディスク21に接するようにクラッチスラストコーンスプリング23を設ける。」(2頁右下欄19行ないし3頁左上欄19行)、「第1および第2のドライブディスク20、21および第1および第2のドリブンプレート16、18には、各々溝が形成され、該溝に入るようコンプレッションスプリング26が配される。」(3頁右上欄6行ないし11行)、「駆動軸2からの回転トルクは、摩擦板24を介して、そのねじり振動をコンプレッションスプリング26で吸収しながら、被動軸3に伝達されるが、しかし、ダイヤフラムスプリング25のバネカおよびクラッチライニング24の摩擦係数等で決められる伝達許容回転トルク値以上の回転トルクがドライブプレート7と第1、第2のドライブディスク20、21間に生じると、第2図に破線部A1或いはB1で示すように、摩擦板24にすべり現象が生じ、トルク伝達がA2或いはB2に制限される。」(3頁左下欄18行ないし右下欄10行)との記載がある。

(3)  本願第1発明と引用例記載のものとの対比本願第1発明の「駆動軸(5)」、「駆動ディスク(3)」、「はずみ車(4)」、「トルク制限機構(114、214)、「緩衝機構(13)」、「ヒステリシス装置(39、40)」、「蓄力装置(38)」、「ディスク状の部材(35、36)」、「軸受(17、20、16)」は、夫々引用例記載のものの「クランクシャフト2」、「ドライブプレート7」、「フライホイール9」、「クラッチ機構」、「ダンパー機構」、「スラストプレート22、及びクラッチスラストコーンスプリング23」、「コンプレッションスプリング26」、「第1および第2のドリブンプレート16、18」、「ドライブプレートブッシュ19」に相当するから、両者は、「トルク伝達装置であって、質量体が、駆動軸(5)に固定された駆動ディスク(3)と、この駆動ディスク(3)に対して同軸的に配置されかつこの駆動ディスクに対して相対的に回動可能に支持されたはずみ車(4)とから成り、駆動ディスク(3)とはずみ車(4)との間にトルク制限機構(114、214)と媛衝機構(13)とが設けられており、これにより、駆動軸(5)のトルクが駆動ディスク(3)と上記両方の機構(13;114、214)とを介してはずみ車(4)へ伝達されるようになっている形式のものにおいて、緩衝機構(13)が、少なくとも1つのヒステリシス装置(39、40)と蓄力装置(38)とを備えており、この蓄力装置が駆動ディスク(3)及びはずみ車(4)の少なくともいずれか一方の部材に、この部材に結合された少なくとも1つのディスク状の部材(35、36)を介して支持されており、かつ、はずみ車が軸受(17、20、16)を介して支持されていることを特徴とするトルク伝達装置。」の点で一致し、次の点で相違している。

<1> 駆動ディスク(3)によって軸受(17、20、16)を介して支持されるものが、本願第1発明では、はずみ車(4)なのに対して、引用例では第1および第2ドリブンプレート16、18である点

<2> 少なくとも1つの蓄力装置(38)が、本願第1発明では、周方向に遊びを有して配置されるのに対して、引用例では、この点について何ら記載されていない点

<3> 軸受が、本願第1発明では転がり軸受なのに対して、引用例ではすべり軸受である点

(4)  相違点の判断

<1> 相違点<1>について

第1および第2ドリブンプレート16、18は、ボルト17によりフライホイール9(本願第1発明のはずみ車(4)に相当する)に固定され、これらが一体となってドライブプレートブッシュ19(本願第1発明の軸受(17、20、16)に相当する)に支持されるから、間接的にフライホイール9がドライブプレートブッシュ19に支持されることになる。そして、フライホイールを直接軸受で支持することは従来周知(例えば、特開昭55-132435号公報、特開昭54-7008号公報等を参照)であるから、間接的に支持されるか、それとも、直接的に支持されるかというようなこと(言い換えれば、第1および第2ドリブンプレート16、18が支持されるか、それとも、フライホイール9が支持されるかというようなこと)は、当業者が適宜決定できる設計的な事項にすぎない。

<2> 相違点<2>について

この種の蓄力装置が周方向に遊びを有して配置されることは、従来周知{例えば、米国特許第3266271号明細書及び図面(1966年、クラス64)には、「予め決められただけ回転するまでは、弾性部材Aによっては入出力部材間の相対動作の抵抗とならないように、弾性部材A間にから動作接続が設けられる」(2欄43行ないし47行、及び第1図)との記載があり、特公昭52-40704号公報には、「から動きばね13(第1のばね段)では両方の窓18と21は同じ大きさであるが、他の段ばね14、15では、ボスフランジ24にある窓22および23は、段ばね14および15が収容されている窓19および20よりそれぞれ寸法が次第に大きくなっている。側縁相互のこの間隔によって、関係するばね段のそれぞれの作用開始点が決定される。」(4欄38行ないし5欄1行)との記載があり、特開昭54-7008号公報には、「駆動側フライホイール部材1、エンドプレート6、サブプレート8には対応する空所1c、6a、8aが6個所に形成されており、そのうちの4個所においては空所1c、6a、8aの回転方向の長さが同一にされていてコイルばね10が設置され、残りの2個所においては空所1cの回転方向長さが空所6a及び8aよりも短くされていてコイルばね11が設置されている。しかしてコイルばね10は常時トルク伝達に関係するが、コイルばね11は高トルク時のみトルク伝達に関与する。」(2頁左上欄17行ないし右上欄7行)との記載がある。}である。

<3> 相違点<3>について

軸受の形式としてころがり軸受とすべり軸受とは、いずれも従来周知であり、かつ、どちらの形式とするかというようなことは、単なる設計変更にすぎない。

(5)  したがって、本願第1発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、本願第1発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

また、前述のように本願第1発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、このような発明を包含する本願については、特許請求の範囲第1項に規定された発明及び特許請求の範囲第3~5項に記載された発明について判断するまでもなく特許を受けることができない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)、(2)は認める。同(3)のうち、本願第1発明の「ヒステリシス装置(39、40)」が引用例の「スラストプレート22、及びクラッチスラストコーンスプリング23」に相当すること、本願第1発明と引用例記載のものとが、「緩衝機構(13)が、少なくとも1つのヒステリシス装置(39、40)と蓄力装置(38)とを備えており、この蓄力装置が駆動ディスク(3)及びはずみ車(4)の少なくともいずれか一方の部材に、この部材に結合された少なくとも1つのディスク状の部材(35、36)を介して支持されており、かつ、はずみ車が軸受(17、20、16)を介して支持されている」点で一致していることは争い、その余は認める。同(4)<1>のうち、第1および第2ドリブンプレート16、18がボルト17によりフライホイール9に固定されていること、フライホイールを直接軸受で支持することが従来周知であることは認めるが、その余は争う。同(4)<2>、<3>は認める。同<5>は争う。

審決は、本願第1発明と引用例記載のものとの一致点の認定を誤り、かつ、相違点<1>についての判断を誤って、本願第1発明の進歩性の判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。

(1)  一致点の認定の誤り(取消事由1)

審決は、本願第1発明の「ヒステリシス装置(39、40)」は引用例記載の「スラストプレート22、及びクラッチスラストコーンスブリング23」に相当するとし、本願第1発明と引用例発明とは、「緩衝機構(13)が、少なくとも1つのヒステリシス装置(39、40)と蓄力装置(38)とを備えており、この蓄力装置が駆動ディスク(3)及びはずみ車(4)の少なくともいずれか一方の部材に、この部材に結合された少なくとも1つのディスク状の部材(35、36)を介して支持されており、かつ、はずみ車が軸受(17、20、16)を介して支持されていること」において一致していると認定しているが、誤りである。

<1> 本願第1発明のヒステリシス装置は、摩擦装置39、負荷摩擦装置40(負荷摩擦装置の構成部品である摩擦ディスク41を含む)より成り、摩擦装置39は、入力部25とディスク35、36との間の相対的回動角度全体にわたって摩擦作用を行う(甲第11号証6頁24行ないし26行)。これに対し、引用例の装置では、ヒステリシス装置であるスラストプレート22、クラッチスラストコーンスプリング23が第1、第2ドリブンプレート16、18に摺動自在に接しているだけであるから摩擦作用を行わない。

本願第1発明において、摩擦装置39の蓄力装置39bと摩擦リング39aとは、ディスク35と36との間で緊締ないし締め付けられる(甲第11号証7頁4行ないし9行)ことによって生じる摩擦作用により、蓄力装置コイルばね38及び負荷摩擦装置40と協力して、急激なトルク変動を吸収するのに対し、引用例装置のスラストプレート22及びクラッチスラストコーンスプリング23は第1、第2ドリブンプレート16、18のいずれにも緊締ないし締め付けられていないから、摩擦による緩衝作用を行うことができない。

本願第1発明の皿ばね状部材43はアーム41a及びディスク35に支えられ、これによって負荷摩擦ディスク41がディスク36に支えられている(甲第11号証7頁18行ないし21行)。ここで、皿ばね状部材43がアーム41a及びディスク35に支えられているということは、「入力部34とアーム41aとの間の相対的回動が可能である」(甲第11号証7頁14行ないし16行参照)ようにすること、すなわち摩擦が可能であるようにすることを目的とするものであるのに対し、引用例装置のクラッチスラストコーンスプリング23が第2のドライブディスク21に「接する」ことは、スラストプレート22が第1のドリブンプレート16に摺動自在であることに鑑み、「摺動自在に接する」ことと同義であると解すべきであるから、クラッチスラストコーンスプリング23は摩擦作用を行うことができない。

上記のとおり、本願第1発明のヒステリシス装置39、40(41を含む)はディスク35、36との間の摩擦作用により、蓄力装置38による緩衝作用と協力して、急激なトルク変動を吸収することによって振動を減衰することができるのに対し、引用例装置のヒステリシス装置であるスラストプレート22及びクラッチスラストコーンスプリング23は第1のドリブンプレート16との間に摩擦による緩衝作用(振動の減衰作用)を実現することができない。そして、本願第1発明は、上記構成により、「緩衝機構の緩衝作用を任意に調節して、その都度の使用条件に申し分なく適合させることが可能であ(る)」(甲第11号証12頁22行、23行)という優れた作用効果を奏するものである。

上記のとおりであって、審決は、本願第1発明のヒステリシス装置(39、40)の有する技術的意義及びその奏する優れた作用効果を看過誤認したものであり、本願第1発明のヒステリシス装置(39、40)は引用例記載のスラストプレート22及びクラッチスラストコーンスプリング23に相当するとした審決の認定は誤りである。

<2> 本願図面第1図において隔てボルト37によってはずみ車4に固定されたディスク35、36は転がり軸受17、20、16と接しておらず、両者は離れて設けられている。また、本願明細書(甲第11号証)には、「緩衝機構13の入力部34と質量体4若しくは緩衝機構13の出力部を形成する両方のディスク35、36との間の相対回動を制限するために、隔てボルト37が入力部34の円弧状の切り欠き34bを貫通しており、相対回動はこの円弧状の切り欠き34bの終端範囲に隔てボルト37が衝突するまで行われる。」(7頁24行ないし28行)と記載されているとおり、ディスク35と36との間では相対回動が行われ、この相対回動は円弧状の切り欠き34bの終端範囲に隔てボルト37が衝突するまで行われるのであるから、もしディスク35、36の端部が固定ねじ6あるいは転がり軸受17に当接して設けられると、ディスク35、36の相対回動が妨げられ、本願第1発明の目的とする作用効果である、「緩衝機構の緩衝作用を任意に調節して、その都度の使用条件に申し分なく適合させる」ことができなくなる。この意味で、ディスク35、36が転がり軸受17から離れて設けられることは本願第1発明の必須要件であり、当業者の技術常識に属するところということができる。

したがって、本願特許請求の範囲第2項中の「はずみ車4が転がり軸受(17、20、16)を介して駆動ディスク(3)によって支持されている」との構成における「支持」とは、「この部材」(実施例のはずみ車4)に転がり軸受(17、20、16)から離して設けられた「ディスク状の部材(35、36)を介して支持」されているものと解さなければならない。

一方、引用例では、第1図(別紙図面2参照)に示す装置において、第1、第2ドリブンプレート16、18がドライブプレートブッシュ19に当接して支持されている。

上記のとおり、両者は軸受を介するはずみ車の支持の形態が異なるから、審決が、「はずみ車が軸受(17、20、16)を介して支持されている」点で一致しているとした認定は誤りである。

<3> 引用例の装置においては、第1、第2ドライブディスク20、21及び第1、第2ドリブンプレート16、18には各々溝が形成され、該溝に入るようにコンプレッションスプリング26が配される(甲第12号証3頁右上欄6行ないし11行)。すなわち、引用例の装置では、コンプレッションスプリング26は第1、第2ドリブンプレート16、18を介して支持されるほかに、本願第1発明の出力部29、34に該当する第1、第2ドライブディスク20、21をも介して支持されている点で本願第1発明と構成を異にするものである。したがって、この点を看過し、「この蓄力装置が駆動ディスク(3)及びはずみ車(4)の少なくともいずれか一方の部材に、この部材に結合された少なくとも1つのディスク状部材(35、36)を介して支持され」た点で一致しているとした審決の認定は誤りである。

(2)  相違点(1)の判断の誤り(取消事由2)

審決は、相違点<1>の判断に当たり、引用例装置について、「第1および第2ドリブンプレート16、18は、ボルト17によりフライホイール9に固定され、これらが一体となってドライブプレートブッシュ19に支持されるから、間接的にフライホイール9がドライブプレートブッシュ19に支持されることになる。」と認定、判断しているが誤りであり、これを前提とする相違点<1>の判断も誤りである。

本願第1発明のディスク35、36(引用例発明の第1、第2ドリブンプレート16、18に相当する)は、隔てボルト37(引用例発明のボルト17に相当する)によりはずみ車4(引用例発明のフライホイール9に相当する)に固定されている点で引用例発明の構成と異なるところがない。

しかしながら、上記(1)で述べたように、本願第1発明において、隔てボルト37によってはずみ車4に固定されたディスク35、36は、転がり軸受17、20、16から離れて配置されていることをもって必須の要件とするものであり、本願特許請求の範囲第2項における「はずみ車が転がり軸受(17、20、16)を介して駆動ディスク(3)によって支持されている」との記載における「支持」とは「この部材」(実施例のはずみ車4)に転がり軸受(17、20、16)から離して設けられた「ディスク状の部材(35、36)を介して支持」されているものと解さなければならない。

これに対し、引用例発明においては、第1、第2ドリブンプレート16、18がドライブプレートブッシュ19に当接して支持されているものであり、両者は軸受を介するはずみ車の支持形態が異なるものである。

そして、本願第1発明は、ヒステリシス装置により、急激なトルク変動を吸収することによって振動を減衰でき、かつ、「緩衝機構の緩衝作用を任意に調節して、その都度の使用条件に申し分なく適合させることが可能であ(る)」(甲第11号証12頁22行、23行)という優れた作用効果を奏するのみか、はずみ車がディスク35、36から間隔をおいて配置された転がり軸受を介して駆動ディスクによって支持されるという構成により駆動ディスク3とはずみ車4とを互いに正確に芯出しすることができるものである。

上記のとおりであるから、相違点<1>についての審決の判断は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

<1> ヒステリシスとは、二つの変数の関係が周期的に繰り返されるとき、両者の関係が同一曲線上を往復しないで一つの環線(ヒステリシスループ)を描く現象をいう。

本願第1発明の属する技術分野において、通常、二つの変数としてトルクと角度とが選択され、ヒステリシスが起きないとき、すなわち、摺動摩擦がないときは、両者の関係は同一直線上(又は同一折れ線上)を往復する。一方、ヒステリシスが起きるとき、すわなち、摺動摩擦があるときには、両者の関係は一つの環線を描く。この際、上記摺動摩擦を起こすものがヒステリシス装置というべきものである。

ところで、発明の要旨の認定は、特段の事情のない限り、特許請求の範囲の記載に基づいてなされるべきであり、本願第1発明に係わる特許請求の範囲第2項には、ヒステリシス装置が摩擦装置39、負荷摩擦装置40及び負荷摩擦ディスク41より成るとは記載されてなく、また、特にこのように認定しなければならないとする特段の事情があるとも考えられず、これを発明の要旨とすることはできない。したがって、本願第1発明のヒステリシス装置は、実施例をも包含する、上位の概念、例えば、上記したように、摺動摩擦を起こすものとして把握すべきものである。

他方、引用例の第3図(別紙図面2参照)は、縦軸に捩れトルクをとり、横軸に振れ角をとった、捩れトルクと捩れ角との関係を示すものであり、直線C1、C2、C3、C4、C5は一つの環線(ヒステリシスループ)を描いている。してみると、引用例記載のものは、摺動摩擦を起こすもの、すなわちヒステリシス装置を有する。そこで、両回転体(ドライブプレート7、フライホイール9)間で摺動摩擦を起こしうるものを探すと、ドライブプレート7とドライブディスク20、21との間、又はドライブディスク20、21とドリブンプレート16、18(フライホイール9に固定されている。)との間だけにしか存在しないが、前者は、両回転体間に伝達許容値以上のトルクが生じたときにトルク伝達を制限するためのもの(第2図のA2、B2、及び第3図のD1参照)であり、両回転体間に伝達許容値以下のトルクが生じたとき、すなわち、図面第3図における捩れ角がΘ2以下の通常運転時には、単に、ドライブプレート7とドライブディスク20、21とを固定するだけのものであるから、後者が、両回転体(ドライブプレート7、フライホイール9)間で摺動摩擦を起こしうるものである。

引用例中の後者の詳細な構成に関する「第1および第2のドリブンプレート16、18の間には、第1および第2のドライブディスク20、21が、第1のドリブンプレート16に対し、自由状態関係に配される。第1のドライブディスク20の内周部に断面L形のスラストプレート22を回転方向に固定し、該スラストプレート22を第1のドリブンプレート16に摺動自在とさせる。内周部をスラストプレート22に且つ外周部を第2のドライブディスク21に接するようにクラッチスラストコーンスプリング23を設ける。」(甲第12号証3頁左上欄8行ないし19行)との記載からみて、第1のドライブディスク20に回転方向に固定されたスラストプレート22と、第1のドリブンプレート16との間に摺動があり、スラストプレート22は、クラッチスラストコーンスプリング23により第1のドリブンプレート16方向に付勢されるから、ドライブディスク20、21とドリブンプレート16、18との間に摺動摩擦が生ずる。

したがって、引用例のスラストプレート22及びクラッチスラストコーンスプリング23が本願第1発明のヒステリシス装置(39、40)に相当するとした審決の認定に誤りはない。

<2> 本願第1発明の要旨を、ディスク35、36との間に間隔をおいて配置された転がり軸受(16、17)と限定的に解釈することはできない。すなわち、図面中に実施例として、ディスク35、36との間に間隔をおいて配置された転がり軸受(16、17)が開示されているが、発明の要旨の認定は、特段の事情のない限り、特許請求の範囲の記載に基づいてなされるべきであり、本願特許請求の範囲第2項には、転がり軸受(16、17)がディスク35、36との間に間隔をおいて配置されたとは記載されてなく、また、特にこのように認定しなければならないとする特段の事情があるとも考えられない。

したがって、「はずみ車が軸受(17、20、16)を介して支持されている」点で一致するとした審決の認定に誤りはない。

<3> 本願明細書(甲第11号証)の発明の詳細な説明には、「ディスク35、36並びに入力部34には切り欠き35a、36a並びに34aが形成されており、これらの切り欠き内に、コイルばね38として構成された蓄力装置が収容されている。」(6頁19行ないし21行)との記載があり、引用例(甲第12号証)における「第1および第2のドライブディスク20、21および第1および第2のドリブンプレート16、18には、各々溝が形成され、該溝に入るようにコンプレッションスプリング26が配される。」(3頁右上欄6行ないし11行)との構成と実質的に異なるものではない。

したがって、支持手段が異なることを前提として、「この蓄力装置が駆動ディスク(3)及びはずみ車(4)の少なくともいずれか一方の部材に、この部材に結合された少なくとも1つのディスク状部材(35、36)を介して支持され」た点で一致しているとした審決の認定を誤りであるとする原告の主張は失当である。

(2)  取消事由2について

前記のとおり、本願第1発明の要旨を、ディスク35、36との間に間隔をおいて配置された転がり軸受と限定して解釈することはできない。

原告の主張は本願第1発明の要旨に基づかないものであって失当である。

第4  証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願第1発明の要旨)、3(審決の理由の要点)、並びに、審決の理由の要点(2)(引用例の記載事項の摘示)、(3)のうちの相違点の認定、(4)<2>(相違点<2>の判断)、(4)<3>(相違点<3>の判断)は、当事者間に争いがない。

2  取消事由1について

(1)  本願第1発明の「駆動軸(5)」、「駆動ディスク(3)」、「はずみ車(4)」、「トルク制限機構(114、214)」、「緩衝機構(13)」、「蓄力装置(38)」、「ディスク状の部材(35、36)」、「軸受(17、20、16)」が、それぞれ引用例記載のものの「クランクシャフト2」、「ドライブプレート7」、「フライホイール9」、「クラッチ機構」、「ダンパー機構」、「コンプレッションスプリング26」、「第1および第2のドリブンプレート16、18」、「ドライブプレートブッシュ19」に相当すること、本願第1発明と引用例記載のものとは、「トルク伝達装置であって、質量体が、駆動軸(5)に固定された駆動ディスク(3)と、この駆動ディスク(3)に対して同軸的に配置されかつこの駆動ディスクに対して相対的に回動可能に支持されたはずみ車(4)とから成り、駆動ディスク、(3)とはずみ車(4)との間にトルク制限機構(114、214)と緩衝機構(13)とが設けられており、これにより、駆動軸(5)のトルク駆動ディスク(3)と上記両方の機構(13;114、214)とを介してはずみ車(4)へ伝達されるようになっている形式のものにおいて、」一致していることは、当事者間に争いがない。

(2)  原告は、本願第1発明のヒステリシス装置(39、40)は引用例記載のスラストプレート22及びクラッチスラストコーンスプリング23に相当するとした審決の認定の誤りを主張するので、この点について検討する。

<1>  乙第1号証(「図解機械用語辞典-第2版」 昭和59年12月10日日刊工業新聞社発行)には、「ヒステリシス」について、「一般に材料に荷重を加えるとき、荷重と材料の変形との関係、または磁性材の磁束密度と磁化力との関係などは、周期的にくり返されるとき、両者の関係は同一曲線上を往復しないで一つの環線(ヒステリシスループという)を描く。この現象をヒステリシスという。」(502頁20行ないし25行)と記載されていることが認められる。

ところで、本願第1発明はトルク伝達装置に関するものであるから、トルク伝達装置におけるヒステリシス装置の意味について検討する。

乙第2号証(昭56-12929号実用新案登録願書)は、摩擦クラッチのクラッチディスクに適したダンパーディスクに関するものであるが、同号証には、「クラッチプレート及びリテイニングプレートがハブフランジに対して捩れる際に上記摩擦材の表面に滑りが発生し、その滑りにより生じたヒステリシストルクを利用してトルク振動を吸収するようになっている。ところが従来品では摩擦材としてコーンスプリング、フリクションワッシャー、フリクションプレート等を組み合わせたものを使用している」(2頁3行ないし11行)、「捩れ角度Dは伝達トルクTに対応して増加する。又上記捩れにより摩擦材9の表面ならびに摩擦材11又はフリクションプレート12の表面に滑りが生じ、その滑り時の摩擦力により第3図のトルクー捩れ特性にヒステリシスhが生じる。」(6頁2行ないし7行)と記載されていることが認められる。

乙第3号証(実開昭58-74627号公報)は、自動車等の摩擦式クラッチに用いられるクラッチディスク構造の改良に関するものであるが、同号証には、「摩擦板15、16がねじり摩擦によって第4図に示すような所定値を示すヒステリシス現象が生じるようになっている。」(3頁9行ないし11行)と記載されていることが認められる。

乙第4号証(昭55-51492号実用新案登録願書)は、車両用クラッチ等に採用されるダンパーディスクに関するものであるが、同号証には、「クラッチプレート3及びリテイニングプレート4とハブフランジ2の間に摩擦部材10、10’を介在させることにより、ハブフランジ2に対するクラッチプレート3及びリテイニングプレート4の相対回転ねじり振動に対しヒステリシスを発生させ(第3図符号l)、自動車のアイドリング時における騒音等の防止を図っている。」(3頁13行ないし19行)、「フリクションプレート13及びハブフランジ2は金属製であるので摩擦係数は小さく、従って高ヒステリシストルクが必要な場合、即ち自動車の種類によっては必要になる場合があり、そのような場合にはコーンスプリング14の弾性力を強くしてすべり摩擦力を大きくしなければならない。」(4頁8行ないし14行)と記載されていることが認められる。

乙第5号証(昭49-94236号実用新案登録願書)は、クラッチディスクに関するものであるが、同号証には、「クラッチプレート3、リテイニングプレート4とフランジ部2とは摩擦面a、bに於て圧接状態で摺動する様構成されている為、トルク変動吸収時に於てはねじりトルクとねじり角度との関係を示す特性曲線に第2図の様なヒステリシスが表れ、」(3頁14行ないし19行)と記載されていることが認められる。

乙第1号証ないし乙第5号証の上記各記載によれば、本願第1発明の属する技術分野において、「ヒステリシス」とは、二つの変数として伝達トルクと捩れ角度が選択され、摩擦材のすべり摩擦によって伝達トルクの減少を起こし、両者の関係が1つの環状の曲線(ヒステリシスループ)を描く現象を意味するものであると認められる。

<2>  本願特許請求の範囲第2項には、「緩衝機構(13)が少なくとも1つのヒステリシス装置(39、40)と蓄力装置(38)とを備えており」と記載されているが、上記<1>に認定したこと、及び、本願明細書には、すべり摩擦を発生する摩擦装置39、負荷摩擦装置40がヒステリシス装置として記載されており(甲第11号証6頁24行ないし7頁1行、7頁4行ないし18行)、すべり摩擦を発生させることにより伝達トルクと捩れ角度との関係が環状の曲線を描くことは明らかであることからすると、本願第1発明の「ヒステリシス装置」は、伝達トルクと捩れ角度との関係が摩擦材のすべり摩擦によって環状の曲線を描くように働く装置を意味するものとして用いられているものと認められる。

なお、原告は、本願第1発明のヒステリシス装置は、摩擦装置39、負荷摩擦装置40(負荷摩擦ディスク41を含む)より成る旨主張するところ、本願特許請求の範囲第2項には「ヒステリシス装置(39、40)」と、本願明細書(甲第11号証)の実施例及び図面に記載された符号が付されているが、上記符号は、「ヒステリシス装置」の内容を理解するための補助的機能を有するにとどまるものであって、特許請求の範囲第2項に記載された事項をその符号に係るものに限定するような機能までを有するものではない。

<3>  引用例(甲第12号証)には、「第1および第2のドリブンプレート16、18の間には、第1および第2のドライブプレート20、21が、第1のドリブンプレート16に対し、自由状態関係に配される。第1のドライブディスク20の内周部に断面L形のスラストプレート22を回転方向に固定し、該スラストプレート22を第1のドリブンプレート16を摺動自在とさせる。内周部をスラストプレート22に且つ外周部を第2のドライブディスク21に接するようにクラッチスラストコーンスプリング23を設ける。」(3頁左上欄8行ないし19行)、「駆動軸2からの回転トルクは、摩擦板24を介して、そのねじり振動をコンプレッションスプリング26で吸収しながら、被動軸3に伝達されるが、しかし、ダイヤフラムスプリング25のバネカおよびクラッチライニング24の摩擦係数等で決められる伝達許容回転トルク値以上の回転トルクがドライブプレート7と第1、第2のドライブディスク20、21間に生じると、第2図に破線部A1或いはB1で示すように、摩擦板24にすべり現象が生じ、トルク伝達がA2或いはB2に制限される。駆動軸2と被動軸3の間に生じた急激なトルク変動は、2分割された慣性体4を構成するドライブプレート7とフライホイール9との間で制限され、フライホイール9からディスク27へと伝達されるトルク変動を吸収する。かくして、たとえば、エンジンの低速回転領域で多く生じる激しいトルク変動を、被動軸に減衰させて伝達するので、出力側への機器へ何んら悪影響を与えない。」(3頁左下欄19行ないし右下欄18行)、「第3図から明らかなように、伝達トルクの小さい域でのヒステリシスがC1、C2、C3、C4、C5で示されるように小さく、又伝達トルクの大きい域でのヒステリシスがC1、C2、D1、D2、D3で示されるように大となり、所定値以上の変動トルクによるエネルギー発散があり、減速から加速への動作も容易となる。」(4頁左上欄3行ないし10行)と記載されていることが認められる(但し、一部については当事者間に争いがない。)。

引用例の上記第3図に関する記載によれば、引用例のトルク伝達装置においては、伝達トルクの小さい域でのヒステリシスと、伝達トルクの大きい域でのヒステリシスの2種類のヒステリシスが発生しているものと認められるところ、2種類のヒステリシスが発生しているということは、引用例のトルク伝達装置には2種類のヒステリシス装置が存在していることを示すものと解される。

そして、伝達許容回転トルク値以上の回転トルクがドライブプレート7と第1、第2のドライブディスク20、21間に生じると、引用例の第2図(別紙図面2参照)に破線部A1あるいはB1で示されるように、摩擦板24にすべり現象が生じ、トルク伝達がA2あるいはB2に制限されるのであるから、摩擦板24はドライブプレート7とドライブディスク20、21の外周部に設けられたヒステリシス装置であると認められる。

そうすると、2種のヒステリシス装置のうち、摩擦板24とは別のもう1つのヒステリシス装置がドライブプレート7とフライホイール9との間に存在していることになるが、引用例(甲第12号証)には、上記のとおり、「該スラストプレート22を第1のドリブンプレート16に摺動自在とさせる。内周部をスラストプレート22に且つ外周部を第2のドライブディスク21に接するようにクラッチスラストコーンスプリング23を設ける。」(3頁左上欄14行ないし19行)と記載されているように、引用例発明においては、第1のドライブディスク20に固定されたスラストプレート22が第1のドリブンプレートに摺動自在となった状態で、スラストプレート22と第2のドライブディスク21との間にクラッチスラストコーンスプリング23を設けていることが認められ、これによれば、スラストプレート22は、クラッチスラストコーンスプリング23により第1のドリブンプレート16方向に押圧付勢されているものと認められる。

ところで、乙第2号証ないし乙第5号証の上記各記載によれば、コーンスプリングやフリクションプレートは摩擦材として使用されるものであり、しかもその設置位置は内周部に設けられる場合があることが認められこと、上記のとおり、引用例のスラストプレート22と第1のドリブンプレート16との間には摺動があり、スラストプレート22はクラッチスラストコーンスプリング23により第1のドリブンプレート方向に押圧付勢されていることからすると、ドライブディスク20、21とドリブンプレート16、18との間にすべり摩擦が当然発生しているものと認められる。

そうすると、引用例のスラストプレート22及びクラッチスラストコーンスプリング23はヒステリシス装置の一種であると認めるのが相当である。

原告は、引用例装置のスラストプレート22及びクラッチスラストコーンスプリング23は第1のドリブンプレート16との間に摩擦による緩衝作用を実現することができない旨主張するが、上記認定、説示したところに照らして採用できない。

<4>  上記のとおりであって、本願第1発明のヒステリシス装置(39、40)は引用例記載のスラストプレート22及びクラッチスラストコーンスプリング23に相当するとした審決の認定に誤りはなく、これに反する原告の上記主張は採用できない。

(3)  原告は、本願第1発明のディスク35、36が転がり軸受17から離れて設けられることは本願第1発明の必須要件であり、本願特許請求の範囲第2項中の「はずみ車が転がり軸受(17、20、16)を介して駆動ディスク(3)によって支持されている」との構成における「支持」とは、はずみ車4に転がり軸受(17、20、16)から離して設けられたディスク状の部材(35、36)を介して支持されているものと解さなければならないとして、「はずみ車が軸受(17、20、16)を介して支持されている」点で一致しているとした審決の認定の誤りを主張する。

しかしながら、本願第1発明の「蓄力装置が駆動ディスク(3)及びはずみ車(4)の少なくともいずれか一方の部材に、この部材に結合された少なくとも1つのディスク状の部材(35、36)を介して支持されている」との構成は、蓄力装置が駆動ディスク(3)及びはずみ車(4)のうち少なくともいずれか一方の部材に結合されたディスク状の部材(35、36)を介して支持されていることを意味し、ディスク状の部材(35、36)と転がり軸受(17、20、16)との関係は本願特許請求の範囲第2項には何ら記載されていない。

したがって、本願第1発明の上記構成からディスク35、36が転がり軸受17から離れて設けられているとまで限定して解釈することはできず、本願第1発明の「はずみ車が転がり軸受(17、20、16)を介して駆動ディスク(3)によって支持されている」との構成における「支持」について、原告主張のように解すべき根拠はない。

本願第1発明と引用例発明とは、「はずみ車が軸受(17、20、16)を介して支持されている」点で一致するとした審決の認定に誤りはなく、原告の上記主張は採用できない。

(4)  原告は、引用例の装置では、コンプレッションスプリング26が、第1、第2ドリブンプレート16、18を介して支持されるほかに、第1、第2ドライブディスク20、21をも介して支持されている点で、本願第1発明と構成を異にするものであるとして、審決が、「蓄力装置が駆動ディスク(3)及びはずみ車(4)の少なくともいずれか一方の部材に、この部材に結合された少なくとも1つのディスク状の部材(35、36)を解して支持されて(いる)」点で一致するとした認定の誤りを主張する。

しかしながら、引用例の装置において、コンプレッションスプリング26が第1、第2ドライブディスク20、21をも介して支持されているとしても、コンプレッションスプリング26が第1、第2ドリブンプレート16、18を介して支持さわていることに変わりはないから、審決の上記認定に誤りはなく、原告の上記主張は採用できない。

(5)  以上のとおりであって、審決の一致点の認定に誤りはなく、取消事由1は理由がない。

3  取消事由2について

(1)  上記1に説示のとおり、引用例には、「フライホイール9の内周部に断面L型をなした環状の第1のドリブンプレート16をボルト17で固定させる。この第1のドリブンプレート16とフライホイール9との間に第2のドリブンプレート18を固定し、第1および第2ドリブンプレート16、18が、ドライブプレートブッシュ19を介して、フライホイール9と共に、ドライブプレート7に対し回転可能とさせる。」(甲第12号証2頁右下欄19行ないし3頁左上欄8行)と記載されていること、本願第1発明のはずみ車(4)、軸受(17、20、16)が、それぞれ引用例のフライホイール9、ドライブプレートブッシュ19に相当することは、当事者間に争いがない。

上記争いのない事実によれば、引用例発明について、「第1および第2ドリブンプレート16、18は、ボルト17によりフライホイール9(本願第1発明のはずみ車(4)に相当する)に固定され、これらが一体となってドライブプレートブッシュ19(本願第1発明の軸受(17、20、16)に相当する)に支持されるから、間接的にフライホイール9がドライブプレートブッシュ19に支持されることになる。」(甲第1号証8頁12行ないし19行)とした審決の認定、判断に誤りはないものというべきである。

そして、直接フライホイールを軸受で支持することが従来周知であることは当事者間に争いがないから、「間接的に支持されるか、それとも、直接的に支持されるかというようなこと(言い換えれば、第1および第2ドリブンプレート16、18が支持されるか、それとも、フライホイール9が支持されるかというようなこと)は、当業者が適宜決定できる設計的な事項にすぎない。」(同9頁2行ないし8行)とした審決の判断に誤りはない。

(2)  原告は、本願第1発明は、隔てボルト37によってはずみ車4に固定されたディスク35、36は転がり軸受17、20、16から離れて配置されることをもって必須の要件とするものであるから、引用例発明とは、軸受を介するはずみ車の支持形態が異なるものであり、駆動ディスク3とはずみ車4とを互いに正確に芯出しできるとの効果を奏し、また、本願第1発明のヒステリシス装置により、急激なトルク変動を吸収することによって振動を減衰でき、かつ、「緩衝機構の緩衝作用を任意に調節してその都度の使用条件に申し分なく適合させることが可能である」といった優れた作用効果を奏する旨主張する。

しかしながら、原告が主張する支持形態は、上記2で検討したとおり、本願第1発明の要旨とは解されず、本願第1発明と引用例発明との間に、軸受とディスクとの配置関係に関して構成上の差異が存するものとすることはできない。

そして、原告主張の支持形態の相違に伴う効果は、本願第1発明の作用効果とは認められず、急激なトルク変動を吸収し振動を減衰するとの効果は、ヒステリシス装置を設けることにより達成できるものであるから、引用例発明においても当然奏するものであり、緩衝機構の緩衝作用を任意に調節できるとの作用効果は、蓄力装置の反発力及びヒステリシス装置の摩擦力を調節することにより奏することができるものと認められるから、蓄力装置及びヒステリシス装置を備えた引用例発明においても当然考慮されるべきものであって、格別のものとは認められない。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

(3)  以上のとおりであって、審決の相違点<1>についての判断に誤りはなく、取消事由2は理由がない。

4  よって、原告の本訴講求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための付加期間の定めについて、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙図面1

<省略>

別紙図面2

<省略>

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