大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成9年(う)1653号 判決

被告人 川口末雄

〔抄 録〕

2 そこで、原審記録を調査して検討すると、本件訴因の変更は、次のような経過で行われたものである。すなわち、被告人は、<1>平成九年四月一〇日、建造物侵入、窃盗、道路交通法違反及び業務上過失傷害の各訴因で起訴され(東京地方裁判所平成九年刑(わ)第七二一号。建造物侵入及び窃盗の訴因に掲げられた各事実は、原判示第一の四及び五の各事実に対応するもの)、<2>同年五月九日、住居侵入及び窃盗の訴因で追起訴され(同裁判所平成九年刑(わ)第九四二号。右訴因に掲げられた事実は、原判示第一の二の事実に対応するもの)、<3>さらに、同月二九日、住居侵入及び窃盗の訴因で追起訴された(同裁判所平成九年刑(わ)一一二三号。右訴因に掲げられた事実は、原判示第一の三の事実に対応するもの)。原審においては、同月三〇日に第一回公判、同年六月二六日に第二回公判が開かれて、右各起訴事実について公判審理が進められ、被告人(弁護人)においては、建造物侵入、窃盗及び住居侵入の各訴因につき全く争わず、検察官請求の甲号証及び乙号証については、甲号証のうちの書証一通の一部を不同意としたほかは、その全てを証拠とすることに同意し、第二回公判でその証拠調べを終えた。このような経過があった後、検察官は、同年七月二二日、右<1>の建造物侵入及び窃盗、右<2>の住居侵入及び窃盗並びに右<3>の住居侵入及び窃盗の各訴因につき、これらが全体として常習累犯窃盗の訴因を構成するものと変更し、さらに、その訴因中に新たな住居侵入及び窃盗の事実(原判示第一の一の事実に対応するもの)を追加する旨の、訴因、罰条等の変更請求を行った。そして、同年八月二二日に開かれた第三回公判において、弁護人が、本件訴因、罰条等の変更請求は、著しく時機に遅れているので、許されるべきではないという趣旨の意見を述べたが、原裁判所は、本件訴因、罰条等の変更を許可し、引き続き、変更後の訴因につき、被告人(弁護人)においては、追加された事実を含め、事実を全面的に認める趣旨の陳述をし、追加された住居侵人及び窃盗の事実などに係る検察官請求の甲号証及び乙号証の全てを証拠とすることに同意し、その証拠調べを終えた。

3 ところで、訴因は、検察官が審判の対象として設定する具体的事実の主張であるから、これを審理の中途で追加したり変更したりするのも、公訴事実の同一性を害しない限り、検察官の合理的裁量に委ねられている。いいかえると、検察官の訴因、罰条等の変更請求があったときは、その請求が検察官の権限濫用に当たり、あるいは被告人の防御権の行使を著しく阻害し、手続の適正をも害するような場合は別として、裁判所は、公訴事実の同一性が認められる限り、これを許可しなければならないのである。そして、本件の場合、右2でみたような訴因変更が行われた経過や、原審の公判審理の状況などに照らし、検察官の本件訴因変更の請求が許されないものであるとすべき特別の事情は全く存在しない。この点、変更後の常習累犯窃盗の訴因の法定刑が、建造物侵入、窃盗及び住居侵入の各訴因の法定刑よりも重いということはあるが、変更後の訴因と前記<1>、<2>及び<3>の各訴因との間で、公訴事実の同一性が肯定できることはいうまでもなく、法定刑に軽重があるということが、訴因変更を否定すべき事由にならないことはいうまでもない。また、検察官が訴因変更の請求を行ったのは、右<1>、<2>及び<3>の各訴因につき、証拠調べのほぼ終わった後のことであるとはいえ、被告人においては事実関係を全て認めており、それまでにわずか二開廷を要しただけで、長期問にわたって審理が行われた後のことではない。しかも、被告人としては、事実関係については、訴因変更の前後を通じ、全く争っておらず、訴因が変更されたことにより、今後、訴訟遅延が生じたり、新たな防御のために多大の努力を必要とするような状況もない。すなわち、本件請求が、時機に遅れてなされたものなどとは到底いうことができないのである。

以上要するに、原裁判所は、本件訴因変更の請求については、前記のとおり変更前の各訴因と変更後の訴因との間に公訴事実の同一性が認められるのであるから、変更を許可しなければならなかったのであり、したがって、これを許可したことが違法でないことはいうまでもないのである。

(松本時夫 服部悟 高橋徹)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!