東京高等裁判所 平成9年(う)329号 判決
被告人 大賀義隆
〔抄 録〕
原判決は、罪となるべき事実第六として、被告人が、大塚万吉こと趙万吉らと共謀の上、趙が代表取締役をしている株式会社大協商事が所有し、渡辺真由美が居住している東京都港区所在の建物一棟及びその敷地である宅地二筆について、不動産競売開始決定に基づき、執行官による現況調査が行われたりしたことから、平成七年五月中旬ころ、同建物には競売の買受人に対抗できる賃貸借契約が締結されているように装って、右土地建物の買受けを阻止しようと企て、同社と渡辺との間で同建物の賃貸借契約が締結されており、その契約に基づいて渡辺が居住しているなどと虚偽の記載をした文書等を作成して、同月二四日、郵送という方法によつて、これらを東京地方裁判所執行官に提出し、同執行官をして右土地建物の現況調査報告書にその旨記載させ、同月三一日、同報告書を同裁判所に提出させ、もって、偽計を用いて、右土地建物について開始されていた不動産競売手続に係る公の入札の公正を害すべき行為をしたとの事実を認定判示している。
《中略》
以上検討したとおり、原判示第六の犯行に関し、被告人の関与は、被告人がその知識や経験に基づき、競売手続による買受人に対抗できる権限を作出するための内容虚偽の短期賃貸借の契約を記載した書面を作成したり、渡辺から執行官に提出すべき回答書の内容を下書きし、同様の内容を記載した報告書を作成したりしたというものである。これらの書面を作成したり下書きしたりすることは、原判示第六の犯行を実行するためには、まさに必要的な準備行為であり、その意味で、被告人が右犯行に関し重要な役割を果たしたということはできる。しかしながら、右3でみたように、被告人は、趙の依頼により、右のような行為をするについて、前提となる短期賃貸借契約が内容虚偽の架空のものであるということを明確には知らされていなかったのである。そして、本件各書面に作成名義人の記名や押印を補充して賃貸借契約書の外観を有する書面を作成したり、渡辺に被告人の下書きに従い、回答書用紙に記載をさせたりした上、これらの各書面を執行官に提出するという行為は、趙が自ら行っているのである。これに対し、被告人は、これらの実行行為に全く関与しておらず、また、超との間で、本件実行行為に関し、これを行う時期や具体的方法などについて相談なども全くしていないのである。すなわち、実際に原判示第六の犯行を実行するかどうかは、趙の意思にかかっており、この点、被告人が趙に対して働きかけたり、あるいは趙から相談を受けてその判断に影響を与えるような立場にもなかったものと認められる。さらに、被告人は、本件各書面の作成等について報酬や謝礼を受け取ることも予定しておらず、被告人の気持ちとしても、右犯行の成否に関し、ほとんど関心がなかったとみられる。ただ、被告人が、趙の本件依頼に応じたのは、趙と従前から取引関係があり、今後も良好な関係を維持することに主たる目的があり、これによって被告人の得られる利益も、右犯行による直接的なものではなく、間接的なものに止まるのである。いいかえれば、右犯行は、専ら趙や渡辺の利益のために行われたものということができる。
したがって、以上のような状況に照らすと、被告人と趙らとの間で、本件土地建物の買受けを阻止して競売手続の進行を妨げようなどという具体的な共謀が行われたと認めるには、なお合理的な疑いが残り、被告人自身としても、自分が直接に右犯行に加担しているという気持ちはなかったものと認められる。すなわち、本件に関しては、被告人においても趙や渡辺の行為を手段として自己の犯罪意思を実現したものと認めることには合理的な疑いが残り、結局のところ、被告人の右犯行に対する加功の程度は、偽りの賃貸借契約の内容を記載した書面を作成したり渡辺が執行官に提出する回答書の内容を下書きするなどして、正犯者である趙らのした競売入札妨害行為を容易にさせて幇助したものと認められるにとどまるのである。
(松本時夫 服部悟 高橋徹)