東京高等裁判所 平成9年(う)476号 判決
被告人 石川和宏
〔抄 録〕
なお、原判決の「証拠の標目」の項には、原判示の各事実の証拠として、「被告人の検察官に対する供述調書」が掲げられており、かつ、これは原審において検察官面前調書として請求され取り調べられている乙一三号証を指すものと解されるところ、右書面の末尾には、「検察官検事」のゴム印は押されているものの、それに続く署名押印が欠落していることが明らかである。もっとも、当審事実取調の結果によれば、右書面は、検察官が被告人を取り調べ、その結果を検察事務官において録取したものであるが、取調検察官においてこれに署名押印することを失念したものであることが認められ、かつ、この点を除けば、右書面には、作成日、所属検察庁、被告人の署名指印及びそれが調書を読み聞かせたところ誤りのないことを申し立てたうえでなされたことのほか、検察事務官の署名押印及び右検察事務官による契印など刑訴法一九八条四項及び刑訴規則五八条所定の記載事項もすべて記載されている。そうすると、右書面は、検察官の署名押印を欠く以上、検察官面前調書としては無効と解するほかないが、被告人が検察庁の取調においてその内容どおりの供述をし、かつこれを録取した旨の検察事務官の報告書(供述書)としての性格は有するものと解される。そして、右書面は、原審において弁護人がこれを証拠とすることについての同意をしたうえ取り調べられているのであるから、原審がこれを事実認定の用に供し、かつ証拠の標目に掲げたことに違法はないというべきであり、ただその表示を被告人の検察官に対する供述調書としたのは誤りであるが、判決に影響を及ぼす性質のものとは認められない。
(小林充 山室惠 多和田隆史)