大判例

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東京高等裁判所 平成9年(う)687号 判決

被告人 若林正男

〔抄 録〕

所論は、要するに、1警察官は、黙秘する被告人に対し、原判示第一の五の窃盗の追起訴事実につき、妻への逮捕状等を示し、ナンバープレート二枚の盗みを自供しなければ妻を逮捕するなどと脅し、被告人に平成八年五月八日から同月一一日までの間に共犯者名を含めて自供させた外、その後、黙秘に戻った被告人に対し、翌六月七日ころ、被告人の右手の甲に火の付いた煙草を押し付けて火傷させた、2検察官は、原審第三回公判後の同年九月一〇日ころ、被告人に対し、弁護人小山香を解任し起訴事実のすべてを認めれば、求刑は懲役五年で判決は同四年となる、未決は一五〇日算入されるから三年半で出られると申し向け、偽計を用いて右弁護人を解任させ、黙秘を止めさせて全面的に自白させており、これらの違法な捜査活動に基づき収集された証拠を採用して有罪判決を下した原判決は破棄されるべきである、というのである。

そこで、記録を調査して検討するに、所論の実質は、いずれも刑訴法三七九条の訴訟手続きの法令違反の主張に帰するものであるところ、本件控訴趣意中には、同条にいう「訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現れている事実であって明らかに判決に影響を及ぼすべき法令の違反があると信じるものを援用」するところがなく、同条の要件を欠く主張であることは明らかである。付言するに、被告人は、原審第七回公判において、捜査段階の当初、黙秘権を使って事実を認めようとしなかったのは、助かりたいという気持ちと、当時の弁護人からの指示があったからであり、勾留中に父が死亡したことや、裁判が長引き被害者に対する責任を果たせないと思い、これではいけないと考え、右弁護人を解任して、事実を認めるに至ったものである旨供述し、論告・求刑(懲役七年)後の最終陳述においても、被害者への謝罪の意を表していることに徴し、本件捜査の過程等において、黙秘権の行使や弁護人選任権を侵害する違法な取調べがなされたものでないことは明らかであり、所論はいずれも前提事実を欠くものである。

(松本光雄 松浦繁 樋口裕晃)

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