東京高等裁判所 平成9年(て)173号 決定
請求国 ブラジル連邦共和国
逃亡犯罪人 フランシスコ・バザキ
〔抄 録〕
(一) 一件記録及び当裁判所の審問の結果に照らし、前記二でみたとおり、本件引渡犯罪に係る行為について、請求国であるブラジル連邦共和国において、バザキが有罪の裁判を受け、その裁判が確定していることは明らかである。
この点、補佐する弁護士(以下「補佐弁護士」という。)は、右有罪の裁判の言渡しないし送達が適法かつ適正になされたものであるかどうか、右有罪の裁判が確定するに至ったのかどうか、あるいは右有罪の裁判の効力の存否や刑の時効などについて、疑問があるので、本件は法二条六号所定の請求国の有罪の裁判がある場合に該当しない旨主張する。しかしながら、逃亡犯罪人引渡請求に基づく審査は、法令上、引き渡してはならない旨定められている制限規定、具体的には法二条各号が掲げる引渡し制限のいずれかに該当しないかどうかについてなされるべきものであり、かつ、それにとどまる。そして、同条六号に規定する「引渡犯罪について請求国の有罪の裁判がある場合」にあたるかどうかは、請求国が、引渡し請求に当たり、同国の法令に基づく有効かつ適式な有罪の裁判がある旨の公式の資料を提出すれば足り、当手続内で、それ以上に、請求国の法制度一般や手続規定の解釈がいかなるものかなどについて、主張立証を行わせる必要はなく、また、そのようなことまで踏み込んで審査することは、右にみたような当手続の枠を越えるものである。したがって、右主張は、採用の余地がない。
(二) 本件引渡犯罪に係る行為は、前記二でみたとおり、ブラジル連邦共和国の刑法一五五条四款一号及び四号に該当し、その法定刑が二年ないし八年の懲役並びに四〇〇〇レアルより二万四〇〇〇レアルの罰金刑(なお、本件引渡犯罪に係る行為の行為時及び裁判時における通貨単位はクルゼイロ)であるから、法二条三号に定める制限の適用を受けるものではない。なお、補佐弁護士は、同号に規定する「引渡犯罪が請求国の法令により死刑又は無期若しくは長期三年以上の拘禁刑にあたるものでないとき」とは、法定刑ではなく、宣告刑を基準に判断すべきであり、バザキの宣告刑が禁錮二年四月(準開放方式)及び一一日に相当する罰金であるから、本件は同号所定の場合に該当する旨主張する。しかしながら、同号が、宣告刑につき定めたものではなく、法定刑につき定めたものと解すべきはいうまでもなく、本件引渡犯罪に係る行為に適用されたブラジル連邦共和国の刑法の右規定に定める法定刑が、長期三年以上の拘禁刑であることは、右にみたとおりであるから、右主張は、その前提において失当であり、採用することができない。
(松本時夫 服部悟 高橋徹)