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東京高等裁判所 平成9年(ネ)1540号 判決 1997年11月13日

平成九年(ネ)第一五四〇号事件控訴人・同第三一五二号事件被控訴人

幸福クレジット株式会社

右代表者代表取締役

齊藤永治

右訴訟代理人弁護士

関口徳雄

平成九年(ネ)第一五四〇号事件被控訴人

石出法太

平成九年(ネ)第三一五二号事件控訴人

鈴木栄

右両名訴訟代理人弁護士

川﨑真樹子

松村龍彦

主文

一  平成九年(ネ)第一五四〇号事件について

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

二  平成九年(ネ)第三一五二号事件について

1  原判決を次のとおり変更する。

2  被控訴人の控訴人に対する東京法務局所属公証人山本達雄作成の平成五年第四三八号債務弁済契約公正証書に基づく強制執行は、一四九万九七八七円及びこれに対する平成八年九月二一日から同年一〇月二〇まで年一五パーセントの割合による金員、同月二一日から支払済みまで年三〇パーセントの割合による金員を超える部分については、これを許さない。

3  被控訴人のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その二を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事実および理由

第一  当事者の求めた裁判

一  平成九年(ネ)第一五四〇号事件について

1  控訴人

(一) 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

(二) 被控訴人の請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文一項1と同旨

二  平成九年(ネ)第三一五二号事件について

1  控訴人

(一) 原判決を取り消す。

(二) 被控訴人の控訴人に対する東京法務局所属公証人山本達雄作成の平成五年第四三八号債務弁済契約公正証書に基づく強制執行は、これを許さない。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

一  平成九年(ネ)第一五四〇号事件について

右事件の事案の概要は、以下のとおり当審における控訴人の主張を付加するほかは、原判決(東京地方裁判所八王子支部平成八年(ワ)第二六二八号事件判決)の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する(略語についても、以下、原判決と同様とする。)。ただし、原判決五頁八行目の末尾に「ただし、本件公正証書の内容は、利息は年一五パーセント、支払方法は平成五年一一月から平成一四年一〇月まで毎月二〇日限り元利金六万二一八二円宛(ただし、最終回は元利金七万九一四七円)元利均等払いにより支払う、遅延損害金は年三〇パーセントというものである。」を加える。

(当審における控訴人の主張)

原判決の貸金業法四三条についての解釈は誤りである。

すなわち、原判決は、貸金業法一八条二項により、同条一項所定の書面(受取証書)の交付義務が免除され、債務者が受取証書の交付を拒否した場合、債務者が同法四三条一項のいわゆる、みなし弁済規定の意味内容を十分に理解した上で、積極的に受取証書を交付しないように求めた場合には、信義則上、債務者が、みなし弁済規定の不適用を主張できないと解する余地がある旨を判示しながら、みなし弁済についての認識を欠いた債務者が、漫然、受取証書を送付しなくてもよいと述べたにすぎない場合に、みなし弁済規定の適用があるためには、なんらかの方法で受取証書を交付することを要すると判示している。

しかしながら、右判示は、第一に、貸金業者は、貸金の利息、損害額の予定について、利息制限法を超えていることや、同法一八条、四三条の内容を債務者に説明する義務を負っていないが、債務者の真意によって受取証書の送付を求めなかった場合でも、債務者がみなし弁済規定について認識していなければ、貸金業者がみなし弁済規定の適用を受けられないというのでは、貸金業者に右説明義務を求めるに等しいこと、第二に、みなし弁済規定の意味内容を十分に理解したか否かという、専ら債務者の内心にかかわる事情のみによって結論が左右されることになること、第三に、同法が、なんらかの方法で受取証書を交付することを要するなどという、およそ抽象的かつ不明確な法的義務を課しているものとは到底考えられず、同法一八条二項の場合、貸金業者は弁済者に受取証書の受領を要求する法的根拠もないこと、以上の点で不合理である。

よって、原判決は、相当ではなく、被控訴人の請求は理由のないものである。

二  平成九年(ネ)第三一五二号事件について

右事件の当事者の主張は、以下のとおり当審における控訴人の主張を付加するほかは、原判決(横浜地方裁判所川崎支部平成八年(ワ)第七〇〇号事件判決)の「事実及び理由」欄の「第二 主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決二枚目表九行目の「契約書による」を「契約書により」と改め、同三枚目裏二行目の「ところ」の次に「控訴人は平成五年一一月から平成八年九月まで毎月二〇日限り三五回にわたり、毎月九万五九六〇円を支払っているから、」を挿入する。

(当審における控訴人の主張)

1 貸金業法一八条二項に定める預貯金口座への振込の方法により弁済があった場合に、貸金業者は、その都度同法一八条一項に定める受取証書を債務者に交付しなくても同法四三条の適用を受けることができるかどうかについて、原判決は、これを肯定したが、誤りである。

すなわち、同法四三条の立法趣旨は、消費者保護の立場から、受取証書として記載すべき事項を法定し、受取証書を交付しない貸金業者には罰金を課す一方、受取証書を交付している優良な貸金業者に対しては本来利息制限法上は無効な弁済を例外的に有効なものと認める特典を与えるところにある。このように解さないと、貸金業者は貸付時の優越的地位を利用して、一層簡易な書面の作成交付等の方法をもって同法一八条一項の受取証書の作成交付に代える旨の合意を強要することが可能となり、同条の規定された意義が失われる。また、本来特典を受けられない者が、支払方法を預貯金口座への振込等とするだけで法定の受取証書を作成交付した者と同じ特典が受けられると解することは右立法趣旨を没却するものである。したがって、同法一八条二項は、債務者が同条一項の書面の交付を請求しない限り、貸金業者がこれを交付しなくても刑罰を科せられないというにとどまる規定にすぎず、債務者が送金票の控え等を受け取ることをもって、同条一項の受取証書の交付と擬制するものではない。

また、同法四三条一項二号は、文理上も、同法一八条一項の規定による書面の交付を同法四三条一項の適用を受けるための積極的要件としており、何らの除外事由も付せられておらず、同法一八条二項による支払がされた場合には触れていないし、実質的にみても、弁済直後に受取証書が交付されてはじめて、債務者は法律上負うべき債務の内容を計算でき、請求額のうち法律上支払わなくてもよい債務を認識し、貸金業者に対する権利主張が可能となるのであるから、貸金業者が制限超過部分の支払につき貸金業法四三条一項の適用を受けるには、預貯金口座への入金を通常知りうる時点で、その都度、直ちに同法一八条一項の受取証書を交付又は送付する必要があるというべきである。

2 次に、貸金業者と債務者の合意により、貸金業法一八条一項の書面の交付を不要とした場合にも、同法四三条一項の適用を受けるためには同法一八条一項の書面の交付が必要かどうかについては、原判決は何ら判断していない。

しかしながら、当事者間の合意により同法一八条一項の受取証書の交付を不要とした場合に同法四三条一項の適用を受けることができるということになれば、貸金業者が、貸付時の優越的地位を利用して、右受取証書の交付不要の承諾を貸付の条件とし、あるいは同法一八条一項の書面の交付を不要とする旨の文言を契約書に予め記入しておく等の方法により、同法四三条一項を容易に潜脱してしまう危険がある。

なお、被控訴人は、債務者が受取証書の受領を積極的に拒否した場合には、貸金業者がみなし弁済の規定の適用を受けるためには、全く代替措置を講じる余地なく、債務者の意思に反する受取証書の交付義務を負うこととなり、不当であると主張するが、自宅への送付を拒否する場合には債務者に受取りに来てもらうようにし、受領を催促しても応じない場合は持参するというような代替措置もありうるし、利息制限法は貸金業法の利率を制限したものではなく、貸金業法が一定の要件のもとに利息制限法による制限を限定的に解除した関係にあるのであるから、利息制限法の範囲内で利息を収受できる以上、個々具体的な特定の債務者からの弁済につき貸金業法四三条一項の適用を受けられないことがあったとしても、それが当該貸金業者に不当な不利益を与えることにはならない。

したがって、貸金業者と債務者の合意により、貸金業法一八条一項の書面の交付を不要とした場合にも、同法四三条一項の適用を受けるためには同法一八条一項の書面の交付が必要というべきである。

第三  証拠関係

平成九年(ネ)第一五四〇号事件及び平成九年(ネ)第三一五二号事件の各記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

一  平成九年(ネ)第一五四〇号事件について

1 貸金業法四三条一項は、債務者が利息として任意に支払った金員の額が利息制限法に定める利息の制限額を超える場合において、その支払が、利息制限法の規定にかかわらず、有効な利息の債務の弁済とみなされる場合を、同法一八条一項の規定により同項に規定する書面を交付した場合における支払に限定しており、特に除外事由をもうけていないところ、その趣旨は、貸金業法が、貸金業者に貸付における厳格な手続の履践を要求した上で、右厳格な手続を履践した業者につき、同法四三条一項所定の要件を具備することにより、本来あくまでも利息制限法上無効な弁済を、例外的に有効な弁済とみなすという特典を与えたものであり、また、同法一八条一項所定の書面を要求した趣旨も、単なる弁済の事実のみならず、弁済額の元利への充当関係までも明らかにすることを目的とするものであると解されることからすると、同法四三条一項は、同条所定の要件をすべて厳格に履践することによって初めて適用されると解すべきである。

したがって、本件のように弁済が銀行振込みの方法によりされた場合にも、貸金業者が同法四三条一項の適用を受けるためには、振込みの都度、直ちに同法一八条一項所定の書面を弁済した者に交付することを要すると解するのが相当である。そうすると、本件においては、鈴木の弁済について、同法四三条一項の適用はないというべきである。

2  これに対し、控訴人は、同法一八条二項は、銀行振込みの場合等には、弁済者の請求があった場合に限って、同法一八条一項の規定を適用すると定めており、弁済者である鈴木から同項所定の書面の交付請求がない本件においては、同項の適用はそもそもなく、同項所定の書面の交付がなくとも、同法四三条一項の適用があると主張する。

しかしながら、同法一八条二項は、同条一項所定の書面を弁済者が請求しない限り、これを交付しなくても貸金業者は刑罰を科されないことを定めているにすぎず、同条一項所定の書面の交付がなくても、同法四三条一項の規定が適用されることまでを定めているものではなく、同法四三条一項も同法一八条二項については触れていないのであって、同法四三条一項の趣旨が前記のとおりであることを併せ考慮すると、控訴人の右主張は採用できないというべきである。

3  また、控訴人は、鈴木は予め受取証書の送付を要しない旨を申し出ており、このように債務者が受取証書の交付を積極的に拒否していた場合にも、貸金業法一八条一項所定の書面を交付する必要があるとすれば、貸金業者がみなし弁済の適用を受けるための措置を講じる余地がなくなり、また債務者の意思に反する受取証書の交付義務を負うことにもなって不当であると主張する。

しかしながら、同法四三条一項の趣旨は前記のとおりであり、同法四三条一項は、同条所定の要件をすべて厳格に履践することによって初めて適用されるものであって、当事者の合意やその一方の申出により、この要件を緩和することはできないと解すべきである。そのように解さないと、貸金業者は、貸付時の優越的地位を利用して、債務者に、一層簡易な書面の作成交付等の方法を同法一八条一項所定の書面の作成交付に代える旨の合意や、右書面の受領拒絶の申出を強要することが可能となり、同条が規定された意義は失われてしまうこととなる。

したがって、債務者の申出に合理的な理由があり、その申入れが真摯な意思に基づく場合で、貸金業者も同法一八条一項所定の書面の交付のために尽くすべき手段を尽くしたにもかかわらず、これを交付できなかった等の場合であれば格別、本件のように、単に鈴木から予め受取証書の送付を要しない旨の申出がされたため、これを交付しなかったにすぎない場合には、同法四三条一項の適用の余地はないというべきであるから、控訴人の右主張は採用できない。

4  以上のとおり、鈴木の弁済について貸金業法四三条一項の適用はないと解するべきところ、利息制限法の制限に従って計算すると、原判決別紙のとおり、最終弁済日である平成八年九月二〇日現在の残元金は一四九万九七八七円となるから、被控訴人の請求は、原判決主文一項の限度で理由がある。

二  平成九年(ネ)第三一五二号事件について

1  当事者間に争いがない事実、本件の主な争点及び争点1については、原判決の「事実及び理由」欄の「第三 判断」一、二に記載のとおりであるから、これを引用する。

2  争点2について

本件のように弁済が銀行振込みの方法によりされた場合にも、貸金業者が、貸金業法四三条一項の適用を受けるためには、振込みの都度、直ちに同法一八条一項所定の書面を弁済した者に交付することを要すると解するのが相当であることは、前記一1に説示したとおりである。そうすると、控訴人に対し同項所定の書面が交付されていないことに争いのない本件においては、控訴人の弁済について、同法四三条一項の適用はないというべきである。

これに対し、被控訴人は、同法一八条二項は、銀行振込みの場合等には、弁済者の請求があった場合に限って、同法一八条一項の規定を適用すると定めており、弁済者である控訴人から同項所定の書面の交付請求がない本件においては、同項の適用はそもそもなく、同項所定の書面の交付がなくとも、同法四三条一項の適用があると主張するが、右主張が採用できないことは、前記一2に説示したとおりである。

また、被控訴人は、控訴人は予め受取証書の送付を要しない旨を申し出ており、このように債務者が受取証書の交付を積極的に拒否していた場合にも、貸金業法一八条一項所定の書面を交付する必要があるとすれば、貸金業者がみなし弁済の適用を受けるための措置を講じる余地がなくなり、また債務者の意思に反する受取証書の交付義務を負うことにもなって不当であると主張する。証拠(甲四、乙二、九、一〇)及び弁論の全趣旨によれば、本件貸付金の弁済は銀行振込によって行うこととなっていたが、右貸付の際、控訴人は、末尾に「領収書の送付については、送らなくてよい。」旨を記載し、署名押印した仮返済予定表(乙二)を岩屋に差し入れたことが認められるものの、結局、被控訴人の右主張が採用できないことは、前記一3に説示したとおりである。

3  以上のとおり、控訴人の弁済について貸金業法四三条一項の適用はないと解すべきところ、利息制限法の制限に従って計算すると、最終弁済日である平成八年九月二〇日現在の被控訴人の請求債権の残元金は、一四九万九七八七円となることは、前記一4のとおりである。

したがって、控訴人の本訴請求は、本判決主文第二項2記載の限度で理由がある。

三  よって、平成九年(ネ)第一五四〇号事件については、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文第一項のとおり判決し、平成九年(ネ)第三一五二号事件については、前記二3のとおり本件控訴は一部理由があるから、原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき、同法九六条、八九条、九二条を適用して、主文第二項のとおり判決する。

(裁判長裁判官矢崎秀一 裁判官筏津順子 裁判官山田知司)

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