大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

東京高等裁判所 平成9年(ネ)1814号 判決 1999年2月16日

控訴人(被告) 株式会社セキショウ

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 大久保均

被控訴人(原告) X

右訴訟代理人弁護士 五藤昭雄

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

三  原判決別紙賃料債権1記載中、「当初」とあるのを「頭書」に更正する。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

控訴棄却

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被控訴人の株式会社サンホーム(以下「サンホーム」という。)に対する債権

(一) 被控訴人は、昭和六二年五月一〇日ころ、サンホームの仲介により、横浜市<以下省略>所在の土地を賃貸用共同住宅建築用敷地として購入したが、右仲介に際しサンホームの仲介義務違反があり、被控訴人は、サンホームに対し、債務不履行に基づく損害賠償請求権を取得した。

被控訴人は、同月一一日、サンホームの社員Bに三〇〇万円を詐取され、右Bの使用者であるサンホームに対し、不法行為に基づく損害賠償請求権を取得した。

被控訴人は、横浜地方裁判所に対し、サンホームを被告として、右損害賠償請求権について訴訟(同庁平成元年(ワ)第五九七号)を提起し、平成五年九月二四日、「サンホームは、被控訴人に対し、損害賠償金一四二六万円及びこれに対する平成元年三月二一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払え。」との趣旨の仮執行宣言付き判決が言い渡された。これに対し、サンホームから控訴の申立てが、被控訴人から附帯控訴の申立てがあり(当庁平成五年(ネ)第三九四九号、平成七年(ネ)第二七六六号事件)、平成七年九月二六日、「サンホームは、被控訴人に対し、損害賠償金一六〇〇万円及びこれに対する平成元年三月二一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払え。との趣旨の判決が言い渡され、右判決は確定した。その後、サンホームは、被控訴人に対し、四〇万八六六七円の訴訟費用額を負担すべきことが確定した。

したがって、被控訴人は、サンホームに対し、平成八年三月五日当時、損害賠償請求権一六〇〇万円及びこれに対する平成元年三月二一日から平成八年三月五日まで年五分の割合による遅延損害金五五六万九三一五円、訴訟費用額四〇万八六六七円の合計二一九七万七九八二円の債権を有していた。

(二) これに対し、被控訴人は、平成八年三月五日当時、社団法人不動産協会から補償金一五〇〇万円の支払を受け、また、右横浜地方裁判所の仮執行宣言付き判決に基づく賃料債権差押命令により、二一三万二〇九〇円を取り立てて受領し、右補償金を、右債権のうち、遅延損害金五五六万九三一五円、訴訟費用額四〇万八六六七円に充当し、補償金残金九〇二万二〇一八円と取立金二一三万二〇九〇円の合計一一一五万四一〇八円を、前記損害賠償請求権に充当した結果、損害賠償請求権の残金は、四八四万五八九二円となった。

(三) よって、被控訴人は、サンホームに対し、右四八四万五八九二円の債権を有するものである。

2  サンホームの詐害行為

(一) サンホームは、平成五年三月三一日、控訴人に対し、サンホームとCとの間の原判決添付別紙第一物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の一〇一号室についての建物賃貸借契約に基づく月額二二万五〇〇〇円の賃料債権のうち平成五年五月分以降のもの、サンホームと有限会社マスダアンドエムとの間の同建物の三〇五号室及び七〇一号室についての賃貸借契約に基づく月額一五万円の賃料債権のうち平成五年五月分以降のもの(右両賃料債権をまとめて「本件賃料債権」という。)の賃料債権を譲渡する旨の契約を締結した。なお、C及び有限会社マスダアンドエムに対する各賃料月額のうち各一万円は管理費であった。

控訴人は、C及び有限会社マスダアンドエムから、平成五年五月分から平成七年一月分までの本件賃料債権を取り立てて受領した。

(二) サンホームは、宅地建物取引業者であったところ、平成四年二月二一日、宅地建物取引業法違反により、神奈川県知事から免許取消処分を受け、営業継続が不可能となり、そのころ、全従業員を解雇して事業所を閉鎖したものであり、同年三月三一日現在、貸借対照表上の資産は合計一八億三〇七一万五二三六円であるのに対し、負債は合計一九億九二九三万八八四一円で債務超過の状態であり、その後資産として計上されている商品である不動産の評価額が下落したことは明らかであるから、本件賃料債権の譲渡契約当時、サンホームは、債務超過の状態にあり、本件賃料債権を含む賃料債権のほかには、担保権の付着しない財産はなく、被控訴人に対する債務を弁済するための資力はなかった。

(三) 本件賃料債権の譲渡契約は、既に債務超過の状態にあったサンホームが、控訴人と通謀の上、本件賃料債権を譲渡し、取り立てた賃料を控訴人のサンホームに対する債権に充当することにより、控訴人だけに優先的に債権の満足を得させる意図の下に、本件賃料債権を譲渡することを内容とするものであるから、債権者を害する行為であったというべきである。

3  詐害意思

債務者であるサンホームは、本件債権譲渡契約が債権者を害することを知っていた。

4  よって、被控訴人は、控訴人に対し、詐害行為取消権に基づき、四八四万五八九二円の範囲でサンホームと控訴人との間の本件賃料債権の譲渡契約を取り消し、かつ、右四八四万五八九二円及びこれに対する本件口頭弁論の終結の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)は認める。同(二)のうち、被控訴人が社団法人不動産協会から補償金一五〇〇万円の支払を受けたことは認め、その余は否認する。同(三)は否認ないし争う。

詐害行為取消権は、特定債権の保全を目的とするものであるから、被保全債権は、詐害行為の前に成立していなければならない。したがって、被控訴人の主張する本件賃料債権の譲渡契約が締結された平成五年三月三一日以降の被控訴人の遅延損害金及び訴訟費用額の債権は被保全債権となるものではない。

2  同2(一)のうち、サンホームが、平成五年三月三一日、控訴人に対し、本件賃料債権を譲渡する旨の契約を締結し、控訴人がC及び有限会社マスダアンドエムから、平成五年五月分から平成七年一月分までの本件賃料債権を取り立てて受領したことは認め、その余の事実は否認する。同(二)のうち、サンホームが宅地建物取引業者であったところ、平成四年二月二一日、宅地建物取引業法違反により、神奈川県知事から免許取消処分を受けたことは認め、その余の事実は否認する。同(三)は否認ないし争う。

なお、本件賃料債権の譲渡契約は、実質的にはサンホームが控訴人及び株式会社エス・ケイ企画(以下「エス・ケイ企画」という。)に対して本件賃料債権を譲渡したものというべきであるから、少なくともエス・ケイ企画が取得した賃料額に相当する本件賃料債権の譲渡については、控訴人との関係で取り消されるべきものではないし、控訴人は、右相当額について価格の賠償の責を負うものでもない。

3  同3は否認する。

三  抗弁

控訴人は、本件賃料債権の譲渡契約締結当時、右債権譲渡が債権者を害するものであることを知らなかった。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三証拠関係

原審並びに当審記録中の書証目録及び証人等目録の記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  被控訴人の被保全債権について

請求原因1(一)の事実(損害賠償請求権一六〇〇万円に対する平成元年三月二一日から平成八年三月五日まで年五分の割合による遅延損害金は、五五六万八九二五円であって、被控訴人主張の遅延損害金額は計算違いであるから、結局、被控訴人は、サンホームに対し、平成八年三月五日当時、損害賠償請求権一六〇〇万円及びこれに対する平成元年三月二一日から平成八年三月五日まで年五分の割合による遅延損害金五五六万八九二五円、訴訟費用額四〇万八六六七円の合計二一九七万七五九二円の債権を有していたことについて、争いがないものと認めるのが相当である。)及び被控訴人が社団法人不動産協会から補償金一五〇〇万円の支払を受けたことは、当事者間に争いがない。

<証拠省略>及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、平成八年三月五日当時、社団法人不動産協会から補償金一五〇〇万円の支払を受け、また、右横浜地方裁判所の仮執行宣言付き判決に基づく賃料債権差押命令により、二一三万二〇九〇円を取り立てて受領し、右補償金を、右債権のうち、遅延損害金五五六万八九二五円、訴訟費用額四〇万八六六七円に充当し、補償金残金九〇二万二四〇八円と取立金二一三万二〇九〇円の合計一一一五万四四九八円を、前記損害賠償請求権に充当した結果、損害賠償請求権の残金は、四八四万五五〇二円となった。

したがって、被控訴人は、サンホームに対し、平成八年三月五日当時において右四八四万五五〇二円の債権を有するものである。

これに対して、控訴人は、被保全債権が詐害行為の前に成立していなければならないから、被控訴人の主張する本件賃料債権の譲渡契約が締結された平成五年三月三一日以降の遅延損害金及び訴訟費用額の債権は被保全債権となるものではない旨主張する。しかし、詐害行為取消権によって保全される債権の額には、詐害行為後に発生した遅延損害金も含まれるものと解するのが相当である上(最高裁判所昭和三二年(オ)第三六二号、同三五年四月二六日第三小法廷判決、民集一四巻六号一〇四六頁参照)、そもそも被控訴人は、前記遅延損害金五五六万八九二五円及び訴訟費用額の債権については、前示のとおり補償金の一部を充当しているのであって、これらの債権を本件詐害行為取消権の被保全債権として主張しているものではないから、いずれにしても控訴人の右主張は理由がないものといわなければならない。

二  詐害行為について

1  請求原因2(一)の事実中、サンホームが、平成五年三月三一日、控訴人に対し、本件賃料債権を譲渡する旨の契約を締結し、控訴人がC及び有限会社マスダアンドエムから、平成五年五月分から平成七年一月分までの本件賃料債権を取り立てて受領したこと、同(二)の事実中、サンホームは宅地建物取引業者であったが、平成四年二月二一日、宅地建物取引業法違反により、神奈川県知事から免許取消処分を受けたことは、当事者間にいずれも争いがなく、右争いのない事実と、<証拠省略>及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一)  サンホームは、神奈川県知事の免許(同県知事昭和五七年(二)第一二七六〇号)を受けた不動産売買の媒介等を目的とする宅地建物取引業者であったところ平成四年二月二一日、宅地建物取引業法違反により、神奈川県知事から右免許の取消処分を受け、営業継続が不可能となり、そのころ、全従業員を解雇して事業所を閉鎖した。そして、新聞各紙は、同月二七日、サンホームが顧客に対し根拠のない名目で金員を請求したり、市街化調整区域内の土地でアパート建築が不可能なことを故意に説明しないで仲介したことなどを理由とする宅地建物取引業法違反により右行政処分を受けた旨を報道した。

(二)  控訴人代表者、サンホーム代表者D、株式会社ロイヤルホーム(以下「ロイヤルホーム」という。)代表者Eの三名は、かつて同一の不動産会社に同僚として勤務していた間柄で、Dはエス・ケイ企画代表者Fの叔父(母の弟)であり、エス・ケイ企画は昭和六二年六月四日に設立された不動産売買等を目的とする会社で、D、サンホームの取引主任者であったG、E及び控訴人代表者がその発起人となっており、Eは平成四、五年当時エス・ケイ企画の監査役であり、また、控訴人は平成元年七月六日に設立された不動産売買等を目的とする会社で、控訴人の本店所在地は昭和六三年一月ころまではエス・ケイ企画の本店所在地であったところであり、控訴人はエス・ケイ企画から賃借権や電話等の備品をそのまま譲り受けて営業していたというように、控訴人代表者、サンホーム代表者D及びエス・ケイ企画代表者Fらは、それぞれ身分上も事業遂行上も極めて密接な関係にあったものである。

(三)  控訴人は、平成二年二月二日、Dの依頼でロイヤルホームに対し、サンホーム及びDを連帯保証人として五〇〇万円を弁済期同年四月末日の約定で貸し付け、その後平成三年九月二五日、Dの依頼で連帯債務者サンホーム及びDに対し、運転資金一〇〇〇万円を、利息年八パーセント、弁済期同年一二月二四日とし、連帯債務者が右弁済期を徒過したときは、同人らが所有する不動産から生じる法定果実の全部若しくは一部を控訴人に移転するとの約定で、貸し付けた。更に、控訴人は、平成三年夏ころ、サンホームが所有していた静岡県下田市所在の温泉付き分譲住宅一棟の売却を仲介し、サンホームは、控訴人に対し、右の仲介料として一〇〇万円の支払を約束した。

(四)  エス・ケイ企画は、平成二年ころ、横浜市<以下省略>に建売住宅を建築し、その売買の仲介をサンホームに依頼したところ、サンホームが買主から支払を受けた売買代金一億二〇〇〇万円を、しばらく貸しておいてほしいといってエス・ケイ企画にこれを引き渡そうとしないため、平成三年四月一日、サンホームとの間で、Dを連帯保証人として右返還請求権について、一億二〇〇〇万円を平成四年一〇月三一日に弁済する旨の準消費貸借契約を締結した上、これを担保するため本件建物及びその敷地(横浜市<以下省略>の宅地)その他の不動産に抵当権を設定する旨の契約を締結し、サンホームが事実上倒産した平成四年二月二一日ないしその前後に、右契約に基づく各抵当権設定登記を経由した。

(五)  サンホームは、控訴人及びエス・ケイ企画に対し、その所有する不動産を任意売却すれば債務を弁済することができる旨説明し、控訴人及びエス・ケイ企画はその様子を見ることにした。

しかし、サンホームは、平成四年六月七日に横浜市<以下省略>所在の土地を、八月一四日に横浜市<以下省略>所在の建物を、同年一一月二〇日に神奈川県茅ヶ崎市<以下省略>所在の土地をそれぞれ売却したが、控訴人及びエス・ケイ企画に対し弁済するに至らず、また、残された不動産には、他の担保権が設定されており、サンホームが右不動産を任意売却しても、必ずしも、控訴人やエス・ケイ企画がサンホームに対する貸金を回収できる見込みは立たなかった。

そこで、控訴人及びエス・ケイ企画は、各債権の弁済を受けるためにサンホームから本件賃料債権を譲り受けることとし、控訴人及びエス・ケイ企画は、平成五年三月三一日、サンホームとの間で、「債務承認並びに弁済に関する覚書」(乙五)を作成し、サンホームが控訴人に対し一六〇〇万円の、エス・ケイ企画に対し一億二〇〇〇万円の各債務を負っていることを確認し、エス・ケイ企画がサンホームに対する債権のうち四七五〇万円の債権を取立のため控訴人に譲渡すること、サンホームは、控訴人に対し、控訴人及びエス・ケイ企画に対する債務を弁済するため、ヴィラ・エスポワール保土ヶ谷(本件建物)及びヴィラ・海老名から生じる賃料債権(本件賃料債権を含む。)及びそれに付帯する管理料債権を譲渡すること、控訴人が取り立てた賃料は、第一次的に当該不動産の清掃維持管理等の費用に充当し、残金を控訴人及びエス・ケイ企画が協議して配分し、サンホームに対する右各債権に対する一部弁済として処理すること等を内容とする合意(以下「本件合意」という。)をした。

サンホームは、平成五年四月八日、C及び有限会社マスダアンドエムに対し、同月末日支払分からの本件賃料債権を控訴人に譲渡した旨を「賃料債権譲渡通知書」と題する確定日付のある内容証明郵便により通知した。

控訴人は、右合意に基づき、他の賃借人に対する賃料債権とともに、本件建物の賃借人であるC及び有限会社マスダアンドエムから、平成五年五月分から平成七年一月分までの本件賃料債権(ただし、C及び有限会社マスダアンドエムに対する賃料月額のうち、各一万円は管理費分である。)を取り立てて受領し、これをエス・ケイ企画との間で協議して配分し、サンホームに対する右各債権に対する一部弁済として処理した。

(六)  サンホームの資産負債の状況は、平成四年三月三一日現在、貸借対照表上の資産が合計一八億三〇七一万五二三六円であり、内商品が一五億一一四三万六九二二円であるのに対し、負債が合計一九億九二九三万八八四一円で債務超過の状態にあった。

サンホームは、平成五年三月三一日当時、昭和六一年一二月一五日に売買で取得した本件建物とその敷地(いずれも抵当権者日榮ファイナンス株式会社、債権額二億八〇〇〇万円の昭和六三年六月三〇日設定契約を原因とする抵当権設定登記、根抵当権者神奈川県信用保証協会、極度額五〇〇〇万円の昭和六三年六月三〇日設定契約を原因とする根抵当権設定登記、根抵当権者首都圏リース株式会社極度額八〇〇〇万円の平成二年三月二九日設定契約を原因とする根抵当権設定登記、抵当権者エス・ケイ企画、債権額一億二〇〇〇万円の平成三年四月一日設定契約を原因とする抵当権設定登記、平成四年一一月一三日横浜地方裁判所競売開始決定に基づく差押登記が経由されている。)のほか、神奈川県海老名市<以下省略>所在、家屋番号<省略>の建物(平成二年四月四日新築により取得)及び平成元年八月三一日売買により取得したその敷地(いずれも根抵当権者株式会社三和銀行、極度額六〇〇〇万円(平成二年九月二八日設定契約)及び四〇〇〇万円(同年八月三〇日設定契約)の各根抵当権設定登記、抵当権者エス・ケイ企画、債権額一億二〇〇〇万円の平成三年四月一日設定契約を原因とする抵当権設定登記、平成六年八月二五日横浜地方裁判所競売開始決定に基づく差押登記が経由されている。)、平成二年七月五日売買により取得した横浜市<以下省略>所在の土地及びその上の建物(いずれも抵当権者インターリース株式会社、債権額二億四〇〇〇万円の平成二年七月五日設定契約を原因とする抵当権設定登記が経由されている。)、横浜市<以下省略>所在、地番<省略>の宅地及び地番<省略>の公衆用道路(いずれも根抵当権者昭和ファクター株式会社、極度額一億五〇〇〇万円の平成二年五月二一日設定契約を原因とする根抵当権設定登記、平成四年一二月二二日横浜地方裁判所競売開始決定に基づく差押登記が経由されている。)、平成元年一〇月六日売買により取得した横浜市<以下省略>所在の区分所有建物(抵当権者第一住宅金融株式会社、債権額五五〇〇万円の平成元年一〇月六日設定契約を原因とする抵当権設定登記、平成五年七月二〇日横浜地方裁判所競売開始決定に基づく差押登記が経由されている。)、ハワイの別荘(購入価格二二万五〇〇〇ドル)を所有していた。

2(一)  右1に認定したとおりのサンホームの経営状態、貸借対照表から窺われる資産及び負債、資産である不動産の購入時期、担保権の設定状況、最近の不動産市場の状況等によれば、被控訴人主張(請求原因2(二))のとおり、平成五年三月三一日当時、サンホームは、債務超過の状態にあり、本件賃料債権を含む賃料債権の他には、担保権の付着しない財産はなく、被控訴人に対する債務を弁済するための資力はなかったことが明らかである。

これに対して、控訴人代表者は、陳述書(乙二二)において、1(六)に認定した不動産のほか、横浜市<以下省略>所在の土地建物、熱海市<以下省略>所在の土地建物をサンホームにおいて当時所有していたから、サンホームは、平成五年三月三一日当時債務超過の状態にはなかった旨陳述記載するが、甲一〇の1、2、二三の1、2によれば、これらの不動産はD個人の所有であったことが認められ、これが被控訴人ら一般債権者に対する債務の弁済に充てられるべきものとは認められないから、右主張は採用することができない。なお、右証拠によれば、前者の土地(昭和五八年八月二七日取得)、建物(平成元年一一月二五日新築)には、抵当権者協和銀クレジット株式会社、債権額一億円の平成三年二月二八日設定契約を原因とする抵当権設定登記、抵当権者エス・ケイ企画、債権額一億二〇〇〇万円の平成三年四月一日設定契約を原因とする抵当権設定登記、平成五年二月一八日横浜地方裁判所競売開始決定に基づく差押登記が経由されており、後者の土地(昭和六二年七月二一日取得)建物(同年五月一一日新築)には、当時、抵当権者首都圏保証サービス株式会社、債権額三五〇〇万円の昭和六二年六月一六日設定契約を原因とする抵当権、根抵当権者株式会社埼玉銀行(その後、株式会社あさひ銀行から神奈川県信用保証協会へと順次移転した。)、極度額七七〇〇万円の平成元年三月三〇日設置契約を原因とする根抵当権設定登記、抵当権者エス・ケイ企画、債権額一億二〇〇〇万円の平成三年四月一日設定契約を原因とする抵当権設定登記、平成五年七月二一日及び同月二八日静岡地方裁判所沼津支部競売開始決定に基づく差押登記が経由されており、こうした不動産の取得時期、担保権の設定状況、最近の不動産市場の状況等によれば、これらの不動産がサンホームの財産に加えられたとしても、サンホームが同年三月三一日当時債務超過の状態であったとの認定を動かすことはできない。他に前記認定を動かすに足りる証拠はない。

(二)  また、前記1に認定の事実によれば、控訴人代表者及びエス・ケイ企画代表者Fは、サンホームの違法行為により被害者が発生するという事件が複数件あり、サンホームは控訴人から損害賠償請求を提起され、その裁判の進行状況からみて、いよいよ民事責任を負わなければならなくなるに至ることを予想し、かつサンホームがすでに前記のとおり債務超過の状況になっていることを十分認識していたところ、サンホームが控訴人及びエス・ケイ企画に対して債務を弁済しなかったため、控訴人は前記のとおり一六〇〇万円の債権について弁済を受けるためにサンホームから本件賃料債権を譲り受けることとし、また、エス・ケイ企画はサンホームに対する債権を自己に代わって控訴人に取り立てさせる目的で、エス・ケイ企画のサンホームに対する債権の一部を控訴人に譲渡した上、控訴人においてサンホームから譲り受けた本件賃料債権を取り立てて得た金員の一部を取得して、自己のサンホームに対する債権の弁済に充てることとして、本件合意をするに至ったものであることが認められ(エス・ケイ企画が控訴人に譲渡した債権に付着していたエス・ケイ企画の前記抵当権は、前記のとおりの各担保不動産の購入時期、右抵当権に優先する他の担保権の設定状況、その後の不動産市況等に照らして、右抵当権が実質的な担保価値を有するものであったとは認め難い。なお、甲七の1、一二及び弁論の全趣旨によれば、本件建物及びその敷地は、平成七年一月三〇日に競売により売却されたことが認められるが、抵当権者であるエス・ケイ企画が右売却代金から配当を受けたことを認めるに足りる証拠はない。)、かくして本件合意に基づき控訴人が本件賃料債権をサンホームから譲り受け、これを取り立てたものであるから、被控訴人主張(請求原因2(三))のとおり、本件賃料債権の右譲渡契約は、既に債務超過の状態にあったサンホームと控訴人とが通謀の上、控訴人及びエス・ケイ企画だけに優先的に債権の満足を得させる意図の下に、サンホームが自己の有する本件賃料債権を控訴人に譲渡し、取り立てさせたものとして、債権者を害する行為であったと認めるのが相当であり右認定を覆すに足りる証拠はない。

これに対して、控訴人は、本件賃料債権の譲渡契約について、実質的にはサンホームが控訴人及びエス・ケイ企画に対して本件賃料債権を譲渡したものというべきであるから、少なくともエス・ケイ企画が取得した賃料額に相当する本件賃料債権の譲渡については、控訴人との関係で取り消されるべきものではないし、右相当額については価格賠償の責を負うべきではない旨を主張する。なるほど、控訴人は、エス・ケイ企画からサンホームに対する債権をエス・ケイ企画に代わって取り立てる目的で譲り受けたものであることは前記のとおりであるが、控訴人は、債務者であるサンホームとの関係では、取り立てた金銭を自己に帰属している債権の弁済に充てる目的でサンホームから本件賃料債権を譲り受けたのであって、エス・ケイ企画の代理人として行動したわけではなく、取り立てた金銭の分配については、控訴人とエス・ケイ企画との内部的な問題であるから、本件合意の目的が控訴人が本件賃料債権を取り立てた後にエス・ケイ企画との間で分配することにあったとか、現に取り立てた金銭をエス・ケイ企画に分配したということは、控訴人が被控訴人に価格賠償後に、控訴人とエス・ケイ企画との間で不当利得の問題が生じるかどうかは別論として、これが右の判断に影響を及ぼすものとはいい難い。控訴人の右主張は採用することができない。なお、エス・ケイ企画から控訴人が譲り受けた債権については、本件建物及びその敷地、その他の不動産に右債権を被担保債権とする抵当権が設定登記されていたことは前記のとおりであるが、右各不動産の購入時期、右抵当権に優先する担保権の設定状況、その後の不動産市況等に照らせば、右債権に付着していた右各抵当権が実質的な担保価値を有するものであったとは認め難いことも前記のとおりであるから、右債権に対する弁済が有効に担保された債権に対する弁済であると認めることもできない。したがって、エス・ケイ企画の債権に抵当権が付されていたことも、右の判断に影響を及ぼすものではない。

三  サンホームの悪意について

前記認定の事実によれば、サンホームは、自らの違法行為により被害者に不法行為に基づく損害賠償請求権が発生すべきこと及び自らが債務超過の状況にあったことを認識していたことは明らかであるから、被控訴人主張(請求原因3)のとおり、サンホームは本件賃料債権の譲渡契約が一般債権者を害するべきものであることを知っていたと認めるのが相当であり、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

四  控訴人の善意について

控訴人は、前記抗弁のとおり主張するが、前記認定のとおり、サンホームの違法行為により複数の被害者が発生し、サンホームはこれにより民事責任を負わなければならなくなることが十分に予想され、かつ、サンホームがすでに債務超過の状況に置かれていることは控訴人としても十分認識していたものと認められるのであるから、控訴人において本件賃料債権の譲渡は一般債権者を害することを知らなかったとは認めることができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。控訴人の右主張は採用することができない。

五  結論

よって、被控訴人の本件請求は、原判決添付別紙賃料債権目録1記載の各賃料債権の譲渡契約につき、借主C分について四〇〇万円、借主有限会社マスダアンドエム分について八四万五五〇二円の各範囲でこれを取消し、控訴人が被控訴人に対し四八四万五五〇二円及びこれに対する本判決の確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるところ、その範囲内でこれを認容した原判決は相当であって(その余の請求を棄却した部分については不服申立がないので判断しない。)、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとするが、原判決別紙賃料債権目録1の記載中には誤記があるので、民事訴訟法二五七条により主文第三項のとおり更正することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 宗宮英俊 長秀之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例