東京高等裁判所 平成9年(ネ)2249号 判決
一 控訴人の控訴の趣旨(当審における予備的請求を含む)
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、別紙物件目録(三)記載の非常時救出用人運搬具を製造 販売し、非常時救出用人運搬具について「エアーストレッチャー」の商標を付し若しくはこれを付した非常時救出用人運搬具を販売し、又は非常時救出用人運搬具の販売のために「エアーストレッチャー」の商標を使用して広告・宣伝してはならない。
3 被控訴人は、控訴人に対し、金六〇〇〇万円及ひこれに対する平成六年一一月二九日から支払済みまて年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
5 仮執行宣言
二 被控訴人の申立て
主文と同旨
第二 事案の概要
一 争いのない事実等
1(一) 控訴人は、防災具の製作、販売及ひ輸出入等を目的とする株式会社てある。
被控訴人は、授産施設コロニー授産所の設置経営、身体障害者授産施設東京都葛飾福祉工場(以下「葛飾福祉工場」という。)の受託経営等の事業を目的とする社会福祉法人てあり、葛飾福祉工場は主として各種の防災・避難用品の製造・販売を行っている。
(二) 控訴人は、別紙物件目録(一)記載の非常時救出用人運搬具(以下「原告第一商品」という。)を「ホールトストレッチャー」という商標を用いて、別紙物件目録(二)記載の非常時救出用人運搬具(以下「原告第二商品」といい、原告第一商品及ひ原告第二商品を合わせて「原告商品」ということかある。)を「エアーストレッチャー」という商標を用いてそれそれ販売している。
(三) 被控訴人は、葛飾福祉工場において、別紙物件目録(三)記載の非常時救出用人運搬具(以下「被告商品」という。)を製造した上、これを需要者に販売している。
(以上の事実は、当事者間に争いのない事実、甲第二一号証ないし第二八号証、第三五号証、第四一号証、第四三号証、乙第一号証ないし第三号証、第九号証、第一〇号証、原審証人櫻井一敏及び同佐藤義則の各証言並びに弁論の全趣旨により認める。)
2 控訴人は、原告商品の形態と原告第二商品の商標「エアーストレッチャー」は控訴人の商品表示として周知性を有しており、被控訴人が、原告商品と類似の形態を有する被告商品を製造・販売し、又は非常時救出用人運搬具の宣伝・販売に関して「エアーストレッチャー」の商標を使用する行為は、控訴人の商品と混同を生じさせるものであって、不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争に該当し、控訴人はこれによって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがあると主張して、被控訴人に対し、同法三条一項に基づき右不正競争行為の差止めを求めるとともに、同法四条及び五条に基づき損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めている。
また、控訴人は、被控訴人が被告商品を製造・販売する行為は競業避止義務に違反するものであることを理由として、当審において新たに、予備的請求として、被控訴人に対し、被告商品の製造・販売の差止めと損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めている。
二 争点
1 原告商品の形態の商品表示性
(一) 控訴人の主張
原告商品は、原告第一商品と原告第二商品とで運搬マットの長さに違いがあるほかは、いずれも非使用時には内部の空気が排出され、巻装した状態で収納可能であるとともに、使用時には外気を吸入して所要の厚さ及び弾力を備えるに至るマット部材を有し、このマット部材が引っ張りベルト、身体押さえバンド及び把持用のリングベルトが設けられている袋カバーで覆われているという基本的形態の点で共通している。このような形態の非常時救出用人運搬具は、わが国においては原告商品以外にこれまで存在しなかった。
そして、原告商品は、複数人による運搬のみでなく、一人の運搬者でも取り扱えること、被運搬者を載せて床の上を引きずって運搬できること、階段を引きずり降ろせること屋外で舗道等の上でも引きずって運搬できること、雪道でも運搬が可能であること、狭い通路での運搬も可能であること等の機能を有するが、これらは、前記のような弾力を有する所要の厚さのマット部材が引っ張りベルトを有する袋カバーで覆われているために可能なのであって、このような機能から印象づけられる右基本的形態が強烈な印象となって原告商品を使用する者に訴えるのであり、これが他の商品と明確に区別される特徴となっている。
このように、原告商品はその基本的形態において他の商品と区別される特別顕著性を有していて、取引者・需要者に鮮明な印象を与え、これらの者をして右形態を有する商品は控訴人の商品であると認識させるに至っているから、原告商品の形態は商品表示性を有するものということができる。
仮に、原告商品の形態自体が特別顕著性を有していないとしても、後記2に記載のとおり、原告商品の形態が周知となっている以上、商品表示性を有するに至ったものというべきである。
(一) 被控訴人の主張
控訴人が主張する原告商品の基本的形態は、昭和六〇年に既に株式会社友恵が考案、製造し、被控訴人が同社より仕入れて販売している製品である「カンガルー」が備えるものであって、原告商品にのみ特徴的なものではない。
また、原告商品が現状のような形態となっているのは、訴外テラインターナショナル株式会社(以下「テラインターナショナル社」という。)が輸入したマット部材を用いたためであって、マット部材の形態によって原告商品の形態が規定されており、原告商品の形態自体に出所表示機能を有する程の特別顕著性はないものというべきである。
2 原告商品の形態及び原告第二商品の商標「エアーストレッチャー」の周知性
(一) 控訴人の主張
(1) 控訴人は、平成五年から平成九年までの間に、病院、老人ホーム、官公庁等を中心として、少なくとも合計二二八三台の原告商品の販売実績を有する。
ところで、厚生省が指定している国内の災害拠点病院は四〇五箇所であるが、甲第六〇号証の二の一・二、同号証の四、五、七、八(納入実績証明書)、第六二号証ないし第六五号証、第八一号証及び第八二号証(取引証明書)に記載されている、控訴人が納入している末端ユーザーのうち右指定病院に該当するのは一二箇所である。他方、右甲各号証に記載の原告商品の販売台数は合計九六四台である。
したがって、右販売台数を左記のように案分比例することによって、指定病院四〇五箇所に対し二八・四箇所に、すなわち、前記指定病院のうちの約七パーセントに原告商品が納品されているものと推定することができる。
一二×二二八三/九六四=約二八・四
(2) 控訴人は、原告商品が一般的な流通過程に乗りにくいことから、販売促進戦略として、原告商品を各種展示会に出品したり、各種イベントに貸与又は無償提供したり、セミナー誌その他への広告の掲載やパンフレットの配付を行ったりするとともに、積極的に病院等に赴き、その都度ビデオテープ等を用いた商品の説明を行って、原告商品の宣伝に努めてきた。また、控訴人は、財団法人電気通信共済会(以下「テルウエル」という。)信越支部との間で総代理店契約を結び、テルウエルの全国の支部と営業所においても、控訴人と同様、パンフレットの配付、病院等でのビデオテープ等を用いた積極的な商品説明、防災訓練等を通じて、原告商品のイメージの浸透及び普及活動が行われている。さらに、テルウエルの特約店であり、リネン業界では最大手のワタキューセイモア株式会社等を通じて、その全国的な販売網により原告商品の宣伝活動が強力になされ、原告商品のイメージの浸透及び普及活動がなされている。
(3) ところで、平成三年から同九年までの間において、原告商品及び被告商品は、主として病院、老人ホーム、さらには消防署等の防災・救命の事業又は業務を行う官庁をユーザーとしており、双方は極めて競合しやすい関係にある。しかも、被控訴人は、明らかに、原告商品との競合関係を予測して被告商品の製造・販売に至っている。すなわち、本件においては、当初から競合が予測され得たケースであり、それ故に、誤認混同の確率が大きいことは十分に察知し得るところである。そうとすると、本件のように、当初から競合が見込まれ、かつ現に競合が発生しているケースにおいては、周知性の成否については、その程度を緩和して判断することが、不正競争防止法の基本的理念に合致し、かつ当事者間の信義則に適合するものというべきである。
しかして、空気の吸入及び排出機能に基づいて、その形態に特徴を有し、かつパイオニア商品に該当する原告商品の前記のとおりの販売実績、控訴人自身並びに総代理店及びその特約店の宣伝活動を通じて、原告商品の形態及び原告第二商品の商標「エアーストレッチャー」は、控訴人の販売する商品を表示するものとして、取引者や需要者、特に病院、老人ホーム及び官公庁等のユーザー間において周知されるに至っている。
仮に、右のような周知性の判断基準を度外視したとしても、控訴人のような個人企業に等しい零細業者が、前記のとおりの原告商品の販売実績を有し、特に厚生省指定の災害拠点病院の約七パーセントに納品されていることからすると、原告商品の形態は、不正競争防止法二条一項一号に基づく保護に値する周知性を有するに至っているものとみなすべきである。
(二) 被控訴人の主張
原告商品の形態及び「エアーストレッチャー」の商標は、控訴人の考案に係るものではなく、また、その販売実績、宣伝活動により控訴人の商品表示としての周知性を有するに至っているとはいえない。
3 原告商品と被告商品との形態及び商標の類似性並びに混同のおそれ
(一) 控訴人の主張
原告商品と被告商品とは、原告商品の引っ張りベルトが挿通チューブ内を通ってそれぞれの外部で連結するループ状に設けられているのに対し、被告商品の引っ張りベルトは運搬マットの前端部に両側部を連結するようにU字状に設けられていること、また、被告商品にはポケットが設けられているが、原告商品にはポケットが存在しないことなど細部の点では相違しているが、前記のような非常時救出用人運搬具としての基本的形態を有することでは一致しているのであって、これら商品に接する需要者をして外観上彼此混同させるおそれのある類似形態ということができる。
また、被控訴人が非常時救出用人運搬具に原告第二商品の商標と同一の「エアーストレッチャー」という商標を付して製造・販売する行為は、原告第二商品との混同を生じさせることになる。
(二) 被控訴人の主張
被告商品と原告商品とは、非常用担架としての目的は同じであっても、その使用態様に重大な相違がある。すなわち、被告商品は、いわば動物のカンガルーの袋のように足を袋に入れて用いるものであり、一方の方向からしか利用できないものであって、ベルトによって身体を止め、いずれの方向からでも使用できる原告商品とはその利用方法及び形態が異なっている。
また、被控訴人は、現在「エアーストレッチャー」なる商標は全く使用しておらず、今後も使用する予定はない。
4 先使用による適用除外
(一) 被控訴人の主張
仮に、原告商品の形態に商品表示性があり、原告商品の形態及び原告第二商品の商標「エアーストレッチャー」が周知であるとしても、被控訴人はそれらの商品表示が周知となる前から、不正の目的を有することなく、被告商品を製造・販売し、「エアーストレッチャー」の商標を使用していたものであるから、不正競争防止法一一条一項三号により、被告商品の製造・販売禁止義務、右商標の使用禁止義務、損害賠償義務等を負わない。
(二) 控訴人の主張
被控訴人は、平成三年一〇月から同四年六月まで、控訴人から原告商品を購入して第三者に転売していた。しかるに、被控訴人は、原告商品を控訴人に納入していたテラインターナショナル社からマット部材を購入して被告商品を製造し、平成四年六月以降、原告商品の信用を利用し、しかも原告商品との競合を見込んだ上で、その販売に及んだものであって、不正競争防止法一一条一項三号の「不正の目的」にて被告商品の形態及び「エアーストレッチャー」の商標を使用したことは明らかである。
5 競業避止義務違反
(一) 控訴人の主張
(1) 控訴人と被控訴人とは、平成三年一一月ころ、継続的な取引を行うことを予定して、控訴人が被控訴人に対し原告商品を売り渡すことによる取引を開始したが、右契約に当たっては、被控訴人が原告商品と競合関係に至るような商品の販売を行わないことを当然の前提としていた。
控訴人において、被控訴人が競合商品の販売を行うことを予見していた場合には、被控訴人との取引契約を行うことはあり得ず、かつその旨の意思を有していたが、他方、被控訴人においても、競合商品の販売を予定しておらず、かつ右のごとき控訴人の意思を十分了知していたことに照らすならば、控訴人と被控訴人間においては、被控訴人が原告商品と競合関係に至るような商品の製造・販売を行わない旨の基本的前提について、少なくとも暗黙の合意が存在したものというべきである。
(2) 右(1)の合意に基づく被控訴人の競業避止義務は、その取引契約期間中はもとより、これが解消された後においても一定期間継続するものと解すべきである。
控訴人と被控訴人とは、取引契約終了後における競業避止義務が継続する期間を格別定めていないが、商法五二二条所定の五年間と解するのが相当である。
(3) 被控訴人は、平成四年六月以降、原告商品に対する競合商品である被告商品の販売に及んでいるが、右販売行為は明らかに自らに課せられた競業避止義務に違反するものである。
したがって、被控訴人は、控訴人に対し、被告商品の製造・販売禁止義務、商標「エアーストレッチャー」の使用禁止義務を負うべきであり、かつ、商法四一条、四八条、二四七条、二六四条の類推適用に基づき、被告商品の販売によって得た利益額相当の損害賠償金の支払義務を負担すべきである。
(二) 被控訴人の主張
被控訴人は、平成三年一二月に控訴人から原告商品を購入しているが、控訴人との取引はその一回だけであり、またその取引に際しても、またそれ以外の場合にも、控訴人との間に継続的取引義務あるいは競業避止義務を生ぜしめるような合意は一切していない。
6 控訴人の被った損害の額
(一) 控訴人の主張
被告商品一台当たりの販売価格は三万九五〇〇円であり、被控訴人は一か月当たり一〇〇〇台を販売し、その利益率は一五パーセントであるから、平成四年六月から平成六年一〇月までの二九か月の間に被控訴人が得た利益は、次の算式に示すとおり一億七一八二万五〇〇〇円であり、これが控訴人の損害額であるが、本訴においては、内金六〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成六年一一月二九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
三万九五〇〇円×一〇〇〇台×二九か月×〇・一五
=一億七一八二万五〇〇〇円
(二) 被控訴人の主張
被告商品の販売数量及び販売価格を否認し、損害額を争う。
第三 争点に対する判断
一 争点1(原告商品の形態の商品表示性)について
1 商品の形態は、商品の機能の向上又は効率的な生産という技術的な要請や需要者の嗜好を考慮した美感等の観点から適宜選択されるものであり、本来的には商品の出所を表示することを目的とするものではないが、ある商品の形態が他の同種商品と比較して特異性を有し、かつ、右商品形態が長期間にわたり継続的かつ独占的に使用され、又は短期間でも強力、広範な広告・宣伝が行われたような場合には、結果として、その商品の形態が出所表示機能を有するに至る場合があり、その場合には、その形態自体が特定人の商品たることを示す表示に該当するものと解される。
そこで、かかる観点から、原告商品の形態に商品表示性を認め得るか否かについて、以下検討する。
2 前記第二の一の事実、甲第二号証ないし第四号証、第六号証ないし第三四号証、第三七号証ないし第四〇号証、第四二号証ないし第四七号証、第五〇号証、第五一号証、第五三号証、第五五号証、第五六号証、第六〇号証の二の一・二、同号証の四ないし八、第六二号証ないし第六五号証、第六七号証の一・三、第六八号証ないし第七一号証、第七二号証の一・二、第七四号証ないし第七七号証、第七八号証の一・二、第七九号証の一・二、第八〇号証ないし第八二号証、乙第五号証、第七号証ないし第九号証、原審証人寺内丈行、同櫻井一敏及び同佐藤義則の各証言、並びに弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
(一)(1) テラインターナショナル社は、登山やキャンプ等の際に用いられる、吸入口に設けられたバルブを緩めることによってマット部材が膨張し、かつ吸入口から外気が導入され、バルブを締めることによって所要厚さの弾力を有するマットを、米国のカスケード社から輸入し、販売していたが、控訴人の依頼により、平成三年三月ころから右マットを用いた非常時救出用人運搬具の試作を始め、同年五月ころ原告第一商品を完成させ、平成元年六月一六日から同四年六月三〇日までの間に、試作品を含めて合計三四〇台余りの原告第一商品を控訴人に納入した。その後、テラインターナショナル社と控訴人との間の取引が取り止めとなったためへ控訴人は、米国法人キャピーサクライ・ユーエスエー・インク(以下「キャピーサクライ社」という。)から原告第一商品を輸入して販売している。
原告第二商品は、大人が足を伸ばして寝られるように、原告第一商品よりもマットの丈を長くしたものであるが、その他の形態は原告第一商品と同じである。控訴人は、平成三年一一月に被控訴人から東京医科大学病院に納品するための原告第二商品二一台の注文を受けたため、同年一二月にテラインターナショナル社からこれを買い受け、被控訴人に販売したが、その後は、テラインターナショナル社との取引が取り止めとなったことから、原告第二商品もキャピーサクライ社から輸入して販売している。
(2) 原告商品は、別紙物件目録(一)及び(二)に記載のとおり、非使用時には内部の空気が排出され、巻いて収納可能であるとともに、使用時には外気を吸入して所要の厚さ及び弾力を備えるに至るマット部材を有し、かつ、これを覆う袋カバーに引っ張りベルト、身体押さえバンド及び把持用のリングベルトが設けられているものである。
(二)(1) 控訴人は、原告商品に関し次のような広告・宣伝活動等を行った。
▲1▼ 平成元年五月に名古屋市で、同年八月に長野市で、控訴人の取締役副社長(当時)であった櫻井一敏を事務局長としてそれぞれ開催された「89緊急災害時の必需具と防災展」において、控訴人は原告第一商品を展示し、商品説明を行った。
▲2▼ 控訴人は、平成二年九月に大阪市で開催された「国際花と緑の博覧会」に原告第一商品七〇台を貸与し、右博覧会終了後、二〇台を大阪市に老人福祉事業用として寄付した。
▲3▼ 控訴人は、平成三年九月に広島市で行われた社団法人日本病院会・株式会社日本病院共済会の共催による「第11回病院防災セミナー」において、話題提供として、原告第一商品を「病院の避難搬送用具」として紹介した。また、控訴人は、平成五年七月に東京都で行われた「第13回病院防災セミナー」の協賛会社として名を連ね、同セミナーの案内書に原告第二商品の広告を掲載した。
▲4▼ 控訴人は、平成四年九月に第2回アジア太平洋大災害医療学会組織委員会の主催で行われた「災害時救急対策技術展」に原告商品を展示した。
(2) 控訴人は、平成六年七月一日に財団法人電気通信共済会(テルウエル)信越支部との間で、キャピーサクライ社が製造元であり、控訴人が輸入元である商品について、日本国内における総代理店契約を締結し、右商品の販売を委託した。
右以降は、控訴人だけでなく、テルウエルの各支部、営業所においても、パンフレットの配付、病院等でのビデオテープ等を用いての商品説明等により原告商品の宣伝活動が行われている。また、テルウエルの特約店であるワタキューセイモア株式会社、ティー・ダブリュ・リネン株式会社等を通じて、全国規模による原告商品の宣伝活動が行われている。
(3) 平成五年から同九年までの間に、病院、老人ホーム、官公庁等を中心として、合計二二八三台の原告商品が販売されている。
厚生省が指定しているわが国内の災害拠点病院は四〇五箇所(平成九年五月一日現在)であるが、甲第六〇号証の二の一・二、同号証の四、五、七、八(納入実績証明書)、第六二号証ないし第六五号証、第八一号証、第八二号証(取引証明書)に記載されている原告商品の販売先で右指定病院に該当するものは一二箇所である。
(三) 被控訴人は、平成四年四月ころから被告商品を販売しているが、被告商品については、被控訴人と直接の取引弓関係にある約一〇〇社の販売店等を通じて宣伝・販売が行われている。
被告商品は、非使用時には内部空気が排出され巻いて収納可能であるとともに使用時には外気を吸入して所要の厚さ及び弾力を備えるに至るマット部材を有し、かつこれを覆う袋カバーに引っ張りベルト、身体押さえバンド及び把持用のリングベルトが設けられているという基本的な形態においては原告商品と共通しているが、引っ張りベルトが運搬マットの前端部に両側部と連結するようにU字状に設けられている点や被運搬者の足の位置に足押さえ用のポケットが設けられている点などにおいて、原告商品と異なっている部分もある。
3(一) 前記2(一)(2)に認定のとおり、原告商品は、非使用時には内部の空気が排出され、巻いて収納可能であるとともに、使用時には外気を吸入して所要の厚さ及び弾力を備えるに至るマット部材を有し、かつ、これを覆う袋カバーに引っ張りベルト、身体押さえバンド及び把持用のリングベルトが設けられているものであるが、このような形態は、災害等の非常時に人を一人又は複数人で運搬するための運搬具において、非使用時にはかさばらず、かつ、使用時においては被運搬者に与える衝撃を緩和させるという機能を実現するために採用されたものであると認められる。原告商品の右のような機能は、前記マット部材を用いたことによって実現可能となったものであるが、原告第一商品の出現前には、前記のようなマット部材を用いた非常時救出用人運搬具はなく、登山やキャンプ等の際に用いられている前記マットを非常時救出用人運搬具に用いることとした着想自体はそれなりに評価できるところである。
しかしながら、不正競争防止法は右のような着想自体を保護の対象としているわけではなく、非常時救出用人運搬具について前記のような機能を前記マット部材を用いて実現しようとする場合には、求められる機能の内容からいって、原告商品のような形態が唯一無二のものではないにしても、想定される形態の幅はそれほど広いものではなく多かれ少なかれ原告商品と類似した商品形態にならざるを得ないものと考えられる。そうすると、この種商品の中にあって、原告商品の形態が出所表示機能を備える程の特異性を有しているものと認めることはできない。
仮に、原告商品のような形態についてまで特異性があるものとすると、非常時救出用人運搬具に前記のようなマット部材を使用するという着想自体が独占的な利益として保護される結果となり、商品間の競争が行われることを前提にその誤認混同行為のみを禁じる不正競争防止法二条一項一号の趣旨を逸脱することになりかねない。
(二) 次に、原告商品の形態の使用状況、広告・宣伝の事情等についてみると、前記2(二)に認定のとおり、平成元年六月一六日から同四年六月三〇日までの間に試作品を含めて合計三四〇台余りの原告第一商品がテラインターナショナル社から控訴人に納入されており、また、控訴人は、平成五年から同九年までの間にキャピーサクライ社から輸入した原告商品二二八三台を病院、老人ホーム、官公庁等を中心として販売しているが、右各期間の取扱数量が特に大量であるとはいえないことや、被控訴人が既に平成四年四月ころから被告商品を宣伝・販売していて、原告商品と競合していることからすると、原告商品の形態が長期間にわたり、大量かつ独占的に使用されたものとまでは認められず、前記2(二)に認定の原告商品の広告・宣伝活動も、その具体的方法や原告商品の販売数量等からみて、強力、広範なものであったとは認られない。
なお、平成五年から同九年までの原告商品の販売実績は二二八三台であり、甲第六〇号証の二の一・二、同号証の四、五、七、八(納入実績証明書)、第六二号証ないし第六五号証、第八一号証、第八二号証(取引証明書)に記載されている原告商品の販売先で、厚生省指定の災害拠点病院に該当するものは一二箇所であるところ、控訴人は、右甲各号証に記載の原告商品の販売台数は合計九六四台であるから、右販売台数を案分比例することによって、右指定病院四〇五箇所に対し二八・四箇所に、すなわち、指定病院のうちの約七パーセントに原告商品が納品されているものと推定することができる旨主張するところ、仮に右推定のとおりであるとしても、原告商品の形態が出所表示機能を備える程に大量かつ独占的に使用されるに至ったものとまでは認められない。
(三) 右(一)、(二)によれば、原告商品の形態が控訴人の商品であることを表示する機能を有するに至っているとは認められず、原告商品の形態に商品表示性を認めることはできない。
二 争点2のうち、原告第三商品の商標「エアーストレッチャー」の周知性について
前記一2(一)に認定のとおり、控訴人は、平成三年一一月に被控訴人から東京医科大学病院に納品するための原告第二商品二一台の注文を受けたため、同年一二月にテラインターナショナル社からこれを買い受け、被控訴人に販売したことがあるものの、原告第二商品の販売を本格的に開始したのは、テラインターナショナル社との取引が取り止めとなってキャピーサクライ社からの輸入取引に移行した平成四年七月ころより後であること、控訴人が原告第二商品の販売を本格的に開始したころには既に、被告商品が「エアーストレッチャー」の商標で販売されていて、以後両者の販売・宣伝活動が競合して行われていたことからすると、「エアーストレッチャー」の商標が原告第二商品のみを表示するものとして周知性を有するに至っているものとは認められない。
三 争点5(競業避止義務違反)について
前記のとおり、被控訴人は、東京医科大学病院に納品するために、平成三年一二月に控訴人から原告第二商品二一台を買い受けたことがあり、また、右当時、被控訴人は、原告商品と同様の商品を自ら製造・販売する意思を有しておらず、控訴人から仕入れて販売する予定であったこと、その一環として、被控訴人は、控訴人から原告第一商品四台を見本品として買い受け、これをもって宣伝活動を行ったことが認められる(原審証人佐藤義則の証言)。
ところで、平成四年二月中旬ころ、被控訴人は、控訴人との間で、その後の取引を行う場合の原告商品の生産方法及び価格について折衝を行ったが、話し合いがまとまらず、以後の取引は取り止めとなったことが認められるが(原審証人佐藤義則及び同櫻井一敏の各証言)、右取引中止の前後を通じて、控訴人と被控訴人との間において、取引解消後においても、被控訴人は原告商品と競合関係に至るような商品の製造・販売を行わない旨の明示の合意はもとより、黙示の合意が成立したことを認めるべき証拠はない(取引当初において、被控訴人が、原告商品と同様の商品を自ら製造・販売する意思を有しておらず、控訴人から仕入れて販売する予定であり、その一環として、被控訴人が、控訴人から原告第一商品四台を見本品として買い受け、これを利用して宣伝活動を行ったことがあるにしても、これをもって、右黙示の合意があったものとすることはできない。)。
そうすると、右合意があったことを前提とする競業避止義務違反に基づく控訴人の主張(予備的請求)は、その余の点について検討するまでもなく理由がない。
四 結論
以上のとおりであるから、その余の争点について判断するまでもなく、控訴人の本訴請求(当審における予備的請求を含む)はいずれも理由がない。
よって、原判決は正当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、また、控訴人の当審における予備的請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法六七条一項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成一〇年六月一六日)
(【裁判長】【裁判官】永井紀昭 【裁判官】濱崎浩一 【裁判官】市川正巳)