東京高等裁判所 平成9年(ネ)3356号 判決 1998年3月04日
控訴人
福地祥子
同
山本修
同
佐藤好子
同
有限会社オサム
右代表者代表取締役
川上平
控訴人
有限会社キープス
右代表者取締役
内田茂
控訴人
岡本信顕
右六名訴訟代理人弁護士
田辺幸一
同
若柳善朗
控訴人ら補助参加人
株式会社オフィスティアンドワイ
右代表者代表取締役
持田輝之
右訴訟代理人弁護士
市川清文
控訴人ら補助参加人
株式会社グラン大誠
右代表者仮代表取締役
笹浪恒弘
右訴訟代理人弁護士
田島潤
被控訴人
株式会社三裕商事
右代表者代表取締役
宇野伊治
右訴訟代理人弁護士
服部弘志
同
谷正之
同
角谷雄志
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は、控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人ら及び補助参加人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
控訴棄却
第二 事案の概要
事案の概要は、次のとおり改めるほかは、原判決「第二 当事者の主張」のとおりである。
一一頁四行目、六行目、九行目、一二頁一行目、八行目の「差押」を「差押え」に、一〇行目の「賃料」を「賃料債権」に、一三頁末行の「差押」を「差押え」に、一四頁三行目の「差押え命令」を「差押命令」にそれぞれ改める。
第三 当裁判所の判断
当裁判所も、被控訴人の請求をいずれも認容すべきものと判断するが、その理由は次のとおりである。
一 請求原因1ないし3の事実は争いがなく、同4の事実は弁論の全趣旨により認められる。
二 継続的給付に係る不動産の賃料債権に対する差押えの効力が生じた後に、右不動産が第三者に譲渡され、所有権移転登記がされた場合には、右賃貸借関係は譲受人に引き継がれるが、差押えの効力はそのまま継続し、譲受人たる新賃貸人を拘束すると解するのが相当である。一般に債権は無形の財産的価値を有するものであるが、登記ないし占有等の公示方法によって、その権利変動の対抗要件とすることができない(対抗要件は、確定日付ある債務者への通知又は承諾である。)。しかし、民事執行法は、右のような公示方法がないことを当然の前提とした上で、債権の財産的価値に着目して、強制執行ができるものとしている。すなわち、同法によれば、債権に対する強制執行は、執行裁判所の差押命令により開始され(一四三条)、執行裁判所は、差押命令において、債務者に対し債権の取立てその他の処分を禁止し、及び第三債務者に対し債務者への弁済を禁止し(一四五条一項)、差押命令は、債務者及び第三債務者に送達され(同条三項)、差押えの効力は、差押命令が第三債務者に送達された時に生ずる(同条四項)。
本件のように不動産の賃料債権について差押えの効力が生じた後に執行債務者がその賃料債権を第三者に譲渡しても、差押債権者には対抗できない。すなわち、これを譲り受けた第三者は差押えの拘束を受け、差押債権者が優先することは明らかである(債権を譲り受けようとする第三者は、差押えの有無等を債権者や債務者に確かめるべきである。)。その不動産が第三者に譲渡された場合には、その賃貸人の地位は当該第三者に移転する。その地位は、賃料債権の債権者たる地位と不動産を賃借人に使用収益させる債務を負担する地位とから成る。この場合の賃料債権の移転は、差押えに後れるものであり、差押債権者が優先することは、債権譲渡の場合と異ならない。賃料債権の差押えは、当事者の賃貸借関係の解除等の処分を妨げず、例えばこれが解除された後は差押えの効力は失われるが、それは賃料債権自体が消滅するからである。不動産の譲渡による賃貸人の交代の場合には、賃料債権はそのまま存続する。賃料債権について引き続き差押えの拘束を受けることとして、賃借人が何ら不利益を受けるものでないことは、賃料債権の譲渡の場合と同じである。また、不動産を譲り受けようとする第三者が、賃貸借の存否及びこれがあるときは賃料債権についての差押えの有無内容を調査すべきことは、賃料債権を譲り受けようとする場合と同じである。もちろん、賃料債権の譲渡の場合には、賃貸借の存在は当然の前提であるのに対し、不動産の譲渡の場合には、賃貸借の存在は前提事実ではない。しかし、不動産を譲り受けようとする者が、賃貸借の存否を調査しないことは考えられないし、これを怠った場合はそれによって生ずる不利益を甘受するほかない。控訴人らは、本件賃料債権について、差押債権者である被控訴人の取立てに応ずるべきである。
賃料債権に対する強制執行の方法として不動産の強制管理の方法があることは、賃料債権差押えの効力について前示のように解することの妨げとはならない。また、仮に物上代位による賃料債権の差押えについての実務の扱いが控訴人主張のとおりであるとしても、当裁判所の判断を左右するものではない。
三 準占有者に対する弁済により取立債権が消滅したとの控訴人らの抗弁について検討するに、抗弁1の事実は争いがなく、同2及び同3(一)の事実は弁論の全趣旨により認められる。
控訴人らは、抗弁3(二)の事実があった旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、かえって、原審の調査嘱託の結果によると、法務省においては、建物の賃料債権の差押え後に、建物が譲渡された場合、第三債務者は債権者不確知を理由に賃料を供託することはできず、建物の譲受人に対して賃料を支払うべきである、との解釈を採っているか否か、との調査事項に関し、法務省民事局所管課長は、差押えの効力の存続を前提として、第三債務者は民法四九四条を根拠とする弁済供託をすることはできず、差押債権者の取立権の行使に応じるか、民事執行法一五六条一項に基づく執行供託をすることができる旨明確に回答しており、また、千葉地方法務局市川支局長は、供託に関する一般的な相談に関して、いつ、誰から、どのような相談があったか明らかではなく、相談の過程で、その受否につき断定的に判断することはないとした上で、前記法務省と同旨の回答をしていることが認められる。したがって、仮に控訴人らが同支局担当者に対して控訴人ら主張のような事項に関し相談した事実があったとしても、同担当者が控訴人らに対し、前記回答と異なる見解を述べたとは考えられない。賃料債権の差押えの効力についての前判示と同じ見解を示した文献もあり、控訴人らがオフィスティアンドワイに本件賃料債権の弁済をしたとしても、これについて民法四七八条による弁済の効力を認めることはできない。
第四 結び
よって、本件控訴はいずれも理由がないから、棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官稲葉威雄 裁判官大藤敏 裁判官塩月秀平)