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東京高等裁判所 平成9年(ネ)3706号 判決 1998年3月24日

控訴人(甲事件原告・乙事件被告) 飛行船株式会社

右代表者代表取締役 Y1

控訴人(乙事件被告) Y1

右両名訴訟代理人弁護士 一瀬敬一郎

川村理

被控訴人(甲事件被告・乙事件原告) 株式会社あさひ銀行

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 山本晃夫

高井章吾

杉野翔子

藤林律夫

尾崎達夫

鎌田智

伊藤浩一

金子稔

右当事者間の損害賠償、償還金請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  被控訴人は、控訴人飛行船株式会社に対し、金一億〇九二〇万〇五一四円及びこれに対する平成七年八月二六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被控訴人

控訴棄却

第二事実の概要

一  控訴人飛行船株式会社(以下「控訴会社」という。)は、被控訴人と信用状取引契約を締結していたが、被控訴人が信用状の開設依頼を拒絶した。控訴会社は、信用状の開設依頼の拒絶が債務不履行に当たるとして損害賠償を請求した。一方、被控訴人は、控訴会社及びその保証人の控訴人Y1に対して、信用状取引契約による償還金を請求した。

原判決は、信用状の開設依頼の拒絶が債務不履行になることはないとして、控訴会社の請求を棄却し、被控訴人の請求を認容した。控訴人らが不服を申し立てた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

(原判決の訂正)

原判決に「別紙手形目録」として、この判決の別紙手形目録<省略>を添付する。

(控訴人らの当審における主張)

1 原判決は、①控訴会社の税金滞納問題、②株式会社飛行船企画に対し営業の一部を譲渡したことによる売上の減少、③給与資金の振込遅延問題、④担保提供を求めたのにこれに応じなかったこと等を理由として、被控訴人が信用状の開設依頼を拒絶したことには合理的理由があり、何ら責められるべき点がないとしたが、誤りである。

右①ないし④の事由が発覚した後も信用状取引は継続していたのであって、取引継続の事実は、右各事由の発生にかかわらず、今後も取引を継続していく旨の被控訴人の意思の現われであり、控訴会社もそのような期待を抱いたのであって、このような期待は、保護されるべきである。

2 また、本件においては、信用状発行について、極度額の合意があり、それが控訴会社に告げられており、さらに取引が約二年にわたり継続され、将来の反復継続を期待することがもっともであると考えられるのであるから、反復的与信契約が成立している。したがって、その解約については、当座貸越契約の場合と同様に厳格な理由を必要とするのであって、前記①ないし④のような事由では到底合理的な理由ということはできない。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、被控訴人が信用状の開設依頼を拒絶したことが、信用状取引契約の債務不履行となることはなく、したがって、控訴会社の損害賠償請求は、理由がなく、被控訴人の償還金請求は、理由があるものと判断する。

その理由は、次のとおり付加するほか、原判決の「第三 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人らの当審における主張に対する判断)

1 原判決挙示の証拠によれば、被控訴人が信用状の開設依頼を拒絶するに至った経過として原判決記載の事実(原判決一〇枚目裏三行目から一三枚目裏三行目まで)が認められる。この事実によれば、被控訴人は、控訴会社と信用状取引契約を締結後、控訴会社の信用悪化を示す各種の事実(控訴会社が指摘する①ないし④の事実は信用悪化を示す重要な事実である。)が発生する都度、控訴会社に対して、問題点を指摘し、担保提供を求めるなど取引内容の改善を図るよう促したが、控訴会社がこれに応じなかったので、やむを得ず、信用状取引を中止することを通告したのであるから、信用状開設依頼の拒絶には合理的な理由があるということができる。

控訴人は、その指摘する①ないし④の事由が存在したにもかかわらず、信用状取引が継続したことは、①ないし④の事由が信用状取引中止の理由とはならないと主張するけれども、事態の本質を見ない見解であって、到底採用することができない。すなわち、右①ないし④の事実は信用悪化を示す重要な事実であって、被控訴人は、これらの事実が存在するにもかかわらず、なんとか取引の停止に至らないよう、控訴会社に事態改善のためさまざまの提案をしてきたのであるが、控訴会社がこれに応じた措置をとらず、事態が改善されないため、やむを得ず、取引の停止に至ったものということができるのである。

2 また、控訴人らは、本件の信用状取引契約は反復的与信契約であるから、これを解除するには、当座貸越契約の解除の場合と同様の厳格な理由が必要であると主張するが、この主張は独自の見解であって到底採用できない。信用状の発行銀行は、信用状の条件に一致した手形等の提示に対し、支払義務を負担するのであるから、信用状を発行することは、実質的には信用状の発行依頼者に対する信用の供与である。したがって、発行依頼者の信用に不安があり、その不安の改善がみられない場合には、信用状の発行依頼を拒絶することができるのは当然である。控訴会社指摘の前記①ないし④の事実は、優に信用状取引契約を解除して信用状の発行依頼を拒絶する理由となりうる。

二  よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今井功 裁判官 小林登美子 田中壯太)

<以下省略>

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