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東京高等裁判所 平成9年(ネ)3975号 判決 1998年3月10日

控訴人

甲野一郎

甲野二郎

右法定代理人親権者父

甲野一郎

親権者母

乙川春子

右両名訴訟代理人弁護士

木下淳博

大石剛一郎

被控訴人

丙沢三夫

主文

一  原判決を取り消す。

二  本件訴えを却下する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

控訴棄却

第二  事案の概要

事案の概要は、原判決事実及び理由第二に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決三頁二行目の「被告二郎」を「控訴人甲野二郎」(以下「控訴人二郎」という。)」に、同行目の「被告一郎」を「控訴人甲野一郎(以下「控訴人一郎」という。)」に改め、同行目の「乙川春子」の次に「(以下「乙川」という。)」を加え、同九行目の後の「被告」から同一〇行目の「ある」までを削り、同四頁初行の「被告二郎は」を「乙川は、平成五年二月六日、控訴人二郎を出産し、同人は」に改める。)。

第三  当裁判所の判断

一  本件訴えは、被控訴人が、控訴人らに対し、戸籍上の父子である控訴人一郎と控訴人二郎との間に父子関係が存在しないことの確認を求めるものであるところ、前示第二(原判決事実及び理由第二の一)の事実によれば、控訴人二郎は、控訴人一郎の妻である乙川が婚姻中に懐胎した子であるから、控訴人一郎の子としての嫡出推定(民法七七二条)が及んでいる。

ところで、民法が嫡出否認の制度(七七四条ないし七七八条)を設け、嫡出推定を受ける場合の嫡出性の否認の方法を制限したのは、夫婦が正常な夫婦生活を営んでいる場合に、妻がたまたま夫以外の男性との性交渉によって子を産んだとしても、その嫡出性に関して濫りに第三者の介入を許すことになると、徒に夫婦の秘事を公にし、家庭の平和を乱すことになるからである。このような法の趣旨に鑑みると、嫡出否認の訴えによることなく、嫡出推定を受ける親子関係の不存在確認の訴えが認められるには、夫婦が正常な夫婦生活を営んでいない場合や妻が夫によって懐胎することが不可能なことが明白である場合など嫡出推定を排除するに足りる特段の事情が存する場合に限られるというべきである。

そして、証拠(乙一ないし三、乙六の一ないし二一、乙七ないし九、証人乙川、控訴人一郎本人)によれば、控訴人一郎と乙川とは、昭和六一年から東京都中野区中野において同居を開始し、昭和六二年八月に長女をもうけ、平成二年一二月に婚姻の届出をし、平成三年五月に東京都世田谷区上祖師谷に移転し、平成七年四月には千葉県印旛郡白井町に移転しているが、この間、終始同居しており、別居したことはないこと、控訴人二郎の懐胎可能期間である平成四年四月ないし五月ころ、控訴人一郎が長期間不在であるなど控訴人一郎の子を懐胎することが不可能であるという事情もないこと、ABO式の血液型は、控訴人一郎がO型、乙川及び控訴人二郎がいずれもA型であって、控訴人一郎と控訴人二郎との間に血液型の背馳はないこと、以上の事実が認められる。右認定に関し、被控訴人作成の陳述書(甲九、一〇)中には、被控訴人と乙川とが交際していたころ、乙川と控訴人一郎とは別居しており、両者は平成四年九月に復縁した旨の記載があるが、右記載部分は、証人乙川の証言及び控訴人一郎本人尋問の結果に照らし、採用できず、他に、前記認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、本件においては、控訴人二郎に対して嫡出推定を排除するに足りる特段の事情は存しないというべきであるから、控訴人二郎は控訴人一郎の子と推定され、第三者である被控訴人が、控訴人二郎の懐胎可能期間中に乙川と性交渉があったとしても、控訴人一郎と控訴人二郎との間に父子関係が存在しないことの確認を求めることは許されず、本件訴えは不適法であるというほかない。

二  以上の次第であるから、被控訴人の請求を認容した原判決を取り消して、本件訴えを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官筧康生 裁判官村田長生 裁判官後藤博)

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