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東京高等裁判所 平成9年(ラ)2296号 決定 1998年2月27日

抗告人

ディックファイナンス株式会社

右代表者代表取締役

田中彰

相手方

宇山博

主文

一  原決定を取り消す。

二  別紙物件目録(一)ないし(三)記載の各土地につき、抗告人のために、別紙登記目録記載の根抵当権設定の仮登記を命ずる。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「仮登記仮処分申立却下に対する即時抗告状」記載のとおりである。

二  一件記録によると、抗告人は、平成四年四月一日、相手方との間で、金銭消費貸借契約(以下「本件契約」という。)を締結して七五〇万円(以下「本件貸金」という。)を貸し付けたが、その際、本件貸金債権を担保するために、相手方所有の別紙物件目録(一)ないし(三)記載の一四筆の不動産(以下「本件各土地」という。)を含む二三筆の土地(以下「本件不動産」という。)について、債権者を抗告人、債務者を相手方、極度額を一二〇〇万円とする内容の根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)を設定する旨の根抵当権設定契約(以下「本件設定契約」という。)を締結し、相手方と抗告人は、その旨の根抵当権設定契約書を取り交わしたこと、本件契約に関する金銭消費貸借契約書には、不動産担保に関して抗告人が相手方から受け取る書類として、借用申込書、金銭消費貸借契約書及び債務弁済公正証書作成委任状各一通、印鑑証明書及び住民票の謄本・抄本各二通、登記簿謄本二九通、根抵当権設定契約証書二通、設定登記用委任状、団体信用生命保険申込書及び源泉徴収票の写し各一通等が記載されているが、相手方は、右設定登記用委任状を持参せず、その後の催告にもかかわらず、右委任状を提出しなかったこと、そして、相手方は、平成七年七月ころから本件貸金の返済を遅滞するようになり、平成八年に三〇〇〇円を入金したのみで、それ以後、何らの支払もしないこと、しかも、相手方は、平成六年八月三日には、本件設定契約において根抵当権の設定を約した本件不動産のうちの一筆について、山口展のために同月一日売買を原因とする所有権移転登記手続を経由していることが認められる。

三 右認定の事実によれば、相手方は、抗告人との間で、本件契約を締結すると同時に、本件各土地を含む本件不動産について本件設定契約を締結し、本件根抵当権設定登記をすることを約したにもかかわらず、右根抵当権設定登記手続に必要な関係書類を交付せず、しかも、その後、本件設定契約において本件根抵当権を設定することを約した土地のうちの一筆を他に売却しているのであるから、抗告人は、本件各土地について仮登記原因を有しており、かつ、根抵当権設定仮登記手続をするについて相手方の協力を得ることが困難な状況にあるというべきである。したがって、本件仮登記仮処分命令申請は、理由があるから、これを認容すべきである。

四  よって、当裁判所の右判断と異なる原決定は不当であるから、これを取り消し、本件仮登記仮処分申請を認容することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官石井健吾 裁判官星野雅紀 裁判官杉原則彦)

別紙<省略>

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