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東京高等裁判所 平成9年(ラ)403号 決定 1997年12月12日

主文

一  本件各抗告をいずれも棄却する。

二  抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

第一  申立の趣旨及び理由

抗告人らは、原決定を取り消す旨の裁判を求めるものであり、その理由は、別紙「即時抗告申立書」の「即時抗告の理由」に記載のとおりである。

第二  当裁判所の判断

一  本件記録及び冒頭記載の基本事件記録によれば、以下の事実が認められる。

1  昭和四六年一一月五日、東京地方裁判所に対し、抗告人坂本久直は国及び田辺製薬株式会社を、抗告人藤崎富子、同永井幸子及び同小山禎一は国、日本チバガイギー株式会社及び武田薬品工業株式会社を、抗告人吉岡洋介は国及び右三社全員を被告として、キノホルムの過剰投与によるスモン罹患の損害賠償請求事件(同庁昭和四六年(ワ)第九八一五号、いわゆる第三次スモン訴訟)を提起し、抗告人らは、昭和四七年七月一三日、訴訟上の救助を付与する旨の決定を得た。

2  右事件は、口頭弁論期日を経ることなく、昭和四七年七月一三日準備手続に付され、同年九月一四日にその第一回が、同年一一月三〇日にその第二回が開かれたが、抗告人らは、同年一二月六日、右訴えをいずれも取り下げ、その取下書の送達後三カ月以内に相手方らが右取下げに異議を述べなかったため、遅くとも昭和四八年三月二一日の経過により被告ら全員に対しその取下げの効果が生じるに至った。

3  その後、基本事件を担当していた東京地方裁判所は、平成九年二月二七日に至り、抗告人らに対し、右訴訟上の救助の付与により支払いを猶予した訴え提起の手数料各二五万〇〇一九円及び原決定の正本送達費用各二〇八円の合計各二五万〇二二七円を国庫に対し支払うように命じる決定(原決定)を発令した。

二  抗告人らは、訴えの取下げにより救助決定は失効し、当然に猶予された訴訟費用の支払義務が発生するところ、取下げ後二四年余を経て原決定がなされたが、右支払義務は時効により消滅しており、抗告人らは時効を援用するから、原決定は取り消されるべきであると主張する。

しかし、訴訟救助を受けた者が猶予を受けた訴訟費用の支払義務を負うのは、具体的な額を定めた支払決定を受けた時からと解すべきであり、訴えの取下げ等の訴訟の終了により、当然に支払義務が発生するものと解することはできない。

したがって、訴えの取下げにより当然に支払義務が発生することを前提とする抗告人らの主張は、採用できない。

三  もっとも、このように解すると、いつまでも支払決定ができることとなるが、長年月を経る等の特別の事情により、支払決定をすることが、支払を命じられた者の予測に著しく反し、その法的安定性を損なうような場合には、もはや支払決定は許されなくなるものと解すべきである。

そこで、右の見地から検討するに、記録及び当裁判所に職務上顕著な事実によれば、次の事実が認められる。

1  抗告人らを含む合計一五五名の原告が提訴した第三次スモン訴訟は、合計二〇二次、原告総数三六〇〇名余の東京スモン訴訟の一として、他の訴訟と併行審理されたが、原告らのうち第一審で訴訟救助を受けた者は二九〇〇名余に昇り、第三次スモン訴訟だけでも、一五三名であった。第三次訴訟グループに属する原告らのうち抗告人らを含む一部の者は、訴えを取り下げ、一部の者は被告らと和解したが、その余の者については、東京地方裁判所は、昭和五三年八月三日判決を言い渡した。

2  右判決に対し、原、被告双方から控訴されたが、控訴審で順次和解が成立し、結局、和解が成立しなかった第三次訴訟グループに属していた原告の一名と田辺製薬株式会社との間につき、平成二年一二月七日、控訴審判決が言い渡された。

3  右原告は、平成二年一二月七日、控訴審判決を不服として上告を提起したが、平成六年一二月八日に右の上告は棄却され、その頃第三次訴訟の記録は、東京地方裁判所に送付された。

4  東京地方裁判所は、右記録受領後膨大な記録を精査し、第三次スモン訴訟において訴訟救助により猶予された訴訟費用の取立てに着手し、和解で終了した原告ら分については、和解の定めに従い国又は被告製薬会社から取り立て、抗告人らを含む取下げで終了した者のうち死亡者を除く七名及び判決で終了した者一名について支払決定を発し、抗告人らを除く三名はいずれも支払決定額を納付している。なお、東京スモン訴訟においては、他に昭和四九年から昭和五六年までの間に訴えを取り下げた者(死者を除く。)二一名全員から平成八年一二月以降猶予された訴訟費用について任意納付されている。

右事実によれば、本件訴訟は多数の原告があり、その終局事由も取下げ、和解、判決と多様であり、上訴審係属期間も長期に及んだものであるから、訴訟救助により猶予された訴訟費用の取立てを一件記録に含まれる全事件終了後に行うこととしたことは、やむを得ない措置として是認されるものであり、抗告人ら以外の訴えの取り下げをした者が、抗告人らに匹敵する期間経過後において猶予費用を納付していることを考慮すれば、本件決定が抗告人らの予測に著しく反し、その法的安定性を損なうような場合に該当するとはいえない。

四  よって、抗告人らの本件抗告は、理由がないのでいずれも棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 町田 顕 裁判官 末永 進 裁判官 藤山雅行)

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