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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)1号 判決 1998年3月12日

川崎市川崎区富士見1丁目6番3号

原告

トキコ株式会社

代表者代表取締役

石田孝三

訴訟代理人弁理士

三戸部節男

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

荒井寿光

指定代理人

伊藤元人

田中弘満

藤文夫

廣田米男

主文

特許庁が平成7年審判第23645号事件について平成8年11月11日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨

2  被告

(1)  原告の請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「出荷装置」とする発明(以下、「本願発明」という。)につき、昭和62年1月20日特許出願(昭和62年特許願第10962号)をしたところ、平成7年9月4日拒絶査定を受けたので、同年11月2日審判の請求をし、平成7年審判第23645号事件として審理された結果、平成8年11月11日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年12月4日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

複数の出荷ポイントを有する出荷ベイに到着したタンクローリ車への積込制御を行う積込制御部と、前記タンクローリ車への油液の積込時に当該タンクローリ車に装着されるアース装置とを有してなる出荷装置において、

前記アース装置の前記タンクローリ車への装着/非装着を検出するアース検出手段と、

前記タンクローリ車への積込が停止しているか否かを検出する積込停止検出手段と、

前記出荷ベイにおける当該タンクローリ車への積込量が予め設定された予約積込量に達しているか否かを判別する手段と、

前記積込停止手段による積込停止とアース検出手段によるアースの非装着とを検出したときに、前記判別手段により積込量が予約積込量に未達であることを確認したときには警報を発する警報制御手段とを設けたことを特徴とする出荷装置(別紙第一図面参照)

3  審決の理由の要点

(1)本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

なお、発明の詳細な説明の記載を参酌すると、本願発明は、要するに予約した給油量の給油作業を完了しないままで給油中のタンクローリ車が誤って出庫してしまうことを未然に防止することをその目的とし、予約給油量と給油量とを比較して給油未完かどうかを監視し、さらにタンクローリ車のアースが接続状態であることを監視し、給油未完の状態でアースが外されたときは、このアースが外されたことを以て作業者の給油作業終了の意思の表れとみなし、その誤りをチェックして警報を発するというものである。

(2)他方、昭和61年特許出願公開第115892号公報、又は昭和50年特許出願公開第153996号公報(以下、「引用例1」という。)に、タンクローリへの給油作業において、給油量が予約給油量に満たないままで給油を停止してタンクローリを誤って出庫することを防止するために、予約給油量と給油量とを比較して給油未完であることを監視し、給油量が予約給油量に達するまではカードをロックしておくものであって、給油量が予約給油量に達しないままで、カードを取出そうとするときは、それを給油作業者の給油作業終了の意思の表れとみなし、これをチェックしてカードの取出を阻止することによって、その誤りを給油作業者に察知させることが記載されているものということができる。

(3)そこで、引用例1記載の発明と本願発明とを比較すると、本願発明は次の点において相違し、その余の点において一致しているものと認められる。

(イ)引用例1記載の発明が、給油作業終了のために必ず行うカード取出作業が給油未完の間になされるとき、カード取出を不可能にして、これによって給油が完了していないことを作業者に察知させるのに対して、本願発明は給油作業終了のために必ず行うアース取外作業が給油未完の間に行われたとき、これを検知して警報を発して作業者に察知させるようにした点。

(4)次いで相違点について考察する。

ところで、引用例1記載の発明は、給油作業が完了しない間はカードの取出を不可能にすること、いわば消極的な警告手段によってそのことを作業者に知らせるものであるが、タンクローリへの給油制御装置において予約給油量に対して最終的な給油量を規定する給油量入力データが予約給油量と一致せず、このために予約の給油を完了し得ない事態が生じたとき、予約給油量、給油量、上記給油量入力データとに基づいてその適否を判別し、それが誤りであるとき警報を発してそのことを作業者に報知することが昭和60年実用新案登録出願公開第101500号マイクロフィルム(以下、「引用例2」という、別紙第二図面参照。)に記載されている。

また、給油作業終了に際してタンクローリのアース取外作業が必ず行われることは常識であり(必要なら昭和61年特許出願公開第115893号公報参照)、さらに、このアースの接続状態を常に電気的に監視し、給油作業中にアースが接続されていないとき、警報を発してこれを報知させることは従来周知のことであり(例えば、昭和60年特許出願公開第58395号公報参照)、このシステムにおいては給油作業中にアースが外れた場合は、上記の「アースが接続されていないとき」に当たり、上記警報が発せられることは自明のことである。

さらに、給油作業未完のままで給油作業を中止して出庫する場合、これに対して警報を発するための一条件を特にアース離脱としたことによって本願発明が特有の格別顕著な作用・効果を生じたものとも認められない。

したがって、給油作業終了のために必ず行われるアース取外作業に着目し、予約給油量に給油量が満たないままで、アースが外れたとき、これを検知して警報を発するようにすること、すなわち相違点は引用例2記載の発明に基づき、上記周知事項を参酌することによって当業者が格別の技術的な創意工夫を要することなく、容易に想到し得たものであるということができる。

(5)以上のとおりであるから、本願発明は引用例1記載の発明、引用例2記載の発明に基づいて、本出願前に当業者が上記周知事項を参酌することによって容易に発明することができたものであるという外はない。

(6)それゆえ、特許法29条2項の規定により本願発明について特許を受けることはできない。

4  審決の取消事由

審決の理由の要点(1)ないし(3)は認める。同(4)のうち、「引用例1記載の発明は、給油作業が完了しない間はカードの取出を不可能にすること、いわば消極的な警告手段によってそのことを作業者に知らせるものである」こと、「給油作業終了に際してタンクローリのアース取外作業が必ず行われることは常識」であること、及び「このアースの接続状態を常に電気的に監視し、給油作業中にアースが接続されていないとき、警報を発してこれを報知させることは従来周知」であることは認め、その余は争う。同(5)、(6)は争う。

審決は、引用例2記載の発明の技術内容を誤認した結果、相違点の判断を誤ったものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)審決は、引用例2に、予約給油量に対して最終的な給油量を規定する給油量入力データが予約給油量と一致せず、このために予約の給油を完了し得ない事態が生じたとき、予約給油量、給油量、上記給油量入力データとに基づいてその適否を判別し、それが誤りであるとき警報を発してそのことを作業者に報知することが記載されていると認定した。

しかし、引用例2には、「タンクローリ車への積込開始時にハッチに対してどのくらいの量の油液を積込むかを設定する出荷量設定スイッチ10により作業者が設定する第1の出荷量信号と、緊急の用事等により積込みを一時停止させた後に再び積込みを開始するために作業者が出荷量設定スイッチ10を操作して設定する第2の出荷量信号とを比較し、両者が一致しない場合に警報を発することで、出荷を一時停止した後の出荷量設定スイッチ10の操作ミスを作業者に警告する出荷装置」が記載されているにすぎない。すなわち、引用例2記載の発明は、初期設定である第1の出荷量信号(設定積込量)と、再設定である第2の出荷量信号(設定積込量)という同種類の信号を比較し、両者が不一致のとき、作業者に警報を発するものである。

そこで、本願発明と引用例2記載の発明とを比較すると、本願発明は、「予約積込量」と「実際の積込量」と比較している構成のものであるのに対し、引用例2記載の発明は、「第1の出荷量信号」(設定積込量)と「第2の出荷量信号」(設定積込量)とを比較しているのみで、本願発明の上記構成は存在しない。したがって、審決は、引用例2記載の発明の技術内容を誤認し、ひいては引用例2に、本願発明と引用例1記載の発明との相違点が記載されているという誤った判断をしたものである。

(2)被告は、本願発明と引用例1記載の発明との相違点は、引用例2の記載事項に基づき周知事項を参酌することで容易に想到し得ると主張する。

ア しかし、本願発明の上記相違点に関する警報制御手段の構成、すなわち警報発生条件は、<1>積込停止手段による積込停止の検出、<2>アース検出手段によるアースの非装着の検出、<3>判別手段による積込量が予約積込量に未達であることの確認、<4>これら<1>~<3>の要素の全てが満たされたときである。

ところが、前記(1)のとおり、引用例2には上記警報発生条件は記載されていない。そして、上記周知事項は、(1)給油作業終了に際してタンクローリのアース取外作業が必ず行われることは常識であること、及び(2)給油作業中、すなわちガソリン等の注入作業中にアースが外れたときに、アースの接続を促すために警報を発することであるから、上記周知事項には、本願発明の上記警報発生条件の<2>の要素が存在するだけであり、要素<1>、<3>、<4>については、読み取ることができない。

したがって、引用例2記載の発明と周知事項を組み合わせても、本願発明と引用例1記載の発明の相違点に係る本願発明の構成にはならない。

イ しかも、周知事項(2)において、アースが外れたことにより警報を発する目的は、ガソリン等の注入作業中にアースが外れると静電気による爆発等の危険があることからアースの接続を促すためであって、周知事項(1)が示す給油作業終了に際してアースを取り外すときにはこのような危険がないことから警報を発しないこととしているのも、また常識である。

これに対し、本願発明では、給油作業終了後にアースが外された際、積込量が予約積込量に未達であれば、この未達を報知するために警報を発するものである。したがって、周知事項と本願発明は、アースが外れたことを検知することの技術的意義が全く異なる。

ウ さらに、引用例2記載の発明と周知事項もそれぞれの技術的課題が異なるから、これらを組み合わせる必然性自体がない。

エ したがって、上記被告の主張は誤りである。

(3)また、被告は予備的主張として、本願発明は、引用例1記載の発明のごく一般的なタンクローリへの出荷管理装置に従来周知の爆発防止の安全防護手段の一つを設けたことを明確にしたにすぎないから、引用例1記載の発明を前提として、実際上の一般的常識的な必要性のために上記周知事項を参酌することによって当業者が容易に発明をすることができたと主張する。

しかし、本願発明は、積込量が予約積込量に未達であることを警報するものであり、従来周知の爆発防止のための安全防護手段の一つを設けたものでないことは明らかであるから、これを前提とする被告の予備的主張は失当である。

(4)そして、本願発明は、引用例1記載の発明との相違点により、タンクローリ車への油液の積込作業の終了に際してタンクローリからアースを取り外すという必ず行われる当たり前の作業を行うだけで、カードのロック装置のような特別の装置を設けることなく、積込むべき予約積込量分の油液を全て積込んでいないことを判別して作業者に対して積極的に警告するための警報を発するという格別顕著な作用効果を奏するのであるから、審決は相違点に係る本願発明の構成によって奏する作用効果を看過した点において誤っている。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3の事実は認め、同4は争う。審決の判断及び結論に誤りはない。

2  被告の主張

(1)主位的主張

原告は、審決が、引用例2に本願発明と引用例1記載の発明との相違点が記載されているという誤った判断をしたと主張する。しかし、審決は、引用例2に「予約積込量」と「実際の積込量」とを比較することが文言上記載されていると認定しているのではないし、相違点と同じことが記載されていると認定したものでもない。

引用例2には、例えばタンクローリへの給油量(出荷量)として、当初設定値(「第1の出荷量信号」、例えば4kl)を設定して給油を開始し、その後(例えば1.5kl給油した時点)に給油作業を中断し、その後、給油を再開する時に、再び当初設定値と同じ設定値(「第2出荷量信号」、例えば4kl)を再設定するようになっているシステムを前提にするとき、何らかの理由で給油を中断した後に、誤って異なる再設定(例えば2kl)を行うと、最終的な出荷量(積込量と同じ)が4klにならず、したがって出荷作業を誤るという問題が存在するとの問題認識の下で、当初設定値を給油作業中断後においても「出荷量信号保持手段」に保持し、これを再設定値と比較して、両者が異なるとき(誤って当初設定値と異なる出荷量が再設定されたとき)に、設定外れ信号が出力され、これに基づいて「警報」を発し、この警報によって作業者は設定の誤りに気付くことができ、したがって、当初設定した出荷予定量とは異なる出荷作業をしてしまうという出荷作業の誤りを未然に防止することができるということが記載されている。すなわち、引用例2には、当初設定値(再設定の段階で見れば、当初の予約値として機能するもの)と再設定値(最終的な給油量を規定するもの)との一致を、再設定時点でチェックして、再設定を誤り、そのために当初の出荷量設定値(上記の例では4Kl)に満たない出荷(積込)作業がなされてしまうことを未然に防止することが実質的に読み取られるのである。

そして、審決が引用例2を引用したのは、引用例1記載の発明においてカードをロックしてその抜き取り又は回収を不可能にすることと、上記の「警報」を発することとの技術的課題の共通性と、その変更の一般的可能性を言ったものである。

要するに、引用例2には、予定する油量を積込まず、誤った積込量のままで積込作業を終了する事態が生じたときは、その誤積込作業がなされることを回避すべく、警報を発して、作業者にそのことを直接察知させることが記載されている。他方、タンクへの給油作業中は必ずアースを接続しておくことが法規によって規定され、その実行を保証するための一つとして、アースが接続されていないときに警報を発することは従来周知の事項であり、また、アースが外れたことを検知することの技術的意義も、アースが外れたことを、このことを契機として警報を発し、あるいは給油開始を阻止し、給油を停止するための条件とすることであって、本願発明のそれと格別異なるものでもない。そして、アース離脱を報知する警報発生の条件とするについて、本願発明が特別な技術的工夫を講じたものとも認められない。したがって、本願発明と引用例1記載の発明の相違点に係る本願発明の構成は、引用例2記載の発明に基づき、上記周知事項を参酌することによって、格別の技術的な創意工夫を要することなく、当業者が容易に想到し得たことである。審決は、以上の内容を相違点の判断として述べたものであり、その判断に誤りはない。

(2)予備的主張

本願発明における「積込量が予約積込量に未達であることを確認したとき」とは、予約設定、ローディングアームの装着等々の積込作業を開始するための準備を完了してタンクへの油液注入を開始するまでの間、あるいはタンクへの油液注入中断中、ある種の油液の積込みを完了して他の油液注入を開始するまでの間等、種々の状況が想定される。他方、引用例1記載の発明を含め、従来の一般的なタンクローリへの出荷管理装置においても、積込み未完の状況下でアースが意図的又は不用意に外されることは十分にあり得ることであり、その場合にアースが接続されていないことの検知信号を受けて警報を発するようにすることは、上記周知事項を参酌すれば、爆発防止のための安全対策の一つとして当業者が適宜採用し得たことである。また、本願発明の警報及びその制御機構が、上記爆発防止のための安全装置としても実際上機能することも明らかである。

本願明細書に記載された油液の積込みが予定どおりに行われない事態の回避という観点とは異なるけれども、爆発防止のための安全防護という観点から評価するとすれば、本願発明は、引用例1記載の発明のごく一般的なタンクローリへの出荷管理装置に従来周知の爆発防止の安全防護手段の一つを設けたことを明確にしたにすぎないから、引用例1記載の発明を前提として、実際上の一般的常識的な必要性のために上記周知事項を参酌することによって当業者が容易に発明をすることができたということができる。

なお、引用例1記載の発明に上記周知事項を参酌することによって相当し得た構成では、注入停止状態においてアースが外れた場合にも警報を発するから、結果的に、この警報が積込み未完のままで誤って積込作業を終了しようとしている者(アースを外した者)に対する警報にもなることはもちろんである。また、この構成は油液注入中にアースが外れても警報を発することになる点で本願発明とは異なるものの、本願発明が油液注入中はアースが外れても警報を発しないとした点に格別顕著な技術的意義は認められないから、この点をもって実質的な相違とはいえない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

第1  請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

第2  本願発明の概要

成立に争いのない甲第2号証中の本願明細書、第3号証(昭和62年2月19日付手続補正書)及び第5号証(平成8年9月9日付手続補正書)によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成、作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。

1  本願発明は出荷装置に係り、特に複数の出荷ポイントを有する出荷ベイに対する積残しを監視するよう構成した出荷装置に関する。

従来の技術の出荷装置では、タンクローリ車が油槽所の出荷現場のステージに到着すると、出荷制御装置による油液の定量出荷が行われる。また、出荷現場ではその出荷ベイのアース装置をタンクローリ車の車体に接続し、設定装置により積込量の設定を行う。そして、上位のホストコンピューターは設定データと積込予約データとを照合し、該当する積込予約が存在したとき、その出荷ベイの各出荷ポイントに対応する出荷OK信号を出荷制御装置に出力する。出荷制御装置はその出荷ポイントの出荷OKランプを点灯させる。そこで、指定された出荷ポイントのローディングアームをタンクローリ車のハッチに挿入し、スタートスイッチの操作とともに出荷開始される。

しかるに、上記出荷装置では積残しを監視しておらず、そのためまだタンクローリ車のタンクに予約した積込量の油液が全て積込まれていないのにタンクローリ車がステージより出車してしまう場合がある。すなわち、タンクローリ車のタンクには例えば4Kl、2Kl、1Klと容量の異なる複数のハッチが設けてあり、予約積込量が6Klの場合には、4Klのハッチと2Klのハッチとに分けて出荷を行う。ところが、4Klのハッチへの出荷が終了したとき、2Klのハッチへ出荷するのを忘れてローディングアームをハッチより抜き、アース装置を外してタンクローリ車を出車させてしまうことがある。したがって、従来の出荷装置ではタンクローリ車に所定量の油液を積込む際、予約した積込量の一部を積残したまま出荷を終了させてしまうおそれがあるといった問題点がある。(本願明細書1頁15行ないし3頁10行)

2  本願発明は、上記問題点を解決した出荷装置を提供することを目的とし、本願発明の構成を採用したものである。(本願明細書3頁11ないし13行、平成8年9月9日付手続補正書2頁8ないし21行)

3  本願発明によれば、タンクローリ車が出荷ベイから出車しようとしていることをアース検出手段と積込停止検出手段とにより検出し、検出結果に基づき、タンクローリ車への積込量が予約積込量に未達であることを判別手段が判別したときにタンクローリ車に積込むべき油液が全て積込まれていないことを積極的に作業者に警告すべく警報制御手段により警報が発せられるので、タンクローリ車に積込むべき油液が全て積込まれていないのにそのまま出荷ベイから出車してしまうことを未然に防止することができる。(前記手続補正書3頁5行ないし11行)

第3  審決取消事由について

1  引用例1記載の発明と本願発明とを比較すると、本願発明は次の点において相違し、その余の点において一致していることは当事者間に争いがない。

(イ)引用例1記載の発明が、給油作業終了のために必ず行うカード取出作業が給油未完の間になされるとき、カード取出を不可能にして、これによって給油が完了していないことを作業者に察知させるのに対して、本願発明は給油作業終了のために必ず行うアース取外作業が給油未完の間に行われたとき、これを検知して警報を発して作業者に察知させるようにした点。

上記相違点(イ)は、本願発明の構成に即していえば、本願発明の「積込停止手段による積込停止とアース検出手段によるアースの非装着とを検出したときに、前記判別手段により積込量が予約積込量に未達であることを確認したときには警報を発する警報制御手段とを設けた」構成と引用例1記載の発明の構成との相違によるものと解される。

2  成立に争いのない甲第8号証(引用例2)によれば、引用例2には、

「一般に、給油所の出荷装置で、ローリ車等に定量の出荷を行なう場合には、最初に出荷量設定手段により1kl、2kl、4klのうちの何れか(例えば4kl)の設定を行ない、その後スタートスイッチを押して上記4klの給液出荷を行なうようにしている。ここで、出荷作業途中において、作業者に緊急の用事ができて出荷を一時停止したい場合には、上記出荷量設定手段を一時停止状態に切換えて出荷を停止させ、用事が済み次第出荷量設定手段を切換えて(元に戻して)上記4klを再設定し、再びスタートスイッチを押して出荷を続行するようにしている。しかるに、従来の出荷装置によれば、1.5klまで出荷したときに出荷を一時停止し、その後に4klに再設定する所を誤って1klに設定して出荷を再スタートしたとすると最終的に4klにはならず、同様に誤って2klに設定して出荷を再スタートしても最終的に4klにはならず誤出荷作業になるという欠点があった。

本考案は、上記出荷量設定手段による最初の出荷スタート時の第1の出荷量信号を出荷量信号保持手段により保持して出力させ、出荷一時停止後に第1の出荷量信号とは異なる(即ち誤った第2の出荷量信号が上記保持手段に入力されたとき、比較手段により両出荷量信号を比較して誤った設定がなされたことを報知して誤出荷作業を防止するようにし、上記欠点を除去した出荷装置を提供することを目的とする。

そのための構成は、複数の給液出荷量を択一的に設定してその出荷量信号を出力する出荷設定手段と、第1の出荷量信号が入力され、これが保持されると共に、前記第1の出荷量信号を出力する出荷量信号保持手段と、該保持手段の出力信号と保持手段へ入力信号を比較し、前記保持手段に前記第1の出荷量信号とは異なる第2の出荷量信号が入力されたとき所定信号を出力する比較手段とより構成してなるものである。」(明細書1頁17行ないし3頁14行)との記載があることが認められる。上記記載によれば、引用例2記載の発明は、最初に出荷量設定手段により設定を行った後スタートスイッチを押して給液出荷を行うが、出荷作業途中に出荷量設定手段を一時停止状態に切換えて出荷を停止させた場合には、再び出荷量設定手段を切換えて出荷量を再設定してスタートスイッチを押して出荷を続行する方式の出荷装置において、再設定した出荷量が最初に設定した出荷量と異なる値を誤って設定した場合に誤出荷が発生するという欠点があったことから、上記欠点を除去し誤出荷を報知するため、出荷スタート時に入力される第1の出荷量信号と出荷停止後に入力される第2の出荷量信号とを比較手段により比較し、第1の出荷量信号とは異なる第2の出荷量信号が入力されたとき所定信号を出力するようにしたものと認められる。

以上のとおり、引用例2記載の発明は、最初に設定された出荷量(第1の出荷信号)と再設定した出荷量(第2の出荷量信号)とを比較している。ところが、本願発明は、「前記判別手段により積込量が予約積込量に未達であることを確認したときには警報を発する警報制御手段」の構成からすれば、最初に設定された出荷量に相当する予約積込量と既に積込まれた量(既に出荷済みの量)とを比較していることは明らかである。したがって、引用例2記載の発明は、本願発明の「前記判別手段により積込量が予約積込量に未達であることを確認したときには警報を発する警報制御手段」の構成を備えていないというほかはない。すなわち、これを審決に即していえば、引用例2記載の発明には、本願発明における引用例1記載の発明との相違点である「給油未完の間に行われたとき、これを検知して警報を発して作業者に察知させる」との構成が存在しないことに帰するのである。

そうすると、給油作業終了に際してタンクローリのアース取外作業が必ず行われることが常識であり、アースの接続状態を常に電気的に監視し、給油作業中にアースが接続されていないとき警報を発してこれを報知することが従来周知であったとしても、引用例2記載の発明が「給油未完の間に行われたとき、これを検知して警報を発して察知させる」との構成を備えていない以上、相違点(イ)に係る本願発明の構成は、引用例2記載の発明に基づき、上記周知技術を参酌しても、当業者が容易に想到することができたものではないというべきである。

したがって、相違点(イ)について、「引用例2記載の発明に基づき、上記周知技術を参酌することによって当業者が格別の技術的な創意工夫を要することなく、容易に想到し得たものである」とした審決の判断は誤りというほかはない。

3  もっとも、被告は、予備的に、爆発防止のための安全防護という観点から評価するとすれば、本願発明は、引用例1記載の発明のごく一般的なタンクローリへの出荷管理装置に従来周知の爆発防止の安全防護手段の一つを設けたことを明確にしたにすぎないから、引用例1記載の発明を前提として、実際上の一般的常識的な必要性のために上記周知事項を参酌することによって当業者が容易に発明をすることができたと主張する。

しかし、本願発明と引用例1記載の発明の相違点は、「積込停止手段による積込停止とアース検出手段によるアースの非装着とを検出したときに、前記判別手段により積込量が予約積込量に未達であることを確認したときには警報を発する警報制御手段とを設けた」との構成であること前認定のとおりである。ところが、上記周知事項は、(1)給油作業終了に際してタンクローリのアース取外作業が必ず行われること、及び(2)アースの接続状態を常に電気的に監視し、給油作業中にアースが接続されていないとき警報を発してこれを報知することであって、上記「積込停止手段による積込停止の検出」及び「判別手段により積込量が予約積込量に未達であることを確認したときには警報を発する警報制御手段」の各構成を備えていないから、引用例1記載の発明を前提として、上記周知事項を参酌しても、当業者が本願発明の構成を容易に想到できたということは到底できない。これを審決に即していえば、引用例1記載の発明を前提として、上記周知事項を参酌しても、「給油未完の間に行われたとき、これを検知して警報を発して作業者に察知させる」との構成を得ることはできないというべきものである。

かえって、成立に争いのない乙第1(昭和59年特許出願公開第134197号公報)、第2号証(昭和60年特許出願公開第58395号公報)によれば、上記(2)の周知事項は、可燃油をタンクローリ車に積込んだり、タンクローリ車からガソリンスタンドのタンクへの給油する際、タンクローリ車が静電気を帯びている場合には、給油ホースを注油口に接続するときに火花放電が起こり、爆発事故が発生する危険があるため、これを防止するものであり、上記周知事項の「給油作業中」とは、実際に給油ホースを接続している時であることが認められる。したがって、上記周知事項は、誤って給油作業を終了し、給油ホースの接続を解除した場合は給油作業中ではないから、アース取外作業が行われたとしても警報を発するものではないと解される。そうすると、爆発防止の安全対策として、引用例1記載の発明に上記周知事項を参酌したとすれば、積込量が予約積込量に達しておらず給油未完であるのに、誤って(前記第2の1認定の本願明細書の記載に即していえば、例えば4Klのハッチへの出荷が終了したとき、2Klのハッチへ出荷するのを忘れて)給油作業を終了し、給油ホースの接続(ローディングアームのハッチへの挿入)を解除し、アース装置を取外した場合には警報を発しないものとなってしまい、それは本願発明とは構成も作用効果も全く異なるものというほかはない。

したがって、被告の予備的主張も失当である。

4  以上のとおり、本願発明と引用例1記載の発明は、引用例1記載の発明が、給油作業終了のために必ず行うカード取出作業が給油未完の間になされるとき、カード取出を不可能にして、これによって給油が完了していないことを作業者に察知させるのに対して、本願発明は給油作業終了のために必ず行うアース取外作業が給油未完の間に行われたとき、これを検知して警報を発して作業者に察知させるようにした点で相違するところ、本願発明は、上記構成の相違により、引用例1記載の発明と異なり、カードのロック装置のような特別の装置を設けることなく、積込むべき予約積込量分の油液を全て積込んでいないことを判別して作業者に対して積極的に警告するための警報を発するという特有の作用効果を奏するものである。したがって、審決は、相違点の判断を誤ったものであり、この誤りが、本願発明を引用例1記載の発明及び引用例2記載の発明に基づいて、当業者が上記周知事項を参酌することによって容易に発明することができたものとした審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

5  したがって、審決は、違法として取り消しを免れない。

第4  結論

よって、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日・平成10年2月26日)

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 持本健司 裁判官 山田知司)

別紙第一図面

<省略>

別紙第二図面

<省略>

<省略>

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