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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)13号 判決 1998年3月11日

大阪市中央区上本町西1丁目2番14号

原告

アドテック株式会社

代表者代表取締役

押谷昌三

訴訟代理人弁理士

池浦敏明

深谷光敏

古宮一石

東京都千代田区内神田1丁目13番7号

被告

日立化成ポリマー株式会社

代表者代表取締役

仲野康雄

訴訟代理人弁理士

八田幹雄

野上敦

主文

特許庁が、平成7年審判第25352号事件について、平成8年12月10日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「紙継ぎ用両面接着テープ」とする実用新案登録第2000300号考案(昭和60年7月5日出願、平成3年9月10日出願公告、平成5年12月22日設定登録、以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。

原告は、平成7年11月17日、被告を被請求人として、本件考案の実用新案登録を無効とする旨の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成7年審判第25352号事件として審理したうえ、平成8年12月10日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年12月24日、原告に送達された。

2  本件考案の要旨

テープの基材として、厚さが1~20μの金属箔と、5~60g/m2の紙又は不織布とを全面にわたって連続してラミネートしてなる金属箔ラミネート紙を使用することを特徴とする段ボール紙継ぎ用両面接着テープ。

3  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件考案が、その出願前に頒布された刊行物である実願昭50-55981号(実開昭51-134657号公報)のマイクロフィルム(審決甲第1号証、本訴甲第1号証、以下「引用例1」といい、そこに記載された考案を「引用例考案」という。)並びに昭和43年12月1日株式会社合成樹脂工業新聞社発行の石田修著「アルミ箔とその応用加工」(審決甲第2号証、本訴甲第2号証)、昭和53年9月15日加工技術研究会発行の荒木正義編「ラミネート加工便覧」(審決甲第3号証、本訴甲第3号証)、昭和51年10月5日株式会社パッケージング社発行の石田修著「包装用ラミネーション」(審決甲第4号証、本訴甲第4号証)、昭和58年11月30日加工技術研究会発行の荒木正義編「新ラミネート加工便覧」(審決甲第5号証、本訴甲第5号証)、昭和55年11月15日株式会社紙業タイムス社発行の紙業タイムス社編「新・紙加工便覧」(審決甲第6号証、本訴甲第6号証)、実願昭50-97847号(実開昭52-12666号公報)のマイクロフィルム(審決甲第7号証、本訴甲第7号証、以下「引用例2」という。)、昭和60年7月10日日本粘着テープ工業会発行の日本粘着テープ工業会編「粘着ハンドブック」(審決甲第8号証、本訴甲第8号証)、実願昭53-181380号(実開昭55-96189号公報)のマイクロフィルム(審決甲第9号証、本訴甲第9号証)、実願昭55-22237号(実開昭56-123845号公報)のマイクロフィルム(審決甲第10号証、本訴甲第10号証)、実願昭57-182486号(実開昭59-87196号公報)のマイクロフィルム(審決甲第11号証、本訴甲第11号証)及び実願昭53-154400号(実開昭55-70232号公報)のマイクロフィルム(審決甲第12号証、本訴甲第12号証)に記載された技術事項に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものとは認められないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本件考案の要旨の認定、請求人(原告)の当事者適格についての判断、引用例1、2及び甲第2~第6、第8~第12号証の各記載事項の認定、本件考案と引用例考案との一致点及び相違点1の各認定、同相違点についての判断並びに「請求人のその他の主張について」の判断(審決書27頁17行~28頁11行)は認める。相違点2の認定及びこれについての判断並びに本件考案の効果についての判断は争う。

審決は、引用例考案の技術事項を誤認して相違点2の認定及び本件考案の効果についての判断を誤る(取消事由1、3)とともに、相違点2についての判断を誤った(取消事由2)結果、本件考案は当業者が極めて容易に考案することができたものとは認められないとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(相違点2の認定の誤り)

審決は、「本件考案は、金属箔ラミネート紙が全面にわたって連続してラミネートしてなるものであることを規定しているのに対して、甲第1号証記載の考案(注、引用例考案)は、金属箔ラミネート紙がテープの表面に金属が附着した部分と附着しない部分が存在するものしか明らかにされていない点」(審決書16頁末行~17頁5行)を、本件考案と引用例考案との相違点2として認定したが、誤りである。

すなわち、引用例1の実用新案登録請求の範囲には、「テープ1の表面又は裏面に金属2を附着し、同テープ1の表面および裏面に粘着剤3を塗布してなる巻取原紙接続用両面粘着テープ。」(同6頁5~7行)と記載されており、この記載にテープの表面又は裏面の全面にわたり連続して金属を附着させることが含まれることは明らかであって、テープの表面又は裏面の一部に金属を附着させ、金属が附着した部分と附着しない部分とを存在させるようにするとの限定は何らなされていない。

もっとも、引用例1の考案の詳細な説明には、「金属2には鉄 アルミ等磁性又は非磁性金属の粉末又は薄片(第2図、第3図参照)を用い或はテープ1の長手方向に金属テープ2を縁部又は中央部等に配置接続させて用いることができる。」(同頁9~12行)と記載されており、具体的な実施態様を示す図面として、テープの表面に金属薄片を配置したものや、テープ1の長手方向の中央部に金属を連続して配置したものが示されているものの、テープの表面又は裏面の全面にわたり連続して金属箔をラミネートした形態のものは示されていない。

しかしながら、引用例考案は、巻取原紙の終端部と更新巻取原紙の始端部との重合部に容易に接続でき、しかも該重合部を金属検出装置によって迅速に検出できる両面粘着テープを提供することを目的とし、その解決手段として、アルミニウム箔等の金属をテープにラミネートした基材を使用することとしたものである。その作用機能に照らすと、金属が何らかの形態でテープにラミネートされていれば足り、そのラミネート形態は任意のものでよく、考案の詳細な説明又は図面に記載された形態に限定される必要はないから、最も簡明な構造である金属箔を全面にわたって連続してラミネートしたものも当然に含み得るものであり、かかる形態の基材を用いることを排除したものとは考えられない。引用例1にテープの表面の全面にわたり連続して金属を附着した実施例の記載がないのは、それが実用新案登録請求の範囲の記載そのものであり、あえて実施例として説明するまでもなかったからであるにすぎない。

したがって、引用例1には、テープの表面の全面にわたり連続して金属を附着させるものが記載又は示唆されているといえるから、「金属箔ラミネート紙がテープの表面に金属が附着した部分と附着しない部分が存在するものしか明らかにされていない」としてなした審決の上記相違点の認定は誤りである。

2  取消事由2(相違点2についての判断の誤り)

審決の上記相違点2についての判断中、「甲第4号証・・・及び甲第6号証によれば、金属箔と紙又は不織布とを全面にわたって連続してラミネートしてなる金属箔ラミネート紙は、普通のものであるといえる」(審決書18頁7~13行)こと、「甲第7号証(注、引用例2)には、・・・アルミ箔を使用したテープ、アルミ真空蒸着テープ等の金属探知機に反応する粘着テープが周知慣用のものであった旨が記載されている。・・・これは、・・・テープの全面にわたってアルミ箔がラミネートされたもの、テープの全面にわたってアルミが真空蒸着されたものといえる」(同18頁17行~19頁7行)ことは認める。

審決は、「甲第4号証及び甲第6号証は、・・・金属箔ラミネート紙を使用した両面粘着テープを示唆するものではない。」(同18頁13~16行)、「甲第7号証に周知慣用のものとして記載された、テープの全面にわたってアルミ箔がラミネートされた粘着テープは、片面粘着テープであって、ポリエステル、セロファン、ポリプロピレン等の透明な表層材にアルミ箔がラミネートされたものであると考えるのが自然である。したがって、甲第7号証は、全面にわたって連続してラミネートしてなる金属箔ラミネート紙を両面粘着テープに使用することを示唆するものではないというべきである。」(同19頁15行~20頁4行)、「甲第8号証は、・・・全面にわたって連続してラミネートしてなる金属箔ラミネート紙を両面粘着テープに使用することを示唆するものではない。」(同20頁5~9行)、「甲第9号証~第11号証に記載されたテープ類は・・・連続してラミネートしてなる金属箔ラミネート紙を両面粘着テープに使用することを示唆するものではない。」(同頁10~14行)、「甲第12号証に記載された両面粘着テープは・・・連続してラミネートしてなる金属箔ラミネート紙を両面粘着テープに使用することを示唆するものではない。」(同頁15~19行)としたうえで、「以上のとおりであるから、甲第4号証及び甲第6号証~甲第12号証の記載を以てしても、甲第1号証記載の考案において、テープの表面に金属が附着した部分と附着しない部分が存在する金属箔ラミネート紙に代えて、全面にわたって連続してラミネートしてなる金属箔ラミネート紙を使用することは、当業者がきわめて容易にできることとはいえない。」(同頁末行~21頁7行)と判断したが、誤りである。

すなわち、引用例考案も引用例2に周知慣用のものとして記載されたものも、金属検出装置に反応する粘着テープであって包装材料等の接続用等に用いられるものであり、その目的、作用効果、用途を同じくする同種の技術分野に属するものである。

そして、片面粘着テープと両面粘着テープとは、単に粘着剤層が片面にあるか、両面にあるかの違いにすぎず、それを使用する装置や操作上の必要性から適宜選択される程度のものである。また、審決が引用する甲第4、第6号証のほか、甲第8~第12号証には、紙等の基材に全面にわたり連続して金属箔をラミネートする技術が極めてありふれたものであることが示されている。

そうすると、仮に、引用例考案にテープの表面又は裏面の全面にわたり連続して金属を附着させるものが含まれていないとしても、紙等の基材に全面にわたり連続して金属箔をラミネートする周知技術を前提として、引用例考案に引用例2に周知慣用のものとして記載されたものを応用し、本件考案のような構成とすることは当業者において極めて容易になし得ることである。

3  取消事由3(本件考案の効果についての判断の誤り)

(1)  審決の本件考案の効果についての判断中、本件明細書に「一部に、両面接着テープの中央部分にアルミ箔をあらかじめ貼り合わせて巻回し、これを継ぎ用テープとすることで上記問題を解決する方法が試みられているが・・・テープの中央にアルミ箔が貼ってあるためテープの中央と端部に段差を生じて、巻巣が入りやすい上、テープの粘着性が損なわれるいわゆる風邪ひき現象の原因となるなどの欠点がある。又、製造された両面粘着テープの中に後からアルミ箔を挿入して巻回するため経済性の面でも好ましくない。」(審決書21頁9~19行)との記載があることは認める。

審決は、上記記載事項の認定に引き続いて「この記載によれば、テープの表面中央部に金属テープを附着した両面粘着テープ及びテープの表面に金属薄片を配置附着した両面粘着テープには様々な欠点が存在するのに対して、本件考案は、そのような欠点をもたないという効果を奏することが理解できる。」(同頁19行~22頁4行)とし、「本件考案は、段差や巻巣の生じない段ボール紙継ぎ用両面粘着テープが提供されるという格別の効果を奏したとして差し支えない。」(同27頁8~10行)と判断したが、誤りである。

すなわち、審決の上記判断は、その「テープの表面中央部に金属テープを附着した両面粘着テープ」が引用例1の図面第4、第5図に示された実施例を、「テープの表面に金属薄片を配置附着した両面粘着テープ」が同第2、第3図に示された実施例をそれぞれ指すものと認められるから、引用例考案が本件明細書の上記記載に係る従来例に当たるものであって、同明細書に記載された様々な欠点を有するものとしたうえで、本件考案がそのような欠点をもたないという格別の効果を奏するとしたものであると解される。

しかしながら、引用例考案にテープの表面又は裏面の全面にわたり連続して金属を附着させるものが含まれていることは上記1のとおりであるから、この点の構成をこれと同じくする本件考案の「段差や巻巣の生じない段ボール紙継ぎ用両面粘着テープが提供されるという」効果は、引用例考案においても当然に奏するものである。

また、本件明細書に記載された従来例は、粘着テープを製造した後に金属箔を附着させたものであり、金属箔の上には粘着剤層が存在しないから、テープの金属箔の存在する部分と存在しない部分とに金属箔の厚さに相当する段差が生ずることになるし、「アルミ箔の部分に粘着層がないため接着面積が少なくなり」(甲第16号証1欄20~21行)、テープの粘着性が損なわれることになるものである。これに対し、引用例考案は、テープに金属を附着させた後にその上に粘着剤を塗布するものであるから、本件明細書に記載された従来例とは構造を異にし、同明細書に記載された欠点を有するものではない。引用例1の実施例に記載された粘着テープに段差、巻巣がほとんど生じないことは、後記(2)記載の実験によっても明らかとされている。

したがって、いずれにしても、本件考案の効果は、格別顕著なものということはできない。

(2)  平成7年11月7日付原告代表者作成の「実験報告書」(審決甲第13号証、本訴甲第13号証)の記載事項等についての審決の認定(審決書22頁5行~26頁1行)は認める。

審決は、同実験結果に関し、「甲第13号証に用いられた薄葉紙は、厚さ方向に変形しやすい、きわめて特殊なものと考えるべきものである。そのため、甲第13号証の実験結果をもって、テープの表面中央部に金属テープを附着した両面粘着テープが段差が生じて巻巣が入りやすいという欠点をもっているという、本件登録実用新案明細書の前記記載を否定する技術的結論を導き出すことはできない。」(審決書26頁19行~27頁7行)とした。

しかし、同実験報告書記載の実験に係る原材料、製造工程、写真等を総合し、技術常識に基づいて検討すれば、同実験において、薄葉紙ではなく弾力性がある粘着剤層が変形するものであることは極めて容易に把握できる事柄である。審決の判断は、同実験報告書に添付した図2等の誤記をそのまま取り上げて薄葉紙が変形するものと誤認したうえでなされたものであって、誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

引用例1の実用新案登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであること、及びその考案の詳細な説明に「金属2には鉄 アルミ等磁性又は非磁性金属の粉末又は薄片(第2図、第3図参照)を用い或はテープ1の長手方向に金属テープ2を縁部又は中央部等に配置接続させて用いることができる。」との記載があることは認める。

引用例1には上記記載があるほか、その図面第2、第3図には、テープ1の表面に1辺の長さがテープ1の幅のほぼ1/7である正方形状の金属薄片を金属辺縁の1辺がテープ1の縁に来るようにテープ1の幅方向に4個等間隔で配置し、長さ方向にもほぼ同じ間隔で配置して附着した両面粘着テープの具体例が、また、図面第4、第5図には、テープ1の表面中央部に幅がテープ1の幅のほぼ2/7である金属テープを附着した具体例が示されている。

したがって、引用例1に開示されている金属2は、あくまでも粉末若しくは薄片又はテープの縁部若しくは中央部等に配置接着される金属テープであり、テープ1に対し部分的なものであって、引用例考案における金属2がテープ1の全面にわたり連続して附着されたものであることはありえない。

また、引用例考案は、巻取原紙接続用両面粘着テープというその使用目的に照らし、必ずしも金属を全面にわたり連続してラミネートする必要はなく、部分的に金属が附着されていればその目的を達成できるものである。金属を全面にわたり連続してラミネートするという技術思想は、本件考案のように、金属片が部分的にしか附着されていない粘着テープにおける巻巣及び段差の発生を防止するという技術課題を認識した場合に、その課題解決の手段として得られるものであって、そのような課題の認識がない引用例1に、テープの表面の全面にわたり連続して金属を附着させる技術思想が示唆されているとすることはできない。

したがって、審決の相違点2の認定に誤りはない。

2  取消事由2について

引用例2に記載された考案は、包装材料の接続用テープであって、光電管に反応しないようにするため透明なポリエステル等を使用する片面粘着テープとして構成されるものであり、引用例2に周知慣用のものとして記載されたものもこれと同一の使用目的を有するものであるから、金属箔を紙又は不織布にラミネートすることはありえないし、また両面粘着テープであることもありえない。

すなわち、引用例2に記載されたものは、引用例考案と、構成も使用目的も全く別異のものであって、異なる技術分野に属するものである。したがって、引用例考案に引用例2に記載されたものを応用する必然性はなく、その応用が当業者にとって極めて容易であるとすることはできない。

また、甲第4、第6号証、第8~第12号証に紙等の基材に全面にわたり連続して金属箔をラミネートする技術が極めてありふれたものであることが示されているとしても、これらの刊行物は包装用紙のラミネートに関するもので、本件考案及び引用例考案とその技術分野を異にするものであり、これと引用例考案とを結びつける必然性もない。

したがって、審決の相違点2についての判断に誤りはない。

3  取消事由3について

(1)  引用例考案がテープの全面にわたり連続して金属が附着されたものではないことは上記1のとおりであるから、審決の認定した本件考案の効果が引用例考案においても当然に奏するものであるとする原告の主張は誤りである。

また、引用例1の図面第3、第5図に示された引用例考案は、金属片の表面にも僅かながら粘着剤層があるように構成されているが、粘着性を発現するための主要な粘着剤層、すなわち金属片のない部分の粘着剤層は、目的とする粘着力を発現するのに必要十分な厚みにするのが当然であるから、引用例考案の金属片を附着した部分は、粘着剤層が金属片の厚みの分だけ薄くなって十分な粘着力がなく、その点で本件明細書に記載された従来例と実質的に同一であるといえる。

さらに、引用例1の図面第3図、第5図に示された構造のものを製造しようとすれば、比較的粘度の低い多量の揮発分を含有する粘着剤、例えば不揮発分が40%であるような粘着剤を塗布した後、金属片を載置し、さらに同じ粘着剤を塗布する必要があるところ、この上層の粘着剤が乾燥すれば、60%の揮発分が揮散して接着剤層の厚みは半減するが、金属片の厚みは不変であるから、金属片の存在しない箇所の層厚は、これが存在する箇所の層厚より薄くなり、このような粘着テープを数百枚重ねて巻き取られた粘着テープには段差が生じて巻巣が発生することになる。仮に無溶剤のホットメルタ型の粘着剤を用いる場合でも、ファウンティンダイ方式等の押出し方式で、均一の厚みで粘着剤を吐き出し、塗工せざるを得ないので、金属片の存在箇所では金属片の厚みの分だけ厚くなるから、巻き取られた粘着テープには段差が生じて巻巣が発生することに変わりはない。

そうすると、引用例考案が本件明細書に記載された従来例とは構造を異にし、同明細書に記載された欠点を有するものではないとする原告主張も誤りである。

したがって、本件考案の効果が顕著なものではないとする原告の主張は失当である。

(2)  原告は、実験報告書(甲第13号証)記載の実験において、薄葉紙ではなく弾力性がある粘着剤層が変形するものであることは極めて容易に把握できる事柄であるとして、「甲第13号証に用いられた薄葉紙は、厚さ方向に変形しやすい、きわめて特殊なものと考えるべきものである。」とした審決の判断を誤りであると主張するが、同実験報告書には、薄葉紙が変形することが明示されているのであるから、その主張は失当である。

のみならず、同実験は、引用例考案とは全く異なる構成の両面粘着テープについて行われているものである。

したがって、「甲第13号証の実験結果をもって、テープの表面中央部に金属テープを附着した両面粘着テープが段差が生じて巻巣が入りやすいという欠点をもっているという、本件登録実用新案明細書の前記記載を否定する技術的結論を導き出すことはできない。」とした審決の判断に誤りはない。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由1(相違点2の認定の誤り)について

(1)  引用例1の実用新案登録請求の範囲に「テープ1の表面又は裏面に金属2を附着し、同テープ1の表面及び裏面に粘着剤3を塗布してなる巻取原紙接続用両面粘着テープ。」(審決書6頁5~7行)との記載があることは当事者間に争いがない。

この記載によれば、引用例1の実用新案登録請求の範囲において、文言上、テープ1の表面又は裏面に金属2を附着させる態様、ことにテープ1の表面又は裏面の全面にわたり連続して金属2を附着させるか、あるいはその一部に金属2を附着させて金属非附着部分を残すかについて、何らの限定もなされていないことが明らかであるから、考案の詳細な説明又は添付図面において、実質上その限定がなされているものと認められない限り、引用例考案はその両方の態様を含むものと解すべきである。

引用例1の考案の詳細な説明に「金属2には鉄 アルミ等磁性又は非磁性金属の粉末又は薄片(第2図、第3図参照)を用い或はテープ1の長手方向に金属テープ2を縁部又は中央部等に配置接続させて用いることができる。」(審決書6頁9~12行)、「従来コルゲートマシンにおいて、巻取原紙からクラフト紙による原紙を引出し段ボールシートのライナーとなすに際し、巻取原紙が解かれてその終端部4に更新巻取原紙の始端部5を重合し、その重合部6に両面粘着テープを介在させて上記終端部4と始端部5とを接続させたものである。」(同頁15~末行)、「従来段ボールシート製造後においては上記接続部分(重合部6)の発見が困難であって・・・その重合部6が段ボールシート製品のライナーとして機械から搬出されてくるまで機械を徐行運転し、かつ製品段ボールの上記重合部6を発見するために多くの時間と労力を必要とする欠陥があったものである。」(同7頁2~8行)、「本案は上記欠陥に鑑みなされたものであって、・・・重合部6に、表面又は裏面に金属2を附着させたテープ1の両面に粘着剤3を塗布してなる両面テープaを介在させて同重合部6を容易に接続させることができるばかりでなく、機械から搬出される製品段ボールシートの上記重合部6を光電管等による金属検出装置7によって迅速に検出し得るばかりでなく、その検出のため機械を徐行運転させる必要がないから製造時間を短縮しかつ労力を節減し得て段ボールシート製造能率を向上し得る便益がある。」(同7頁10行~8頁1行)との各記載があり、添付図面に「テープ1の表面に1辺の長さがテープ1の幅のほぼ1/7である正方形状の金属薄片を金属薄片の1辺がテープ1の縁に来るようにテープ1の幅方向に4個等間隔で配置し、長さ方向にもほぼ同じ間隔で配置して附着した両面粘着テープの具体例(第2図、第3図)及び、テープ1の表面中央部に幅がテープ1の幅のほぼ2/7である金属テープを附着した両面粘着テープの具体例(第4図、第5図)」(同8頁3~11行)が示されていることは当事者間に争いがない。

上記各記載によれば、引用例1の考案の詳細な説明には、引用例考案における金属2のテープ1への附着の具体的態様として、金属粉末を附着させる態様、金属薄片を附着させる態様、テープ1の長手方向の縁部に金属テープを附着させる態様及びテープ1の長手方向の中央部に金属テープを附着させる態様の4通りが挙げられており、そのうち金属薄片をテープ1の表面に附着させる態様が図面第2、第3図に、テープ1の表面の長手方向の中央部に金属テープを附着させる態様が同第4、第5図に示されているものと認められる。

考案の詳細な説明に示された前示4通りの附着の具体的態様は、いずれもテープ1の表面又は裏面の一部に金属2(粉末、薄片又は金属テープ)を附着させて、金属非附着部分を残すものと一応いうことができる。しかしながら、考案の詳細な説明には、テープ1の表面又は裏面における金属2の附着部分の形状や附着部分の割合、すなわち、金属粉末の附着部分の範囲や粉末層の厚み、金属薄片の幅方向の個数や上下左右の薄片間の間隔、金属テープの幅等について、これを限定する何らの記載もなされていないから、図面第2~第5図に示されたものはそれぞれの態様の具体的な1例にすぎず、これらの事項は、機械から搬出される製品段ボールシートの重合部6を、光電管等による金属検出装置7によって迅速正確に検知するという引用例考案の目的に適合する限度で、適宜に設定されるものであると解することができる。

しかるところ、金属検出装置による製品段ボールシートの重合部の検知という作用が、該検出装置にテープの表面又は裏面に附着された金属が反応することによって果たされるものであること、すなわち、テープの表面又は裏面における金属非附着部分の存在はこの作用自体に何ら寄与するものではないことは技術常識ということができ、さらに引用例1を見ても、他に金属非附着部分の存在を引用例考案の必須の要件とすること、あるいはそのことを示唆する技術的事項は記載されていない。そうであれば、引用例考案における金属2のテープ1への附着の具体的態様、ことに金属薄片又は金属テープを附着させる態様において、金属2の附着部分の形状や附着部分の割合を設定するに当たり、金属非附着部分を全く存在させないように設定することが排除されているものということはできないところ、そのように設定されたものは、テープ1の表面又は裏面の全面にわたり連続して金属2を附着させる態様に他ならない。

そうすると、引用例1の考案の詳細な説明又は添付図面においても、引用例考案がテープ1の表面又は裏面の一部に金属2を附着させて、金属非附着部分を残す態様に限定されているものと認めることはできないというべきである。

(3)  如上のとおり、引用例1の考案の詳細な説明又は添付図面においても、引用例考案がテープ1の表面又は裏面の一部に金属2を附着させて、金属非附着部分を残す態様に限定されているものと認めることはできないから、引用例1に開示された引用例考案には、テープ1の表面又は裏面の全面にわたり連続して金属2を附着させる態様が含まれるものと解することができる。

したがって、引用例考案には、金属箔ラミネート紙がテープの表面に金属が附着した部分と附着しない部分が存在するものしか明らかにされていないものとし、この点を本件考案と引用例考案との相違点とした審決の認定は誤りといわなければならない。

2  取消事由3(本件考案の効果についての判断の誤り)について

本件明細書に「一部に、両面接着テープの中央部分にアルミ箔をあらかじめ貼り合わせて巻回し、これを継ぎ用テープとすることで上記問題を解決する方法が試みられているが・・・テープの中央にアルミ箔が貼ってあるためテープの中央と端部に段差を生じて、巻巣が入りやすい上、テープの粘着性が損なわれるいわゆる風邪ひき現象の原因となるなどの欠点がある。又、製造された両面粘着テープの中に後からアルミ箔を挿入して巻回するため経済性の面でも好ましくない。」(審決書21頁9~19行)との記載があることは当事者間に争いがない。

そして、この記載に依拠した審決の「テープの表面中央部に金属テープを附着した両面粘着テープ及びテープの表面に金属薄片を配置附着した両面粘着テープには様々な欠点が存在するのに対して、本件考案は、そのような欠点をもたないという効果を奏することが理解できる。」(同21頁末行~22頁4行)、「本件考案は、段差や巻巣の生じない段ボール紙継ぎ用両面粘着テープが提供されるという格別の効果を奏したとして差し支えない。」(同27頁8~10行)との判断は、引用例考案に金属箔ラミネート紙がテープの表面に金属が附着した部分と附着しない部分が存在するものしか明らかにされていないとの認定を前提としたものであることが明らかであるところ、前示1のとおり、かかる認定は誤りであって、引用例考案には、テープの表面又は裏面の全面にわたり連続して金属を附着させる態様が含まれるものであるから、そのような態様においては、引用例考案も「段差や巻巣の生じない段ボール紙継ぎ用両面粘着テープが提供されるという格別の効果」を奏するものというべきである。

すなわち、審決の認定した本件考案の効果は格別顕著なものということはできず、この点の審決の判断は誤りといわなければならない。

3  以上のとおりであるから、その余の点につき判断するまでもなく、原告の請求は理由があるので、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成7年審判第25352号

審決

大阪府大阪市中央区上本町西1-2-14

請求人 アドテック 株式会社

東京都渋谷区代々木1丁目58番10号 第一西脇ビル113号

代理人弁理士 池浦敏明

東京都渋谷区代々木1丁目58番10号 第1西脇ビル113号 池浦特許事務所

代理人弁理士 深谷光敏

東京都渋谷区代々木1-58-10 第一西脇ビル113号 池浦特許事務所

代理人弁理士 古宮一石

東京都千代田区内神田1丁目13番7号

被請求人 日立化成ポリマー 株式会社

東京都千代田区二番町11番地9 ダイアパレスニ番町

代理人弁理士 八田幹雄

東京都千代田区二番町11番地9 ダイァパレス二番町 八田国際特許事務所

代理人弁理士 野上敦

上記当事者間の登録第2000300号実用新案「紙継ぎ用両面接着テープ」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

審判費用は、請求人の負担とする。

理由

〔手続の経緯〕

本件登録第2000300号実用新案(以下、「本件考案」という)は、昭和60年7月5日に実用新案登録出願され、出願公告(実公平3-43218号公報参照)後の平成5年12月22日にその設定の登録がなされたものである。

〔本件考案の要旨〕

本件考案の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの下記にあるものと認める。

「テープの基材として、厚さが1~20μの金属箔と、5~60g/m2の紙又は不織布とを全面にわたって連続してラミネートしてなる金属箔ラミネート紙を使用することを特徴とする段ボール紙継ぎ用両面接着テープ。」

〔請求人の主張〕

請求人は次の主張をしている。

本件考案は、本件登録実用新案の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(実願昭50-55981号(実開昭51-134657号公報)の願書に添付した明細書及び図面を撮影したマイクロフイルム)、甲第2号証(石田修著「アルミ箔とその応用加工」昭和43年12月1日、株式会社合成樹脂工業新聞社発行、第3頁~第6頁)、甲第3号証(荒木正義編「ラミネート加工便覧」昭和53年9月15日、加工技術研究会社発行、}第297頁~第299頁、第301頁)、甲第4号証(石田修著「包装用ラミネーション」昭和51年10月5日、株式会社パッケージング社発行、第3頁~第10頁、第48頁、第65頁、第82頁~第83頁、第86頁~第87頁)、甲第5号証(荒木正義編「新ラミネート加工便覧」昭和58年11月30日、加工技術研究会社発行、第283頁、第285頁、第289頁、第486頁~第489頁)、甲第6号証(紙業タイムス社編「新・紙加工便覧」昭和55年11月15日、紙業タイムス社発行、第184頁、第187頁、第920頁~第922頁)、甲第7号証(実開昭52-12666号公報、実願昭50-97847号の願書に添付した明細書及び図面を撮影したマイグロフイルム)、甲第8号証(日本粘着テープ工業会社編「粘着ハンドブック」昭和60年7月10日、日本粘着テープ工業会発行、第214頁~第223頁)、甲第9号証(実開昭55-96189号公報、実願昭53-181380号の願書に添付した明細書及び図面を撮影したマイクロフイルム)、甲第10号証(実開昭56-123845号公報、実願昭55-22237号の願書に添付した明細書及び図面を撮影したマイクロフイルム)、甲第11号証(実開昭59-87196号公報、実願昭57-182486号の願書に添付した明細書及び図面を撮影したマイクロフィルム)、並びに甲第12号証(実開昭55-70232号公報、実願昭53-154400号の願書に添付した明細書及び図面を撮影したマイクロフイルム)に記載の技術事項に基づいてきわめて容易に考案をすることができたものでかるから、実用新案法第3条第2項の規定に違反して実用新案登録されたものであり、同法第37条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。

〔当審の判断〕

Ⅰ.請求人の当事者適格について:

被請求人が提出した乙第1号証(東京経済株式会社の作成に係る平成8年2月20日付けの「調査報告書」)には、アドテック株式会社(請求人)の登記簿謄本が添付されており、該謄本の目的の欄には「1.各種包装材料の販売。2.プラスチックフイルム、接着剤の販売。3.粘着テープ、シール、ラベルの販売。4.粘着テープ、シール、ラベルの自動貼機の販売。5.前各号に付帯する一切の業務。」と明記されているので、請求人は粘着テープの販売をその業務の一つとしているといえる。

又、乙第1号証によれば、請求人は、小規模ではあるが、実態のある法人であることが認あられる。

したがって、請求人は、本件登録実用新案に利害関係を有するものと認められる。

以上のとおりであるから、本件審判請求は却下しない。

Ⅱ.登録要件について:

<甲第1号証の記載事項>

甲第1号証には次の事項が記載されている。「テープ1の表面又は裏面に金属2を附着し、同テープ1の表面及び裏面に粘着剤3を塗布してなる巻取原紙接続用両面粘着テープ。」

(実用新案登録請求の範囲)

「金属2には鉄 アルミ等磁性又は非磁性金属の粉末又は薄片(第2図、第3図参照)を用い或はテープ1の長手方向に金属テープ2を縁部又は中央部等に配置接続させて用いることができる。テープ1には紙テープが用いられるものである。」

(第1頁第12行~第17行)

「従来コルゲートマシンにおいて、巻取原紙からクラフト紙による原紙を引出し段ポールシートのライナーとなすに際し、巻取原紙が解かれてその終端部4に更新巻取原紙の始端部5を重合し、その重合部6に両面粘着テープを介在させて上記終端部4と始端部5とを接続させたものである。」

(第1頁第18行~第2頁第3行)

「従来段ポールシート製造後においては上記接続部分(重合部6)の発見が困難であって原紙を人力で重合6させた後その重合部6が段ボールシート製品のライナーとして機械から搬出されてくるまで機械を除行運転し、かつ製品段ボールの上記重合部6を発見するために多くの時間と労力を必要とする欠陥があったものである。」

(第2頁第8行~第14行)

「本案は上記欠陥に鑑みなされたものであって本案は上述のように構成したので巻取原紙の終端部4と更新巻取原紙の始端部5との重合部6に、表面又は裏面に金属2を附着させたテープ1の両面に粘着剤3を塗布してなる両面テープaを介在させて同重合部6を容易に接続させることができるばかりでなく、機械から搬出される製品段ボールシートの上記重合部6を光電管等による金属検出装置7によって迅速に検出し得るばかりでなく、その検出のため機械を除行運転させる必要がないから製造時間を短縮しかつ労力を節減し得て段ボールシート製造能率を向上し得る便益がある。」

(第2頁第15行~第3頁第6行)

甲第1号証の1には更に、テープ1の表面に1辺の長さがテープ1の幅のほぼ1/7である正方形状の金属薄片を金属薄片の1辺がテープ1の縁に来るようにテープ1の幅方向に4個等間隔で配置し、長さ方向にもほぼ同じ間隔で配置して附着した両面粘着テープの具体例(第2図、第3図)及び、テープ1の表面中央部に幅がテープ1の幅のほぼ2/7である金属テープを附着した両面粘着テープの具体例(第4図、第5図)が示されている。

<甲第2号証の記載事項>

甲第2号証には、アルミ箔として、5μ~20μ程度のものが一般に使用されていること(第3頁第23行~第26行、第5頁の表2)が記載されている。

<甲第3号証の記載事項>

甲第3号証には、ラミネート用アルミ箔として、7μ程度のものが各種用途に使用されていること(第299頁の表10)、及び、ラミネート基材として、坪量25~45g/m2程度の紙が一般的に使用されていること(第301頁の表2)が記載されている。

<甲第4号証の記載事項>

甲第4号証には、ラミネート用アルミ箔として、9μ程度のものが各種用途に使用きれていること(第48頁の第26表)、及び、金属箔と紙とが同じ幅で連続して貼り合わされるラミネータ(第3頁第1図、第6頁第7図、同頁第8図、第8頁第9図、第10頁第10図、第65頁第16図、第87頁第51図)が記載されている。

<甲第5号証の記載事項>

甲第5号証には、ラミネート用アルミ箔として、6~20μ程度のものが主に使用されていること(第488頁の3.2機械の主仕様の項)が記載されている。

<甲第6号証の記載事項>

甲第6号証には、アルミ箔とのラミネート基材用の紙として、坪量25から50g/m2程度のものが一般的に使用されていること(第184頁の表1.2-1)、各材料を同じ幅で連続して貼り合わすウェット・ラミネータ(第184頁の図1.2-1)、ウェット・ラミネートは、主として紙などの多孔性の基材をベースとして貼り合わせを行う場合に使用される方式で、紙と紙、紙とアルミ箔などの一般的な用途に古くから使用されていること(第184頁第3行~第4行)、及び、各材料を同じ幅で連続して貼り合わすドライ・ラミネータ(第187頁の図1.2-10)が記載されている。

<甲第7号証の記載事項>

甲第7号証には次の事項が記載されている。「透明部分と、金属探知機に反応する部分を、交互に配置した粘着型接続テープ。」

(実用新案登録請求の範囲)

「・・・包装材料には、いろいろな性質を付与するために・・・不良個所の発生も多くなって来ている。一般には、これらの不良個所は、包装材料の加工業者で検査して、取り除き、良品のみを接続して、規定の長さに巻き上げているのが通常である。この接続の場合、粘着性を有するフイルムテープを接続用テープとして使用するのが通常であるが、この接続テープは自動包装されたのちに、容易に発見除去されやすいように、赤色又は青色等に着色したものを使うことが望ましい。」

(第1頁第16行~第2頁第8行)

「従来すでに、アルミ箔を使用したテープ、アルミ真空蒸着テープなど一般に金属を使用し、当然金属探知機に反応するテープが市販されていることは周知のことであるが、かかる従来の金属を使用したテープは、一方で切断のための光電管にも反応するので、上記の目的には不適当である。」

(第4頁第5行~第11行)

「本考案は透明部分と、金属探知機に反応する部分を交互に設置した粘着型接続テープに係るもので、金属探知機によって接続個所が容易に識別出来、しかも切断のための光電管とは反応しない様使用出来る粘着型接続テープである。」

(第4頁第12行~第16行)

「これを図面について説明すると、第1図に於て本考案の接続テープの好適一型式はポリエステル、セロファン、ポリプロピレン等の寸法安定性の良い透明な表層材(1)の裏面に、印刷、蒸などの方法により、金属を接着せしめ(2)、その内面に再びフイルム(4)を接着剤(3)にて接着せしめて、更に粘着剤(5)を塗布してなるものである。表層材の表面には、粘着剤の粘着力の強いものを要求される場合には、シリコーン等の剥離材を塗布(6)することもあり得、また内層フイルム(4)は省略することもあり得る。」

(第4頁第17行~第5頁第8行)

「そして本考案の接続テープの特徴とするところは、上記の如き金属(2)の接着を全面に行うのではなく、例えば第2図の如く透明部分に対し金属探知機に反応する金属接着部分を横縞状に設けることにある。第2図において(7)は透明部分、(8)は金属接着部分であり交互に設置されている。」(第5頁第9行~第15行)

「上記の如き本考案のテープで透明部分が光電管マークの走行線上にあてる様にして自動包装用テープを接続することにより、切断時に反応するおそれがなく、しかも包装後金属探知機で容易に発見することが出来るので包装材料加工者のロス削減、包装材料のコストダウンが実現出来、又内容物の生産包装者には、検査などの人件費の削減、不良品混入の事故防止などの効果を得るもので、非常に有用な考案である。」

(第6頁第12行~末行)

<甲第8号証の記載事項>

甲第8号証には、粘着テープのほとんどのものは長尺製品として製造され、顧客の要望する長さと幅に加工されてはじめて最終製品として顧客の手に渡ること(第214頁下から12行~下から3行)が記載されている。

<甲第9号証の記載事項>

甲第9号証には次の事項が記載されている。「ダクトなどに断熱材を適用する際に断熱材をダクトに保持させるのに使用されるアルミ箔紙テープであって、帯状の紙の上面に薄いアルミ箔を貼付け、該紙の下面に感圧接着剤を塗布し、前記アルミ箔の表面に剥離のためシリコン処理が施されているアルミ箔紙テープ。」

(実用新案登録請求の範囲)

<甲第10号証の記載事項>

甲第10号証には次の事項が記載されている。「アルミニウムもしくはアルミニウム合金の箔の一面に合成樹脂フイルムを成層し他面に感圧性粘着剤層を付着してなるものにおいて、合成樹脂フィルムとして横方向に少なくとも6倍延伸してなる高密度ポリエチレン横軸延伸フイルムを使用することを特徴とする粘着テープもしくはシート。」

(実用新案登録請求の範囲第1項)

<甲第11号証の記載事項>

甲第11号証には次の事項が記載されている。「鉄、銅、アルミ等のテープ状の金属箔の両面に接着層を形成し、一方の接着層に紙、ポリエステルフイルム、その他のテープ状の素材を貼着すると共に他方の接着層に粘着剤を塗布して、該粘着剤に剥離用素材を貼着するか、又は前記素材の表面に離型コートを施して成ることを特徴とする電磁波遮蔽テープ。」

(実用新案登録請求の範囲)

<甲第12号証の記載事項>

「少なくとも一方の表面に金属薄層を有するプラスチックフイルムを基材とし、該プラスチックフイルムの両面に形成された粘着剤層および該粘着剤層の少なくとも一方の表面に設けられた剥離材よりなることを特徴とする両面粘着テープ。」

(実用新案登録請求の範囲)

「第1図(a)において、本考案に用いる両面粘着テープ用基材1は、プラスチックフイルム2の片面に金属薄層が設けられている。プラスチックフイルム2には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セロファン等のフイルムが挙げられるが、寸法安定性、耐久性などからポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンー2、6-ナフタレート等のポリエステルフイルムが望ましい。」(第4頁第7行~第17行)

<対比・判断>

そこで先ず、本件考案と甲第1号証記載の考案とを対比する。

甲第1号証記載の考案は、金属2としてアルミニウム等の薄片を用いること、及び、テープ1として紙テープを用いること、巻取原紙は段ボール紙用のものであることを明らかにしている。

そして、テープ1と金属の薄片との附着は「ラミネート」であるとして差し支えない。

従って、両考案は、テープ基材として、金属箔と紙とをラミネートしてなる金属箔ラミネート紙を使用する段ボール紙継ぎ用両面接着テープの考案である点で一致しており、次の点で相違する。

1.本件考案は、金属箔の厚さを1~20μ、紙の単位面積当たりの重さ(坪量)を5~60g/m2と規定しているのに対して、甲第1号証記載の考案は、これらの具体的な値を明らかにしていない点、

2.本件考案は、金属箔ラミネート紙が全面にわたって連続してラミネートしてなるものであることを規定しているのに対して、甲第1号証記載の考案は、金属箔ラミネート紙がテープの表面に金属が附着した部分と附着しない部分が存在するものしか明らかにされていない点、

次に、これらの相違点について検討する。

相違点1について:

ラミネート用アルミ箔として厚さが1~20μの範囲内のもの、ラミネート用紙基材として、坪量5~60g/m2の範囲内のものを用いることは普通のことである(甲第2号証~甲第6号証)。

してみれば、甲第1号証記載の考案において、段ボール接続のため、及び金属検出反応のために当然要求される紙及び金属箔の強度等を考慮して1~20μの金属箔、及び5~60g/m2の紙を選択して用いること自体は、当業者がきわめて容易にできることである。

相違点2について:

甲第1号証には、金属箔と紙又は不織布とを全面にわたって連続してラミネートしてなる金属箔ラミネート紙を両面接着テープに使用すること、及びそれによって、テープの中央と端部に段差を生じて、巻巣が入りやすく、テープの接着性が損なわれる等の欠点が解消されることを示唆する記載はなされていない。そのため、この相違点は、本件考案と甲第1号証記載の考案との本質的な相違点であるといえる。ところで、甲第4号証(審判請求書第7頁第19行及び第14頁第20行には「甲第5号証」と記載されているが、これは明らかな誤記である。)及び甲第6号証によれば、金属箔と紙又は不織布とを全面にわたって連続してラミネートしてなる金属箔ラミネート紙は、普通のものであるといえる。しかしながら、甲第4号証及び甲第6号証は、そのような金属箔ラミネート紙を使用した両面粘着テープを示唆するものではない。

また、甲第7号証には、甲第7号証に係る実用新案登録出願の出願時において、アルミ箔を使用したテープ、アルミ真空蒸着テープ等の金属探知機に反応する粘着テープが周知慣用のものであった旨が記載されている。

そして、これは、甲第7号証に係る考案、即ち透明部分と金属探知機に反応する部分を交互に設置した粘着型接続テープと対比して記載されたものであるから、テープの全面にわたってアルミ箔がラミネートされたもの、テープの全面にわたってアルミが真空蒸着されたものといえる。

しかしながら、甲第7号証に記載された粘着テープは、表層材の表面に粘着剤層を有しておらず、シリコーン等の剥離材を塗布することもあり得るとされているところから、片面粘着テープであるといえる。また、この表層材は、ポリエステル、セロファン、ポリプロピレン等の透明なものから構成されており、紙又は不織布からは構成されていない。そのため、甲第7号証に周知慣用のものとして記載された、テープの全面にわたってアルミ箔がラミネートされた粘着テープは、片面粘着テープであって、ポリエステル、セロファン、ポリプロピレン等の透明な表層材にアルミ箔がラミネートされたものであると考えるのが自然である。

したがって、甲第7号証は、全面にわたって連続してラミネートしてなる金属箔ラミネート紙を両面粘着テープに使用することを示唆するものではないというべきである。

また、甲第8号証は、粘着テープの切断・加工について記載しているだけで、全面にわたって連続してラミネートしてなる金属箔ラミネート紙を両面粘着テープに使用することを示唆するものではない。

また、甲第9号証~甲第11号証に記載されたテープ類はいずれも片面粘着テープの範疇に属するものであり、連続してラミネートしてなる金属箔ラミネート紙を両面粘着テープに使用することを示唆するものではない。

また、甲第12号証に記載された両面粘着テープはプラスチックフイルムを基材とするものであり、連続してラミネートしてなる金属箔ラミネート紙を両面粘着テープに使用することを示唆するものではない。

以上のとおりであるから、甲第4号証及び甲第6号証~甲第12号証の記載を以てしても、甲第1号証記載の考案において、テープの表面に金属が附着した部分と附着しない部分が存在する金属箔ラミネート紙に代えて、全面にわたって連続してラミネートしてなる金属箔ラミネート紙を使用することは、当業者がきわめて容易にできることとはいえない。

次に、本件考案の効果について検討する。

本件登録実用新案明細書には、「一部に、両面接着テープの中央部分にアルミ箔をあらかじめ貼り合わせて巻回し、これを継ぎ用テープとすることで上記問題を解決する方法が試みられているが・・・テープの中央にアルミ箔が貼ってあるためテープの中央と端部に段差を生じて、巻巣が入りやすい上、テープの粘着性が損なわれるいわゆる風邪ひき現象の原因となるなどの欠点がある。又、製造された両面粘着テープの中に後からアルミ箔を挿入して巻回するため経済性の面でも好ましくない。」との記載がなされており、この記載によれば、テープの表面中央部に金属テープを附着した両面粘着テープ及びテープの表面に金属薄片を配置附着した両面粘着テープには様々な欠点が存在するのに対して、本件考案は、そのような欠点をもたないという効果を奏することが理解できる。

一方、請求人が提出した申第13号証(アドテック株式会社 押谷昌三 が作成した平成7年11月7日付けの実験報告書)には次の記載がなされている。

「〔目的〕部分アルミ箔両面接着テープに段差及び巻巣が生じるか否かを確認する。

〔試験対テープ(部分アルミ箔両面接着テープ)の作成〕(原材料)(a)部分アルミ箔ラミネート紙(両面接着テープの芯材)厚さ22μ、幅1250mmの薄葉紙(坪量14g/m2)の巻取紙と厚さ7μ、幅1000mmのアルミ箔の巻取紙とをポリエチレン樹脂を介して、アルミ箔が薄葉紙の中央になるように(両端に各々125mmのアルミ箔が添着されていないように)押出しラミネーションに貼合わせた巻取品300mを使用(b)両面離型紙 1250mm幅の300m巻使用 品名:SKセパレーター WHA-52(黄)1250mm幅 メーカー:サンエー化学工業株式会社(C)粘着剤 アクリル系二液硬化粘着剤使用 品名:オリバインBPS メーカー:東洋インキ製造株式会社

(製造工程)(第1工程)両面離型紙(b)に1230mm幅にて粘着剤(C)を両面テープ加工機械の塗工部分にて120g/m2になるように調整し塗工する。塗工後乾燥ゾーンにて100℃の熱風を吹きつけ約3分間乾燥し、塗工面粘着剤中の溶剤を揮散し、粘着剤の被膜を作製する。(約60μの粘着剤膜となる)。貼合せ部分にて部分アルミ箔ラミネート紙(a)のアルミ箔面と貼合せ、巻取る(1250mm幅にて300m加工)。(第2工程)工程紙(片面離型処理品 1250mm幅)に第1工程と同様の作業にて粘着剤を塗布、乾燥し、粘着剤の被膜を工程紙上に作製する。この粘着剤面を第1工程品の薄葉紙面に貼合せ、工程紙を剥し取りながら両面粘着テープとして巻取る(1250mm幅にて300m加工)。(第3工程)両面粘着テープ原反(第2工程品)1250mm幅を全幅にて内径3インチの紙管に巻換機にて50m(原反ロール)とする。(第4工程)第3工程で得られる原反ロールを第1図の如く切断して試験体テープ(部分アルミ箔両面接着テープ)を得た(幅50mm、長さ50m)。このテープの断面は図2のとおりであった。

〔評価方法〕(1)巻巣の有無 試験体テープ(Ⅰ)の巻巣の有無を目視により判定した。

(2)段差の有無 試験体テープ(Ⅰ)を長さ300mmに8枚にカットし、ついでカットされた8枚を剥離紙が上面となるように順次重ね合わせ、その最下面に更に剥離紙を設けたものを試験体テープ(Ⅱ)の幅方向の断面を(株)ニコン製メジャースコープMM11を用いて撮影し、その写真を観察して段差の有無を判定した。

〔考察〕(1)巻巣の有無について 試験体テープ(Ⅰ)をロール状に巻いても、巻かれたテープ間に空隙はなく、巻巣が生じていないことが目視によって確認された。(2)段差について 別紙1及び別紙2の写真から明らかなように、試験体テープ(Ⅱ)は、その表面は実質的に平坦であり、アルミ箔の貼着部分とアルミ箔の非貼着部分に段差が生じていないことが確認され、このことから試験体テープ(Ⅰ)もアルミ箔の貼着部分とそうでない部分との間に段差が生じていないことが判った。」

甲第13号証には更に、試験体テープ(Ⅰ)の断面模式図(図1及び図2、この図2には、上面の粘着剤、薄葉紙、ポリエチレン、アルミ箔、下面の粘着剤及び離型紙の厚さがそれぞれ、60μ、22μ、15μ、7μ、60μ及び100μであることが示されている。)が記載され、試験体テープ(Ⅱ)の260倍写真及び2130倍写真が貼付されている。

そこで、この甲第13号証について検討すると、甲第13号証は、使用した両面離型紙、粘着剤及び撮影機械が特定して記載され、製造工程及び評価方法が具体的に記載されているので、記載されたとおりの実験が行われ、記載されたとおりの結果が得られたものと認められる。

しかしながら、甲第13号証に記載された実験は、紙として薄葉紙を選択し、各粘着剤、薄葉紙、ポリエチレン、アルミ箔及び離型紙の厚さが前記の1組のもののみについて巻巣と段差の有無を調べたものである。

そして、甲第13号証の図2には、アルミ箔の重なっている部分の薄葉紙の厚さは、アルミ箔の重なっていない部分の薄葉紙の厚さより丁度アルミ箔の厚さの分だけ薄いこと、したがって、アルミ箔の重なっている部分の全体の厚さとアルミ箔の重なっていない部分の全体の厚さは等しいことが示されている。

ところが、粘着テープの巻回程度の圧縮力のもとで、厚さ22μの紙を厚さ15μのポリエチレンを介して厚さ7μのアルミ箔と重ね合わせたとき、アルミ箔と重ね合わされた部分で、紙が厚さ方向に変形して22-7=15μとなるものとは一般には考え難い。即ち、甲第13号証に用いられた薄葉紙は、厚さ方向に変形しやすい、きわめて特殊なものと考えるべきものである。

そのため、甲第13号証の実験結果をもって、テープの表面中央部に金属テープを附着した両面粘着テープが段差が生じて巻巣が入りやすいという欠点をもっているという、本件登録実用新案明細書の前記記載を否定する技術的結論を導き出すことはできない。

したがって、本件考案は、段差や巻巣の生じない段ボール紙継ぎ用両面粘着テープが提供されるという格別の効果を奏したとして差し支えない。

以上のとおり、本件考案は、甲第1号証~甲第12号証記載の技術事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとは認められないので、本件考案が実用新案法第3条第2項の規定に違反して実用新案登録されたものとすることはできない。

Ⅲ.請求人のその他の主張について:

請求人は、審判請求書第19頁第1行~第21頁第24行及び審判事件弁駁書第17頁第4行~第21頁第11行において、本件考案に係る昭和60年実用新案登録願第101775号の拒絶査定不服審判事件(平成1年審判第21264号)でなされた平成5年9月2日付けの登録異議の決定(甲第14号証)が違法なものである旨を主張している。

ところが、実用新案法第41条で準用する特許法第159条第3項で準用する特許法第58条第4項には、登録異議の決定には不服を申し立てることはできないことが規定されている。

したがって、請求人のこの主張は、当審の審理の対象とはなり得ないものである。

〔結び〕

よって、結論のとおり審決する。

平成8年12月10日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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