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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)137号 判決 1998年7月09日

大阪府大阪市西淀川区姫里3丁目13番2号

原告

ヤンマー産業株式会社

代表者代表取締役

志賀哲夫

訴訟代理人弁理士

岡部吉彦

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 伊佐山建志

指定代理人

神悦彦

舟木進

田中弘満

小池隆

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成5年審判第22199号事件について平成9年3月28日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成2年2月16日、名称を「シンクタンクに設けた浄水器付湯水混合水栓」とする考案につき実用新案登録出願(平成2年実用新案登録願第14964号)をしたが、平成5年9月16日拒絶査定を受けたので、同年11月25日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成5年審判第22199号事件として審理し、平成7年11月1日出願公告をしたが、登録異議の申立てがあり、平成9年3月28日、異議決定とともに、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年5月12日原告に送達された。

2  本願請求項1に記載された考案(以下「本願考案」という。)の要旨

水道管に連通した水通路と、湯沸器に連通した湯通路と、湯水混合水を放水する長寸の吐水管とを湯水混合水栓本体に一体的に備えた、可動ディスクと固定ディスクとで湯水を混合したり切換えたりするシングルレバー式湯水混合水栓をシンクタンクの天板に設け、前記湯水混合水栓本体の水通路に、前記シングルレバーに比べ短寸の、前記本体から突設したハンドル付きで、かつ、前記湯水混合水栓のシングルレバーによる吐水を閉じとして使用する浄水吐水専用の止水弁を介して、原水通路を分岐し、該原水通路を、活性炭等からなる浄水器の入口に連通し、該浄水器の出口に連通する浄水通路を前記吐水管に連通すると共に、前記水通路、湯通路、原水通路および浄水通路をそれぞれ管路で4本のみに構成して、湯水混合水栓本体に設けた通路取付部に固着して束状にまとめて下方に延設して、前記浄水器を前記シンクタンクの格納室に設置し、前記シングルレバーとハンドルの2つのみで操作することを特徴とするシンクタンクに設けた浄水器付湯水混合水栓。(別紙1参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願考案の要旨は、前項に記載のとおりである。

(2)  これに対し、異議申立人は、この出願前公知の甲第3号証(特開昭62-204818号公報。本訴における書証番号。以下、同じ。)、甲第9号証(実願昭63-21563号〔実開平1-124865号〕のマイクロフィルム)、甲第4号証(実開昭61-114170号公報)及び甲第5号証(実開昭61-126157号公報)等を証拠方法として提出し、本願考案は、上記甲号証刊行物に記載されたものから当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるので、実用新案法3条2項の規定に該当し、実用新案登録を受けることができない旨主張している。

また、本願明細書記載の効果<3>、<4>は何を意味しようとしているのか当業者には理解できず、記載不備のため、実用新案法5条の規定により、実用新案登録を受けることができない旨主張している。

(3)  甲第3号証に記載の考案

<1> 甲第3号証刊行物には、「本発明は濾過器および湯水混合水栓を備えた給水濾過装置に関するものである。」(1頁左下欄17行、18行)の記載、「図(別紙2参照)において、1は湯水混合水栓であり、冷水を供給する冷水管2と、温水を供給する温水管3が接続されている。4は湯水混合水栓1で混合された湯水を吐出する吐出管であり、蛇口5が接続されている。6は湯水混合水栓1に設けられた切換レバー取付部であり、この切換レバー取付部6に切換レバー7が設けられている。この切換レバー7を操作することにより、冷水管2から供給される冷水の量および温水管3から供給される温水の量を制御して、この湯水混合水栓1から吐出管4および蛇口5を介して吐出される湯水の温度および量を制御できる。もちろん、切換レバー7を操作することにより、湯水混合水栓1への冷水の供給を停し、かつ温水の供給を停止させることもできる。8は濾過器であり、第3図に示すような構成である。第3図において、濾過器本体9と蓋10により濾過器8の外装ケースが構成されている。濾過器本体9内には内部に濾材11が充填された濾過用カートリッジ12が収納されている。13は濾過器本体9に設けられた給水管であり、パイプ14を介して冷水管2に接続され、冷水管2内の冷水を濾過器本体9へ導く。15は給水開閉弁であり、レバー取付部16を介して設けられたレバー17を操作することにより開閉して、給水管13により導かれた冷水の濾過用カートリッジ12への供給を制御する。18は蓋10に設けられた濾過水流出管であり、吐出管4の接続部19に接続され、濾過用カートリッジ12により濾過された濾過水を吐出管4に供給する。上記構成において、レバー17の操作により給水開閉弁15を開くと、冷水管2内の冷水がパイプ14、給水管13給水開閉弁15を通って濾過用カートリッジ12内に供給され、残留塩素や、鉄錆等のにごりや、その他の臭い成分が除去され、濾過水流出管18、接続部19を通って吐出管4に導かれ、さらに蛇口5より吐出される。従って、濾過器8には温水が流入しない。一方、蛇口5から湯水を吐出させる場合には、切換レバー7を操作することにより、湯水混合水栓1に冷水管2から冷水を導くとともに温水管3から温水を導き、湯水混合水栓1にて混合し、混合された湯水は吐出管4および蛇口5を通り、吐出される。」(2頁右上欄2行ないし右下欄5行。)の記載、及び図面の第1図ないし第3図(別紙2参照)の記載から、「冷水管2と、温水管3と、湯水混合水栓1と、濾過器8とを備え、湯水混合水栓1は湯水混合水を放水する蛇口5及び湯水を混合する切換レバー7を備えるとともに、冷水管2を分岐して濾過器8の給水管13に連通し、また、レバー7によって開閉する給水開閉弁15を介して、該給水管13を濾過器8の濾過用カートリッジ12に連通し、該濾過用カートリッジ12から濾過水流出管18、吐出管4を経て蛇口5に連通し、切換レバー7とレバー17の2つのみで操作する濾過器及び湯水混合水栓を備えた給水濾過装置。」が記載されているものと認められる。

ここで、(a) 冷水管2は、通常の給水装置の場合、水道管である。(b) 第1図から明らかなように、冷水管2と温水管3とは、別々の位置から湯水混合水栓1に接続されていることから、冷水と温水の混合は湯水混合水栓1内で行われる。すなわち、湯水混合水栓1の本体内には、冷水管2に連通した冷水用の水通路と、温水管3に連通した湯通路を有する。(c) 蛇口5は、第1図ないし第2図から明らかなように、長寸であり、また、湯水混合水栓1に接続されている、すなわち、湯水混合水栓1の本体に一体に形成されている。(d) 切換レバー7は、冷水と温水を湯水混合水栓で混合する1つのレバー、すなわち、シングルレバー式であり、また、この種の湯水混合水栓は、通常、冷水のみ、あるいは温水のみの吐出を可能とするものである、すなわち、湯水を混合したり切換えたりすることができるものである。(e) 第1図ないし第2図から明らかなように、切換レバー7の寸法に比べて、レバー17の寸法は短寸である。(f) レバー17の操作により給水開閉弁15を開くと、冷水は濾過器8の濾過用カートリッジ12内に導かれる、すなわち、給水開閉弁15は冷水管2を分岐して濾過器8の濾過用カートリッジ12の入口につながる原水通路に導く、濾過水吐水のための専用の弁である。

<2> 以上の点から、甲第3号証には、以下の点が、その図面とともに記載されているものと認められる。

「水道管に連通した水通路と、温水管3に連通した湯通路と、湯水混合水を放水する長寸の蛇口5とを湯水混合水栓1の本体に一体的に備えた湯水を混合したり切換えたりするシングルレバー式の切換レバー7を有する湯水混合水栓1と、切換レバー7に比べ短寸のレバー17付きで、かつ、濾過水吐水専用の給水開閉弁15を介して、冷水管2から、濾過器8の濾過用カートリッジ12の入口である原水通路を分岐し、該濾過器8の濾過用カートリッジ12の出口に連通する濾過水流出管18を前記蛇口5に連通し、切換レバー7とレバー17の2つのみで操作する濾過器及び湯水混合水栓を備えた給水濾過装置。」

(4)  対比

そこで、本願考案と甲第3号証に記載された考案とを対比すると、甲第3号証に記載された考案の「蛇口5」、「切換レバー7」、「レバー17」、「濾過水」、「給水開閉弁15」、「濾過用カートリッジ12」、「濾過水流出管18」、「濾過器および湯水混合水栓を備えた給水濾過装置」は、それぞれ、本願考案の「吐水管」、「シングルレバー」、「ハンドル」、「浄水」、「止水弁」、「浄水器」、「浄水通路」、「浄水器付湯水混合水栓」に相当し、本願考案と甲第3号証に記載された考案とは「水道管に連通した水通路と、湯通路と、湯水混合水を放水する長寸の吐水管とを湯水混合水栓本体に一体的に備えた、湯水を混合したり切換えたりするシングルレバー式湯水混合水栓と、前記シングルレバーに比べ短寸のハンドル付きで、かつ、浄水吐水専用の止水弁を介して、原水通路を分岐し、該原水通路を、浄水器の入口に連通し、該浄水器の出口に連通する浄水通路を前記吐水管に連通した、シングルレバーとハンドルの2つのみで操作する浄水器付湯水混合水栓。」である点で一致し、次の点で相違しているものと認められる。

<1> 湯通路に連通する装置を、本願考案は、湯沸器と限定しているのに対し、甲第3号証に記載された考案では、単に温水管としているだけで、何の装置に連通しているのか特定していない点。

<2> シングルレバー式湯水混合水栓を、本願考案は、シンクタンクの天板に設けられた、可動ディスクと固定ディスクとを有するものと限定しているのに対し、甲第3号証に記載された考案では、シングルレバー式湯水混合水栓に相当する湯水混合水栓1の設置場所について特定しておらず、また、栓自体の構造も不明な点。

<3> 原水通路を分岐する位置、及び、浄水吐水専用の止水弁を操作するハンドルの取付位置を、本願考案では、湯水混合水栓本体の水通路から原水通路を分岐し、また、ハンドルを、湯水混合水栓本体から突設すると限定しているのに対し、甲第3号証に記載された考案では、原水通路は冷水管2から直接分岐させ、また、本願考案のハンドルに相当するレバー17を、湯水混合水栓1に隣接する濾過器8に設けている点。

<4> 浄水吐水専用の止水弁の使用態様を、本願考案では、湯水混合水栓のシングルレバーによる吐水を閉じとして使用するものと限定しているのに対し、甲第3号証に記載された考案では、本願考案の止水弁に相当する給水開閉弁15の使用態様について特に特定していない点。

<5> 浄水器の構成を、本願考案は、活性炭等からなると限定しているのに対し、甲第3号証に記載された考案では、本願考案の浄水器に相当する濾過用カートリッジ12の濾材について記載されていない点。

<6> 浄水器の設置位置を、本願考案では、シンクタンクの格納室と限定しているのに対し、甲第3号証に記載された考案では、本願考案の浄水器に相当する濾過用カートリッジ12を湯水混合水栓1に隣接する濾過器8内に設けている点。

<7> 湯水混合水栓につながる管路の構成として、本願考案では、水通路、湯通路、原水通路および浄水通路をそれぞれ管路で4本のみに構成して、湯水混合水栓本体に設けた通路取付部に固着して束状にまとめて下方に延設すると限定しているのに対し、甲第3号証に記載された考案では、湯水混合水栓1につながる管路である冷水管2及び温水管3がそれぞれ別々に設けられている点。

(5)  当審の判断

前記相違点について検討する。

<1> 相違点<1>(湯通路に連通する装置)について

湯水混合水栓において、湯水を湯沸器から取出すことは慣用手段であることから、甲第3号証に記載された考案において温水管3を湯沸器に連通させることに格別の困難性を有するものではない。

<2> 相違点<2>(シングルレバー式湯水混合水栓)について

シングルレバー式湯水混合水栓を、シンクタンクの天板に設けると共に、栓自体の構造を、可動ディスクと固定ディスクとを有するものとすることは、本件出願の出願前周知の技術(例えば、甲第4号証、甲第5号証、又は実願昭61-160700号(実開昭63-66676号)のマイクロフィルム参照。)であって、甲第3号証に記載されたものも、シングルレバー式湯水混合水栓であることから、該甲第3号証に記載されたシングルレバー式湯水混合水栓において、該湯水混合水栓を天板に設けると共に、水栓自体を可動ディスクと固定ディスクとを有するものとすることに格別の困難性を有するものとは認められない。

<3> 相違点<3>(原水通路を分岐する位置等)について

浄水及び湯水を併用する水栓において、湯水を混合する水栓本体に直接浄水用のハンドルを突設するとともに、水栓本体の水通路に、浄水器への入口に連通する原水通路を分岐して設けることは本件出願の出願前周知の技術である(例えば、甲第7号証(実公昭51-26354号公報)、及び甲第8号証(実公昭55-12631号公報)参照。)ことから、甲第3号証に記載された湯水混合水栓において、本願考案の浄水器に相当する濾過用カートリッジ12の入口に連通する原水通路を湯水混合水栓1の本体内に設けると共に、本願考案のハンドルに相当するレバー17を、湯水混合水栓1の本体から突設したものとすることは、当業者にとって、格別の困難性を有するものとは認められない。

<4> 相違点<4>(浄水吐水専用の止水弁の使用態様)について

甲第3号証に記載された給水濾過装置においては、本願考案の浄水吐水専用の止水弁に相当する給水開閉弁15は、湯水混合水栓1の切換レバー7による吐水を閉じてから使用するべき旨の限定はない。しかしながら、「レバー17の操作により給水開閉弁15を開くと、冷水管2内の冷水がパイプ14、給水管13給水開閉弁15を通って濾過用カートリッジ12内に供給され、残留塩素や、鉄錆等のにごりや、その他の臭い成分が除去され、濾過水流出管18、接続部19を通って吐出管4に導かれ、さらに蛇口5より吐出される。」(2頁左下欄12行ないし18行。)の記載から、甲第3号証に記載された給水濾過装置は、給水開閉弁15の操作により蛇口5から濾過水が吐出されるものであって、切換レバー7の操作に関係しないことからして、給水開閉弁15は、湯水混合水栓1の切換レバー7による水栓を閉じとして使用可能なものである。してみると、浄水吐水専用の止水弁を、湯水混合水栓のシングルレバーによる吐水を閉じとして使用すると限定することに、格別の困難性は認められない。

<5> 相違点<5>(浄水器の構成)について

一般に、浄水器において、活性炭を用いることは慣用手段であることから、甲第3号証に記載されたものにおいて、本願考案の浄水器に相当する濾過用カートリッジ12の濾材に活性炭を用いることは、当業者にとって格別の困難性を有するものとは認められない。

<6> 相違点<6>(浄水器の設置位置)について

浄水器をシンクタンクの格納室に設置することは、本件出願の出願前周知の技術(例えば、甲第9号証、甲第10号証(実公昭51-7981号公報)参照。)であることから、甲第3号証に記載されたものにおいても、本願考案の浄水器に相当する濾過用カートリッジ12をシンクタンクの格納室に設置することに格別の困難性を有するものとは認められない。

<7> 相違点<7>(湯水混合水栓につながる管路の構成)について

湯水混合水栓に管路を連結する場合、管路を束状にまとめ、湯水混合水栓本体の下方に延設することは、本件出願の出願前周知の技術(例えば、甲第9号証、実願昭62-186770号(実開平1-93259号)のマイクロフィルム参照。)であり、また、管路を湯水混合水栓本体に連結するためには、通路取付部に管路を固着しなければならないことから、甲第3号証に記載されたものにおいて、その湯水混合水栓1の本体の下方に、管路を束状にまとめて通路取付部に固着させるようにして延設することに、格別の困難性を有するものとは認められない。そして、本願考案の浄水器に相当する濾過用カートリッジ12をシンクタンクの格納室内に設けた場合には、この管路は、水通路、湯通路、原水通路、浄水通路の4本のみになることは、構成上当然の構成と認められる。

<8> また、甲第3号証に記載された湯水混合水栓1がシングルレバー式であってケレップ型止水栓であるとは考えられないことから、蛇口5の吐水に水圧異常上昇が発生するものとは認められず、結局、本願考案の効果は、甲第3号証に記載された考案、及び上記周知技術が本来有する効果の総和に過ぎないものであって、本願考案の構成による格別顕著なものがあるとは認められない。

(6)  むすび

以上のとおりであって、本願考案は、その出願前に日本国内において頒布された甲第3号証に記載された考案に上記周知技術を適用することにより、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるので、実用新案法3条2項の規定により、実用新案登録を受けることができない。

4  審決の認否

審決の理由の要点(1)、(2)は認める。同(3)のうち、<1>は認め、<2>は争う。同(4)は認める。同(5)のうち、<1>、<4>、<5>は認め、その余は争う。同(6)は争う。

5  審決の取消事由

審決は、進歩性の判断を誤った違法があるから、取り消されるべきである。

(1)  甲第3号証に記載の考案との技術思想の相違

審決は、甲第3号証に基づいて進歩性の判断をしているが、本願考案と甲第3号証に記載の考案とは、課題及び効果を異にし、したがって、基礎とする技術的思想を異にしているため、甲第3号証に記載の考案にいかなる周知技術を持ち込んでも、本願考案がきわめて容易に考案することができたと解することはできない。

すなわち、本願考案の課題は、活性炭等からなる浄水器では、その活性炭が塩素などを吸着するものであるが、この吸着性能は温度の上昇と共に低下すること及び蛇口に接続されたホース等の閉塞によって熱湯が浄水器へ直行して逆流し、浄水器を損傷するおそれがあることという2点である。他方、甲第3号証に記載の考案の課題は、従来の蛇口直結型浄水器(濾過器)では、食器洗い作業の邪魔になること及び蛇口直結浄水器では、蛇口を通る温水が浄水器に入ると、浄水器内の活性炭に付着していた物質が吐き出されてしまうという欠点があることという2点である。したがって、本願考案は「活性炭の温度上昇による吸着性能低下」を問題としているのに対し、甲第3号証に記載の考案は「活性炭に湯を通すと、吸着している物質を吐き出すこと」を問題としているものである。

(2)  相違点<2>(シングルレバー式湯水混合水栓)についての判断の誤り

審決の相違点<2>についての判断は誤りである。

甲第3号証に記載のシングルレバー式湯水混合水栓は、「壁付きシングルレバー湯水混合水栓」であり、本願考案は、「台付きシングルレバー湯水混合水栓」であるところ、壁付きタイプのものは、その浄水器を別置きにするか、湯水混合栓と一体化するかであって、わざわざシンクタンクの天板に穴をあけ、原水・浄水の管を通して浄水器をシンクタンクの格納室に設置することはしないが、台付きタイプのものは、浄水器を格納室に設置すると都合がよいから、壁付きタイプのものを天板に設ける台付きタイプのものにすることは容易でない。

また、甲第3号証に記載のものの水栓自体の構造も不明である。

(3)  相違点<3>(原水通路を分岐する位置等)についての判断の誤り

審決の相違点<3>についての判断は誤りである。

<1> 水栓本体に直接浄水用ハンドルを突設することは、本願出願前公知であるとしても、周知であったとはいえない。審決は、甲第7及び第8号証をその根拠として挙げているが、公知例はこの2件以外になく、この2件は本願考案のような一般に普及されているシングルレバー式湯水混合水栓とは似ても似つかぬもので、かつ、商品化困難なもので、この2件をもって水栓本体に直接浄水用ハンドルを突設する技術が周知技術とは認められない。

また、濾過器本体9に設けているレバー17を水栓本体に移転させると、この濾過器本体9はその後どうなるのか、その不足を補う技術は容易でない。その上、湯水混合水栓1自体の構造も不明であるのに、レバー17をどのように突設させるのかは容易でない。

(4)  相違点<6>(浄水器の設置位置)についての判断の誤り

審決の相違点<6>についての判断は誤りである。

<1> 審決は、浄水器をシンクタンクの格納室に設置することは周知であるとして甲第9号証を挙げているが、この甲第9号証に記載のものは、熱湯程度の温度上昇によっても性能劣化を来さない「イオン交換剤」からなる軟水器であるから、本願考案のように熱湯の影響を避けるために格納室に設けたものとは、目的が相違する。

また、甲第3号証の濾過用カートリッジ12は、レバー17付きであるので、これを格納室に設けるとレバーの操作ができなくなってしまう。

<2> 被告は、本願考案の浄水器は活性炭を必須要件とするものでなく、ひいては、引例の浄水器を格納室に設置することは、きわめて容易であると主張するが、実用新案登録請求の範囲第1項に「活性炭等からなる浄水器」とあり、本願考案の目的の1つが活性炭の吸着性能の低下を解決することにあり、本願考案の効果の1つが熱の影響を受けないので、活性炭からなる浄水器の品質を低下させないようにすることであることから、「活性炭」を離れて、本願考案の浄水器はあり得ない。

<3> また、被告は、活性炭からなる浄水器を用いた場合、可能な限り吸着性能が低下しないように温水からの熱を避けるようにすることは、当業者が適宜実施できる程度のことであると主張するが、一般に活性炭の吸着性能が温度の上昇と共に低下することは周知であるが、混合水栓付属の浄水器において浄水器の活性炭の吸着が温水の熱により性能低下するということは周知ではない。

(5)  相違点<7>(湯水混合水栓につながる管路の構成)についての判断の誤り

審決の相違点<7>についての判断は誤りである。

甲第3号証の湯水混合水栓1は壁付きタイプであって、これに連結する冷却管2や温水管3の管路を束状にまとめることはできず、しかも、束状にまとまった4本の通路にはならない。

(6)  効果についての判断の誤り

審決は、「本願考案の効果は、甲第3号証に記載された考案、及び上記周知技術が本来有する効果の総和に過ぎないものであって、本願考案の構成による格別顕著なものがあるとは認められない」と判断するが、誤りである。

<1> 本願明細書記載の<2>の効果、すなわち、(a)2レバー式として簡素化して場所をとらず、(b)シンクタンクの近傍の見映えがよく、(c)シンプル化できて操作が楽となり、(d)浄水器に対する操作ミスを防ぐとの作用効果において、特に「シンクタンクの近傍の見映えがよい」点は、きわめてシンプル化し、むしろ最もシンプル化した特段のものを奏している。

<2> 吐水管にホース等を接続しそのホースの先端を絞ることにより吐水圧が異常に高くなれば、甲第3号証に記載の考案ではそのまま濾過器8に作用するし、更に、甲第8号証に記載のものでは、熱湯程度の熱による性能劣化を考慮しないイオン交換剤を用いる水処理器が図示されているが、ケレップ弁類似の弁であるため異常水圧は高くなって水処理器に作用するものであるのに対し、本願考案においては、本願明細書記載の<4>の効果、すなわち、(a)浄水器へ高圧の原水、又は汚水が逆流するおそれはなく、(b)ケレップ型止水栓に比べ、浄水器の損傷を可及的に回避できるという特段の効果を奏する。

甲第3号証の湯水混合水栓はケレップ型止水栓であるとは考えられないというのは、誤りである。甲第19号証(「東陶通信10」16頁ないし21頁)には、ケレップ類似の弁使用のシングルレバー式湯水混合水栓が記載されている。そして、甲第18号証の1によれば、ケレップ弁とデイスク弁とは、その同一給水圧力および給湯圧力を、例えば1kgf/cm2にすると、ケレップ弁の吐水量は約21.5l/min、デイスク弁の吐水量は約12l/minとなることから、同一断面の吐水管では、当然、吐水量の多い方が吐水圧は高くなる。したがって、ケレップ弁の方がデイスク弁より吐水圧は高くなる。

<3> また、本願考案の残りの効果である、<1>湯水混合水栓を天板に設け、浄水器をシンクタンクの下方の格納室に設けたので、湯水混合水栓から熱湯を長時間吐水しても、活性炭からなる浄水器はこの熱の影響を全く受けない、ひいては、浄水器の品質を低下したり、破損することはない、<3>湯水混合水栓は可動および固定デイスクをもつシングルレバー式混合水栓であるので吐水管の吐水に水圧異常上昇がなく、しかも、浄水器はシンクタンクの格納室に設けてあるので、浄水器へ高温の原水が逆流することはなく、ひいては浄水器を損傷することがない、<5>混合水栓の近傍にスペース的ゆとりを残すことができ、殊に、浄水器不使用時に好都合となる、<6>各管路を束状にまとめているので、見映えがよく、湯水混合水栓のシンクタンクへの取付工事が容易となる、との効果も、甲第3号証に記載の考案の効果と周知技術の効果との総和でないことは、明白である。

第3  原告の主張に対する認否及び反論

1  認否

請求の原因1ないし3は認め、同5は争う。審決の認定、判断は正当であり、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由(1)(甲第3号証との技術思想の相違)について

甲第3号証に基づき進歩性の判断をすることにつき、何ら不当な点はない。

(2)  取消事由(2)(相違点<2>(シングルレバー式湯水混合水栓)についての判断)について

壁付きシングルレバー湯水混合水栓と台付きシングルレバー湯水混合水栓は、細部に相違点があるものの、シングルレバーによって湯と水を混合する栓を具備する点で基本的な技術思想が一致していて、どちらにするかは、当業者にとっては、使用者の好み、用途、設置場所等によって技術思想の具体的適用に伴う設計変更の範疇にあるものである。

さらに、どちらのタイプにおいても、ディスク水栓で構成することも、適宜行われていることであるから、結局、甲第3号証に記載の考案の水栓自体の構造が不明だとしても、甲第3号証に記載の考案を台付きタイプにする点に格別の技術的困難性はない。

(3)  取消事由(3)(相違点<3>(原水通路を分岐する位置等)についての判断)について

<1> 甲第7号証は昭和49年、甲第8号証は昭和52年にそれぞれ公開され、本願の出願日である平成2年2月16日の時点で公開から既に10数年が経過していること、甲第3及び第6ないし第9号証からも分かるように、湯水混合水栓に浄水器を取り付けることは、本願出願時点で、既に広く行われていたこと、甲第11号証のように、浄水用ハンドルに限らず、湯水混合水栓に直接他の水栓用のハンドルを突設することが行われていたこと等を考慮すれば、水栓本体に直接浄水用ハンドルを突設することの周知性は明らかである。

また、甲第7及び第8号証が商品化困難であるとする合理的理由はない。

<2> そうすると、甲第3号証の湯水混合水栓1自体の構造が不明だとしても、甲第3号証に記載の考案のようなシングルレバー式湯水混合水栓において、ディスク水栓は従来周知であり、このような構造のものに浄水用ハンドルを設けることに技術的困難性があるという合理的な理由もないことから、水栓本体に直接浄水用ハンドルを突設するとの周知技術に基づき、甲第3号証のレバー17を湯水混合水栓1の本体に突設するよう構成することは、当業者であればきわめて容易になし得ることである。

(4)  取消事由(4)(相違点<6>(浄水器の設置位置)についての判断)について

<1> 本願の実用新案登録請求の範囲第1項には、「活性炭等からなる浄水器」と記載され、考案の詳細な説明には、「浄水器Dは通常のものであって、各種の活性炭または気泡セラミックなどによる濾過式のものや、紫外線照射による殺菌式のものや、更にはイオン交換樹脂による軟水式のものや、ポリエチレン多孔中空糸膜などの微細フィルタ式のものなどいずれのものでもよい。」(甲第2号証の1第5欄28行ないし32行)と記載されているから、活性炭は浄水作用をするものの1つの例示であって、本願考案は、必ずしも活性炭のように吸着現象によって浄化し、熱の影響を受ける浄化器に限定されるものではない。

したがって、原告の主張は、本願考案の実用新案登録請求の範囲の記載と整合性がとれていないものである。

<2> また、活性炭からなる浄化器の吸着作用が発熱反応であって、浄化器が加熱されると吸着性能が低下すること自体従来周知のことであるので、活性炭からなる浄化器を用いた場合、可能な限り吸着性能が低下しないように温水からの熱を避けるようにすることは、当業者が適宜実施できる程度のことである。

甲第9号証は、審決が浄水器をシンクタンクの格納室に設置することの周知例として挙げたものであるが、当該周知例で浄水器がイオン交換剤からなるという構成は必須のものではないから、甲第9号証の浄水器を活性炭等からなるもので構成することは、当業者であれば、きわめて容易に想到し得ることである。

<3> 「レバー17」の配置については、当該「レバー17」が水路を開閉する「レバー」であることから、手元での操作性を優先すれば、当然浄水器をシンクタンクの格納室に設置するとき、浄水器とともに移動する必然性はないことは、当業者にとって容易に予測できることであるので、レバー17の操作ができなくなるとの原告の主張に合理的な理由はない。

(5)  取消事由(5)(相違点<7>(湯水混合水栓につながる管路の構成)についての判断)について

前記(2)で述べたとおり、壁付きタイプと台付きタイプとの間では、ごく普通に技術の転用が行われている。また、上記(4)で述べたとおり、甲第3号証に記載の考案において濾過用カートリッジ12をシンクタンクの格納室内に設けることに格別の困難性はない。その場合に必要な管路が温水管、給水管、冷水管、濾過水流出管の4本であること、及び湯水混合水栓に管路を連結する場合、管路を束にまとめ、湯水混合水栓本体の下方に延設することは周知の技術であることから、甲第3号証に記載の考案において、本願考案の浄水器に相当する濾過用カートリッジ12をシンクタンクの格納室内に設けた場合には、その湯水混合水栓1の本体の下方に、上記4本の管路を束状にまとめて通路取付部に固着させるようにして延設することは、当業者であれば当然なし得ることである。

(6)  取消事由(6)(効果の点)について

<1> 原告の主張する(a)2レバー式として簡素化して場所をとらず、(b)シンクタンクの近傍の見映えがよく、(c)シンプル化できて操作が楽となり、(d)浄水器に対する操作ミスを防ぐとの効果は、それぞれ、湯水混合水栓をシンクタンクの天板に設けてシングルレバーにした(上記(a)及び(b)に対応)、シングルレバーに比べ短寸のハンドル付き止水弁を湯水混合水栓本体に設けた(上記(c)及び(d)に対応)という構成により得られるものであるが、これらの構成は、甲第3号証に記載の考案及び周知技術が既に有するものであるから、上記効果は、結局、甲第3号証に記載の考案及び周知技術の有する効果の総和にすぎない。

<2> 原告の主張する(a)浄水器へ高圧の原水、または汚水が逆流するおそれはないとの効果は、周知技術である甲第9号証も有するものである。

仮にケレップ弁がディスク弁に比べて異常水圧を示すとしても、ディスク水栓が周知であり、甲第3号証に記載の考案にディスク水栓を用いることに困難性がない以上、ケレップ弁ではなくディスク水栓を用いて異常水圧を回避することは、当業者が必要に応じてなし得ることである。審決は、この点をふまえて、甲第3号証の蛇口の吐水に水圧異常上昇が発生するものとは認められないと判断したものである。

<3> 湯水混合水栓を天板に設け、浄水器をシンクタンクの下方の格納室に設けたので、湯水混合水栓から熱湯を長時間吐水しても、活性炭からなる浄水器はこの熱の影響を全く受けず、ひいては、浄水器の品質を低下したり、破損することはないとの本願明細書<1>記載の効果は、本願実用新案登録請求の範囲の記載に基づかない主張であり、また、仮に浄水器が「活性炭からなる浄水器」を意味するとしても、その構成は、当業者であれば適宜採用し得るものであり、それによる効果も、当然予測可能なものである。

湯水混合水栓は可動及び固定デイスクをもつシングルレバー式混合水栓であるので吐水管の吐水に水圧異常上昇がなく、しかも、浄水器はシンクタンクの格納室に設けてあるので、浄水器へ高温の原水が逆流することはなく、ひいては浄水器を損傷することがないとの本願明細書<3>記載の効果は、同様の構成を有する周知例である甲第4、第5号証も同様に奏するものである。

混合水栓の近傍にスペース的ゆとりを残すことができ、殊に、浄水器不使用時に好都合となるとの本願明細書<5>記載の効果は、湯水混合水栓をシングルレバー式としたこと、及び浄水器をシンクタンクの格納室に設けた構成に基づくものであるから、上記それぞれの効果は、これらの構成を有する甲第4、第5及び甲第9、第10号証がそれぞれ奏する効果の総和にすぎない。

各管路を束状にまとめているので、見映えがよく、湯水混合水栓のシンクタンクへの取付工事が容易となるとの本願明細書<6>記載の効果は、同様の構成を有する周知技術である甲第9及び第11号証により得られる効果にすぎない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであり、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願考案の要旨)及び同3(審決の理由の要点の記載)については、当事者間に争いがない。

そして、審決の理由の要点(3)<1>の事実(甲第3号証の記載事項の認定)は当事者間に争いがなく、この事実によれば、同(3)<2>の事実が認められる。同(4)(一致点、相違点の認定)は当事者間に争いがなく、同(5)(相違点についての判断)のうち、<1>、<4>、<5>は当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  取消事由(1)(甲第3号証に記載の考案との技術思想の相違)について

<1>  甲第2号証の1、2によれば、本願明細書には、[従来の技術とその課題]として、「従来の湯水混合水栓においては、浄水器を回流させて浄水とし、当該湯水混合水栓で再び吐水させることは困難とされている。その一つの理由に、従来、浄水器といえば、先ず活性炭を用いて塩素などを吸着するものであるが、この吸着性能は、いう迄もなく吸着現象が発熱反応であるので、温度の上昇と共に低下することとなり、湯水混合水栓と浄水器とを結合させることは好ましくない、と考えられていた。したがって、実公昭51-26354公報で提示されているような浄水器付湯水混合水栓では、湯および水を別々の止水栓によって操作して混合水を作る湯水混合水栓本体に、浄水器を直接、載置したものであるから、熱湯によりもろに浄水器が加熱される、という問題があった。殊に、かかる浄水器付湯水混合水栓では、その蛇口にホース等を接続して使用することも多いが、かかる場合、ホース等の閉塞によって熱湯が、浄水器へ直行して逆流し、浄水器を破損するおそれがある、という問題があった。」(甲第2号証の1第3欄2行ないし19行)、[課題を解決するための手段]として、「そこで本考案は、これらの従来の問題を解決するために案出されたもので(ある。)」(同3欄21行、22行)と記載されていることが認められる。

しかしながら、本願実用新案登録請求の範囲第1項には、「活性炭等からなる浄水器」」と記載され、さらに、甲第2号証の1によれば、本願明細書の考案の詳細な説明には「浄水器Dは通常のものであって、各種の活性炭または気泡セラミックなどによる濾過式のものや、紫外線照射による殺菌式のものや、更にはイオン交換樹脂による軟水式のものや、ポリエチレン多孔中空糸膜などの微細フィルタ式のものなどいずれのものでもよい。」(5欄28行ないし32行)と記載されていることが認められ、この記載によれば、本願考案における浄水器は、活性炭を使用した浄水器も、活性炭を使用しない浄水器もいずれも含むものと解さざるを得ない。これに反する原告の主張は採用することができない。

<2>(a)  次に、甲第3号証によれば、甲第3号証には、[産業上の利用分野]として、「本発明は濾過器および湯水混合水栓を備えた給水濾過装置に関するものである。」(1頁左下欄17行、18行)、[従来の技術]として、「近年、濾過器と湯水混合水栓を一体化した給水濾過装置が使用されるようになっている。以下、この種の従来の給水濾過装置について第4図を参照して説明する。この第4図において、41は蛇口であり、この蛇口41の先端に水路切換部42が設けられ、さらに、この水路切換部42に濾過器43が設けられている。上記構成において、水路切換部42の切換つまみ44を操作することによって、蛇口41を通る水が、水路切換部42を通過して給水が行われたり、水路切換部42から濾過器43を経由することによって濾過され、再び水路切換部42に戻ってから給水されたりする。なお、蛇口41内の水は湯水混合器(図示せず)を経由したものである。」(1頁左下欄20行ないし右下欄14行)、[発明が解決しようとする問題点]として、「しかし、上記従来の給水濾過装置は、蛇口41の先端に水路切換部42や濾過器43が配設されているため、食器洗浄等の台所作業の邪魔となり流し台シンクのスペースを有効に活用することができなかった。また、蛇口41を通る温水が濾過器43に入ると、濾過器43内の活性炭に付着していた物質が吐き出されてしまうという欠点があった。」(1頁右下欄16行ないし2頁左上欄3行)、[問題点を解決するための手段]として、「上記問題点を解決するため、本発明の給水濾過装置は、冷水管と濾過器を給水管により接続するとともに、濾過器と湯水混合水栓の吐出管を濾過水流出管により接続してなるものである。」(2頁左上欄5行ないし8行)と記載されていることが認められる(一部は、当事者間に争いがない。)。

この記載によれば、甲第3号証には、濾過器と湯水混合水栓を一体化した給水濾過装置において、食器洗浄の台所作業の邪魔となり流し台シンクのスペースを有効活用できず、湯水が濾過器内に入ると濾過器内の活性炭に付着していた物質が吐き出されるという課題を解決するために、冷水管と濾過器を給水管により接続するとともに、濾過器と湯水混合水栓の吐出管を濾過水流出管により接続してなる構成が記載されているものである。

(b)  そうすると、本願考案の課題は、本願考案が活性炭からなる浄水器についてのものであるとしても、基本的な点において甲第3号証に記載された事項と共通しており、審決が、甲第3号証に基づき本願考案の進歩性の判断をした点に何ら誤りはない。これに反する原告の主張は、本願考案と甲第3号証に記載の考案との相違点についてまで甲第3号証にその示唆を求めようとするものであり、採用することができない。

<3>  したがって、原告主張の取消事由(1)は理由がない。

(2)  取消事由(2)(相違点<2>(シングルレバー式湯水混合水栓)についての判断の誤り)について

<1>  甲第4号証によれば、実開昭61-114170号公報には、水流入用弁孔22と湯流入用弁孔23を有するシングルレバー湯水混合水栓において、栓体の構造を固定デイスクに相当する固定弁板と、可動デイスクに相当する可動弁板とし、かつ、当該水栓を天板に設けたものが記載されていることが認められる。

甲第5号証によれば、実開昭61-126157号公報には、甲第4号証に記載のものとほぼ同様のシングルレバー湯水混合水栓を天板に設置し、栓体の構造を固定弁板と可動弁板よりなるものが記載されていることが認められる。

甲第6号証の2によれば、実開昭63-66676号公報には、水流路2、2aと湯流路3、3aとを有する立型湯水混合水栓をシンクタンクの天板Cに設け、栓体の構造を、固定デイスクに相当する固定板弁16と可動デイスクに相当する可動板弁17よりなるものが記載されていることが認められる。

上記に認定の事実によれば、シングルレバー湯水混合水栓をシンクタンクの天板に設けるとともに、栓体の構造を可動デイスクと固定デイスクとを有するものとすることは、本願出願前周知の技術であると認められる。

<2>  そうすると、甲第3号証のシングルレバー混合水栓が「壁付き」のものであったとしても、これをシンクタンクの天板に設けることは、適宜選択し得るものであり、また、甲第3号証のシングルレバー式湯水混合水栓の栓体の構造を可動デイスクと固定デイスクを有する構造とすることも、当業者がきわめて容易に想到し得る程度のことにすぎないと認められる。これに反する原告の主張は採用することができない。

<3>  したがって、審決の相違点<2>についての判断に誤りはなく、原告主張の取消事由(2)は理由がない。

(3)  取消事由(3)(相違点<3>(原水通路を分岐する位置等)についての判断の誤り)について

<1>  甲第7号証によれば、実公昭51-26354号公報(昭和49年1月30日出願公開)には、「本考案は上記の欠点を除却するために一本の管に湯沸用栓及び浄水栓並びに原水栓を共同配備せしめて、原水及び温水並びに浄化水を一個の蛇口で兼用に使用自在に連通せしめて構成したことを特徴とする水栓金具に関するものである。」(2欄2行ないし6行)、「浄化ハンドル20を回し浄水栓23を緩めると原水路4と浄水栓室6が連通され、浄水栓室6に連絡された浄水器26内に流入して浄化水となって本流路3に流れ蛇口15より流水する。」(3欄3行ないし7行)と記載されていることが認められ、さらに、第1図ないし第4図の記載を参照すれば、甲第7号証には、浄水と温水及び原水とを併用する水栓金具において、水栓金具に直接浄化ハンドルを突設するとともに、水栓金具内の原水路4に浄水器26に連通する浄水栓室6を分岐して設けることが記載されていることが認められる。

また、甲第8号証によれば、実公昭55-12631号公報(昭和52年5月19日出願公開)には、「この考案は3つの弁装置を備えたレバー水栓に関するもので、その目的とする処は操作レバーによる3つの弁の適当な切替操作によって、水道水を直接排出することも、湯水を排出することも、或いは湯水混合水を排出することも更には軟水器、濾過器等の水処理器を通した処理水を排出することもできるようにした確実なる弁作動を行なうレバー水栓を構造簡単にして比較的安価に提供しようとするものである。」(1欄34行ないし2欄5行)、「第3図の弁閉塞状態において、中間部の操作レバー28を上方に回動し、その弁21を開放させると、導水口5から入ってきた水は連通孔5bを介して弁室3内に流入し、該室に連通する接続口9から出て、水処理器7を通り、反対側の接続口8から弁室2内に流入し、該弁室に連通する排出口10から排水される。従つて中間部の操作レバー28だけを上げた時には、例えば水処理器7がイオン交換樹脂を使った軟水器の場合には軟水を得ることができるし、濾過器の場合には濾過水を得ることができる。」(4欄13行ないし23行)と記載されていることが認められ、さらに、第1図ないし第4図を参照すれば、軟水や濾過水などの処理水と湯水及び水道水を併用するレバー水栓において、水栓に直接操作レバー28を突設するとともに、レバー28の開弁操作によりレバー水栓の導水口5から入ってきた水を水処理器7に連通する接続口9へと分岐する通路を設けることが記載されていることが認められる。

上記に認定の事実によれば、浄水及び湯水を併用する水栓において、湯水を混合する水栓本体に直接浄水用のハンドルを突設するとともに、水栓本体の水通路に浄水器への入口に連通する原水通路を分岐して設けることは、本願出願前周知の技術であると認められる。

原告は、甲第7及び第8号証の2件しか示されず、商品化困難であること等を理由に、水栓本体に直接浄水用のハンドルを突設すること等が周知技術であることを争うが、甲第7号証は昭和49年に、甲第8号証は昭和52年に出願公開されたものであり、これらが商品化困難と認めるに足りる証拠もないことからすると、この点の原告の主張は採用することができない。

<2>  そうすると、甲第3号証に記載された湯水混合水栓において、濾過用カートリッジ12の入口に連通する原水通路を湯水混合水栓1の本体内の水通路から分岐させるとともに、レバー17を湯水混合水栓1の本体から突設したものとすることは、当業者にとって格別の困難性を有するものではないと認められる。

原告は、濾過器本体9に設けているレバー17を水栓本体に移転させると、この濾過器本体9はその後どうなるのか、その不足を補う技術は容易でない等と主張するが、後記(4)に説示のとおり、レバー17は、冷水管内の水を濾過器へ導く通路に設けた給水開閉弁を操作するために設けられたものであるから、水の通路のいずれかの位置に設ければレバーの機能を果たせるものであり、レバー17を水栓本体に移転させることにより格別その不足を補う技術が容易でない等の事情も認められないから、この点の原告の主張は採用することができない。

<3>  したがって、審決の相違点<3>についての判断に誤りはなく、原告主張の取消事由(3)は理由がない。

(4)  取消事由(4)(相違点<6>(浄水器の設置位置)についての判断の誤り)について

<1>  甲第9号証によれば、実開平1-124865号公報には、「この考案が解決しようとする問題点は、混合水栓とシャワーヘッドとの間に設けて給湯水の都度、この給湯水を通過させる可搬容器内にイオン交換剤(例えばイオン交換樹脂)を籠容器を介して内装することにより、可搬容器内を通過する硬水を軟水に変えることである。」(3頁6行ないし11行)、「洗面化粧台又は流し台の天板にワンレバー式縦型の混合水栓とシャワーヘッドを有するヘッドホルダーとを取付け、該ヘッドホルダーに出入り自在でシャワーヘッドに連通する可撓管の他端を天板の下方に配した可搬容器の上部に分離自在に連結し、」(3頁14行ないし19行)と記載されていることが認められ、この記載及び同号証の図面第1図、第2図、第4図によれば、同号証には、浄水器に相当するイオン交換剤を内装した可搬容器を、洗面化粧台又は流し台の天板の下方、すなわちシンクタンクの格納室に設置することが記載されていることが認められる。

また、甲第10号証によれば、実公昭51-7981号公報には、「本考案は浄水器を庫内に設けた流し台に関するもので、浄水器が異常な水圧によって損傷するのを未然に防止するようにしたものである。一般に流し台庫内に設けられる浄水器は、軽量化をはかることから、その外筐は薄片なプラスチック材料で形成されており、ある程度の水圧に耐えうるように設計されている。しかしながら異常な水圧においては対処することができず高水圧による外筐の破損を招いていた。」(1欄21行ないし29行)と記載されていることが認められ、この記載及び同号証の図面第2図によれば、同号証には、流し台、すなわちシンクタンクの庫内に浄水器を設けることが記載されていることが認められる。

上記に認定の事実によれば、浄水器をシンクタンクの格納室に設置することは、本願出願前周知の事項であると認められる。

そうすると、甲第3号証に記載された考案において、カートリッジ12をシンクタンクの格納室に設置することに格別の困難性はないと認められる。

<2>  原告は、甲第9号証に記載のものは、本願考案のような「活性炭等からなる浄水器」ではないから、本願考案のように熱湯の影響を避けるために格納室に設けたものとは目的が相違する旨主張するが、前記(1)に説示のとおり、本願考案は活性炭を使用する浄水器のものも、活性炭を使用しない浄水器のものも含むものであるから、本願考案にいう浄水器が活性炭を使用するものに限定されることを前提とするこの点の原告の主張は、採用することができない。

仮に、本願考案の要旨にいう「活性炭等からなる浄水器」が活性炭を使用することを要件とするものであるとしても、一般に活性炭の吸着性能が温度の上昇とともに低下することが本願出願前周知であることは当事者間に争いがなく、甲第9号証に記載のものが「イオン交換剤」を用いたものであれ、浄水器をシンクタンクの格納室へ設置するとの技術的事項を開示しているのであるから、甲第3号証に記載された考案において、カートリッジ12をシンクタンクの格納室に設置することに格別の困難性はないと認められる。

<3>  また、原告は、甲第3号証の濾過用カートリッジ12は、レバー17付きであるので、これを格納室に設けるとレバーの操作ができなくなってしまう旨主張する。しかしながら、甲第3号証に「13は濾過器本体9に設けられた給水管であり、パイプ14を介して冷水管2に接続され、冷水管2内の冷水を濾過器本体9へ導く。15は給水開閉弁であり、レバー取付部16を介して設けられたレバー17を操作することにより開閉して、給水管13により導かれた冷水の濾過用カートリッジ12への供給を制御する。」(2頁左下欄1行ないし8行)と記載されていることは前記のとおり当事者間に争いがなく、この記載によれば、レバー17は、冷水管内の水を濾過器へ導く通路に設けた給水開閉弁を操作するために設けられたものであるから、水の通路のいずれかの位置に設ければレバーの機能を果たせるものであり、濾過器を格納室に設置したからといって、レバーも濾過器とともに格納室へ移設しなければならない必然性はないものと認められるから、この点の原告の主張は採用することができない。

<4>  したがって、原告主張の取消事由(4)は理由がない。

(5)  取消事由(5)(相違点<7>(湯水混合水栓につながる管路の構成)についての判断の誤り)について

<1>  甲第9号証によれば、実開平1-124865号公報には、「ワンレバー式縦型の混合水栓13は、前記天板Aの取付孔14にナット16を介して装置し、下部には前記第2給水管7及び給水源にバルブ17を経て通じる第1給水管7a並びに給湯源にバルブ17aを経て通じる給湯管18の各端を接続し、レバー19の操作によって湯、水及び混合水を供給するように連通している。」(5頁14行ないし20行)と記載されていることが認められ、さらに、第2図及び第3図を参照すれば、甲第9号証の多目的給水装置において、混合水栓を管路に連結させる場合、第2給水管7、第1給水管7a及び給湯管18を束状にまとめ、混合水栓13に延設した点が記載されているものと認められる。

また、甲第11号証によれば、実開平1-93259号公報には、「洗面台、流し台等のデツキ面上に固設され該デッキ面下に配した給水源と継がる給水栓本体」(1頁左欄2行、3行)につき、湯水混合給水栓本体6を管路に連結させる場合、給水管5、給湯管5’、シャワー送水管38を束状にまとめ、給水栓本体6に延設した点が記載されていることが認められる(第2図及び第3図)。

上記に認定の事実によれば、湯水混合水栓に管路を連結する場合、管路を束状にまとめ、湯水混合水栓本体の下方に延設することは本願出願前周知のことであると認められる。そして、その際に通路取付部に管路を固着しなければならないことは明らかであるから、甲第3号証に記載の考案において、その湯水混合水栓1の本体の下方に、管路を束状にまとめて通路取付部に固着させるようにして延設することは、上記周知技術をかんがみれば、格別の困難性はないと認められる。そして、管路を水通路、湯通路、原水通路、浄水通路の4本に構成することは、浄水器を格納室に設けることに伴う当然の構成と認められる。

<2>  原告は、甲第3号証の湯水混合水栓は壁付きタイプであって、管路を束状にまとめることはできない旨主張するが、前記(2)に説示のとおり、甲第3号証のシングルレバー混合水栓をシンクタンクの天板に設けることは、適宜選択し得ることであるから、この点の原告の主張は採用することができない。

<3>  したがって、審決の相違点<7>についての判断に誤りはなく、原告主張の取消事由(5)は理由がない。

(6)  取消事由(6)(効果についての判断の誤り)について

<1>効果<2>について

本願明細書記載の効果<2>は、「湯水混合水栓をシンクタンクの天板に設けてシングルレバーに構成し、また、前記シングルレバーに比べ短寸のハンドル付止水弁を湯水混合水栓本体に設けた」(甲第2号証の2第1頁25行ないし27行)ことにより奏するものであるところ、湯水混合水栓をシンクタンクの天板に付けてシングルレバーに構成することは、前記(2)のとおり、本願出願前周知であり、ハンドル付き止水弁を湯水混合水栓に設けることは、前記(3)のとおり、本願出願前周知であり、しかもその際にハンドル付き止水弁を短寸とする程度のことはハンドル付き止水栓の使い易さを考慮して当業者が適宜なし得る程度の設計事項にすぎないと認められるから、上記効果<2>は甲第3号証及び上記周知技術から予測しうる程度ものにすぎないと認められる。

<2>  効果<4>について

本願明細書記載の効果<4>のうち、(a)浄水器へ高圧の原水、または汚水が逆流するおそれはないとの効果の点については、水の異常な圧力の上昇がその配管系を迅速に伝わることは、水撃作用として一般に良く知られている事項であり、本願考案のように格納室に浄水器を設置したからといって緩和されるものとは考えられず、また、温水の逆流防止という効果は、浄水器への到達に猶予を与えるという程度のものであり、この程度の効果は、前記(4)のとおり、甲第3号証に記載の考案に甲第9及び第10号証記載の周知技術を適用することによって当業者が予測しうる程度のものにすぎないと認められる。

(b)ケレップ型止水栓に比べ、浄水器の損傷を可及的に回避できるとの点は、甲第18号証の1における混合水栓の吐出流量-給水圧力及び給湯圧力特性図(140頁下)を見ても、同一吐出流量で比較した場合に、デイスク弁を用いたとされるシングルレバー型No<1>、<3>よりも、ケレップ弁を用いたとされる2バルブ型No<6>、<7>の方が圧力が低くなるように描かれていることが認められ、しかも吐水圧の高低は吐水管の径の大小にも関係することは明らかであるから、ディスク弁よりケレップ弁の方が異常水圧が作用する前の吐水圧が高いとの前提自体、認められず、原告主張のこの点の効果は、本件考案の構成に基づかないものと認められる。

<3>  その他の明細書記載の効果について

(a) 効果<1>について

仮に本願考案の要旨にいう「活性炭等からなる浄水器」が活性炭を使用する浄水器を意味するとしても、「湯水混合水栓から熱湯を長時間吐水しても、活性炭等からなる浄水器はこの熱の影響を全く受けない」との効果<1>は、甲第3号証に記載の考案に、甲第9及び第10号証に記載された浄水器を格納室に設置するという周知技術を適用することにより当然予想される効果にすぎないと認められる。

(b) 効果<3>について

デイスク式シングルレバー式混合水栓であるので、吐水に水圧異常上昇がないことが必ずしも認められないことは、前記<2>に説示のとおりであり、原水の逆流防止という効果が予測可能なものであることも、前記<2>に説示のとおりである。

(c) 効果<5>について

湯水混合水栓の近傍にスペース的ゆとりを残すことができるとの効果は、シングルレバー式とし、浄水器をシンクタンクの格納器に設置したことにより当然予測される効果にすぎないと認められる。

(d) 効果<6>について

見映えが良く、湯水混合水栓のシンクタンクへの取付工事が容易となるとの効果は、各管路を束状にまとめること等によって当然予測される効果にすぎないと認められる。

<4>  したがって、審決の効果の点についての判断に誤りはなく、原告主張の取消事由(6)は理由がない。

3  よって、原告の本訴請求は理由がないからを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する(平成10年6月25日口頭弁論終結)。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙1

<省略>

別紙2

<省略>

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