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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)139号 判決 1998年4月22日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  当事者の求めた判決

一  原告

特許庁が、昭和六一年審判第二四三三七号事件について、平成九年四月二二日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨

第二  当事者間に争いのない事実

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五九年二月三日、別紙のとおり、「ジャイアンツ」の片仮名文字を横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)につき、指定商品を平成三年政令第二九九号による改正前の商標法施行令別表(以下「施行令別表」という。)による第二九類「清涼飲料、その他本類に属する商品」として商標登録出願をした(商願昭五九-九四四九号)が、昭和六一年九月二五日に拒絶査定を受けたので、同年一二月一五日、これに対する不服の審判請求をした。

特許庁は、同請求を昭和六一年審判第二四三三七号事件として審理したうえ、平成九年四月二二日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年五月一五日、原告に送達された。

二  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、わが国においては、本願出願前から、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語(文字)は、申立人(注、補助参加人)が創立したプロ野球チームである東京読売巨人軍を指称するものとして一般に広く知られており、本願商標はこれと同一又は類似するものであって、出願人(注、原告)が本願商標をその指定商品に使用した場合には、申立人との関係で商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるので、本願商標は、商標法四条一項一五号に該当し、登録することができないとした。

第三  原告主張の審決取消事由の要点

審決は、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものとして著名であると誤認し、さらに、補助参加人ないし東京読売巨人軍が、本願出願前から「GIANTS」、「ジャイアンツ」の文字を付した菓子、食品類を販売してきたと誤認したのみならず、補助参加人ないし東京読売巨人軍以外の第三者が、本願出願前から、補助参加人又は東京読売巨人軍の使用許諾を得ずに、「ジャイアンツ」又はこれに類似した標章を付した菓子、食品類を販売してきた事実を看過した結果、本願商標が商標法四条一項一五号に該当するとの誤った判断をしたものであるから、違法として取り消されなければならない。

一  「ジャイアンツ」の著名性の誤認

審決は、「我が国においては、『GIANTS』、『ジャイアンツ』といえば、直ちに『東京読売巨人軍』を想起する程に、『ジャイアンツ』の語(文字)は『東京読売巨人軍』を指称するものとして、本願商標の出願前から一般に広く知られていたものと見るのが相当である」(審決書四頁一二~一七行)と認定したが、誤りである。

(1) 審決は、上記認定の根拠として、「ジャイアンツ写真集」の選手のユニフォームの表示、読売興業株式会社・東京読売巨人軍発行のパンフレット「ジャイアンツ商品一覧表 昭和五四年一〇月現在」、一九八二年七月二三日読売広告社発行のカタログ「ジャイアンツキャラクター商品」、ミスター・ジャイアンツ会制作の昭和五八年三月三一日現在のカタログ「CHARACTER GOODS CATALOGUE」、東京読売巨人軍発行の「’79ジャイアンツのしおり」を挙げ、また、シーズン中、東京読売巨人軍の一三〇試合の多くが、いわゆるゴールデンタイムにテレビ放映され、長年にわたり、毎日のように新聞、雑誌、テレビ、ラジオ等を通じて報道されてきたことを顕著な事実として挙げている。

しかしながら、上記「ジャイアンツ写真集」の選手のユニフォームに「GIANTS」と表示されていることは認めるが、同写真集では東京読売巨人軍を指称するものとして「巨人」、「読売ジャイアンツ」との語が用いられ、「GIANTS」、「ジャイアンツ」との語が用いられていないから、東京読売巨人軍が「GIANTS」、「ジャイアンツ」と指称されていたものと即断することはできない。上記「ジャイアンツ商品一覧表 昭和五四年一〇月現在」にしても、本文(ご案内)では、東京読売巨人軍を指称するものとして「巨人軍」との語が用いられている。

また、東京読売巨人軍の試合がゴールデンタイムにテレビ放映されることと、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものとして著名であることとは直接の関係がない。被告・補助参加人は、その放送中、視聴者は、東京読売巨人軍選手のユニフォームの「GIANTS」の文字を視認し、また、アナウンサーや解説者から発せられる「ジャイアンツ」の語を聞くから、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものであることを視覚及び聴覚によって認識すると主張するが、視聴者がテレビ放映されている試合中の選手のユニフォームの文字を一々確認することはないし、アナウンサーや解説者が「ジャイアンツ」と呼称したとしても、それはその試合における一方のチームを指称しているにすぎない。

セントラル野球連盟の「選手権試合アグリーメント一九七七年」では、東京読売巨人軍(正式名称)の球団名は「読売ジャイアンツ」とされ、同連盟規約中では「巨人」と略記されている。

また、新聞紙上においても、ほとんどの記事で東京読売巨人軍は「巨人」と表示されている。

そうすると、東京読売巨人軍の一般的な略称は「巨人」であって、「ジャイアンツ」ではなく、また、東京読売巨人軍の球団名である「読売ジャイアンツ」が略されて「ジャイアンツ」と称されることがあるとしても、それが著名な略称といえる程度にまでは至っていないというべきである。

(2) また、審決は、「昭和五九年三月三一日付読売新聞の夕刊に掲載された同社が行った『プロ野球への国民の関心度』についての世論調査(全国の有権者の中から層化多段無作為抽出法で選んだ三〇〇〇人を対象に、調査員による個別訪問面接法で実施)によれば、プロ野球に『非常に興味を持っている』人と『多少は興味を持っている』人を合わせると調査対象の六〇・三%の人がプロ野球に関心を持っており、その内の三九・九%の人が巨人を好きなチームとして挙げていたことを認めることができる。この記事から敷衍すれば、ジャイアンツファンは、昭和五九年当時において有権者層に限ってみても全国で二〇〇〇万人近くいたことになる。もっとも、この調査は、一新聞社の調査であるから、あくまでも参考資料の一つに過ぎないものではあるが、いずれにしても、これに未成年者層も加えれば、ジャイアンツファンは本願商標出願当時においても極めて多かったことは容易に推測し得るところである。」(審決書三頁一三行~四頁一一行)と認定説示し、これを、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものとして著名であることの有力な根拠としている。

しかしながら、上記昭和五九年三月三一日付読売新聞の夕刊記事は、特許庁審判体が職権で証拠調べをしたものであるが、原告に対する証拠調べの結果の通知及び意見を申し立てる機会の付与を経ていないから、その証拠調べの手続は、商標法五六条一項、特許法一五〇条五項に反する違法がある。

もっとも、上記世論調査につき、審決には「あくまでも参考資料の一つに過ぎない」との記載があるが、審決のした「ジャイアンツファンは本願商標出願当時においても極めて多かった」との推測、ひいては「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものとして著名であるとの認定が、上記世論調査の結果を唯一の資料としてなされていることは、審決の文脈上明らかであって、審決の上記世論調査の取扱いは単なる参考資料の域を逸脱しているものというべきである。

のみならず、上記世論調査の実施日は本願出願後の昭和五九年二月二五日、同月二六日である。また、上記世論調査の実施をしたのは東京読売巨人軍の親会社である読売新聞社であるから、その結果をにわかに信用することはできないし、三九・九%の者が巨人を好きなチームとして挙げたことと、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものとして著名であることとは何ら関係がない。

したがって、いずれにしても、上記世論調査の結果を、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものとして著名であることの認定に用いることはできない。

(3) 審決は、「ジャイアンツ」の語が、米国大リーグ野球チームのサンフランシスコ・ジャイアンツや、アメリカンフットボールチームの二ューヨーク・ジャイアンツ等のスポーツチームの名としても用いられ、これらのチーム名はいずれも「ジャイアンツ」と略称されていることにつき、「『ジャイアンツ』と略称される外国のスポーツチームが存在するからといって、先に認定した『東京読売巨人軍』を指称する『ジャイアンツ』『GIANTS』の我が国における著名性が直ちに左右される訳ではなく」(審決書六頁一八行~七頁二行)と説示する。

しかしながら、情報が瞬時に世界を駆けめぐる今日において、「ジャイアンツ」の語は、サンフランシスコ・ジャイアンツや、ニューヨーク・ジャイアンツを指称する場合もあり、我が国においてすら東京読売巨人軍のみを指称するとはいえない。

今日、日本国民の米国大リーグヘの関心は増大しているところ、新聞紙上においては、東京読売巨人軍がほとんどの記事で「巨人」と表示されているのに対し、サンフランシスコ・ジャイアンツは一般的に「ジャイアンツ」と表示されている。

また、二ューヨーク・ジャイアンツについては、新聞紙上で一般的に「ジャイアンツ」と表示されているほか、本願出願後である昭和六一年一二月二七日に登録出願された「New York Giants」、「GIANTS」の各欧文字を含む構成の商標が既に登録されており、本願出願当時において、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものとして著名であったとはいえないことを示している。

この点につき、被告・補助参加人は、該商標がその一体的な構成から、明らかにアメリカンフットボールの二ューヨーク・ジャイアンツを表したものと理解、認識されるから、構成中に「GIANTS」の文字を含むからといって、東京読売巨人軍との間で商品の出所の混同を生ずるおそれはないと主張するが、該商標中にアメリカンフットボールリーグとの表示はないし、また「GIANTS」の文字部分とヘルメットの図とが観念的結び付きを有するものとして常に一体的に認識されるとは限らず、その文字部分が独立して看者の注意を引き、識別商標としての機能を果たすものと認められるから、該商標からは「ジャイアンツ」の称呼も生ずるものと認められる。そうすると、該商標が登録されたことは、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものとして著名であることが否定されたということに他ならない。

したがって、「ジャイアンツ」と略称される外国のスポーツチームが存在することは、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものとして著名であるとの認定に重要な影響を及ぼすものであり、審決の説示は誤りというべきである。

二  菓子、食品類販売に関する事実の誤認及び看過

審決は、「《証拠略》によれば、申立人(東京読売巨人軍を含む。以下同じ。)は、野球興業を行ってきたばかりでなく、現実に、本願出願前から、『GIANTS』、『ジャイアンツ』の文字を付した野球用具をはじめとして、衣料品、文房具類、玩具、各種雑貨・生活用品から菓子、食品類に至るまで多種多様な商品を自ら或いは使用権者を通じて、……販売してきたことを認めることができる」(審決書五頁一~一〇行)と認定したところ、このうち、補助参加人ないし東京読売巨人軍が、本願出願前から、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の文字を付した野球用具、衣料品、文房具類、玩具、各種雑貨、生活用品を販売してきた事実は認めるが、菓子、食品類を本願出願前から販売してきたとの認定は誤りであるのみならず、該認定は、補助参加人ないし東京読売巨人軍以外の第三者が、本願出願前から、補助参加人又は東京読売巨人軍の使用許諾を得ずに、「ジャイアンツ」又はこれに類似した標章を付した菓子、食品類を販売してきた事実を看過するものである。

(1) 前掲「ジャイアンツ商品一覧表 昭和五四年一〇月現在」、「ジャイアンツキャラクター商品」、「CHARACTER GOODS CATALOGUE」、「’79ジャイアンツのしおり」のいずれを見ても、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の文字が菓子、食品類に使用されていることは記載されておらず、上記各証拠によって、補助参加人ないし東京読売巨人軍が本願出願前から「GIANTS」、「ジャイアンツ」の文字を付した菓子、食品類を販売してきたとの事実を認定することはできない。

この点につき、被告・補助参加人は、新たに、補助参加人が昭和五一年から現在に至るまで、大塚製薬株式会社に対し、オロナミンCドリンクのテレビコマーシャルに東京読売巨人軍所属の選手を使用することを許諾し、そのテレビコマーシャルには、東京読売巨人軍所属の複数の選手が「GIANTS」の文字が表示されたユニフォームを着用して登場したとし、本願出願当時においてオロナミンCドリンクは「GIANTS」の語と関連付けられており、原告が、本願商標をその指定商品に使用した場合には、取引者、需要者に、それが補助参加人又はこれと何らかの関係のある者の業務に係る商品であるかのように認識させ、商品の出所について混同が生ずると主張する。

しかし、審判でなされなかったこのような主張及びその立証のための証拠を提出することは、審決取消訴訟においては許されないから、本件において、かかる事実を認定して出所の混同を認めることはできない。のみならず、被告・補助参加人の主張によっても、補助参加人は、大塚製薬株式会社に対し、オロナミンCドリンクに関し「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語(文字)の使用を許諾したものではなく、したがって、補助参加人ないし東京読売巨人軍が、自ら又は使用権者を通じて、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の文字を付した菓子、食品類を販売した場合には当たるものではない。

したがって、該主張事実は、いずれにせよ、審決の認定の誤りを治癒させるものではない。

(2) 本願出願前から、次のとおり、補助参加人ないし東京読売巨人軍以外の第三者が、その使用許諾を得ずに、「ジャイアンツ」又はこれに類似した標章を付した菓子、食品類を販売してきた。

<1> サンビシ株式会社は、昭和三九年、昭和四〇年及び昭和四三年に「ヂャイアント」の片仮名文字と「GIANT」の欧文字とからなる、又は「ジャイアンツ」の片仮名文字からなる、若しくは同片仮名文字を含む構成の各商標の登録出願をし、昭和四〇年頃から現在まで、醤油に「ジャイアンツ」の標章を付して販売している。

<2> サッポロビール株式会社は、メルシャン株式会社(旧商号三楽株式会社、三楽オーシャン株式会社、以下旧商号当時も含めて「メルシャン株式会社」という。)の有する「GIANTS」の欧文字と「ジャイアンツ」の片仮名文字とからなる登録第五五六八〇六号商標(昭和三四年六月二〇日出願、昭和三五年九月二八日設定登録)及び「GIANT」の欧文字からなる登録第七四〇七八一号商標(昭和四一年三月九日出願、昭和四二年四月二八日設定登録)につき、使用権の設定を受け、昭和三九年頃から現在まで、ビールに「ジャイアンツ」の標章を付して販売している。

<3> メルシャン株式会社は上記<2>の各登録商標を有するほか、「GIANT」の欧文字と「ジャイアント」の片仮名文字からなる、又は「ジャイアント」の片仮名文字からなる各商標の登録出願をし、本願出願前から現在まで、焼酎に「ジャイアント」の標章を付して販売している。

<4> 江崎グリコ株式会社は、「GIANT」の欧文字を含む構成の各商標の登録出願をし、本願出願前から現在までアイスクリーム、菓子に「GIANT」の標章を付して販売している。

(3) このように、本願出願前から、補助参加人ないし東京読売巨人軍以外の第三者が、「ジャイアンツ」又はこれに類似した標章を付した菓子、食品類を販売しており、現在もその販売を継続しているのであるから、これらの商品について出所の混同は、本願出願時においても、その後においても、生じていないものと判断することができる。すなわち、食品類の販売は、東京読売巨人軍の野球興業という役務の提供やスポーツ関連商品の販売と関連性がなく、このような商品に「ジャイアンツ」の商標が使用された場合には、ビッグで買い得な商品という印象を取引者・需要者に与えるにすぎない。本願に係る指定商品は、上記各商品と同様食品類に包含されるものであり、かつ、上記のとおり、本願出願当時、補助参加人ないし東京読売巨人軍は、清涼飲料を含む飲料類だけでなく食品一般についても、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の文字を付した商品を販売していなかったのであるから、本願商標の使用が、商品の出所につき混同を生じさせるおそれがあるということはできない。

この点につき、被告・補助参加人は、サンビシ株式会社及びサッポロビール株式会社の使用例が「サンビシ」又は「SAPPORO/サッポロ」の語とともに「ジャイアンツ」の語を使用していて、その単独使用ではないとし、また、メルシャン株式会社及び江崎グリコ株式会社の使用する「ジャイアント」、「GIANT」の語が「ジャイアンツ」、「GIANTS」の語とは別異のもので容易に区別することができるから、このような使用事実があるからといって、東京読売巨人軍以外の者が「ジャイアンツ」の語を使用しても商品の出所に混同を生ずるおそれがないものとすることはできないと主張する。

しかし、サンビシ株式会社の使用例には、「10リットルジャイアンツ」のように「ジャイアンツ」の語が「サンビシ」の語とともに使用されていない例もあり、サッポロビール株式会社の使用例も「GIANT」、「ジャイアンツ」の文字が他の文字と区別されるように特別大きな文字で表示されているから、いずれも単独使用であることは明らかであるのみならず、これらの使用例が出所の混同を生じないのは、上記のとおり、食品類の販売が東京読売巨人軍の野球興業やスポーツ関連商品の販売と関連性がないからであって、それが単独使用されるからではない。

また、「ジャイアント」、「GIANT」の語が「ジャイアンツ」、「GIANTS」の語と類似することは明らかである。

第四  被告・補助参加人の反論の要点

審決の認定・判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。

一  取消事由一 (「ジャイアンツ」の著名性の誤認)について

(1) 原告は、東京読売巨人軍の一般的な略称は「巨人」であって、「ジャイアンツ」ではないと主張する。

しかしながら、「巨人」又は「巨人軍」の語も東京読売巨人軍を指称するものであるが、そのことと、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものとして著名であることとは、矛盾なく両立するものであり、もとより、審決は、「巨人」又は「巨人軍」の語が東京読売巨人軍を指称するものであることを否定したものでもないし、「ジャイアンツ」の呼称が東京読売巨人軍の唯一の著名な略称であるものと認定したものでもない。

したがって、出版物、新聞記事等において、東京読売巨人軍を指称するものとして、「GIANTS」又は「ジャイアンツ」との表示と、「巨人」又は「巨人軍」との表示のいずれが多いかを比較することは、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものとして著名であるかどうかを認定するうえで、全く意味を持たない。

そして、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものであることは、次のとおり、明らかである。

ア 東京読売巨人軍の選手のユニフォームには、戦時中の一時期を除いて「GIANTS」の文字が表示されて現在に至っている。

イ 東京読売巨人軍は、本願出願以前から、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の文字を付した多種多様のキャラクター商品(ジャイアンツキャラクターグッズ)を、直接又は球場、デパート、運動具店を通じ、さらに通信販売により全国に販売しており、その販売の状況は現在(平成七年)に至るも同様である。「ジャイアンツ商品一覧表 昭和五四年一〇月現在」の販売商品一覧表には、各商品ごとに、商品名、価格のほか、「YG」、「GIANTS」、「ジャイアンツ」等の「使用マーク等」が記載されているが、このことは、商品に付された「GIANTS」、「ジャイアンツ」等のマーク(文字)が、需要者の商品選択の際の動機付けを構成することを示している。すなわち、各商品に付されている「GIANTS」、「ジャイアンツ」の文字は、需要者に当該商品が巨人軍関係の商品であると認識させ、その購買を促す契機となるのであって、このことは、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものであることを意味するものである。

ウ 東京読売巨人軍のファンクラブであるジャイアンツ友の会(現在は「ジャイアンツ・ファンクラブ」と名称変更)は、会員向けの雑誌「ジャイアンツ友の会ニュース」(現在は「ジャイアンツ・ニュース(GIANTS NEWS)」と名称変更)を発行しており、また、報知新聞社は、東京読売巨人軍に関する情報を掲載した雑誌「月刊ジャイアンツ」を発行し、一般書店において販売されている。これら「ジャイアンツ友の会」、「ジャイアンツ・ファンクラブ」、「ジャイアンツ友の会ニュース」、「ジャイアンツ・二ュース(GIANTSNEWS)」、「月刊ジャイアンツ」の各名称が意味を持つのは、「GIANTS」、「ジャイアンツ」が東京読売巨人軍を指称するものであるからに他ならない。

また、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものであることが、本願出願当時、国民一般に広く知られていたことは、次のとおり、明らかである。

ア 野球は、我が国において、国民の関心が極めて高いスポーツであり、その頂点に立つプロ野球に関する知識は国民に広く普及しているが、そのようなプロ野球の領域において、東京読売巨人軍は、我が国最古のチームであり、また、我が国プロ野球界を代表する幾多の名選手を擁し、優勝回数も多数回に及ぶチームであって、球団の存在自体が国民一般に広く知られており、多数のファンを有している。「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものであることは、これらのファンが知悉していることはもとより、球団の存在自体が国民一般に知られていることにより、国民一般にも広く知られており、公知の事実とさえいい得る。

イ プロ野球シーズン中、東京読売巨人軍の試合のほとんどは、いわゆるゴールデンタイムのテレビ、ラジオにより中継放送され、また、毎日のように新聞、雑誌でその報道がなされている。そして、東京読売巨人軍の試合を中継するテレビ放送の視聴率は極めて高いところ、その放送中、視聴者は、画面に映し出された東京読売巨人軍選手のユニフォームの「GIANTS」の文字を視認し、また、アナウンサーや解説者から発せられる「ジャイアンツ」の語を聞くから、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものであることを視覚及び聴覚によって認識するものである。

(2) 原告は、米国大リーグ野球チームのサンフランシスコ・ジャイアンツと、アメリカンフットボールチームの二ユーヨーク・ジャイアンツとを挙げて、「ジャイアンツ」と略称される外国のスポーツチームが存在することは、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものとして著名であるとの審決の認定に重要な影響を及ぼすと主張する。

しかしながら、新聞では、限られたスペースで多くの事柄を報道する必要上、記事中で、サンフランシスコ・ジャイアンツや二ユーヨーク・ジャイアンツをそれぞれ「ジャイアンツ」と表記することがあるものの、かかる記事においても、その見出し等によって、米国大リーグに関する記事、あるいはアメリカンフットボールに関する記事であることが、一見して極めて明白となっている。

また、原告主張の「New YorkGiants」、「GIANTS」との各欧文字を含む構成の商標は、中央に大きく表されたフットボール用ヘルメットの中に「GIANTS」の欧文字が書され、そのヘルメットの下部に「New York Giants」との欧文字が書された態様からなるもので、その一体的な構成から、明らかにアメリカンフットボールのニューヨーク・ジャイアンツを表したものと理解、認識されるものであるから、その構成中に「GIANTS」の文字を含むからといって、東京読売巨人軍との間で商品の出所の混同を生ずるおそれは全くない。

そうすると、「ジャイアンツ」と略称される外国のスポーツチームが存在するからといって、東京読売巨人軍を指称する「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語の我が国における著名性が直ちに左右されるものではない。

(3) 以上のとおり、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものとして著名であるとの審決の認定に誤りはない。

なお、原告は、審決が昭和五九年三月三一日付読売新聞夕刊に掲載された世論調査の結果を引用したことが、商標法五六条、特許法一五〇条五項の規定に違反する旨主張するが、これは職権による証拠調べの対象としたものでないことは、審決の文面から明らかであり、原告の主張は失当である。

二  取消事由二(菓子、食品類販売に関する事実誤認及び看過)について

(1) 《証拠略》に、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の文字が菓子、食品類に使用されていることが記載されていないことは認める。

しかしながら、審決は、出所の混同に関し、原告が、本願商標をいわゆるスポーツドリンクといわれる清涼飲料を含むその指定商品に使用した場合について言及している(審決書五頁一八行~六頁四行)ところ、補助参加人は、昭和五一年から現在に至るまで、大塚製薬株式会社が清涼飲料であるオロナミンCドリンクを販売するに当たって、そのテレビコマーシャルに東京読売巨人軍所属の選手を使用することを許諾し、そのテレビコマーシャルには、東京読売巨人軍所属の複数の選手が「GIANTS」の文字が表示されたユニフォームを着用して登場している。「GIANTS」の語が東京読売巨人軍を指称するものとして著名であることは上記一のとおりであるから、このような事実によって、本願出願当時において既にオロナミンCドリンクは「GIANTS」の語と関連付けられており、原告が、本願商標をその指定商品である施行令別表第二九類「清涼飲料その他本類に属する商品」に使用した場合には、取引者、需要者に、それが補助参加人又はこれと何らかの関係のある者の業務に係る商品であるかのように誤認させ、商品の出所について混同が生ずることは明らかである。

(2) また、原告は、サンビシ株式会社が醤油に、サッポロビール株式会社がビールに、それぞれ「ジャイアンツ」の標章を付して販売していること、また、メルシャン株式会社が焼酎に「ジャイアント」の、江崎グリコ株式会社がアイスクリーム、菓子に、「GIANT」の標章を付してそれぞれ販売していることを挙げ、これらの商品について出所の混同は生じていないと主張する。

しかしながら、サンビシ株式会社及びサッポロビール株式会社は、いずれも、製造・販売元の略称であって商品の出所を表すものと認められる「サンビシ」又は「SAPPORO/サッポロ」の語とともに「ジャイアンツ」の語を使用しており、それを単独で使用するものではない。のみならず、サッポロビール株式会社の使用例においては、「ジャイアンツ/パワーグリップ」の文字が表示されているところ、これは他の同種商品についての「小びん」、「缶lリットル」等の表示と比較して、通常の商品より大容量で握り部付きのものであることを表示したものと認識されるにすぎない。

また、メルシャン株式会社及び江崎グリコ株式会社の使用する「ジャイアント」、「GIANT」の語は、「巨大な人、大男」の意味での「巨人」を認識させ、併せて商品の形状が大型であることを看取させるものであり、「ジャイアンツ」、「GIANTS」の語とは別異のもので容易に区別することができるものであって、これらの使用例は、本件とは内容を異にするものである。

したがって、上記のような使用事実があるからといって、東京読売巨人軍以外の者が「ジャイアンツ」の語を使用しても商品の出所に混同を生ずるおそれがないものとすることはできない。

第五  当裁判所の判断

一  取消事由一(「ジャイアンツ」の著名性の誤認)について

(1) セントラル野球連盟の「選手権試合アグリーメント 一九七七年」及び「選手権試合アグリーメント 一九九五年」並びに弁論の全趣旨によれば、本願出願の相当程度前から現在に至るまで、東京読売巨人軍の球団名は「読売ジャイアンツ」であることが、また、平成九年二月一日株式会社三省堂発行の「コンサイスカタカナ語辞典」、「ジャイアンツ写真集」及び昭和五一年一一月二〇日株式会社恒文社発行の越智正典著「新版ジャイアンツの歴史」並びに弁論の全趣旨によれば、東京読売巨人軍は昭和一〇年に創設された我が国最初のプロ野球球団であり、遅くとも昭和一一年から現在まで、戦時下の一時期を除き、選手のユニフォーム(ホームゲーム用)には、胸部に「GIANTS」の文字の表示があるものが用いられてきたことが、さらに、昭和五八年四月九日から同年一一月六日までの読売新聞テレビラジオ番組欄及び弁論の全趣旨によれば、本願出願当時のみならず、現在に至るまで、東京読売巨人軍の行う試合は、その多くがテレビ放映されていることが、それぞれ認められる。そして、本願出願以前から現在に至るまで、我が国においてプロ野球に関心を有する者が多いことは、昭和五九年三月三一日付読売新聞の夕刊に掲載された世論調査の結果を見るまでもなく、公知の事実というべきである。

東京読売巨人軍の球団名が「読売ジャイアンツ」であることからすれば、その略称として、球団名の一部である「ジャイアンツ」と指称されること自体、極めて自然なことであるのみならず、集団競技のスポーツ選手が着用するユニフォームの、特に最も目につく位置である胸部の表示は、当該選手の所属を表すのが通例であるから、東京読売巨人軍が、その選手のユニフォームとして胸部に「GIANTS」の文字の表示があるものを用いることにより、東京読売巨人軍の試合の観戦者において「GIANTS」又はその読みを片仮名文字で表記した「ジャイアンツ」が、東京読売巨人軍を指称するものと認識することも当然というべきである。そして、東京読売巨人軍が、創設直後から現在に至るまで、ほぼ一貫して胸部に「GIANTS」の文字の表示があるユニフォームを用い続けており、他方、本願出願以前から現在に至るまで我が国においてプロ野球に関心を有する者が多いうえ、東京読売巨人軍の試合の多くがテレビ放映されているのであるから、東京読売巨人軍の試合は、球場に来場する者のみならず膨大な人数に及ぶテレビ視聴者が観戦するものと推認され、このことを併せ考えると、本願出願当時から現在に至るまで、「ジャイアンツ」、「GIANTS」の語が東京読売巨人軍を指称するものであると認識する者も膨大な人数に及ぶものと認められる。なお、原告は、視聴者がテレビ放映されている試合中の選手のユニフォームの文字を一々確認することはないと主張するが、ユニフォーム胸部の表示は特に意識しなくとも視聴者の目に入ることは経験則上明らかであるし、また、視聴者が一々確認することがないとすれば、それは確認するまでもなく、その表示を了知しているからであると推認されるから、原告の主張は失当である。

加えて、補助参加人ないし東京読売巨人軍が、本願出願前から、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の文字を付した野球用具、衣料品、文房具類、玩具、各種雑貨、生活用品を販売してきたことは当事者間に争いがなく、この事実に、読売興業株式会社・東京読売巨人軍発行のパンフレット「ジャイアンツ商品一覧表 昭和五四年一〇月現在」、一九八二年七月二三日読売広告社発行のカタログ「ジャイアンツキャラクター商品」、ミスター・ジャイアンツ会制作の昭和五八年三月三一日現在のカタログ「CHARACTER GOODS CATALOGUE」、東京読売巨人軍発行の「’79ジャイアンツのしおり」のほか、昭和三六年一〇月三〇日株式会社ベースボール・マガジン社発行の水原茂著「私の見た裸のジャイアンツ」、昭和四九年一〇月一〇日株式会社恒文社発行の川上哲治著「ジャイアンツと共に」、前掲「新版ジャイアンツの歴史」、昭和五四年一二月一五日読売新聞社発行の鈴木明著「ジャイアンツは死なず」、報知新聞社発行の雑誌「月刊ジャイアンツ」昭和五一年五月号、同年一二月号、昭和五八年一月号及び昭和一〇年一月号、昭和五五年五月一日東京読売巨人軍発行の「ジャイアンツ友の会ニュース」一号、昭和五六年三月一日東京読売巨人軍発行の「ジャイアンツニュース」九号、昭和五七年三月一日ジャイアンツ友の会発行の「ジャイアンツニュース」二〇号、平成九年一〇月一日ジャイアンツ・ファンクラブ発行の「GIANTS NEWS」一九二号、同一九三号並びに弁論の全趣旨を併せ考えると、本願出願の相当程度前から現在に至るまで、東京読売巨人軍を指称するものとして「GIANTS」、「ジャイアンツ」の文字を付した野球その他のスポーツ用品、玩具、衣類、装飾品、文房具類、グラス・タンブラー等を含む食器類、雑貨等の多種多様の商品が補助参加人ないし東京読売巨人軍から発売されているほか、東京読売巨人軍を指称するものとし「ジャイアンツ」又は「GIANTS」の語を標題の一部に用いた刊行物が数多く刊行されてきたことが認められる。

さらに、昭和五一年四月一五日株式会社小学館発行の日本大辞典刊行会編「日本語大辞典」第一〇巻、昭和五七年一二月一日株式会社三省堂発行の「コンサイス外来語辞典第三版」、平成元年六月二五日株式会社集英社発行の飯田隆昭ほか編「日本語になった外国語辞典」、前掲「コンサイスカタカナ語辞典」には、いずれも「ジャイアンツ(Giants)」の語義として、東京読売巨人軍の愛称又はニックネームである旨が記載されている。

以上の各事実を併せ考えると、本願出願当時から現在に至るまで、我が国において、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものとして一般に広く知られていることを認めることができる。

なお、東京読売巨人軍が「巨人」又は「巨人軍」と略称されることがあり、あるいは当該略称が著名であるとしても、そのことと「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものとして一般に広く知られていることとが、何ら矛盾対立するものでないことは明らかであり、したがって、その事実の存在が前示認定を左右するものではない。

(2) 平成八年七月一〇日付、同月三〇日付各中日新聞、平成七年六月二六日付毎日新聞、同日付読売新聞、同日付中日新聞、同年五月四日付読売新聞には、それぞれ米国大リーグ野球チームのサンフランシスコ・ジャイアンツが「ジャイアンツ」と、また、昭和六二年一月二七日付朝日新聞、同日付毎日新聞、同日付日本経済新聞、同日付中日スポーツ、同日付中京スポーツ、同日付日刊スポーツ、同日付報知スポーツには、それぞれアメリカンフットボールチームのニューヨーク・ジャイアンツが「ジャイアンツ」と表示された記事が掲載されているところ、原告は、「ジャイアンツ」の語がこれら外国のスポーツチームを指称する場合もあるから、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものとして著名であるということはできないと主張する。

しかしながら、前掲各記事のうち、サンフランシスコ・ジャイアンツに係るものは、その見出し等によって米国大リーグ野球に関する記事であることが明瞭であり、また、ニューヨーク・ジャイアンツに係るものは、その見出しによってアメリカンフットボールに関する記事であることが明瞭であるほか、当該記事中のチーム名の最初の表示が「ニューヨーク・ジャイアンツ」又は「NYジャイアンツ」とされており、事後の「ジャイアンツ」との表示が「ニューヨーク・ジャイアンツ」を省略したものであることが当該記事自体からも明らかとされている。したがって、これらの各記事において外国のスポーツチームが「ジャイアンツ」と表示されているとしても、我が国においては、「ジャイアンツ」の語がこれら外国のスポーツチームを指称するものとして一般的に用いられているとまで認めることはできない。

また、原告は、本願出願後に登録出願された「New York Giants」、「GIANTS」の各欧文字を含む構成の商標が既に登録されていることを根拠として、本願出願当時において、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものとして著名であったとはいえないと主張する。

しかし、商標公報に表示された当該商標は、中央に大きく表されたフットボール用ヘルメットの図形中に「GIANTS」の欧文字が書され、そのヘルメットの図形の下方に「New York Giants」との欧文字が書された構成によってなるものであるが、当該「GIANTS」の欧文字は、やや右上がりのその形状等に照らし、ヘルメットに装飾的に記載された文字としてヘルメットの図形のー部をなすものであることが看取され、看者にはヘルメットの図形と一体的な結び付きを有するものとして認識されることが明らかである。そうすると、「New York Giants」との欧文字部分を併せて、当該商標からは「フットボールチームのニューヨークジャイアンツ」又は「フットボールチームのジャイアンツ」との観念が生ずるものというべきであるから、仮に当該商標から「ジャイアンツ」との称呼が生ずるとしても、商標全体から見てそれが東京読売巨人軍と紛れるおそれはなく、したがって、当該商標が東京読売巨人軍との関係で商品の出所の混同が生ずるものとして商標法四条一項一五号に該当するものとはいえないから、それが登録されたからといって、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものとして一般に広く知られていた事実を左右するに足るものではない。

(3) 以上のとおりであるから、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語が東京読売巨人軍を指称するものとして、本願出願前から一般に広く知られていたとした審決の認定に誤りはない。

なお、原告は、審決が前示昭和五六年三月三一日付読売新聞夕刊に掲載された世論調査の結果を引用したことが商標法五六条、特許法一五〇条五項に違反する旨主張する。この世論調査の結果は、公知事実でもないし、顕著な事実でもないから、世論調査の結果を引用するには、所定の手続きを経ることを要することはいうまでもないが、この手続違反が、結論に影響を与えないことは、前示(1)において説示したとおりである。

二  取消事由二(菓子、食品類販売に関する事実誤認及び看過)について

(1) 審決は、原告主張のとおり、補助参加人ないし東京読売巨人軍が、本願出願前から「GIANTS」、「ジャイアンツ」の文字を付した菓子、食品類含む多種多様な商品を、自ら、あるいは使用権者を通じて、販売してきたとの事実を認定したところ、補助参加人ないし東京読売巨人軍が、本願出願前に「GIANTS」、「ジャイアンツ」の文字を付した菓子、食品類を販売していた事実を認めるに足りる証拠はなく、したがって、その限りにおいて審決の該認定は誤りであるといわざるを得ない。

しかしながら、本願出願の相当程度前から、東京読売巨人軍を指称するものとして「GIANTS」、「ジャイアンツ」の文字を付した多種多様の商品が補助参加人ないし東京読売巨人軍から発売されており、その販売商品には、スポーツ用品やグラス・タンブラー等を含む食器類も含まれていること、そして、「GIANTS」、「ジャイアンツ」の語(文字)が、東京読売巨人軍を指称するものとして、本願出願前から一般に広く知られていたことは、前示一のとおりである。また、平成七年一月一日自由国民社発行の「現代用語の基礎知識一九九五年版」及び昭和六一年一〇月一八日東洋経済新報社発行の「現代商品大辞典 新商品版」によれば、本願出願当時、いわゆるスポーツドリンク又はスポーツ飲料が既に一般的な飲料となっていたことが認められる。

これらの事実によれば、本願出願当時に、補助参加人ないし東京読売巨人軍が、自ら、あるいは使用権者を通じて、現実に菓子、食品類を販売していた事実が存在しなかったとしても、本願出願当時から現在に至るまでを通じ、仮に原告が本願商標を、スポーツドリンク類を含む清涼飲料その他その指定商品(茶、コーヒー、ココア、果実飲料、氷)に用いた場合には、その商品に接した取引者、需要者において、それが、前示「GIANTS」、「ジャイアンツ」の文字を付した多種多様な商品と同様に、補助参加人ないし東京読売巨人軍の販売に係る商品、又は補助参加人ないし東京読売巨人軍と何らかの組織的又は経済的関連を有する者の販売に係る商品であるものと誤認するおそれがあるものと認められる。したがって、本願商標は、商品の出所につき混同を生ずるおそれがあるものとして、商標法四条一項一五号に該当するものといわなければならない。

(2) サンビシ株式会社作成の証明書及び商品カタログ並びに同会社販売の醤油容器及び外箱を撮影したものと認められる写真によれば、同会社が醤油の容器及び外箱に「ジャイアンツ」の文字を含む標章を付して販売していることが、サッポロビール株式会社の商品カタログ及び同会社販売の瓶入りビールを撮影したものと認められる写真によれば、同会社が瓶入りビールに「ジャイアンツ」の文字を含む標章を付して販売していることが、メルシャン株式会社販売の焼酎の容器を撮影したものと認められる写真によれば、同会社が焼酎の容器に「ジャイアント」の文字を含む標章を付して販売していることが、江崎グリコ株式会社販売のアイスクリーム菓子を撮影したものと認められる写真によれば、同会社がアイスクリーム菓子の包装に「ジャイアント」の文字を含む標章を付して販売していることが、それぞれ認められる。

原告は、これらの商品の販売が本願出願前から現在まで継続されており、その商品の出所の混同が、本願出願当時においても、その後においても生じていないから、これらの商品と同様食品類に包含される商品を指定商品とする本願商標の使用が、商品の出所につき混同を生じさせるおそれがあるということはできないと主張するところ、これらの商品の販売が本願出願前から現在まで継続されており、その商品の出所の混同が、本願出願当時においても、その後においても生じていないことは、本訴において、被告・補助参加人の明らかに争わないところと認められる。

しかしながら、補助参加人ないし東京読売巨人軍との関係における商品の出所の混同の有無という観点からみた場合に、サンビシ株式会社販売の醤油容器及び外箱に付された標章は、上段に細線で三部分に等分割された菱形用の図形を配置し、その下部に「サンビシ」の片仮名文字と「ジャイアンツ」の片仮名文字とを二段に横書きしてなるものであって、それが商品の出所の混同を来していないのは、このように同会社の略称等その出所を表すものと認められる文字等とともに用いられていることによるものと認められる。なお、原告は、サンビシ株式会社の使用例には、「10リットルジャイアンツ」のように「ジャイアンツ」の文字が「サンビシ」の文字とともに使用されていない例もあると主張するが、当該使用例は同会社の商品カタログに商品写真の標題として用いられているものであって、これについては、同会社の商品カタログ中の記載であるという事情が、商品の出所の混同を来たさない主たる理由となっていることが明らかである。

サッポロビール株式会社販売の瓶ビールに付された標章は「GIANT」の欧文字と「サッポロジャイアンツ」の片仮名文字とを二段に横書きしてなるもの、又は、「SAPPORO」の欧文字と「ジャイアンツ」の片仮名文字とを二段に横書きしてなるものであって、それが商品の出所の混同を来していないのは、「ジャイアンツ」、「GIANT」の文字が同会社の略称であって商品の出所を表すものと認められる文字とともに用いられていることによるのみならず、その商品自体が、本願商標の指定商品と同様に飲料であるとはいえ、酒類という特殊なものであって、その製造販売に関し通常の飲料とは異なる法的規制を受けることが周知である点にもよっているものと認められる。なお、原告は、サッポロビール株式会社の使用例につき「GIANT」、「ジャイアンツ」の文字が他の文字と区別されるように特別大きな文字で表示されているから単独使用であるとも主張するが、該使用例において、文字の大きさに相違があることは認められるものの、「GIANT」、「ジャイアンツ」の各文字がそれぞれ「サッポロジャイアンツ」、「SAPPORO」の各文字と一体的に構成されていることは明らかであって、該主張は採用することができない。

メルシャン株式会社販売の焼酎容器に付された標章は「ジャイアント」の片仮名文字を二列に縦書きしてなるものであり、それと一体的に構成された商品の出所を表すものと認められる文字等は格別存在しないが、当該商品が酒類に属することはビールの場合と同様であるから、商品の出所の混同を来していないのは、そのことによるものと認められる。

江崎グリコ株式会社販売のアイスクリーム菓子の包装に付された標章は、その表面の「Giant」の欧文字を横書きしてなるもの及び裏面の「グリコ」の片仮名文字と「ジャイアントコーン」の片仮名文字を二段に横書きしてなるものであって、表面に付された標章については、それと一体的に構成された商品の出所を表すものと認められる文字等は格別存在しないが、裏面に付された標章が販売会社の略称であって商品の出所を表すものと認められる文字等とともに用いられていることは明らかであり、当該商品について出所の混同を来していないのは、そのことによっているものと認められる。

したがって、これらの商品の販売が本願出願前から現在まで継続されており、その商品の出所の混同が、本願出願当時においても、その後においても生じていないからといって、本願商標が商品の出所につき混同を生ずるおそれがあるとの前示認定を、直ちに左右するものということはできない。

(3) 登録第五五六八〇六号商標に係る商標登録原簿写し及びその出願公告に係る商標公報並びに登録第七四〇七八一号商標に係る商標登録原簿写し及びその出願公告に係る商標公報によれば、メルシャン株式会社は、「GIANTS」の欧文字と「ジャイアンツ」の片仮名文字を二段に横書きしてなる商標(登録第五五六八〇六号)につき昭和三五年九月二八日に、また、「GIANT」の欧文字を横書きしてなる商標(登録第七四〇七八一号)につき昭和四二年四月二八日に、それぞれ設定登録を受けたことを認めることができる。

しかし、これらの商標に係る設定登録を受けた日は、本願出願の日よりもはるかに前であるうえ、その指定商品も本願出願に係る指定商品とは異なる酒類又はその模造品であるから、かかる設定登録がなされた事実があるからといって、本願商標が商品の出所につき混同を生ずるおそれがあるとの前示認定を覆すに足るものということはできない。

(4) そうすると、前示のとおり、補助参加人ないし東京読売巨人軍が、本願出願前に「GIANTS」、「ジャイアンツ」の文字を付した菓子、食品類を販売していたとの審決の認定は誤りであるが、本願商標が商標法四条一項一五号に該当するとの判断に誤りはなく、該認定の誤りは審決の結論に影響を及ぼすものということはできない。

3 以上のとおり、原告の審決取消事由の主張は理由がなく、他に審決にこれを取り消すべき暇疵はない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水 節)

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