東京高等裁判所 平成9年(行ケ)15号 判決 1998年7月02日
東京都港区芝三丁目12番4号
原告
岩崎電気株式会社
代表者代表取締役
岩崎満夫
訴訟代理人弁理士
岡部正夫
同
加藤伸晃
同
朝日伸光
同
吉澤弘司
東京都品川区東品川四丁目3番1号
被告
東芝ライテック株式会社
代表者代表取締役
加納忠男
訴訟代理人弁理士
和泉順一
同
樺澤襄
同
島宗正見
同
樺澤聡
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 特許庁が平成7年審判第19399号事件について平成8年12月12日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
被告は、名称を「照明装置」とし、昭和54年3月26日に特許出願、平成3年1月31日に設定登録された特許第1600012号の特許発明(以下「本件発明」という。)の特許権者である。原告は、平成7年9月11日に本件発明に係る特許の無効の審判を請求し、特許庁は、同請求を平成7年審判第19399号事件として審理した上、平成8年12月12日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は平成8年12月24日に原告に送達された。
2 本件発明の要旨
光色が異なる2個のランプと、下面に照射口を有しこれらのランプを包囲する反射体とからなり、上記反射体は内面に内方に向って突出され両側部を傾斜面とした複数の単位反射面を有することを特徴とする照明装置(別紙図面1参照)
3 審決の理由の要点
(1) 本件発明の要旨は前項記載のとおりである。
(2) 原告の主張
原告は、「特許第1600012号の特許は、これを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その請求の理由として、本件発明は、「atlas lighting manual」(1961年9月編集、甲第3号証(審決甲第1号証)、以下「引用例1」という。別紙図面2参照)及び「東芝照明器具カタログ」(昭和53年7月刊、甲第4号証(審決甲第2号証)、以下「引用例2」という。別紙図面3参照)記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法123条1項の規定によりその特許は無効にされるべきである旨主張している。
(3) 甲号各証の記載内容
引用例1(甲第3号証(審決甲第1号証))のPAGE1.F-13には、以下のような記載がある。
「混光照明装置(タイプCOB)は、タングステンフィラメント・ランプと水銀蒸気放電ランプの2つを同じ反射体内に収容し、非常に小型で効率的な照明源を提供している。・・・両方のタイプの反射体はヘビーゲージ鋼板から一体的にしぼり出され、・・・。標準的仕上げは、反射体内面に関して白そして外側は緑のガラス質エナメル(ホウロウ)である。」
このことから、引用例1には、光色が異なる2個のランプが同一の反射体内に収容されている混光照明装置が示されていると認められる。
また、引用例2(甲第4号証(審決甲第2号証))には、広照形高天井用反射笠として、SN-4034A、SN-10034Aにみられるように、内面に内方に向って突出され両側部を傾斜面とした複数の単位反射面を有する反射体が示されている。
なお、審決甲第3号証と同第4号証は、引用例1が本出願前に頒布された刊行物であることを立証するためのものである。そして、この引用例1の公知性については被告は何ら反論していないものである。
(4) 当審の判断
そこで、本件発明と引用例1、2記載の各技術とを比較検討する。
引用例1には、確かに光色が異なる2個のランプが反射体内に収納された混光照明装置が示されているが、これは、本件発明における明細書(以下「本件明細書」という。)記載の従来技術そのものであり、色むらをいかに解消するかという本件発明の技術的課題について、また、その解決手段について、何ら示唆するものではない。
また、引用例2には、内面に内方に向って突出され両側部を傾斜面とした複数の単位反射面を有する反射体が示されている。しかしながら、引用例2記載の技術の反射体は、単一のランプを使用するための高天井用反射笠であり、色むらに関しては何らの示唆もされていない。
原告は、白色ホウロウ仕上げ反射面も複数の単位反射面を有する反射面も、いずれも反射体内面の拡散によって配光の分布を拡げるという点で同様の作用効果を有し、そして、それぞれの配光特性は配光曲線として公知であるから、引用例1記載の技術のホウロウ仕上げ広照形反射笠に代えて、同じ光の拡散の目的で同様の広照形である公知の複数の単位面を有する反射笠を採用することは、所望の拡散特性に応じ選択される単なる設計事項にすぎない旨主張している。
しかしながら、色むらとは、被照面における複数のランプの光色が良好に混じり合わないことであり、一方、配光とは、光源の各方向に対する光度の分布をいうものであり、混光における色むら防止作用は、光拡散による配光作用とは明らかに異なる技術概念である。引用例1記載の技術は色むら防止に関して何ら着目しておらず、また、引用例2に示された反射体の構成は光拡散による所定の配光作用を得ることを目的としたものであり、色むら防止のために両者を結びつける動機付けが得られない。
本件発明は、複数の単位反射面を有する反射体により色むらが防止できるという知見に基づきされたものであり、引用例1及び引用例2には、該技術的思想について何ら記載も示唆もされていない。
更に、原告は、弁ぱく書において、下面に照射口を有し2個のランプを包囲する反射体として、内面を白色塗装仕上げにしたもの(器具A)と内面を単位反射面仕上げにしたもの(器具B)とを使用して実験した結果(審決甲第5号証)、本件発明のように単に複数の単位反射面という限定事項のみでは、混光の色むら防止について格別顕著な効果を達成しているとはいえない旨主張している。
しかしながら、色むらの様子に影響を与える要因には、単位反射面の頂角の外に、反射板の内面カーブ、2つのランプの配置間隔等種々存在する。審決甲第5号証における特定のケースにおいて、色むら防止に有効でないとしても、これをもって、本件発明の色むら防止の効果を否定できるものではない。
本件発明は、複数の単位反射面を有する反射体が色むら防止に有効であるという知見に基づきされたものであり、明細書の一実施例において単位反射面の頂角θを130度以下とした場合に特に有効であることが記載されている。そして、本件特許請求の範囲には、光色が異なる2個のランプを備える場合において、反射体は内面に内方に向って突出され両側部を傾斜面とした複数の単位反射面を有すると構成が記載されており、明細書の記載全体を通して把握される技術的思想としての構成が充分に明確にされており、単位反射面の頂角が特定の場合ではあるにせよ、色むら防止効果があることは確かであるので、これをもって、実施例レベルにまで構成を限定しなければならないとするものでもない。
(5) むすび
したがって、原告が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明を無効とすることはできない。
4 審決の取消事由
審決の理由の要点(1)ないし(3)は争わない。同(4)のうち、原告の主張内容が審決摘示のとおりであること及び「引用例2には、内面に内方に向って突出され両側部を傾斜面とした複数の単位反射面を有する反射体が示されている。しかしながら、引用例2記載の技術の反射体は、単一のランプを使用するための高天井用反射笠であり、色むらに関しては何らの示唆もされていない。」との認定は争わないが、その余は争う。同(5)は争う。
審決は、引用例1記載の技術の技術内容を誤認した結果、引用例1、2記載の各技術の組合せの容易性についての判断を誤ったものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
(1) 審決は、引用例1記載の技術は本件明細書記載の従来技術の混光照明装置そのものであり、色むらをいかに解消するかという本件発明の技術的課題、また、その解決手段について何ら示唆するものではないと認定している。しかし、引用例1記載の技術は、本件明細書記載の従来技術の混光むらの解消という技術的課題を本件発明と同様に解消しているものであって、上記認定は誤りである。
(2)ア 本件明細書では、第3図の従来技術の混光照明装置は、φ=0°、φ=180°方向で顕著な混光むらが生ずると記載され、そして、その従来技術の顕著な混光むらを改善したものが本件発明である。
イ 原告側において、3種類の反射体、すなわち、反射体内壁面が鏡面(試験品A)、白色塗装拡散面(ホウロウ面、試験品B:引用例1記載の技術に該当)及び単位反射面(試験品C:本件発明に該当)について混光むらの性質を調べた実験をしたところ、その実験結果は次のとおりであった(甲第5号証参照)。
<1> 反射体内壁面が鏡面の場合にはφ=0°、φ=180°の方向で顕著な混光むらが生じ、本件明細書記載の従来技術そのものの混光むらが生じることを示している。そして、φ=0°方向から見た反射体の輝き面積は、ランプ3とランプ4に対して著しく異なっており、また、実際に反射光の強度も著しく異なっている(左側と右側の光束量の比=7.73)。
<2> 引用例1記載の技術に該当する白色塗装拡散面と本件発明に該当する単位反射面とは、φ=0°方向から見た反射体の輝き面積は、ランプ3とランプ4とではそれ程著しく異ならない。そして、実際の反射光もそれ程著しく異ならず、両者はほぼ同様である(左側と右側の光束量の比=1.92と2.05)。
ウ 以上によれば、反射面が鏡面の場合が本件明細書記載の従来技術そのものであり、これに対して、引用例1記載の技術の白色ホウロウ仕上げ反射面の場合は、そのような従来技術と混光むらの特性上同一ではなく、むしろ、本件発明の単位反射面の場合と実質的に同一であることが明らかである。
エ すなわち、引用例1記載の技術は、拡散反射面を採用することによって、本件明細書記載の従来技術において生じている色むらを防止した性質を既に呈しているのである。したがって、引用例1には本件発明と同一の技術的課題が表されており、一方、その解決手段において、本件発明との間に白色ホウロウ仕上げ反射面と単位反射面という相違がある場合なのである。
(3) 上記相違点については、引用例1記載の技術は、その技術的課題を光拡散による配光作用を得るための一手法である白色ホウロウ仕上げ反射面によって達成しているのであって、このことに既に着目しており、一方、引用例2記載の技術の単位反射面は光拡散による配光作用を得るための周知の他の手法であるから、色むら防止を行うために、光拡散による配光作用を得るための引用例1記載の技術の白色ホウロウ仕上げ反射面に代えて、引用例2記載の技術の単位反射面を用いることは十分動機付けられているのである。したがって、色むら防止を行うために、光拡散による配光作用を得るための引用例1記載の技術の白色ホウロウ仕上げ反射面に代えて、拡散配光という同じ目的で単位反射面の反射体を用いることは当業者にとって構成上容易であったといわざるを得ない。そして、本件発明が単位反射面の反射体を用いたというだけでは、引用例1記載の技術の白色ホウロウ仕上げ反射面に対比して混光むら特性上格別な利点があるとする理由もないのである。
(4) この点、審決は、混光における色むら防止作用は光拡散による配光作用とは明らかに異なる技術概念であると認定した。
ところで、「色むら」という単語は染色や印刷の世界では使用されているが、照明の学会や業界では、その定義やその評価の理論式などはなく、舞台照明や光を使用した芸術の世界で感覚的なものとして存在しているにすぎず、一般の照明設計の分野では色むらを評価する技術的手法や計算式は存在していない。それを強いてあげるならば、光源より出た光が被照射面に照射された時に配光(照度の分布)のずれのためどのような色に見えるかの評価である。そして、「色むら」というあまり技術的でない表現を、照明装置の場合に即してより技術的に述べれば、配光(光度の分布)のずれの結果(あるいはずれの評価)と言い換えることができる。配光のずれの評価を色むらと称しているのであるから、配光作用と色むら防止作用との間の関連性の存在は明らかである。
したがって、審決の上記認定は、光拡散によって配光の様子が変われば、色むらも変わるであろうこと、つまり、光拡散による配光に着目していることは色むらにも着目していることになることへの考慮を全く欠いたものである。
(5) また、被告は、引用例1記載の技術は光拡散によって配光の分布が広げられる点を示しているだけであって、それだけでは本件発明における色むらの解消に着目しているとはいえないと主張する。しかし、一般的な技術概念の論議はともかく、本件発明に限っていえば、その混光における色むら防止作用は光拡散による配光作用に基づくものにすぎない。そして、色むらの防止作用が光拡散による配光作用によって得られる程度のものということであるならば、それは、引用例1記載の技術から認識しうるのは自明である。
(6) 以上のとおり、引用例1、2記載の各技術を色むら防止のために結びつける動機付けがないとした審決の判断は誤りである。
第3 請求の原因に対する認否及び被告の主張
1 請求の原因1ないし3の事実は認める。同4は争う。審決の認定判断は正当であり、原告主張のような違法はない。
2 被告の主張
(1) 原告は、引用例1記載の技術は本件明細書記載の従来技術の混光むらの解消という技術的課題を本件発明と同様に解消していると主張する。
しかし、引用例1には、色むらをいかに解消するかという技術的課題についての直接的記載は何ら存在しない。また、引用例1記載の技術の白色ホウロウ仕上げの反射面を用いた混光照明装置から客観的に把握できるのは、あえて配光について視点をあててみると、白色ホウロウ仕上げの反射面は反射光の指向性が緩慢であって、反射体内面の拡散によって配光の分布が拡げられるもので、専ら、広照形の配光曲線を呈し、しかも、反射効率は一般的に用いられるアルミニウム製反射体(内面鏡面仕上げ)に比し低いということである。したがって、引用例1には、反射体内面の拡散によって配光の分布が拡げられるという技術的思想が示されているにとどまり、それ以上の何ものも示されていない。
そもそも、白色ホウロウ仕上げの反射面が適用されるのは、第1には、耐蝕性という特長を利用し、腐蝕環境等の悪環境条件下で使用される場合である。これは、本来反射効率を所定の値に保持する要請があるところ、これを犠牲にしても耐蝕性という特長を優先しているのである。したがって、反射光の指向性が緩慢であって拡散によって配光の分布が拡がるという作用効果は、白色ホウロウ仕上げの反射面の耐蝕性という特長を第1優先とした結果として、付随的に生じる作用効果にすぎない。そこには、色むらをいかに解消するかという技術的課題など全くない。このような位置付けにおける拡散によって配光の分布が拡げられるという作用効果を根拠に、引用例1が色むらをいかに解消するかという技術的課題に着目していたとみることはできない。
よって、引用例1に示された混光照明装置は、色むらをいかに解消するかという本件発明の技術的課題について、また、その解決手段について、何ら示唆するものではない。
(2) 原告は、実験報告書(甲第5号証)に基づいて、引用例1記載の技術は、拡散反射面を採用することによって、本件明細書記載の従来技術において生じている色むらを防止した性質を既に呈している旨主張する。
しかしながら、上記実験報告書に示されたものは、通常の形態とはいえ、特定の反射板の内面カーブ、特定のランプの配置間隔等においてのデータであり、このケースにのみにあてはまる事項にすぎないというほかない。したがって、上記データは、3種類の特定された反射体についての反射特性の傾向を表すにとどまるし、また、上記実験報告書の白色塗装拡散面(試験品B)は引用例1記載の技術とは反射面のカーブ、ランプの配置間隔等その他の点において同一であるとはいえないから、上記実験報告書に示された実験結果を根拠に、かつ、それから推測して、引用例1に本件発明の色むら防止という技術的課題が示されていたということはできない。結局のところ、引用例1が示す事実は、混光照明器具において、反射体の反射面が白色ホウロウ仕上げであるという点だけであり、そして、これから想起し得るのは、白色ホウロウ仕上げの反射面の拡散によって配光の分布が拡げられているということだけである。
また、仮に、上記試験品Bが引用例1記載の技術と同一のものであるとしても、上記実験報告書に示される配光曲線は、本件発明の存在を前提としながら、その後になって初めて実験してみて知見することができたにすぎない。つまり、上記配光曲線は、本件発明の存在を前提としながら、後追い的な実際の実物による実験に基づいて初めて知見されたところの配光曲線であるから、これに基づいて引用例1に示された技術的事項を拡大して解釈するべきではない。要は、引用例1記載の技術そのものに、色むらをいかに解消するかという技術的課題やその解決手段が示唆されているか否かを問題とすべきである。そして、前記(1)のとおり、引用例1には色むらをいかに解消するかという技術的課題やその解決手段が示唆されているとすることは到底できない。よって、上記の仮定に従った場合においても、原告の主張は失当である。
(3) 原告は、「色むら」の用語について述べ、配光作用と色むら防止作用との関連性の存在は明らかであり、審決は、光拡散によって配光の様子が変われば、色むらも変わるであろうこと、つまり、光拡散による配光に着目していることは色むらにも着目していることになることへの考慮を全く欠いたものであると主張する。
確かに、配光作用と色むら防止作用との関連性は否定できない。また、光拡散によって配光の様子が変われば、色むらも変わるであろうことも否定できない。しかしながら、そのことをもって引用例1記載の技術が色むらにも着目しているということはできない。すなわち、色むらとは、被照面における複数のランプの光色が良好に混じり合わないことであり、一方、配光とは、光源の各方向に対する光度の分布をいうものであり、混光における色むら防止作用は光拡散による配光作用とは明らかに異なる技術概念である。そして、引用例1記載の技術の反射体の構成は、光拡散により配光の分布が拡げられるという技術概念が示されているにとどまり、ここに色むら防止作用への着目は存在しないから、原告の主張は失当である。
(4) 原告は、本件発明の色むら防止作用は色むら防止という技術的課題を反射光を拡散配光させた手法によって得ているだけであるとして、一般的な技術概念の議論はともかく、本件発明に限っていえば、その混光における色むら防止作用は光拡散による配光作用に基づくものにすぎない旨主張する。
しかしながら、本件発明は、反射体内面において単位反射面における傾斜面で光の向きを変えるという意味でとらえた拡散を行ってはいるものの、これによって2個のランプで光る反射面の差を小さくし、両ランプの光の混合比を略均一になるようにしたものであって、反射体全体として配光の分布が拡げられるようにしたものではない。したがって、本件発明における色むら防止作用は、被照面における複数のランプの光色が良好に混じり合わないという色むらをいかに解消するかという技術的課題に着目し、それを解決するものであり、反射体全体として配光の分布が拡げられるという光拡散による配光とは明らかに異なるから、原告の主張は到底是認することができない。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録のとおりであるから、これを引用する。
理由
第1 請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。
第2 本件発明の概要
成立に争いのない甲第2号証(本件公告公報及び特許法64条の規定による補正の掲載)によれば、本件明細書に記載された本件発明の概要は次のとおりと認められる。
1 本件発明は光色の異なる2個のランプを用いて混光照明を得る照明装置に関する。
この種混光照明を得る照明装置は、第3図に示すように一般に1個の反射体にて光色の異なる2個のランプ3、4を包囲するように配設する構造が採られ、各ランプ3、4の発光中心は反射体の回転軸10から偏心されることになり、配光のφ=0°の方向の光度には著しく多量の第1のランプ3の光が含まれ、第2のランプ4の光度成分はかなり少なくなる。反対にφ=180°の方向の光度は反対に著しく多い第2のランプ4の光と第1のランプ3のわずかな光からなり、混光された光もφ=0°方向では第1のランプ3の光色が強く表れ、φ=180°方向では第2のランプ4の光色が強く表れる問題がある。
すなわち、第3図において、φ=0°、φ=180°方向が最も混光むらが顕著でφ=90°、φ=270°方向が混光むらがほとんどなく、これらの中間が混光むらの程度中である。
ここに、その理由を説明する。反射体の光度(Ⅰ)は、Ⅰ=光源の輝度×反射体の輝いている反射体の射影面積×反射率で示されている。光源の輝度と反射率とを略一定とすると、Ⅰは「輝いて見える反射体の面積」が大きいほど大きくなる。そこで、第3図において、φ=0°方向から反射体を見たときの反射体1のランプ3より輝いて見える面積とランプ4より輝いて見える面積とを比較すると、第1のランプ3側により輝いて見える面積の方がはるかに大きい。これは反射体1に対する立体角がランプ4よりランプ3の方が格段に大きいためである。
このため、φ=0°、φ=180°の方向が最も大きく、この方向での混光むらが生ずる。
そこで、反射体の主反射面の頂部に楕円面の輔助反射面を複数形成し、この各補助反射面の焦点位置にそれぞれランプを配設する構成が考えられる。(上記補正の掲載1頁15行ないし下から10行)
2 上記反射体の主反射面の頂部に補助反射面を形成した構成では、各補助反射面からの反射光を主反射面の焦点に集中させなくては色むらが生じ、各補助反射面からの反射光を主反射面の焦点に合わせることは困難であり、また反射体が大きくなり、器具も大形になるなどの不都合がある。
本件発明は上記問題点に鑑みされたもので、小形でかつ高効率で色むらのない照明装置を提供するものである。
本件発明の照明装置は特許請求の範囲(本件発明の要旨)記載の構成を特徴とする。(同1頁下から8行ないし2頁1行)
3 第1のランプ3から反射体1に入射した光はこの第1のランプ3に最も近い反射面において、その単位反射面9の傾斜面7、8により周知のようにφ=90°、φ=270°方向に拡散反射される。また、第2のランプ4からこの第1のランプ3に近い反射面に入射した光も傾斜面7、8によって拡散されるが、ランプ3の場合の立体角より小さいのでφ=90°、φ=270°方向に拡散される割合は少ない。(同2頁5行ないし8行)
反射面に近いランプほど光の拡がりが大きく、反射面に遠いランプほど光の拡がりが小さく、2個のランプで光る反射面の差が小さくなり、両ランプの光の混合比が略均一となり、色むらが防止される。しかも、異種の光を混合した照明が簡単な構成で得られ、小形で効率のよい混光照明が得られる。(同3頁15行ないし18行)
第3 審決の取消事由について
1 引用例1のPAGE1.F-13に、「混光照明装置(タイプCOB)は、タングステンフィラメント・ランプと水銀蒸気放電ランプの2つを同じ反射体内に収容し、非常に小型で効率的な照明源を提供している。・・・両方のタイプの反射体はヘビーゲージ鋼板から一体的にしぼり出され、・・・。標準的仕上げは、反射体内面に関して白そして外側は緑のガラス質エナメル(ホウロウ)である。」との記載があることは当事者間に争いがない。上記事実によれば、引用例1記載の技術は、タイプの異なる2つのランプを収容した白色ホウロウ仕上げ反射面を有する照明装置と認められる。
しかしながら、成立に争いのない甲第3号証によっても、引用例1に上記白色ホウロウ仕上げ反射面と色むらとの関係についての記載ないし示唆が存在すると認めることはできないし、両者の間に関係があるという当業者の技術常識が存在したと認めるに足りる証拠もない。
そうすると、引用例1は、色むら防止という技術的課題及びその解決手段について、何ら開示ないし示唆するものではないといわざるをえない。
2 もっとも、原告は、色むらは配光(光度の分布)のずれの結果(あるいはずれの評価)と言い換えることができ、配光作用と色むら防止作用との間の関連性の存在は明らかであるから、光拡散による配光に着目していることは色むらにも着目していることになると主張する。
しかし、弁論の全趣旨によれば、色むらとは、被照面における複数のランプの光色が良好に混じり合わないことであり、一方、配光とは、光源の各方向に対する光度の分布をいうことが認められ、上記事実によれば、配光作用と色むら防止作用との間に関連性はあるものの、両者は異なる技術概念というべきである。したがって、引用例1が配光に着目していることをもって、それが直ちに色むら防止に着目していることになると解することはできない。そして、前掲甲第3号証によれば、引用例1には反射体内面の拡散によって配光の分布が拡げられるという技術的思想が示されていることは認められるものの、上記事実から引用例1が色むら防止に着目しているということはできないから、原告の主張は採用できない。
3 また、甲第5号証(田辺文夫作成の実験報告書)には、引用例1記載の技術に該当する白色塗装拡散面と本件発明に該当する単位反射面とは、φ=0°方向から見た反射体の輝き面積は、ランプ3とランプ4とではそれ程著しく異ならず、両者はほぼ同様である旨の記載がある。しかし、上記報告書の実験は、色むらの程度を測定する目的で、すなわち、色むら防止という技術的課題の存在を前提として、引用例1記載の技術に該当するものの一例と本件発明に該当するものの一例とを比較したものにすぎないから、上記記載から直ちに引用例1の前記記載が色むら防止という技術的課題及びその解決手段を開示ないし示唆しているということはできない。
4 更に、原告は、引用例1記載の技術は、色むら防止という技術的課題を光拡散による配光作用を得るための一手法である白色ホウロウ仕上げ反射面によって達成しており、引用例2記載の技術の単位反射面は光拡散による配光作用を得るための周知の他の手法であるから、色むら防止を行うために、引用例1記載の技術の白色ホウロウ仕上げ反射面に代えて、引用例2記載の技術の単位反射面の反射体を用いることは当業者にとって構成上容易であったと主張する。
しかし、引用例1記載の技術が色むら防止という技術的課題を開示ないし示唆していると認めることができないことは前記1の認定のとおりであるから、原告の主張はその前提を欠くものである。
のみならず、白色ホウロウ仕上げ反射面と単位反射面とが光拡散による配光作用を得るための手法として同等であると認めるに足りる証拠はない。したがって、白色ホウロウ仕上げ反射面に代えて単位反射面を用いる動機付けがあるということはできないから、原告の主張はこの点でも失当である。
5 以上のとおり、色むら防止のために、引用例1、2記載の各技術を結びつける動機付けが得られないから、本件発明は、引用例1、2記載の各技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。したがって、これが容易であったとの理由によっては、本件発明を無効とすることはできないとした審決の認定判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。
第4 よって、原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日・平成10年6月18日)
(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)
別紙図面1
図面の簡単な説明
第1図は本発明の一実施例を示す照明装置の断面図、第2図は同上反射体の一部の斜視図、第3図は同上横断説明図、第4図同上反射光の説明図、第5図は同上単位反射面の頂角の関係図、第6図は同上反射光の作用説明図である。
1……反射体、2……照射口、3、4……ランプ、7、8……傾斜面、9……単位反射面。
<省略>
別紙図面2
<省略>
別紙図面3
<省略>