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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)17号 判決 1999年2月09日

スイス国、バーゼル、グレンツァーヘルストラッセ 124

原告

エフ・ホフマンーラ ロシュアーゲー

代表者

フリドリン クラウスナー

マンフレッド アーガスト

訴訟代理人弁理士

浅村皓

小池恒明

木川幸治

高松武生

長沼暉夫

岩井秀生

岡山県岡山市下石井一丁目2番3号

被告

株式会社林原生物化学研究所

代表者代表取締役

林原健

訴訟代理人弁護士

秋吉稔弘

安江邦治

同弁理士

須磨光夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための付加期間を30日と定める。

事実

第1  原告が求める裁判

「特許庁が平成4年審判第23900号事件について平成8年9月27日にした審決を取り消す。」との判決

第2  原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

原告は、発明の名称を「インターフエロン」とする特許第1652163号発明(以下「本件発明」という。)の特許権者である。なお、本件発明は、昭和54年11月22日に特許出願(昭和54年特許願第15083号。1978年11月24日、1979年7月31日及び1979年9月21日にアメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張)された発明の一部を、昭和58年2月25日に新たな特許出願(昭和58年特許願第29632号)としたものであって、昭和63年7月29日の出願公告(昭和63年特許出願公告第38330号)を経て、平成4年3月30日に特許権設定の登録がされたものである。

被告は、平成4年12月15日に本件発明の特許を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は、これを平成4年審判第23900号事件として審理した結果、平成8年9月27日に「特許第1652163号発明の特許を無効とする。」との審決をし、同年10月9日にその謄本を原告に送達した。なお、原告のための出訴期間として90日が付加された。

2  本件発明の特許請求の範囲

ウシ細胞MDBKの場合、比活性0.9×108~4.0×108単位/mgタンパク質を有し、ヒト細胞系AG1732の場合、比活性2×106~4.0×108単位/mgタンパク質を有し、分子量約16000±1000~約21000±1000であり、アミノ糖分が1分子当たり1残基未満であり、順相および(または)逆相高速液体クロマトグラフイーにおいて単一のピークを示すとともに、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で単一バンドを示す均質タンパク質であるヒト白血球インタフエロンを含有し、ドデジル硫酸ナトリウムおよび非インタフエロン活性タンパク質夾雑物を実質的に含まないことを特徴とする、ヒト白血球インタフェロン感受性疾患治療用医薬組成物。

3  審決の理由

別紙審決書の理由の写しのとおり(審決における甲第3号証刊行物(本件訴訟における甲第4号証)を、以下「引用例」という。なお、日本国内においては、「インターフェロン」という表記が一般的であると考えられるが、本判決においては、本件発明の特許請求の範囲の記載に即して、「インタフエロン」と表記することにする。)。

4  審決の取消事由

審決は、引用例記載の技術的事項を誤認した結果、本件発明の新規性を否定したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

なお、被告は、本件発明の要件は、後記の要件<6>中の「均質タンパク質であるヒト白血球インタフエロンを含有すること」と、後記の要件<7>のみであって、その余の要件は、ヒト白血球インタフエロンが「均質タンパク質」であると判断するための基準にすぎない旨主張するが、本件発明の技術内容を無視するものであって、失当である。

また、被告は、引用例記載の方法によって得られたインタフエロン(以下「引用例記載のインタフエロン」という。)が「pure interferon」、すなわち、純粋なインタフエロンであることを前提として、引用例に記載されていない事項を主張している。しかしながら、引用例の著者らは、引用例記載のインタフエロンを更に純粋にするために別の精製スキームを考案しているのであるから(乙第7号証の18項参照)、引用例記載のインタフエロンが、本件発明の要件であるヒト白血球インタフエロン(以下「本件発明のインタフエロン」という。)と同程度の均質タンパク質であるとは考えられない。したがって、引用例記載のインタフエロンが純粋なインタフエロンであることを前提とする被告の主張も、失当である。

(1)本件発明の「ウシ細胞MDBKの場合、比活性0.9×108~4.0×108単位/mgタンパク質を有し」の要件(以下「要件<1>」という。)について

審決は、引用例に要件<1>が記載されていることを認定していないし、得られた比活性を国際単位に換算したことも認定していない。

したがって、要件<1>の存否を、本件発明のインタフエロンと引用例記載のインタフエロン(以下「両者」という。)の相違点として認定しないのは誤りである。

(2)本件発明の「ヒト細胞系AG1732の場合、比活性2×106~4.0×106単位/mgタンパク質を有し」の要件(以下「要件<2>」という。)について

審決は、引用例記載のインタフエロンは要件<2>を満足すると認定している。

しかしながら、審決は、引用例記載の方法においてカンテル博士から供給されたインタフエロン調整物がどのような物質であり、いずれの細胞系を使用したのか認定していないし、得られた比活性を国際単位に換算したことも認定していない。

したがって、両者が要件<2>を満たす点で一致するとした認定は誤りである。

なお、本件発明の要件である比活性と、引用例記載の比活性は、異なる分母に基づいて算出されたものであるから、これらを単純に比較することは許されない。

(3)本件発明の「分子量約16000±1000~約21000±1000であり」の要件(以下「要件<3>」という。)について

審決は、引用例記載のインタフエロンの分子量が21,000d(ダルトン)又は15,000dであることは明らかである旨認定している。

しかしながら、引用例には、同記載のインタフエロンの分子量が明記されていない以上、両者が要件<3>を満たす点で一致するとした認定は誤りである。

この点について、被告は、引用例に、分子量が21,000d及び15,000dのヒト白血球インタフエロンと、タンパク質夾雑物とを含むインタフエロン調整物から、タンパク質夾雑物を効率的に分離精製して、比活性約3×108単位/mgタンパク質のインタフエロン調整物を得たことが記載されている以上、そのインタフエロン調整物に含まれるヒト白血球インタフエロンの分子量が21,000d又は15,000dであることは当然である旨主張するが、引用例記載のインタフエロンは、過沃素酸ナトリウムで酸化する等の処理を経ているから、当初の分子量が最終の分子量として維持される保証はない。

(4)本件発明の「アミノ糖分が1分子当たり1残基未満であり」の要件(以下「要件<4>」という。)について

審決は、引用例に要件<4>が記載されていないことを認めながら、引用例記載のインタフエロンが本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質といえることを考慮すると、引用例記載のインタフエロンについてアミノ糖分の分析がされていなくとも、引用例記載のインタフエロンが本件発明のインタフエロンと異なるとはいえない旨判断している。

しかしながら、引用例記載のインタフエロンが本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質であると認める理由がないことは後記(6)のとおりである。したがって、引用例の記載から、同記載のインタフエロンのアミノ糖分の数値を確定できない以上、審決の上記判断は根拠を欠くものである。

(5)本件発明の「順相および(または)逆相高速液体クロマトグラフイー(以下「HPLC」という。)において単一のピークを示す」の要件(以下「要件<5>」という。)について

審決は、引用例に要件<5>が記載されていないことを認めながら、引用例記載のインタフエロンは本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質であると認められるので、HPLCでは当然に単一のピークを示すと認められる旨判断している。

しかしながら、引用例記載のインタフエロンが本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質であると認める理由がないことは、後記(6)のとおりである。したがって、審決の上記判断は根拠を欠くものである。

(6)本件発明の「ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で単一バンドを示す均質タンパク質であるヒト白血球インタフエロンを含有し」の要件(以下「要件<6>」という。)について

審決は、引用例には「インタフエロン調整物を二次元ゲル電気泳動により分析すると、純粋なインタフェロンが得られた」ことが記載されているが、二次元ゲル電気泳動の分析精度はSDS-PAGEより優れているから、二次元ゲル電気泳動による分析で純粋とされている以上、SDS-PAGEでは単一バンドを示すと認められる旨認定している。

しかしながら、引用例に、SDS-PAGEによる分析結果が明記されていない以上、両者が「SDS-PAGEで単一バンドを示す」点で一致するとした認定は誤りである。

また、審決は、引用例に、引用例記載のインタフエロンが均質タンパク質であることは記載されていないことを認めながら、本件発明の要件である「均質タンパク質」とは、HPLCにおいて単一のピークを示すとともに、SDS-PAGEで単一バンドを示すヒト白血球インタフエロンとして純粋なタンパク質であって、少なくとも分子種α1~γ5のいずれか又はそれらの混合物を包含するものであるとしたうえ、引用例記載のインタフエロンは、二次元ゲル電気泳動で純粋であると示されていること、つまり、タンパク質として電荷及びサイズにおいて均質であって、3×108単位/mgタンパク質の比活性を持つ以上、本件発明のインタフエロンと同程度の純度であって、均質タンパク質といえる旨判断している。

しかしながら、引用例記載のインタフエロンが、HPLCにおいて単一のピークを示すとともに、SDS-PAGEで単一バンドを示すことが引用例に明記されていない以上、審決の上記判断は根拠を欠くものである。

(7)本件発明の「ドデシル硫酸ナトリウムおよび非インタフエロン活性タンパク質夾雑物を実質的に含まない」の要件(以下「要件<7>」という。)について

審決は、引用例には、引用例記載のインタフエロンが非インタフエロン活性タンパク質夾雑物を実質的に含まないことが記載されていないことを認めながら、引用例記載のインタフエロンは、タンパク質が二次元ゲル電気泳動で電荷とサイズにおいて純粋であることが示され、比活性が3×108単位/mgタンパク質である以上、非インタフェロン活性タンパク質夾雑物が含まれないことは明らかである旨判断している。

しかしながら、引用例記載のインタフエロンが本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質であると認める理由がないことは前記(6)のとおりである。したがって、審決の上記判断は根拠を欠くものである。

(8)本件発明の「ヒト白血球インタフエロン感受性疾患治療用医薬組成物」の要件(以下「要件<8>」という。)について

審決は、引用例に要件<8>が記載されていないことを認めながら、インタフエロンの比活性を検定することは、抗ウイルス活性を検定することであるから、引用例には、引用例記載のインタフエロンのインタフエロン感受性疾患に対する効果が具体的データをもって明記されており、ヒト白血球インタフエロン感受性疾患治療用という用途が実質的に記載されている旨判断している。

しかしながら、引用例には、同記載のインタフエロンの抗ウイルス活性は明記されていないから、審決の上記判断は失当である。

第3  被告の主張

原告の主張1ないし3は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は、正当であって、これを取り消すべき理由はない。

1  原告は、本件発明の要件<1>ないし<8>を、同レベルのものとして、並列している。

しかしながら、本件発明の要件は、要件<6>中の「均質タンパク質であるヒト白血球インタフエロンを含有すること」と、要件<7>のみであって、その余の要件は、ヒト白血球インタフエロンが均質タンパク質であると判断するための基準にすぎない(たがし、要件<2>の比活性は、ヒト白血球インタフエロンを同定するに足りる重要な基準である。)。したがって、本件の争点は、引用例に、上記のその余の要件が記載されているか否かではなく、「特定の比活性を有するヒト白血球インタフエロンを含有し、要件<7>を満足する医薬組成物」が記載されているか否かに尽きるのである。

また、原告は、引用例の著者らは引用例記載のインタフエロンを更に純粋にするために別の精製スキームを考案しているのであるから、引用例記載のインタフエロンが本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質であるとは考えられない旨主張する。

しかしながら、原告のいう「別の精製スキーム」、すなわち「過沃素酸塩処理による炭水化物の除去と篩クロマトグラフイーを含む別の精製スキーム」は、引用例に記載されている精製スキームにほかならないから、原告の上記主張は失当である。

2  各要件について原告の主張に反論する。

(1)要件<1>について

原告は、審決は引用例に要件<1>が記載されていることを認定していないし、得られた比活性を国際単位に換算したことも認定していないから、要件<1>の存否を両者の相違点として認定しないのは誤りである旨主張する。

しかしながら、ヒト白血球インタフエロンの比活性を、「ウシ細胞MDBK」を用いて測定することは、研究者が日常茶飯事的に行っていることである。そして、要件<1>は、前記のとおり、ヒト白血球インタフエロンが均質タンパク質であると判断するための基準の1つにすぎないから、明細書に要件<1>が記載されていないことは、両者が同一でないことの裏付けとなりえない。

ちなみに、インタフエロンの比活性は、ウイルス感染した細胞に対してみられる比活性を測定したうえ、その値を、同じ条件下で同時に測定した「国際対照インタフエロン」の値によって較正した、「国際単位」に換算して表示するのが慣行である。したがって、引用例記載のインタフエロンについても、測定値を国際単位に換算していると解するのが当然である(引用例は、学会講演要旨集であるため、その記載を省略したものと考えられる。)。

なお、原告は、本件発明の要件である比活性と、引用例記載の比活性は、異なる分母に基づいて算出されたものであるから、これらを単純に比較することは許されない旨主張するが、理由がない。

(2)要件<2>について

原告は、審決は引用例記載の方法においてカンテル博士から供給されたインタフエロン調整物がどのような物質であり、いずれの細胞系を使用したのか認定していないし、得られた比活性を国際単位に換算したことも認定していないから、両者が要件<2>を満たす点で一致するとした認定は誤りである旨主張する。

しかしながら、1977年当時、各国の研究者が、専ら、カンテル博士のグループが提供する「PIF」(又は「P-IF」。ヒト白血球インタフエロンを含む培養物を部分精製して得られる未分離組成物)を用いて臨床研究を行っていたことは周知の事項であるから、原告の上記主張は失当である。

なお、引用例記載のインタフエロンについて、測定値を国際単位に換算していると解すべきことは、前記(2)のとおりである。

(3)要件<3>について

原告は、引用例に同記載のインタフエロンの分子量が明記されていない以上、両者が要件<3>を満たす点で一致するとした認定は誤りである旨主張する。

しかしながら、引用例に、分子量が21,000d及び15,000dのヒト白血球インタフエロンと、分子量が大きいタンパク質夾雑物とを含むP-IFから、タンパク質夾雑物を効率的に分離精製して、比活性約3×108単位/mgタンパク質のインタフエロン調整物を得たことが記載されている以上、その調整物に含まれるヒト白血球インタフエロンの分子量が、21,000d又は15,000dであることは当然である。

(4)要件<4>について

原告は、引用例記載のインタフエロンが本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質であると認める理由がないとして、相違点<4>に係る審決の判断は根拠を欠く旨主張する。

しかしながら、要件<4>が、本件発明のインタフエロンが均質タンパク質であると判断する基準にすぎないことは前記1のとおりである。そして、引用例記載のインタフエロンが本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質と認められることは後記(6)のとおりであるから、少なくとも分子量15,000dのもののアミノ糖分が1分子当たり1残基未満であることは技術的に当然である。

(5)要件<5>について

原告は、引用例記載のインタフエロンが本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質であると認める理由がないとして、相違点<5>に係る審決の判断は根拠を欠く旨主張する。

しかしながら、要件<5>が、本件発明のインタフエロンが均質タンパク質であると判断する基準にすぎないことは前記1のとおりである。そして、引用例記載のインタフエロンの比活性が本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質と認められることは後記(6)のとおりであるから、引用例記載のインタフエロンが要件<5>を満足することは技術的に当然である。

(6)要件<6>について

原告は、引用例にSDS-PAGEにおる分析結果が明記されていない以上、両者が「SDS-PAGEで単一バンドを示す」点で一致するとした認定は誤りである旨主張する。

しかしながら、二次元ゲル電気泳動の分析精度はSDS-PAGEより優れているから、引用例記載のインタフェロンが二次元ゲル電気泳動による分析で純粋と認められた以上、「SDS-PAGEで単一バンドを示す」ことは技術的に当然である。

また、原告は、引用例に、同記載のインタフエロンがHPLCにおいて単一のピークを示すとともに、SDS-PAGEで単一バンドを示すことが明記されていない以上、本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質であると判断する根拠はない旨主張する。

しかしながら、引用例記載のインタフエロンが二次元ゲル電気泳動による分析で純粋と認められたということは、審決が説示しているように、「タンパク質として電荷及びサイズにおいて均質であ」ることを意味するから、引用例記載のインタフエロンは本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質といえるとした審決の判断に誤りはない。

(7)要件<7>について

原告は、引用例記載のインタフエロンが本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質であると認める理由がないとして、相違点<7>に係る審決の判断な根拠を欠く旨主張する。

しかしながら、比活性がヒト白血球インタフエロンを同定するに足りる重要な基準である以上、「二次元ゲル電気泳動でインタフエロンタンパク質が電荷とサイズにおいて純粋であることが示され」ている引用例記載のインタフエロンについて、その比活性が3×108単位/mgタンパク質であることを理由として、同インタフエロンに非インタフエロン活性タンパク質夾雑物が含まれないことは明らかであるとした審決の判断は、技術的に正当である。

(8)要件<8>について

原告は、引用例には同記載のインタフエロンの抗ウイルス活性が明記されていないから、要件<8>に係る審決の判断は失当である旨主張する。

しかしながら、インタフエロンの比活性は、抗ウイルス活性を測定しない限り知りえないものである。したがって、引用例に、同記載のインタフエロンの比活性が具体的に記載されているということは、引用例の著者が、同記載のインタフエロンのインタフエロン感受性疾患に対する治療効果を確認したことを意味するから、原告の上記主張は失当である。ちなみに、ヒト白血球インタフエロンが「制癌活性、発生阻害活性および免疫抑制活性」(本件発明の特許公報8欄41行、42行)を有することは、本件発明の特許出願前に周知の事項にすぎない。

理由

第1  原告の主張1(特許庁における手続の経緯)、2(本件発明の特許請求の範囲)及び3(審決の理由)は、被告も認めるところである。

第2  甲第3号証(特許公報)によれば、本件発明の概要は次のとおりと認められる。

1  技術的課題(目的)

本件発明は、ヒト白血球インタフエロン感受性疾患治療用医薬組成物に関するものである(4欄35行ないし5欄5行)。

天然に産出する試料中に極めて低濃度で存在する高分子のタンパク質を単離するためには、極めて多量の粗製出発物を蓄積し、かつ、処理しなくてはならない。したがって、高い経費と多くの労力が必要である(2欄5行ないし12行)。

幾つかの文献において、ヒトのインタフエロンを均質に精製したことが記載されているが、得られたタンパク質の均質性の証明はされておらず、「純粋」とされる化合物の性質も記載されていない(4欄11行ないし15行)。

本件発明は、ヒト白血球インタフエロンを化学的に特性付けることによって、新規な製造方法により十分な量の純粋なヒト白血球インタフエロンを提供することを目的とする(5欄6行ないし10行)。

2  構成

上記の目的を達成するために、本件発明は、ヒト白血球インタフエロンを、その特許請求の範囲記載のとおり、化学的に特性付けたものである(1欄2行ないし15行)。

3  作用効果

本件発明によって、普通のペプチド合成法により、あるいは、インタフエロンアミノ酸配列に相当するDNAを合成し、DNA組換え技術によって、インタフエロンを合成することが可能となった。次いで生ずる有機体は、インタフエロンを生成する能力を有するから、発酵技術を応用して、ヒト白血球インタフエロン感受性疾患治療用医薬粗製物を、商業的レベルで大規模に提供することが可能となったのである(5欄13行ないし22行)。

第3  そこで、原告主張の審決取消事由の当否について検討する。

1  被告は、本件発明の要件は、要件<6>中の「均質タンパク質であるヒト白血球インタフエロンを含有すること」と、要件<7>のみであって、その余の要件は、ヒト白血球インタフエロンが均質タンパク質であると判断するための基準にすぎない旨主張する。この主張の当否はしばらく措くとしても、原告が、引用例記載のインタフエロンは、本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質ではない旨主張していることも併せ考えると、本件発明の要件である「均質タンパク質であるヒト白血球インタフエロン」の技術的意義を確定し、引用例記載のインタフエロンがこれに該当するか否かを確認することが、本件訴訟の要点であることは明らかであるから、まずこの点を判断する。

(1)甲第3号証によれば、本件明細書には、「この新規方法により得られる均質な人の白血球のインターフエロンの種の各々は、(中略)HPLCカラム上の鋭いピークと、2-メルカプトエタノールの存在下のドデシル硫酸ナトリウム(中略)ポリアクリルアミドゲル電気泳動上の単一の狭い帯とを示した。」(8欄5行ないし10行)、「個々の種はそのまま使用することができ、或いはこのような種の2種以上の混合物を使用することもできる。」(9欄6行ないし8行)と記載され、表3ないし表6には、9種のインタフエロンについて、比活性、分子量、アミノ酸分析結果のデータの記載されていることが認められる(別紙A参照)。

これらの記載によれば、本件発明の要件である「均質タンパク質であるヒト白血球インタフエロン」とは、

a  HPLCにおいて、単一のピークを示す

b  ドデシル硫酸ナトリウム/ポリアクリルアミドゲル電気泳動において、単一のバンドを示す

c  表3ないし6記載の9種のインタフエロンのいずれか、又はそれらの混合物を含む

ものであると解するのが相当である。

(2)そして、乙第2号証によれば、DAJティレル著「インターフェロン」(共立出版株式会社昭和53年3月25日発行)の「一般性状と精製」の章には、「種々の標品中に見いだされるインターフェロン活性は千差万別であるので、異なる出発材料の相対的な純度を決定するために、mgタンパク質あたりの力価による“比活性”(specific activity)で表わすことが重要である。(中略)比活性は、またそれぞれの段階でインターフェロンの純度がどの程度増加したかを判定する上でも必要である。」(23頁21行ないし24頁1行)と記載され、24頁の表3.1には、「ニワトリ組織培養インターフェロンの精製」として、総括性、比活性、精製比、回収率のデータが記載されていることが認められる。

この記載によれば、比活性とはインタフエロンの抗ウイルス活性を表すものであって、比活性の数値が大きいほど、インタフエロンの純度の高いことが明らかである。

(3)しかるに、引用例に、比活性約106単位/mgタンパク質のインタフエロン調整物を精製して、比活性約3×108単位/mgタンパク質のインタフエロン調整物を得たが、このインタフエロン調整物を二次元ゲル電気泳動によって分析すると、純粋なインタフエロンが得られたことが示された旨記載されていることは、原告も争わないところである。

そうすると、引用例記載のインタフエロンは、二次元ゲル電気泳動の分析によってタンパク質としての電荷及びサイズが均質であることが確認され、かつ、その比活性が約3×108単位/mgタンパク質の数値を示すことも確認されているのであるから、極めて高精度の均質タンパク質であると解することができる。

(4)この点について、原告は、乙第7号証(ウイリアム イー.スチュアート2世博士の宣誓供述書。以下「乙第7号供述書」という。)及び甲第13号証(マルツェンナ ヴィラノウスカ博士の宣誓供述書。以下「甲第13号供述書」という。)の記載を援用して、引用例記載のインタフエロンが本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質であることに疑問を呈している。

検討すると、乙第7号証によれば、乙第7号供述書は引用例の著作者の1人であるスチュアート2世博士の供述書であって、その18項には、「ラスベガスにおける1978年アメリカ微生物学会年会の要旨ナンバーS202(中略)に記載したように、それぞれの最終比活性が約109単位/mgタンパク質にまで達する(up to)、2種の純粋かつ均質な形態のヒト白血球インタフエロンを得た。」(4頁10行ないし15行)と記載されていることが認められる。

上記の要旨ナンバーS202が引用例であり、また、「最終比活性が約109単位/mgタンパク質にまで達する」との記載が、インタフエロンの比活性の上限を示すものであることは明らかである。そして、引用例記載のインタフエロンは、審決認定のとおり約3×108単位/mgタンパク質の比活性を有するものであるが、この数値は、本件発明のヒト細胞系の場合の要件を満足するものであるから、乙第7号供述書の上記記載をもって、引用例記載のインタフエロンが本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質といえないとする理由は、全く存在しないというべきである。

一方、甲第13号証によれば、甲第13号供述書は、引用例の著作者の1人であるヴィラノウスカ博士の供述書であるが、その25項には、「私は、要旨に開示されている「過沃素酸塩-大きさ」ゲル法は、PIF材料から、均質なHuLe IF調整物を生成しなかったものと結論する。」(12頁27行ないし13頁2行)と記載されていることが認められる(上記の「要旨」とは、引用例のことである。)。

しかしながら、甲第13号供述書の内容は、その多くを、供述者がペニー&エドモンズLLPから受け取ったとされる「レオ エス.リンにより使用された覚書きの写し」(3頁8行ないし11行)に依拠するものであるところ、甲第13号証の2によれば、上記覚書きの写しとされるものは、作成者及び作成日付の記載を欠いており、判読困難な部分を少なからず含む不完全な文書であることが認められる。のみならず、同文書において言及されているスライド1ないし6の内容は、全く不明である。そうすると、甲第13号証の2に証拠価値を認めることはできず、したがって、これに多くを依拠している甲第13号供述書にも、証拠価値を認めることはできないといわざるをえない。

(5)以上のとおりであるから、引用例記載のインタフエロンは、本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質であると認めるのが相当である。

2  各要件について検討する。

(1)要件<1>について

原告は、審決は引用例に要件<1>が記載されていることを認定していないし、得られた比活性を国際単位に換算したことも認定していないから、要件<1>の存否を両者の相違点として認定しないのは誤りである旨主張する。

しかしながら、乙第2号証によれば、前掲DAJティレル著「インターフェロン」の「インターフェロンの定量」の章には、「よい実験をするためには測定系に未知の試料とともに常に標準標品を加えることである。このような方法によって、2つの線が得られるが、実験が満足するものであればそれらの線は平行になり、未知の試料の力価は標準標品から得られる線との間隔で表わされる。便宜上、標準標品の力価は単位数で表示されており、通常、同様な方法で国際的に認められた標準標品と比較されている。このように、インターフェロン標品中に検出される活性は、同じ標準標品を使用した世界中のどの研究所のものとも比較しうる単位で定められている。」(18頁18行ないし25行)と記載されていることが認められる。

また、乙第3号証によれば、「ザ ジャーナル オブジェネラル ヴァイロロジイ 39巻」(ケムブリッジ大学プレス1978年発行)には、「インタフエロンとインタフエロン活性測定」と題して、「HuLeIF調製物(P-IF)はカンテル博士(中略)から入手したものであり、約6×106単位/mlの活性と約106単位/mg蛋白質の比活性を有していた。インタフエロン試料は、vsvの細胞変性作用に対する防御が関与するマイクロタイター法により、GM258細胞及びMDBK細胞に対して活性測定した。いずれの活性測定系においても、ヒト白血球(インタフエロン)標準品G023-901-527(ベテスダ、米国国立衛生研究所)を較正に使用し、全結果をこの標準品に基づく単位数で表した。」(126頁19行ないし25行)と記載されていることが認められる。

さらに、乙第8号証によれば、ウイリアム イー.スチュアート2世著「ジ インタフエロン システム」(シュプリンガー-フェアラーク社1979年発行)には、「対照インタフエロンと標準インタフエロン」と題して、「どのような活性測定方法を選択しても、予測しうる様々な変動(中略)のために、測定方法が異なると、多くの場合、所与のインタフエロン調整物の見掛け上の力価が有意に変動するのが観察される。そのような変動を勘案して測定結果を調整するためには、実験標準インタフエロン調整物を測定系列ごとに組み入れなければならない。(中略)ある研究室の結果を他の研究室の結果と関連付けるには、それぞれの実験標準インタフエロンが、国際研究対照インタフエロン調整物に対して較正されていなければならない。「単位」について、このような研究室内及び研究室間の標準化がされていなければ、色々な研究室の結果を同等に扱うことができないこととなったであろう。(中略)そこで、数種類の国際対照インタフエロンが、国立医学研究所(ロンドン)及び国立衛生研究所(ペデスダ)から入手できることになった。」(25頁下から3行ないし26頁13行)と記載されていることが認められる。

以上の事実によれば、引用例が頒布された当時、ヒト白血球インタフエロンの比活性をウシ細胞MDBK等を使用して測定し、得られた測定値を「国際単位」に換算することが技術常識であったことは明らかである。そして、引用例の著作者らが、あえてこの手段を採用しなかったと考えるべき理由は全く存在しない。

したがって、要件<1>に関する原告の主張は、失当である。

(2)要件<2>について

原告は、審決は、引用例記載の方法においてカンテル博士から供給されたインタフエロン調整物がどのような物質であり、いずれの細胞系を使用したのか認定していないし、得られた活性値を国際単位に換算したことも認定していないから、両者が要件<2>を満たす点で一致するとした認定は誤りである旨主張する。

しかしながら、乙第3号証によれば、前掲「ザ ジャーナル オブ ジェネラル ヴァイロロジイ 39巻」には、「ヒト繊維芽細胞(GM258と命名)は、哺乳類(Mammalian)遺伝子変異体細胞貯蔵所(カムデン、ニュージャージー)から入手した。」(126頁13行、14行)、「インタフエロン試料は、(中略)GM258(中略)によって比活性を測定した。」(同頁21行、22行)と記載されていることが認められる。

また、乙第9号証によれば、シドニィ ペスカ編「インタフエロン パートA」(アカデミック プレス社1981年発行)には、「インタフエロン活性測定用の細胞系」として、「細胞 AG-1732」、「起源 ヒト皮膚」、「形態 繊維芽」、「出所 ヒト(Human)遺伝子変異体細胞貯蔵所、カムデン、ニュージャージー(以下略)」と記載されていることが認められる。

以上の事実によれば、引用例が頒布された当時、ヒト白血球インタフエロンの活性値をヒト細胞AG1732(または、これと同種のヒト繊維芽細胞)を使用して測定し、得られた測定値を「国際単位」に換算することが技術常識であったことは明らかである。そして、引用例の著作者らが、あえてこの手段を採用しなかったと考えるべき理由は全く存在しない。

したがって、要件<2>に関する原告の主張は、失当である。

(3)要件<3>について

原告は、引用例に同記載のインタフエロンの分子量が明記されていない以上、両者が要件<3>を満たす点で一致するとした認定は誤りである旨主張する。

しかしながら、乙第1号証によれば、引用例には、「ヒト白血球インタフエロン(HuLeIF)調整物は分子の大きさが相違する2つの群(中略)からなり、ドデシル硫酸ナトリウム/ポリアクリルアミドのゲル(SDS/PAGE)中で電気泳動すると、21,000ダルトン(d)と15,000dに抗ウイルス活性のピークを作って移動する。HuLeIF調整物(中略)は、k.カンテル(中略)から供給されたものであって(比活性約106インタフエロン単位/mgタンパク質)、SDS/PAGEで測定すると、分子量が約67,000dと25,000dの2つの主たるタンパク質夾雑物を含有している。過沃素酸酸化によって25,000dのタンパク質夾雑物が選択的に沈殿する一方、分子量排除カラムにより67,000dの夾雑物を低分子量のインタフエロンタンパク質から効率的に分離して、比活性約3×108単位/mgタンパク質のインタフエロン調整物を得たことが判明した。そして、このインタフエロン調整物を二次元ゲル電気泳動によって分析すると、純粋なインタフエロンが得られたことが示された。」(246頁「S202」の項の5行ないし28行)と記載されていることが認められる。

この記載によれば、k.カンテル(中略)から供給されたヒト白血球インタフエロンは、抗ウイルス活性を示す分子量21,000dと15,000dのタンパク質、及び、分子量約67,000dと25,000dの夾雑物を含有するが、夾雑物を分離精製することによって純粋なインタフエロンが得られたのであるから、引用例記載のインタフエロンの分子量が21,000dと15,000dであることは技術的に明らかというべきである。

したがって、要件<3>に関する原告の主張は、理由がない。

(4)要件<4>について

原告は、引用例記載のインタフエロンが本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質であると認める理由はないとして、相違点<4>に係る審決の判断は根拠を欠く旨主張する。

しかしながら、引用例記載のインタフエロンは、前記1のように、本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質であると認められるから、そのアミノ糖分は、当然に1分子当たり1残基以上であることはないと解するのが相当である。

したがって、要件<4>に関する原告の主張は、理由がない。

(5)要件<5>について

原告は、引用例記載のインタフエロンが本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質であると認める理由はないとして、相違点<5>に係る審決の判断は根拠を欠く旨主張する。

しかしながら、引用例記載のインタフエロンが、前記1のように、本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質であると認められる以上、引用例記載のインターフエロンをHPLCによって分析すれば、当然に単一のピークを示すと解するのが相当である。

したがって、要件<5>に関する原告の主張は、理由がない。

(6)要件<6>について

原告は、引用例にSDS-PAGEによる分析結果が明記されていない以上、両者が「SDS-PAGEで単一バンドを示す」点で一致するとした認定は誤りである旨主張する。

しかしながら、引用例記載のインタフエロンは、前記1のように、本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質であると認められる。そして、引用例には、同記載のインタフエロンを二次元ゲル電気泳動によって分析すると、純粋なインタフエロンが得られたことが示された旨記載されているが、二次元ゲル電気泳動が試料を直交する2方向に泳動させて分析するものであって、1方向にのみ泳動させて分析するSDS-PAGEより高精度の分析方法であることは技術常識であるから、引用例記載のインタフエロンをSDS-PAGEによって分析すれば、当然に単一バンドを示すと解するのが相当である。

したがって、要件<6>に関する原告の主張は、理由がない。

(7)要件<7>について

原告は、引用例記載のインタフエロンが本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質であると認める理由はないとして、相違点<7>に係る審決の判断は根拠を欠く旨主張する。

しかしながら、引用例記載のインタフエロンは、前記1のように、本件発明のインタフエロンと同程度の均質タンパク質であると認められるから、当然にドデシル硫酸ナトリウムおよび非インタフエロン活性タンパク質夾雑物を実質的に含まないと解するのが相当である。

したがって、要件<7>に関する原告の主張は、理由がない。

(8)要件<8>について

原告は、引用例には同記載のインタフエロンの抗ウイルス活性が明記されていないから、要件<8>に係る審決の判断は失当である旨主張する。

検討すると、甲第3号証によれば、本件明細書には、「インターフエロン類は抗ウイルス活性、制癌活性、発生阻害活性および免疫抑制活性を示した。」(8欄41行、42行)と記載されている(なお、表4には、本件発明のインタフエロンのバーキットリンパ腫細胞に対する発生阻害活性が記載されている)ことが認められる。したがって、本件発明のヒト白血球インタフエロン感受性疾患治療用医薬組成物の医薬用途には、抗ウイルス活性性、制癌活性、発生阻害活性、免疫抑制活性が含まれるものと認められる。

一方、乙第1号証によれば、引用例には、前記のとおり、引用例記載のインタフエロンの比活性を測定し、「約3×108単位/mgタンパク質」の数値を得たことが記載されているが、インタフエロンの比活性を測定するということは、インタフエロンの抗ウイルス活性を検定することにほかならない。このように、引用例に、同記載のインタフエロンの抗ウイルス活性が具体的データをもって記載されている以上、引用例には、ヒト白血球インタフエロン感受性疾患治療用という医薬用途が記載されているというべきである。

したがって、要件<8>に関する原告の主張も、理由がない。

3  以上のとおりであるから、本件発明は引用例に記載されているとした審決の認定判断は、正当であって、審決には原告主張のような誤りはない。

第4  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための期間付加について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成11年1月26日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

理由

Ⅰ.本件特許第1652163号(以下、本件特許という)は、昭和54年11月22日(優先権主張1978年11月24日、1979年7月31日、及び1979年9月21日、アメリカ合衆国)に出願した特願昭54-15083号の一部を昭和58年2月25日に新たな特許出願として出願され、昭和63年7月29日に出願公告(特公昭63-38330号)された後、平成4年3月30日に設定登録がなされたものであって、本件特許発明の要旨は、出願公告された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりの

「ウシ細胞MDBKの場合、比活性0.9×108~4.0×108単位/mgタンパク質を有し、ヒト細胞系AG1732の場合、比活性2×106~4.0×108単位/mgタンパク質を有し、分子量約16000±1000~約21000±1000であり、アミノ糖分が1分子当たり1残基未満であり、順相および(または)逆相高速液体クロマトグラフイーにおいて単一のピークを示すとともに、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で単一バンドを示す均質タンパク質であるヒト白血球インタフェロンを含有し、ドデシル硫酸ナトリウムおよび非インタフェロン活性タンパク質夾雑物を実質的に含まないことを特徴とする、ヒト白血球インタフェロン感受性疾患治療用医薬組成物。」にあるものと認める。

Ⅱ.これに対して、請求人の提出した上記特許出願の優先権主張日前アメリカ合衆国において頒布された刊行物であることが明らかな甲第3号証(エル・エス・リン等「第78回 アメリカ微生物学会年会講演要旨集」第S202講演、ネバタ州、ラスベガス(1978年))には、

<1>「ヒト白血球インターフェロン(HuLeIF)調製物は分子の大きさが相違する二つの群(populations)からなり、ドデシル硫酸ナトリウム/ポリアクリルアミドゲル(SDS/PAGE)中で電気泳動すると、21,000ダルトン(d)と15,000dに抗ウイルス活性のピークを伴って移動する。」(翻訳文第1頁下から第11行~6行)、

<2>「HuLeIF調製物(『PIF』と言う。)は、ケー・カンテル(K.Cantell)氏から供給されたものであり(比活性約106インターフェロン単位/mg蛋白質)、SDS/PAGEで測定すると分子量約67,000dと分子量約25,000dの二つの主たる蛋白質夾雑物を含有する。」(同第1頁下から第6行~第2行)

<3>「PIF調製物を過沃素酸ナトリウム緩衝剤により穏やかに酸化した後、50%エチレングリコールで希釈し、沈澱蛋白質を遠心分離して除去した。凍結乾燥して上清液を濃縮し、(水性媒体を加えて)元の体積とし、セファクリルS-200クロマトグラフィーカラムに掛け、燐酸緩衝剤で溶出させた。蛋白質/活性プロフィル(溶出曲線)により、過沃素酸酸化により25,000dの夾雑物蛋白質が選択的に沈澱する一方、分子量排除カラムにより、67,000dの夾雑物が低分子量のインターフェロン蛋白質から効率的に分離し、比活性約3×108単位/mg蛋白質のインターフェロン調製物を得たことが判明した。次いで、このインターフェロン調製物を二次元ゲル電気泳動により分析すると、純粋なインターフェロンが得られたことを示す。」(同第1頁第末行~第2頁第末行)

と記載されている。

上記<3>において得られたインターフェロン(以下、本件特許の特許請求の範囲における記載と同じ表記のインタフェロンと記す。)は、原料として<2>の記載からヒト白血球インタフェロンであるPIF(比活性約106インタフェロン単位/mg蛋白質)を用いて、精製方法として<3>に記載された過沃素酸酸化により25,000dの夾雑蛋白質を沈澱させ、分子量排除カラムにより、67,000dの夾雑物を分離した、二次元ゲル電気泳動による分析で純粋であることを示した、比活性約3×108単位/mg蛋白質であり、更に<1>の記載より、インタフェロン活性をもつものであることから、この分子量が21,000d又は15,000dであること、及び上記精製法ではドデシル硫酸ナトリウムを使用しないことから、これを含まないことは明らかである。そうすると、比活性が3×108単位/mgタンパク質を有し、分子量が21,000d又は15,000dであり、一般に二次元ゲル電気泳動の分析精度はSDS-PAGEより優れているものと認められるから、二次元ゲル電気泳動による分析で純粋である以上、SDS-PAGEで単一バンドを示すヒト白血球インタフェロンが記載されているものと認められる。

Ⅲ.本件特許発明と甲第3号証に記載の発明と比較検討すると、ヒト白血球インタフェロンにおいて、比活性、分子量、SDS-PAGEで単一バンドを示すこと及びドデシル硫酸ナトリウムを含まないことで両者は一致し、本件特許発明はさらにヒト白血球インタフェロンが、アミノ糖分が1分子当たり1残基未満であること、順相および(または)逆相高速液体クロマトグラフイー(HPLC)において単一のピークを示すこと、均質タンパク質であること、非インタフェロン活性タンパク質夾雑物を実質的に含まないこと及びヒト白血球インタフェロン感受性疾患治療用医薬組成物と限定しているのに対して、甲第3号証にはこれらの点について明記されていないので、これらの点において一応相違するものと認められる。

Ⅳ.そこで、これらの点を以下に検討する。

まず、本件特許発明における「均質タンパク質」について検討する。

本件特許明細書には、「均質タンパク質」の明確な定義は記載されていないが、

ⅰ. 上記文献のいくつかはマウスまたは人のインタフェロンを均質に精製したと述べているが、タンパク質の均質性の古典的証明が与えられておらず、あるいは記載されている純粋といわれる化合物の性質は記載されていない。

(第30頁下から第5~末行)

ⅱ. この新規方法により得られる均質な人の白血球のインタフェロンの種の各々は、前述のHPLCカラム上の鋭いピークと、2-メルカプトエタノールの存在下のドデシル硫酸ナトリウム(NaDodSO4)ポリアクリルアミドゲル電気泳動上の単一の狭い帯とを示した。

(第40頁第5~10行)

ⅲ. 本発明の1つの面である精製された均質なインタフェロン類は、従来用いられた粗製の製剤と同じ方法で投与量を調整して望むレベルのインタフェロン単位を与えるようにして使用することができる。個々の種はそのまま使用することができ、或いはこのような種の2種以上の混合物を使用することもできる。このような混合物は単離した種を望むように混合することによって得ることができ、或いはインタフェロンの幾つかの種が存在するが、非インタフェロンの活性なタンパク質が存在しないところで精製を停止し、組成物が均質なインタフェロンタンパク質の混合物であるようにすることによって、得ることができる。

(第41頁第8行~第42頁第4行)

ⅳ. インタフェロンの産生の誘導、インタフェロンの初期濃度およびゲル濾過を含むインタフェロンの分別はこの分野でよく知られた方法を用いて達成することができる。不純な状態のインタフェロンタンパク質の水溶液を精製するこれらの操作は本発明の一部ではない。

(第43頁第1~6行)

ⅴ. 表3~表6にはインタフェロンの種α1~γ5までの比活性、分子量、アミノ酸分析結果等のデータ

が記載されている。これらの記載からみると、本件特許発明における均質タンパク質とは、特許請求の範囲に記載されているHPLCにおいて単一のピークを示すとともに、SDS-PAGEで単一パンドを示すヒト白血球インタフェロンとして純粋なタンパク質であって、純粋タンパク質には少なくとも分子種α1~γ5のいずれか又はそれらの混合物を包含するものと認められる。

また、比活性とは精製されたタンパク質mg当たりのインタフェロンの抗ウイルス活性を表わすものである。これは比活性の数値が大きいほど不純物であるタンパク質が存在する割合が小さいことを意味し、すなわち、ヒト白血球インタフェロンの純度が高いことを意味するものである。

そうすると、甲第3号証に記載されているヒト白血球インタフェロンは、二次元ゲル電気泳動で純粋であると示されていること、つまり、タンパク質として電荷及びサイズにおいて均質であって、比活性が3×108単位/mgタンパク質の比活性をもつ以上、本件特許発明のインタフェロンと同程度の純度であるといえるものである。

したがって、甲第3号証におけるインタフェロンは均質タンパク質といえるものである。

次に、アミノ糖分が1分子当たり1残基未満であることについて検討する。

甲第3号証にはインタフェロンにおけるアミノ糖分について何等記載されていないが、これはアミノ糖分についての分析がされていないことが示されているのであって、分析がされていないことのみでは、本件特許発明におけるインタフェロンとの物質の異同の根拠となるものではないし、本件特許のインタフェロンは上述のように均質タンパク質であるといえることを考慮すると、これをもって、両者のインタフェロンが異なるとはいえない。

そして、順相および(または)逆相高速液体クロマトグラフイーにおいて単一のピークを示すことについては、上記に述べたように甲第3号証のインタフェロンは本件特許発明と同程度に均質なタンパク質であると認められるので、当然にHPLCでは単一のピークを示すものと認められる。

また、非インタフェロン活性タンパク質夾雑物を実質的に含まないことについて検討する。

二次元ゲル電気泳動でインタフェロンタンパク質が電荷とサイズにおいて純粋であること示され、比活性が3×108単位/タンパク質である以上、本件特許発明と同じくインタフェロンを除く他の非インタフェロン活性タンパク質夾雑物が含まれないことは明らかである。

更に、ヒト白血球インタフェロン感受性疾患治療用医薬組成物について検討する。

インタフェロンの比活性を検定することは、ウイルス名は記載されていないが、抗ウイルス活性を検定しているものであることが明らかである以上、抗ウイルス活性というインタフェロン感受性疾患に対する効果が具体的データをもって明記されている。

したがって、甲第3号証には、ヒト白血球インタフェロン感受性疾患治療用という用途が実質的に記載されているものと認められる。

以上の結果、甲第3号証には、複数のインタフェロン分子種に分離することは記載されておらず、得られたヒト白血球インタフェロンが、本件明細書に記載されている分子種α1~γ5に相当するか否かはわからないが、上記したとおり、比活性、分子量などの本件特許発明の限定を満足するヒト白血球インタフェロンが記載されているものと認められる。

したがって、本件特許発明は、甲第3号証にはヒト白血球インタフェロンは記載されているものである。

Ⅴ.なお、被請求人は、乙第1号証(The Interferon System,Springer-Verlag,Wien-New York,1979、178-181頁)、乙第2号証(Dr.Peter Lengyelの宣誓口供書)、乙第8号証(レンジェルの宣誓供述書)、乙第9号証(スチュアート、“The Interferon System”(第2版、1981年)、179頁)、乙第10号証(フィーニイ博士の宣誓供述書)、乙第11号証(アンフィンゼン教授の宣誓供述書)及び乙第12号証(ルピンシュタインの宣誓供述書)を提出して、

(イ)甲第3号証は、過沃素酸塩酸化の条件(過沃素酸ナトリウムのモル濃度、処理時間についての記載等)、ゲルクロマトグラフィーの条件、セファクリルS200の使用についての詳細(たとえば、カラムサイズ、溶出緩衝液もしくは溶媒、流速等)ならびに比活性の測定に使用された生物学的検定法およびタンパク質検定法に関する科学的に詳細な記述に欠けているものであり、文章を支持するデータが全く示されていないから、そこに記載されているインタフェロンが見掛け上の均質性を有するものと結論し得ないこと、及び、

(ロ)甲第3号証に記載されているヒト白血球インタフェロンは変性されたものであって、天然のものでない

と主張しているが、以下の理由でこの主張は採用できない。

(イ)について

請求人が提出した甲第25号証(ウィリアム・イー・スチュアート二世博士による宣誓供述書)には

「13. 私は、日本国、岡山にある株式会社林原生物科学研究所と利害関係を有しない。

18. 1978年、純粋にして均質な形態のヒト白血球インタフェロンを取得すべく、私と私の同僚は、過沃素酸塩処理による炭水化物部分の除去と篩クロマトグラフィーを含む別の精製スキームを考案した。この精製スキームは、ラスベガスでの1978年アメリカ微生物学会年会の講演要旨S202及び1978年のハーグでの第4回国際ウィルス学会議の講演要旨W2/2に記載したように、それぞれ最終比活性が約109単位/mg蛋白質の2種類の純粋にして均質な形態のヒト白血球インタフェロンに到達した。

19. 過沃素酸塩処理にための特定の条件は、それ以前、『プロシーディング・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ・ユー・エス・エー』、第74巻、第4,200乃至4,204頁(1977年)に報告されていた。すなわち、カリ・カンテル博士から供与された比活性約106単位/mg蛋白質の部分精製ヒト白血球インタフェロン調製物(P-IF)を0.02Mメタ過沃素酸ナトリウムで処理し、0.1M酢酸ナトリウム緩衝液を調合し、氷酢酸でpH4.5に調製した。P-IFを等容量のこの過沃素酸緩衝液で希釈し、反応期間中、暗所にて4℃に保った後、50%(v/v)エチレングリコール溶液により1:10に希釈して反応を停止させた。次いで、反応混合物を遠心分離して精製した沈澱物を除去し、上清液を0.03M NH4HCO3緩衝液(pH7.6)に対して透析し、凍結乾燥し、燐酸緩衝化した生理食塩水に溶解し、セファクリルS-200カラムによりクロマトグラフし、抗ウイルス活性を伴なう二つの主たるピーク画分を別々に採取した。これら画分は、ヒト細胞及びウシ細胞に対して比活性約3×108単位/mg蛋白質を有する、純粋にして均質な形態のヒト白血球インタフェロンを含んでいた。この人白血球インターフェロン形態は、二次元SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動において約15,000ダルトン及び約21,000ダルトンの分子量に相当する単一スポットを示し、前者は炭水化物部分を欠失している可能性が高かった。

20. 私と私の同僚は、P-IFを過沃素酸塩処理すると、遠心分離により除去可能な綿状沈澱を起こし、上清液にインタフェロン活性が残ることを初めて見出した。沈澱した蛋白質は、蛋白質性夾雑物のみからなり、これは、篩クロマトグラフィーに際して、ヒト白血球インタフェロン中に溶出することが判明していた。したがって、過沃素酸塩処理によりそれらを除去することは、(過沃素酸塩処理し、遠心分離した後の)清澄化された調製物中のそれ以外の夾雑蛋白質がより高分子量域(約67,000ダルトン)にあったことから、篩クロマトグラフィーによるP-IFの精製を著しく容易ならしめた。

このことは、「蛋白質及び活性プロフィルは、過沃素酸塩酸化が25,000ダルトンの夾雑蛋白質を選択的に沈澱させる一方、篩カラムクロマトグラフィーが低分子のインターフェロン蛋白質から67,000ダルトンの夾雑物を効率的に分離し、比活性約3×108単位/mg蛋白質のインタフェロン調製物を与えたことを明らかにした」と述べられているように、ラスベガス講演要旨により明確に裏付けられている。

23. ・・・・私の知識と経験によれば、過沃素酸塩を極めて温和な条件、例えば、低温、低濃度、暗所及び短時間用いれば、最も可能性ある作用部位は、一般に、糖蛋白質の炭水化物側鎖ということになり、一方、感受性あるアミノ酸側鎖は例えば、さらに長時間反応させるなど、より苛酷な条件下でのみ攻撃を受ける。

温和は処理は、すでに沈澱した夾雑蛋白質にのみ作用したのであるから、私達が単離した純粋にして均質な形態のヒト白血球インタフェロンに過沃素酸塩が少しでも作用したと確信をもって言うことはできない。処理時間が長くなると、明らかに、インタフェロン活性が低下する。したがって、上記条件下では、ヒト白血球インタフェロンは変性しなかったと考えられる。精製のため短時間処理したことにより、もし、なんらかの活性が失われたとしても、ほとんどないに等しい程度であれば、斯かる温和な酸化がヒト白血球インタフェロンをなんらかの意味で「変性した」とか、ヒト白血球インタフェロンに悪影響を及ぼしたとする証左があるということには絶対にならない。」

同じく、請求人の提出した甲第26号証(ダブリュ・イー・スチュアート二世ら『プロシーディング・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンンーズ・ユー・エス・エー』、第74巻、第10号、第4,200乃至4,204頁(1977年))には、

「過沃素酸塩処理 メタ過沃素酸ナトリウム(0.02M)を0.1M酢酸ナトリウム緩衝液中に調合し、氷酢酸により最終pHを4.5に調製した。

この試薬をフォイルにくるんだ瓶中で4℃に保存したところ、数週間に亙って同一の結果を与えた。

インタフェロン試料を等容量の過沃素酸塩緩衝液で希釈し、特定の時間、4℃に保った後、0.1mlずつとり、50%(v/v)エチレングリコール溶液で1:10に希釈して反応を停止させた。」

と記載されている。

そして、甲第25号証の宣誓供述書は、テキサス州の公証人Dan Orosed SR.が証明しており、信用できるものと認められる。

そうすると、甲第3号証に記載されているヒト白血球インタフェロンの分子量、比活性及び二次元ゲル電気泳動で純粋であることを示したことは客観的事実と認められるし、甲第3号証にはヒト白血球インタフェロンの精製方法が詳細に記載されていないが、公知文献である甲第26号証に記載されている方法で精製されたヒト白血球インタフェロンであることが認められる。そして、甲第25号証の第19項の供述でのゲルクロマトグラフィーの条件、セファクリルS200の使用条件をみると、本件特許の出願前の技術水準からみて、特殊なものとは認められない。また、比活性の検定に使用された生物学的検定法およびタンパク質検定法についても、甲第3号証の原料であるP-IF、生成物を初めとして、インタフェロンの調製物については比活性を表示することが通常であるから、これらが詳細に記載されてないことをもって、甲第3号証における比活性が3×108単位/mgタンパク質のヒト白血球インタフェロンが得られていないとはいえない。

したがって、乙第2号証及び乙第8号証の宣誓供述内容はインタフェロンの精製方法及び比活性のアッセイの方法の詳細が記載されていないことを根拠に比活性が3×108単位/mgが得られていないというものであるから、上述したように、これによって、甲第3号証に記載されているインタフェロンが得られなかったとはいえない。

(ロ)について

乙第1号証、乙第2号証、乙第8~12号証には、インタフェロンは過沃素酸塩酸化によって、なんらかの化学的修飾されたインタフェロンが得られている旨の記載又は宣誓供述があるが、インタフェロンが過沃素酸塩で化学的修飾つまり、変性されているとすれば、乙第8号証の供述のようにインタフェロンの活性が低下、すなわち、比活性が低下するものである。しかし、甲第3号証のインタフェロンは、比活性は3×108単位/mgであり、しかも、二次元ゲル電気泳動で純粋であることが示されているのであるから、変性されたインタフェロンであるとは認められない。

たとえ、過沃素酸塩酸化で変性を受けていたとしても、本件特許の特許請求の範囲には変性されたインタフェロンを除くことは記載されていないし、明細書にも、変性されていないインタフェロンのみに限定されているものと解することができる記載はない。

したがって、前記被請求人の主張(イ)及び(ロ)は採用できない。

Ⅵ.以上のとおりであるから、本件特許発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第1号に該当する。

別紙A

表3 CHL細胞からの白血球インターフエロンの精製

* 再クロマトグラフ処理後

** HDBK(牛)細胞について決定した活性;標準として牛の血清を用いて測定したタンパク質

表4

* NaDodSO4ポリアクリルアミドゲル電気泳動で2つの帯が得られ、分子量は主要な帯のものである。

** Stewart et al.、Nature 262、300(1976)の方法。

表5 人の白血球のインターフエロンのアミノ酸分析

精度±1.5残基

* 両方の帯の混合物の組成

<省略>

表6

人の白血球のインターフエロンのトリプシンペプチド

<省略>

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