大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

東京高等裁判所 平成9年(行ケ)172号 判決 1998年10月20日

東京都台東区台東一丁目5番1号

原告

凸版印刷株式会社

代表者代表取締役

藤田弘道

訴訟代理人弁理士

高山恒

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官

伊佐山建志

指定代理人

米田昭

下中義之

田中弘満

廣田米男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  原告が求める裁判

「特許庁が平成6年審判第21723号事件について平成9年5月8日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

第2  原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成元年12月28日に考案の名称を「液体用紙容器等の注出口栓」とする考案(以下「本願考案」という。)について実用新案登録出願(平成1年実用新案登録願第151948号)をしたが、平成6年12月1日に拒絶査定を受けたので、同年12月27日に拒絶査定不服の審判を請求し、平成6年審判第21723号事件として審理された結果、平成9年5月8日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受け、同年6月11日にその謄本の送達を受けた。

2  本願考案の実用新案登録請求の範囲(別紙図面A参照)

容器本体の取付孔周面部に対応するフランジ部を有して容器本体の内方側から取り付けられる注出口栓において、

前記取付孔の内周縁に対応する周面部分に複数個の突起部を設け、該突起部の下端部が、前記フランジ部から容器本体の構成部材の厚さ寸法より大きい高さの位置にくるようにしたことを特徴とする液体用紙容器等の注出口栓。

3  審決の理由

別紙審決「理由」写しのとおり

4  審決の取消事由

引用例に審決認定の技術的事項が記載されていることは認める。しかしながら、審決は、本願考案と引用例記載の考案との対比を誤った結果、本願考案の新規性を否定したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)一致点の認定の誤り

a 審決は、引用例記載の「複数個の仮止用突起」は本願考案の要件である「複数個の突起部」に相当する旨認定している。

しかしながら、本願考案の要件である突起部は、それ自体が変形する柔軟なものであり、したがって、突起部の外周が取付孔の径より大きいにもかかわらず、注出口栓の取付けに際して取付孔の内周縁を傷付けることがない。これに対して、引用例記載の仮止用突起は、後記のように先細のテーパー状に形成された筒状部周壁面に設けられているものであるから、注出口の取付けに際して容器開口周縁の傷付きは問題とならず、係止用突起それ自体が変形する柔軟なものである必要はない。したがって、引用例記載の仮止用突起は、本願考案の要件である突起部に相当するとはいえないから、審決の上記認定は誤りである。

b また、審決は、本願考案と引用例記載の考案は容器本体の取付孔の内周縁に対応する周面部分に複数個の突起部を設けた点で一致する旨認定している。

しかしながら、本願考案の要件である注出口栓の周面部分は、容器本体の取付孔の内周縁に対応してこれとほぼ平行に向かい合うものである(したがって、注出口栓の取付けに際して、取付孔の内周縁の傷付きが問題となる。)。これに対して、引用例記載の考案の注出口の筒状部周壁面は、別紙図面B第2図に図示されているように、先細のテーパー状に形成されたものであるから、容器開口周縁に対応してこれとほぼ平行に向かい合うものとはいえない(したがって、注出口の取付けに際して、容器開口周縁の傷付きは問題とならない。)。このように、引用例記載の考案には、本願考案の要件である「容器本体の取付孔の内周縁に対応する周面部分」に相当するものが存在しないから、審決の上記認定も誤りである。

(2)不明点の判断の誤り

審決は、本願考案が「突起部の下端部が、フランジ部から容器本体の構成部材の厚さ寸法より大きい高さの位置にくる」構成を採用したのは、注出口栓を包装容器に簡単に装着でき、かつ、注出口栓が容器から脱落しないように仮止めするためであるとしたうえ、不明点は表現上の差異であって技術的に有意差はない旨判断している。

しかしながら、本願考案が不明点に係る構成を採用したのは、注出口栓の周面部分に設けられているそれ自体が変形する柔軟な突起部が、注出口栓の押込み方向とは逆の方向へ十分変形するようにして、容器本体の取付孔内周縁の傷付きを防止するためであるから、審決の上記判断は前提を誤ったものである。

第3  被告の主張

原告の主張1ないし3は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

1  一致点の認定について

(1)原告は、本願考案の要件である突起部は、それ自体が変形する柔軟なものであるのに対して、引用例記載の仮止用突起はそれ自体が変形する柔軟なものである必要がないから、引用例記載の仮止用突起は、本願考案の要件である突起部に相当するとはいえない旨主張する。

しかしながら、本願考案の実用新案登録請求の範囲にはその要件である突起部の材質等は記載されておらず、突起部それ自体が変形する柔軟なものであることも記載されていないから、原告の上記主張は本件考案の構成に基づかないものであって失当である。

(2)また、原告は、本願考案の要件である注出口栓の周面部分は、容器本体の取付孔の内周縁に対応してこれとほぼ平行に向かい合うものであるのに対して、引用例記載の考案の注出口の筒状部周壁面は、容器開口周縁に対応してこれとほぼ平行に向かい合うものとはいえないから、引用例記載の考案には本願考案の要件である「容器本体の取付孔の内周縁に対応する周面部分」に相当するものが存在しない旨主張する。

しかしながら、本願考案の実用新案登録請求の範囲における「取付孔の内周縁に対応する周面部分」との記載によって表される構成は、容器本体の取付孔内周縁と注出口栓の周面部分とがほぼ平行に向かい合うものに限定されないから、原告の上記主張は本願考案の構成に基づかないものであって失当である。ちなみに、引用例には「周壁面9には(中略)先細状テーパーを付けておくと、容器穿設開口13への挿入等に有利である。」(6頁4行ないし6行)と記載されているのであるから、引用例記載の考案の注出口の筒状部周壁面を先細のテーパー状に形成されたものに限定する理由もない。

2  不明点の判断について

原告は、本願考案が不明点に係る構成を採用したのは、注出口栓の周面部分に設けられているそれ自体が変形する柔軟な突起部が注出口栓の押込み方向とは逆の方向へ十分変形するようにして、容器本体の取付孔内周縁の傷付きを防止するためであるから、不明点に関する審決の判断は前提を誤っている旨主張する。

しかしながら、本願考案の要件である突起部がそれ自体変形する柔軟なものに限定されないことは前記のとおりであるから、原告の上記主張も本願考案の構成に基づかないものであって失当である。

理由

第1  原告の主張1(特許庁における手続の経緯)、2(本願考案の実用新案登録請求の範囲)及び3(審決の理由)は、被告も認めるところである。

第2  甲第2号証(願書添付の明細書、図面)及び第3号証(手続補正書)によれば、本願考案の概要は、次のとおりと認められる(別紙図面A参照)。

1  技術的課題(目的)

本願考案は、ジュース等を入れる紙容器等に用いられる注出口栓に関するものである(明細書1頁14行、15行)。

この種の注出口栓は、容器本体の取付孔の内側から取り付け、栓のフランジ部を取付孔の内周縁に溶着して固定するものであるが(同1頁17行ないし2頁9行)、その工程中に注出口栓が容器本体から脱落しないように、栓のフランジ部に突起部を設け、栓を容器本体に仮止めすることが行わている(同2頁9行ないし18行)。

しかしながら、上記の突起部を容器本体の部材の厚さの位置に設けると、第7図に図示されているように、突起部aが変形して容器本体の外側に抜けることができず、注出口栓の仮止めが不完全になるおそれがある。また、この状態で注出口栓を容器本体の外側へ強く押し出すと、第8図に図示されているように取付孔bの内周縁cが傷付くおそれがある(同3頁2行ないし11行)。

本願考案の目的は、取付孔内周縁の外観を損なうことなく、容器本体に確実に仮止めできる注出口栓を創案することである(4頁1行ないし6行)。

2  構成

上記の目的を達成するため、本願考案は、その実用新案登録請求の範囲記載の構成を採用したものである(手続補正書3枚目2行ないし6行)。

3  作用効果

本願考案によれば、注出口栓取付けの際、仮に突起部が変形しても、必ず取付孔内周縁を乗り越えて容器本体の外側に抜けるので、栓を確実に仮止めすることができ、取付孔内周縁の外観を損なうこともない(明細書10頁12行ないし11頁8行)。

第3  そこで、原告主張の審決取消事由の当否について検討する。

1  一致点の認定について

(1)原告は、本願考案の要件である突起部は、それ自体が変形する柔軟なものであるのに対して、引用例記載の仮止用突起はそれ自体が変形する柔軟なものである必要がないから、引用例記載の仮止用突起は本願考案の要件である突起部に相当するとはいえない旨主張する。

しかしながら、本願考案の実用新案登録請求の範囲には、その要件である突起部について、それ自体が変形する柔軟なものであることは記載されていないから、原告の上記主張は、本願考案の構成に基づかないものであって失当である。

(2)また、原告は、本願考案の要件である注出口栓の周面部分は、容器本体の取付孔の内周縁に対応してこれとほぼ平行に向かい合うものであるのに対して、引用例記載の考案の注出口の筒状部周壁面は、先細のテーパー状に形成されたものであって、容器開口周縁に対応してこれとほぼ平行に向かい合うものとはいえないから、引用例記載の考案には、本願考案の要件である「容器本体の取付孔の内周縁に対応する周面部分」に相当するものが存在しない旨主張する。

しかしながら、本願考案の実用新案登録請求の範囲には「取付孔の内周縁に対応する周面部分」と記載されているのみであるから、この記載が表す構成を、容器本体の取付孔内周縁と注出口栓の周面部分とがほぼ平行に向かい合うものに限定されることを前提とする原告の上記主張も、本願考案の構成に基づかないものであって失当である。ちなみに、本願考案において、容器本体の取付孔内周縁と注出口栓の周面部分は、容器本体と注出口栓とを溶着し固定することができるような位置関係で対応しておればよいと解されるから、別紙図面Bに図示されている構成がこれに該当しないとする理由はない。

(3)以上のとおりであるから、一致点に関する審決の認定に誤りはない。

2  不明点の判断について

原告は、審決は、本願考案が「突起部の下端部が、フランジ部から容器本体の構成部材の厚さ寸法より大きい高さの位置にくる」構成を採用したのは、注出口栓を包装容器に簡単に装着でき、かつ、注出口栓が容器から脱落しないように仮止めするためであるとした上で、不明点は表現上の差異であって技術的に有意差はない旨判断しているが、本願考案が不明点に係る構成を採用したのは、注出口栓の周面部分に設けられているそれ自体が変形する柔軟な突起部が、注出口栓の押込み方向とは逆の方向へ十分変形するようにして、容器本体の取付孔内周縁の傷付きを防止するためであるから、審決の上記判断は前提を誤ったものである旨主張する。

原告の上記主張は、本願考案の要件である突起部が特定の性状のものに限定されることを前提とするものであるが、これが本願考案の構成から離れた不当なものであることは、前記のとおりである。のみならず、本願考案が不明点に係る構成を採用した理由が、注出口栓を容器本体に確実に仮止めすると同時に、容器本体の取付孔内周縁の傷付きを防止することにあるとしても、そのような作用効果が「筒状部周壁面下側に鍔状周縁部上より該注出口取付容器の紙厚の4~5倍の間隙を隔てて仮止用突起を複数個設けた」引用例記載の考案の構成によっても得られることは技術的に明らかであるから、原告の上記主張は採用の余地がない(念のため付言すると、原告は、一方において、本願考案の要件である突起部はそれ自体が変形する柔軟なものであるから、容器本体の取付孔内周縁を傷付けることがない旨主張しながら、他方において、本願考案が不明点に係る構成を採用したのは、注出口栓の取付けに際して突起部が注出口栓の押込み方向とは逆の方向へ十分変形するようにして取付孔内周縁の傷付きを防止するためである旨主張するのであって、原告の主張は首尾一貫しない憾みがある。)。

以上のとおりであって、不明点に関する審決の判断にも誤りはないから、本願考案の新規性を否定した審決の認定判断に原告主張のような違法はない。

第4  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成10年10月6日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

別紙図面A

<省略>

1……注出口栓

2……注出具

6……フランジ部

9……突起部

10……隙間

B……取付孔

C……内周縁

D……容器本体構成部材の厚さ寸法

E……フランジ部と突起部の基端部との間隔寸法

F……隙間の寸法

別紙図面B

<省略>

1……注出口

2……蓋

3……薄肉部(切離部)

4……薄肉部(ヒンジ部)

5……筒状部

6……鈎状係止片

7……係止用突起

8……突出摘み部

9……周壁面

10、11……仮止用突起

12……鍔状周縁部

13……容器開口部分

14……容器閉口周縁

S……開隙

理由

Ⅰ 本件出願は、平成1年12月28日の実用新案登録出願であって、その後、平成8年9月17日付けで手続補正されたが、該手続補正は、平成8年12月18日付けで、実用新案法第41条の規定により準用する特許法第159条第1項の規定によって更に準用する特許法第53条第1項の規定により補正却下の決定がなされ、該決定は確定している。

したがって、本件出願の実用新案登録を受けようとする考案は、平成6年9月12日付けで手続補正された明細書及び願書に最初に添附した図面の記載からみて、実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの

『容器本体の取付孔周面部に対応するフランジ部を有して容器本体の内方側から取り付けられる注出口栓において、

前記取付孔の内周縁に対応する周面部分に複数個の突起部を設け、該突起部の下端部が、前記フランジ部から容器本体の構成部材の厚さ寸法より大きい高さの位置にくるようにしたことを特徴とする液体用紙容器等の注出口栓。』

である。

Ⅱ これに対し、平成8年9月17日付けで通知した拒絶理由において引用した、本件出願の出願前に国内において頒布された実願昭60-81850号(実開昭61-196921号)の明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(以下「引用例」という。)には、筒状体下部に鍔状周縁部を設けてなる合成樹脂製注出口において、筒状部周壁面下側に鍔状周縁部上より注出口取付容器の紙厚の4~5倍の間隔を隔てて、注出口取付穴へ仮止めする仮止用突起を複数個設けた包装容器の注出口、が記載されている。

Ⅲ 引用例の上記記載及び図面の記載を総合して、本件出願の考案と引用例に記載されたものを対比すると、引用例に記載されたものにおける「包装容器」、「注出口取付穴」、「鍔状周縁部」、「合成樹脂製注出口」及び「複数個の仮止用突起」は、本件出願の考案の「液体用紙容器等」、「取付孔」、「フランジ部」、「容器本体の内方側から取り付けられる注出口栓」及び「複数個の突起部」にそれぞれ相当するから、引用例には実質的に、容器本体の取付孔周面部に対応するフランジ部を有し、容器本体の内方側から取り付けられる注出口栓の、取付孔の内周縁に対応する周面部分に、フランジ部上より容器の紙厚の4~5倍の間隔を隔てて複数個の突起部を設けた液体用紙容器等の注出口栓(以下「引用考案」という。)、が開示されているといえる。

してみると、本件出願の考案と引用考案とは、容器本体の取付孔周面部に対応するフランジ部を有して容器本体の内方側から取り付けられる注出口栓において、前記取付孔の内周縁に対応する周面部分に複数個の突起部を設けた液体用紙容器等の注出口栓であることで一致することは明らかであるが、突起部を設けた位置が、本件出願の考案においては、突起部の下端部がフランジ部から容器本体の構成部材の厚さ寸法より大きい高さの位置であり、引用考案においては、フランジ部上より容器の紙厚の4~5倍の間隔を隔てた位置である点(以下「不明点」という。)に、両者間に技術的に意味のある差異があるか否か直ちに判断できない。

次いで、この不明点について考察する。

この引用考案の紙厚は、容器本体の構成部材の厚さ寸法を意味することは明らかであり、また、上記の「フランジ部上より容器の紙厚の4~5倍の間隔を隔てた位置」の技術的な意味は、本件出願の考案と同じく、包装容器への注出口栓の仮止めを簡単確実に行うことを目的としているものであることからみて、注出口栓を包装容器に簡単に装着でき、且つ注出口栓は容器から脱落することが無いように仮止めするに必要な間隔を隔てた位置であり、しかも、突起部とフランジ部の間隔は、紙厚すなわち容器本体の構成部材の厚さ寸法より大きい、と解するのが相当である。

一方、本件出願の考案の突起部の下端部がフランジ部から容器本体の構成部材の厚さ寸法より大きい高さの位置の意味するところは、その目的からみて、注出口栓を包装容器に簡単に装着でき、且つ注出口栓は容器から脱落することが無いように仮止めするに必要な高さの位置と認められる。

結局上記不明点は、本件出願の考案が突起部の位置を容器本体の構成部材の厚さ寸法との相対的な大小関係で規定したのに対し、引用考案はその位置を具体的数値範囲で規定したことに伴う差異、すなわち考案の表現上の差異に留まり、両者は、技術的思想として有意差はなく同一であるという他ない。

Ⅳ 以上のとおりであるから、本件出願の考案は実用新案法第3条第1項第3号に規定された考案に該当し、本件出願の考案について実用新案登録を受けることができない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例