東京高等裁判所 平成9年(行ケ)179号 判決 1998年9月22日
東京都千代田区丸の内3丁目2番3号
原告
株式会社ニコン
代表者代表取締役
吉田庄一郎
訴訟代理人弁理士
岡部正夫
同
本宮照久
名古屋市中区葵3丁目21番19号
被告
株式会社メニコン
代表者代表取締役
田中恭一
訴訟代理人弁理士
朝日奈宗太
同
佐木啓二
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
特許庁が平成5年審判第4792号事件について平成9年5月22日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
被告は、「メニコン」の片仮名文字を横書きにしてなり、指定商品を商品の区分(平成3年9月25日政令第299号による改正前の商標法施行令による商品の区分。以下同じ。)第10類の「医療機械器具」とする商標登録第2468156号商標(昭和50年7月31日商標登録出願、昭和51年11月17日出願公告、平成4年10月30日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。原告は、平成5年3月31日、被告を被請求人として、上記商標登録の無効の審判を請求し、平成5年審判第4792号事件として審理され、平成9年5月22日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受け、平成9年6月23日にその謄本の送達を受けた。
2 審決の内容
審決の内容は、別添審決書「理由」の写し記載のとおりである。
3 審決を取り消すべき事由
審決理由中、商標登録第1095387号商標(昭和45年1月14日登録出願、昭和49年11月8日登録。以下「引用商標A」という。)及び商標登録第686563号商標(昭和39年6月24日登録出願、昭和40年10月2日登録。以下「引用商標B」という。)は、それぞれ別紙商標目録1(1)、(2)に示す構成よりなり、第10類「理化学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)光学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)写真機械器具、映画機械器具、測定機械器具(電子応用機械器具に属するもの及び電気磁気測定器を除く)医療機械器具、これらの部品及び附属品(他の類に属するものを除く)写真材料」を指定商品とするものであること、商標登録第648586号商標(昭和38年3月29日登録出願、同39年7月25日登録。以下「引用商標C」という。)は、「ENIKON」の欧文字を横書きにしてなり、第10類「理化学機械器具、光学機械器具、写真機械器具、映画機械器具、測定機械器具、医療機械器具、これらの部品及び附属品、写真材料」を指定商品とするものであること、上記の各引用商標は、いずれも現に有効に存続するものであることは認める。
(1) 取消事由1
(イ) 審決は、本件商標と引用商標Cとの類否に関して、「本件商標より生ずる「メニコン」と引用商標Cより生ずる「エニコン」の称呼を比較するに、両称呼は、冒頭音において「メ」と「エ」の差異を有するものである。そして、その相違する前者の「メ」の音は、両唇を密閉し有声の気息を鼻腔に通じて発する通鼻音であるのに対して、後者の「エ」の音は、舌面位置を中心として発する有声の開放音であって、両音は、その調音位置、調音方法等からみて、音質を異にするといえるものである。」と認定し、本件商標と引用商標Cとの類似性を認めず、本件商標の登録が商標法4条1項11号に違反してされたものではないと判断した。
(ロ) しかしながら、「メ」の音は、両唇を密閉し有声の気息を鼻腔に通じて発する鼻子音(m)と母音(e)との結合した音節であり、また、「メ」の子音部を構成する(m)は、両唇音であり、かつ、呼気のはき方は通鼻音の欄に分類されていることからすると、審決における「メ」の音の説明は、「メ」の音の発声を説明するものではなく、単に「メ」の音を構成している子音(m)の発声を述べているにすぎないものである。したがって、審決が、単に「メ」の音を構成する子音部(m)の音と「エ」の音とを比較しているにすぎず、本来比較されなければならない「メ(me)」の音と「エ(e)」の音とを比較しているものではないことは明らかである。
そこで、本来比較されるべき「メ(me)」の音と「エ(e)」の音とを実際の称呼の発音に即して考えると次のようになる。「メ(me)」の音を構成する子音「m」と母音「e」とは一体不可分の関係にあり、「me」で音節の一単位をなし、「m」はその一単位の一部分であるとともに、持続子音としてしばらく聞こえるものではなく、開放子音として働くものである。そして、「m」が解放子音として働くが故に「メ(me)」の音は、その母音部を構成する「e」が発声の主となるのである。
また、「m」のような上下の唇を使う両唇音は、とかくあいまいになりがちであることから、「メ(me)」の音の発声の主となるのは、その母音部を構成する(e)であり、故に「メ(me)」の音と「エ(e)」の音とは、発声上、大きな違いがないことが分かる。
このように、「メ(me)」の音と「エ(e)」の音とが大きな違いなく発音されることに鑑みると、両音の差異がたとえ冒頭音にあったとしても、その差異が全体の称呼に及ぼす影響は小さく、本件商標より生ずる称呼「メニコン」と引用商標Cより生ずる称呼「エニコン」とを一連に称呼するときには、その語感、語調において互いに相紛らわしく、聴き誤るおそれがあるというべきである。
(ハ) したがって、本件商標は、引用商標Cと称呼上類似するものであって、本件商標と引用商標Cとの類似性を認めず、本件商標の登録が商標法4条1項11号に違反してされたものではないと判断した審決は、誤っているから、取り消されるべきである。
(2) 取消事由2
(イ) 審決は、本件商標と引用商標A、Bとの類否に関して、「「メニコン」の片仮名文字が同一の書体、同一の大きさで同間隔に、まとまりよく一体的に表示されていて、全体としての称呼も簡潔であって一連に称呼し得るものであるから、その構成全体をもって不可分一体のものとして理解されるとみるのが相当である。そして、他に、この認定を左右するに足る資料も見出せない。」、「本件商標は、その構成文字に相応して、「メニコン」の称呼のみ生ずるものといわなければならない。」と認定し、本件商標と引用商標A、Bとの類似性を認めず、本件商標の登録が商標法4条1項11号に違反してされたものではないと判断した。
(ロ) しかし、審決は、本件商標の使用態様及びその変遷等の取引の実情を考慮することなく本件商標から生ずる称呼を特定して本件商標から生ずる称呼の認定をしたものであって、その認定は誤っている。
すなわち、被告は、被告の商品である「メニコン8」に関する広告として、昭和46年1月から昭和51年11月までの約6年にわたって、甲第7号証、甲第8号証にあるような態様の「メニコン」商標を使用し、これを学会雑誌の広告や駅の構内の看板に表示していた。当該広告、看板中の「メニコン」の部分からは、「ニコン」の文字が顕著に表され、当該「ニコン」の文字の前にはカタカナの「メ」を表したとは容易に想起されず、むしろ、ローマ字の「f」を表したかのように思える図案が配されていると認識され得る態様となっていた。したがって、このような態様をもって表された「メニコン」商標の広告に接した者は、「ニコン」の文字に引き付けられ、これらの文字のみが独立しているように映り、その結果、当該広告により「ニコン」の印象を非常に強く焼き付けられたのである。被告は、昭和46年1月以降、本件商標に関連する「メニコン」商標の使用態様を変遷させ、「ニコン」の文字の前に配された図案を時の経過とともに徐々にカタカナの「メ」に近づけて、全体を一連の「メニコン」商標として使用するようになっていった。被告が「ニコン」の文字が顕著に表された態様の「メニコン」商標を6年もの長期間にわたり継続して使用し、更に、その後も徐々にその態様を一連の「メニコン」に変化させてきたという特別な事情があるために、本件商標「メニコン」からは「ニコン」の文字が独立して認識されるのであって、「ニコン」の称呼が生じるのである。
言い換えると、同書同大に表された商標であっても、取引の実情とあいまって、その一部のみが浮かび上がってみえ、その部分のみをもって商標が認識されることがあるということである。被告による「ニコン」と読みうるような態様での本件商標の使用は、昭和46年1月から昭和51年11月までであるかもしれないが、コンタクトレンズという商品が市場に出始めたばかりであり、一般の人々にとってはコンタクトレンズそのものもが新奇であった時代に6年もの間、「ニコン」の文字のみが独立して目に飛び込んでくるような態様をもって使用していれば、需要者、取引者をして「ニコン」の印象が非常に強く焼きつけられ、それが今日においても脳裏をかすめることになるのは必至である。
したがって、本件商標の使用態様及びその変遷等の取引の実情を考慮することなく本件商標から生ずる称呼を特定して商標の類否を判断した審決は、本件商標から生ずる称呼の認定を誤ったものである。
(ハ) 被告は、前記のような使用態様は、あくまで商品「コンタクトレンズ」についてであって、本件商標の指定商品である「医療機械器具」についてではないことからしても、そのような使用の事実が本件商標の称呼の認定に影響を及ぼすものではないと主張するが、本件商標が単に「医療機械器具」についてのみ使用されるものではなく、被告会社のハウスマークとして使用されるのであるならば、「コンタクトレンズ」についての使用をも考慮されてしかるべきである。
(ニ) また、本件商標から「ニコン」の文字が独立して認識きれ、ニコンの称呼をも生ずるとの結論に至らなければならないにもかかわらず、審決は、単に本件商標の構成文字から「メニコン」の称呼のみが生ずるとして本件商標と引用商標A、Bとの間における類似性を判断している。このことは、審決においては、被告が「ニコン」の文字を顕著に表した態様をもって「メニコン」商標を使用していたこと等の実際の取引の実情及び本件商標中に著名な「ニコン」の文字が含まれているということが考慮されていないことを意味するものである。
しかし、原告商標の「ニコン」は、著名であるところ、本件商標「メニコン」は、これを構成する4文字中の3文字として「ニコン」の文字をひとまとまりに含むのであるから、本件商標からは「ニコン」の文字が独立して認識され、「ニコン」の称呼が生じるのである。ところが、審決は、「ニコン」が著名であることを認めながらも、本件商標と引用商標A、Bとの類否判断において「ニコン」の著名性を考慮した判断は一切していない。
(ホ) このように、本件商標の使用態様及びその変遷、原告の「ニコン」の商標の著名性などは、本件商標の称呼の認定に少なからず影響を及ぼすものであり、これらを考慮することなく本件商標から生ずる称呼を「メニコン」のみであると認定し、本件商標と引用商標A、Bとの類似性を認めず、本件商標の登録が商標法4条1項11号に違反してされたものではないと判断した審決は、誤っており、取り消されるべきである。
(3) 取消事由3
(イ) 審決は、原告が調査した結果を記載し、審判請求理由補充書に添付して提出した調査報告書(甲第14号証)に一切触れることなく、本件商標は原告の業務に係る商品と出所の混同を生じるおそれがある商標ではなく、本件商標の登録は商標法4条1項15号に違反してされたものではないと判断した。
(ロ) 原告は、「メニコン」と「ニコン」とが混同を生ずることなく、全く関連のない別会社の製品であると認識されているか否かという点について、上記報告書のとおり、298名の一般需要者(眼鏡使用者、コンタクトレンズ使用者及びそのどちらでもない者のそれぞれ約100名ずつ)を対象として調査を行った。その結果によると、主なコンタクトレンズ商品について、そのメーカー名が一般にどの程度認知されているかというコンタクトレンズ商品の認知度については、被告の製品である「メニコンスーパーEX」については全体の3.4%の者がそのメーカー名を「ニコン」と回答しており、実際にコンタクトレンズのみ、または、コンタクトレンズを主に使用している者にあっては、7.1%の者がそのメーカー名を「ニコン」と誤認しているという結果が出ている。原告は、実際にはコンタクトレンズの販売は行っていないにもかかわらず、このように被告の製品を原告の製品であると誤認している者がいるということは、両者は、実際に出所の混同を生じているという事実を示すにほかならないものである。また、コンタクトレンズ及び眼鏡レンズの分野におけるレンズメーカーの関連会社に関する調査では、調査対象者全体の29.9%の者、すなわち、約3割の者が「ニコン社」と「メニコン社」とが関連会社であるかのように誤認しており、更には、これをコンタクトレンズを主に使用する者を対象とすると38.8%の者が両社を関連会社であるかのように誤認しているという結果が出ている。
上記調査結果の数字は、需要者をして、ある会社と別の会社とが関連会社であるか否かを正確には認識していないことを物語るものである。そして、約3人に1人が「ニコン」と「メニコン」とが関連会社であると認識していることそれのみをもって、両者は、混同を生ずるおそれがあると考えられるべきである。
このような調査結果は、「ニコン」と「メニコン」との間で実際に商品の出所の混同を生ずるおそれがあることを推し量るための物差しとして十分に考慮されなければならないものである。しかるに、審決は、上記調査報告書に一切触れることなく両者の出所の混同についての判断をしているのであって、これは、商標法4条1項15号の解釈適用を誤ったものであって、取り消されるべきである。
(ハ) 被告は、原告は、原告商標を「ニコン」と称しているが、引用商標A及びBは「ニコン」ではないと主張している。しかし、「ニコン」は、引用商標A、Bから自然に生ずる称呼をそのまま表したものであり、「ニコン」と引用商標A、Bとは社会通念上同一と考えられるものである。また、「ニコン」ブランドは日本の代表的なブランドとして世界中に浸透しており、引用商標(特に引用商標A)は、「Nikon(ニコン)」ブランドを象徴する商標として認識されている。更には、商標法4条1項15号の趣旨は、商品の出所の混同を生ずるおそれがある商標の登録を排除することにあることからすると、世界的に著名な「ニコン」ブランドと出所の混同を生ずるおそれがある商標は、その登録を排除されるべきである。これらの点に鑑みると、原告商標を「ニコン」と称しても何ら問題はないものである。
(ニ) 被告は、上記調査結果は、商品「コンタクトレンズ」についての調査であるか、せいぜい「眼鏡レンズ」についての調査にしかすぎず、本件商標が指定商品とする「医療用機械器具」を対象としたものではなく、したがって、本件と全く関係のない商品ないしはそのメーカー名として行われた調査にすぎないから、本件審決において考慮されるべきではない旨主張するが、商品の出所の混同を生ずるおそれがあるか否かを判断する場面においては、「医療機械器具」と「コンタクトレンズ、眼鏡レンズ」との関連性が考慮されてしかるべきである。
(ホ) 被告が提出した調査報告書に示されている関連会社の認識に開する調査票(乙第1号証)は、被告に有利に作用する内容で作成されており、この調査結果をもって、「ニコン」と「メニコン」とが混同を生ずるおそれはないとすることはできない。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1及び2は認め、3は争う。
2 被告の反論
(1) 取消事由1について
原告は、「メ(me)」の音と「エ(e)」の音とは、発声上、大きな違いがないと主張するが、そのようなことは決してなく、むしろ、単に母音のみの「エ(e)」と、子音及び母音からなる「メ(me)」とでは称呼上明確な違いがある。
実際上、本件商標と引用商標Cに即して称呼を検討すれば、本件商標における「メ」の称呼が鼻音「m」と母音「e」の結合により柔和に「メ」と発音されるのに対し、引用商標Cにおける「エ」の称呼は、それが語頭にあることとあいまって、それ自体硬く発音されること、また、両商標とも4音という比較的少ない音より構成されていることなどから、これら両商標をそれぞれ全体として聞知するとき、両者間には識別しうるに充分な語韻語調の差が存在するのであるから、両者は、称呼上非類似の関係にある。
(ロ) また、医療機械器具分野において、本件商標が著名性を有するのに対し、引用商標Cについては、なんらの使用事実もない。すなわち、現実の取引場裡において、引用商標Cは、全く無名の未使用商標なのであり、かっては登録商標「Nikon」との連合関係においてのみ存続しえた商標であるにすぎない。したがって、仮に本件商標と引用商標Cとが同一市場に共存したとしても、本件商標の著名性が既に確立している以上、本件商標は、被告会社のハウスマークとしてひときわ高く認識され、引用商標Cとは彼此相紛れることなく充分に自他商品の識別力を発揮する商標である。
(2) 取消事由2について
(イ) 原告は、本件商標「メニコン」から「ニコン」の称呼が生ずると主張し、その根拠として、被告が当初(昭和46年1月から51年11月まで)「ニコン」と読みうるような態様で本件商標を使用してきたとする。しかしながら、かかる態様によっても、直ちに、本件商標から「ニコン」の称呼が生ずるものではない。
加えて、本件商標の態様は、その出願当初から、一貫して同書同大に表された「メニコン」であるから、かかる事情を考慮する必要もない。更には、被告のそのような使用の態様は、あくまで商品「コンタクトレンズ」についてであって、本件商標の指定商品である「医療機械器具」についてではない。したがって、上記使用の事実が本件商標の称呼の認定に何ら影響を及ぼすものではない。
なお、商標法4条1項11号に該当するか否かの判断時期は、査定時又は審決時である。本件商標の登録出願についての拒絶査定不服審判の審決時は、平成4年4月30日であるから、昭和46年から昭和51年の使用の事情を取り上げても、本件商標が商標法4条1項11号に該当するか否かの判断の材料にはなりえない。
したがって、本件商標「メニコン」から「メニコン」なる称呼が生ずるとする審決の認定に何ら誤りはない。
(ロ) 原告は、審決は、「ニコン」が著名であることを認めながらも、本件商標と引用商標A、Bとの類否判断において「ニコン」の著名性を考慮した判断は一切していないなどと主張している。しかしながら、そもそも本件商標の構成が著名商標を一部に含むものであるという前提が誤りであり、本件商標は「メニコン」として一体の商標である。これをことさら著名商標を一部に含む商標と解することはできない。
(ハ) したがって、原告の主張にかかわらず、本件商標は、商標法4条1項11号に何ら該当するものではないから、本件審決に誤りはない。
(3) 取消事由3について
(イ) 原告は、「メニコン」と「ニコン」が商品の出所の混同を生ずると主張するが、これは誤りである。原告は、原告商標を「ニコン」と称しているが、正しくは引用商標A、Bは、別紙のとおりの構成であって、「ニコン」ではない。
(ロ) 原告は、調査報告書(甲第14号証)を提出し、商品「コンタクトレンズ」についてメニコン社の製品であるにもかかわらず、メーカー名を「ニコン」と誤認している者がいるという結果が出ており、両者は実際に出所の混同を生じているなどと主張する。
しかし、これらの調査結果は商品「コンタクトレンズ」についての調査であるか、せいぜい「眼鏡レンズ」についての調査にしかすぎず、本件商標が指定商品とする「医療用機械器具」を対象としたものではない。すなわち、本件商標は「医療用機械器具」を指定商品とするものであるから、前記調査結果は、本件と全く関係のない商品ないしはそのメーカー名として行われた調査にすぎないものであるから、本件審決において考慮されるべきものではなかったのである。
また、上記調査報告書によれば、「ニコン」と「メニコン」が混同を生ずると原告が主張する率は29.9%にすぎず、逆に、「ニコン」と「メニコン」が関連会社でないと正しく答えた者が70.1%もあったということは、いささかも混同を生じないものであることを物語っている。
商標法4条1項15号は、具体的な出所の混同を問題にするのであるから、本件における指定商品「医療機械器具」についての調査でなければ意味がないことは明らかである。
(ハ) 被告が行ったアンケート調査(乙第1号証)の調査対象者は、本件指定商品「医療機械器具」に直接携わる「医療機器卸業者、販売業者、眼科医」であって、商品「眼内レンズ」についての被告の認知度に関し調査を行ったところ、この結果報告書によれば、「メニコン」と「Nikon」が関連会社であると回答した者は全体の3%にすぎず、他の会社と関連会社であると回答した者などと比較しても最も低い率となっている。しかも、眼内レンズ取扱者のみの率でいえば、「メニコン」と「Nikon」が関連会社であると認識した者の率はわずか1%にすぎないという結果が出ている。このことは、商品「医療機械器具」の分野で「メニコン」と「Nikon」がいかに商品の出所の混同を生ずるおそれがないものであるかを明白に示すものである。したがって、取引の実情を考慮すれば、本件商標が商標法4条1項15号に該当するものでないことは明らかである。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(審決の内容)は当事者間に争いがない。
第2 審決を取り消すべき事由について判断する。
1 本件商標が「メニコン」の片仮名文字を横書きしてなり、指定商品を第10類の「医療機械器具」とする登録商標であること、引用商標A、Bがそれぞれ別紙商標目録1(1)、(2)に表示のとおりの構成からなり、第10類「理化学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)光学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)写真機械器具、映画機械器具、測定機械器具(電子応用機械器具に属するもの及び電気磁気測定器を除く)医療機械器具、これらの部品及び附属品(他の類に属するものを除く)写真材料」を指定商品とする登録商標であること、引用商標Cが「ENIKON」の欧文字を横書きにしてなり、第10類「理化学機械器具、光学機械器具、写真機械器具、映画機械器具、測定機械器具、医療機械器具、これらの部品及び附属品、写真材料」を指定商品とする登録商標であること、上記各引用商標は、いずれも現に有効に存続するものであることは、原告の認めるところである。
2 取消事由1について
(1) 本件商標と引用商標Cとを対比するに、本件商標は、「メニコン」の片仮名文字を横書きにしてなるものであるのに対し、引用商標Cは、「ENIKON」の欧文字を横書きにしてなるものであって、前者は片仮名文字の構成であるのに対し、後者は欧文字の構成であるから、外観的形象において相違していることは明らかである。また、本件商標の「メニコン」も引用商標の「ENIKON」も、いずれも造語であって、そこに何の観念も生じないから、「メニコン」の文字から「エニコン」という観念が生じることもない。
(2) 本件商標からは「メニコン」との称呼が生じ、引用商標からは「エニコン」との称呼が生じ、両称呼はいずれも4音で構成されており、その冒頭音が、前者は「メ(me)」の音であるのに対し、後者は「エ(e)」の音である点で差異があることは、明らかである。
甲第2号証及び弁論の全趣旨によれば、「メ(me)」の音は、両唇を密閉し有声の気息を鼻腔に通じて発する鼻子音(m)と母音(e)との結合した音節で、一体不可分の音節として「メ」と発音するものであることが認められる。他方、「エ」の音は、母音(e)のみの音節であるから、「メ」の音と「エ」の音が相違することは明らかである。そして、「メニコン」も「エニコン」も前記のとおり、4音という比較的短い音で構成されており、そのうちの冒頭音が相違する音であれば、これを聞く者は、特段の困難なく2語を聞き分けることができるものというべきであって、称呼上、「メニコン」が「エニコン」と類似するということはできない。
(3) 原告は、「メ(me)」の音を構成する子音「m」と母音「e」とは一体不可分の関係にあり、「me」で音節の一単位をなし、「m」はその一単位の一部分であるとともに、持続子音としてしばらく聞こえるものではなく、開放子音として働くものであり、「m」が解放子音として働くが故に「メ(me)」の音は、その母音部を構成する「e」が発声の主となり、また、「m」のような上下の唇を使う両唇音は、とかくあいまいになりがちであることから、「メ(me)」の音の発声の主となるのは、その母音部を構成する(e)であり、故に「メ(me)」の音と「エ(e)」の音とは、発声上、大きな違いがないので、両音の差異がたとえ冒頭音にあったとしても、その差異が全体の称呼に及ぼす影響は小さく、本件商標より生ずる称呼「メニコン」と引用商標Cより生ずる称呼「エニコン」とを一連に称呼するときには、その語感、語調において互いに相紛らわしく、聴き誤るおそれがあるとの趣旨の主張をする。
しかしながら、「m」が解放子音として働くかどうかを論ずるまでもなく、冒頭音として端的に「メ(me)」と発声する限り、「m」から母音「e」に移行していくことを考える必要はないのであって、必ずしも「メ(me)」の音につき、その母音部を構成する「e」が発声の主となるということはできない。
また、仮に、「m」のような上下の唇を使う両唇音が、あいまいになりがちであったとしても、4音という比較的短い音で構成されている商標の冒頭音として発声する場合に、特段の理由もなくあいまいな発声のされる場合を考慮する必然性はなく、「メ(me)」の音と「エ(e)」の音とが、発声上、大きな違いがないとはいえない。
そうすると、原告の上記主張は、その前提を欠くことになり、採用の限りでない。
(4) なお、被告の反論(1)(ロ)の主張について検討すると、次のとおりである。
(イ) 甲第7号証ないし甲第10号証、甲第11号証の1ないし7、乙第2号証の1、2によれば、被告の前身である日本コンタクトレンズ株式会社(東洋コンタクトレンズ株式会社に商号変更。被告は同社の販売部門が分離したもの。以下「被告」と総称する。)は、昭和32年7月創業のコンタクトレンズ製造会社であり、我が国で最初に国産のコンタクトレンズの製造に成功するとともに、その販売にも力を入れ、昭和46年頃から、日本コンタクトレンズ学会会誌に本件商標を使用した自社商品の広告を掲載したり、駅の構内に本件商標を使用した看板を設置したりして自社のコンタクトレンズの広告宣伝を行い、積極的に営業活動を展開していたこと、被告は、創業以来、コンタクトレンズの改良に努め、ハードコンタクトレンズのほか、ソフトコンタクトレンズを製造し、また、素材等の改良も続けており、素材から、レンズ、ケース、洗浄液に至るまで一貫して生産していること、被告は、昭和57年当時には、コンタクトレンズ分野において約40%のシェアを有する同業界のトップメーカーとなり、月本国内のみならず、世界7か国に販売会社を設置しており、その頃までには、医療器具の製造にも乗り出しており、現在に至っていることが認められる。
上記認定の事実によれば、本件商標は、本件商標の登録出願についての拒絶査定不服の審判の審決時である平成4年4月30日の当時には、被告の商品を表示するものとして、コンタクトレンズの需要者、取引者のみならず、医療機械関連の業者等の間においても周知となっていたものと認めるのが相当である。
(ロ) 他方、引用商標Cは、上記審決当時において、原告の商品表示として使用されていた形跡を窺うことができない。
(ハ) そうすると、被告の主張するとおり、本件商標は、引用商標Cとは彼此相紛れることなく充分に自他商品の識別力を発揮する商標であると認められる。
(5) したがって、原告主張の取消事由1は理由がなく、本件商標と引用商標Cとの類似性を認めず、本件商標の登録が商標法4条1項11号に違反してされたものではないと判断した審決の判断は相当である。
3 取消事由2について
(1) 本件商標と引用商標A、Bとを対比するに、上記のとおり、本件商標は「メニコン」の片仮名文字を横書きにしてなるものであるのに対し、引用商標Aは、別紙商標目録1(1)に表示のとおり、「Nikon」の欧文字をゴシック体で横書きにしてなるもの、引用商標Bは、別紙商標目録1(2)に表示のとおり、上記の引用商標Aの文字を長円で囲んだものであって、前者は片仮名文字の構成であるのに対し、後者は欧文字の構成であるから、外観において相違していることは明らかである。また、本件商標の「メニコン」は、前記認定のとおり、造語であって何の観念も生じないのに対し、引用商標A、Bは、造語であるものの、後記認定のとおり、きわめて著名な商標であって、「株式会社ニコンの社標」の観念を生じるものである。そうすると、「メニコン」からは何の観念も生じないのであるから、「株式会社ニコンの社標」という観念が生じることもないというべきである。
(2) 本件商標からは「メニコン」との称呼が生じ、引用商標A、Bからはいずれも「ニコン」との称呼が生じることは明らかである。そこで、両称呼を対比するに、前者は4音で構成されているのに対し、後者は3音の構成であって構成音数が異なっそおり、しかも、前者にある冒頭音「メ」を欠いている点で相違しているものである。
(3) 原告は、取引の実情を考慮すると、被告は、被告の商品である「メニコン8」に関する広告として、昭和46年1月から昭和51年11月までの約6年にわたって、別紙商標目録2(1)、(2)にあるような「ニコン」の文字が顕著に表された態様の「メニコン」商標を継続して使用し、更に、その後も徐々にその態様を一連の「メニコン」に変化させてきたという特別な事情があるために、本件商標「メニコン」からは「ニコン」の文字が独立して認識されるのであって、「ニコン」の称呼が生じるのである旨主張する。
甲第7号証ないし甲第10号証、甲第11号証の1ないし7によれば、昭和46年1月頃から昭和51年9月頃までの約6年にわたって、別紙商標目録2(1)、(2)のとおり、「メニコン」の冒頭の「メ」の片仮名文字を、その後の「ニコン」の文字より大きくし、しかも、ローマ字の「f」をイタリック体のような字体で表記しているため、「ニコン」の文字が独立して認識されうる構成となっていたことが認められる。
しかしながら、表示の態様をみると、別紙商標目録2(1)については、「メニコン」の後に数字の「8」を、下には「直径8ミリ話題を呼ぶ今一番新しい緑のコンタクトレンズ」という語句を伴っており、別紙商標目録2(2)については、「メニコン」の後に「ソフト」という語句を、上には「やわらかいレンズ」という語句を伴っているため、全体として、コンタクトレンズの商品名を示しているものと認識されることになるのであって、「ニコン」の文字のみが認識されることも、それにより「株式会社ニコンの社標」の観念が導き出されるとも認めがたい。
また、甲第9号証によれば、被告は、昭和52年頃以降、別紙商標目録2(3)ないし(5)に表示のとおり、「メニコン」の4文字を、すべて同じ大きさ、同じ書体で、同間隔に一体的に表示していることが認められ、このような態様で本件商標を使用して、本件商標の登録出願についての拒絶査定不服の審判の審決時である平成4年4月30日の当時まで約16年間、平穏に自社製品の広告宣伝をしていたものと認められる。
そうすると、原告の主張するような取引の実情を考慮しても、上記審決当時に本件商標が引用商標A、Bと類似しているものと解することはできない。
(4) 原告は、原告商標の「ニコン」は著名であるところ、本件商標「メニコン」は、これを構成する4文字中の3文字として「ニコン」の文字をひとまとまりに含むのであるから、本件商標からは「ニコン」の文字が独立して認識され、「ニコン」の称呼が生じるのである旨主張する。
しかしながら、「ニコン」の観念が著名であり、それが本件商標の「メニコン」の4文字の中に含まれていたとしても、上記2及び3を含む叙上の認定判断に照らすと、「ニコン」が、称呼上も、表記上も一体となった「メニコン」の文字の中から独立して認識されるとはいいがたく、原告の上記主張は理由がない。
4 取消事由3について
(1) 原告は、審決は、原告が調査した結果を記載し、審判請求理由補充書に添付して提出した調査報告書に一切触れることなく、本件商標は原告の業務に係る商品と出所の混同を生じるおそれがある商標ではなく、本件商標の登録は商標法4条1項15号に違反してされたものではないと判断したが、これは誤りである旨主張する。
(2) しかし、特許庁は、審決において、必ず、当事者から提出された証拠に対して明示的に判断を示さなければならないものではなく、また、審決は、取引の実情を考慮して混同を生ずるおそれがある商標であるか否かについて判断しているのであるから、審理不尽はなく、原告の上記主張は理由がない。
(3) 更に、本件商標が原告の業務に係る商品と混同を生じるおそれがある商標であるかどうかについて検討する。
甲第15号証によれば、原告は、大正6年7月に設立され、我が国最古の光学機械メーカーであること、戦前は、測距機や潜望鏡等の軍需用品を生産していたが、戦後はカメラを中心に眼鏡、顕微鏡、測量機等民生品に方針を転換し、昭和23年から、引用商標Aの商標でカメラの製造販売を開始し、その優秀性が世界的にみとめられることとなり、「Nikon(ニコン)」ブランドが、単に原告のカメラを意味するのみならず、日本製カメラの代名詞となった時期もあったこと、その後、原告は、上記のとおりカメラ以外の商品、すなわち、理化学機械器具、光学機械器具、写真機械器具、映画機械器具、測定機械器具等にも事業を拡張していることが認められる。上記認定によれば、引用商標A、Bは、本件商標の登録出願についての拒絶査定不服の審判の審決時である平成4年4月30日の当時、原告の商標としてきわめて著名となっていたものと認められる。
他方、前記認定によれば、本件商標は、審判の当時、被告の商品を表示するものとして、コンタクトレンズの需要者、取引者のみならず、医療機械関連の業者等の間においても周知となっていたものと認められる。
本件商標と引用商標A、Bの周知著名の程度を比較すると、後者の著名度が断然高いことは明らかであるが、コンタクトレンズの需要者、取引者、医療機械関連の業者等の間において、本件商標も周知となっているのであるところ、前記認定判断のとおり、本件商標と引用商標A、Bとは類似していないのであるから、被告がその商品に本件商標を使用したとしても、取引者、需要者は、その出所を識別することができ、商品の出所を混同するおそれはないものというべきである。
(4) 原告は、調査報告書(甲第14号証)によれば、被告の製品である「メニコンスーパーEX」については全体の3.4%の者がそのメーカー名を「ニコン」と回答しており、実際にコンタクトレンズのみ、または、コンタクトレンズを主に使用している者にあっては、7.1%の者がそのメーカー名を「ニコン」と誤認しているという結果が出ている、また、コンタクトレンズ及び眼鏡レンズの分野におけるレンズメーカーの関連会社に関する調査では、調査対象者全体の29.9%の者、すなわち、約3割の者が「ニコン社」と「メニコン社」とが関連会社であるかのように誤認しており、更には、これをコンタクトレンズを主に使用する者を対象とすると38.8%の者が両社を関連会社であるかのように誤認しているという結果が出ており、したがって、「ニコン」と「メニコン」との間で実際に商品の出所の混同を生ずるおそれがある旨主張する。
甲第14号証及び乙第1号証によれば、メガネやコンタクトレンズを使用し、あるいは使用していない一般消費者合計298名を対象としたアンケート調査によれば、メガネやコンタクトレンズを使用している者のうち約32%ないし43%の者が普段使用しているレンズのメーカー名を知らず、また、全体として、「メニコン」と「ニコン」が関連会社であると誤認した者が約30%いたこと、医療機器卸業者、販売業者、眼科医合計215名を対象としたアンケート調査によれば、「メニコン」と「Nikon」が関連会社であると誤認した者が3%、「メニコン」と「ニチコン」が関連会社であると誤認した者が9%、「Nikon」と「ニチコン」が関連会社であると誤認した者が5%あったことが認められ、そうすると、一般消費者において、原告と被告が関連会社であると誤認しているものが著しく多かったが、医療機器卸業者、販売業者、眼科医といった医療機械器具関係の取引者、需要者の間では、ほとんどの者が原告と被告とを識別しており、約3%程度の者がこれを識別できなかったものである。
ところで、甲第14号証によれば、原告が主張するとおり、被告の製品である「メニコンスーパーEX」については全体の3.4%の者がそのメーカー名を「ニコン」と回答しており、実際にコンタクトレンズのみ、または、コンタクトレンズを主に使用している者にあっては、7.1%の者がそのメーカー名を「ニコン」と誤認しているという結果が出ているものの、メガネやコンタクトレンズを使用している一般消費者を対象とし、かつ、都内の繁華街5か所における街頭調査であって、その調査対象者が、必ずしも、本件において対象とすべき取引者、需要者とはいいがたい。また、前記認定医療機械器具関係の取引者、需要者の間でも約3%程度の者が原告と被告が関連会社であると誤認しているが、この数値から直ちに混同の事実を認定することは困難である。
したがって、甲第14号証をもって原告の上記主張を裏付けるものとはいえない。
本件商標が原告の業務に係る商品と出所の混同を生じるおそれがある商標ではなく、本件商標の登録が商標法4条1項15号に違反してされたものではないとの審決の判断は正当である。
第3 そうすると、審決には原告主張の違法はなく、その取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成10年8月18日)
(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)
理由
1. 本件登録第2468156号商標(以下、「本件商標」という。)は、「メニコン」の片仮名文字を横書きしてなり、昭和50年7月31日登録出願、第10類「医療機械器具」を指定商品として、平成4年10月30日に登録されたものである。
2. 請求人が、本件商標の登録無効の理由に引用する登録第1095387号及び同第686563号商標(以下、前者を「引用商標A」、後者を「引用商標B」という。)は、別紙に示す構成よりなり、第10類「理化学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)光学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)写真機械器具、映画機械器具、測定機械器具(電子応用機械器具に属するもの及び電気磁気測定器を除く)医療機械器具、これらの部品及び附属品(他の類に属するものを除く)写真材料」を指定商品として、前者が昭和45年1月14日登録出願、同49年11月8日に登録、後者が昭和39年6月24日登録出願、同40年10月2日登録、同じく、登録第648586号商標(以下、「引用商標C」という。)は、「ENIKON」の欧文字を横書きしてなり、第10類「理化学機械器具、光学機械器具、写真機械器具、映画機械器具、測定機械器具、医療機械器具、これらの部品及び附属品、写真材料」を指定商品として、昭和38年3月29日登録出願、同39年7月25日に登録されたものである。そして、上記の各引用商標は、いずれも現に有効に存続するものである。
3. 請求人は、「登録第2468156号商標の登録は、これを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証乃至同第26号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)請求人は、我が国最古・最大の総合光学機械メーカーであり、同社の製品(カメラ、眼鏡、顕微鏡、半導体関連機器等)は、その高い品質ゆえに国内のみならず海外の需要者・取引者間においても高い評価を得ており、「ニコン」ブランドは、日本の代表的なブランドとして世界的にも著名なものとなっている。
そして、引用商標A及びBは、現在ほとんどの製品及び印刷物、広告物に使用され、請求人のハウスマークとして機能している。
ところで、本件商標は、「医療機械器具」を指定商品とするものであるが、該商品には「眼底検査器、フォトスリットランプマイクロスコープ」等の光学系の眼科用機械器具も含まれていて、これらはいずれもレンズ、カメラ等の技術を用いるものであり、光学機械器具、写真機械器具とは製造技術・製造所を同一にするものであって、その性質が光学系精密機械である点で密接な関係を有する。
また、特殊な性能の顕微鏡(微分干渉顕微鏡)や深部撮影用の特殊カメラ等は、その性能の優秀性から医療用の特殊撮影用として使用され、医療機械器具の取扱い業者が販売を担当することが多く、光学機械器具とはいっても医療機械器具と同一の店舗・業者・系列の取引者によって取扱われるものである。
(2)請求人の眼科用医療機械器具は、普通に市販されている眼科用の概説書にその一例として掲載され、眼科の学会誌「臨床眼科」においても、請求人の「細隙灯顕微鏡、眼底カメラ」等が取り上げられているが、このように一般的な概説書においてさえ、当然のように請求人の製品が例示されているのは、それが当該分野において、その当時既に周知著名であったからである。更に、請求人は、「眼底検査器、広角眼底カメラ、オペレーションマイクロスコープ」等の種々の眼科機器を取り扱っていて、これらの製品又はカタログには全て引用商標が付されている。
したがって、引用商標A及びBや「Nikon」「ニコン」なる商標は、眼鏡・光学機械器具・写真機械器具の分野は勿論のこと、眼科用医療機械器具の分野においても、本件商標の出願時には、既に請求人の長年に渡って培った高い信用と共に、需要者・取引者に広く知られていたものである。
(3)本件商標と引用商標A及びBとを対比すると、本件商標からは「メニコン」、各引用商標からは「ニコン」なる称呼が自然に生ずる。
そして、「メニコン」と「ニコン」の両称呼は、その差異が、各引用商標から生ずる称呼「ニコン」の語頭部に鼻音から構成される弱音たる「メ」の音が加わったに過ぎないものであり、聴者の受ける印象の区別は明確ではなく、全体としての語韻語調が近似し、両商標は、称呼上彼此混同を生ずるものである。
特に、本件商標は、指定商品中「眼科用医療機械器具」について使用するときには、語頭部の「メ」が「目」又は「眼」を意味するものと容易に認識され、要部が「ニコン」にあると考えられること及び前述のように各引用商標が「眼科用医療機械器具」について著名であることに鑑みると、本件商標は、「ニコン」の称呼を有する各引用商標と類似するといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、引用商標A及びBと称呼において類似するものであり、かつ、指定商品も同一又は類似するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(4)本件商標の語頭部「メ」が「目」又は「眼」を意味するものと容易に認識されること及び引用商標A及びBが「眼科用医療機械器具」について本件商標の登録出願日よりはるか以前から著名であり、取引者・需要者は「ニコン」と聞くことにより、直ちに請求人並びにその製造販売に係る商品を想起する迄に至っているものであることに鑑みると、「ニコン」と称呼上紛らわしい本件商標をその指定商品に使用するときは、需要者・取引者は請求人又はその関連会社の製造販売に係る商品ではないかとその商品の出所につき混同するおそれがあるから、本件商標は、商標法第4条第1項第15に該当する。
(5)請求人は本件商標について審査段階において商標登録異議の申立を行っていることに鑑みると、本件審判請求につき利害関係を有することは明白である。
(6)さらに、請求人は、平成9年4月11日付差出しの「審判請求理由補充書」において、次のように述べ、証拠方法として甲第28号証乃至同第36号証(枝番を含む。)を提出した。
<1>本件商標から生ずる「メニコン」と引用商標Cより生ずる「エニコン」の称呼とを対比すると、両称呼は「ニコン」の3音を共通にし、単に語頭音において「メ」と「エ」の相違を有するに過ぎないものである。語頭音の相違が称呼を識別する際に重要な役割を果たすとはいうものの、両音は母音「e」を共通にし、しかも「メ」の音を構成する有声通鼻音「m」は比較的響きの弱い子音であることに鑑みると、両称呼は近似の音と聴取され、称呼上相紛らわしものであり、故に、両者は、称呼上類似するといい得るものである。
なお、引用商標Cと本件商標との類否判断においては、本件商標の周知性は考慮されるべきものではない。
<2>被請求人は、本件商標の採択は「目にコンタクト」に由来している旨主張しているが、甲第29号証の1に示すような態様を以て商標の使用を開始したこと及び「ニコン」の語は商標を採択するに際して偶然一致するような語ではないことに鑑みると、このような主張は詭弁に過ぎず、むしろ、その当時から著名であった「ニコン」の名声を利用しようとする目的があったからである。
この点について、請求人において「日本コンタクトレンズ学会会誌」を調べたところ、昭和46年1月以降、新製品「メニコン8」から「メニコン」商標に関する広告の掲載を開始しているが、該広告中の「メニコン」の部分に着目すると、一見して判読することができる「ニコン」の文字を顕著に表し、その前に容易に判読することができない「メ」を配した態様をもって表されてなると認識できる。そして、時の経過と共に徐々にカタカナの「メ」に近づけて「メニコン」商標を使用している事実が認められる。
このように、「ニコン」の名声を利用する態様を以て「メニコン」商標の使用が開始され、一般需要者の目に触れる駅の看板広告にも使用されていたことからすると、その後に知名度が上がったとしても、それをもって「ニコン」との類似又は混同のおそれが変わるものではないことは明らかであり、被請求人の「メニコン」商標の使用は「ニコン」との関係においては悪意の使用といい得るものである。そして、被請求人のこのような商標の使用実態に鑑みると、「メニコン」が「ニコン」と識別可能であるかのような主張は許されないところである。
<3>請求人は、前記「ENIKON」のほかに、「DENIKON」「MONIKON」「MEZANIKON」等について登録を取得している。これらの商標は、いずれも「NIKON」商標に類似するもの、即ち、連合商標として登録されているのが実情である。
ところで、商標の類否はそれぞれの分類により異なることがあっても何ら不思議なことではなく、本件においては、本件商標が属する第10類における今日に至るまでの商標の類否判断が最も尊重されるべきであり、第23類の類否判断の事情は特段考慮されるべきものではない。
そこで、このような類否判断に則って本件商標と引用商標A及びBとを対比すると、「メニコン」なる称呼は「ニコン」の音の前に単に「メ」の音が一音付加されたに過ぎず、「ニコン」の音の前に単に「エ」「デ」「モ」「メザ」の一音又は二音が付加されたに過ぎない上記各商標の称呼と区別して取り扱わなければならない特段の事情は何ら存在しないものである。
<4>請求人は、被請求人のコンタクトレンズの使用者からの質問等の対処に苦慮している。そこで、「ニコン」と「メニコン」との混同について、コンタクトレンズ及び眼鏡の使用者を含む一般需要者を対象として調査を行った。その結果は以下の通りである。
・眼鏡使用者の3割以上がメーカー名を認知していないという結果が表れているものの、メーカー名の認知度の順位は、ホヤ、セーコー、ニコンの順であり、実際の市場占有率の順位と一致する。
・コンタクトレンズを主に使用している4割以上の者が、自分の使用しているコンタクトレンズの商品名を把握しておらず、2割以上の者が、自分がどのメーカーの商品を使用しているか把握していない。
・「メニコンスーパーEX」については、3.4%の者がそのメーカー名を「ニコン」と回答しており、実際にコンタクトレンズのみ又はコンタクトレンズを主に使用している者にあっては、7.1%の者がそのメーカー名を「ニコン」と誤認しているという結果が表れている。
・調査対象者全体の29.9%の者が請求人と被請求人とが関連会社であるかの如く誤認しており、更には、これをコンタクトレンズを主に使用する者を対象とすると38.8%の者が両社を関連会社であるかの如く誤認している。
以上の調査結果を総合すると、コンタクトレンズ及び眼鏡レンズの分野において、実際に「ニコン」と「メニコン」とを混同している需要者が多数いることは明らかであり、このような実情に鑑みると、「メニコン」も「ニコン」も共に周知著名であることから、商品の出所についても誤認混同されるおそれもないとする主張は到底容認されるべきものではない。なお、コンタクトレンズ及び眼鏡レンズを取り扱う眼科医師の中にも、被請求人は請求人の子会社であると思っていた者もいることを付記しておく。
4. 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証乃至同第12号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)被請求人は、我が国のコンタクトレンズ市場における占有率第1位の会社であるが、昭和40年代より、本件商標をコンタクトレンズを中心とした被請求人の取扱い商品の統一商標として使用するとともに、そのPR活動をTV・ラジオ・新聞・雑誌等のマスメディアを通じ積極的に行って、ブランドイメージの高揚、浸透を図ってきた。その結果、コンタクトレンズの分野を含む眼鏡ならびに医療等の各分野において、本件商標は、被請求人の取扱う商品を表示するハウス・マークとして一般需要者・取引者間できわめて著名となっている。そして、コンタクトレンズの分野を中心とする本件商標のこの著名性は、医師、眼鏡店、病院等の医療関係者を需要者とする医療機械器具分野においても充分にあてはまるものである。
さらに、被請求人は、「東洋コンタクトレンズ株式会社」から分離・独立し、新たに設立された「コンタクトレンズ、医療機械器具全般」の販売を中心とする会社であって、昭和57年営業開始以降、その製造に係わる商品をすべて販売してきた。また、被請求人の前身「東洋コンタクトレンズ株式会社」は平成5年に被請求人に合併され、現在に至っている。すなわち、本件商標が、コンタクトレンズを含む医療業界において、商号としても機能するようになったことにより本件商標のこれらの分野における商標としての指標力が一段と強化されてきている。
そして、被請求人は、同人の研究開発に係る「眼内レンズ」を「メニコン眼内レンズ」という名称で、昭和60年6月より全国の総合病院、眼科、大学病院等に販売を開始した。乙第8号証は、本件商標が「眼内レンズ」について使用された刊行物などへの宣伝広告の代表例である。
このように、眼内レンズにつき本件商標が使用されてきた結果、一般学術文献にもその代表例として被請求人の眼内レンズが取り上げられる等、本件商標の指定商品を取扱う医療業界において、本件商標は、一層その識別力を発揮し、需要者・取引者間において著名となるに至ったものである。
さらには、被請求人がサッカーのJリーグのオフィシャルサプライヤーとして、Jリーグの選手、監督、コーチにコンタクトレンズや付属品を提供することになる旨を一斉に報じた新聞記事は、被請求人がなお一層、著名企業となっていることを示すものである。したがって、被請求人が請求人と混同される余地もまったくない。
(2)本件商標は、その構成より当然に「メニコン」なる称呼が生ずる。一方、引用商標A及びBは、それぞれの構成によれば、いずれも「ニコン」なる称呼が生ずること明らかである。
そして、両称呼は、まず3音と4音と、その音数が異なっている。しかも、異なる1音「メ」が本件商標の語頭にあるため、両称呼の頭音は「メ」と「ニ」という顕著な差異がある。すなわち、比較的短い称呼からなる商標同士の中で、構成される音数そのものに差異があり、それ自体で語韻、語調、語感が明らかに異なるうえに、そもそも称呼を識別するに際し重票な要素を占める語頭において、「メ」と「ニ」という顕著な音の差異があるのであって、両商標は、称呼上相紛れるなどとは到底考えられない。
なお、請求人は、本件商標の要部が「ニコン」にある旨主張するが、不自然である。4音という比較的少ない音数からなる商標においては、一連に、しかも一気に称呼されるのが自然であり、これをことさら2つに分離する必要もない。
また、請求人は、引用商標A及びBが著名であるから本件商標に類似する旨主張しているが、かりに、各引用商標が「眼科用医療機械器具」について請求人主張のように著名であるとしても、本件商標自体も該商品について著名であるから、両者はそれぞれ別の商標として需要者・取引者に明瞭に認識されるのであって、彼此混同を生ずることはないというべきである
(3)前述したごとく、本件商標自体も眼内レンズを中心とした「眼科用医療機械器具」について著名である。したがって、本件商標と引用商標A及びBは、それぞれ別の商標として需要者・取引者に明瞭に認識されるのであって、両者の用いられる商品がたがいにその出所につき混同を生ずるおそれはない。
現に、被請求人と請求人は、医療機械器具の分野で、それぞれ独自の企業活動をしており、それぞれ別の企業として一般需要者・取引者により広く認識され、長きにわたる企業活動の中でも、両者は誤認混同されていない。しかも、たがいに使用している登録商標「メニコン」も「Nikon」も、ともに周知著名であり、商標自体も商品の出所についても誤認混同されるおそれもなく、そのような事実もない。
(4)請求人は、本件審判請求につき利害関係を有することの根拠として、本件商標の審査段階において商標登録異議の申立を行っていると述べているが、本来、異議申立は「何人も」なし得るものであり、とくに利害関係を要求されていないから、これをもって請求人が利害関係を有することの根拠になり得るか疑問である。
以上述べたごとく、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同第15号に該当せず、もとより他に何ら無効理由を含まないものである。
5. 請求人は、上記4.の答弁に対し次のように弁駁し、証拠方法として甲第27号証を提出した。
(1)本件商標は、「コンタクトレンズ」の分野において著名であったとしても、それから直ちに「コンタクトレンズ」の取引者たる医師、眼鏡店、病院等の医療関係者を需要者とする「医療機械器具」の分野においてまで著名であると考えるのは早計に過ぎるものである。
被請求人は、この点に関連して、TV、ラジオ、新聞、雑誌等のマスメディアを通じて本件商標のPR活動に力を入れている旨主張すると共に、サッカーのJリーグのオフィシャルサプライヤーに決定され、著名企業となっている旨も主張しているが、これはあくまでも「コンダクトレンズ」に関してであり、「医療機械器具」に関するPR活動についてはわずかに乙第8号証に示されているに過ぎず、したがって、本件商標は、「コンタクトレンズ」の分野において著名であるとしても、「医療機械器具」の分野においてまで著名であると考えることはできない。
また、被請求人は、「眼内レンズ」につき本件商標を使用してきた結果、本件商標の指定商品が現実に取り扱おれる医療業界において著名となるに至った旨主張しているが、多種多様の医療用機械器具がある中で、「眼科用機械器具」の一つである「眼内レンズ」についてのみ使用され、しかも、その使用の開始時期が昭和60年6月とさほど古くはなく、加えて「眼内レンズ」に関する宣伝活動も余り行われていないことに鑑みると、本件商標は、医療業界において著名になっているとするのはいい過ぎといわざるを得ない。
(2)被請求人提出の乙第10号証から明らかなように、本件商標が特段の事情をも考慮して登録になったことに鑑みると、他に考慮すべき特段の事情が存する場合には、この事情も考慮されて然るべきである。
即ち、本件商標から生ずる称呼は、4音という比較的短い称呼から構成されてなるが、その指定商品との関係において、著名な商標たる引用商標A及びBから生ずる称呼をその一部に含むものであり、本件商標は、各引用商標から生ずる称呼「ニコン」とそれ以外の文字とが結合して構成されてなると考えるのが極めて自然である。
したがって、前記事情を考慮すると、本件商標は、「ニコン」の語頭部に「メ」という1音が単に付加されたに過ぎないものであり、当該「メ」という音が鼻音から構成される弱音であることに鑑みると、両称呼は類似するといわざるを得ない。
(3)被請求人は「株式会社メニコン」も「株式会社ニコン」も「眼科用医療機械器具」の分野で、おのおのまったく別の会社として広く認識され、長きに亘る企業活動の中で誤認混同されていない旨主張しているが、「株式会社~」とそれぞれが表記されている以上、両社が別の会社として認識されるのは当然のことであり、むしろ問題となるのは本件商標が付された製品が「株式会社ニコン」と何らかの関連を有する者による製品と認識されるおそれがあるという点にある。
本件商標は、被請求人の主たる業務の「コンタクトレンズ」の分野について著名であるとしても、その指定商品中の「眼科用医療機械器具」の一つである「眼内レンズ」についてのみ使用されているにすぎないから、「医療機械器具」についてまで著名ということはできないものである。
これに対し、引用商標A及びBは、本件商標の出願時から現在に至るまでの長きに亘り使用された結果、その著名度たるや計り知れないものがあり、医療機械器具の分野における両者の著名性に関しては歴然とした差があるといわざるを得ない。
よって、本件商標中の「ニコン」の文字より、取引者・需要者は容易に請求人を想起すると共に、本件商標は、眼科用のものを含む「医療用機械器具」を指定商品とすることから、本件商標の語頭部「メ」が「目」又は「眼」を意味するものと容易に認識することは明らかである。その結果、取引者、需要者は本件商標より「目(眼)にニコン」というイメージを強く受け、請求人が「目(眼)」に関する商品、即ち、「眼科用医療機械器具」について「メニコン」なる商標を採択し、その使用を行っているかの如く極めて容易に認識されるものである。
以上により、本件商標は、その指定商品に使用するときは、需要者・取引者をして、該商品が請求人又はその関連会社の製造販売に係るものであると、その商品の出所につき混同するおそれがある。
(4)請求人は、本件商標に係る指定商品についての業務を実際に行っており、本件商標が存在することにより、需要者・取引者は、本件商標が付された商品が請求人又はその関連会社の製造販売に係る商品ではないかとその商品の出所につき混同するおそれがあるので、本件審判請求につき、利害関係を有することは明らかである。
8. そこで、まず当事者間に利害関係について争いがあるので、この点についてみるに、請求人は、自己の使用する登録商標及び著名商標の存在を理由として本件審判請求をなすものであるところ、もしこれによって本件商標の登録が無効とすべきものであるならば、その存在により直接重大な不利益を被るものであるといわなければならないから、本件審判請求をなすについて法律上の利益を有する者と認められる。
よって、本案に入って判断するに、本件商標は、前記構成のとおり、「メニコン」の片仮名文字が同一の書体、同一の大きさで同間隔に、まとまりよく一体的に表示されていて、全体としての称呼も簡潔であって一連に称呼し得るものであるから、その構成全体をもって不可分一体のものとして理解されるとみるのが相当である。そして、他に、この認定を左右するに足る資料も見出せない。
してみれば、本件商標は、その構成文字に相応して、「メニコン」の称呼のみ生ずるものといわなければならない。
他方、引用商標A及びBは、別紙に示すとおりであるところ、その構成文字に相応して、それぞれ「ニコン」の称呼を生じ、引用商標Cは、前記構成のとおりであるところ、その構成文字に相応して、「エニコン」の称呼を生ずるものであること明らかである。
そこで、まず本件商標より生ずる「メニコン」と引用商標A及びBより生ずる「ニコン」の称呼を比較するに、両称呼は、前者が4音、後者が3音よりなるものであって、構成音数を異にするばかりでなく、冒頭音において「メ」の有無に顕著な差異を有するものである。
次に、本件商標より生ずる「メニコン」と引用商標Cより生ずる「エニコン」の称呼を比較するに、両称呼は、冒頭音において「メ」と「エ」の差異を有するものである。そして、その相違する前者の「メ」の音は、両唇を密閉し有声の気息を鼻腔に通じて発する通鼻音であるのに対して、後者の「エ」の音は、舌面位置を中心として発する有声の開放音であって、両音は、その調音位置、調音方法等からみて、音質を異にするといえるものである。
してみると、本件商標と各引用商標より生ずる称呼は、称呼の識別上重要な要素を占める冒頭音における前記の差異が、全体としての称呼に及ぼす影響は大きく、いずれも比較的短い音構成であることと相俟って、これらを各々一連に称呼するときは、その語感・語調においてかなりの程度異なるものとなり、彼此聴き誤るおそれはないものといわざるを得ない。
また、本件商標と各引用商標は、それぞれの構成よりみて、外観上明らかに相違し、さらに、観念においても、共に、特定の意味を有しない造語と認められるものである。
したがって、本件商標と各引用商標は、その外観・称呼・観念のいずれの点よりみても、相紛れるおそれのない非類似め商標というべきである。
なお、請求人が挙げる「NIKON」の文字よりなる商標の連合商標に関する登録例(甲第34号証)は、いずれも本件と事案を異にするものであるから、それに基づく主張は採用の限りでない。
さらに、請求人は、本件商標は商標法第4条第1項第15号の規定にも該当する旨主張しているが、同人主張の如く、引用商標A、B及び「ニコン」「Nikon」の文字よりなる商標が「眼鏡、光学器械器県、写真機械器具、眼科用医療機械器具」に使用をするものとして著名であることは認め得るとしても、本件商標は、その構成中の「ニコン」の文字のみを分離して認識し得ないものであり、一体のものとしてのみ把握すべきであること前記認定のとおりであって、これが「目(眼)にニコン」を表示したと取引者・需要者に理解されるとは到底認め難く、上記各引用商標とは別異のものと認められるから、これをその指定商品に使用しても、請求人又は同人と何らかの関係を有する者の製造販売に係る商品であるかの如く、その出所について混同を生じさせるおそれもないものといわなければならない。
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同第15号のいずれにも違反してなされたものではないから、同法第46条第1項の規定により無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別紙
<省略>
別紙 商標目録1
<省略>
別紙 商標目録2
<省略>