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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)198号 判決 1998年10月27日

東京都中野区東中野三丁目14番20号

原告

国際電気株式会社

代表者代表取締役

遠藤誠

東京都新宿区西新宿三丁目19番2号

原告

日本電信電話株式会社

代表者代表取締役

宮津純一郎

東京都港区虎ノ門二丁目10番1号

原告

エヌ・ティ・ティ移動通信網 株式会社

代表者代表取締役

大星公二

原告ら訴訟代理人弁理士

大塚学

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 伊佐山建志

指定代理人

田中庸介

田辺寿二

吉村宅衛

廣田米男

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第1  原告らが求める裁判

「特許庁が平成7年審判第12165号事件について平成9年6月30日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

第2  原告らの主張

1  特許庁における手続の経緯

原告国際電気株式会社及び原告日本電信電話株式会社は、昭和63年3月24日、発明の名称を「無線呼出用受信機」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(昭和63年特許願第68206号)をし、原告日本電信電話株式会社は、平成6年2月7日に本願発明の特許を受ける権利の持ち分の一部を原告エヌ・ティ・ティ移動通信網株式会社に譲渡し、その旨を被告に届け出た。しかしながら、原告らは、平成7年1月18日に拒絶査定を受けたので、同年6月15日に拒絶査定不服の審判を請求し、平成7年審判第12165号事件として審理された結果、平成9年6月30日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受け、同年7月9日にその謄本の送達を受けた。

2  本願発明の特許請求の範囲(別紙図面A参照)

筐体に受信機回路が収容された無線呼出用受信機において、

前記筐体は、前記受信機回路が内側に収まるような形状の絶縁物よりなるフレームと、該フレームを挟んで固定された方形板状の導電体よりなる上板と底板とで薄形カード状に形成され、

前記上板と前記底板は前記筐体の一端側に位置する該上板と該底板の相対向する各一辺の両端角部近傍で第1の導体を介して止ねじによる締め付けで導電接続され、さらに、前記上板上で前記一辺と対向関係にある他の一辺と前記底板上で前記一辺と対向関係にある他の一辺の相対向する角部近傍の1箇所で前記上板は止ねじによる締め付けで第2の導体を介して前記受信機回路のアンテナ給電端子に電気的に接続され、前記上板と前記底板および前記第1、第2の導体とによって前記アンテナ給電端子に対して断面形状がコの字状のアンテナを形成するように構成されたことを特徴とする無線呼出用受信機。

3  審決の理由

別紙審決書「理由」写しのとおり

4  審決の取消事由

引用例に審決認定の技術的事項が記載されていることは認める。しかしながら、審決は、各相違点の判断をいずれも誤った結果、本願発明の進歩性を否定したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)相違点<1>の判断の誤り

審決は、引用例には筐体の形状が明示されていないと認定したうえで、携帯用の電子機器(電卓等)を薄形カード状にすることは周知であるから、相違点<1>に係る構成を得ることに格別の推考力を要するとは認められない旨判断している。

しかしながら、引用例の図面である別紙図面Bの第3図には筐体の断面が図示されているが、このような小型電子機器に使用される回路基板の厚みは約1mmであるから、同図に図示されている筐体の厚みは約14~16mmと考えられる。このように、引用例には、無線機を薄形カードとは異なる分厚い筐体とすることが記載されているから、審決の上記認定は不正確である。

そして、電卓等の携帯用電子機器を薄形カード状にすることが本出願前に周知であったことを示す証拠は提出されていないし、そもそも、引用例記載の考案は、上記のように分厚い筐体の無線機を前提としており、これを他の形状にすることは示唆すらされていないから、審決の上記判断は失当である。

(2)相違点<2>の判断の誤り

審決は、引用例記載の第1の導体は一個であり、その配設位置は明示されていないと認定したうえで、直方体のループアンテナは上下板の幅が大きいほど、そして、幅全体を使って導電接続するほど、アンテナ効率が良いことは周知であるから、相違点<2>に係る構成を得ることに格別の推考力を要するとは認められない旨判断している。

しかしながら、別紙図面Bには、本願発明の要件である第1の導体に相当する「ネジ5、ナット8」(引用例にいう「第3の導電体」)を、第2図のA-A線上に配設することが明示されているから、審決の上記認定は不正確である。

そして、直方体のループアンテナは上下板の幅が大きいほど、また、幅全体を使って導電接続するほど、アンテナ効率が良いことが本出願前に周知であったことを示す証拠は提出されていない。

この点について、被告は、導電性の2枚の板を接続して形成されるループアンテナは、両者の接続点を多くすれば導体抵抗が小さくなることは、自明の事項である旨主張する。

しかしながら、アンテナ効率は、導体抵抗だけではなく、アンテナの共振周波数に大きく依存する。そして、原告国際電気株式会社副技師長牛山勝實作成の「カード型アンテナの開発経緯」(甲第11号証)に、「B点の短絡点以外に、もう一つの短絡点を(中略)設けて、短絡点を移動することで自己共振周波数が変えられる事実を発見した。」(4頁26行ないし28行)と記載されているように、本願発明が上板と底板を2箇所で導電接続することを要件としたのは、アンテナの共振周波数を変えるためであって、アンテナの導体抵抗を小さくするためではないから、被告の上記主張は失当である。

(3)相違点<3>の判断の誤り

審決は、引用例には第2の導体が接続される位置が明示されておらず、また、その接続が接触であると認定したうえで、導電接続をネジ止めで行うことは周知であるから格別の推考力を要するものではなく、その接続位置を角部近傍にすることは適宜実施しうることである旨判断している。

しかしながら、別紙図面Bの第3図には、本願発明の要件である第2の導体に相当する「接触片10、11」(引用例にいう「第1および第2の導電体」)を、前記「ネジ5、ナット8」と同じく、第2図のA-A線上に配設することが明示されているから、審決の上記認定は不正確である。

そして、導電接続をネジ止めで行うことに格別の推考力を要しないとした点は容認しうるとしても、その接続位置を角部近傍にすることは適宜実施しうることであるとした審決の判断には、何らの根拠も示されておらず、失当である。

第3  被告の主張

原告らの主張1ないし3は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

1  相違点<1>の判断について

原告らは、別紙図面Bの第3図を論拠として、引用例には無線機を薄形カードとは異なる分厚い筐体とすることが記載されている旨主張する。

しかしながら、引用例には、「筐体が超小型化」(明細書2頁6行、7行)等と記載されているのみで、考案に係るアンテナが適用される無線機の形状を特定する記載はなく、また、図面は考案の一実施例を示すものにすぎないから、原告らの上記主張は失当である。

そして、原告らは、電卓等の携帯用電子機器を薄形カード状にすることが本出願前に周知であったことを示す証拠はないし、引用例記載の考案は、上記のように分厚い筐体の無線機を前提としており、これを他の形状にすることは示唆すらされていない旨主張する。

しかしながら、携帯用の電子機器を薄形カード状にすることは、例えば、昭和60年特許出願公開第160229号公報、昭和62年特許出願公開第26960号公報に記載されているように、本出願前の周知技術であるから、原告らの上記主張も失当である。

2  相違点<2>の判断について

原告らは、別紙図面Bには本願発明の要件である第1の導体に相当する「ネジ5、ナット8」(引用例にいう「第3の導電体」)を第2図のA-A線上に配設することが明示されている旨主張する。

しかしながら、引用例には「第3の導電体」の位置を特定する記載はなく、図面が考案の一実施例を示すものにすぎないことは前記のとおりであるから、原告らの上記主張は失当である。

そして、原告らは、直方体のループアンテナは上下板の幅が大きいほど、また、幅全体を使って導電接続するほど、アンテナ効率が良いことが本出願前に周知であったことを示す証拠はない旨主張する。

しかしながら、アンテナ効率を改善するためにアンテナの導体抵抗を小さくすることは、例えば、昭和56年実用新案出願公開第152408号公報、昭和56年実用新案出願公開第79041号公報に記載されているように、本出願前の周知技術である。そして、導電性の2枚の板を接続して形成されるループアンテナにおいて、接続点の数を多くすれば、導体抵抗が小さくなることは自明の事項であるから、原告らの上記張は失当である。

この点について、原告らは、本願発明が上板と下板とを2箇所で通電接続することを要件としたのは、アンテナの共振周波数を変えるためであって、アンテナの導体抵抗を小さくするためではない旨主張する。しかしながら、アンテナは共振周波数で動作させるのが効率的であることは、本出願前の技術常識であり、薄形カード状の受信機の設計に当たって、適当な共振周波数が得られるようにアンテナの形状等を定めることは、当業者ならば当然に行う事項にすぎないから、原告らの上記主張は失当である。

3  相違点<3>の判断について

原告らは、別紙図面Bの第3図には、本願発明の要件である第2の導体に相当する「接触片10、11」(引用例にいう「第1および第2の導電体」)を第2図のA-A線上に配設することが明示されている旨主張する。

しかしながら、引用例には「接触片10、11」の位置を特定する記載はなく、図面が考案の一実施例を示すものにすぎないことは前記のとおりであるから、原告らの上記主張は失当である。

そして、原告らは、第2の導体の接続位置を角部近傍にすることは適宜実施しうることであるとした審決の判断には、何らの根拠も示されていない旨主張する。

しかしながら、本願明細書にも、本願発明の要件である第2の導体の接続位置を、上板及び底板の「角部近傍」に限定した理由は特に記載されていない。そして、引用例記載の「接触片10、11」はいうまでもなくアンテナの給電点であるから、その配設位置は、所望のアンテナ特性が得られるように適宜に選択して決定すべき設計事項にすぎず、原告らの上記主張は失当である。

理由

第1  原告らの主張1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の特許請求の範囲)及び3(審決の理由)は、被告も認めるところである。

第2  甲第5号証(公告公報)、甲第7号証(平成6年10月20日付手続補正書の第6図)及び第8号証(平成7年7月13日甘手続補正書)によれば、本願発明の概要は次のとおりと認められる(別紙図面A参照)。

1  技術的課題(目的)

本願発明は、VHF帯における無線呼出用受信機の構造に関するものである(公報2欄3行ないし5行)。

小形無線受信機のアンテナは、周波数帯あるいは受信機の用途・形状に応じて種々の形式のものが採用されており(同2欄7行ないし9行)、VHF等の周波数帯に対しては方形板を90°で2度折り曲げ、断面形状がコの字状のループアンテナが用いられている(同2欄12行ないし16行)。

しかしながら、このアンテナは、液晶等の情報表示器を持つ薄形カード状の超小形受信機の筐体に内蔵することが困難であり(同2欄16行ないし3欄3行)、特に、これを着衣のポケット等に入れて利用すると、周囲の影響(とりわけ人体からの影響)を強く受けるという問題点がある(同3欄6行ないし11行)。

本願発明の目的は、上記の問題点を解決する受信機の構造を創案することである(同3欄19行、20行)。

2  構成

上記の目的を達成するため、本願発明は、その特許請求の範囲記載の構成を採用したものであって(平成7年7月13日付手続補正書3枚目2行ないし13行)、要するに、筐体の一部をアンテナとして動作させることによって、寸法上の制約を解消するとともに、アンテナの実効利得の低下を避けるようにしたものである(公報3欄20行ないし22行)。

3  作用効果

本願発明によれば、

a  薄形カード状の超小形受信機を実現できる、

b  アンテナ用素子が不要のため経済的である、

c  筐体の上板及び下板が金属導体であるため、静電的・電磁的な遮蔽効果がある、

d  機械的な外部ストレスに対する耐久性に優れているとの作用効果を得ることができる(公報7欄6行ないし14行)。

第3  そこで、原告ら主張の審決取消事由の当否について検討する。

1  相違点<1>の判断について

原告らは、電卓等の携帯用電子機器を薄形カード状にすることが本出願前に周知であったことを示す証拠はないし、そもそも引用例記載の考案は分厚い筐体の無線機を前提としており、これを他の形状にすることは示唆すらされていないから、相違点<1>に関する審決の判断は失当である旨主張する。

しかしながら、実用新案登録願書添付の図面は考案の技術内容を説明するためのものであって、正確な設計図ではないから、引用例の図面を論拠として引用例記載の考案は分厚い筐体の無線機を前提としている旨の原告らの主張は失当である。

そして、乙第1号証によれば、昭和60年特許出願公開第160229号公報には「携帯用送受信機1(以下、カード型送受信機とする)は、クレジットカードと略同一の大きさであり、かつその大きさは数mm~1cm程度に形成されている。」(2頁右下欄11行ないし14行)、「外形はクレジットカードと略同一の大きさの薄箱状直方体に形成されている。また、その厚さは数mm~1cm程度に形成されている。」(3頁右上欄6行ないし9行)と記載されていることが認められ、また、乙第2号証によれば、昭和62年特許出願公開第26960号公報には「トランスポンディングカード(中略)とはICカードに無線送受信機能を付加したものをいう。」(2頁右上欄8行ないし10行)と記載されていることが認められる。このように、携帯用電子機器を薄型カード状に構成することは本出願前に周知の技術であり、かっ、甲第9号証によれば、引用例にはその考案の作用効果として「構造の小型化」(7頁11行)が挙げられているのであるから、相違点<1>に係る本願発明の構成を得ることに格別の推考力を要するとは認められないとした審決の判断に誤りはない。

2  相違点<2>の判断について

原告らは、直方体のループアンテナは上下板の幅が大きいほど、そして、幅全体を使って導電接続するほど、アンテナ効率が良いことが本出願前に周知であったことを示す証拠はないから、相違点<2>に関する審決の判断は誤りである旨主張する。

しかしながら、前掲甲第5号証によれば、本願明細書に技術常識として記載されているアンテナの損失抵抗を示す式「Rl=L/(πd)δσ」(6欄14行)において、(πd)は「一般の線状ループ導体の単位長さ当りの表面積」(6欄17行、18行)であるから、「直方体のループアンテナは上下板の幅が大きいほど、そして、幅全体を使って導電接続するほどアンテナ効率が良い」ことは技術的に自明の事項にすぎない。したがって、相違点<2>に係る本願発明の構成を得ることに格別の推考力を要するとは認められないとした審決の判断に誤りはない。

この点について、原告らは、本願発明が上板と下板とを2箇所で通電接続することを要件としたのは、アンテナの共振周波数を変えるためであって、アンテナの導体抵抗を小さくするためではない旨主張する。

しかしながら、本願明細書には上板と下板とを2箇所で通電接続することによってアンテナの共振周波数を変えることは記載されていないから、原告らの上記主張は、明細書の記載に基づかないものであって、失当である。

3  相違点<3>の判断について

原告らは、導電接続をネジ止めで行うことは周知であるから格別の推考力を要するものではなく、その接続位置を角部近傍にすることは適宜実施しうることであるとした相違点<3>に関する審決の判断について、導電接続をネジ止めで行うことに格別の推考力を要しないとした点は容認しうるとしても、その接続位置を角部近傍にすることは適宜実施しうることについては何らの根拠も示されていない旨主張する。

しかしながら、板状のループアンテナの一端に給電点を設ける場合、その位置は、所望のアンテナ特性等を考慮して当業者が適宜に決定すべき設計事項にすぎない。現に、前掲甲第5号証によれば、本願明細書には、第2の導体の接続位置を上板及び底板の「角部近傍」に限定した理由、あるいはそれによって得られる作用効果は何ら記載されていないことが認められるが、これも、第2の導体の接続位置が単なる設計事項であることの表れというべきである。したがって、相違点<3>に関する審決の判断にも誤りはない。

第4  以上のとおりであるから、本願発明の進歩性を否定した審決の認定判断は、正当であって、審決には原告ら主張のような違法はない。

よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告らの本訴請求は、失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成10年10月13日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

別紙図面A

<省略>

第1図は本発明による超小形無線呼出用受信機の外観を示す斜視図、第2図は第1図の主要構成部品の構造及び配置を示す斜視図、第3図は第1図のX-X面に沿う断面図、第4図は第3図のA部の詳細構造例を示す拡大断面図、第5図は第3図のB部の詳細構造例を示す拡大断面図、第6図と第7図は第5図に示す部分の変形例を示す断面図、第8図は第1図のX-X面に沿う断面の導体部分の構成例を示す断面略図、第9図は第8図の構造例の等価回路と受信機回路の接続関係を示す回路図である。

1……上板、2……フレーム、3……部品実装ブリント基板.4……底板、5……電池、6、7、8……ねじ、9、11、19……金具、10、10′……金属導体、12、13……ブリント配線導体、14~17……雌ねじ穴、

18……スルホールめっき 20……受信機回路。

別紙図面B

<省略>

<省略>

第1図は本考案による実施例の組立を示す主要部分の展開図、第2図は実施例における組立後の外観図、第3図は、第2図におけるA-A′断面から見た内部構造図、第4図は、第3図における構造のアンテナを用いて構成された電気的等価回路の一例を示す図である。図において、1、4は金属板、2は回路基板、3は枠、5はネジ、6は穴、7、9は爪、8はナット、10、11は接触片、12、13は溝である。

Ⅰ、 手続きの経緯、本願発明の要旨

本願は、昭和63年3月24日の出願であって、その発明の要旨は、平成7年7月13日付の手続き補正書により補正きれた出願公告時の明細書及び図面の記載から見て、特許請求の範囲の範囲に記載された次の通りのものと認める。

「筐体に受信機回路が収容された無線呼出用受信機において、前記筐体は、前記受信機回路が内側に収まるような形状の絶縁物よりなるフレームと、該フレームを挟んで固定された方形板状の導電体よりなる上板と底板とで薄形カード状に形成され、前記上板と前記底板は前記筐体の一端側に位置する該上板と該底板の相対向する各一辺の両端角部近傍で第1の導体を介して止ねじによる締め付けで導通接続され、さらに、前記上板上で前記一辺と対向関係にある他の一辺と前記底板上で前記一辺と対向関係にある他の一辺の相対向する角部近傍の1箇所で前記上板は止ねじによる締め付けで第2の導体を介して前記受信機回路のアンテナ給電端子に電気的に接続され、前記上板と前記底板および前記第1、第2の導体とによって前記アンテナ給電端子に対して断面形状がコの字状のアンテナを形成するように構成されたことを特徴とする無線呼出用受信機。」

Ⅱ、 引用例

これに対して原査定の拒絶理由であるで異議決定の理由に引用された実願昭58-199277号のマイクロフイルム(実開昭60-111103号公報参照、昭和60年7月27日出願公開、以下引用例と言う。)には、「携帯して用いられる受信機、特に、無線個別選択呼出受信機(いわゆるポケットベル)においては、その使用目的から見ても筐体が超小型化されており、それに伴をってアンテナも携帯に邪魔にるらないように工夫されている。一般に、この種ポケットベルなどのアンテナは受信機の筐体内に内蔵されており(公報第2頁第4~10行)、「本考案の目的は、アンテナが余分な容積をしめるめることなく、受信機の筐体上に最大の大きさで得られるとともに、回路基板上に占めるアンテナの面積も最小にすることによって、受信機の部品実装容積を最大限に活かすことのてきる小型無線受信機用アンテナを提供することにある。」(公報第2頁20行~第3頁第6行)、「第1図は本考案による実施例の組立を示す主要部分の展開図である。この図において、金属板1はアルミニウム・ジュラルミン・ステンレスなどの金属材料で作られ、板の4つの辺の1つには図に示すような爪7が、また、この爪7に対応する他の辺付近には穴6が設けられている。この穴6は後運するネジ5のネジ部を通し、ネジの頭の部分が止まるようになっている。回路基板2は受信機の電気部品を搭載し、電気回路を構成するプリント基板である。回路基板2の一部の金属板1の穴5に対応する位置には、ネジ5の通る穴が設けられている。そして、回路基板2の面積は次に述べる枠5の内部に収まる大きさに選定されている。枠3は.ABS樹脂プラスチックなどの絶縁材料により作られた枠であり、長方形の狭幅方向に対応する2面が開放された形に作られている。金属板4は金属板1と同様に、その1辺に爪7が設けられ.そして金腕板1の穴dに対応する位鷹にはナット8が設けられている。ナット8は金属で作られており、金属板4とは機械的及ひ電気的に完全に結合されている。ネソ5は金属で作られ.ナット8に対してねじ込むことができる。いま、回路基板2を枠3内に収め・金属板1および金属板4を枠5の両側に覆せ、ネジ5をナット8にねじ込んで締付ければ、第2図に見られるような外観図の通りになる。このようにして.金属板1と金属板4は枠3の蓋となり、これによって受信機の筐体が構成される。そして.ネジ5に上り金属板1と金尾板4は電気的および機械的に結合される。第3図は、算2図の筐体外観図におけるA-A断面から見え内部構造図てある。この図において.第1図と共通の個所には同じ記号を付けてある。枠3には、爪7および爪9を止める溝12および溝13がそれぞれ設けられており、これによって金属板1および金属板4の1端が枠3に固定されている。回路基板2に形成されている受信回路の入力側は接触片10ぶよび接触片11を介してそれそれ金属板1と金属板4に接続されている。かくして、接触片10、金属板1、ネジ5、ボルト8、金属板4および接触片11の経路をとおる電気的をループによりアンテナ回磯が構成される。ところで、接触片10および接触片11は燐青銅などのような弾性をもった金属で作られた接触子であり、筐体が形成されると、金属板との間に良好な接触が保たれるようになっている。回路基板2とは半田付け.あるいはネジ、リベットなどで固定されている。」(公報第4頁第1行~第6頁第9行)「本願考案は、以上の説明より明らかなように、筐体の一部をアンテナと共用する構造をとることによって、アンテナの形状を大きくし、かつ回路基坂上に占める7ンテナの面積および容積を最小にすることができるから、構造の小型化は勿論のことアンテナの性能を向上すべく大きな効果が縛られる。」(公報第7頁第7~13行)との記載がある。

Ⅲ、 本願発明と引用例のものとの比較

そこで本願発明(以下、前者と言う。)と引用例のもの(以下、後者と言う。)とを比較してみると、後者の「小型無線機」は前者の「無線呼出用受信機」に相当し、同じく「枠」は「フレーム」に、「ネジ、ナット」は「第1の導体」に、「接触片」は「第2の導体」にそれぞれ相当するから、両者は、「筐体に受信機回路が収容された無線呼出用受信機において、前記筐体は、前記受信機回路が内側に収まるような形状の絶縁物よりなるフレームと、該フレームを挟んで固定された方形板状の導電体よりなる上板と底板とで形成され、前記上板と前記底板は前記筐体の一端側に位置する該上板と該底板の相対向する各一辺の近傍で第1の導体を介して止ねじによる締め付けで導通接続され、さらに、前記上板上で前記一辺と対向関係にある他の一辺と前記底板上で前記一辺と対向関係にある他の一辺の相対向する角部近傍の1箇所で前記上板は第2の導体を介して前記受信機回路のアンテナ給電端子に電気的に接続され、前記上板と前記底板および前記第1、第2の導体とによって前記アンテナ給電端子に対して断面形状がコの字状のアンテナを形成するように構成されたことを特徴とする無線呼出用受信機」である点で一致し、<1>筐体が、前者では薄型カード状であるのに対し、後者では筐体の形状についての明示がない点、<2>第1導体が、前者では両端角部にあるのに対し、後者では一個でありその位置の明示がない点、<3>第2の導体が、前者では角部近傍でねじで接続されているのに対し、後者では接続される位置が明示されておらず接続が接触である点で相違する。

Ⅳ、 当審の判断

そこで上記相異点について検討すると、相違点<1>につい、携帯用の電子機器(電卓等)を薄型カード状にすることは周知のことであるから、後者の筐体を薄型カード状にして前者のようにすることに格別の推考力を要するものとは認められない。<2>について、直方体のループアンテナでは、上下板の幅が大きいほど、及び幅全体を使って導通接続するほどアンテナ効率が良いことは周知のことであるから、後者の第1導体を両隅角部にして前者のようにすることに格別の推考力を要するものとは認められない。<3>について、ネジで導電接続することは例えば後者の第1導体に対しても採用されているように周知のことであるから、後者の第2導体を接続するに当たりネジを用いて前者のようにすることに格別の推考力を要するもではなく、また、その接続位置を角部近傍にすることは適宜実施しうることと認められる。

Ⅴ、 結論

従って、本願発明は、引用例および周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることが出来たものと認められるから特許法第29条第2項の規定によって特許を受けることが出来ない。

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