大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成9年(行ケ)20号 判決 1997年11月04日

愛知県一宮市三ツ井5丁目15番18号

原告

株式会社岩田レーベル

代表者代表取締役

岩田真人

訴訟代理人弁理士

松永善蔵

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

荒井寿光

指定代理人

遠藤政明

後藤千恵子

吉野日出夫

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者が求める裁判

1  原告

「特許庁が平成7年審判第20767号事件について平成8年11月21日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成元年4月18日に名称を「シュリンクラベル」とする考案(以下、「本願考案」という。)について実用新案登録出願(平成1年実用新案登録願第45164号)をしたが、平成7年7月17日に拒絶査定がなされたので、同年9月28日に査定不服の審判を請求し、平成7年審判第20767号事件として審理された結果、平成8年11月21日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は平成9年1月8日原告に送達された。

2  本願考案の実用新案登録請求の範囲1記載の考案(以下、「本願第1考案」という。)の要旨(別紙図面A参照)

表面に印刷表示した平板状の熱収縮性合成樹脂フィルムの裏面に、感圧性粘着剤を塗布したことを特徴とするシュリンクラベル

3  審決の理由の要点

(1)本願第1考案の要旨は、前項のとおりである。

(2)これに対し、昭和60年実用新案登録願第204511号(昭和62年実用新案出願公開第110973号)の願書に添付された明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(以下、「引用例」という。別紙図面B参照)には、次の記載がある。

「第1図は本考案ラベル(10)の層構造を示す断面図であり、(11)は熱収縮性フィルム(以下、「基材フィルム」とも言う)、(12)は基材フィルム(11)の表面に印刷により形成された印刷層、(13)は印刷層(12)に積層印刷された隠蔽性インキ層、(14)は隠蔽性インキ層(13)の表面に塗布された接着剤層である。」(4頁3行ないし9行)

「ラベル(10)は、第5図に示すごとき、表面にある表示事項(中略)が印刷されている容器(20)に被せられ、熱風吹き付け等の熱収縮処理をうけることにより収縮し、その収縮力と、内側面の接着剤層(14)の接着力とにより第4図に示すように容器の表面に密着一体化する。なお、ラベル(10)は、(中略)シート状のまま準備し、接着剤層(14)を内側にして容器(20)に巻き付け、両端の重ね合わせ縁を接着代として接合してチューブとしたうえで熱収縮処理するようにしてもよい。」(4頁15行ないし5頁6行)

「本考案ラベル(10)の基材フィルム(11)は、例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱収縮性プラスチックフィルムであり」(5頁12行ないし14行)

「接着剤(14)は、感圧性接着剤、感熱性接着剤等を使用することができる。」(6頁6行、7行)

「本考案ラベル(10)が使用される容器(20)の種類は、(中略)形状、材質を問わない。容器(20)が、(中略)異形状を有するものであっても、基材フィルム(11)が熱収縮性を有しているので、熱収縮処理により、凹凸表面にも、シワや膨れ等を伴わずぴったりと密着させることができる。」(8頁11行ないし17行)

したがって、引用例には、熱収縮性フィルムの一面に、ラベルの表示内容となる印刷層、この印刷層上に積層印刷された隠蔽性インキ層、この隠蔽性インキ層の表面に塗布された感圧性接着剤層からなるシート状のラベル、及び、このラベルを接着剤の接着力と熱収縮フィルムヘの熱処理による熱収縮力とにより異形状を有する容器にもぴったりと密着できることが開示されていると認められる。

(3)本願第1考案と引用例記載の考案とを対比すると、本願第1考案の「感圧性粘着剤、熱収縮性合成樹脂フイルム」は、それぞれ、引用例記載の「感圧性接着剤、熱収縮性フィルム」に相当するから、両者は、

「表面に印刷表示した平板状の熱収縮性合成樹脂フィルムに、感圧性粘着剤を塗布したシュリンクラベル」

である点で一致する。しかしながら、本願第1考案が、感圧性粘着剤が熱収縮合成樹脂フィルムの印刷表示面とは反対側の面に施されているのに対して、引用例記載の考案は、印刷表示面に、さらに印刷による隠蔽性インキ層を設けてから感圧性接着剤が設けられている点において両者は相違する。

(4)上記相違点について検討するに、引用例記載の考案においては、容器にシュリンクラベルを被着することにより、その容器表面に施されている表示を隠蔽して、シュリンクラベルに印刷した表示内容のみが見えるようにし、かつ、シュリンクラベル被着後にシュリンクラベルが剥がれた場合のことも考慮して、表示用印刷面と隠蔽用印刷面とを熱収縮性合成樹脂フィルムの同一の面に施し、この面を容器に接する面としているものと認められ、このような考慮を払う必要がない場合には、通常のように隠蔽用インキ層を設けることなく、印刷表示面を熱収縮合成樹脂フィルムの表面、すなわち、熱収縮性合成樹脂フィルムが容器に施されたときに容器に接しない側とすることは、当業者がきわめて容易に想到し得たことである。そして、この場合には、熱収縮性合成樹脂フィルムの一面に表示用印刷が、これと反対の面に感圧性粘着剤が設けられることは自明である。

なお、原告は、引用例に接着剤として感圧性接着剤、感熱性接着剤等が併記されているとしても、その製法からみて、接着剤は熱収縮性フィルムに直接的に塗布するものに限られるから、高温での処理が必要である感圧性接着剤は使用できない旨主張している。しかしながら、引用例には、接着剤層が直接塗布により設けられるものに限られる旨の記載はなく、また、直接塗布によらなければならないとする根拠もない。すなわち、引用例記載の考案においては、隠蔽用インキ層はラベル全体に設けられるものであることはその目的からみて明らかであり、この隠蔽用インキ層の上に設けられる接着剤層も、通常はラベル全体に設けることが引用例7頁1行、2行に明記されているのであるから、原告のいう「間接塗布法」も使用できることは明らかである。したがって、引用例記載の考案においては、接着剤層は熱収縮性フィルムからなるラベルに直接塗布するものに限られ、感圧性接着剤は使用できないという原告の主張は認められない。

(5)したがって、本願第1考案は、引用例記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたと認められるから、実用新案法3条2項の規定により、実用新案登録を受けることができない。

4  審決の取消事由

引用例に審決認定の記載が存することは認める。しかしながら、審決は、引用例記載の技術内容を誤認して本願第1考案と引用例記載の考案の一致点の認定を誤り、かつ、相違点の判断を誤った結果、本願第1考案の進歩性を否定したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)一致点の認定の誤り

審決は、本願第1考案と引用例記載の考案は、表面に印刷表示した「平板状」の熱収縮性合成樹脂フィルムに感圧性粘着剤を塗布したシュリンクラベルである点において一致するとしている。

しかしながら、引用例記載の考案は、その平成2年11月13日付け手続補正書別紙記載の|実用新案登録請求の範囲1」に明記されているとおり、|チューブ状ラベル」を対象とするものであって、本願第1考案のように「平板状」のラベルを対象とするものではない。したがって、本願第1考案と引用例記載の考案はともに「平板状」のシュリンクラベルを対象とするとした審決の認定は誤りである。

この点について、被告は、引用例の記載内容がその後の手続補正によって変更される理由はない旨主張する。

しかしながら、引用例記載の考案はもともと「チューブ状ラベル」を対象とするものであったのであり、(このことは、引用例4頁10行、11行に「第2図は本考案ラベル(10)を缶等の容器に嵌装するに先立ってチューブ状に成形した例であり」と記載されていることからも明らかである。)、このことが手続補正書の記載によって明らかになったにすぎないから、被告の上記主張は当たらない。

また、審決は、本願第1考案と引用例記載の考案は、表面に印刷表示した熱収縮性合成樹脂フィルムに「感圧性粘着剤」を塗布したシュリンクラベルである点において一致するとし、「引用例には、接着剤層が直接塗布により設けるものに限られる旨の記載はなく、また、直接塗布によらなければならないとする根拠もない」から、引用例記載の考案が「間接塗布法を使用できることは明らかであ」るとしている。

しかしながら、引用例記載の「チューブ状ラベル」は重ねた状態で運搬・保存する必要があるから、常温で粘着力を有する感圧性接着剤(直接塗布法によって塗布される。)を使用することができず、感熱性接着剤(間接塗布法によって塗布される。)のみが使用できることは技術的に自明である。この点について、引用例には、そのラベルに感圧性接着剤を使用できる旨が記載されているが、これは実際には適用し得ないものである。これに対し、本願第1考案のラベルは、平板状のものであって、セパレータ(剥離紙)上に載置して運搬・保存できるから、感圧性粘着剤を使用できるのである。したがって、本願第1考案と引用例記載の考案はともに「感圧性粘着剤」を塗布したシュリンクラベルである点において一致するとした審決の認定も誤りである。

(2)相違点の判断の誤り

審決は、引用例記載の考案の技術的課題を、「容器表面に施されている表示を隠蔽して、シュリンクラベルに印刷した表示のみが見えるようにし、かつ、シュリンクラベル被着後において、シュリンクラベルが剥がれた場合のことをも考慮し」と認定したうえ、「このような考慮を払う必要がない場合においては」相違点に係る本願第1考案の構成は自明のことであるという趣旨の判断をしている。

しかしながら、「このような考慮を払う必要がない場合」をあえて想定するのは、本願第1考案と引用例記載の考案とを無理に近付けるために他ならず、不当である。のみならず、審決の上記判断は、引用例記載のラベルが「平板状」であることを前提としてなされたものであるから、誤りである。

(3)以上のように、審決は一致点の認定及び相違点の判断を誤っており、この誤りが本願第1考案の準歩性を否定した審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

第3  請求原因の認否及び被告の主張

請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願第1考案の要旨)及び3(審決の理由の要点)は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

1  一致点の認定について

原告は、引用例記載の考案に係る実用新案登録出願手続において提出された平成2年11月13日付け手続補正書別紙記載の「実用新案登録請求の範囲1」に、同考案が対象とするラベルが「チューブ状ラベル」であることが記載されていることを論拠として、引用例記載の考案は本願第1考案のように「平板状」のラベルを対象とするものではない旨主張する。

しかしながら、審決は、本出願前に頒布された引用例の記載に基づいて引用例記載の考案の技術内容を認定しているのであり、その後の手続補正によって引用例の記載内容が変更される理由はないから、原告の上記主張は失当である。

そして、引用例には、審決認定のとおり、「ラベル(10)は、必ずしも事前にチューブ状に成形しておく必要はなく、シート状のまま準備し、接着剤層(14)を内側にして容器(20)に巻き付け、両端の重ね合わせ縁を接着代として接合してチューブとしたうえで熱収縮処理するようにしてもよい。」(5頁1行ないし6行)と記載され、本願第1考案と同じく「平板状」のシュリンクラベルが開示されていることが明らかであるから、原告の上記主張は誤りである。

また、原告は、引用例記載の「チューブ状ラベル」には感熱性接着剤のみが使用できることは自明である旨主張する。

しかしながら、引用例には、審決認定のとおり、「接着剤(14)は、感圧性接着剤、感熱性接着剤等を使用することができる。」(6頁6行、7行)と記載されており、かつ、感圧性接着剤を塗布する具体的方法は本願第1考案の要旨とは関わりのない事項であるから、原告の上記主張も誤りである。

2  相違点の判断について

原告は、相違点に係る審決の判断は引用例記載のラベルが「平板状」であることを前提としてなされたものであって誤りである旨主張する。

しかしながら、引用例に「平板状」のシュリンクラベルが開示されていることは前記1のとおりであるから、相違点に係る審決の判断に誤りはない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

第1  請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願第1考案の要旨)3(審決の理由の要点)、及び、引用例に審決認定の記載が存することは、いずれも当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告主張の審決取消事由の当否を検討する。

1  成立に争いのない甲第3号証の1(実用新案登録願書添付の明細書及び図面)及び3(平成7年6月5日付け手続補正書)によれば、本願明細書には本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果が次のように記載されていることが認められる(別紙図面A参照)。

(1)技術的課題(目的)

本願考案は、各種容器に熱収縮性を利用して密着させるシュリンクラベルに関するものである(明細書1頁18行、19行)。

従来のシュリンクラベルは、主としてガラス製容器の胴部に熱収縮性合成樹脂シート製の筒状物(シュリンクスリーブ)を嵌合し、熱収縮作用によって密着させ、ラベル機能と容器の保護を図るものであるが、この筒状物はあらかじめ一定形状に製作されているので、他の形状の容器、特に複雑な局面や凹凸面を持つ容器に密着させようとすると、皺を生じて不体裁になることを免れず、また、その貼付作業には大掛かりな専用機を必要とする問題点がある(同2頁1行ないし14行)。

本願考案の目的は、複雑な局面や凹凸面を持つ容器にも密着するシュリンクラベルを提供することである(同2頁19行ないし3頁2行)。

(2)構成

上記の目的を達成するため、本願考案はその要旨とする構成を採用したものである(手続補正書3頁3行ないし10行)。

(3)作用効果

本願考案によれば、複雑な曲面や凹凸面を持つ容器にもよく密着し、皺を生ずることがないシュリンクラベルを得ることができる(明細書5頁19行ないし6頁6行)。

2  一致点の認定について

原告は、引用例記載の考案は「チューブ状ラベル」を対象とするものであって、本願第1考案のように「平板状」のラベルを対象とするものではない旨主張する。

しかしながら、成立に争いのない甲第2号証によれば、引用例には、審決認定のとおり、「ラベル(10)は、必ずしも事前にチューブ状に成形しておく必要はなく、シート状のまま準備し、接着剤層(14)を内側にして容器(20)に巻き付け、両端の重ね合わせ縁を接着代として接合してチューブとしたうえで熱収縮処理するようにしてもとい。」(5頁1行ないし6行)と記載されているにとが認められる。そうすると、引用例記載の考案に係るラベルが「シート状」、すなわち「平板状」のものでもよい(「シート状」も「平板状」も、その形態において差異はない。)ことは明らかであるから、原告の上記主張は誤りである。

この点について、原告は、引用例記載の考案に係る実用新案登録出願手続において提出された平成2年11月13日付け手続補正書別紙記載の「実用新案登録請求の範囲1」に、同考案が対象とするラベルが「チューブ状ラベル」であることが記載されていることを、その主張の論拠としている。

しかしながら、審決は、本出願前に頒布された引用例の記載に基づいて引用例記載の考案の技術内容を認定しているのであり、その後の手続補正によって引用例の記載内容自体が変更される理由はないから、原告の上記主張は失当である。

また、原告は、引用例記載の「チューブ状ラベル」には感熱性接着剤のみが使用できることは技術的に自明であると主張する。

しかしながら、前掲甲第2号証によれば、引用例には、審決認定のとおり、「接着剤(14)は、感圧性接着剤、感熱性接着剤等を使用することができる。」(6頁6行、7行)と記載されていることが認められるから、原告の上記主張は誤りである。原告の上記主張は、引用例記載の考案が「チューブ状ラベル」を対象とすることのみを論拠とするものであるが、それが誤りであることは前記のとおりである。

したがって、審決の一致点の認定に誤りはない。

3  相違点の判断について

原告は、審決は引用例記載の考案の技術的課題を「容器表面に施されている表示を隠蔽して、シュリンクラベルに印刷した表示内容のみが見えるようにし、かつ、シュリンクラベル被着後において、シュリンクラベルが剥がれた場合のことをも考慮し」と認定したうえ、「このような考慮を払う必要がない場合」を想定して相違点に係る本願第1考案の構成の想到容易性を判断しているが、そのような場合をあえて想定するのは本願第1考案と引用例記載の考案とを無理に近付けるために他ならず、不当である旨主張する。

しかしながら、前掲甲第2号証によれば、引用例には、[従来の技術と問題点]として、「食品、飲料、その他の商品の密封包装材として使用されるアルミニウム缶やブリキ缶などの金属缶容器の胴部表面には、商品(内容物)についての情報を表示し、または商品イメージ・意匠効果を高めるために、商標、文字・記号、図柄、模様等が印刷により施付されることが多い。このような所要の表示が施された缶容器は、(中略)必ずしもその全量が予定された通りの包装容器として使用されるとは限らず、そのうちの一部は、(中略)使用されないまま放置される場合がしばしばある。しかるに、缶容器の胴部表面には、当初予定されていた商品に関する印刷が施されているので、これを銘柄・種類の異なる他の商品を包装するための缶容器として転用することもできず、スクラップとして回収するほかなく、著しい無駄を余儀なくされる。金属缶容器のほか、プラスチックボトル、ガラス瓶等の場合も上記と同様の問題がある。本考案は上記問題を解決するためのラベルを提供するものである。」(2頁4行ないし3頁5行)、[問題点を解決するための手段および作用]として、「本考案のラベルは、熱収縮性フィルムの表面に、所望の色彩とパターンを有する印刷層を印刷し、該印刷層に隠蔽性インキ層を印刷積層し、該隠蔽性インキ層の表面に接着剤を塗布してなる熱収縮性ラベルを、その接着剤層を内面にして容器の表面に被着させるようにしたものである。本考案ラベルを金属缶、ガラス瓶等の容器表面に被着させると、フィルムの印刷層に積層されている隠蔽性インキ層により、容器表面が隠蔽されるので、たとえ容器表面に、別種の商標・図柄その他の表示が印刷されていても、その印刷と、ラベルの印刷層とが重畳・混同することなく、ラベル印刷層の色彩とパターンを明瞭に視覚することができる。」(3頁7行ないし20行)と記載されていることが認められる。

これらの記載によれば、引用例記載の考案は、既に印刷が施されている容器に、新たに別の印刷を明瞭に施すという特殊な技術的課題を解決するために創作されたものであるが、同時に、熱収縮性合成樹脂フィルムに印刷を施すとともに感圧性粘着剤を塗布してシュリンクラベルを形成するという基本的構成においては、本願第1考案と軌を一にしていることが明らかである。したがって、引用例記載の技術的事項から、上記の特殊な技術的課題の解決のために採用された構成を捨象したうえ、それとの対比によって本願第1考案の進歩性の有無を検討することには、十分な合理性があるというべきである。

そして、「隠蔽用インキ層」を設ける必要がない以上、「印刷表示面を熱収縮性合成樹脂フィルムの表面、即ち、熱収縮性合成樹脂フィルムが容器に施されたときに容器に接しない側とすること」は、審決が説示するとおり、まさしく[通常]のことにすぎず、原告も、印刷表示を施した面と反対側の面に感圧性粘着剤を塗布する本願第1考案の構成によって格別の作用効果が奏される点については、何らの主張も立証もしていないのである。

なお、原告は、相違点に係る審決の判断は引用例記載のラベルが「平板状」であることを前提としてなされたものであって誤りである旨主張する。

しかしながら、引用例に「平板状」のシュリンクラベルが開示されていることは前記2のとおりであるから、原告の上記主張は失当である。

したがって、相違点に係る審決の判断にも誤りはない。

4  以上のとおりであるから、本願第1考案の進歩性を否定した審決の認定判断は正当であって、審決には原告主張のような違法は存しない。

第3  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司)

別紙図面A

第1図aは、この考案のシュリンクラベルの実施例の表面図。

第1図bは、第1図aのシュリンクラベルを筒状容器に密着させた状態を示す図。

<省略>

「A……シュリンクラベル、a……粘着剤、b……ミシン目、c……容器、d……印刷表示面」

別紙図面B

「10…ラベル、11……熱収縮性フィルム、12……印刷層、13…隠蔽性インキ層、14……接着剤層」

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例