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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)210号 判決 1998年6月24日

福岡県大野城市仲畑2丁目5番30号

原告

株式会社コアーパック

代表者代表取締役

宿谷秀寿

訴訟代理人弁理士

平田義則

兵庫県伊丹市森本2丁目201番地

被告

永田希喜

訴訟代理人弁理士

松尾憲一郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成8年審判第20929号事件につい、平成9年7月2日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「コア採取器具」とする実用新案登録第1862749号実用新案(昭和57年4月23日実用新案登録出願、平成3年8月28日設定登録。以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。

原告は、平成8年12月10日、本件考案の実用新案登録を無効とする旨の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を、平成8年審判第20929号事件として審理したうえ、平成9年7月2日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同月22日、原告に送達された。

2  本件考案の要旨

コアチューブ1がインナーコアチューブ1aとアウトコアチューブ1bとから成るダブルチューブ型で、そのアウトコアチューブ1bの先端にジョイントチューブ13をねじ結合により連結し、そのジョイントチューブ13の先端にねじ結合により岩石等を切削するビット2を取付けるとともに後端にはボーリングロッド3を連結し、一方、インナーコアチューブ1aの先端に前記ジョイントチューブ13に対応して位置されるエキステンションチューブ8を連結し、かつ、前記エキステンションチューブ8の内面全周にそのチューブ8と同一軸の円筒状凹部4を形成し、この凹部4に、有底円筒状の袋5をその軸がコアチューブ1の中心軸となるとともに底部5bが凹部4後端からエキステンションチューブ8内方に張り出すように収納し、前記凹部4の開口をその後端を除いてコアチューブ1と同一軸でビット2内径とほぼ同一内径の円筒状収納チューブ10により閉塞するとともに、この収納チューブ10をエキステンションチューブ8を介してインナーコアチューブ1aに着脱可能に取付け、コア切削につれ、そのコアAが前記収納チューブ10内及びインナーコアチューブ1a内を前記袋5を凹部4から引き出しながら進行するダブルチューブ式のコア採取器具において、上記ジョイントチューブ13のビット2及びアウトコアチューブ1bとねじ結合するねじ部分13’を内面に形成し、上記エキステンションチューブ8の外面を、ビット2及びアウトコアチューブ1bの内面より外側に位置させたことを特徴とするコア採取器具。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、

(1)  本件考案が、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である特公昭42-3922号公報(審決甲第1号証)及び中村小四郎著「試錐〔Ⅳ〕」試錐研究会昭和49年7月10日発行の304頁の図5-64の写し(審決甲第2号証、本訴甲第4号証、以下「本件技術文献」という。)に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法(昭和62年法律第46号による改正前のもの、以下同じ。)3条2項の規定により、実用新案登録を受けることができないとの請求人(本訴原告)の主張(以下「請求人主張(1)」という。)について、本件考案は、これらに記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることはできないとし、

(2)  福岡地方裁判所平成5年(ワ)第1269号事件における原告(本訴被告)本人調書の写し(審決甲第3号証、本訴甲第6号証、以下「本件調書」という。)及び有限会社アイジイ工業のパンフレットの写し(審決甲第4号証、本訴甲第5号証、以下「本件パンフレット」という。)に示されたとおり、本件考案は、実用機として使用することができない未完成な考案であって、産業上利用することができる考案ではないから、実用新案法3条1項柱書きの規定に違反するので、実用新案登録を受けることができないとの請求人の主張(以下「請求人主張<2>」という。)について、本件考案を産業上利用することができないものとすることはできないとし、

(3)  本件考案では、アウトコアチューブとジョイントチューブをリーマを介してねじ結合することが必須の構成要件であるが、明細書にこの構成要件が記載されていないから、明細書の記載は実用新案法5条3項、4項に規定する要件を満たしていないとの請求人の主張(以下「請求人主張(3)」という。)について、本件考案が、リーマを介してねじ結合することを必須の構成とすることはできないとし、

請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件実用新案登録を無効とすることはできないとしたものである。

第3  原告主張の取消事由の要点

審決の理由中、本件考案の要旨の認定、請求人(本訴原告)主張(1)~(3)の認定、請求人主張(1)についての判断は、いずれも認める。請求人主張(2)についての判断は、請求人主張(3)に関連する部分(審決書16頁5~10行)を除いて、争わない。

審決は、本件考案の明細書の記載が、実用新案法5条3項、4項に規定する要件を満たしていないとの請求人主張(3)について、判断を誤り(取消事由)、本件考案の実用新案登録を無効とできないとしたものであるから、違法として取り消されなければならない。

すなわち、本件明細書(甲第2号証)に、「採取作業を破砕層及びクラツクの多い地盤で行なうと、採取コアがしつかりした円柱状とならず、くずれたり、破片がコア外面から突出したりする。」(同号証1頁2欄12~15行)と記載されているように、本件考案のコア採取器具で採取するコアは、主として「破砕層及びクラックの多い地盤」である硬質地層である。ところで、「破砕層及びクラックが多い地盤」でコアを採取する場合、地盤の側圧によりコア採取器具の周りが締めつけられる結果、コア採取器具の回転が困難となり、それを無理に回転させると、強度が十分でないねじ部分が破壊されてコア採取ができなくなる。また、コア取出しのためコア採取器具をボーリング孔から引き上げると、地盤の側圧により孔径が小さくなり、そのため、再度ボーリング孔にコア採取器具を挿入する場合、孔径を広げながら行わなければならないので、作業性がきわめて悪くなる。これらの問題を解決するため、従来から硬質地層用のコア採取器具には、アウトコアチューブとジョイントチューブとの間にリーマを設けることが必須の構成であり、リーマで内面をならして孔径を維持していたのである。

また、被告が、本件考案のコア採取器具を試作したところ、リーマがないため孔径の維持ができず、アウトコアチューブとジョイントチューブとの間のねじ結合部分が破壊されて事故が起こる可能性が非常に高く、製品化できないことは、本件調書において、被告本人が自認するところである(審決書15頁15行~16頁2行参照)し、従来と同様、アウトコアチューブとジョイントチューブとの間にリーマを設けたコア採取器具を製品化していることは、本件パンフレットからも裏付けられる(審決書16頁16~19行参照)ものである。

この点について審決は、「ネジ結合部分は、例えばアウトコアチューブとジョイントチューブの材料や寸法を適切に選択することにより必要強度を得ることが可能」(審決書16頁5~8行)であると判断する。

しかし、本件考案のアウトコアチューブとジョイントチューブとの間には、掘り屑を排出するための作業水の水路等を確保しなければならないという構造上の制約があるため、アウトコアチューブは数ミリメートルの厚さに形成され、ジョイントチューブは更にそれよりも薄く形成されている。また、コア採取器具の作業環境や使用条件から、アウトコアチューブ等の材料は、ハイグレードなものが使用されているから、上記認定のように、アウトコアチューブとジョイントチューブの材料や寸法を選択するだけで、ねじ結合部分の必要強度を得ることは、現実的には困難である。

このように「破砕層及びクラックが多い地盤」のコアを採取するためには、リーマを設けて孔径を維持することが必要であるところ、本件考案の実用新案登録請求の範囲にはリーマについての記載がないし、また、考案の詳細な説明及び図面にもその記載がない。

したがって、本件考案の実用新案登録請求の範囲には考案構成上の必須の構成要件が記載されていないし、また、考案の詳細な説明には当業者が容易に実施できる程度にその目的、構成及び効果を記載していないから、本件考案は実用新案法5条3項、4項の規定に違反しており、審決の認定は誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であって、原告主張の審決取消事由は、理由がない。

原告は、リーマがないとアウトコアチューブの周りの孔径が充分に確保できず、側圧がかかり、ビットの回転がしにくくなるから、リーマをアウトコアチューブとの間に介在させることが、本件考案の必須の構成であると主張する。

しかし、本件考案の技術的思想は、いかに袋収納部を大きくとるかにあり、このため実用新案登録請求の範囲に記載の構成を採用したのであって、アウトコアチューブとジョイントチューブを直接ねじ結合すると、ねじ部分の強度が弱く実用に供しえないか否かということは、本件考案の技術的思想とは全く無関係の問題である。このようなねじ結合の強度は、本件考案を実用化する際に、当業者が十分な強度を有するように設計し、材料の選択をすることである。

したがって、請求人主張(3)に関する審決の判断(審決書17頁3~13行)に、誤りはない。

第5  当裁判所の判断

1  請求人主張(3)の判断誤り(取消事由)について

審決の理由中、本件考案の要旨の認定、本件調書及び本件パンフレットに関する認定(審決書15頁15行~16頁2行、同16頁16~~19行)は、いずれも当事者間に争いがない。

本件明細書(甲第2号証)には、「この考案はダブルチユーブ式のコア採取器具に関する。この種のコア採取器具は、ボーリングロツドを回転させてビツトにより岩石等を円柱状に切削し、そのコアをコアチユーブ内に送り込んで採取するものである。ところで、採取作業を破砕層及びクラツクの多い地盤で行なうと、採取コアがしつかりした円柱状とならず、くずれたり、破片がコア外面から突出したりする。この破片はコアチユーブ内面にくい込み、コア自身の送り込みを妨害し、この様に破片がくい込んでコア詰りが生じると、切削作業を停止し、コア採取器具を地盤上に上げて清掃し、再びボーリング孔に挿入するという操作をしなければならない。それゆえ、上記の破砕層及びクラツクの多い地盤では・・・作業性が悪い。」(同号証1頁2欄6~22行)、「この採取器具においては、ビツトによりエキステンシヨンチユーブを被覆してビツトを直接にアウトコアチユーブに連結しているため、消耗品であるビツトが長くなりコスト的にも高くなつているうえに、袋収納部の大きさにも問題がある。・・・この考案は、以上の点に留意し、上記問題点を解決したコア採取器具を提供することを目的とする。すなわち、上記のジヨイントチユーブを採用したダブルチユーブ式コア採取器具において、ジヨイントチユーブのビツト及びアウトコアチユーブとの結合をねじ手段としてその内面にねじを形成し、エキステンシヨンチユーブの外面を、ビツト及びアウトコアチユーブの内面より外側に位置させたのである。このように、ジヨイントチユーブのねじ部分を内面側とすると、ビツト及びアウトコアチユーブ側のねじ部分は外面側となり、ジヨイントチユーブの内面をビツトおよびアウトコアチユーブの内面より外側に位置させることができ、このジヨイントチユーブ内面を外側に後退させてできる空間にエキステンシヨンチユーブを突出させて、その外側をビツトおよびアウトコアチユーブの内面より外側に位置させる。」(同2頁3欄16行~同頁4欄3行)、「この考案のコア採取器具によると、ジヨイントチユーブのビツト及びアウトコアチユーブとねじ結合するねじ部分を内面に形成し、袋収納部を形成するエキステンシヨンチユーブの外面を、ビツト及びアウトコアチユーブの内面より外側に位置させた構成としたので、インナーコアチユーブ内面から外側への距離(深さ)で決定される袋収納部を大きくとることができ、袋の長さを長くとつても十分にかつ確実に収納することができて円滑な送り出しが行なわれる効果がある。」(同3頁6欄38行~4頁7欄4行)と記載されている。

これらの記載及び本件明細書の添付図面によれば、本件考案は、ビットを直接にアウトコアチューブに連結している従来のコア採取器具において、消耗品であるビットが長くなりコスト的に高額であるとともに、袋収納部の大きさにも問題があったので、これらの技術的課題の解決のために、本件考案の要旨に示す構成を採用するものであり、特に、ビットとアウトコアチューブとの間にジョイントチューブをねじ結合により設置し、ジョイントチューブの内面をビット及びアウトコアチューブの内面より外側に位置させて、エキステンションチューブを外側に突出させる構成を採用することにより、袋収納部を大きくとることができ、袋の長さが長くとも、十分かつ確実に袋を収納できて円滑な送出しを行えるという作用効果を奏するものと認められる。また、本件考案のコア採取器具は、ボーリングロッドを回転させてビットにより岩石等を円柱状に切削し、そのコアをコアチューブ内に送り込んで採取するものであり、その対象となる地盤を実用新案登録請求の範囲において特定するものではないから、地中の地盤全般をその対象とするものであるが、特に、採取作業を破砕層及びクラックの多い地盤で行う場合は、作業性が悪化することが認識されていたものと認められる。

原告は、本件考案のコア採取器具で採取するコアは、主として破砕層及びクラックの多い地盤である硬質地層であり、このような地層でコアを採取する場合、地盤の側圧によりコア採取器具の周りを締めつけられる結果、コア採取器具の回転が困難となって、ねじ部分が破壊される危険が生ずるとともに、再度ボーリング孔にコア採取器具を挿入する場合、孔径を広げながら行わなければならないので、作業性がきわめて悪くなる等の問題を生ずるから、アウトコアチューブとジョイントチューブとの間にリーマを設けることが、硬質地層用のコア採取器具において必須の構成であると主張する。

しかし、本件考案のコア採取器具は、前示のとおり、地中の地盤全般をその対象とするものであり、本件考案が「主として」破砕層及びクラックの多い地盤である硬質地層を対象としており、それ以外の軟質な地層を対象から除外するものでないことは、原告も自認するところと認められるから、破砕層及びクラックの多い地盤である硬質地層では、原告の主張するような地盤の側圧によるコア採取器具の締めつけ等の事態が生ずるとしても、本件考案の対象範囲がそのような地質に限定できない以上、アウトコアチューブとジョイントチューブとの間にリーマを設けることが、常に本件考案の必須の構成となるものでないことは明らかである。

しかも、本件考案は、前示のとおり、消耗品であるビットのコストの問題と、袋収納部の大きさの問題を技術的課題として、本件考案の要旨に示す構成、特に、ビットとアウトコアチューブとの間にジョイントチューブをねじ結合により設置したことをその特徴的構成とするものであるから、それ以外の点、すなわち、地層の質に応じて、本件技術文献(甲第4号証)等に公知技術として紹介されるリーマを、アウトコアチューブとジョイントチューブとの間に介在させること等は、当業者が、考案の実施に際して、適宜採用すればよい選択的事項であるといえる。したがって、アウトコアチューブとジョイントチューブとの間にリーマを設けることは、本件考案の必須の構成となるものでなく、原告の上記主張を採用する余地はない。

また、原告は、本件調書(甲第6号証)及び本件パンフレット(甲第5号証)を根拠として、本件考案において、アウトコアチューブとジョイントチューブとの間にリーマがないと、ねじ結合部分が破壊される可能性が高く、製品化できないから、この点からも、リーマが必須の構成要素であることが裏付けられると主張する。

しかし、上記の各証拠によれば、製品化され実際に破砕層及びクラックの多い地盤である硬質地層でも使用されるコア採取器具では、アウトコアチューブとジョイントチューブとの間にリーマを設ける構成が一般的であることが認められるだけであり、そうであるからといって、対象が硬質地層等に限定されない本件考案において、上記リーマが必須の構成要素となるものでないことはいうまでもない。また、実際に製品化されるか否かはともかくとして、リーマを設ける以外に、アウトコアチューブやジョイントチューブの材料や寸法を適切に選択することにより、ねじ部分に必要な強度を得ることを、技術的に否定するものでもない。したがって、原告の上記主張も、採用することができない。

以上のとおり、本件考案において、アウトコアチューブとジョイントチューブとの間にリーマを設けることが必須の構成といえない以上、その余の点について検討するまでもなく、原告主張の取消事由は採用することができず、この点に関する審決の判断(審決書17頁3~13行)に、誤りはない。

2  したがって、原告の審決取消事由は理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成8年審判第20929号

審決

福岡県大野城市仲畑2丁目5番30号

請求人 株式会社 コアーパック

福岡県福岡市早良区西新1丁目7番25号 ホワイティ西新2階 平田特許事務所

代理人弁理士 平田義則

兵庫県伊丹市森本2丁目201番地

被請求人 永田希喜

福岡県福岡市中央区今泉2丁目4番26号 今泉コーポラス1F 松尾特許事務所

代理人弁理士 松尾憲一郎

上記当事者間の登録第1862749号実用新案「コア採取器具」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

審判費用は、請求人の負担とする。

理由

(手続の経緯・本件考案)

本件登録第1862749号実用新案(昭和57年4月23日実用新案登録出願。平成3年8月28日設定登録。以下、「本件考案」という。)の考案の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの

「コアチューブ1がインナーコアチューブ1aとアウトコアチユーブ1bとから成るダブルチユーブ型で、そのアウトコアチユーブ1bの先端にジヨイントチユーブ13をねじ結合により連結し、そのジヨイントチユーブ13の先端にねじ結合により岩石等を切削するビット2を取付けるとともに後端にはボーリングロツド3を連結し、一方、インナーコアチユーブ1aの先端に前記ジヨイントチユーブ13に対応して位置されるエキステンシヨンチユーブ8を連結し、かつ、前記エキステンシヨンチユーブ8の内面全周にそのチューブ8と同一軸の円筒状凹部4を形成し、この凹部4に、有底円筒状の袋5をその軸がコアチユーブ1の中心軸となるとともに底部5bが凹部4後端からエキステンシヨンチユーブ8内方に張り出すように収納し、前記凹部4の開口をその後端を除いてコアチユーブ1と同一軸でビット2内径とほぼ同一内径の円筒状収納チューブ10により閉塞するとともに、この収納チューブ10をエキステンシヨンチユーブ8を介してインナーコアチユーブ1aに着脱可能に取付け、コア切削につれ、そのコアAが前記収納チューブ10内及びインナーコアチユーブ1a内を前記袋5を凹部4から引き出しながら進行するダブルチユーブ式のコア採取器具において、上記ジヨイントチユーブ13のビット2及びアウトコアチユーブ1bとねじ結合するねじ部分13’を内面に形成し、上記エキステンションチューブ8の外面を、ビット2及びアウトコアチユープ1bの内面より外側に位置させたことを特徴とするコア採取器具。」

にあるものと認める。

(請求人の主張)

これに対し、請求人は、

次の甲第1~4号証を提出して、

<1>甲第1号証:特公昭42-3922号公報

<2>甲第2号証:中村小四郎著「試錐〔Ⅳ〕」試錐研究会発行(昭和49年7月10日)第304頁の図5-64(写し)

<3>甲第3号証:福岡地方裁判所平成5年(ワ)第1269号における原告本人調書(写し)

<4>甲第4号証:有限会社アイジイエ業のパンフレット(写し)

(1)本件考案は、実用新案登録出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証及び甲第2号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により、実用新案登録を受けることができない(以下、「請求人の主張(1)」という)、

(2)甲第3号証及び甲第4号証に示されたとおり、本件考案のようにアウトコアチューブとジョイントチューブを直接ネジ結合するとネジ部分の強度が弱く実用に供し得ないものであり、本件考案は、実用機として使用することができない未完成な考案であって産業上利用することができる考案ではないから、実用新案法第3条第1項柱書きの規定に違反するので実用新案登録を受けることができないものである(以下、「請求人の主張(2)」という)、

(3)本件考案ではアウトコアチューブとジョイントチューブをリーマを介してねじ結合することが必須の構成要件であるが、明細書にこの構成要件が記載されていないから、明細書の記載は実用新案法第5条第3項、第4項に規定する要件を満たしていない(以下、「請求人の主張(3)」という)、と主張している。

(当審の判断)

1. 先ず、上記請求人の主張(1)について検討する。

(1)請求人が提出した甲各号証には、それぞれ以下の事項が記載されているものと認められる。

<甲第1号証>

「第3図に示すように内管9と外管10とから構成され、内管9はうすい刃先を有する先端部9aと主部9bとに分れる。その接ぎ手は載頭円錘形の凹凸をなし、同心に嵌め込むようにできているから取り離しも自在である。接ぎ手に隣接する内管9bの下部には資料切断器11が取り付けられ、その直上には資料包装袋装填室12を形成するため二重管となっている。装填室12の上端には内管9b内に向って包装袋の伸出口13がある。内管9bの内径は伸出口13から上は稍々大きくしてある。装填室12内には円筒形包装袋14を押しこみ、袋の終端は内管9bの内部横断面全部を包み遮断するよう縛って閉塞してある。内管先端部9aの外側には鍔15がある。外管10は内管9に重なっているが、自由に内管の周囲を廻転することができ、その先端には掘さく用メタル4を装備し、これに近いところに内側に向ってベアリング16を取り付ける鍔がある。」(第1頁右欄第24行~末行)、「内管先端部5の中へ進入した資料は内管主部9bの下端に取り付けられた包装袋装填室12の上部から滑り出る<省略>頭形の包装袋14の上端に達し、更に進入に伴い、自然に袋で上と周囲とが包まれて、内管主部9bの中へ進入してゆく。袋と内管主部9bとの間には潤滑性の液体たとえば石鹸水、苛性ソーダ溶液あるいは油類等を充満させて、摩擦を少くすると共に衝撃による資料の損傷を防ぐ。」(第2頁左欄第27~35行)との記載があり、また、図面を参照すると、同号証には、

“コアチューブが内管9と外管10とから成るダブルチユーブ型で、その外管10の先端に岩石等を切削する掘さく用メタル4を取付けるとともに後端にはボーリングロツドを連結し、一方、内管9の先端側を内管9と同一軸で外側の管径が前記内管の管径より大きい二重管にして、管壁間に資料包装袋装填室12を形成し、この資料包装袋装填室12に、有底円筒状の包装袋14をその軸が内管9の中心軸となるとともに底部が資料包装袋装填室12後端の伸出口13から内管9内方に張り出すように収納し、前記資料包装袋装填室12をその後端の伸出口13を除いて閉塞するとともに、コア切削につれ、そのコアが前記二重管の内側の管内及び内管9内を前記包装袋14を資料包装袋装填室12から引き出しながら進行するダブルチユーブ式のコア採取器具。”

が記載されているものと認められる。

<甲第2号証>

“コアチューブがインナーチューブ8、9とアウターチユーブ4とから成るダブルチユーブ型で、そのアウターチユーブ4の先端に保護ミーリングシェル3、アウターエクステンションチューブ2をねじ結合により連結し、そのアウターエクステンションチューブ2の先端にねじ結合により岩石等を切削する保護ビット1を取付けるとともに後端にはボーリングロットを連結し、一方、インナーチューブ8の先端にインナーエクステンシヨンチユーブ7を連結し、上記アウターエクステンションチユーブ2のビット2及び保護ミーリングシェル3とねじ結合するねじ部分を内面に形成したダブルチユーブ式のコア採取器具。”

が、記載されているものと認められる。

(2)そこで、本件考案と甲第1号証に記載されたものとを対比すると、甲第7号証に記載されたものの“内管9”、“外管10”、“掘さく用メタル4”、“二重管の外側の管壁”、“資料包装袋装填室12”、“包装袋14”、“二重管の内側の管壁”が、それぞれ本件考案の「インナーコアチューブ」、「アウトコアチューブ」、「ビット」、「エキステンションチューブ」、「凹部」、「袋」、「収納チューブ」に相当するから、

両者は、

コアチューブがインナーコアチューブとアウトコアチユーブとから成るダブルチユーブ型で、そのアウトコアチユーブの先端に岩石等を切削するビットを取付けるとともに後端にはボーリングロツドを連結し、一方、インナーコアチユーブの先端にエキステンシヨンチユーブを連結し、かつ、前記エキステンシヨンチユーブの内面全周にそのチューブと同一軸の円筒状凹部を形成し、この凹部に、有底円筒状の袋をその軸がコアチユーブの中心軸となるとともに底部が凹部後端からエキステンシヨンチユーブ内方に張り出すように収納し、前記凹部の開口をその後端を除いてコアチユーブと同一軸の円筒状収納チューブにより閉塞するとともに、この収納チューブをエキステンシヨンチユーブを介してインナーコアチユーブに取付け、コア切削につれ、そのコアがインナーコアチユーブ内を前記袋を凹部から引き出しながら進行するダブルチユーブ式のコア採取器具、

である点で一致するものの、

甲第1号証に記載されたものは、本件考案の構成に欠くことができない事項である

<1>「アウトコアチユーブ1bの先端にジヨイントチユーブ13をねじ結合により連結し、そのジヨイントチユーブ13の先端にねじ結合により岩石等を切削するビット2を取付ける」点、

<2>「インナーコアチユーブ1aの先端に前記ジヨイントチユーブ13に対応して位置されるエキステンシヨンチユーブ8を連結し」、

<3>「収納チューブ10をエキステンシヨンチユーブ3を介してインナーコアチユーブ1aに着脱可能に取付ける」点、

<4>「ビット2内径とほぼ同一内径の円筒状収納チューブ10」の点

<5>「ジヨイントチユーブ13のビット2及びアウトコアチユーブ1bとねじ結合するねじ部分13’を内面に形成し、上記エキステンションチューブ8の外面を、ビット2及びアウトコアチユープ1bの内面より外側に位置させた」点

を備えていない点で相違する。

(3)次に、上記相違点について検討する。

本件考案は、先行技術が有する「消耗品であるビットが長くなりコスト的にも高くなる」、「袋収納部の大きさにも問題がある」等の課題を解決するものであって、特に、「ジヨイントチユーブ13のビット2及びアウトコアチユーブ1bとねじ結合するねじ部分13’を内面に形成し」、「インナーコアチューブ1aの先端に前記ジヨイントチユーブ13に対応して位置されるエキステンシヨンチユーブ8を連結し」、「上記エキステンションチューブ8の外面を、ビット2及びアウトコアチユープ1bの内面より外側に位置させ」、「前記エキステンシヨンチユーブ8の内面全周にそのチューブ8と同一軸の円筒状凹部4を形成し、この凹部4に、有底円筒状の袋5をその軸がコアチユーブ1の中心軸となるとともに底部5bが凹部4後端からエキステンシヨンチユーブ8内方に張り出すように収納した」ことによって、「インナーコアチューブ内面から外側への距離(深さ)で決定される袋収納部を大きく取ることができ、袋の長さを長くとっても十分にかつ確実に収納することができて円滑な送り出しが行なわれる」(明細書第12頁第11~15行、実用新案公報第6欄第43行~同第7欄第3行)等の作用効果を得るものである。

そこで、甲第2号証に記載された事項を検討すると、甲第2号証に記載されたものの“インナーチューブ8、9”、“アウターチューブ4、保護ミーリングシェル3”、“アウターエクステンシヨンチューブ2”、“保護ビット1”、“インナーエクステンションチューブ7”が、それぞれ本件考案の「インナーコアチューブ」、「アウトコアチューブ」、「ジョイントチューブ」、「ビット」、「エキステンションチューブ」に相当するから、

本件考案と甲第2号証に記載されたものとは、コアチューブがインナーコアチューブとアウトコアチユーブとから成るダブルチユーブ型で、そのアウトコアチユーブの先端にジヨイントチユーブをねじ結合により連結し、そのジヨイントチユーブの先端にねじ結合により岩石等を切削するビットを取付けるとともに後端にはボーリングロツドを連結し、一方、インナーコアチユーブの先端にエキステンシヨンチユーブを連結し、上記ジヨイントチユーブのビット及びアウトコアチユーブとねじ結合するねじ部分を内面に形成したコア採取器具

である点で一致するものの、

甲第2号証に記載されたものは、本件考案の構成に欠くことができない事項である「インナーコアチユーブ1aの先端に前記ジヨイントチユーブ13に対応して位置されるエキステンシヨンチユーブ8を運結した」点、「前記エキステンシヨンチユーブ8の内面全周にそのチューブ8と同一軸の円筒状凹部4を形成し、この凹部4に、有底円筒状の袋5をその軸がコアチユーブ1の中心軸となるとともに底部5bが凹部4後端からエキステンシヨンチユーブ8内方に張り出すように収納し、前記凹部4の開口をその後端を除いてコアチユーブ1と同一軸でビット2内径とほぼ同一内径の円筒状収納チューブ10により閉塞するとともに、この収納チューブ10をエキステンシヨーンチユーブ3を介してインナーコアチユーブ1aに着脱可能に取付け、コア切削につれ、そのコアAが前記収納チユーブ10内及びインナーコアチユーブ1a内を前記袋5を凹部4から引き出しながら進行する」点、「上記エキステンションチューブ8の外面を、ビット2及びアウトコアチユープ1bの内面より外側に位置させた」点を備えていない。

このように、「袋」及び「袋」を収納するための構成を何ら有しないものが甲第2号証に記載されていても、このものは「袋収納部の大きさ」の問題に係る課題、解決手段、作用効果の予測を与えるものではない。

したがって、「袋収納部の大きさ」の問題に係る解決手段である上記相違点における本件考案の構成は、甲第2号証に記載されたものを参照しても、当業者が容易に想到し得たものとすることはできないから、本件考案は、甲第1号証及び甲第2号証にそれぞれ記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとすることはできない。

2. 次に、上記請求人の主張(2)について検討する。

請求人は、福岡地方裁判所平成5年(ワ)第1269号の第10回口頭弁論における、被請求人の「最初の試作では作りましたけれども、人さまに売るような商品ではなかったので、今、作っていません。」、「ネジ部分の強度が非常に弱くなりますので、現場で使った場合、事故が起きるという可能性が非常に高い、それで作るのはやめました。」という証言を根拠に、アウトコアチューブとジョイントチューブを直接ネジ結合するとネジ部分の強度が弱く実用に供し得ない旨主張する。

しかしながら、ネジ結合部分は、例えばアウトコアチューブとジョイントチューブの材料や寸法を適切に選択することにより必要強度を得ることが可能であって、実用に供し得ない程度の強度不足が本件考案に普遍的に存するとすることはできないから、本件考案を産業上利用することができないものとすることはできない。

したがって、上記請求人の主張(2)は、採用することができない。

3. さらに、上記請求人の主張(3)について検討する。

請求人は、被請求人の前記証言、及び甲第4号証に記載されたアウトコアチューブとジョイントチューブをリーマを介してねじ結合したものを被請求人が実施していることを根拠として、本件考案ではアウトコアチューブとジョイントチューブをリーマを介してねじ結合することが必須の構成要件である旨主張する。

しかしながら、本件考案は、上記2.に述べたとおり、産業上利用可能な考案として完成されたものであり、また、被請求人が実施するものがアウトコアチューブとジョイントチューブをリーマを介してねじ結合したものであることが本件考案の構成に影響を及ぼすものではないから、上記証言及び被請求人の上記実施を根拠として、本件考案がリーマを介してねじ結合することが必須の構成要件であるとすることはできない。

したがって、上記請求人の主張(3)は、採用することができない。

(むすび)

以上とおりであるから、請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件実用新案登録を無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。’

平成9年7月2日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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