東京高等裁判所 平成9年(行ケ)22号 判決 1998年9月17日
東京都中央区日本橋3丁目6番2号
原告
株式会社コーセー
代表者代表取締役
小林禮次郎
訴訟代理人弁理士
田中宏
同
樋口榮四郎
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 伊佐山建志
指定代理人
田中穣治
同
吉村康男
同
後藤千恵子
同
小池隆
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
「特許庁が平成6年審判第2437号事件について平成8年11月29日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和59年4月28日、名称を「日焼け止め化粧料」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和59年特許願第88011号)をしたが、平成5年12月13日拒絶査定を受けたので、平成6年2月17日拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、この請求を平成6年審判第2437号事件として審理し、平成7年3月15日出願公告(平成7年特許出願公告第23294号)をしたが、特許異議の申立てがあり、平成8年11月29日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成9年1月13日原告に送達された。
2 本願発明の要旨
最大粒径0.1μ以下かつ平均粒径10乃至60mμの超微粉末酸化亜鉛を、球状多孔性樹脂粉体に物理的に結合させることなく、日焼け止め成分として1乃至30重量%含有させたことを特徴とする日焼け止め化粧料。
3 審決の理由
別紙審決書写し(以下「審決書」という。)に記載のとおりである。
4 審決の取消事由
審決書2頁1行ないし10行(本願発明の要旨等)は認める。
同2頁11行ないし5頁8行(引用例)は認める。ただし、同3頁13行の「0.50%」は「50%」の誤記である。
同5頁9行ないし6頁1行(対比)は認める。
同6頁2行ないし8頁9行(構成の容易性についての判断)のうち、6頁2行ないし6行及び6頁18行「また他に、」から7頁15行「との記載があり、」までは認め、その余は争う。ただし、同7頁6行の「0.5%」は「50%」の誤記である。
同8頁10行ないし9頁2行(効果についての判断)は争う。
同8頁3頁ないし6行(まとめ)は争う。
審決は、構成の容易性についての判断及び効果の顕著性についての判断を誤った結果、進歩性の判断を誤ったものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。
(取消事由)
(1) 取消事由1(構成の容易性についての判断の誤り)
審決は、「本願発明において、引用例3の日焼け止め化粧料に関し、有害な紫外線から皮膚を保護するのに優れ、しかも、白っぽさがなく、透明感の高い仕上がりを有する日焼け止め化粧料を提供する目的で用いられる二酸化チタンを、同じ粒径と含有量にて、酸化亜鉛に代えるようなことは、当業者ならば容易に想到し得る程度のことといわねばならない。」(審決書8頁2行ないし9行)と判断するが、誤りである。
<1> 本願発明の目的について
まず、審決は、「このような目的は、引用例3において二酸化チタンの粒径及び含有量を採択した目的と全く同じである。」(審決書6頁7行ないし9行)と認定するが、誤りである。
「本願発明が前記粒径と含有量の酸化亜鉛を採択した目的は、本願明細書に記載のとおり、有害な紫外線から皮膚を保護するのに優れ、しかも、白っぽさがなく、透明感の高い仕上がりを有する日焼け止め化粧料を提供するにあるが」(審決書6頁2行ないし6行)、これらはあくまで本願発明の目的、効果の一部である。本願発明のように構成することの目的、効果は、後記(2)に記載のとおり、フォトクロミック現象の防止等他にもある。
<2> 引用例3並びに酸化亜鉛と酸化チタンの同等性について
審決は、「引用例3において、日焼け止め化粧料に関し、前記のような酸化チタンを採択したその目的の前提となる従来技術の問題点をみると、従来から使用されている粒径0.2~1μの亜鉛華、酸化チタンでは、前記のとおり、紫外線遮断効果が小さく皮膚に塗布した場合に白く残り、あるいは厚化粧とならざるを得ず、不自然な仕上がりになるというものであり、亜鉛華すなわち酸化亜鉛は二酸化チタンと同等に扱われている。」(審決書6頁9行ないし18行)と認定するが、誤りである。
(a) 引用例3においては、欠点ないし問題点に関しては、亜鉛華、酸化チタンなどの無機顔料全般についての一般的な事項を述べ、その中の酸化チタンについて超微粉末化の特殊な優れた効果を述べているのであって、酸化チタンと酸化亜鉛が同等に扱われることを認識させるものではない。むしろ異なって扱われることを認識させるものである。
すなわち、本願出願当時は、微粉末酸化チタンと微粉末酸化亜鉛とはともに紫外線散乱剤としては知られていたが、酸化亜鉛は、もともと紫外線遮断効果が酸化チタンより劣ると考えられていた。甲第12号証(斉藤力ら「ファンデーションの機能と役割」フレグランスジャーナル73号(昭和60年7月25日発行)16頁)の図10によれば、微粉末酸化亜鉛の方が微粉末酸化チタンより紫外線遮断効果は小さく、引用例3(甲第6号証)の図面とは全く逆になっている。
そのため、日焼け止め化粧料としては微粉末酸化チタンが注目され、日焼け止め化粧料として適するようた検討が重ねられ、その結果の一つとして超微粉末化して紫外線遮断効果を高め、また化粧膜を透明化する技術が開発された。しかしながら、酸化亜鉛については、もともと紫外線遮断効果が酸化チタンより劣るため、超微粉末化しても酸化チタンの紫外線遮断効果には及ばないと考えられていた。また、酸化亜鉛は酸化チタンに比し被覆力が小さいこともあって、酸化亜鉛をわざわざコストがかかる超微粉末化して日焼け止め化粧料に用いることは考えられなかった。
引用例1及び引用例3で、日焼け止め化粧料あるいは紫外線遮断剤として酸化チタンと酸化亜鉛が併記されながら、超微粉末化物については酸化チタンのみ述べられているのも、また、引用例2で製造した超微粉末酸化亜鉛について、日焼け止め化粧料の点については全く触れていないのも、以上の理由によるものである。
(b) 被告は、酸化亜鉛の紫外線遮断効果は酸化チタンよりも大きいと主張し、乙第1号証(田村健夫「香粧品科学」第1版1976年12月1日発行の179頁)の第31表も挙げるが、酸化亜鉛及び酸化チタンの紫外線遮断効果は粒径により大きく異なるところ、これらの実験に用いられた酸化亜鉛及び酸化チタンの粒径は不明であるから、乙第1号証の第31表は被告の主張の根拠とはなり得ないものである。また、同表が紫外線全域にわたって酸化亜鉛の紫外線透過率が0であるとする点は、甲第12号証(斉藤力ら「ファンデーションの機能と役割」)等の記載と矛盾し、現代の測定結果からみれば信頼できる実験結果とは考えられないものである。
<3> 引用例1について
引用例1に記載のものは、紫外線からの保護、透明感の高い仕上がりという目的を、球状多孔性樹脂粉体と無機顔料を一体にさせて達成したものであって、その目的達成の手段が本願発明と全く相違する。
すなわち、引用例1(甲第4号証)は、球状多孔性樹脂粉体に含有させるものとして、無機顔料、紫外線吸収剤、ビタミン類を挙げ、そのうちの無機顔料について二酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、硫酸バリウム等の微粉末、微粉末チタンマイカ等を列記し、好ましくは超微粒子ないし微粉末粒子(平均粒径0.02ないし0.05μ程度)を用いるとしている(2頁左上欄20行ないし右上欄7行)。この粒径は、球状多孔性樹脂粉体に物理的に結合させ一体にするという観点から決められたものであり、球状多孔性樹脂粉体を結合させない場合についても適用できるものではない。
<4> 引用例2について
審決は、引用例2に「化粧品に配合するに適する、収れん性と透明性を有する平均粒径20~50nmの超微粒子状酸化亜鉛粉末・・・は、従来の白色顔料と異なり、他の化粧品成分・・・と混合した場合に微粉末であるために隠蔽力のある白色とはならず、半透明になるので他の発色顔料成分の性能発揮を阻害しないことが記載されている。」(審決書3頁16行なしい4頁3行)から、「前記の如き日焼け止め化粧料の成分として用いた場合、隠蔽力のある白色とはならず、半透明になっても、この点は当然期待されることであると解される。」(審決書7頁18行ないし8頁1行)と判断するが、誤りである。
引用例2(甲第5号証)には、超微粉末酸化亜鉛はファウンデーション、クリームなどの化粧品の使用時に収斂性(皮膚に爽やかな感じを与える性質)を付与するために化粧品に配合するのに適し、また、化粧品に配合したとき隠蔽力のある白色とならず、半透明であるということが記載されているのである。収斂剤における配合量は通常1%程度と少量である。これに対し、日焼け止め化粧料では、紫外線遮断効果を上げるためできるだけ多く配合される。したがって、収斂剤に用いる超微粉末酸化亜鉛について、化粧品に配合したとき隠蔽力のある白色とならず半透明であることが知られていたからといって、多量に配合する日焼け止め化粧料において用いることを示唆しているとすることはできない。
<5> 特異な挙動曲線の不可予測性
仮に、酸化亜鉛を超微粉末化することに想到し、超微粉末化することによって紫外線遮断効果が上がるという大まかな観点で、酸化亜鉛が酸化チタンと同じであることが予想できたとしても、引用例3の図面には、微粉末酸化チタンを超微粉末にすることによって紫外線透過率が下がることが記載されているが、この超微粉末酸化チタンの透過率曲線はほぼ平坦であり、紫外線波長350ないし375nm領域付近では透過率がやや上がって紫外線遮断効果が悪くなることが示されている。これに対し、酸化亜鉛の場合は超微粉末化することによって紫外線遮断効果に関し340ないし380nmの領域で特に効果が大きくなるという特異な挙動を示すものであり、このような後記(2)<4>に述べるUV-A領域において大きな紫外線遮断効果を示すことは、引用例1ないし引用例3には何ら記載も示唆もないし、前記乙第1号証(田村健夫「香粧品科学」)の第31表から導き出せるものでもない。
(2) 取消事由2(効果の顕著性についての判断の誤り)
審決は、本願発明の効果は普通に予想されることにほかならないと判断するが(審決書8頁11行ないし9頁2行)、誤りである。
超微粉末酸化亜鉛を配合した本願発明の日焼け止め化粧料は、超微粉末酸化チタンを配合した日焼け止め化粧料に比し、格別顕著な効果を有する。
<1> フォトクロミック現象を生じない。
(a) 超微粉末酸化チタンには、光の照射により着色し、照射を止めると元の色に戻るいわゆるフォトクロミック現象が見られる。これに対し、超微粉末酸化亜鉛では、光に対する安定性が高く、このようなフォトクロミック現象は見られない。
したがって、超微粉末酸化亜鉛を日焼け止め化粧料に用いると、従来その解決のために必要とされたシリコン、シリカ、アルミナ等による表面処理を施さなくても、フォトクロミック現象を解消できるとの利点がある。
(b) 被告は、超微粉末酸化亜鉛が無色であることをフォトクロミック現象が生じないことが予測できる理由として挙げるが、超微粉末酸化亜鉛が無色であることとフォトクロミック現象とは全く関係がない。
<2> 青白さが出ない。
(a) 化粧膜に青白さが出ると、自然な仕上がりにならないばかりか、肌を不健康に見せるため化粧料としての価値がなくなる。
酸化チタンは、粒径の大きさに依存して青白さが強く出るという特性があり、通常顔料として用いられる平均粒径200ないし300mμの微粉末酸化チタンでは青味が見られないが、平均粒径100mμ以下の超微粉末にしたときには青味が出る。これに対し、酸化亜鉛においては、平均粒径10ないし60mμの超微粉末にしても青味がほとんど見られない(甲第8号証-宮田徹の実験報告書の図-3及び図-5ないし図-8の「化粧膜の青白さの無さ」の項目参照)。
(b) 審決は、超微粉末酸化チタンの青白さが見られること自体特殊なことであるから、超微粉末酸化亜鉛の青白さがないことは普通に予想されることである旨述べている(審決書8頁12行ないし16行)。
しかしながら、青白さの発現は、粉末粒子の大きさのほかに、屈折率や日焼け止め化粧料成分中での分散性などに影響されるため(甲第11号証-林弘志ら「紫外線防御製品の展望」(フレグランスジャーナル1996年1月号)56頁左欄下から10行ないし3行、甲第20号証-特開平-199634号公報1欄18行ないし24行、同32行ないし39行参照)、実際に日焼け止め化粧料に配合してみないと青白さが出るか否かは分からないから、青白さが見られないことが普通に予想されることでなない。
また、紫外線遮蔽剤を球状多孔性樹脂粉体に物理的に結合させて用いる引用例1や、超微粉末酸化亜鉛を収斂剤に用いる引用例2から、青白さの有無の特性を認識することもできない。
<3> 透明性が優れている。
超微粉末酸化亜鉛を配合した日焼け止め化粧料は、超微粉末酸化チタンを配合した日焼け止め化粧料より透明性が優れている(甲第8号証-宮田徹の実験報告書の図-5ないし図-8の「化粧膜の透明感」の項目参照)。
<4> UV-A領域における紫外線遮断効果が優れている。
超微鉛末酸化亜鉛は特有の紫外線遮断特性を有し、UV-A領域における紫外線遮断効果が超徴粉末酸化チタンより優れている。
すなわち、紫外線は、一般に3つの帯域に分けられるが、本願発明の日焼け止め化粧料は、UV-B(サンバーン波長:280ないし320nm)及びUV-A(サンタン波長:320ないし400nm)、特にUV-Aを遮断するものである。紫外線中に含まれるUV-Aは、UV-Bに比べて長波長であり、生体への作用は比較的弱いが、紫外線中の絶対量が多く、また真皮まで到達しやすいので、近年、その防御の必要性が叫ばれるようになった(甲第10号証-引間俊雄ら「紫外線防御クリームの研究開発動向」フレグランスジャーナル1995年7月号、甲第11号証-林弘志ら「紫外線防御製品の展望」フレグランスジャーナル1996年1月号)。
そして、本願明細書(甲第2号証)の実施例2(平均粒径50mμ(超微粉末)の酸化亜鉛を10重量%配合した日焼け止めクリーム)と比較例1(平均粒径500mμ(微粉末)の酸化亜鉛を10重量%配合した日焼け止めクリーム。表1の記載中、「比較例3」は「比較例1」の誤記である。)とを対比した表1によると、サンバーン波長(305nm)の遮断率は、微粉末では71%のものが超微粉末では81%と1.14倍向上するにすぎないが、サンタン波長(365nm)の遮断率は、微粉末では50%のものが超徴粉末では75%と1.5倍に向上している。
甲第8号証(宮田徹の実験報告書)の図-1では、上記の関係が余り明確に出ていないが、甲第11号証(林弘志ら「紫外線防御製品の展望」フレグランスジャーナル1996年1月号56頁)の図4には、この関係が明確にされている。なお、同号証の図4における酸化亜鉛と酸化チタンの粒径は、超微粉末の酸化亜鉛の紫外線透過性について論じたものである。
甲第13号証(積水化成品工業株式会社ら「「テクポリマーMZ-C」シリーズ」フレグランスジャーナル1996年3月号80頁等)の図1は、超微粉末酸化亜鉛と超微粉末酸化チタンなどを高粘度シリコーンに対しそれぞれ4重量%分散させたものについて紫外線透過率を測定した結果を示すが、この図は、330ないし400nmの領域では、超微粉末酸化亜鉛の遮断率が急激に上がり、超微粉末酸化チタンの遮断率を上回ることをを明らかにしている。
<5> 多量に配合が可能である。
(a) 超微粉末酸化亜鉛は、超微粉末酸化チタンより多量に日焼け止め化粧料に配合可能であり、その結果、超微粉末酸化チタンを配合した日焼け止め化粧料より紫外線遮断率が優れた日焼け止め化粧料にすることができる。これに対し、超微粉末酸化チタンは、日焼け止め化粧料に多量に配合すると化粧膜に青白さが出たりするため、多量に配合することができない。
そのため、引用例3では、超微粉末酸化チタンの配合割合を10%までとしているが、本願発明では、超微粉末酸化亜鉛は30%まで配合することができる。そして、甲第8号証(宮田徹の実験報告書)の図-2は、超微粉末酸化チタンを10%配合したものと、超微粉末酸化亜鉛を10%、20%又は30%配合したものについての紫外線領域(波長250ないし400nm)での紫外線透過率を示したものであるが、超微粉末酸化亜鉛を10%配合したものは、超微粉末酸化チタンを10%配合したものよりも紫外線遮断率が劣るが、超微粉末酸化亜鉛を20%及び30%配合したものは、超微粉末酸化チタンを10%配合したものより紫外線遮断率が優れている。
(b) 仮に、超微粉末酸化亜鉛を1ないし10重量%配合した日焼け止め化粧料を、超微粉末酸化チタンを同じ重量%配合した日焼け止め化粧料と比較しても、超微粉末酸化亜鉛を1ないし10重量%配合した日焼け止め化粧料は、UV-A領域の紫外線遮断効果が優れ、またフォトクロミック現象、青白さが発生しないなどの点で、超微粉末酸化チタンを同じ重量%配合した日焼け止め化粧料よりも優れているものである。
<6> 総合的に品質が高い。
超微粉末酸化亜鉛を配合した日焼け止め化粧料は、超微粉末酸化チタンを配合した日焼け止め化粧料より、化粧品としての品質が総合的に優れている。
甲第8号証(宮田徹の実験報告書)の図-5ないし図-8は、超微粉末酸化亜鉛、微粉末酸化亜鉛、超微粉末酸化チタン、及び微粉末酸化チタシを、それぞれ1%、10%、20%及び30%配合した日焼け止め化粧料について、当業界において一般に採用されている評価方法に従って行った主な品質の製品官能試験の結果を示したものである。この結果によれば、平均粒径38mμの超微粉末酸化亜鉛と平均粒径35mμの超微粉末酸化チタンをそれぞれ1%、10%、20%及び30%配合したときの日焼け止め化粧料の品質(化粧料のキメの細かさ、塗布時の軽さ、止まりの滑らかさ、化粧膜の透明感、化粧膜の青白さの無さ、化粧膜の薄膜感)は、いずれも超微粉末酸化亜鉛を配合した日焼け止め化粧料の方が、超微粉末酸化チタンを配合した日焼け止め化粧料より優れていることが分かる。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認め、同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。
2 反論
(1) 取消事由1(構成の容易性についての判断の誤り)について
<1> 酸化亜鉛と酸化チタンの同等性について
本願出願当時、酸化亜鉛は、紫外線散乱剤として、種々の無機顔料が用いられる中で最も有効で、これに次ぐ酸化チタンと同様に日焼け止め製品に多く用いられ、紫外線遮断率及びその遮断領域も酸化チタンより優れていることは、既に知られていたことである。
(a) 引用例3の図面(甲第6号証4頁)には、粒径によっては、酸化亜鉛の方が酸化チタンより紫外線遮断効果に優れていることが示されている。すなわち、その図面中、曲線aは0.35μのアナターゼ型酸化チタンの紫外線透過率を、曲線bは0.5μの酸化亜鉛の紫外線透過率をそれぞれ測定したものである。この測定結果によれば、約360mμ以下の領域において、微粉末酸化亜鉛は、徴粉末酸化チタンより紫外線遮断効果が大きいものである。
この結果は、油分散物で測定した甲第8号証(宮田徹実験報告書)の図-1、図-2とは異なるが、次の乙第1号証(「香粧品科学」)第31表の示すところと矛盾しない。
(b) 乙第1号証(田村健夫「香粧品科学」第1版1976年12月1日発行179頁)第31表の波長404.7nmにおける紫外線透過率の値と波長365.5nm以下における値によれば、UV-A領域における波長365.5nm付近では、酸化亜鉛は透過率が一挙にゼロまで減少しているのに対し、酸化チタンは減少しているものの酸化亜鉛に比べてその減少カープはゆるやかなものであることが分かる。これは透過率の絶対値については必ずしも一致するものではないが、甲第8号証(宮田徹の実験報告書)の図-1や図-2に見られる紫外線透過率と波長との関係と、本質的に異なるものではない。
乙第1号証(田村健夫「香粧品科学」)に出てくる酸化チタン及び酸化亜鉛の粒径は、引用例3に記されている0.2ないし1μ程度のものである。すなわち、同号証には、粉体原料は白色顔料としてファンデーションなどの化粧料に用いられ、粒度は多くは10μ以下であること、被覆力について、第20図のとおり、酸化亜鉛は粒度0.25μが最も透過率が小である(被覆力が大きい)こと(139頁、140頁)、「粉体原料の遮断効果については第31表99)のように最も有効なのが酸化亜鉛であり、酸化チタンがこれにつぎ、」(179頁)と記載され、第31表には、紫外線の全領域にわたって、酸化亜鉛の紫外線透過率が0であることが示され、注99(461頁)によれば、第31表は1947年にL.D.Gradyが発表したものである。他方、乙第4号証(垣原高志「化粧品の実際知識(第2版)」(昭和62年12月3日発行))には、白色顔料は化粧品に用いられるが、酸化チタンは酸化亜鉛の3ないし4倍の被覆力をもつこと、0.2μぐらいの粒子のものが光を散乱させてもっとも白く見えること、最近30mμの微粒子状のものが製造され、皮膚に白く着色することなく、紫外線透過率が低く、日やけ防止化粧品に応用されていることなどが記載(180頁)されている。また、乙第5号証(日本顔料技術協会編「新版 顔料便覧」(昭和43年11月15日発行)74頁)には、各顔料の大きさについて、亜鉛華0.47μ、酸化チタンのアナターゼ型0.27μ、ルチル型0.23μと記されている。以上の記載を総合すると、乙第1号証(田村健夫「香粧品科学」)に出てくる酸化チタン及び酸化亜鉛の粒径は、乙第4号証(垣原高志「化粧品の実際知識(第2版)」)の酸化チタンの最近製造されているとする粒径30mμといった超微粉末のものでなく、それ以前からの白色顔料として用いられている粒径、すなわち、引用例3に記されている0.2ないし1μ程度のものを前提にしているとみて何ら差し支えない。
(c) さらに、甲第11号証(林弘志ら「紫外線防御製品の展望」フレグランスジャーナル1996年1月号56頁)図4(酸化チタンと酸化亜鉛の紫外吸収曲線)を参照すると、340ないし380nmのUV-A領域において、微粉末酸化亜鉛の方が微粉末酸化チタンより紫外線遮断効果が優れている。
なお、甲第11号証の図4における酸化亜鉛等の粒径は、同図の基礎となっている乙第6号証(「ドラッグ アンド コズメティック インダストリー」1993年8月号42頁)及び乙第7号証(「コズメティックス アンド トイレタリーズ」1992年10月号113頁)より、約0.1ないし0.2μであることが分かる。
<2> 容易推考性について
引用例3には、酸化チタンを平均粒径33mμという超微粉末にすると、微粉末に比べ紫外線遮断効果が格段に大きくなり、被覆力が低下することが記載されている。引用例3には、粒径を超微粉末化することにより、何らかの不都合が現れることを示唆する記載も、存在しない。
そして、酸化亜鉛を化粧料に配合すると、フォトクロミック現象や青白さが見られることは特殊なことであって、酸化亜鉛を超微粉末にしたときにそのような現象が見られないことは普通に予想されることであることは、後記(2)<1>に述べるとおりである。
そうであれば、引用例3の図4や乙第1号証(村田健夫「香粧品科学」)の第31表に示されている酸化亜鉛の紫外線透過率と波長の関係は、超微粉末化によっても依然として維持され、酸化亜鉛も、超微粉末化により、超微粉末酸化チタンよりも紫外線遮断効果が大きくなり、透明性も増し、青白さ等も見られないと予測するのが自然である。
<3> 引用例1について
引用例1(甲第4号証)において、紫外線遮断効果を有する物質を単に化粧料に配合するのではなく、球状多孔性樹脂粉体に含有させて配合することを採択した目的は、紫外線遮断効果を上げ、透明感の優れた仕上がりの日焼け止め化粧料を提供するにある。
そして、引用例1は、日焼け止め化粧料に関し、無機顔料の粒径について、好ましくは平均粒子径0.02ないし0.05μ程度の本願発明における超微粉末のものとし、しかも、二酸化チタン、酸化亜鉛をその適用対象にしているから、いわば、本願発明や引用例3の日焼け止め化粧料の改良発明ということができる。
そうすると、引用例1に記載の日焼け止め化粧料において、二酸化チタンや酸化亜鉛に超微粉末のものを用いるのは、超微粉末のものが単なる微粉末のものより、より優れた紫外線遮断効果を有するからこそ選択されたものと考えるのが当然というべきである。
<4> 引用例2について
また、引用例2(甲第5号証)においても、化粧品に収斂剤として超微粉末酸化亜鉛を配合することにより、微粉末のものを用いることによる白残り、厚化粧といった問題点を解消し、半透明となることが記載されている。引用例2の上記記載は、日焼け止め化粧料において微粉末酸化チタンを用いた場合の問題点が超微粉末化したことによって解消したのであれば、酸化亜鉛についても同様であるとの引用例3の示す考え方を裏付けるものである。
(2) 取消事由2(効果の顕著性についての判断の誤り)について
前記(1)のとおり、本願発明の構成は容易に推考できるところ、原告主張の効果もそのように構成することから予測できる範囲内のものである。すなわち、
<1> フォトクロミック現象及び青白さ
引用例2(甲第5号証)によれば、微粉末酸化亜鉛は白色顔料であり、また、超微粉末酸化亜鉛は他の化粧品成分との混合時に透明性があるとあり、酸化亜鉛はいわば無色の感が強いところ、こうした中で酸化亜鉛を化粧料に配合すると、青白さが見られること、また、これに類するフォトクロニック現象が見られるということは、特殊なことであって、酸化亜鉛を超微粉末にしたときにそのような現象が見られないことは普通に予想されることにすぎない。
なお、日焼け止め化粧料に関し、引用例3で使用される酸化チタンを超微粉末にして使用する場合、フォトクロミック現象や青白さが見られるのに対し、酸化亜鉛では本願発明のように超微粉末にして使用する場合は、そのような欠点のある現象が見られないという点は、本願発明の当初明細書(乙第2号証)において、何も触れられていなかった事項である。
<2> 透明性
引用例3には、日焼け止め化粧料に加えられている粒径0.2ないし1μの酸化亜鉛や酸化チタンでは、皮膚上で白くなるものが、酸化チタンの粒径をその10分の1という超微粉末にすると被覆力が低下することが記載されているが、本願明細書にも記載されているとおり、酸化チタンの被覆力は酸化亜鉛のそれより数倍強いので(甲第2号証3欄36行ないし38行)、酸化亜鉛を超微粉末にすれば、二酸化チタンの被覆力の低下以上に低下することは、当然予測されることである。
<3> UV-A領域における紫外線防御効果
超微粉末酸化亜鉛の方が超微粉末酸化チタンより紫外線遮断効果において勝るとは必ずしもいえない。すなわち、
甲第8号証(宮田徹の実験報告書)の表4によれば、超微粉末酸化亜鉛の紫外線遮断効果は、超微粉末酸化チタンのに比し、紫外線領域全体において劣る結果となっている。
さらに、甲第13号証(積水化成品工業株式会社ら「「テクポリマーMZ-C」シリーズ」等)の図1によれば、遮断フィラー含有率4%のものにおいて、超微粉末酸化亜鉛は、超微粉末酸化チタンより紫外線遮断率が勝るとなっているが、甲第8号証(宮田徹の実験報告書)の図-1によれば、遮断フィラー含有率を10%とした場合、紫外線遮断率において、超微粉末酸化チタンが、超微粉末酸化亜鉛より勝るだけでなく、紫外線遮断率が80%以上となり(甲第8号証の図-1及び表-4による。)、遮断フィラー含有率4%の超微粉末酸化亜鉛及び酸化チタン(甲第13号証の図1によれば、紫外線遮断率は50%未満である。)よりも勝るものである。
また、甲第10号証(引間俊雄ら「紫外線防御クリームの研究開発動向」)のUV-A及びUV-Bに関する記載は、乙第8号証(城倉博子ら「無機粉体の紫外線防御機構」日本化粧品技術者会誌28巻3号254頁)に基礎を置くものであるが、同号証における酸化亜鉛及び酸化チタンは微粉末に相当するものである。
<4> 多量に配合可能
本願発明の超微粉末酸化亜鉛は、引用例3の超微粉末酸化チタンよりも多量に紫外線散乱剤に配合でき、紫外線遮断効果を大きく上げるという利点があるとしても、本願発明は、超微粉末酸化亜鉛の日焼け止め化粧料に対する配合量が10%から30%のものにとどまらず、1%から10%のものも含むので、原告の主張する本願発明における超微粉末酸化亜鉛の多量に配合できるという効果は、本願発明の特許請求の範囲の記載に基づくものではなく、失当である。
<5> 総合品質の高さ
甲第8号証(宮田徹の実験報告書)の図-5ないし図-8の官能評価は、曖昧性の高い評価方法であることもさることながら、その内容からして、信憑性に足るものとはいえないから、本願発明の超微粉末酸化亜鉛を配合した日焼け止め化粧料によってもたらされる品質が、格別なものと認めることはできない。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の記載)については、当事者間に争いがない。
そして、審決の理由2頁11行ないし5頁8行(引用例)及び5頁9行ないし6頁1行(対比)は、当事者間に争いがない。
2 原告主張の取消事由の当否について検討するが、まず、本願発明及び引用例3に記載された日焼止め化粧料につき確認した上、取消事由1、2につき順次検討していくこととする。
(1) 本願発明について
甲第2及び第3号証によれば、本願明細書には、本願発明の[目的]、[基礎事項]、[技術課題]、[特徴]、[効果]及び[実施例]について、次のように記載されていることが認められる。
[目的]
「本発明は、超微粉末酸化亜鉛を配合した日焼け止め化粧料に関し、その目的とするところは、有害な紫外線から皮膚を保護するのに優れ、しかも、白っぽさがなく、透明感の高い仕上りを有する日焼け止め化粧料を提供することにある。」(甲第2号証1欄6行ないし10行)
[基礎事項]
「人間の皮膚にとって、過度の紫外線は、皮膚の急性炎症を引き起こしたり、長期曝露によって皮膚の早期老化や皮膚癌の一因となりうることも報告されている。この紫外線は、一般に3つの帯域に分けられている。すなわち、サンタン波長と称される皮膚のメラニン生成を即し、褐色化を生じせしめる320~400nmの長波長の紫外線(UV-A)、サンバーン波長と称される皮膚の紅斑、水疱等の炎症を起こす280~320nmの中波長の紫外線(UV-B)、および大気中で吸収され、地表には、ほとんど到達せず、人体にとって通常問題とならない240~280nmの低波長の紫外線(UV-C)である。通常、この人体にとって有害となる紫外線から皮膚を保護する目的のために、日焼け化粧料や日焼け止め化粧料が用いられる。日焼け化粧料は、サンバーン波長の紫外線を阻止し、紅斑、水疱等の炎症を防止し、しかも健康的な日焼けを要求する場合に使用されるものである。一方、日焼け止め化粧料は、サンバーンおよびサンタン波長を遮蔽し、広域にわたって紫外線から皮膚を防護するものである。」(同1欄11行ないし2欄14行)
[技術課題]
「広範囲な紫外線を遮蔽するために紫外線散乱剤が利用される。紫外線散乱剤には、酸化亜鉛、酸化チタン、カオリン、炭酸カルシウム等の無機顔料が用いられ、通常日焼け止め化粧料に使用される。これらは、広域に紫外線を遮蔽し、しかも不活性であるため、皮膚安全性も高く、有用なものであるが、次にあげるような欠点を有し、必ずしも満足するものでない。すなわち、上記の無機顔料は紫外線遮蔽効果は良いが、これらの中には、被覆力(隠蔽力)が大きく、皮膚に塗布したときその化粧膜が白くなり、厚化粧を呈し、不自然な仕上りとなり、さらに、紫外線遮蔽効果を高める目的で配合量を多くすると、その傾向よりも一層顕著となり、そのため配合量の制限を行わざるを得ないものがある。酸化チタンは、白色顔料中、最も被覆力が強く、上記の傾向が著しい。」(同3欄15行ないし29行)
「酸化亜鉛は酸化チタンに比較して被覆力が小さく、一般に酸化チタンの6~7の1隠蔽力と云われている。」(同3欄36行ないし38行)
[特徴]
「本発明は、酸化亜鉛を特定された粒径の超徴粉末にし、そのまま日焼け止め成分として、日焼け止め化粧料に配合するものである。すなわち、本発明は、最大粒径0.1μ以下かつ平均粒径10乃至60mμの超徴粉末酸化亜鉛を、球状多孔性樹脂粉体に物理的に結合させることなく、日焼け止め成分として、1乃至30重量%含有させたことを特徴とする日焼け止め化粧料である。」(甲第3号証2頁5行ないし10行)
[効果]
「本発明の超微粉末酸化亜鉛は、従来使用されてきた酸化亜鉛と比較し、サンバーン波長およびサシタン波長の紫外線を遮断する効果に優れており、これらを配合した化粧料も明らかに著しい遮断効果の差異を示した。従って、超微粉末酸化亜鉛を利用した日焼け止め化粧料は、有害な紫外線から皮膚を保護するために有用である。」(甲第2号証4欄6行ないし11行)
「酸化亜鉛を超微粉末にすることにより、可視光の透過が良好となり、隠蔽力も減少する。そのため、配合した化粧料に於いて、塗布時、化粧膜の白さがなく、透明感のある自然な化粧膜を得ることが可能となる。さらに他の原料と混合しても、発色を妨げず、調色や被覆力の調整も容易となる。」(同4欄12行ないし17行)
「また、粒径が小さくなることによって、化粧料に配合する場合、分散性が良好となると共に、きめの改良や塗布時の伸び、密着性、スライド感、化粧効果の持続性等の使用性も向上する。その他、超微粉末酸化亜鉛は、無機物であり、皮膚安全性も高く、また、酸化亜鉛の特性である収れん、消化剤としての効用も当然期待しうる。」(同4欄18行ないし23行)
「本発明の超微粉末酸化亜鉛を配合した日焼け止め化粧料は、有害な紫外線から被覆を保護するのに優れ、使用性、化粧の仕上がりも良好で、皮膚安全性も高く、本来有する収れん、消炎効果も同時に併せ持ち、化粧品価値を高めるのに有用である。」(同6欄23行ないし27行)
[実施例]
超微粉末酸化亜鉛(平均粒径50mμ)を5重量%含んだ日焼け止めクリーム(実施例1)、超微粉末酸化亜鉛(平均粒径50mμ)を10重量%含んだ日焼け止めクリーム(実施例2)及び酸化亜鉛(平均粒径0.5μ)を10重量%含んだ日焼け止めクリーム(比較例1)について、紫外線遮断率(%)の測定を行うと、次のとおりであった。
表1 紫外線遮断率
サンバーン波長 サンタン波長
(305nm) (365nm)
実施例1 71 52
実施例2 81 75
比較例1 71 50
(同6欄30行ないし7欄27行)
(2) 引用例3に記載された日焼け止め化粧料について
甲第6号証によれば、引用例3(特公昭47-42502公報)には、「最大粒径0.1μ以下であり平均粒径30乃至40mμの酸化チタンを1乃至10%配合することを特徴とする日焼け止め化粧料」(特許請求の範囲)の[技術分野]、[従来技術]、[技術課題]、[知見]及び[効果]について、次のように記載されていることが認められる(一部は当事者間に争いがない。)。
[技術分野]
「本発明は極微粉末酸化チタンを使った日焼け止め化粧料に係わるものである。さらに詳しく述べれば、最大粒径0.1μ以下で平均粒径30乃至40mμの酸化チタン粒子を化粧料基剤中に混和し、日焼けを起こす有害な紫外線を反射散乱させることによって、皮膚を日焼けから保護するに適した化粧料に関する。」(1欄19行ないし25行)
[従来技術]
「一般の日焼け止め化粧料にはキニーネ、パラアミノ安息香酸などの紫外線吸収剤の他に、酸化チタン、亜鉛華等の粉末も紫外線を遮断する効果があり、日焼け止め化粧料に配合されている。」(1欄26行ないし29行)
[技術課題]
「一般の日焼け止め化粧料に加えられている亜鉛華、二酸化チタンについては粒径は0.2乃至1μで、紫外線遮断効果は小さく皮膚に塗布した場合に白く残り、あるいは厚化粧にならざるを得ず、不自然な仕上がりで化粧上好ましくなかった。」(2欄1行ないし5行)
[知見]
「本発明者等は現在一般に用いられている酸化チタンの約10分の1の粒径、すなわち最大粒径は0.1μ位下で平均粒径30乃至40mμの酸化チタンを流動パラフィン、ワセリン、オリーブ油等に混合して得られる日焼け止め化粧料は以上の欠点を有せず、次の長所を有している事に基づき、本発明を完成したのである。まず最大粒径0.1μ以下平均粒径30乃至40mμの酸化チタンは(1)従来使用されていた最小粒径0.1μ以上平均粒径0.2乃至0.4μの酸化チタンを配合する日焼け止めクリームに比して明らかに著しく紫外線遮断効果を有し、(2)極微粉体であるため皮膚表面上で均一に分布し透明で皮膚の色がそのまま現われ(3)クリーム、乳液、軟膏等に配合して、化粧料本来の使用性を妨げず、他の顔料に比し分散性が一般に良好である、という長所を有する。さらに酸化チタンは無機粉体であり、不活性体であるため皮膚安全性の面で優れており、本発明の極微粉末酸化チタンを添加したクリーム、乳液は撥水性を有し、海水浴等での水による皮膚表面からの有効成分の脱離を防止できる。一般の紫外線吸収剤と併用することが出来、更に紫外線遮断効果を高めることができる、という長所を有しているために薬剤として紫外線吸収剤を配合した日焼け止め化粧料よりも極微粉末を含んだ日焼け止め化粧料の方が効果の面、皮膚安全性の面でも優れている事は当然である。」(2欄6行ないし32行)
[効果]
「本発明による日焼け止め化粧料は普通クリームと同様皮膚に塗る事により、あるいファンデーションの塗布前下地クリームとして皮膚に塗る事により皮膚を紫外線から保護する事が出来る。本発明による日焼け止め化粧料に配合する酸化チタンは極微細である為に皮膚に塗布した場合、皮膚表面上で均一に分布し、自然な仕上がりとなり、さらに重ね塗りも可能である。さらに撥水性を有するため皮膚表面からの脱離が少なく、長時間日焼け防止効果を保持することができる。」(4欄24行ないし33行)
そして、引用例3の図面(甲第6号証4頁)には、波長約230ないし370mμ領域において、平均粒径350mμ(微粉末)のアナターゼ型酸化チタン(曲線a)、平均粒径500mμ(微粉末)の酸化亜鉛(曲線b)と平均粒径33mμ(超微粉末)のアナターゼ型酸化チタン(曲線d)をそれぞれ5%含む試料について紫外線透過率を測定した結果が示されているが、平均粒径500mμ(微粉末)の酸化亜鉛(曲線b)の方が、平均粒径350mμ(微粉末)のアナターゼ型酸化チタン(曲線a)よりも紫外線遮断率が高い結果となっている(同号証3欄26行ないし41行参照)。
(3) 取消事由1(構成の容易性についての判断の誤り)について
<1> 本願発明の目的と引用例3に記載された化粧料の目的
「本願発明が前記粒径と含有量の酸化亜鉛を採択した目的は、本願明細書に記載のとおり、有害な紫外線から皮膚を保護するのに優れ、しかも、白っぽさがなく、透明感の高い仕上がりを有する日焼け止め化粧料を提供するにある」(審決書6頁2行ないし6行)ことは、当事者間に争いがない。
他方、前記(2)に説示のとおり、引用例3において最大粒径0.1μ以下であり平均粒径30ないし40mμの酸化チタンを1ないし10%含有するものを採択した目的も、紫外線遮断効果が小さく、皮膚に塗布したとき白く残りあるいは厚化粧にならざるを得ないとの問題点を解決した日焼け止め化粧料を提供することにある。
そうすると、「(本願発明が前記粒径と含有量の酸化亜鉛を採択した)目的は、引用例3において二酸化チタンの粒径及び含有量を採択した目的と全く同じである。」(審決書6頁7行ないし9行)との審決の認定に誤りはない。
<2> 引用例3について
(a) 前記(2)に説示のとおり、引用例3には、「最大粒径0.1μ以下平均粒径30乃至40mμの酸化チタンは(1)従来使用されていた最小粒径0.1μ以上平均粒径0.2乃至0.4μの酸化チタンを配合する日焼け止めクリームに比して明らかに著しく紫外線遮断効果を有し、(2)極微粉体であるため皮膚表面上で均一に分布し透明で皮膚の色がそのまま現われ(3)クリーム、乳液、軟膏等に配合して、化粧料本来の使用性を妨げず、他の顔料に比し分散性が一般に良好である、という長所を有する。」と記載されており、この記載によれば、酸化チタンの有する紫外線散乱特性、透過特性と、超微粉末の形状・性状等に基づく粉末特性の相乗効果であると認められる超微粉末酸化チタンの紫外線遮断効果及び透明性は、超微粉末化により著しく向上し、粉末特性に基づくと認められる均一分布性及び分散性も、向上することが認められる。
(b) ところで、前記(2)に説示のとおり、引用例3には、「一般の日焼け止め化粧料に加えられている亜鉛華、二酸化チタンについては粒径は0.2乃至1μで、紫外線遮断効果は小さく皮膚に塗布した場合に白く残り、あるいは厚化粧にならざるを得ず、不自然な仕上がりで化粧上好ましくなかった。」と、微粉末の粒径の酸化亜鉛と二酸化チタンが日焼け止め化粧料に加えられる紫外線散乱剤として同列のものとして扱われ、しかも、平均粒径500mμ(微粉末)の酸化亜鉛(曲線b)の方が、平均粒径350mμ(微粉末)のアナターゼ型酸化チタン(曲線a)よりも紫外線遮断率が高いとの結果が示されており、また、前記(1)に説示のとおり、「酸化亜鉛は酸化チタンに比較して被覆力が小さく、一般に酸化チタンの6~7の1隠蔽力」であることも知られていたところである。したがって、引用例3は、紫外線散乱剤として酸化チタンとともに周知の酸化亜鉛を、紫外線遮断効果、透明性、皮膚表面での均一分布性及び化粧料中での分散性の向上の観点から超微粉末化して化粧料に配合することを示唆し、しかも、微粉末状態で酸化チタンよりも紫外線遮断効果や透明性の高い酸化亜鉛を超微粉末化すれば、酸化チタンを超微粉末化した場合よりも紫外線遮断効果や透明性が向上することを示唆していると認められる。
前記のように当事者間に争いのない引用例2の記載事項も、収斂剤としてではあるが、超微粉末化されだ酸化亜鉛が透明性を増すことが示されているものであり、上記の酸化亜鉛の超微粉末化により紫外線遮断効果や透明性が増すとの推測が成り立たないことをうかがわせる証拠はない。
(c) そうすると、本願発明において、超微粉末二酸化チタンに代えて超微粉末酸化亜鉛を採用したことにより、超微粉末酸化チタンよりもUV-A領域における紫外線遮断効果や透明性が優れ、皮膚表面での均一分布性や化粧料中での分散性も優れたものが得られたとしても、そのことは、引用例3から容易に推考できることであると認められる。
<3> 構成上の容易性に対する原告の主張について
(a) 原告は、本願発明のように構成することの目的、効果は、フォトクロミック現象の防止等他にもあると主張するが、後記(4)でも説示するとおり、フォトクロミック現象や青白さ自体が、酸化チタン以外の各種紫外線散乱剤を超微粉末化したときにも一般的に現れる現象であることを認めるに足りる証拠はないから、フォトクロミック現象や青白さの解決を本願発明の目的に含めたとしても、その解決を目指して超微粉末酸化チタンに代えて超微粉末酸化亜鉛を使用することは容易に推考できることであると認められる。
また、その他の効果のうち、UV-A領域における紫外線遮断効果は、上記に検討した紫外線遮断効果の一部であり、多量に配合可能の点も、上記に検討した青白さが生ずるかどうかの問題と同じであり、総合的品質の高さの点も、青白さ、透明性、皮膚表面での均一分布性及び化粧料中での分散性等の総合的結果であると認められるから、これらの点を本願発明の目的に含めたとしても、同様に、超微粉末酸化チタンに代えて超微粉末酸化亜鉛を使用することは容易に推考できることであると認められる。
(b) また、原告は、酸化亜鉛については、もともと紫外線遮断効果が酸化チタンより劣るため、超微粉末化しても酸化チタンの紫外線遮断効果には及ばないとされていた旨主張するが、前記(2)に認定したとおり、引用例3の図面には、紫外線遮断率は平均粒径500mμの酸化亜鉛の方が平均粒径350mμのアナターゼ型酸化チタンより高いことが示されており、また、乙第1号証(田村健夫「香料品科学」第1版1976年12月1日発行)によれば、酸化亜鉛は、「被覆力は酸化チタンに劣るが、紫外線遮断作用は酸化チタンはじめ他の粉体原料に比較して強い。」とされており(140頁。なお179頁の第31表参照)、本願出願当時、一般的に紫外線遮断率は酸化亜鉛の方が酸化チタンより低いと考えられていたことを認めるに足りる証拠はない。すなわち、
甲第8号証(宮田徹の実験報告書)によれば、その図-1には、引用例3の図面とは逆に、微粉末酸化チタンの紫外線遮断率が微粉末酸化亜鉛のそれより高いことが示されていることが認められるが、上記図-1で微粉末酸化チタンとして用いられたものの平均粒径は250mμであり、微粉末酸化亜鉛として用いられたものの平均粒径は300mμであることが認められ(2頁表-1)、また、試料濃度は10重量%であることが認められ(2頁15行)、これらの点が上記逆転現象の発生に関係しているとも考えられるところである。したがって、甲第8号証の図-1をもって、微粉末酸化亜鉛が微粉末酸化チタンより紫外線遮断効果等が高いことを否定するものということはできない。
また、甲第12号証によれば、斉藤力ら「ファンデーションの機能と役割」(フレグランスジャーナル73号(昭和60年7月25日発行)10頁以下)中の顔料の紫外光学特性を表す図10には、酸化チタンの紫外線防御能の方が酸化亜鉛のそれより高く示されていることが認められるが、その粒子径は、酸化チタンが0.3μであり、酸化亜鉛が0.7μであることが認められるから、この図10も、同じ粒径の微粉末の状態において、酸化亜鉛の方が酸化チタンよりも紫外線遮断効果等が高いとの知見に反する知見を示すものとはいえない。
(c) 原告は、引用例1及び引用例3で、日焼け止め化粧料あるいは紫外線遮断剤として酸化チタンと酸化亜鉛が併記されながら、超微粉化物については酸化チタンのみが述べられているのも、酸化亜鉛については、もともと紫外線遮断効果が酸化チタンより劣ると考えられていたためであり、また、引用例2で製造した超微粉末酸化亜鉛について日焼け止め化粧料には全く触れていないのもこのためであると主張する。
しかしながら、引用例1及び引用例3において、超微粉末化したものについて酸化チタンのみが述べられている点も、酸化亜鉛を超微粉末化したところ、UV-B領域における紫外線遮断効が超微粉末酸化チタンより低いことが判明したためであると考えることもできるし、引用例2において収れん性についてのみ触れられている点も、酸化亜鉛は収斂剤でもあるため、日焼け止め化粧料においてよりも通常の化粧料において使用される量のほうがはるかに多いためと考えることもでき、原告の上記主張を認めるに足りる証拠もないから、これを採用することはできない。
<4> よって、原告主張の取消事由1は理由がない。
(4) 取消事由2(効果の顕著性)について
<1> フォトクロミック現象
原告は、超微粉末酸化チタンは、光の照射により着色し、照射を止めると元の色に戻るいわゆるフォトクロミック現象が見られるが、超微粉末酸化亜鉛は光に対する安定性が高く、このようなフォトクロミック現象は見られないことを顕著な効果として主張する。
しかしながら、フォトクロミック現象自体が、酸化チタン以外の各種紫外線散乱剤を超微粉末化したときにも一般的に現れる現象であることを認めるに足りる証拠はなく、そうすると、酸化亜鉛を超微粉末化してもフォトクロミック現象が生じないことは普通に予想される効果であると認められる。したがって、フォトクロミック現象がないことをもって、本願発明に顕著な効果があると認めることはできない。
<2> 青白さ
原告は、超微粉末酸化亜鉛を配合した日焼け止め化粧料は、超微粉末酸化チタンを配合した日焼け止め化粧料に比し、青白さが出ないことを顕著な効果として主張する。
しかしながら、青白さ自体が、酸化チタン以外の各種紫外線散乱剤を超微粉末化したときにも一般的に現れる現象であることを認めるに足りる証拠はなく、そうすると、酸化亜鉛を超微粉末化しても青白さが出ないことは普通に予想される効果であると認められる。
したがって、青白さがないことをもって、本願発明に顕著な効果があると認めることはできない。
<3> 透明性
原告は、超微粉末酸化亜鉛を配合した日焼け止め化粧料は、超微粉末酸化チタンを配合した日焼け止め化粧料より透明性が優れていることを顕著な効果として主張する。
しかしながら、本願出願当時、前記(1)に説示のとおり、「酸化亜鉛は酸化チタンに比較して被覆力が小さく、一般に酸化チタンの6~7の1隠蔽力」であることが知られ、前記(2)に説示のとおり、微粉末酸化チタンを超微粉末化すると、「極微粉体であるため皮膚表面上で均一に分布し透明で皮膚の色がそのまま現われ(る)」ことが知られていたから、微粉末酸化亜鉛を超微粉末化すると、酸化亜鉛の可視光線の透過率が更に高まり、もともと優れていた透明性が更に優れたものとなることは、引用例3から予測できることであると認められる。
したがって、超微粉末酸化チタンを配合した日焼け止め化粧料より透明性が優れていることをもって、本願発明に顕著な効果があると認めることはできない。
<4> UV-A領域における紫外線防御効果
原告は、超微粉末酸化亜鉛は特有の紫外線遮蔽特性を有し、UV-A領域における紫外線防御効果が超微粉末酸化チタンより優れていることを顕著な効果として主張する。
しかしながら、この点の効果が引用例3から予測できる程度のものであることは、前記(3)に説示したとおりであり、UV-A領域における紫外線防御効果が優れていることをもって、顕著な効果と認めることはできない。
<5> 多量に配合可能
原告は、超微粉末酸化亜鉛は超微粉末酸化チタンより多量に日焼け止め化粧料に配合可能であり、超微粉末酸化チタンを配合した日焼け止め化粧料より紫外線遮蔽率が優れた日焼け止め化粧料にすることができることを本願発明の顕著な効果として主張する。しかしながら、この点の効果は、上記<2>及び<3>で検討した超微粉末酸化亜鉛では青白さが出ず、透明性が高いとの効果の一発現であると認められるから、この点をもって本願発明に顕著な効果があると認めることはできない。
<6> 総合的品質の高さ
原告は、甲第8号証(宮田徹の実験報告書)の図-5ないし図-8に基づき、平均粒径38mμの超微粉末酸化亜鉛と平均粒径35mμの超微粉末酸化チタンをそれぞれ1%、10%、20%及び30%配合したときの日焼け止め化粧料の品質(化粧料のキメの細かさ、塗布時の軽さ、止まりの滑らかさ、化粧膜の透明感、化粧膜の青白さの無さ、化粧膜の薄膜感)は、いずれも超微粉末酸化亜鉛を配合した日焼け止め化粧料の方が、超微粉末酸化チタンを配合した日焼け止め化粧料よりも優れており、超微粉末酸化亜鉛を配合した日焼け止め化粧料は、超微粉末酸化チタンを配合した日焼け止め化粧料よりも化粧品としての品質が総合的に優れていると主張する。
しかしながら、甲第8号証(宮田徹の実験報告書)により認められる官能試験の結果のうち、化粧膜の青白さの無さ、化粧膜の透明感については、前記<2>及び<3>で検討したとおりであり、その他の項目も、微粉末酸化亜鉛を超微粉末化した粉末特性により奏すると予測される程度のものであるから、これらを総合したものをもって、顕著な効果と認めることはできない。
<7> そうすると、原告主張の取消事由2も理由がない。
(5) 結論
以上のとおりであるから、原告主張の取消事由はいずれも理由がないものといわざるを得ない。
3 よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する(平成10年9月3日口頭弁論終結)。
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)
平成6年審判第2437号
審決
東京都中央区日本橋3丁目6番2号
請求人 株式会社 コーセー
東京都港区虎ノ門1丁目19番14号 邦楽ビル7階 田中宏特許事務所
代理人弁理士 田中宏
東京都港区虎ノ門2-5-5 ニュー虎ノ門ビル5階 田中宏特許事務所
代理人弁理士 樋口榮四郎
昭和59年特許願第88011号「日焼け止め化粧料」拒絶査定に対する審判事件(平成7年3月15日出願公告、特公平7-23294)について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
本願は、昭和59年4月28日に出願されたものであって、その発明の要旨は、出願公告後の平成8年4月22日付の手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「最大粒径0.1μ以下かつ平均粒径10乃至60mμの超微粉末酸化亜鉛を、球状多孔性樹脂粉体に物理的に結合させることなく、日焼け止め成分として1乃至30重量%含有することを特徴とする日焼け止め化粧料。」
これに対して、当審において特許異議申立人池野耕司が提出した本願出願前に頒布されたことの明らかな特開昭57-120514号公報(甲第1号証)(以下「引用例1」という。)には、従来、例えばメークアップ化粧料において紫外線遮断効果を持たせるために無機顔料を化粧料に配合し、例えば、微粒子の二酸化チタンを配合した場合、その光散乱効果により紫外線遮蔽効果が得られるが、その隠蔽力が強く白っぽく浮いた化粧になるばかりか、肌への付着性が悪く延展性に欠けるため肌に厚ぼたく付着し、透明感のないメークアップの仕上がりになり、メークアップ効果を損ねていたこと、化粧料に、紫外線通過防止能を有する物質たる無機顔料を含有する球状多孔性樹脂粉体を配合すると、上記問題点を解消することができると共に、透明感、密着性があり、肌に薄く均一に付着し、白さの浮きを防止でき、化粧持続性が良いことも確かめられたことが記載され、また、無機顔料としては二酸化チタン以外に酸化亜鉛などの微粉末が用いられ、好ましくは超微粒子~微粉末粒子(平均粒子径0.02~0.05μ程度)であり、球状多孔性樹脂粉体に対する含有量は0.2~0.50%程度であることが記載されている。同じく特開昭57-205319号公報(甲第2号証)(以下「引用例2」という。)には、化粧品に配合するに適する、収れん性と透明性を有する平均粒径20~50nmの超微粒状酸化亜鉛粉末の製法に関し、この製法で得られる酸化亜鉛粉末は従来の白色顔料と異なり、他の化粧品成分例えばバインダーとなる溶剤と混合した場合に微粉末であるために隠蔽力のある白色とはならず、半透明となるので他の発色顔料成分の性能発揮を阻害しないことが記載されている。同じく特公昭47-42502号公報(甲第4号証)(以下「引用例3」という。)には、最大粒径0.1μ以下であり平均粒径30乃至40mμの酸化チタンを1乃至10重量%を配合した日焼け止め化粧料が記載され、また、一般に日焼け止め化粧料に加えられている亜鉛華、二酸化チタンについては粒径は0.2~1μで、紫外線遮断効果は小さく皮膚に塗布した場合に白く残り、あるいは厚化粧にならざるを得ず、不自然な仕上がりで化粧上好ましくなかったが、現在一般に用いられている酸化チタンの約10分の1の粒径、すなわち最大粒径は0.1μ以下で平均粒径30乃至40mμの酸化チタンを流動パラフイン、ワセリン、オリーブ油等に混合して得られる日焼け止め化粧料は、以上の欠点を有せず、次の長所を有し、すなわち、最大粒径0.1μ以下平均粒径30乃至40mμの酸化チタンは(1)従来使用されていた最小粒径0.1μ以上平均粒径0.2乃至0.4μの酸化チタンを配合する日焼け止めクリームに比して明らかに著しく紫外線遮断効果を有し、
(2)極微粉体であるため皮膚表面上で均一に分布し透明で皮膚の色がそのまま現れ(3)クリーム、乳液、軟膏等に配合して、化粧料本来の使用性を妨げず、他の顔料に比し分散性が一般に良好である、という長所があることが記載されている。
本願発明と各引用例の前記技術内容とを対比検討すると、
本願発明と引用例3とは、日焼け止め化粧料に関し、最大粒径0.1μ以下で平均粒径30乃至40mμの超微粉末無機酸化物を1乃至10重量%含有する点で一致し、無機酸化物が、前者では酸化亜鉛であるのに対し、後者では二酸化チタンである点で相違するものと認められ、換言すれば、本願発明は、引用例3に係る日焼け止め化粧料において、使用される酸化チタンを、同じ粒径と含有量にて、酸化亜鉛に代えたに相当するものと認められる。
ところで、本願発明が前記粒径と含有量の酸化亜鉛を採択した目的は、本願明細書に記載のとおり、有害な紫外線から皮膚を保護するのに優れ、しかも、白っぽさがなく、透明感の高い仕上がりを有する日焼け止め化粧料を提供するにあるが、このような目的は、引用例3において二酸化チタンの粒径及び含有量を採択した目的と全く同じである。 事実、引用例3の記載において、日焼け止め化粧料に関し、前記のような酸化チタンを採択したその目的の前提となる従来技術の問題点をみると、従来から使用されている粒径0.2~1μの亜鉛華、二酸化チタンでは、前記のとおり、紫外線遮断効果が小さく皮膚に塗布した場合に白く残り、あるいは厚化粧にならざるを得ず、不自然な仕上がりになるというものであり、亜鉛華すなわち酸化亜鉛は二酸化チタンと同等に扱われている。また他に、そのような問題点を解決するための技術手段として、引用例1に記載のものがあり、同引用例の日焼け止め化粧料の場合、紫外線通過防止能を有する物質として二酸化チタン又は酸化亜鉛を含む球状多孔性樹脂粉体を配合するものであるが、二酸化チタン、酸化亜鉛共に平均粒子径が0.02~0.05μという超微粒子を用い、球状多孔性樹脂に対するものとはいえ、含有量も0.2~0.5%程度となっており、すなわち、日焼け止め化粧料として、酸化亜鉛も二酸化チタンも、やはり、同粒径の超微粒子を用い、含有量も同じである。一方、引用例2に、化粧品に配合する収れん性と透明性を有する平均粒径20~50nmすなわち0.02~0.05μという超微粒子の酸化亜鉛粉末は、従来の白色顔料と異なり、他の化粧品と混合した場合に微粉末であるために隠蔽力のある白色とはならず、半透明になるとの記載があり、かかる超微粒子の酸化亜鉛は、化粧品に収れん性を付与するために用いられるものであっても、また、引用例1の化粧料のように球状多孔性樹脂粉体と併用しなくとも、前記の如き日焼け止め化粧料の成分として用いた場合、隠蔽力のある白色とはならず、半透明になっても、この点は当然期待されることと解される。
してみれば、本願発明において、引用例3の日焼け止め化粧料に関し、有害な紫外線から皮膚を保護するのに優れ、しかも、白ぽっさがなく、透明感の高い仕上がりを有する日焼け止め化粧料を提供する目的で用いられる二酸化チタンを、同じ粒径と含有量にて、酸化亜鉛に代えるようなことは、当業者ならば容易に想到し得る程度のことといわねばならない。
次に、本願発明の効果とする点について言及するに、 化粧料に配合する超微粉末酸化亜鉛には酸化チタンのように超微粉末にしたことにより出る青白さが見られないという点については、青白さが見られること自体が特殊なことであってみれば、普通に予想されることに他ならないということであり、また、そもそも超微粒子の酸化亜鉛を化粧料に配合されることが、引用例1及び2からして既に知られているので、かかる化粧料において発現していた効果の単なる追認に過ぎないことともいうべきである。更に、その他の効果についても、各引用例の記載からみて、格別特有のものとは認められない。
以上のとおり、本願発明は、各引用例に記載のものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
平成8年11月29日
審判長 特許庁審判官
特許庁審判官
特許庁審判官