東京高等裁判所 平成9年(行ケ)24号 判決 1998年10月28日
新潟県小千谷市大字千谷甲2600番地1
原告
ユキワ精工株式会社
代表者代表取締役
酒巻和男
訴訟代理人弁理士
吉井剛
同
吉井雅栄
アメリカ合衆国 29633-0592 サウスカロライナ州 クレムソン
ジャコブス ロード1 ピー.オー.ボックス 592
被告
ジャコブス チャック マニュファクチュアリング カンパニー
代表者
チャールズ イー ベイリー
訴訟代理人弁理士
谷義一
同
阿部和夫
同
橋本傅一
同
加古進
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成8年審判第11558号事件について、平成9年1月16日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、名称を「工具用チャック」とする実用新案登録第2091890号考案(昭和62年9月11日出願、平成6年12月7日出願公告、平成7年12月1日設定登録、以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。
被告は、平成8年7月15日、原告を被請求人として、本件考案につき、その実用新案登録を無効とする旨の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成8年審判第11558号事件として審理したうえ、平成9年1月16日に「登録第2091890号実用新案の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は同月25日、原告に送達された。
2 本件考案の要旨
チャック本体に複数個のジョーを設け、該ジョーを回動ナットの回動により互いの螺合作用で拡縮傾斜摺動可能に設け、回動ナットの回動を握持環と操作筒とのハンドタイト方式により工具を締付する工具用チャックであって、上記チャック本体の後端側に握持環をチャック本体と回り止め状態に設け、チャック本体の前端外周面に合成樹脂製の操作筒を回動可能に設け、操作筒の外周面に滑り止め部を付設し、回動ナットを組み付け可能に分割し、この分割した回動ナットに保形環を被嵌し、この保形環付の回動ナットを操作筒内に回動ナットが操作筒の回動と共動するように一体的に設け、チャック本体の中程にフランジ部材をチャック本体と一体的に突設し、このフランジ部の前側と回動ナットの背側との間にベアリング体を介在せしめたことを特徴とする工具用チャック。
3 審決の理由の要点
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件考案が、いずれも本件実用新案登録出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である登録実用新案第362231号公報(審決甲第1号証、本訴甲第4号証、以下「引用例1」といい、そこに記載された考案を「引用例考案1」という。)及び米国特許第3934891号明細書(審決甲第2号証、本訴甲第5号証、以下「引用例2」といい、そこに記載された考案を「引用例考案2」という。)にそれぞれ記載された考案並びに本件実用新案登録出願前において周知慣用の技術手段である「軸受にベアリング体を介在させること」及び「必要に応じて構成部分を一体とすること」に基づいて、当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるから、本件実用新案登録は、実用新案法3条2項の規定に違反してされたものであり、同法37条1項1号(平成5年法律第26号による改正前のもの)に該当して無効とすべきものとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本件考案の要旨の認定、引用例1の記載事項の認定(審決書3頁19行~5頁9行)のうち下記の争う部分を除くその余の部分、引用例2の記載事項の認定(同5頁10行~6頁16行)、本件考案と引用例考案1との相違点1~3の認定及び相違点3についての判断は認める。引用例1の記載事項の認定中、引用例考案1が「握持部分と袖輪との操作によりドリールを締付するドリールチャックであって」(同4頁4~6行)とする部分及び「甲第1号証刊行物に記載された考案(注、引用例考案1)のドリールチャックも、手で握って操作するいわゆるハンドタイト方式によりドリールを締め付けるものであるとすることができる。」(同4頁19行~5頁2行)との部分、本件考案と引用例考案1との一致点の認定並びに相違点1、2についての判断は争う。
審決は、引用例考案1の技術内容を誤認して一致点の認定を誤り(取消事由1)、また、相違点1、2についての判断を誤った(取消事由2、3)結果、本件考案が引用例1、2に記載された考案及び周知慣用の技術手段に基づいて、当業者が極めて容易に考案をすることができたものとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)
審決は、本件考案と引用例考案1とが「チャック本体に複数個のジョーを設け、該ジョーを回動ナットの回動により互いの螺合作用で拡縮傾斜摺動可能に設け、回動ナットの回動を握持部分と操作筒とのハンドタイト方式により工具を締付する工具用チャックであって、上記チャック本体の後端側に握持部分を設け、チャック本体の前端外周面に操作筒を回動可能に設け、操作筒の外周面に滑り止め部を付設し、回動ナットを組み付け可能に分割し、この分割した回動ナットを操作筒内に操作筒の回動と共動するように一体的に設け、回動部材の背側とチャック本体との間にベアリング体を介在させた工具用チャック」(審決書6頁19行~7頁11行)として同一であると認定したが、引用例考案1は「ハンドタイト方式により」工具を締付けするものではないから、本件考案と引用例考案1とが「ハンドタイト方式により工具を締付する工具用チャック」である点で一致するとの部分は誤りである。
(1) 本件考案は、上記本件考案の要旨に規定されるとおり、「回動ナットの回動を握持環と操作筒とのハンドタイト方式により工具を締付する工具用チャック」である。
ここで、ハンドタイト方式とは、ジョーにより工具を把持する際の所定の締付力を両手による筒の回動により十分得ることができる構成のものをいう。出願公告に係る本件明細書(以下、単に「本件明細書」という。)の「作用」の項に「握持環9を片手で握持し、操作筒7を反対の手で握持して滑り止め部8により手の滑りを防止して回動すると、・・・ジョー2により工具Cを強く圧締する。」(甲第2号証3欄38~43行)と具体的に記載されているとおり、本件考案は、物を両手でねじり切る動作で、握持環9を保持したまま操作筒7を手で強く回動させて工具の締付固定を行う構成であり、ハンドタイト方式の工具用チャックであることが示されている。
これに対し、ジョーにより工具を把持する際の所定の締付力を、道具(ベベルピニオンを用いたT型ハンドルが多用されている。)を用いないと得ることができない構成及び作用効果のものをハンドルタイト方式という。
もっとも、ハンドルタイト方式であっても、道具による締付け(いわゆる本締め)を行う前に手で回動をさせることはあるが、チャックの技術常識上、そのこと故に、道具を使用して初めて工具を所定の締付力で締め付けられるチャックをハンドタイト方式とはいわない。ハンドタイト方式とは、道具を用いずに、両手を使用して握持環と操作筒とをねじ切るように回動することにより、所定の締付力で工具を把持することのできるタイプのみをいうのである。
引用例考案1は、引用例1に、「袖輪(i)の周側面に數個の横孔(k)を穿設し」(甲第4号証1頁左欄16~17行)、「袖輪(i)周側面の横孔(k)に鐵棒を挿入して母體(a)と袖輪乃至螺母環(f)とを互に反對方向に廻動なすことを容易にしたるを以てドリールを緊密鞏固に挿着し」(同頁右欄4~7行)と記載されているとおり、袖輪(i)の外周に穿設した数個の横孔(k)に鉄棒を挿入し袖輪(i)を回動せしめてジョーの拡縮傾斜摺動を行い、工具を締付固定する構成のものであるから、道具(鉄棒)を使用して所定の締付力を得るハンドルタイト方式のものである。
審決は、引用例1につき「母體上半分外周輪の外周と袖輪には、共にローレットが施され、かつ、物品の外周に施されるローレットは、通常、滑り止めのために施されるものであるから、母體上半分外周輪の外周と袖輪は、それぞれ手で握って操作されるものであるとすることができる」(審決書4頁13~18行)との認定(この認定は争わない。)から、「したがって、甲第1号証刊行物に記載された考案(注、引用例考案1)のドリールチャックも、手で握って操作するいわゆるハンドタイト方式によりドリールを締め付けるものであるとすることができる」(同4頁19行~5頁2行)との認定に及んだが、「袖輪(i)」が手で回動させることが可能であるから、「袖輪(i)を手で回動させ、ジョーで工具を所定の締付力により締付けることができる」と推論し、そのことをもって引用例考案1をハンドタイト方式と認定した誤りがある。引用例考案1は、鉄棒を「數個の横孔(k)」に順次挿入し、テコの原理により強い締付力を与えて工具をジョーで強固に締め付け固定する構成のチャックであり、袖輪(i)を手で回動させることによる締付力では工具をジョーで強固に固定することはできない。
そして、ハンドルタイト方式のチャックは、必ず道具を使用して強い締付力を得るものであるから、道具が作用する部分(例えば引用例考案1の「袖輪(i)」)は、それに耐え得るように金属で形成することが必要であり、その結果、非常に重いものとなる。したがって、ハンドルタイト方式のチャックとハンドタイト方式のチャックとは、構造的に、また、作用効果において明らかに別異のものといわなければならない。
(2) 被告は、本件考案の要旨が「ハンドタイト方式の・・・工具用チャック」とせずに、「ハンドタイト方式による・・・工具用チャック」と規定することを捉えて、手を用いて締め付けることが可能なものであれば、その締付けが前締めであると、本締めであるとにかかわらず、本件考案に該当することが一義的に明確であると主張するが、本件考案の要旨の当該部分が「回動ナットの回動を握持環と操作筒とのハンドタイト方式により工具を締付する工具用チャック」と規定されていることを看過するものである。すなわち、該部分は、「回動ナットの回動を握持環と操作筒との」という修飾文言と「工具を締付する」との文言の間に「ハンドタイト方式」が挟まれる文脈上、「ハンドタイト方式の」という構造的表現を用いることはできず、「ハンドタイト方式による」という作用的表現を用いて特定をしたものであるが、このような作用的な表現であるとはいえ、あくまで本件考案の構造を特定しているものである。したがって、ハンドルタイト方式のチャック、すなわち、ハンドル等の道具で工具を締め付ける構造のチャックは、その構造からいって本件考案に含まれることはない。
仮に、本件実用新案登録請求の範囲の記載上、この点が不明確であったとしても、本件明細書の考案の詳細な説明において、「従来の技術」の項に「従来のこの種の工具用チャックとしてはハンドルタイト方式を採用したものが多く、例えば実用新案登録第362231号や特開昭55-70506号公報等が知られている。前者は操作筒の横孔に鉄棒を差し込んで回動させるハンドルタイト方式のチャックである。また、後者はT状のハンドルを使用するハンドルタイト方式のチャックである。」(甲第2号証2欄7~13行)と、「考案が解決しようとする課題」の項に「従来のハンドルタイト方式のチャックは、ハンドルを紛失したり、・・・うっかりハンドルをつけ忘れたまま回転させてハンドルを飛ばして怪我をしたりするなどの欠点が多いため、手廻しハンドル方式を採用せずに作業者の手で直接操作筒を回動するハンドタイト方式のチャックが要求されている。」(同2欄末行~3欄5行)と、「作用」の項に「握持環9を片手で握持し、操作筒7を反対の手で握持して滑り止め部8により手の滑りを防止して回動すると、・・・ジョー2により工具Cを強く圧締する。」(同3欄38~43行)と、それぞれ記載されていることを参酌すれば、その「ハンドタイト方式」にハンドル等の道具で工具を締め付ける構造のチャッタが含まれないことは明白である。
また、被告は、ハンドルタイト方式のチャックが、ハンドタイト方式のチャックに付加的な締付機構が設けられるにすぎず、技術的に考慮してもその締付力の程度が異なるのみであるとし、必要とされる締付力が小さい場合には、ハンドルタイト方式である引用例考案1のチャックも、ハンドタイト方式によって工具を締め付けることができるから、審決が、引用例考案1につき、「手で握って操作するいわゆるハンドタイト方式によりドリールを締め付けるものであるとすることができる」と認定したことに誤りはないと主張する。
しかし、上記のとおり、ハンドルタイト方式のチャックは、道具が作用する部分を金属で形成することが必要であるという特徴を有し、その結果、重くなるという欠点を有する。本件考案は、ハンドルタイト方式のチャックの重くなるという欠点を解決するため、合成樹脂製の操作筒が可能となるハンドタイト方式を対象にし、合成樹脂製の操作筒を採用することにより生じる種々の問題を解決して完成したものである。ハンドタイト方式とハンドルタイト方式とは類似する技術といえるかもしれないが、本件においては、その比較考察は本件考案の進歩性を判断するうえで行わなければならないものであり、しかるときは、操作筒の合成樹脂化が不可能なハンドルタイト方式と操作筒の合成樹脂化が可能なハンドタイト方式との相違は、ハンドタイト方式である本件考案の進歩性を判断するうえで極めて重要であって、両者は全く別のものである。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)
審決は、本件考案と引用例考案1との相違点1、すなわち「本件実用新案登録に係る登録実用新案(注、本件考案)が、操作筒を合成樹脂製とし、これに伴い回動ナットに保形環を被嵌したのに対して、甲第1号証刊行物に記載された考案(注、引用例考案1)が、操作筒を金属製とした結果、回動ナットには保形環を被嵌していない点」(審決書7頁12~17行)につき、引用例考案2についての「チャック本体に複数個のジョーを設け、該ジョーを回動ナットの回動により互いの螺合作用で拡縮傾斜摺動可能に設け、回動ナットの回動により工具を締付する工具用チャックであって、回動ナットを組み付け可能に分割し、この分割した回動ナットに環状の金属製の帯を被嵌し、この環状の金属製の帯付の回動ナットの外周に一連の溝を形成した合成樹脂製の筒を内側の回動ナットが筒の回動と共動するように一体的に設け」(同5頁13行~6頁1行)、「環状の金属製の帯は、保形環と表現し得るものと認める。」(同6頁6~7行)との認定(以上の引用例考案2についての認定は争わない。)を前提として、「甲第2号証刊行物に記載された考案(注、引用例考案2)における筒が、手動により操作する操作筒である点においては、甲第1号証刊行物に記載された考案における操作筒と共通するものであり、かつ、回動ナットに保形環を被嵌した目的も、本件実用新案登録に係る登録実用新案におけると同様に、操作筒を合成樹脂製とした結果として設けなければならなくなったものである。したがって、このようなものを甲第1号証刊行物に記載された考案におけるものに適用することによって、この相違点において掲げた本件実用新案登録に係る登録実用新案の構成のごとくすることは、当業者がきわめて容易に考えることができたものである。」(同8頁14行~9頁7行)と判断したが、該判断は誤りである。
すなわち、審決の判断は、引用例考案1に引用例考案2の金属バンド46を組み合わせるに当たって、本件考案の操作筒に相当する引用例考案1の袖輪(i)につき、引用例1に開示されていない合成樹脂製であればという仮定を立て、この仮定を前提として、引用例考案2の金属バンドの採用理由を考慮し、引用例考案1の螺母環(f)に金属バンド、すなわち保形環を設けることは容易である、とするものである。しかし、引用例考案1の袖輪(i)が合成樹脂製であれば、という仮定は、本件考案を見てはじめて知り得ることであるのみならず、引用例考案1のようなハンドルタイト方式のチャックにおいて袖輪(i)を合成樹脂製にするという仮定は、鉄棒を横孔(k)に挿入して締め付ける本来の操作ができなくなるという意味で、ハンドルタイト方式を否定するあり得ない仮定である。したがって、このような仮定に基づく審決の判断は明らかに誤りである。
仮に、審決の判断が、上記の仮定に基づくものでなく、引用例考案2に金属バンド(保形環)で補強された合成樹脂製の操作筒が開示されており、この金属バンドで補強された合成樹脂製の操作筒を、引用例考案1の袖輪(i)と置換するというものであるとしても、そのような置換は容易ではないから、審決の判断は誤りである。すなわち、上述のとおり、合成樹脂製の操作筒にハンドルを挿入して締め付けることは不可能であるから、ハンドルタイト方式のチャックである引用例考案1について、その本来の使い方を否定するような置換が容易であるとはいい難いのである。
この点につき、被告は、米国特許第3910589号明細書(乙第1号証)の記載を根拠として、金属製のスリーブと強化材としての金属帯を備えた合成樹脂製のスリーブとを互いに置換することが周知技術である旨主張するが、それが周知技術であったとしても、引用例考案1の金属製のスリーブの代わりに、ハンドルの使用が不可能な合成樹脂製のスリーブを採用することはあり得ない。
さらに、引用例2の第6図によれば、引用例考案2において、スリーブ32(筒)は、これを直接握持して締め付けるものではなく、ナット22のラジァル方向の総付反力を特に考慮しなくてもよい構造であり、金属バンド46(保形環)は分割されたナット22の保持及びスリーブ32の単なる補強という意味しか持たない。それにもかかわらず、審決の上記判断は、引用例考案2につき「回動ナットに保形環を被嵌した目的も、本件実用新案登録に係る登録実用新案におけると同様に、操作筒を合成樹脂製とした結果として設けなければならなくなったものである。」として、金属バンド46が、スリーブ32をラジアル方向の締付反力から保護するものであるとしたうえ、これを引用例考案1に組み合わせるものであって、この点においても誤りである。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)
審決は、本件考案と引用例考案1との相違点2、すなわち「回動部材の背側とチャック本体との間にベアリング体を介在させるにあたり、本件実用新案登録に係る登録実用新案(注、本件考案)においては、チャック本体の中程にフランジ部材をチャック本体と一体的に突設し、このフランジ部の前側と回動ナットの背側との間にベアリング体を介在させているのに対して、甲第1号証刊行物に記載された考案(注、引用例考案1)においては、操作筒の上端面とチャック本体の裾の下向段部との間にベアリング体を介在させている点」(審決書7頁18行~8頁7行)につき、「甲第2号証刊行物に記載された考案(注、引用例考案2)において、チャック本体の中程にフランジ部材をチャック本体と一体的に突設し、このフランジ部の前側と回動ナットの背側とを摺動可能に接触させた構成は、本件実用新案登録に係る登録実用新案のものと同じであり、かつ、フランジ部の前側と回動ナットの背側とは、それぞれ軸受の構成部材として機能するものである。また、軸受にベアリング体を介在させることは、本件実用新案登録に係る実用新案登録出願前において、周知慣用の技術手段である。したがって、このようなものを甲第1号証刊行物に記載された考案に適用することによって、この相違点において掲げた本件実用新案登録に係る登録実用新案の構成のごとくすることは、当業者がきわめて容易に考えることができたものである。」(審決書9頁9行~10頁4行)と判断したが、該判断は誤りである。
すなわち、引用例考案1においては、ナット部材に相当する螺母環(f)は、その基端面が上半部(ロ)とは当接しておらず、螺母環(f)は袖輪(i)と一体化され、この袖輪(i)が上半部(ロ)と滑球(j)を介して当接しているが、引用例考案2の「フランジ部の前側と回動ナットの背側とを摺動可能に接触させた構成」を引用例考案1に組み合わせれば、引用例考案1の「袖輪(i)と上半部(ロ)とを滑球(j)を介して当接させた構造」は不要となる。したがって、引用例考案2の「フランジ部の前側と回動ナットの背側とを摺動可能に接触させた構成」を引用例考案1に適用するためには、引用例考案1にある「袖輪(i)と上半部(ロ)とを滑球(j)を介して当接させた構造」が存在しないものとしなければならないが、そのようにするためには、「袖輪(i)と上半部(ロ)とを滑球(j)を介して当接させた構造」が存在しないとするだけの合理的理由がなければならない。審決は、引用例考案2の「フランジ部の前側と回動ナットの背側とを摺動可能に接触させた構成」を引用例考案1に組み合わせるに当たって、このような障害があるにもかかわらず、この点を検討することなく、適用が容易であると結論したものであって、その判断が誤りであることは明らかである。
第4 被告の反論の要点
審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
本件考案の要旨は「回動ナットの回動を握持環と操作筒とのハンドタイト方式により工具を締付する工具用チャック」と規定するところ、原告は、ハンドタイト方式とは、ジョーにより工具を把持する際の所定の締付力を両手による筒の回動により十分得ることができる構成のものをいい、道具を使用して工具を締め付けるチャックをハンドタイト方式とはいわないと主張する。しかしながら、本件考案の要旨が「ハンドタイト方式の・・・工具用チャック」とせずに、「ハンドタイト方式による・・・工具用チャック」と規定することに鑑みれば、手を用いて締め付けること(ハンドタイト)が可能なものであれば、その締付けが前締めであると、本締めであるとにかかわらず、本件考案の「ハンドタイト方式による・・・工具用チャック」に該当することが一義的に明確であるというべきである。すなわち、本件考案の要旨は、原告の定義によるハンドルタイト方式のチャックをすべて排除する限定をしているものとはいえず、ハンドルタイト方式のものであっても、手を用いて締付け可能なものは本件考案に含まれるものと解すべきである。なお、「ハンドタイト方式」とは、手で締め付ける(回動させる)ということであって、本件考案の実施例が両手で回動させるものであるからといって、必ず両手を用いて回動させるものに限られるわけではない。
そして、引用例考案1は、袖輪(i)周側面に鉄棒挿入用の横孔(k)が穿設され、母体(a)の上面にナット形の多角形突起部(e)が突設され、さらに、母体(a)と袖輪(i)との間に滑球(j)が介在され、かつ、母体(a)後部および袖輪(i)の外周にはローレットが施された構成であるが、この構成において、滑球(j)が介在され、ローレットが施されていることからすると、使用者は一方の手で母体(a)後部を、他方の手で袖輪(i)を握持して、母体(a)と袖輪(i)とを逆向きに回動させることにより、工具を締め付けることが可能であることは明らかである。
仮に、ハンドタイト方式及びハンドルタイト方式が、原告主張のように定義されるとしても、いずれの方式であるにせよ、チャックは、基本的構成として、<1>チャック本体、<2>チャック本体に拡縮傾斜摺動可能に設けられた複数のジョー、<3>ジョーに螺合し、チャック本体に回動可能に設けられたナット、<4>ナットを回動すべくチャック本体に回動可能に設けられた筒を備えており、ハンドルタイト方式は、以上の構成のハンドタイト方式にさらに付加的な締付機構(例えば、引用例考案1の鉄棒が挿入される袖輪(i)に穿設された横孔(k))が設けられるにすぎず、技術的に考慮してもその締付力の程度が異なるのみである。
他方、ハンドタイト方式及びハンドルタイト方式についての原告の定義に係る「所定の締付力」は、工具の加工対象に応じて異なるものである。例えば、工具がドリルである場合、加工(穿孔加工)の対象が木材か金属材か等によりその加工抵抗が異なることから、その抵抗に対抗するために必要とされるドリルに対する締付力、すなわち、所定の締付力が異なることは明らかである。そうすると、必要とされる締付力が小さい場合には、ハンドルタイト方式のチャックであっても、その所定の締付力を得るのに特段の道具を必要とせず、ハンドタイト方式によって工具を締結固定し得るものであるから、ハンドルタイト方式は、場合によっては、ハンドタイト方式によって用いられ得るものである。このことは、米国特許第911012号明細書に、ハンドタイト方式のチャックについて「この構成は、製造するのに非常に簡単で組立も容易であり、・・・該ジョー各々を非常に迅速且つ強力にドリル柄に押圧させることができ、このため該スリーブまたはナットを回転させるためのツールを用いる必要がなくなる。しかし、通常のスパナやツールを、必要に応じて該スリーブやナットを回転させるために用いることができる。」(乙第2号証訳文3丁5~9行)と記載されていることからも首肯できる。
そして、引用例考案1のチャックは、締付けに鉄棒という道具を使うこともできることからすれば、原告の定義によるハンドルタイト方式であることが否定できないとしても、上記のようにハンドタイト方式によっても工具を締め付けることができるものである。
したがって、いずれにせよ、審決が引用例1の記載事項として「甲第1号証刊行物に記載された考案のドリールチャックも、手で握って操作するいわゆるハンドタイト方式によりドリールを締め付けるものであるとすることができる」(審決書4頁19行~5頁2行)と認定したことに誤りはなく、これに基づいてした一致点の認定にも誤りはない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について
原告は、審決の判断が、引用例考案1の袖輪(i)が合成樹脂であれば、という仮定に基づくものであるとして、これを非難するが、審決の相違点1についての判断の文言に照らして、このような仮定を前提とするものでないことは明らかである。
また、原告は、ハンドルタイト方式の引用例考案1において操作筒を合成樹脂製にすることは不可能であるから、引用例考案2の金属バンドで補強された合成樹脂製の操作筒を、引用例考案1の袖輪(i)と置換することは容易ではないと主張する。しかし、ハンドルタイト方式において、ハンドル(道具)の作用する部分は金属製とせざるを得ないとしても、1975年10月7日発行の米国特許第3910589号明細書に「更に、図1に図示するチャックのナット30とベベルギアは一体構成とすることができるが、その場合一体形成した素子は、ナット部を溝28内に配置可能なように2分割で製作する必要があると思われる。また前記の場合、円筒状スリーブは、一体形成した素子の2分割部分を一緒に適切に保持するため金属で構成する必要があると思われる一方、合成プラスチックスリーブは、当該スリーブを取り囲むか、その端で当該スリーブ内に一体成形されると共に、そのための適切な強化材として機能する一体形成ナットとベベルギア部材を取り囲む金属帯を有する必要があると思われる。」(乙第1号証訳文9頁3~10行)と記載されているとおり、金属製のスリーブを用いるか、ハンドル(道具)の作用する部分以外を合成プラスチック(合成樹脂)製とし、強化材としての金属帯を備えたスリーブを用いるかを任意に選択すること、すなわち、双方の構成を互いに置換することは、本件実用新案登録出願前において、周知技術であったから、ハンドルタイト方式であっても、操作筒の合成樹脂化が全く不可能であるとすることはできない。
審決は、金属製の操作筒を有するハンドタイト方式のチャックにおいて、操作筒を従来から軽量化のための材料として知られている合成樹脂に置き換えることは極めて容易であり、かつ、この置き換えにより生じた操作筒の脆弱化に対処するために保形環で補強するということは、引用例考案2の金属バンド(保形環)で補強された合成樹脂製の操作筒の構成が目的とするところと同じであるから、このような同じ目的で設けられた構成で置き換えることも極めて容易であると判断したものであり、その判断に誤りはない。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について
原告は、引用例考察2の「フランジ部の前側と回動ナットの背側とを摺動可能に接触させた構成」を引用例考案1に組み合わせれば、引用例考案1の「袖輪(i)と上半部(ロ)とを滑球(j)を介して当接させた構造」は不要となるから、それが存在しないこととする合理的理由がなければならないところ、審決がその点の検討をしていないと主張する。
しかしながら、工具用チャックとして機能するためには、その基本的な技術的事項として、回動ナットに加わるラジアル方向の締付反力とスラスト方向の締付反力とを支持する機能が必要条件として要求されるものであり、このスラスト方向の締付反力を支持する機能を達成する構成として、引用例考案1は「袖輪(i)と(母体(a)の)上半部(ロ)とを滑球(j)を介して当接させた構造」を、引用例考案2は「(チャック本体と一体的に突設した)フランジ部の前側と回動ナットの背側とを摺動可能に接触させた構成」を採用しているのである。そして、引用例考案1においては回動ナットに相当する螺母環(f)と袖輪(i)とは一体であるから、引用例考案1及び引用例考案2の各構成は、いずれにしても、回動ナットに加わるスラスト方向の締付反力を最終的に本体(母体)で支持するものであり、かかる構成を採用することは、チャックの技術分野における技術常識である。
このように、引用例考案1と引用例考案2の採用する各構成は、スラスト方向の締付反力を支持する機能を達成する構成として、共通の技術的意義を有するものであるから、その技術手段を置き換えることは極めて容易であり、原告の主張する組合せの障害など存在しない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
本件考案の要旨は、本件考案を「回動ナットの回動を握持環と操作筒とのハンドタイト方式により工具を締付する工具用チャックであって、」と規定するものである。
他方、引用例考案1において、母體に、ジョーに相当する複数個の掴持杆を、回動ナットに相当する螺母環の回動により互いの螺合作用で拡縮傾斜摺動可能に設け、また、母體の下半分外周面に操作筒に相当する金属製の袖輪を回動可能に設け、螺母環を組み付け可能に分割し、この分割した螺母環を袖輪内に袖輪の回動と共動す否ように固着して設け、袖輪の上端面と母體上半分の裾の下向段部との間にベアリング体に相当する滑球を介在させ、握持環に相当する母體上半分外周の表面と、操作筒に相当する袖輪の外周面とにそれぞれローレットを施したこと、物品の外周に施されるローレットは、通常、滑り止めのために地されるものであるから、母體上半分外周輪と袖輪は、それぞれ手で握って操作されるものであること(審決書4頁1~4行、6~18行、5頁3~9行)は、当事者間に争いがない。しかしながら、引用例1(甲第4号証)には、引用例考案1につき、「袖輪(i)の周側面に數個の横孔(k)を穿設し」(同号証1頁左欄16~17行)、「袖輪(i)周側面の横孔(k)に鐵棒を挿入して母體(a)と袖輪乃至螺母環(f)とを互に反封方向に廻動なすことを容易にしたるを以てドリールを緊密鞏固に挿着し」(同頁右欄4~7行)と記載されているから、引用例考案1が、工具(ドリル)をチャックに締付固定するに際し、袖輪(i)の外周の数個の横孔(k)に鉄棒を挿入して、袖輪(i)を回動させる方法によることのできる構成であることは明らかである。
そこで、審決が、かかる引用例考案1につき「甲第1号証刊行物に記載された考案(注、引用例考案1)のドリールチャックも、手で握って操作するいわゆるハンドタイト方式によりドリールを締め付けるものであるとすることができる」(審決書4頁19行~5頁2行)とした認定の当否について検討する。
(1) 原告は、ハンドタイト方式とは、ジョーにより工具を把持する際の所定の締付力を両手による筒の回動により十分得ることができる構成のものをいい、これに対し、ジョーにより工具を把持する際の所定の締付力を、道具を用いないと得ることができない構成及び作用効果のものをハンドルタイト方式というとしたうえで、引用例考案1がかかる定義によるハンドルタイト方式であって、ハンドタイト方式ではないと主張する。そして、本件明細書(甲第2号証)の考案の詳細な説明は、「従来の技術」の項に「従来のこの種の工具用チャックとしてはハンドルタイト方式を採用したものが多く、例えば実用新案登録第362231号や特開昭55-70506号公報等が知られている。前者は操作筒の横孔に鉄棒を差し込んで回動させるハンドルタイト方式のチャックである。また、後者はT状のハンドルを使用するハンドルタイト方式のチャックである。」(同号証2欄7~13行)旨、引用例1(実用新案登録第362231号)記載の工具用チャックをハンドルタイト方式のチャックとして記載し、また、「考案が解決しようとする課題」として「従来のハンドルタイト方式のチャックは、ハンドルを紛失したり、・・・うっかりハンドルをつけ忘れたまま回転させてハンドルを飛ばして怪我をしたりするなどの欠点が多いため、手廻しハンドル方式を採用せずに作業者の手で直接操作筒を回動するハンドタイト方式のチャックが要求されている。」(同2欄末行~3欄5行)との、「作用」として「握持環9を片手で握持し、操作筒7を反対の手で握持して滑り止め部8により手の滑りを防止して回動すると、・・・ジョー2により工具Cを強く圧締する。」(同3欄38~43行)との記載があって、これらの記載は、ハンドタイト方式が「両手による」との部分を除いては(前示の「考案が解決しようとする課題」の部分の記載に照らして、両手を用いることが必須であるとは認め得ない。)、ハンドタイト方式とハンドルタイト方式との定義を含め、原告の前示主張に一応沿うものと認めることができる。
しかしながら、原告の主張に係り、本件明細書の考案の詳細な説明に示されたような前示の定義が、工具用チャックのハンドタイト方式とハンドルタイト方式という方式の差異を分かつものとして、当業者間に確立したものであることを示す証拠はない。のみならず、原告主張の前示定義は、個々の工具用チャックにつき、その「所定の締付力」が常に一定不変であり、かっ、「所定の締付力」を得るための筒の回動を手で行うことができるか、道具を必要とするかが截然と区別されることを前提とするものであるが、工具用チャックに要求される締付力は、当該チャックに固定される工具の加工対象の種類性質や加工の態様、すなわち工具がドリルである場合を例にすると、穿孔加工対象が木材か金属材か等により、また穿孔径の大きさや工具押付力の強さ等に応じても、工具の受ける加工抵抗が異なり、その抵抗に対抗するために必要とされる締付力が異なるものとなることは明らかであるから、「所定の締付力」という概念自体が曖昧なものといわざるを得ない。さらに、ジョーにより工具を把持する際の締付力は、チャック本体に対する回動ナットの相対回転により得られるものであり、その力は、手で操作筒を回動させる場合には、回動ナットのピッチ、両手の力、操作筒の直径、操作筒の表面構造、スラスト反力を受ける構造などに影響され、また、道具を用いて回動させる場合であっても、回動ナットのピッチ、道具の構造や大きさ、道具に加える手の力、スラスト反力を受ける構造などに影響されることが明らかであって、手で操作筒を回動させる場合にせよ、道具を用いて回動させる場合にせよ、それぞれの締付力にある程度の幅が生じるものであるから、筒の回動を手で行うことができるか、道具を必要とするかを截然と区別する前示定義は、この点からも相当ではないといわざるを得ない。
米国特許第911012号明細書(乙第2号証)には、そこに記載されたチャックについて、「この構成は、製造するのに非常に簡単で組立も容易であり、・・・該ジョ一各々を非常に迅速且つ強力にドリル柄に押圧させることができ、このため該スリーブまたはナットを回転させるためのツールを用いる必要がなくなる。しかし、通常のスパナやツールを、必要に応じて該スリーブやナットを回転させるために用いることができる。」(同号証訳文3丁5~10行)との記載があり、この記載は、チャックに道具を用いて回動させる構造が設けられていても、工具を最終的に固定する締付け(いわゆる本締め)において、道具を用いない場合と用いる場合とがあることを示しているものであるから、前示認定を裏付けるものということができる。
(2) 他方、引用例1(甲第4号証)、引用例2(甲第5号証)、米国特許第3910589号明細書(乙第1号証)、米国特許第911012号明細書(乙第2号証)、米国特許第1473488号明細書(乙第3号証)、ドイツ国特許公開第3411127号公報(乙第4号証)には、それぞれ工具を固定するチャックが記載されているところ、該チャックは、道具を用いて回動さセる構造が設けられているか否かを問わず、いずれも<1>チャック本体、<2>チャック本体に拡縮傾斜摺動可能に設けられた複数のジョー、<3>ジョーに螺合し、チャック本体に回動可能に設けられたナット、<4>ナットを回動すべくチャック本体に回動可能に設けられた筒とを備えている(引用例1(甲第4号証)においては、<1>が母體(a)、<2>が掴持杆(b)、<3>が螺母環(f)、<4>が袖輪(i)、引用例2(甲第5号証)においては、<1>が本体部(10)、<2>がジョー(18)、<3>がナット(ベベルギアエレメント)(22)、<4>がスリーブ(32)、米国特許第3910589号明細書(乙第1号証)においては、<1>が本体部分(10)、<2>がジョー(26)、<3>がナット(30)、<4>がスリーブ(42)、米国特許第911012号明細書(乙第2号証)においては、<1>が本体(1)、<2>がジョー(5)、<3>がナット(8)、<4>がスリーブ(10)、米国特許第1473488号明細書(乙第3号証)においては、<1>が本体部分(10)、<2>が把持部材(14)(16)、<3>がリング(19)、<4>がスリーブ(22)、ドイツ国特許公開第3411127号公報(乙第4号証)においては、<1>が本体(11)、<2>が把持ジョー(13)、<3>がリング・ナット(15)、<4>がスリーブ(21))。そうすると、本件考案(<1>がチャック本体(1)、<2>がジョー(2)、<3>が回動ナット(3)、<4>が操作筒(7))を含め、これら工具用チャックの基本的な構造及び機能は、道具を用いて回動させる構造が付加されているか否かを問わず、一般的に共通し、又は類似した技術であると認められる。
この点に関して、原告は、ハンドタイト方式とハンドルタイト方式とが類似する技術であるとしても、重量の軽減のうえで、操作筒の合成樹脂化が不可能なハンドルタイト方式と操作筒の合成樹脂化が可能なハンドタイト方式との相違は、ハンドタイト方式である本件考案の進歩性を判断するうえで極めて重要であって、両者は全く別のものであると主張する。
しかしながら、前示(1)のとおり、工具用チャックにおけるハンドタイト方式及びハンドルタイト方式の区分は、原告の主張又は本件明細書に示されたところに従って各々の定義をしてみた場合であっても、曖昧で不相当な部分を残すのであるから、ジョーにより工具を把持する際の所定の締付力を、両手による筒の回動により十分得ることができるか、道具を用いないと得ることができないかという観点は、工具用チャックという実用新案登録に係る考案の構造を特定する要素としての技術的意義に乏しいものといわざるを得ない。これに対し、前示のとおり、工具用チャックは、道具を用いて回動させる構造が設けられているか否かを問わず、共通し、又は類似した技術からなる基本的構造及び機能を有するものであるから、工具用チャックの考案としての進歩性の判断、すなわち、従前の技術との異同点に関連した検討は、主としてその構造それ自体の相違の点に着目してなされるべきものと解すべきである。加えて、本件においては、審決は、操作筒(袖輪)を金属製とした引用例考案1の構成と対比して、本件考案が操作筒を合成樹脂とした点を相違点1として認定しているのであるから、この点からしても、原告の前示主張は当を得ていない。
(3) 本件において、引用例考案1の握持環に相当する母體上半分外周の表面と、操作筒に相当する袖輪の外周面とにそれぞれローレットが施され、母體上半分外周輪と袖輪は、それぞれ手で握って操作されるものであることは前示のとおりである。そして、前示(1)のとおり、工具用チャックに要求される締付力は、当該チャックに固定される工具の加工対象の種類性質や加工の態様によって異なり、かつ、筒の回動を手で行うことができるか、道具を必要とするかということ自体も截然と区分することができないものであること、また、前示(2)のとおり、工具用チャックである引用例考案1の基本的な構造及び機能は、道具を用いて回動させる構造が設けられていないものも含めた一般的なそれと共通し、又は類似した技術であることを考慮すると、引用例考案1においても、これに固定される工具の加工対象の種類や加工の態様によっては、締付けに道具を用いず、工具を最終的に固定する締付け(本締め)までを手による回動操作で行うような使い方も可能であると認められる。
そうすると、審決が、引用例考案1を「手で握って操作するいわゆるハンドタイト方式によりドリールを締め付けるものであるとすることができる」とした認定に誤りはなく、この認定に基づいてした本件考案と引用例考案1との一致点の認定にも原告主張の誤りはない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について前示のとおり、引用例考案1において、母體に、ジョーに相当する複数個の掴持杆を、回動ナットに相当する螺母環の回動により互いの螺合作用で拡縮傾斜摺動可能に設け、また、母體の下半分外周面に操作筒に相当する金属製の袖輪を回動可能に設け、螺母環を組み付け可能に分割し、この分割した螺母環を袖輪内に袖輪の回動と共動するように固着して設け、袖輪の上端面と母體上半分の裾の下向段部との間にベアリング体に相当する滑球を介在させたこと、握持環に相当する母體上半分外周輪と袖輪は、それぞれ手で握って操作されるものであることは、争いがないところ、かかる構成の工具用チャックにおいては、内側に回動ナット(螺母環)を固着した金属製の操作筒(袖輪)が、母體上半部端面とベアリング体(滑球)を介して支持され、回動ナットと共動するように相対回転されるから、金属製の操作筒により回動ナットを保形して回動ナットに加わるラジアル方向の締付反力を支持し、回動ナットに加わるスラスト方向の締付反力は回動ナットに固着される操作筒の端面と滑球を介して接触する母體上半部端面で支持するものと認められる。
他方、引用例2に「チャック本体に複数個のジョーを設け、該ジョーを回動ナットの回動により互いの螺合作用で拡縮傾斜摺動可能に設け、回動ナットの回動により工具を締付する工具用チャックであって、回動ナットを組み付け可能に分割し、この分割した回動ナットに金属製の帯を被嵌し、この環状の金属製の帯付の回動ナットの外周に一連の溝を形成した合成樹脂製の筒を内側の回動ナットが筒の回動と共動するように一体的に設け、チャック本体の中程にフランジ部材をチャック本体と一体的に突設し、このフランジ部の前側と回動ナットの背側とを摺動可能に接触させた工具用チャック」(審決書5頁13行~6頁4行)である引用例考案2が記載され、その「筒の表面に形成した一連の溝が、手動により調節をする時に必要な滑り止めであり、かつ、筒が、手動により操作する操作筒であるとすることができる」(同6頁13~16行)こと、「環状の金属製の帯は、保形環と表現し得るもの」(同頁6~7行)であることは当事者間に争いがない。そして、かかる構成の工具用チャックにおいては、保形環(引用例2(甲第5号証)記載の金属バンド46)が回動ナットを保形して回動ナットに加わるラジアル方向の締付反力を支持するため、保形環付の回動ナットの外周の筒(同スリーブ32)を合成樹脂製とすることができること、また、回動ナットに加わるスラスト方向の締付反力は、回動ナットの端面(背側)と接触する本体と一体的に突設したフランジ部の端面(前側)が支持するものと認めることができる。
原告は、引用例2の第6図によれば、引用例考案2において、スリーブ32(筒)は、これを直接握持して締め付けるものではなく、ナット22のラジアル方向の締付反力を特に考慮しなくてもよい構造であり、保形環は分割されたナット22の保持及びスリーブ32の単なる補強という意味しか持たないと主張する。しかし、引用例2(甲第5号証)の記載によれば、工具を最終的に固定する締付け(本締め)は道具(ベベルピニオン)が受け持つとしても、スリーブ32(筒)が手動の操作筒であることは前示のとおりであって、直接握持して回転させるものであり、また、工具を最終的に固定する締付けを道具が受け持つとしても、その際に回動ナットにラジアル方向の締付反力がかかり、かつ、これを支持するのが保形環であることも明白であるから、原告の該主張は採用できない。
そして、前示の引用例考案1の金属製の操作筒と、引用例考案2の保形環及び合成樹脂製の筒とは、手動によって操作することのできる回動ナットと共動する操作筒である点及び回動ナットにかかるラジアル方向の締付反力を支持するものである点で共通した機能を有しており、また、軽量化のため金属製の部品を合成樹脂製の部品に置き換えることは周知慣用の技術手段と認められるから、軽量化を目的として、引用例考案1に記載された金属製の操作筒(袖輪)を引用例考案2に記載された金属バンド及び合成樹脂製の筒に置き換えることは、当業者にとって極めて容易なことであるものと認めることができる。
原告は、審決の判断が、引用例考案1の袖輪(i)が合成樹脂であれば、という仮定に基づくものであるとして、これを非難するところ、審決の「甲第2号証刊行物に記載された考案における・・・回動ナットに保形環を被嵌した目的も、本件実用新案登録に係る登録実用新案におけると同様に、操作筒を合成樹脂製とした結果として設けなければならなくなったものである」との表現に、措辞やや不適切な点がないではないが、審決の趣旨は、前示のとおりのものと解され、引用例考案1の操作筒(袖輪)が合成樹脂製であるとの前提を無条件に採用したものではないから、原告の非難は当たらない。
また、原告は、合成樹脂製の操作筒にハンドルを挿入して締め付けることは不可能であるから、ハンドルタイト方式のチャックである引用例考案1について、その本来の使い方を否定するような置換が容易であるとはいえないと主張するが、引用例考案1においても、道具を用いないで工具を締付固定する使い方も可能であると認められることは前示のとおりであるから、この主張も採用し難い。
したがって、審決の相違点1についての判断に原告主張の誤りはない。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について
引用例考案1が、回動ナットに加わるスラスト方向の締付反力を回動ナットに固着される操作筒の端面と滑球を介して接触する母體上半部端面で支持し、引用例考案2が、該スラスト方向の締付反力を回動ナットの端面(背側)と接触する本体と一体的に突設したフランジ部の端面(前側)で支持することは前示のとおりである。
そして、引用例考案1も引用例考案2も、機能を同じくする回動ナットを有し、スラスト方向の締付反力がもともと該回動ナットに生じ、最終的にこれを支持するのがチャック本体(母體)である点で共通であることに照らせば、引用例考案1の金属製の操作筒を引用例考案2の金属バンド及び合成樹脂製の筒に置き換えることに伴い、該金属バンド及び合成樹脂製の筒がともにスラスト方向の締付反力を伝えるには不適切であることを考慮して、該反力をチャック本体(母體)に伝える部分が回動ナットに固着される操作筒である引用例考案1の構成を、該部分が回動ナット自体である引用例考案2の構成に置き換えることは、当業者にとって極めて容易なことであるものと認めることができる。
原告は、引用例考案2の「フランジ部の前側と回動ナットの背側とを摺動可能に接触させた構成」を引用例考案1に組み合わせれば、引用例考案1の「袖輪(i)と上半部(ロ)とを滑球(j)を介して当接させた構造」は不要となるところ、審決が、それが存在しないこととする合理的理由を検討をしていないと主張するが、引用例考案1の「袖輪(i)と上半部(ロ)とを滑球(j)を介して当接させた構造」が存在しなくなるのは、置換えによって生じた結果であって、通常、それを存在させないこととする理由が、置換えに先立って積極的に求められるものではないから、該主張は失当である。
したがって、審決の相違点2についての判断に原告主張の誤りはない。
4 以上の次第で、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)
平成8年審判第11558号
審決
アメリカ合衆国 29633-0592 サウスカロライナ州 クレムソン ジャコブス ロード 1 ピー.オー.ボックス 592
請求人 ジャコブス チャック マニュファクチュアリング カンパニー
東京都港区赤坂5-1-31 第6セイコービル4階 阿部特許事務所
代理人弁理士 阿部和夫
東京都港区赤坂5丁目1番31号 第6セイコービル3階
代理人弁理士 谷義一
新潟県小千谷市大字千谷甲2600番地1
被請求人 ユキワ精工 株式会社
新潟県長岡市城内町3丁目5番地8
代理人弁理士 吉井昭栄
新潟県長岡市城内団町3丁目5番地8 吉井特許事務所
代理人弁理士 吉井剛
新潟県長岡市城内町3-5-8 吉井特許事務所
代理人弁理士 吉井雅栄
上記当事者間の登録第2091890号実用新案「工具用チャック」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
登録第2091890号実用新案の登録を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理由
【1】 本件第2091890号登録に係る登録実用新案については、昭和62年9月11日に実用新案登録出願がされ、平成7年12月1日に実用新案権の設定の登録がされた。
本件実用新案登録に対して、請求人は、次の理由を挙げて、本件実用新案登録を無効にすべきであると主張している。
理由:本件実用新案登録に係る登録実用新案が、その実用新案登録出願前に日本国内及び米国内において頒布された甲第1号証刊行物ないし甲第3号証刊行物に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、本件実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであり、実用新案法第37条第1項第1号に該当する。
【2】 本件実用新案登録に係る登録実用新案の要旨は、本件実用新案登録に係る実用新案登録出願の願書に添付した明細書及び図面の記載からみて実用新案登録請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「チャック本体に複数個のジョーを設け、該ジョーを回動ナットの回動により互いの螺合作用で拡縮傾斜摺動可能に設け、回動ナットの回動を握持環と操作筒とのハンドタイト方式により工具を締付する工具用チャックであって、上記チャック本体の後端側に握持環をチャック本体と回り止め状態に設け、チャック本体の前端外周面に合成樹脂製の操作筒を回動可能に設け、操作筒の外周面に滑り止め部を付設し、回動ナットを組み付け可能に分割し、この分割した回動ナットに保形環を被嵌し、この保形環付の回動ナットを操作筒内に回動ナットが操作筒の回動と共動するように一体的に設け、チャック本体の中程にフランジ部材をチャック本体と一体的に突設し、このフランジ部の前側と回動ナットの背側との間にベアリング体を介在せしめたことを特徴とする工具用チャック。」
【3】 前記理由について検討する。
甲第1号証刊行物である登録実用新案第362231号公報には、次の考案が記載されている。
母體に複数個の掴持杆を設け、該掴持杆を螺母環の回動により互いの螺合作用で拡縮傾斜摺動可能に設け、螺母環の回動を表面にローレットが施された母體上半分外周、すなわち、握持部分と袖輪との操作によりドリールを締付するドリールチャックであって、母體の下半分外周面に金属製の袖輪を回動可能に設け、袖輪の外周面にローレットを施し、螺母環を組み付け可能に分割し、この分割した螺母環を袖輪内に袖輪の回動と共動するように固着して設け、袖輪の上端面と母體上半分の裾の下向段部との間に滑球を介在させたドリールチャック。
そして、母體上半分外周輪の外周と袖輪には、共にローレットが施され、かつ、物品の外周に施されるローレットば、通常、滑り止めのために施されるものであるから、母體上半分外周輪の外周と袖輪は、それぞれ手で握って操作されるものであるとすることができる。
したがって、甲第1号証刊行物に記載された考案のドリールチャックも、手で握って操作するいわゆるハンドタイト方式によりドリールを締め付けるものであるとすることができる。
また、甲第1号証刊行物に記載された考案における母體は、チャック本体 と、同じく、掴持杆は、ジョーと、螺母環は、回動ナットと、母體上半分外周は、握持環と、袖輪は、操作筒と、螺母環は、回動ナットと、ローレットは、滑り止めと、滑球は、ベアリング体と、ドリールチャックは、工具用チャックと、表現し得るものと認める。
甲第2号証刊行物である米国特許第3934891号明細書の主として第6図及びその説明の部分には、次の考案が記載されている。
チャック本体に複数個のジョーを設け、該ジョーを回動ナットの回動により互いの螺合作用で拡縮傾斜摺動可能に設け、回動ナットの回動により工具を締付する工具用チャックであって、回動ナットを組み付け可能に分割し、この分割した回動ナットに環状の金属性の帯を被嵌し、この環状の金属性の帯付の回動ナットの外周に一連の溝を形成した合成樹脂製の筒を内側の回動ナットが筒の回動と共動するように一体的に設け、チャック本体の中程にフランジ部材をチャック本体と一体的に突設し、このフランジ部の前側と回動ナットの背側とを摺動可能に接触させた工具用チャック。
そして、甲第2号証刊行物に記載された考案における環状の金属性の帯は、保形環と表現し得るものと認める。
また、甲第2号証刊行物には、合成樹脂製の筒の表面に形成した一連の溝は、使用者が手動による調節を必要とする時に便利なように形成したものであることについても、併せて記載されている。
このことは、甲第2号証刊行物に記載された考案における筒の表面に形成した一連の溝が、手動により調節をする時に必要な滑り止めであり、かつ、筒が、手動により操作する操作筒であるとすることができる。
本件実用新案登録に係る登録実用新案と甲第1号証刊行物に記載された考案とを比較すると次の相違点を除いては、両者は、チャック本体に複数個のジョーを設け、該ジョーを回動ナットの回動により互いの螺合作用で拡縮傾斜摺動可能に設け、回動ナットの回動を握持部分と操作筒とのハンドタイト方式により工具を締付する工具用チャックであって、上記チャック本体の後端側に握持部分を設け、チャック本体の前端外周面に操作筒を回動可能に設け、操作筒の外周面に滑り止め部を付設し、回動ナットを組み付け可能に分割し、この分割した回動ナットを操作筒内に操作筒の回動と共動するように一体的に設け、回動部材の背側とチャック本体との間にベアリング体を介在させた工具用チャックとして同一である。
相違点1:本件実用新案登録に係る登録実用新案が、操作筒を合成樹脂製とし、これに伴い回動ナットに保形環を被嵌したのに対して、甲第1号証刊行物に記載された考案が、操作筒を金属製とした結果、回動ナットには保形環を被嵌していない点。
相違点2:回動部材の背側とチャック本体との間にベアリング体を介在させるにあたり、本件実用新案登録に係る登録実用新案においては、チャック本体の中程にフランジ部材をチャック本体と一体的に突設し、このフランジ部の前側と回動ナットの背側との間にベアリング体を介在させているのに対して、甲第1号証刊行物に記載された考案においては、操作筒の上端面とチャック本体の裾の下向段部との間にベアリング体を介在させている点。
相違点3:握持部分について、本件実用新案登録に係る登録実用新案においては、別体の握持環をチャック本体と回り止め状態に設けているのに対して、甲第1号証刊行物に記載された考案においては、チャック本体と一体に設けている点。
そこで、前記相違点1について検討する。
甲第2号証刊行物に記載された考案における筒が、手動により操作する操作筒である点においては、甲第1号証刊行物に記載された考案における操作筒と共通するものであり、かつ、回動ナットに保形環を被嵌した目的も、本件実用新案登録に係る登録実用新案におけると同様に、操作筒を合成樹脂製とした結果として設けなければならなくなったものである。
したがって、このようなものを甲第1号証刊行物に記載された考案におけるものに適用することによって、この相違点において掲げた本件実用新案登録に係る登録実用新案の構成のごとくすることは、当業者がきわめて容易に考えることができたものである。
つぎに、相違点2について検討する。
甲第2号証刊行物に記載された考案において、チャック本体の中程にフランジ部材をチャック本体と一体的に突設し、このフランジ部の前側と回動ナットの背側とを摺動可能に接触させた構成は、本件実用新案登録に係る登録実用新案のものと同じであり、かつ、フランジ部の前側と回動ナットの背側とは、それぞれ軸受の構成部材として機能するものである。
また、軸受にベアリング体を介在させることは、本件実用新案登録に係る実用新案登録出願前において、周知慣用の技術手段である。
したがって、このようなものを甲第1号証刊行物に記載された考案に適用することにまって、この相違点において掲げた本件実用新案登録に係る登録実用新案の構成のごとくすることは、当業者がきわめて容易に考えることができたものである。
さらに、相違点3について検討する。
必要に応じて構成部分を一体とすることは、本件実用新案登録に係る登録実用新案の出願前において、周知慣用の技術手段である。
そればかりでなく、握持部分をチャック本体と一体に設ける代わりに別体の握持環をチャック本体と回り止め状態に設けたところで、格別の機能を奏するものでもない。
したがって、この相違点において掲げた本件実用新案登録に係る登録実用新案の構成のごとくすることは、当業者がきわめて容易に考えることができたものである。
そして、本件実用新案登録に係る登録実用新案の考案を全体としてみても、甲第1号証刊行物及び甲第2号証刊行物に記載された考案並びに本件実用新案登録に係る実用新案登録出願前における周知慣用の技術手段の有する効果の総和以上の新たな効果を奏するものとも認めることができない。
【4】 以上のとおりであるから、本件実用新案登録に係る登録実用新案は、甲第1号証刊行物及び甲第2号証刊行物に記載された考案並びに本件実用新案登録に係る実用新案登録出願前における周知慣用の技術手段に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、本件実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第37条第1項第1号に該当する。
したがって、本件実用新案登録を無効にすることとし、本件審判費用は、実用新案法第41条において準用する特許法第162条第2項においてさらに準用する民事訴訟法第89条の規定を適用して、結論のとおり審決する。
平成9年1月16日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)